「本当にごめん」 
目の前には不機嫌そうなトラップの背中。つながれた手はぐいぐいひっぱられていて、足がもつれそう。 
でも、不満とか言えないよね。わたしが悪いんだし。ポツポツとあたる大粒の雨が、ますますあせりを誘う。 
ことの起こりは、少し前のこと、時間指定のおとどけものクエストの途中に起こった。わたしはパーティーの全財産を入れた財布を、落としてしまったのだ。 
当然、最初は全員で探していたんだけど、時間制限(今日の日没まで)があるから、ほかのみんなは先に行ってしまった。 
トラップとわたしだけが残って、幸い財布は見つかったんだけど。思ったより探すのに時間がかかってしまった。急がないと、今日中にパーティーのみんなと合流できない。 
でもまぁ、今日一日ぐらいなら、残りのみんなも誰かのおこづかいで宿には泊まれるかもしれないんだけど。もしかして、ここまで急ぐことないのかも。うぅ、疲れててだんだんダメな方向に、考えが走っているなぁ。 
すると、まるでわたしの考えをみすかしたかのように、突然トラップが足を止めた。 
「なぁ、とりあえず雨宿りしねぇ。」 
雨足は激しさをましてきた。彼の視線の先には、雨がしのげそうな、山小屋があった。わたしはうなずいていた。 
 
 山小屋の中には、何にも無かった。 
 ううっ、せめて毛布くらい欲しかったなあ……まあ、文句を言っても仕方ないんだけど。 
「……ここで火ぃたくわけにはいかねーし……ま、雨があたらねえだけマシだな」 
 そう言うと、トラップは自分の上着を脱いで、ぎゅーっ、としぼり始めた。 
 飛び散る水滴に慌てて顔を背ける。 
「もー! 外でやってよ外で!」 
「ああ? 外に出たら濡れるだろーが。あに言ってんだおめえは」 
 そ、それはそうなんだけど…… 
 チラリ、と視線を戻そうとして、慌てて再びそらす。 
 だ、だって……上着を脱いでるから、当たり前だけどトラップは上半身裸でっ…… 
 彼は、ばんばんと水気をとばして、上着を床に広げていた。つまりは、しばらくそのままでいるつもり、ってことで…… 
 うっ、初めて見たわけじゃないけどっ……や、やっぱり照れるよう…… 
「パステル」 
「は、はいっ!?」 
 急に話しかけられて、思わずどもってしまう。 
 トラップは、わたしをジーッと見て、言った。 
「おめえは脱がねえの? 風邪ひくぜ、そのままだと」 
 そう言って、彼は実に意地悪そうな笑みを浮かべた…… 
 
「脱がないわよ!もうっ」 
ほおが熱い。変にトラップのことを意識している自分に腹が立つ。 
「ふぅん、ならいいけど。風邪ひいてもしらねぇぞ」 
トラップはあっさりとそう言うと、そのままそっぽをむいてしまった。 
それから気まずい沈黙が訪れた。 
夕日が沈みかけていた。 
 
 雨が降っているせいかもしれないけど。 
 夕日が沈むと、あっという間に小屋の中は真っ暗になってしまった。 
 明かりといえば、トラップがつけてくれたポタカンのぼんやりとした光だけ。 
「……いつになったらやむのかなあ……」 
 相変わらず外から響いてくる雨音。 
 わたしのつぶやきに、トラップは床にごろっと転がって言った。 
「いずれやむだろ、そりゃ」 
 ……だから、そのいずれがいつ来るかを知りたいんだってば。 
「はあ……」 
 ため息をついて、壁に背中を預ける。 
 ひんやりとした冷たい感触に、ぞくぞくっ、と震えが走った。 
「……寒い……」 
 大きな声を出したつもりは全くないんだけど。 
 わたしがそうつぶやくと、トラップは顔だけこっちに向けて言ってきた。 
「だあら、言ったろー? そのままだと風邪ひくって」 
「だ、だってっ……」 
「おめえみてえな幼児体型、誰も見ねえから安心しろ」 
 きいいーっ! し、失礼なっ!! 
 そ、そりゃ確かに、わたしの胸はそんなに大きくはないけどっ…… 
「だ、大体ねえトラップ! あなた、見たこともないくせにいっつもいっつも『幼児体型』だの『出るとこひっこんで〜』だの、ちょっと失礼じゃない!?」 
「見なくたって大体わかるっつーの、見事な直線描いてるしな」 
「着やせしてるだけかもしれないでしょ!?」 
 売り言葉に買い言葉。わたしがそう叫ぶと、トラップは「ほー」と完全にバカにしきった顔で身体を起こした。 
 
「じゃ、脱いでみそ」 
「いいわよ、脱いでやるわよ。見て驚かないでよ」 
勢いで、ボタンに手をかける。 
わたし何してるんだろうと思わなくもない。 
でも、あんなに言われてひきさがれないでしょう。 
一気にブラウスの前をはだけ、そのまま、脱ぎ捨ててしまった。 
「どう、これでも幼児体型っていえる?」 
ちょっと挑戦的に笑う。 
トラップが息をのむのがわかった。 
 
「…………」 
「ほらあ、何とか言ってみなさいよ!!」 
 勢いでわたしが詰め寄ると、トラップは音を立てて後ずさった。 
 彼の目は、わたしの胸をじーっと凝視していて…… 
 そ、そんなに見ないでよっ……恥ずかしくなるじゃないの、今更っ…… 
「ほ、ほら、どうなのよ?」 
「……あー、あー……そのっ……」 
 トラップの顔が、みるみるうちに真っ赤に染まった。 
 そのまま、彼はかすれた声でつぶやいた。 
「たっ……たた、大したこと、ねえな、やっぱ」 
「な、何ですってえ!?」 
 後になって冷静になってよーくよーく考えれば。 
 そのときのトラップの表情を見れば、強がりを言ってるってことくらいわかったはずなんだけど。 
 どうやら、寒さと疲れて、わたしの頭は変な風にハイテンションになっていたらしい…… 
「じゃあ、これならどうなのよっ!」 
 ブラウスを脱ぎ捨てた勢いそのままに。 
 わたしは、スカートを床に叩き付けた。 
 びしゃんっ、という音とともに水しぶきが飛び散って、トラップが目を細めた。 
 
トラップの視線が外れた一瞬に、わたしはさらに一歩トラップに近づいた。 
「いいかげんに、わかった?わたしの魅力」 
「・・・・・・おめぇ、何を・・・・・・」 
目の前に立つわたしを、トラップは見上げている。 
雨にぬれて重そうな、その赤毛よりトラップは赤い顔をしていた。 
「マリーナより魅力的だってわかった?」 
「マリーナ?」 
「そう、マリーナ。あんた好きなんでしょ、目の前にあんたを思っている女の子がいるんだって気づかないで。ずっと彼女のことを見ていたじゃない」 
こんなことを言うつもりはなかった。 
でも、もう止まらなかった。下着姿のままで、わたしはボロボロと泣いていた。 
 
「何で……そう思うんだ?」 
「だってっ……トラップは、いつだって、女の子は美人でスタイルがいいのが一番だって……」 
 しゃくりあげながら言うと。トラップは、黙ってわたしに手を差し伸べた。 
 そして。そのまま抱きしめた。 
「トラップ……?」 
「おめえは、顔とか身体とか……そんなもんに魅力を感じるような男を、好きになったつもりか?」 
「え……?」 
「俺がそんなつまんねえもんに拘るような男だと……本気で思ってんのかよ?」 
 そう言って、トラップは……優しく、わたしの唇を塞いだ。 
 これって……キス? 
「……俺の気持ち」 
「トラップ……?」 
「おめえは、魅力的だよ。胸なんざなくたって、ガキくさくたって……十分、魅力的だ」 
 がしっ、と肩をつかまれた。そのまま、柔らかく床に押し倒される。 
「トラップっ……」 
「でなきゃできねえだろ、こんなこと」 
 そう言って、彼はわたしの涙を拭うようにして、頬をなでた。 
「おめえが魅力的すぎるから」 
 耳元で囁かれる言葉。 
「俺、我慢できそうもねえんだけど……いいか?」 
 その言葉に、わたしは頷くしかなかった。 
 優しくわたしの身体に手を這わせながら、トラップは言った。 
「好きだ」 
 
こういう行為、知識としては知っているんだけど、やっぱりいざこうなってしまうと、 
気が動転して、トラップにされるがままだった。  
トラップがもどかしそうに、わたしの下着を剥ぎ取る。彼の指がわたしの胸を這い回った。 
わたしは目をぎゅっと閉じて、唇を噛み締めた。  
き、気持ちいいっ…  
そんな言葉、出すのが恥ずかしくて。わたしは必死に耐えた。  
わたしの胸のあたりに、濡れた髪の毛の感触。  
これは、トラップの髪…?トラップが、わたしの胸に顔を伏せている?  
そう思った次の瞬間、熱く湿ったものを感じた。  
こ、これトラップの舌!?舐められてる…!  
「…っあ、…ああ…」  
食欲と睡眠欲。これは、わたしも日常生活でよく感じる欲なんだけど。  
性欲を感じたことは正直言って、なかった。でも、本能でわかる。 
わたしが今トラップに感じているのは、それなんだ。  
 
トラップの舌が私の胸を這う・・・・・・  
つ・・・と這わせては止まり痕を残してゆく。  
抵抗なんて・・・出来ない。  
だって、気持ち良くって。  
まるでトラップのがわたしを舐めて溶かそうとしてるみたい。  
もっと・・・して欲しい。溶かして欲しい。  
堪らずトラップの頭に手をのばした・・・。  
 
濡れた頭を抱えるようにして胸に押し付ける。  
「あぁ・・・っ」  
先端を舐められてると本当に溶けちゃいそうだった。  
舐められ吸われ甘噛みされながらもう片方の胸にも指が這い回るたびに  
今まで知らなかった感覚に襲われる。  
これが快感っていうものなんだろうなあ・・・なんて頭の片隅で考えられたのもそこまでだった。  
いつの間にか腿を這うトラップの指が際どい場所に触れてきて・・・ 
 
さ、触られる!と思った瞬間、彼の指がふっと離れた。  
ほっとしたような、残念なような。視線を胸元のトラップの顔のほうへ向けると、  
ひどくまじめそうなトラップの瞳とぶつかった。  
トラップはニッと笑うと、わずかに腕を立てて身を起こし、  
またその舌を使ってわたしを舐めはじめた。  
おなか、太もも。トラップは体を起こしてわたしの足を持ち上げ、  
ひざ、ふくらはぎに唇を動かした。  
そして!彼の口はわたしの足の指をくわえた。  
うそ。そんなこともするの!?  
足の指に感じる、トラップの舌。  
ああ、なんだかもう、ほんとに。  
今、ぎゅーっと抱きしめてほしい!  
 
「・・・・・・おめぇさ。もっと声出していいんだぜ」  
舌を、足の指にはわせながら、トラップが言った。  
「・・・・・・どうせ、聞いてんの、俺だけだからさ」  
トラップの動きは止まらない。  
一生懸命我慢してたのに、そんなことを言われると。  
もう、我慢できない。  
 
「やああっ……」  
 漏れた声は、自分で言うのも何だけど、かなり大きかった。  
「ひゃあんっ……あ、あっ……」  
 舌が、足の指から、くるぶしへと。  
 そして、ふくらはぎへと。徐々に、徐々に這い上がっていった。  
「も……やだっ……やだ、やだやだやだっ!!」  
 やだ、と言いながら。本心は別にあることは、わたし自身が一番よくわかっていたんだけど。  
 でも、それをどう言えばいいのか……  
 ……ううん、本当は、わかってた。わかってたけど、でもっ……とても言えない、そんなことっ!  
「やだっ……や、ああっ……」  
「やだ……ねえ……」  
 わたしの言葉を聞いたトラップがつぶやく。それは、ひどく意地悪な声音。  
「なら、やめようか?」  
「……え?」  
 不意に、這い回っていた舌の動きが、止まった。  
 瞬間、かっと全身が火照った。  
「あっ……」  
「声を出せ、っつったけどなあ……嫌がる女を抱くなんて、したくねえし? ほら、俺って紳士だから」  
 にやにや笑いながら、トラップはなめるようにわたしの全身を眺め回した。  
 震えが止まらない。身体が熱い。  
 この火照りを止めたい。止めるため、には……  
「と、トラップ……」  
「どうした? ……やだ、っつったのはおめえだぜ? それとも……」  
 トラップは、手を伸ばしてゆっくりとわたしの頬に触れた。  
 わたしの目を覗き込むようにして、つぶやく。  
「やだ、っつったのは……嘘なのか? じゃあ、どうして欲しいんだ? 言わなきゃわかんねえぜえ……パステルちゃん?」  
 ……絶対、絶対わかってるくせにっ……意地悪っ……!!  
 
いつものわたしなら、他のことでなら、「あーら、トラップもやめちゃっていーの?」なんてイジワルな口きけるんだけど。  
このときばかりはそんな余裕なかった。わたしはトラップの手を握り、じいっとトラップの目を見つめた。  
「お、お願い…舐めて」  
「何を」  
「…わたしを…お願い、トラップ…」  
「わたしの、どこだよ?言ってくれないとわかんねえなあ、おれ」って言葉がくると思った。だけどトラップは半ば泣き声だったわたしの言葉を聞き、  
「…上出来。おおせのままにいたしましょう」  
なんて実にうれしそうに笑ったのだった。  
そして、ついに。  
ついにトラップの手が、指が、わたし以外の人が触れたのことのない場所を触り始めた。  
 
 くちゅっ……  
 響いたのは、小さいけれどやけに生々しい音。  
「ひゃあっ!!」  
「……もーちっと色気のある声出せねえか?」  
 囁かれる声は、意地悪ではあるけれど嬉しそうだった。  
 だけど、それに反論する余裕は、わたしにはなかった。  
 くちゅっ……ぐちゅっ……  
 トラップの指は、細い。細くて骨ばっていて、わたしよりもずっと長い。  
 その指が、わたしの中で、ひどく巧みに暴れまわっていた。  
 決して痛みは与えないように、それでいて最大級の刺激を。そんな動き……  
「やっ……や、や、ひゃああああああああっ!!」  
「……すげえな」  
 ずるり、と指が引き抜かれる。そして。  
 つつっ  
 太ももを這い上がるざらりと湿った感触に、わたしは背筋をのけぞらせた。  
 快感……なのかな?  
 寒気とも違うぞくぞくした感覚が、全身を駆け巡る。  
「ああっ……」  
「…………」  
 ぴちゃり  
 さっきまで指が暴れまわっていた場所。  
 そこに顔を埋めるようにして、トラップは、舌を動かし始めた。  
 
いつか。全然別のときに。  
トラップって舌ながいねって言ったことがあった。  
そのとき、真っ赤になって横をむいてしまって。  
どうしてだろうって思ってたんだけど。  
ねえ、トラップ。あのときわたしとこうしたいって・・・・・・。  
考えていたの?  
長い舌が、わたしの例の部分をなめあげる。  
今までで一番強く、全身に不思議な感覚が走って。  
一瞬意識がとびそうになった。  
もどかしくて、よくわからない期待が高まる。  
も・・・う・・・だめ。  
 
声を出したのか、出さなかったのか…  
目の前が一瞬真っ白になった気がして、気がつくと…  
トラップがわたしの目をじっと見ていた。  
わたしの膝を掴んで、ぐっと開いている。  
トラップ?  
「…挿れる、ぜ」  
小さくつぶやく。  
そして、ぐっ…と何か熱いものが身体の中に捻じ込まれるのがわかった。  
 
「ふっ……あああああっ!」  
 ぐいっ、とねじこまれたものは、とても熱く……とても、大きかった。  
「い、痛いっ……痛い、痛いよトラップっ……」  
「っ……」  
 わたしの悲鳴に、トラップの表情が揺れた。  
 しばらく動きが止まる。かなり躊躇したみたいだけど。やがて……  
「わりい。……わりいな、パステル」  
「いっ……やああっ!!」  
 ぐいっ  
 より深いところまで。熱い塊が侵入した。  
 傷口を無理やり引き裂くような、そんな痛み。目に涙がにじんできた。  
「やあっ……痛い……」  
「…………」  
 わたしの涙を見て、トラップはぎゅっと目を閉じた。  
 そのまま、彼は腰を突き動かし始めた。  
「ひっ……あ、ああっ……あああああっ!!」  
「…………っ」  
 トラップの表情に浮かぶのは、苦痛をこらえているかのような、そんな表情。  
 あまりの痛みに、頭がくらくらしてきた。  
 だけど。  
 痛みの中に、わずかに混じる……この、熱いような感覚は……一体何っ……?  
「あっ……ああっ……ひゃあんっ……」  
 もう、駄目。  
 さっきも感じた思いが、また頭に浮かんだ。  
 何が駄目なのかわからない。だけど、わたしの頭の中から、「理性」と呼ばれるものが少しずつなくなっていくのは、よくわかった。  
 
目の前にトラップの顔があった。もう無我夢中でその首にしがみつく。  
トラップが、荒い息をついているのがわかる。どちらからともなく激しく唇を求め合った。  
「…好きだ。すげえ、好きだ」  
低くて掠れた、声音。その甘い言葉を聞いた瞬間、わたしの中にまだほんの少しだけ残っていた恥じらいとか、そういったものが全部なくなった。  
わたしの体が全部、反応して、狂おしいほど、ただトラップが欲しい。  
「あ…あ、わたしも、わたしも好き…トラップ…!」  
「パステル…!」  
 
 耳に届いたとても甘い声。  
 ただ激しく、トラップが欲しいとそれだけを願うわたしに。  
 彼は十二分に答えてくれた。  
 激しく突き動かされたその直後。彼の手が、ひときわ強くわたしを抱きしめて。  
 そしてその瞬間、わたしの中で、動きを止めた。  
「トラップ……トラップ、トラップっ……」  
「パステルっ……」  
 わたしはともかく。トラップがこれほど息を乱すのはひどく珍しいことだった。  
 しばらく何も言うことができず。わたし達は、ただ、お互いの身体にしがみついていた。  
 
汗ばんだ体で寄り添って、息が整うのを待った。わたしがそっとトラップの胸に頬を寄せると、トラップが優しい声で言った。  
「その…大丈夫だったか?痛かったんだろ。わりい、おれ、夢中で…」  
「うん、痛かった」  
わたしの言葉に、トラップの顔がすまなさそうな表情になった。あ、こんな表情、きっとめったに見れるものじゃない。  
「最初はね。でも、気持ちよくなった。それに、すごく幸せだった」  
わたしが笑ってそう言うと、トラップもうれしそうに笑った。  
 
 雨がやんだのは、結局夜が明けてからだった。  
 わたしとトラップは、よりそうようにしてみんなが待つ宿へと向かった。  
 内股あたりにしびれるような鈍い痛みが残っていたけれど、でも、それは決して不快なものじゃなかった。  
 ぎゅうっ、とトラップの腕にしがみつく。その暖かさが、昨夜の素敵な記憶を何度でもよみがえらせてくれる。  
 ……と。  
「……なあ」  
「ん?」  
「両思いになったんだよな、俺ら」  
 トラップの不安そうな声が、妙におかしかった。  
「そうじゃない、って言ったらどうする?」  
 ぎくり、とトラップが身を強張らせた。ふふっ、わかりやすーい。  
 いつもいつもわたしがからかわれてるんだもん。たまには……ね。  
「冗談だよ」  
 そう言うと、「おめえなあ」と言って軽く小突かれたけど。  
 その表情が、すぐにいたずらっこみたいないつもの表情へと、変わった。  
「ま、別にいいんだけどな」  
「え?」  
「例え両思いじゃねえって言われたって。おめえを俺に惚れさせる。どんな手を使っても、な」  
「……自意識過剰」  
「ばあか。実際惚れてる奴の言うことかっつーの」  
 視線がからみあったとき。自然に唇を重ねていた。  
 遠くの方から、「おーい」という妙に懐かしいみんなの声が、聞こえてきた。  
 

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