「キスしていいか?」  
いつも返事なんか待たないくせに、どうして聞くの?  
わざとだ。ぜーったい、わざとだ!  
わたしは全然慣れないっていうのに、こいつときたら最初からこの調子。  
わたしをいじめることが楽しくて仕方ないみたい。  
付き合うとか彼氏とかキスとか、まだまだ未知の世界で、うろたえてばかりのわたしを眺めてはにやに 
やしてる。  
でも、最初から負けてばっかのわたしも、少しは強くなったんだもんね!  
「だーめ」  
そっぽを向いてみせる。  
いつもと違う反応にびっくりした様子で顔を覗き込んできた気配があったけど。  
気付かないフリ。  
ふーんだ。いつもいじめてる天罰よ!天罰。  
…  
あれ?  
反応がないな。  
わたしの想像だと、ふざけて絡んでくると思ってたんだけど。  
「パステルちゃ〜ん」とかいう、あの猫なで声で。  
耐え切れなくなって、ちらりと横を見た。  
 
あれれ??  
うつむいちゃってる。なんで?  
斜め下を見ながら彼は言った。  
「…やっぱ、付き合うのやだったのか?」  
――えええ?!!  
な、な、なんでそういうことになるの?  
わたしが冷たくしたから?  
不安に…させちゃった?  
 
「い…今の嘘!付き合うのやだなんて、そんなこと一度も…っ」  
思わず一生懸命否定しながら彼の肩を掴んだわたしの、手を…  
掴み返しながら彼はにやりと笑って、  
「そんじゃ、遠慮なく」  
…と、言った。  
 
そしていつものように、わたしは負けっぱなし。  
でもそれもいいかな、とちょっと思っちゃうんだ。  
 
 

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