わたしの気持ちなんかお構いなしで、キスキンではドタバタだった。  
今まで悩んでいたりとか、落ち込んでいたりしたことを気にする暇もないほど。  
ダンジョンはすっごく難しいし、怖いことばっかりで、けど…  
そんななかで、冒険者を辞めようかと悩んでいた気持ちがどんどんなくなっていった。  
わたしもちょっとは成長してるのかな?とか。  
ちょっと前向きに考えるだけで、しぼんでいた気分がむくむくと膨らむ。  
現金だよね?  
だけど、気になることがひとつだけまだ残ってた。  
…ギア。  
 
一体、どうしたっていうんだろう。  
告白してくれたのも、優しくしてくれたのも彼で…  
わたしはどちらかというと、正直戸惑っていたような気持ちが強かった。  
だって、ギアって、かっこよすぎるんだもの。  
最初はさ、そりゃー冷たいひとだと思ったんだけど。  
だんだんわかってきたのは、彼がとても優しく笑うということ…  
何ていえばいいんだろう?それでも彼に対して恋をしてる、と思ったことは実は一度もなかったりする。  
…あの朝までは。  
 
 
あちこちに松明がともされて、その中でキスキンの盛大な宴は行われていた。  
アップテンポの音楽。  
酌み交わされる盃の音色があちこちで響いていた。  
ルーミィも、ノルも、キットンもクレイもトラップも、皆正装をして。わたしもドレスを着て(ルーミィも 
ドレスなんだった。)、  
いつまでも終わらないキスキンの宴を楽しんでいた。  
…わたしが、冒険者をやめようとしていたこと…皆少しずつ気付いていてくれたらしくって。  
みんながくれたひとことひとことに心をあっためてもらった。  
なんだかね。  
1人で悩んでるような気持ちになっちゃってたのかもしれない。  
みんながわたしのことを気にかけてくれて…わたしもみんなと一緒にいたいと心から思った。  
それが仲間…なのにね。  
忘れてた。  
 
ふと。  
「パステル、あなたはギアに言わなくちゃいけないことがあるんじゃないの?」  
マリーナの言葉が思い出されて、胸が苦しくなった。  
ギア…ギア。ギアを探さなくちゃ。  
伝えたいことがあるんだ…  
 
 
―――わたしたちはいろいろな所で朝を迎える。  
みすず旅館で、  
ある山の岩陰で、川沿いの木陰で。  
ドーマで、エベリンで、コーベニアで…  
 
あの日も、そんな朝だった。  
何が違ったのか、どこが違ったのか、どれ位違ったのか…  
同じようだったのに、その瞬間は突然落ちてきた。  
宿のベッドで眠って、目覚めて、階下の洗面所に向かって、  
深呼吸とかしちゃったりして、顔を洗って、タオルで拭いて。  
窓から見える目の覚めるような空の青さ。朝日もキラキラ差し込んできて、気持ちよかった。  
そして、部屋に帰ろうとして、入れ違うように階段から降りてきた姿を見た、そのとき…  
 
眠たげな表情。  
少し乱れた漆黒の髪の毛。  
同じ黒でまとめられた、細身のシルエット。  
なんの変哲もない、その姿からなんでかわたしは目が離せなくなってしまっていた。  
「…?どうしたんだ」  
「え?あ、ああ…なんでもない」  
うわっ。恥ずかしい。  
凝視してた。  
「今日も大変だろうが頑張ってくれよ。…パステル」  
最初の印象なんてどこに行ったのかわからないような笑顔。  
わたしの前髪を撫でるように触って、ギアは洗面所へ歩いていった。  
 
…???  
な、な、何で…?  
心臓がものすっごい勢いでどくどくと動いてる。  
ギアの手が触れるか触れないか…それだけの距離だったのに…  
擦れた肩と、前髪が切ない気持ちでいっぱいになってしまった。  
どうしよう。  
どうしよう。  
どうしよう。  
混乱したまま部屋に戻って、船の上でギアにもらったペンダントを取り出してみた。  
控えめに光る、宝石を抱いた天使…  
さらさらと音を立てる細い鎖。  
それを指に絡めると、一瞬だけひんやりと冷たかった。  
 
…どうしよう。  
わたし、ギアのことが好きだ。  
 
それまで、ギアに抱いていた感情を180度引っくり返したかのような…  
安心して、ほっとするような気持ちや、たまにドキッとさせられるような甘い気持ちじゃなくて、苦しい。  
心だけじゃなくてほんとうに心臓が潰されそうになってる。絶対なってる。肺にうまく空気が入れられない 
のか、息も苦しい。  
それなのに、目を離すことも出来ない。  
今まで、ギアからは何度も色んなことを言ってもらって来たのに…  
どうしてさっき、こんな気持ちになったんだろう?  
なんで?  
どうしてなの?  
 
自分でも、もう、大混乱!って感じで、その気持ちは今になってもよくわかっていない。  
とりあえず、わたしは彼が好きなんだろう、とは思うんだよね。  
けど、どうしたらいいの?  
締め付けられるかのような気持ちが前に出るようになっちゃって、きっと言おうとしてもうまくは言えない…  
それに、わたし…冒険者を辞めるなんて言ってしまって。  
ぎりぎりで、辞めない方に考えが向いてしまって。  
いい加減で、くよくよしてばっかりのわたしのために彼は、ガイナに来てくれるとまで言ってくれたのに!  
その彼を、傷つけることになってしまう…って思うと、何も出来なかった。  
「…ギア」  
いろいろなところを歩いて回ったけれど、何でかギアの姿が見えない。  
どこなんだろう?  
どこにもいない。  
いま、会いたいのに…  
 
 
城の中には、さすがにそろそろ宴を切り上げてきた人たちがちらほらいた。  
まだまだ外の喧騒はおさまりそうになかったけど…  
わたしが城に戻ってきたのは、疲れて寝るためじゃもちろんない。  
ギアが戻ってきているんじゃないかっていう予感が…したから。  
何となく、確信に近かった。  
かならずギアと会える。わたしたちは会える。  
唇だけで反芻しながら、ギアにあてがわれたはずの部屋の扉を、ゆっくりと3回、ノックした。  
会いたい。  
そう。会いたいんだ。  
会いたい。ギアに会いたい。  
会って、顔を見て、声を聞きたい。  
心の中に願いを込めて、3回。  
そして…それは叶った。  
わたしの右手が下ろされるより先に、ドアの隙間から、驚いた表情のギアが、顔をのぞかせた…  
 
 
…駄目だ!  
顔を見た瞬間、胸のちょっと下のあたりが爆発したように熱くなった。  
ま…まともに喋れる気がしないよぅ…  
泣きそうになってしまった気持ちを、どうにか奮い立たせ、とにかく目をそらさないように頑張った。  
伝えなきゃ。  
わたしがまさに口を開こうとしたそのとき、先に話し出したのは彼だった。  
ギア。  
「…会わずに行くつもりだったんだけどな」  
「…え?」  
「明日…発とうと思っていたんだ」  
彼の背中越しに、旅支度の済んだ荷物。  
な、なんで?  
驚いたわたしに、彼はさらにびっくりするようなことを言った。  
「続けるんだろう?冒険者」  
 
気付かれてたの?  
ギアにはお見通しだった…ってこと?  
「パステルを見てたらわかったんだよ。  
おれは、どうやら失恋したらしい…ってね」  
「ち…違うわ!」  
「…?」  
「失恋じゃ…失恋…ぼ、冒険者は、そう、続けることにしちゃった、んだけど、ごめんなさい…  
違うの。ギアのことが…わたしは…」  
わたしは…  
息が苦しくて、声が出ない。  
あと少し。  
あとほんのひと言なのに、どうして身体が動かなくなるの?  
先に出てきたのは、声じゃなくて涙。  
「パステル…?」  
「ギア」  
 
彼が呼んで、呼び返した。彼の名前。彼が呼ぶわたしの名前。  
それがスイッチだった。  
「ギア」  
甘い砂糖菓子のような響き。  
それをかみしめながら、わたしは背伸びして、彼の唇にくちづけていた。  
好き。  
ギアが好き。  
…お願い、伝わって?  
彼の手がいつの間にかわたしの背中にまわされて、部屋の中に引き入れられていた。  
後ろで小さくドアが閉まる音が聞こえる。  
触れ合っていた唇の間に、彼が潜り込んできた。  
し、舌を入れてるんだよね…?これって…。  
心臓が壊れそう…!  
「…途中で止めてくれって言わないでくれよ…もう、止まりそうにない。  
我慢できなさそうだったから、会わずにいようと思ったのに…」  
キスの途中で、ギアが囁いた。  
ひどく突き放すような言い方。離れたくなくて、胸にかじりついた。  
 
キスしながらベッドに倒れこんで、それでもまだキスをし続ける。  
ギアの口からは、宴で振舞われていたビールの苦い味がした。  
だけどそれが、ひどく甘いのはなんで?  
ギアの手がドレスのジッパーを留めていた小さなホックをあっというまに外して、下ろしてしまう。  
ドレスを剥ぎ取ってしまわれると、わたしは下着とストッキングしか身につけていなかったので、ひどくす 
うすうした。  
は、恥ずかしい…  
「ドレスって、脱がせやすいな」  
そんなわたしの表情を見ているのかいないのか、膝にキスをしながら彼は言う。  
「ひゃっ…」  
「…もしかして弱い?脚」  
「わ、わかんない…くすぐったいかも」  
「そうか」  
言いながら、ギアはストッキングを止めていたベルトのリボンを外した。  
「こっちは…脱がせにくい」  
「ご、ごめん…」  
「セクシーだけど」  
…ギ、ギアってばあ!!  
 
しゅるしゅるしゅる。何箇所かあるリボンがほどかれて、外気に晒された脚が何故か熱い。  
全身、熱い。  
されるがままになりながら、わたしはあっというまに下着も脱がされた。  
マシュマロのようなキスをしてくれながら、ブラのホックを外してしまって、  
パンティに手をかけて、するり。  
ギアはそこで手と唇を休めて、まじまじとわたしを見た。  
「や、やだ…見ないで、そんなに…」  
「いや、可愛いから、ついね」  
…ギアが言うと、こういうセリフも似合っちゃうのは何でだろう。  
キットンあたりが言ったとしたら…思いっきり笑っちゃうだろうな。  
もういちどキス。  
そして微笑むと、彼は自分も服を脱いだ。  
 
痩せてるけど、引き締まった骨太な体つき。  
触れてみると、意外と柔らかいんだけど、力が込められると驚くほど固くなる筋肉。  
わたしに覆いかぶさった背中を撫でると、彼の唇がわたしの身体をついばんだ。  
ささやかな胸の隆起を指で刺激しながら。  
それから、熱くなっている下腹部のあたりに手を這わせて、触れる。  
「あっ…」  
「痛かったら、言って」  
「う…うん…」  
答えると、驚くほどスムーズに指が入ってきた。  
痛みなんてない。2本の指がリズミカルに動いて、…ちょっとだけ声が出てしまう。  
「んん…っ」  
「濡れてる…ぐちゃぐちゃだよ」  
「うそ…」  
「聞こえるだろ?」  
ギアが指を動かすたびに、ぴちゃぴちゃともぐちゃぐちゃともつかない、いやらしい音が静かな部屋に響いた。  
「いやあ…止めて、恥ずかしいよ、ギア…」  
「止めないって、言っただろ?」  
…言ったけど。  
わたしが唇をとがらせると、それを吸いながら、彼はわたしに「入ってきた」。  
 
「入る」ってこと。  
知識として知ってはいたけれど、ものすごーく痛いものだって聞いてた。  
けど、徐々に気持ちよくなってく、とも聞いた。  
なのに、初めてなのに、わたし…気持ち、いいかも…。  
一気に入ってきて、何度か突き上げて、キスをされた。  
ギアの薄い唇。さっきまでより鋭敏になっているらしくって、されるたびに心臓がドキドキする。  
これは、ギアが経験者だから…なのかな?  
むむむ。  
自分で考えてしまってなんだけど、ちょっとやだな。  
ギアがほかの女の子を好きだったことも。  
誰かにこうやって優しくしただろうことも。  
でもいまは…いまだけはわたしだけのギアだよね。  
この背中も。  
この髪の毛も。  
この瞳もすべて。  
そう思うといとしくてたまらない気持ちになった。  
抱きしめても、抱きしめても、足りないよ…  
 
「ギア、ギア…ああ、あん…はあっ…」  
「パステル…」  
わたしの腕に力がこもったのに気付いたのか、彼がわたしを見た。  
もっと。  
彼がもっと欲しい。  
どうしようもなくて、彼の頭を引き寄せてキスをした。  
好き。ギア、あなたのことがとても好き。  
あの朝、いきなり、崖から突き落とされるように恋をして…  
好きになれて、嬉しい。  
抱きしめて、キスしても、まだ欲しいなんて。  
彼がしてくれるように、舌を捻じ込んで、彼の真似をしてむさぼってみた。  
こ、こんな感じかな?  
彼がしてくれるようにはできなかったけど…  
わたしが唇を絡めると、彼の動きが加速して、わたしの快感をいきなりてっぺんまで引き上げた。  
 
ふっ…と意識が遠のいた気がする。  
気がつくと、おなかに暖かい感触。見ると白い液体がおへそに溜まっていた。  
こ、これは…もしや…  
わたしが赤面していると、ギアが息をつきながらそれを拭ってくれた。  
きっちり拭いて、またキス。  
交わして、微笑みあった。  
 
まだ外では宴が続いているみたいで、喧騒が聞こえてくる。  
クレイたちはまだ外なのかな?  
わたしはギアに送ってもらって、自分の部屋に戻ってきた。  
あたりにひと気がないことを確認して、くちづける。  
「明日の朝、また会いに来るよ」  
「うん」  
「またそのうち、会おう」  
「うん、きっと。シルバーリーブに連絡、…会いたくなったら」  
「するよ。かならず」  
これは、永遠のお別れじゃない。  
「…好きよ、ギア。  
あなたのことが、とってもとっても好き」  
さっきどうしても言えなかった言葉をかみしめるように伝えると、ギアは返事のかわりにまたキスして、抱 
きしめてくれた。  
 
…もしかしたらいつか別の人を好きになるかもしれない。  
離れるってことは…そういうことだと思う。わたしは、パーティを失くせなかった。  
でも。  
あなたの事、忘れない。また会ったら絶対また同じ気持ちになると思うんだ。  
突然の大雨みたいに好きになったひと。  
 
小指を絡めあって、長い長いキスをして、わたしたちは抱きしめあった。  
 

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