――どうして、行かないの? 
 お昼ごはんの後。ふてくされたように床に転がっている男の子に、わたしは声をかけた。 
 午前中、彼はあんなにも親切にわたしを色々なところに案内してくれていたのに。 
 何故か、午後は、わたしがどれだけ声をかけても連れていってくれようとはしなかった。 
「どうしても」 
 男の子は、わたしに背を向けたまま言った。 
 子供心にわかった。彼は何故だかとても不機嫌で、そして不機嫌の原因はどうやらわたしにあるらしい、と。 
「ねえ、わたし、何かした?」 
 男の子に一生懸命声をかける。 
 嫌だった。せっかく仲良くなれそうだったのに。わたしが何か彼の気に触るようなことをしたのならば、謝らなければ。 
 だけど理由がわからなかった。わたしはただ遊んでいただけだ。目の前の男の子と、公園で出会った、男の子の友達だというブランコの男の子との三人で。 
 別に喧嘩をしたわけでもないし。一体何がそんなに彼の気に障ったのだろう。 
「ねえ……」 
 わたしがそっと近寄ると、彼はごろごろと床を転がってわたしから距離を置いた。 
 そして言った。 
「……に遊んでもらやあいいだろ」 
 呼ばれた名前は、ブランコの男の子の名前。 
 わけがわからない。遊んでもらえと言われても、わたしには彼がどこに住んでいるのか、それすらもわからないのに。 
「……もう、いい」 
 そのとき、わたしは何となく悟ったのだ。 
 きっとわたしがどう謝ったって、すねてしまった彼の機嫌は直らないだろうと。 
「わたし、ひとりであそぶ」 
 大人達は話しに夢中で、誰もわたし達のことなど気にも止めていない。 
 わたしは、一人で外に出た。 
 自分が方向音痴であるという自覚もなかった、幼い日の思い出。 
 あのとき、男の子は、どうして機嫌を損ねてしまったんだろう…… 
  
 おにぎりの中身は梅干と鮭フレーク。卵焼きにプチトマト、キュウリのつけものに昨日の夕食の残りであるコロッケと唐揚げ。下に敷いてあるのはレタス。 
 お弁当箱に彩りよく盛り付けると、我ながらおいしそうにできたなあ、って思ってしまう。 
 わたしの楕円形のお弁当箱と、それより一回り大きい、トラップの四角いお弁当箱。 
 今日から通常授業になるから、お弁当作るね。 
 土曜日、買い物につきあってくれたトラップにそう言うと、「俺のも作ってくれんの?」とすごく意外そうな顔をされた。 
 わたしは笑って、買い物籠に自分の分と彼の分、二つのお弁当箱を入れた。 
 もともと、わたしは料理は嫌いじゃない。両親が忙しくて、食事の支度もお弁当の支度もほとんど一人でやっていたから。 
 今更、作るお弁当が一つから二つに増えたって大した手間じゃない。 
 そう言うと、彼はぷいっと顔をそむけて、「……さんきゅ」と小さくつぶやいた。 
 彼の顔が耳まで真っ赤になっていたことを、わたしは見逃さなかったけど。 
 だってねえ。聞いてみたら、それまで一人暮らしも同然だったというトラップ。 
 手先の器用な彼は料理もそれなりにできるらしいけど、朝に弱い上に面倒くさがりな彼が、そんな面倒なことをしているはずもなく。普段昼食は学食で済ませていたとか。 
 まあね、学食はそれなりに美味しいしボリュームもあるし安いけど。 
 でも、やっぱり不経済だよね。トラップの家はまあお金持ちの部類に入るんだろうけど、わたしという居候が増えた以上、生活費の管理はしっかりしないと。 
 そんなわけで、わたしは今日から30分ほど早起きして、お弁当作りをすることにしたのだ。 
 ついでに朝食も作れば、7時過ぎには終わるし。朝には割りと強い方だからそんなに苦にはならない。 
 今日の朝食は和食。ご飯に海苔に卵焼き、お味噌汁の具はわかめと豆腐。メインのおかずは鮭の塩焼き。 
 ……お弁当を作るついでだと、どうしてもメニューが似たようなものになるんだよね……ま、いっか。 
 時計を見ると、もう7時をいくらかまわっていた。そろそろトラップを起こさないと。 
「トラップートラップ、トラップー!!」 
 叫びながら階段を上る。何しろ、トラップは寝起きの悪い人だから。 
 以前強引に起こそうと布団をひっぺがしたとき、見たくもないものを見てしまったトラウマで、わたしは部屋の外からどんどんとドアをノックする。 
 幸いなことに、今日は既に起きていたらしい。 
「んだよ……朝っぱらからうっせえなあ……」 
 眠そうな目つきでボーッと顔を覗かせるトラップに、洗濯済みのYシャツをたたきつけた。 
「もう時間なの! 遅刻しちゃうじゃない、早く着替えてご飯食べちゃって!!」 
 
 年頃の男女の二人暮らし。トラップのご両親は仕事の都合でほとんど海外生活を送っていて、わたしとトラップは世間一般が見るところの同棲生活、とやらに突入している。 
 ううう。わたしは知らなかったのよ! 知ってたらさすがにこの家で暮らそうとは……思わなかった、と思う。多分。 
 わたしの両親が事故で他界してしまって、一人で寂しいだろうと引きとってくれたのが、お父さんの親友だったというブーツ一家。 
 トラップはそこの一人息子で、わたしと同い年で同じクラスで席も隣同士という、変な縁がある。 
 ちなみに、同棲生活……に見えるかもしれないけれど、わたしとトラップはそんな関係じゃないから。絶対違うから。あくまでもただの「同居生活」なんだから。 
 まあ、そんなわけで、最初のうちはどうなることか、と思ったけれど、ほんの数日で、わたしはすっかりこの生活になじんでしまっていたりする。 
 そりゃあねえ……生まれて始めて同じ年頃の男の子と一緒に暮らすことになって、色々見たくもないものとかも見る羽目になったけど。 
 一人暮らしで寂しい思いをするよりは断然マシだし。それにああ見えて、トラップは頼りになるしね。 
 ただ、唯一不満があるとすれば…… 
「あのねえ、トラップ」 
「あんだよ」 
 ずずず、とお味噌汁をすすりながら、トラップが上目遣いに見上げてくる。 
 彼は基本的に好き嫌いがないらしく、わたしが作ったものを文句一つ言わず美味しいと食べてくれる。 
 普段自分のためにしか料理を作ったことがなかったから、それがすごく嬉しかったんだけど。 
「あのねえ、わたし、お世話になっておいてこんなこと言うのはあれだけど、料理も後片付けも洗濯も掃除もぜーんぶわたしがやるのって、結構大変なのよね」 
「ふーん」 
 お行儀悪くお味噌汁の中にご飯の残りを入れて、さらさらと食べ始める。 
 ……あれ、美味しいのかなあ。今度試してみようかな。 
「だからさあ……あの、できれば、洗濯くらいは……トラップにやってほしいなあ、と……」 
「あんだ? おめえ……」 
 ごくん、と食後のお茶をすすって、トラップは意地悪そうな笑みを浮かべた。 
「俺がおめえの服から何から洗濯しちゃって、いいわけ?」 
 ――――!! 
 わたしの下着までトラップに洗濯してもらう光景を想像して、ボンッ、と頭に血が上る。 
「だだだだからっ! その、わたしの分はわたしが洗濯するから……」 
「二回も洗濯するなんてそれこそ電気代がもったいねえだろーが」 
 言い返されてぐっと詰まる。 
 た、確かにね。二人暮らしでもともとそう量が多いわけでもないのに、この上さらに洗濯を二回に分けるのは、面倒だし電気代や水道代も…… 
「じゃ、じゃあ……掃除、とか」 
「おめえの部屋に勝手に入っていいんだな?」 
 ぐぐっ 
 言われてさらに言葉に詰まる。 
 くくーっ! 何か悔しいー!! 
 いやいや待て待て。わたしの部屋以外を掃除して、とか。うん、これなら問題無いよね。 
「じゃあっ……」 
「おめえ、さっさと食わねえと遅刻すっぞ」 
「え?」 
 言われて腕時計を見ると、時間は既に7時半になろうとしていた。 
「きゃああああ!? バカ、もっと早く言ってよー!!」 
「おめえが一人でべらべらしゃべってたんだろーが」 
 呆れたような眼差しを向けるトラップを無視して、慌てて食事をかきこむ。 
 ううっ、朝ごはんくらい、のんびり食べたーい!! 
  
 二人分のお弁当をバンダナで包んでカバンの中へ。 
 洗い物は帰ってからやることにして、慌てて外に出たときは、もう7時40分。 
 余裕を持って起きたつもりでも、何故かわたし達の登校はいつもギリギリになっちゃうんだよなあ…… 
 それでも、どうにかいつもの電車に飛び乗って、ほっと一息。 
 ほんの数駅、時間にして15分くらい。 
 わたしは電車通学をするのは初めてだったから、最初のうちはちょっと楽しみでもあったんだけど。 
「うううううう……」 
 ぎゅうぎゅうに混んだ車内で、深く深くため息をつく。 
 どうやら、わたしは朝のラッシュというのを甘く見すぎていたらしい。 
 初めてこの混んだ電車に乗ったときは、人の波に押し流されて危うく違う駅で降りそうになり、トラップに散々バカにされた。 
 だってねえ……普通電車の中って座席があるはずなのに、座席分のスペースも惜しいって、朝は椅子が全部壁際に畳まれてるのよ? 
 そこに限界まで人が押し込まれてるって、一体どこからこんなに乗ってきてるんだろう。 
 はあ、とため息をついて、ぎゅっと身をちぢこませる。 
 トラップは、中等部(ひょっとしたら初等部から?)からずっとこのラッシュを経験していてすっかり慣れているらしく、この混雑の中、壁にもたれてのん気にMDを聞いていた。 
 ううー羨ましい、その余裕っ! 
 背広姿のサラリーマンに前後左右さらに斜め前後まで挟まれて、わたしは完全に身動きが取れなくなっていた。 
 乗るときは、トラップ、確か隣に立っていたはずなんだけどなあ……いつの間にあんなに離されたんだろ…… 
 はあ。我慢我慢。たった15分だもんね。 
 そうやってわたしがため息をついたときだった。 
 ぞわり 
 変な感覚をお尻に感じて、背筋に寒気が走る。 
 な、何? なに何? 
 何かがお尻にあたってる。そりゃあね、こんな混雑だもん。何にも触れてない部分の方が遥かに少ないんだけど…… 
 ぐ、偶然……だよね? 
 もぞりっ 
 ――ひいっ!! 
 思わず心の中で悲鳴をあげる。 
 だってだって、お尻に触れている何か、何だか不自然にもぞもぞ動いてて…… 
 これ、絶対カバンとかじゃないよね。だ、誰かの……手? 
 ち、痴漢!? 
 思わず大声をあげそうになったけど、怖くて喉が強張って、何も言えなかった。 
 万が一勘違いだったら、とも思ってしまう。 
 だけどだけど、手は容赦なくもぞもぞとお尻をはいまわっていて、わたしはその気持ち悪さに泣きたくなってきた。 
 もー、何でこんな目に合うの? 最低っ…… 
 っっきゃあああああああ!!? 
 相変わらず声には出せなかったけど、わたしは心の中で絶叫した。 
 わたしが動かない(動けない)のをいいことに、手の動きは段々エスカレートしていったんだけど、その手、手が、スカートをたくしあげていて…… 
 も、もう怒ったわよ!! こうなったら思いっきりひっかいて…… 
 って手が動かせないいいいいっ!! 
 前後左右ぴったり人に押し付けられているせいで、わたしは動くこともままならない状態。逃げられないっ!! 
 だ、誰か…… 
 ぎゅっと目を閉じる。太ももあたりを這い回る手の感触に、泣きそうになる。 
 そのときだった。 
 電車が、カーブにさしかかって、一瞬人の列が崩れた。 
 まだよろける隙間があったんだなあ、と変なことに感心していたそのとき。 
 ぐいっ、と肩をつかまれた。周囲の人が迷惑そうな顔をするのにも構わず、わたしはそのまま誰かに引き寄せられて…… 
 カーブを抜けたとき、わたしは壁際に無理やり押しやられていた。 
「……え?」 
 目の前に立っているのは、わずかにイヤホンから漏れる音楽に合わせて身体を揺らしている、見慣れた赤毛頭。 
 彼は壁に両手をついて、ジッと音楽に聞き入っているみたいだったけど。 
 わたしの身体は、壁と、彼の身体と両腕にすっぽり覆われていて、痴漢の姿は、影も形もなかった。 
「トラップ……」 
 わたしのつぶやきに、トラップは答えなかったけど。 
 かばってくれたんだ。そう思うと、何だか、電車通学も悪くない、そんな風に思ってしまった。 
  
「トラップ、さっきはありがとうね」 
「ああ? そう思うんなら今度から自分で何とかしろよ」 
 うっ…… 
 せ、せっかくお礼言ってるのに。かっわいくなーい。 
 電車を降りたら、駅から徒歩で10分くらい。 
 そこが、わたし達の通う聖フォーチュン学園。 
 幼稚舎から大学まである、結構大きな学校なんだよね。 
 高等部の二年A組が、わたしとトラップのクラス。 
「おはよう!」 
 既に教室にいたマリーナとリタに声をかけて、席につく。 
「あ、おはようパステル、トラップ」 
「おっす」 
 いつもの挨拶、いつもの光景。 
 ただ…… 
 本鈴が鳴って、担任のギア先生が入ってきたとき、わたしは身体が強張るのを感じた。 
 ギア・リンゼイ先生。わたし達の担任の先生で、わたしのことを好きだ、と言ってくれている。 
 だけど、わたしはどうしても先生は先生としか見れないから、その気持ちを受け止められなくて…… 
 ギア先生は、今日も何だか不機嫌そうだった。名前も呼ばず、欠席者がいない、ってことだけを帳簿に書き付けている。 
 最近、ギア先生は失恋したらしいっていうのが、水面下でできたギア先生ファンクラブの説なんだけど。 
 当たっているだけに、わたしはその噂を聞いたとき、笑うしかできなかったんだよねえ…… 
「今日は……」 
 ギア先生の言葉に、ハッと顔を上げる。 
「今日は、生徒会役員選挙があるので、六時間目は体育館に集合するように。連絡事項は以上だ」 
 それだけ言うと、先生は挨拶もそこそこに教室を出て行った。 
「生徒会役員選挙かあ……」 
 そういえば、そんなのもある、って言ってたなあ。 
 うちの学校の生徒会は、初等部、中等部、高等部からそれぞれ三人ずつ選出される。 
 けど、選挙で選ばれるのは生徒会長一人だけ。後の副会長と書記は、生徒会長が信頼おける人間を選ぶ、っていう方式になっている。 
 だからこそ、うちの学校の生徒会って、みんなまとまりがあるんだよね。 
「けっ。どーせクレイの野郎で決まりだろ?」 
 お行儀悪く椅子に足を乗せながらつぶやいたのはトラップ。 
「クレイと……後、誰だっけ? 立候補してたの」 
「ディビーって言ったかな。金持ちの甘ったれのぼんぼんだよ。まあまず勝ち目はねえだろうな」 
「クレイは立候補じゃないわよ。他薦よ他薦。断りきれなかったんだって」 
 会話に割り込んできたのはマリーナ。 
 実は、マリーナってクレイと付き合ってるんだよねえ。 
 あんなかっこいい彼氏がいるなんていいなあ、って思わなくもないけど、今のところ、わたしには好きな人は……いない、と思うので。多分。 
 羨ましがってもしょうがない、っていうのが本音だったり。 
「やれやれ。一時間目は何だあ?」 
「トラップ、時間割確認してないの?」 
「けっ。んなめんどくせーことしなくても、教科書全部学校に置きっぱなしにすりゃあいいだろーが」 
 トラップ……それじゃどうやって予習復習するのよ…… 
 わたしはやれやれとため息をついた。 
 一時間目は数学の授業。苦手な科目だからがんばらないとね! 
  
 お昼休み。わたしとトラップ、リタとマリーナの四人でお弁当を囲む。 
「おーいトラップ、学食行かねえの?」 
 クラスメートの男の子達が声をかけてきたけど、トラップがひらひらとお弁当箱を見せると、何やら「くそっ羨ましい!」「裏切り者!」とか言いながら学食に行ってしまった。 
「いいのトラップ? 学食でお弁当食べれば?」 
「おめえ……そりゃ嫌味ってもんだろ」 
 わたしの問いに、返されたトラップの言葉。その意味はよくわからないけれど。 
 まあいいや。好都合だし。 
 揃ってお弁当を広げた後、わたしは数日前から計画していたことを話した。 
「ねえ、トラップもうすぐ誕生日だよね」 
「んあ?」 
 おにぎりをほおばったトラップが、黒板に書いてある日付を見て頷く。 
「そだな。後半月くれえかな」 
「五月の三日だよね。ねえ、誕生日のお祝いパーティーしようよ」 
「はあ?」 
 わたしの言葉に、トラップはしばらく唖然としていたみたいだけど、彼本人より、マリーナとリタが先に反応した。 
「あら、本当にもうすぐじゃない。いいわね、やろうやろう」 
「へートラップ、誕生日早いのねえ」 
 二人の言葉に、トラップが焦ったように振り返る。 
「へ? いや待て。おめえ、何で俺の誕生日知ってんだよ」 
「この間生徒手帳を見たから」 
 わたしがあっさり答えると、なるほどな……と妙に感心したように頷くトラップ。 
 えへへ。実はわたし、誕生日パーティーとか、クリスマスパーティーとか、そういうの企画するの好きなんだよね。 
 普段一人でいることが多かったから。みんなでわいわい楽しむのが好きなんだ。 
「ほら、五月三日って、ちょうどゴールデンウィークで学校休みだし。クレイも呼んで……」 
「ああ、そっか。そういえばトラップって、クレイの幼馴染だったわよね」 
 わたしの言葉に、マリーナもリタも俄然乗り気になったんだけど。 
 マリーナは、トラップの方に視線を向けた瞬間……何故か、顔色を変えた。 
「あ、ああそうだそうだ。わたし、三日は都合が悪いのよ。できれば四日か五日……ううん、もうちょっと早くしてくれない?」 
「へ?」 
「え?」 
 どうしたんだろ、いきなり。 
 わたしとリタはきょとんとしてしまったんだけど。マリーナがリタをどん、と小突いた瞬間、何故かリタまで、 
「あ、ああそうそう。わたしも、実は……ねえ、どうせなら、四月の最終日曜日にやっちゃわない? ねえ、パステル」 
「へ? う、うん。わたしは構わないけど……」 
 トラップは? 
 振り返ると、トラップは、何故だか満足そうに頷いていた。 
「ああ、いいぜ。四月の最終日曜日な。さんきゅ」 
 あ、嬉しそう。 
 うん、やっぱり計画してよかった。 
 それにしても……二人とも、何で当日じゃ駄目なのかなあ? 
  
 六時間目の生徒会役員選挙は、やっぱりクレイの圧勝で終わった。 
 まあねえ。対抗相手のディビーが、「ええっと、僕が立候補したのは、ママに言われて……」なーんて言ってるくらいだから。 
 そりゃあ、彼とクレイだったらクレイを選ぶでしょう、普通。 
 わたしも当然クレイに投票したし。 
 というわけで、その日は、それで終わり。クレイにマリーナ、わたしとトラップの四人で、お祝いと称してご飯を食べに行ったりしたんだけど(リタは、何故か「余り物になるじゃない」と言って来なかった)。 
 翌日。予想外の出来事が、わたしを待っていた。 
  
 翌朝、相変わらず遅刻ギリギリで学校に到着すると、わたし達のすぐ後にギア先生が入ってきた。 
 いつもの通り出欠確認をして、連絡事項を話して。そしてHRが終了する、はずだったんだけど。 
「パステル・G・キング、それとステア・ブーツ」 
「へーい」 
「はいっ!?」 
 今にも帰りそうだったギア先生に突然声をかけられて、わたしは思わずびくっとしてしまった。 
 な、何だろ。何かあるのかな? こ、今回はわたしだけじゃなくトラップもだから……別に、危ないことはない、よね? 
「その二人は、ちょっと話があるから、昼休み、生徒会室に来るように」 
「へーい」 
「はい……え?」 
 生徒会室? 何でそんなところに? 
 わたしは首をかしげてしまったけれど、トラップは、用事が何か予想がついているらしく、つまらなそうにあくびをしていた。 
 何なんだろう……? 
  
 昼休みまで、わたしはずっと不安な気持ちで過ごしていたんだけど。 
 トラップと並んで生徒会室に行った途端聞かされた言葉に、思わず倒れそうになった。 
「わ、わたしが書記、ですかあ!?」 
「そうだ。生徒会長クレイ・S・アンダーソンの指名だ。副会長がステア・ブーツ、書記がパステル、君だ」 
 ギア先生は、事務的な口調で淡々と告げた。 
 ええと、一応、指名を断る権利はある……んだよね? 
 だって、生徒会長がクレイなんだよ? わたしよりマリーナの方がいいんじゃない? 
 そう言って、わたしは一瞬断ろうとしたんだけど。 
「どうする」 
「もちろんやるに決まってんじゃん。なあ、パステル?」 
「へ? ええ?」 
「こいつもやる気じゅーぶんだそうで」 
「ちょ、ちょっとトラップ!!」 
 な、何勝手に返事してるのよお!! 
 わたしはゆさゆさとトラップの腕を揺さぶったけど、トラップはへらへら笑ってるだけで取り合ってくれそうにない。 
 もー! 何なのこの展開!? クレイってば何考えてるのよー!? 
「ステア・ブーツ。君に聞いてるんじゃないんだ。パステル、どうする。やるのか、やらないのか」 
「え? ええっと……」 
 わたしはおろおろしてしまったんだけど。 
 そのとき、トラップが耳元で囁いた。 
(だいじょーぶだって。俺達を信じろ) 
 へ? ど、どういう意味? 
 そんなわたし達の様子に、ギア先生がぴくり、と眉を動かした。 
 ど、どうしよう。マリーナに譲ってあげたいけど、あのクレイだもん。考え無しにわたしを指名したはずないよね? もしかして、マリーナの方が嫌だって断ったのかもしれないし…… 
 それに、指名されたのに断るのって、失礼だよね。うん。 
 後でマリーナにちゃんと話聞こう。きっと、何か考えがあるんだよね。トラップも信じろって言ってるし。 
「わかりました。やります」 
「……そうか」 
 わたしの答えに、ギア先生は頷いて、手帳に何か書き付けていた。 
「わかった。その旨学園に報告しておく。ああ、それと」 
「はいっ!?」 
 ま、まだ何かあるのお!? 
 ギア先生はトラップをにらむように見ていて、トラップは何だかすごくバカにしたような目でギア先生を見ていて。 
 二人の間に漂う緊張感で、わたしはほとんど泣きそうになってたんだけど。 
 ギア先生が差し出した紙を見て、涙も引っ込んでしまった。 
 それは、この間、わたしに差し出された紙。 
 つまり……わたしとトラップの名前のところに、全く同じ住所と電話番号が書かれた連絡網。 
「これを、そろそろ配布しないといけないんだが」 
「ああ、もうそんな時期っすねえ」 
 トラップ……それ、先生に対する言葉遣いじゃないよ…… 
「もう一度確認する。パステル・G・キング、ステア・ブーツ。君らの住所と電話番号はこれでいいんだな? 同じ場所に住んでいる、それでいいんだな?」 
「ああ、そーだよ」 
 わたしが答えるより早くトラップは言った。 
 バン、と机に両手をついて、挑むような目つきで先生の顔を覗きこむ。 
「何か文句でもあんのか?」 
「……年頃の男女が、それも赤の他人同士が、一つ屋根の下に住んでいる。あまり歓迎すべき事態とは言えないな」 
「ああ、なーるほど。担任として心配、そう言いてえんだな?」 
 トラップはにやにや笑いながら言った。妙に「担任」のあたりに力をこめている。 
 ちょっとちょっと、何を言うつもりよー!? 
 わたしがハラハラしながら見守っていると。 
 トラップの口から、爆弾発言が飛び出した。 
「なら、心配ご無用。だって俺達、他人じゃねえもん」 
「……はあ!?」 
「ほう」 
 わたしはうろたえて、ギア先生の目が冷たく光った。 
 ちょっとー! 何その言い方!? それじゃまるで…… 
「君らは親戚関係にでもあるのか?」 
「いいや、婚約者だよ」 
 がたがたがたっ!! 
 思わず椅子ごとひっくりかえってしまう。 
 な、な、な、何を言い出すのよー!? 
 こ、婚約者ってわたし達は…… 
「ほう。そうだったのか、パステル?」 
「え? あの、いえ、それは……」 
 そう。実はトラップの言葉は、嘘ではなかったりする。 
 もっとも、親同士が勝手に決めたことで、本人同士はちっとも了解してなかったりするんだけど。 
「そうだって言ってんだろ? じゃなきゃさすがに引き取らねーよ。あんたなら知ってんだろ? 俺ん家の親が、仕事の都合でほとんど海外暮らしだっつーことは」 
「……確かに」 
 トラップの言葉に、ギア先生は頷いて立ち上がった。 
「わかった。ではこのまま皆に配ることにする」 
「へいへい、わざわざ確認ごくろうさん」 
「……ステア・ブーツ」 
 ギア先生は、そのまま部屋を出ようとしたんだけど。 
 すれ違い様、トラップの胸元をつかみあげた。 
 トラップも結構長身な方なんだけど、ギア先生はさらに高い。そのまま、トラップは強引に立ち上がらされて…… 
「……あんだよ」 
「言葉遣いに気をつけろ。俺は教師、お前は生徒だ。それを忘れるな」 
「……へっ」 
 それだけ言うと、ギア先生は手を離して、教室から出て行った。 
 その表情は……今まで見たこともないくらい、冷たいものだった。 
 わたしは、二人の間に漂う緊迫感に、声も出せなかったんだけど…… 
 どさっ 
 トラップが椅子に座り込む音で、慌てて我に返る。 
「ちょ、ちょっと。大丈夫!?」 
「んあ? 別に何もされてねーよ」 
「だ、だって……」 
 力なら、多分ギア先生の方が強い。立場も。 
 トラップったら、そんなことくらいわからないはず無いのに、どうして…… 
「もう、トラップってば……あんまり、無茶しないでよ。そ、それに……」 
「それに?」 
 トラップの目に、面白そうな光が宿った。 
 ……絶対。ぜっったい! わたしが言いたいことわかってるくせに、わざと聞いてる! 
「こ、婚約者だなんて!! 何で、そんなことわざわざ。第一……」 
「さすがに、諦めるんじゃねえの?」 
「え?」 
 トラップの言葉に、思わずきょとんとする。 
 諦める? 
 トラップは、そんなわたしと、先生が出て行ったドアを交互に見つめながら言った。 
「俺と婚約してるって言やあ、あいつもさすがにおめえのこと諦めるんじゃねえ?」 
 ……あ。 
 もしかして……わたしが、先生のこと怖がってるの知ってて、それで……? 
 わたしのこと、考えてくれたんだ…… 
「ったくよお。おめえがきっぱり『そんなつもりありません』って言やあ、話は簡単に終わったのに。中途半端に期待持たせるよーなことするから」 
 うっ!! 
 痛いところをつかれて、思わず黙り込む。 
 た、確かにそれはそう……なんだよね。わたしの優柔不断が招いたこと、なんだよね…… 
 で、でも…… 
「しっかしあいつも物好きだよなあ。こんなどこが胸だか背中だかわかんねえような女の、どこがそんなにいいんだか」 
 ぶちっ 
「わ、悪かったわねえっ!!」 
 バシーン!! 
「ってえ――!!」 
 生徒会室に、わたしの怒声とトラップの悲鳴が響いたのは、それからすぐのことだった…… 
  
 トラップの言葉にどれほどの効果があったのかはわからないけれど。 
 とりあえず、その後は、ギア先生からの呼び出しがかかることもなく。 
 連絡網が配られた後、クラスの中でちょっとした話題になったけれど。「両親同士が友人で〜」と説明したら、みんな納得してくれた。 
 まあね。トラップのご両親がどんな職業についてるか、なんて、あえて言わなければ誰も知らないだろうし。 
 そんなわけで、しばらくは平穏な学園生活が続いて、わたしもやっと落ち着くことができた。 
 生徒会役員になったのが、ちょっとした事件と言えば事件だけど。 
 別に、今のところ何の行事があるわけでもないし。週に一回、役員ミーティングがある以外は、これと言って仕事は無い、ということだった。 
 そうそう、後でクレイとマリーナに聞いてみたんだよね。何でわたしが書記なの? って。 
 そうしたら、二人は何だかすごく意味ありげに視線を交わして、「ま、そのうちトラップが教えてくれるよ」って言ってきた。 
 ……どういう意味なんだろう? 
  
 四月の最終日曜日。 
 今日は、トラップの誕生日パーティーをやる日。 
 そんなわけで、わたしは朝から準備に取り掛かっていた。 
 クレイにマリーナ、リタも来てくれるって言うしね。よーし、腕によりをかけるぞー! 
「おめえ、はりきってんなあ……」 
 げんなりした様子で声をかけてきたのはトラップ。 
 ちなみに今は、朝の五時。普段のトラップなら、まだまだ夢の中にいる時間。 
 じゃあ何で起きたのかって言うと、わたしがばたばたうるさいから目が覚めた、ってことらしい。 
 トラップの誕生日を知ったとき、本当は内緒にして当日驚かせようかどうしようか、迷ったんだよねー。 
 でも、どうせこの家でパーティーするんだったらばれちゃうだろうし。内緒にしておいて、当日に「用があるから」なんて言われたらたまらないもんね。 
 驚く顔が見たかった、っていう気持ちはなくもないけど。ま、それは来年にでも、ということで。 
 そんなわけで、わたしは朝からご馳走作りに取り掛かっていたのだ。 
 ちなみに、今はケーキを焼いているところ。 
 トラップの家って、お母さんが滅多にいない割には、調理器具とか豊富にそろってるんだよねー。 
「おい、聞いてんのかあ?」 
「ふんふんふーん♪ え? 何?」 
 わたしが振り返りもせずに言うと、背後から盛大なため息が聞こえてきた。 
 もー、何なのよ。今メレンゲ作ってるところで手が離せないんだからね。 
 がしゃがしゃがしゃ 
 卵白にグラニュー糖を三回に加えて、ピンと角が立つまでしっかり泡立てる作業。ハンドミキサーがあればすぐなんだけど、どうやらトラップのお母さんは、こういう作業を全部手作業で済ませていたらしく、台所に見当たらなかった。 
 おかげで、手動で泡立ててるんだけど……これがなかなか体力勝負。 
 ひーん、この後生クリームも泡立てなきゃいけないのにい。 
 がしゃがしゃがしゃ 
 腕が痛くなって休み休み泡立てていると、隣に誰かが立つ気配。 
「ん?」 
「貸せっ」 
「と、トラップ!?」 
 すっと横に立ったのはトラップ。わたしの手から卵白の入ったボウルを取り上げて。 
 がしゃがしゃがしゃがしゃっ 
 わたしより数倍手早く、しかもすごく手慣れた様子で泡立て始めた。 
 す、すごいすごい! あっという間にメレンゲになってく!! 
「トラップ、お菓子なんか作ったことあるの!?」 
「母ちゃんによく手伝わされたんだよ。『菓子を作るには体力がいるんだよっ。どうせできたらお前も食べるんだろう?』ってな」 
 がしゃがしゃがしゃ 
 わたしが一生懸命かきまわしてもちっとも泡立たなかった卵白が、あっという間にメレンゲになってしまった。 
 ほへー……す、すごい…… 
 って、いやいや、感心してる場合じゃなくて! 
「と、トラップのための料理なんだから。手伝ってもらうわけにはいかないわよ。いいから寝てて?」 
「ああ? おめえがとっとと料理終わらせてくんねえと、うっさくて眠れやしねえんだよ! 大体夕方からじゃねえのか、パーティーは。何でこんな朝っぱらから準備してんだよ!」 
「だ、だって、間に合わなかったらかっこ悪いじゃない」 
 しゅん、とわたしがうつむくと、トラップはまたまた盛大なため息をついて、泡だて器を洗い場に放り込んだ。 
「だあら、手伝ってやるっつってんだよ。んで? 次は何をすればいいんだ?」 
 ……うう、何だか釈然としないなあ。 
 でもまあ、いいか。今度ハンドミキサー買いに行こう。 
 トラップと二人で作ると、不思議なくらい、料理はスムーズにできた。 
 この人って何をやらせても器用なんだよね。初めてやることなのに、手際がいいっていうか。 
 というわけで、朝早くから準備を始めた料理は、昼前には全部作り終わってしまったのだった。 
  
 昼食は、味見も兼ねてパーティーの料理をちょこっとずつ。 
 悔しいけど、トラップの料理はうまかった…… 
「こんなに上手なんだから、料理当番交代制にしない? 朝ごはんとお弁当は、わたしが作るから。夕食だけでも」 
「はあ? んなめんどくせえことやってられっかよ。今日は特別なの、特別!」 
 わたしの提案は、あくびと共にあっさり却下されてしまったけど。 
 はあ……トラップの手料理、食べてみたかったんだけどなあ。 
 わたしがあからさまにため息をついていると、トラップはちょっとうろたえたみたいだった。 
 困ったように赤毛をかきまわし、しばらく視線をさまよわせて…… 
「ま、気が向いたらな」 
 とボソッとつぶやいた。 
「嘘、本当に? やったー! 楽しみ!」 
 わたしがにこにこ笑って言うと、彼は「けっ」と言ってそっぽを向いてしまったけど。 
 トラップってそうなんだよね。厳しいように見えて、実は結構優しいところもあるんだよね。 
 ま、ごくごくたまーにだけど。 
 そんなこんなで、二人で昼食をつついていたんだけど。 
 それを言われたのは、食事が終わって、洗い物をしようとしたときだった。 
「……なあ」 
「ん? 何?」 
 食器を流しに運びながら言うと、トラップは珍しく口ごもっていたけれど。 
「……あのさ、おめえ、ゴールデンウィーク暇か?」 
「え?」 
 ゴールデンウィーク。とは言っても、今年はカレンダーの都合上、五月の三日から六日まで、休みは四日しかないけど。 
 去年までは、この時期は両親と旅行に出かけてたんだよね。でも、今年は…… 
「……ううん、別に無い」 
 マリーナもリタも、三日は忙しいって言ってたしね。新学期は色々ありすぎて、旅行の計画を練るような暇も無かったし。 
 しょうがないから、今年のゴールデンウィークはのんびり本でも読んで過ごそうかな、って思ってた。 
 わたしがそう言うと、トラップはしばらく考え込んでたみたいだけど。 
「……んじゃさ、五月の三日、ちょっとつきあってくんねえ?」 
「は?」 
 三日……ってトラップの誕生日当日よね。 
 どうしたんだろう、急に。 
「……嫌か?」 
「ううん、別に構わないけど。どこに?」 
「それは……ま、当日のお楽しみ、ってとこだな」 
 トラップは、何だか意味ありげに笑うと、「パーティーまで一眠りする」と言って二階に上がっていった。 
 何なんだろう? 五月三日……どこへ行くつもりなのかな? 
 でも、楽しみ。今年はどこへも行けないって、諦めてたもんね。 
 何着て行こうかな。 
 洗い物をしながらそんなことを考えているうちに、時間は昼の一時をまわった。 
 パーティーは夕方五時からの予定なんだよね。よーし、今のうちに買出しに行っておこう! 
  
 パーティーは大盛況だった。 
 クレイにマリーナにリタ、それにわたしとトラップ。 
 五人っていう人数はそんなに多い方じゃないと思うけど。みんなで囲む食卓は、やっぱりすごく楽しかった。 
 そうそう、料理もすっごく好評でね。マリーナもリタも料理は得意らしいけど、その二人が尊敬の目で見てくれたもんねー。 
 半分くらいはトラップに手伝ってもらったんだけど、それはまあ……内緒、ということで。 
 トラップも、プレゼントがいっぱいもらえて満足したみたいだし。 
 ちなみに、わたしは皮の手袋をあげた。ほら、トラップってバイクが好きみたいじゃない? 今使ってるのが随分古いみたいだから、ちょっと奮発して専門店で買ってきたんだ。 
 クレイも同じような考えだったらしく、彼のプレゼントはヘルメット。 
 一個持ってるじゃない? って聞いたら、何故だかクレイに笑われちゃったんだけど。 
「パステルはちょっと鈍いんじゃないか?」 
 って、うー……どういう意味なのよお…… 
 マリーナからは手作りのクッキーで、リタからはシルバーのアクセサリー。 
 マリーナのクッキーがね、もう絶品で。 
 一個つまませてもらったんだけど、お店で売ってるものよりずっと美味しいクッキーなんて初めて! 
「後でレシピ教えてくれる?」 
 ってこっそり聞いちゃったくらいだもんね。 
 リタのシルバーのアクセサリーもすっごくセンスが良くて、まあとにかく、トラップは大満足したみたいなのだ。 
 うんうん、パーティーを計画した甲斐があったぞ。 
 結局、みんなが帰ったの、夜の十時近かったもんね。 
 明日は学校があるし、泊まりがけにできなかったのが残念なんだけど。 
「ふーっ、楽しかった。トラップ、後はわたしが片付けておくから、先にお風呂入ってて。後で追い炊きしておいてねー」 
「んー」 
 生返事と共にお風呂場に消えるトラップ。 
 さてさて、後もうひとふんばりだ! 
 こんなときでもなければ滅多に使わない、大きなお皿やケーキの型。丁寧に洗っておかないと、次に使うときさびたりカビたりしちゃ大変だもんね。 
 ふー、料理って本当に体力勝負だわ。 
 そうしてわたしががしゃがしゃと洗い物をしているときだった。 
 30分くらい経ったのかな? お風呂場で物音がしたんだ。 
 ああ、トラップがお風呂から上がったんだなあ。わたしも早く入りたい…… 
 と、そんなことを思いながら、洗い終わったお皿を拭いていたとき。 
 ふっ、と後ろから石鹸の香りが漂ってきた。 
「トラップ? 何か……」 
 何か飲む? そう聞こうとしたとき。 
 ふっ、と後ろから腕が回ってきた。 
「え……」 
 かしゃーん。 
 驚きで、手に持っていたお皿を落としてしまう。幸い、割れはしなかったけど…… 
「トラップ?」 
 えと……ど、どうしたんだろう? 
 こ、これは……わたし、抱きしめられて……る? 
「トラップ……」 
「さんきゅ」 
「え?」 
 軽く力をこめられた腕。耳元で囁かれた言葉。 
 そんな一つ一つのことに、思わずドキリとしてしまう。 
「えと……?」 
「嬉しかったぜ。俺、今まで誕生日祝ってもらったことなんか、滅多にねえから」 
「……え?」 
 それって…… 
「だあら、俺の親、滅多に帰ってこねえから。ガキの頃は親戚の家に預けられっぱなしだったし。誰も誕生日祝ってくれる奴なんかいなかったから、そのうち自分の誕生日なんて忘れちまってたんだよな」 
「トラップ……」 
 ……そう、だったんだ。 
 かわいそう……わたしの両親も、忙しい人だったけど。 
 でも、わたしの誕生日のときは、絶対二人とも休みを取ってくれてたもんね。 
 誕生日にパーティーをするのなんか、当たり前だと思ってたのに…… 
「だあら、おめえがパーティーしようって言ってくれて、嬉しかったぜ? こんな楽しい誕生日初めてだったから。さんきゅ」 
「……うん、喜んでもらえて、わたしも嬉しい。来年もやろうね」 
 えへへ。感謝してもらえるって、嬉しいな。企画して、本当によかった。 
 わたしは思わず顔がほころんでしまったんだけど。 
「そだな。そんときは……」 
 瞬間、走る嫌な予感。 
 それまでの真面目な口調から、急速に軽薄な口調に変わっていったんだよね。 
 トラップがこういう言い方をするときって…… 
「そんときまでには、おめえもうちっと成長しろよな?」 
「……は?」 
 一瞬、何を言われたのかわからなくてぽかんとしてしまう。 
 ぱっ、と身体にまわっていたトラップの腕が離れて…… 
「どうせ抱きしめるんだったら、もーちっと出るとこ出て引っ込むところ引っ込んでる女を抱きてえし」 
 ………… 
 な、な、な――!! 
「と、トラップー!?」 
「へへへ。怒ったあ? パステルちゃん」 
「もーっ! せっかくの感動台無し! こらー!!」 
 ばたばたばたっ!! 
 四月の最終日曜日。わたしの激動の一ヶ月は、こうして幕を閉じたのだった。 
  
 五月三日。トラップの誕生日。 
 そして、ゴールデンウィークの一日目。 
 テレビのニュースによれば、今日は一日いいお天気で、どこもかしこも大混雑だとか。 
 うーん……トラップ、どこに行くつもりなんだろ? 
「ふわあ……おはよ」 
「あ、おはよう〜〜」 
 朝の特別番組なんかを眺めていると、トラップが階段から降りてきた。 
 まだパジャマ姿。時間は朝の九時。いつもの休日から考えたら、驚異的な早起きって言えるよね。 
 休みの日は、いつもお昼過ぎまで寝てるもんなあ…… 
「朝ごはん、できてるよ。それに、お弁当も作ってみたけど。ねえ、どこに行くのか教えてくれない?」 
「ああ? んー……ま、行きゃあわかるって。それよか、おめえ……」 
 トラップは、眠そうな目でじろじろとわたしの身体を見回した。 
 へ? な、何だろ……? 
「な、何? 何かついてる?」 
「いや……おめえ、その格好で行くつもりなのか?」 
「え?」 
 ちなみに、今のわたしは、春らしい白いワンピースの上からピンクの薄手のカーディガンを羽織っている。 
 わたしとしては、精一杯お洒落したつもりなんだけど。 
「そうだけど……駄目、かな?」 
「んにゃ。バイクで行くつもりだったから。ズボンの方がいいんだけど……そういやあ、俺おめえのジーンズ姿見たことねえな。持ってるか?」 
「あ、そっかそっか。そうだよね、ごめーん」 
 あちゃあ、そういえばそうだ。トラップと一緒に出かけるときって、大抵バイクだもんね。 
 よく制服姿で乗せてもらってるけど、実は結構派手にスカートが翻って、あまり長いこと乗ってられないんだ。 
 どこに行くつもりかわからないけど、10分や15分の距離……じゃないよねえ、まさか。 
「うん、持ってるよ、ズボン。じゃあ、着替えてくるから。それまでにご飯食べちゃって」 
「おう」 
 やれやれ。失敗しちゃった。この服、気にいってたんだけど。ワンピースだし、何より白だもんね。バイクになんか乗ったらあっという間に汚れちゃうだろうし。 
 タンスを開けて、滅多にはかないジーンズを取り出してみる。 
 上は、どうしようかなあ…… 
 ちょっと迷って、水色のキャミソールの上から濃紺の7部袖の上着を羽織ることにする。 
 今日は大分あったかくなりそうだしね。うん、おかしなところは、無いよね? 
 あ、そうだ。この格好なら、パンプスよりスニーカーの方がいいよね。準備準備、と。 
 わたしが身支度を整えて下に下りると、トラップはいまだにパジャマ姿で、新聞を広げてコーヒーをすすっていた。 
「ねえ、わたしは準備できたけど、いつ出かけるの?」 
「んー……そだな。うし、じゃ出かけるか。あのな、荷物だけど、俺のリュック貸すからそれに入れて、おめえが背負ってくんねえ?」 
「うん、わかった」 
 バイクで行くとなると、当然運転はトラップで、わたしが後部座席。 
 そうすると、トラップの背中に荷物があったら、わたしが座るスペースがなくなっちゃうもんね。 
 トラップが渡してくれたリュックにお財布やお弁当を入れている間に、彼本人も着替えて下に下りてくる。 
 今日は黒のスリムジーンズの上に白いTシャツ、上から黒皮のジャケットを羽織った、普段の彼に比べたら割と地味な格好。 
 はあっ。いつも派手な姿ばっかり見てるけど、こういう格好も意外と似合うんだなあ…… 
「あにボケーッとしてんだ。ほれ、行くぞ」 
「あー、ちょっと待ってよ!」 
 ゴールデンウィーク一日目。 
 空は快晴、絶好の行楽日和だった。 
  
 誕生日にわたしがあげた皮手袋と、クレイがあげたヘルメットを身につけて、トラップが運転席に座る。 
 以前までトラップが使っていたヘルメットは、わたしの頭に。 
 あ、そっか。クレイがヘルメットプレゼントしたのって、もしかしてこういうことを考えてなのかな? 
 そうだよね。遠出するのに運転手がノーヘルじゃ、さすがに問題があるもんねえ。 
 ぎゅっとトラップのウェストにしがみついたところで、バイクが急発進する。 
 トラップの後ろに乗せてもらったことは、もう何回もあるけど。 
 いつも20分足らずの短い時間だから、あっという間なんだよね。今日はどこまで行くのかなあ? 
 一人じゃ絶対味わえないスピード感に、ぎゅっとしがみつく腕に力をこめる。 
 最初のうちは怖かったんだよね。事故にあったら、ちょっとやそっとの怪我じゃすまないだろうし。 
 でも、トラップの運転の腕は確かだったし。それに、慣れてくると、この風を切って走る感覚が何とも気持ちいいんだよねえ。 
 はーっ、わたしも免許取ろうかなあ…… 
 以前そう口走ったら、「おめえにゃ絶対無理だよ」って笑われちゃったんだけどね。 
 うーッ、そんなの、やってみなくちゃわからないじゃない。もう…… 
 そうして、バイクで走ること一時間近く。 
 方向音痴のわたしには、今どこを走ってるのかよくわからないんだけど。 
 何だか段々交通量も減ってきて、寂しい道に入ったみたいだった。 
 えと……? これって、どこかレジャーへ行くつもり……じゃないよねえ? 
 交通量が少なくなって、バイクのスピードも上がる。 
 ノンストップで走り続けて、そろそろ腕とお尻が痛くなってきたなあ、っていうとき。 
 不意に、バイクが減速を始めた。 
 あ、ついたのかな? 
 そう思って気が緩みかけたとき、突然バイクが左折して、身体が振り回されそうになる。 
 うわわわわ! 
 慌ててぎゅっと力をこめなおす。危ない危ない。 
 バイクは、広い道路を外れて、脇道へと入っていった。 
 そして、駐車OKな場所まで来たところで、停止する。 
 ……えーと……? 
 きょろきょろと辺りを見回してみたけど、どう見てもただの道。 
 まわりにぽつんぽつんと小さなお店があって、家があって、ただそれだけ。 
 ここが……目的地……? 
「あの、トラップ?」 
「おめえ、ちっとここで待ってろ」 
「え?」 
 わたしに質問する時間すら与えず、トラップはヘルメットをわたしに押し付けると、さっさとどこかへ歩いて行った。 
 もー、何なのよ、一体…… 
 わからないなあ。トラップは一体何がしたいわけ? 
 うう。かと言って、今更一人では帰れないしなあ……ここ、どこなんだろ? 
 トラップが何をしたのかがさっぱりわからなくて、わたしは一人で膨れていたんだけど。 
 幸いというか、そんなに待たされることなく、トラップはあっさり戻ってきた。 
 その手には、花束が抱えられている。 
「……トラップ? それ……」 
「そこの花屋で買った。おい、ちっと後ろ向け」 
「え? う、うん」 
 言われた通りにすると、背中のリュックをごそごそ開けられる気配。どうやら、リュックに花束を入れてるみたい。 
 ……トラップ、一体何を…… 
「うし。んじゃ、バイクに乗れ。なーに、もうすぐつくから」 
「だから……つくって、どこへ……」 
「……この辺の地名、聞き覚えねえか?」 
「え?」 
 地名? 
 言われて地名を確認しようとしたけれど。 
 わたしが周りを見回そうとしたときには、もうバイクは走り出していた。 
 脇道からまた広い道へ。そして、言われた通り、三分も走らないうちに、また停車する。 
 今度は、道路の路側帯に。 
「ちょっとちょっと! こんなところに停めちゃっていいの!?」 
「いーんだよ。ちっとの間だしな。ほれ、ついてこい」 
「う、うん」 
 わたしの抗議を無視して、トラップはさっさと歩き出した。仕方なく、その後をついていく。 
 そうして、少し進んで彼が立ち止まったのは…… 
「トラップ……? ここ……」 
「ほれ、あっこに地名が載ってる。……聞き覚え、あんだろ?」 
 そこは、道路が急カーブしている場所。道路脇にはガードレールが設置されていたけれど、カーブの部分だけ、明らかに新しかった。まるで、つい最近修理したみたいに。 
 トラップが指さしたのは、電柱に貼ってある地名表示。そこに書いてあったのは…… 
「ここって……」 
「おめえさ、来たことなかったんだろ? ここに」 
 そう言うと、トラップはリュックから花束を取り出して、そっとガードレールの脇、通行の邪魔にならないところに置いた。 
 ここって…… 
「わたしの、お父さんとお母さんが……」 
「……迷ったんだよ。こんなことして、おめえの傷口、広げることになるんじゃねえかって。だけど、おめえにはここに来る権利があるんじゃねえかと思った。忘れろなんて言うつもりはねえけど、ふっきるためには、ここに来て、何があったのかをちゃんと知るのが一番じゃねえかって、そう思ったんだ」 
 トラップは、うつむいたままわたしの顔を見ようとはしない。 
 そう……あの、冬の日。 
 突然の事故で、お父さんとお母さんが死んだ。 
 原因は、後ろの車にあおられてスピードを出しすぎたことによる、カーブの曲がりそこね。 
 わたしは、その事故現場がどこかは教えられたけれど、とうとう現場には行かずじまいだった。 
 ジョシュアが連れていってくれなかった。「お嬢さんには、ショックが大きすぎます」って言って。 
 だけど……だけど…… 
 ぼろぼろと涙がこぼれる。そんなわたしを見て、トラップは困ったように頭をかいていたけど、やがてちょっと頭を下げた。 
「……わりい。やっぱ、余計なお世話だったか?」 
「…………」 
「おめえに早く立ち直って欲しかったんだよ。いつも寂しそうだったから。たまに泣いてただろ? おめえがいつまでもめそめそしてたって、おめえの親は喜ばねえ。そう思ったから」 
「…………え?」 
 トラップ……知ってたの……? 
 そう、わたしは、トラップの家に来て。毎日がとても楽しくて、随分寂しさをまぎらわせてくれたけど。 
 でも、夜一人になったとき。夢に両親が出てきたとき。どうかすると、涙がこぼれるときがあった。 
 気づかれないように、大きな声を出さないようにしてたのに。 
 気づいてたんだ…… 
「やっぱ、まだ早かったか? よけーな……」 
「ううん」 
 トラップの言葉に、わたしは首を振った。 
 余計なお世話なんかじゃない。 
 ずっとここに来たいと思ってた。わたしのお父さんとお母さんは、ほとんど即死だった、それくらい酷い事故だった。 
 ここが、お父さんとお母さんが本当に死んだ場所だから。 
「ありがとう、トラップ……連れてきてくれて、ありがとう……」 
 お父さん、お母さん。 
 忘れることなんか絶対にできないと思うし、傷を完全に癒すには、まだちょっと時間がかかると思うけど。 
 でも、わたし頑張るよ。 
 わたしのこと、こんなにも一生懸命考えてくれる人が、傍にいるから。 
 だから、安心して……見守っていてね。 
 わたしがしゃがみこんで手を合わせると、トラップも隣にしゃがみこんで、同じように手を合わせてくれた。 
 目を閉じて、何かを真剣につぶやいている。 
 彼が何を言っているのかはわからなかったけれど、わたしの両親のことを真剣に祈ってくれていることだけはわかって、何だか、とても嬉しかった。 
  
 その後、わたし達は、またバイクに乗って海辺に出てきた。 
 臨海公園、って言うのかな? 海を見下ろすような形で公園が作られていて、潮風がとっても気持ちいい。 
 ベンチの上でお弁当を広げると、何だかいつもよりずっと美味しく感じるんだよね。何でだろう? 
 お弁当を食べて、おしゃべりをして、海を眺めて。 
 そうやってぼんやりと過ごしているうちに、いつの間にか、夕焼け空が広がっていた。 
「もう、こんな時間かあ……」 
「……そだな……」 
「ありがとう、トラップ。今日は……本当に、楽しかった」 
「ま、こないだのパーティーのお礼だよ、お礼」 
 そう言って、くしゃっと頭を撫でてくれたトラップの手は、思ったよりも骨ばっていて大きい。 
 そっか。やっぱり、トラップって男の子なんだよね…… 
 そんな当たり前のことを考えてぼんやりトラップの顔を眺めていると、何故か視線をそらされてしまった。 
 彼の顔が赤く見えるのは……夕焼けのせい? 
「ねえ、トラップ。どうして今日なの?」 
「ん?」 
 そんな彼を見ているうちに、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみる。 
 五月三日、トラップの誕生日。どうして、今日じゃなきゃ駄目だったんだろう? 
 今日パーティーをして、明日でも明後日でもよかったんじゃないの? 
 わたしがそう言うと、トラップはしばらくジーッとわたしを見つめていたけれど。 
「ま、けじめって奴かな」 
「けじめ?」 
「そ。おめえの親に、ちゃんとした形で報告したかったから。何か節目になる日がよかったんだよ。だあら、今日、誕生日にな」 
「ふーん……?」 
 わかったような、わからないような…… 
 ま、いいか。本当に、今日、ここに来れてよかったと思うから。 
「ねえ、よく考えたらさ、わたし、トラップに助けてもらってばかりだよねえ」 
「あん?」 
 初めて出会ったときから、今日まで。いっぱい助けてもらったよね。 
 何かしてあげたいなあ。ちょうど誕生日だし。 
「ね、トラップ。何か欲しいものとか、して欲しいことがあったら言ってね。誕生日だし。何でもしてあげるよ?」 
「ああ? 別にいいよ。これもらったしな」 
 ほれ、とひらひら見せるのは、わたしがあげた皮手袋。 
 もー、そうじゃなくて。それは誕生日プレゼント。わたしが今言ってるのは……何なのかな? 感謝の気持ち、かな? お礼? 
「いいのいいの。誕生日より早くあげちゃったでしょ? だから、それと今日のプレゼントは別、ってことで。あ、あんまり高いのは無しね?」 
「ふーん。何でも、ねえ……」 
 わたしの言葉に、トラップはしばらく考えていたけれど。 
 やがて、その顔に、何だか意地の悪い笑みが広がった。 
 ……あ、嫌な予感。こういうときって、絶対何か企んでるんだよね。 
「そだな。キス一回とかどーだ?」 
「はあ?」 
「いや、おめえ自身って言おうかと思ったけど、よく考えたらそんな貧相な身体もらっても仕方な……」 
 ばこんっ!! 
 皆まで言うより早く、リュックを振り回してその口を封じる。 
「もーっ! せっかく感謝してるのに。真面目に答えてよね、ちょっとは!」 
 全く。こんなときまでふざけなくたっていいじゃない! 
 わたしがふん、と視線をそらすと……ふっと、肩に手が乗せられた。 
「いやあ、割とマジだぜ? ま、無理しなくてもいいけどよ。そんなつもりで助けたわけじゃねえしな」 
 ………… 
 ふいっと振り返る。夕焼けの中、トラップの顔は、思ったよりも真面目だった。 
 そのとき、何でそんな衝動がつきあげてきたのかは、よくわからないけれど。 
 気がついたら、わたしは……トラップの唇に、自分の唇を、重ねていた。 
 ほんの一瞬。時間にして一秒か二秒程度。 
 ぱっ、と顔を離すと……トラップは、何だか、茫然としていた。 
「これで、いいかな? お礼……キス、一回」 
 これは、お礼。ただのお礼。 
 それ以上の意味なんか……無いんだから。 
 きっと、トラップの顔も、わたしの顔も。真っ赤なのは、夕焼けのせいじゃないと思うけど。 
 急に照れくさくなって、わたしは視線をそらして立ち上がった。 
「さあ、もう帰ろう! 遅くなっちゃうよ!」

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