こんな場面でも、クレイはクレイなんだなあと妙に感心した。
最初のうちこそ、抱きすくめる腕の強さに恐怖を感じたりもしたけれど。
勢いに任せてベッドに押し倒された瞬間。わたしの怯えた目に気づいたのか、クレイは、すぐに「ごめんっ!」と謝って身を引いてくれた。
もっとも、「じゃあやめようか?」と言う気だけは、ないみたいだけど。
もちろん、わたしも。
「クレイ……あの、わたし、初めてだからっ、そのっ!」
「わわ、わかってる、わかってる! 乱暴にして、ごめん……」
震えるわたしの髪をそっとはらって、クレイは、そっと頬に口づけて来た。
「あの、パステル……本当に、いいんだな?」
「……ん、うん……」
「パステル……パステルは、さ。俺のこと……」
わたしの両脇に腕を置いて、逃げ道を封じるような格好で。クレイは、じいっとわたしを見下ろしていた。
目を、そらせなかった。
まっすぐなクレイの視線が、すごく眩しくて、痛かったけど。その真剣な視線から、目をそらすことができなかった。
そんなわたしの顔を見て、クレイは、そのまま言葉を飲み込んだ。
……何を、言いかけたんだろう?
わたしの無言の問いかけには答えないまま。次に感じたのは、熱い刺激。
「うひゃっ!」
ちゅっ、と、首筋を強く吸われた。痛いくらいの強さに身もだえすると、ぐいっ! と両手首をつかまれて、そのままベッドに押し付けられた。
うっ……く、クレイの手って、こんなに大きかったっけ!?
片手で完全に身体を拘束されてしまって、わたしが密かに驚いていると。残った片手が、胸元の辺りを這い回り……そのまま、ブラジャーを強引に押し上げられた!
「わっ! わわわっ……!」
「っ……パステル……」
「ううっ……じ、じろじろ見ないでよう。恥ずかしいんだからっ……」
多分、わたしのほっぺたは真っ赤になってるんじゃないだろうか!?
鎖骨の辺りにひっかかってるブラジャー。むき出しにされた胸が、すーすーして……何だか、寒い。部屋の中だから、風なんか吹いてないはずなのに……胸の、その、先端の部分が、やけに敏感になってる、っていうかっ……
「クレイ……」
「パステルの胸って」
「ち、小さくて悪かったね!?」
「なっ!? そ、そんなこと言ってないだろ!? お、俺はむしろっ……思ったより大きいからびっくりしてっ……」
「え」
予想外な言葉に、状況も忘れて喜んでしまった。いやいやいやいや! これは、ほら、あれだって! 普段、どこかの赤毛の盗賊に散々馬鹿にされてきた反動って言うかっ……
「う、嘘っ……」
「嘘じゃないって! ふ、服の上から想像してたのより、ずっと大きかったからびっくりしてっ……それに」
……それに?
押さえられている手首が、ちょっと痛い。クレイの手が、ぶるぶると震えていて……それだけ、力がこめられていて……
「それに、すごく……綺麗、だよ」
「…………」
いや、ごく普通の胸、だと思うんだけどなあ。自分では。
クレイ……普段、わたしの胸をどんな風に想像してたんだろう。そっちの方が、気になるんですけど!?
「っ……ひゃっ……」
ぞわっ!
大きな手が、遠慮がちに動いて。そのまま、わたしの胸を包み込んだ。
今まで味わったことのない間隔に、ぞくぞくぞくっ! と悪寒が走り抜ける。
さ、触られてっ……いや、も、揉まれてる!? これって!
最初の動きは、ごくごく小さなものだった。
感触を楽しむように、力だってほんのちょっぴりしか加えられていない……なのに、段々と、その動きが大胆になってきてっ……
「あ……あぁっ……あんっ……」
「っ!?」
唇から漏れた言葉に、クレイの身体がびくっ! と震える。
けれど、それが拒否の言葉じゃない……むしろ、悦んでる、と気づいてくれたのか。やがて、その手つきから、遠慮がなくなった。
気持ち、よかった。
時々、「痛い!」っ叫びたくなるくらい力をこめられた。手だけで足りないとばかりに唇で吸われたときは、ものすごーく恥ずかしかった。あまつさえ、舌がっ……い、いや、これ以上は言えない、とても!
でも、恥ずかしさも、痛みさえも、最後は気持ちよさに繋がった。
やがてわたしは、声を抑えることができなくなった。
いつの間にか手首を解放されていたけれど、その瞬間、わたしの手は、クレイのたくましい背中にまわされていて。両手でめいっぱい可愛がってもらえることを嬉しいとさえ思っていた。
「あんっ……クレイ……気持ち、いい……」
「パステル……」
潤んだ瞳で見上げると、クレイは……
何故か、目をそらした。
……え?
疑問に思ったのも、束の間。
「うひゃあっ!」
クレイの顔が、ふっと視界からそれた。
次いで、太ももを走った湿った感触。
ぴちゃ、ぐちゅっ……といういやらしい音が、部屋中に響き渡った。
「やん、やんっ! クレイ、やっ……恥ずかしいよっ……」
「…………」
首筋から、胸元を、ひんやりした空気が伝い落ちて行った。
クレイの唾液でぬらぬらと光っている肌。空気は冷たいのに、身体の中がすごく熱くて、燃えてるみたいで、寒い……とは思わない。
熱い。そして、痛い。
さっきから、身体の奥……すごーく奥深くが、じんじんと痛かった。
そこから溢れる熱い雫。それを、クレイが丁寧に、丁寧になめとって……けれど、その刺激が、余計に熱を呼び覚ます、そんな悪循環。
「もう、こんなに濡れてる」
「ひゃっ!」
びちょびちょになった下着に指をひっかけて、するすると太ももまでずり下ろされた。
胸……も相当恥ずかしかったけど! でも、さすがにそこは! そこをじーっと見られるのはっ!!
「ううっ……い、意地悪しないで。クレイぃ……み、見ないでってばっ……」
「……俺は、ずっと見たかった」
「え?」
「パステルの、全部が見たかった。全部が知りたかった……ずっと」
「…………」
「綺麗、だよ」
きゅうんっ! と、胸の音がすごーく痛くなった。
もう、何も言えない。嫌だなんて言えない。クレイが、そうしたいって言うなら。見たいって、触れたいって……知りたい、って言ってくれるなら。わたし……何でも、してあげたい。
わたしは……
言葉に出す前に、クレイの手が、太ももの辺りでひっかかっていたパンティを膝までずり下ろされた。
ごく自然な動きで、片足を引き抜く。全部を脱ぐ前に、膝に手をかけられて。そのまま、押し広げられた。
「っ……」
ぴちゃり、と。太ももより、さらに上を……すごーく敏感な部分を、クレイの舌がなぞって行った。
どくん、と心臓が震えて。同時に、くすぐったさとも違う、もっと強い感覚が、全身を貫いた。
「あ、ああっ……」
「…………」
「クレイ……い、入れ、て……?」
「…………」
こくん、と、黒髪が揺れた。
すっ、とクレイの顔が持ち上がって、何だか久しぶりに、目と目があった。
その口元を汚す、透明な粘液。ぎゅっ、と目を閉じて何度か頷くと、クレイが小さく「わかった」と囁いた。
最初に入れられたのは、多分指。
舌よりも硬くて、でも長い。最初は、多分一本。次に、二本。
くちゅくちゅ、ぐちゅぐちゅと、卑猥な音を立てながら、指が差し入れられた。何度も出し入れしているうちに、湿った感触がお尻にまで広がってきた。
うう……これ、もしかして。スカートもシーツもびちょびちょになってるんじゃあっ……
ああ。でも、やめてって言えない。服を脱がせて、なんて言えない。そんな暇さえ、惜しいって思った。
「やぁんっ……クレイ……クレイ、クレイ!」
「っ……パステル!」
受け入れられる、って思ったのに。早く来て欲しいって、そう思ってたのに。
貫いた衝撃に、わたしは、思わず絶叫していた。
「っ……いっ……たっ……痛いっ……痛い、痛いよクレイっ!」
「あ、ああ、ご、ごめんっ!」
多分、ほんのちょっとは……入った、と思う。
でも、駄目だった。指とは全然違う。ほんのちょっと受け入れただけで、わたしのアソコは、悲鳴をあげていた。
裂けるんじゃないか……っていうか裂けちゃったんじゃないのっ!? っていう痛み。思わず視線を落として、そして、自分が受け入れようとしていたモノの大きさに、今度こそ、本当の恐怖を覚えた。
あ、あんな大きい……っていうか太いのっ……入るわけないって! 無理無理無理っ!
「クレイ……」
「ご、ごめんっ……」
わたしの視線に気づいたんだろう。クレイは、それはもう申し訳なさそうに、目を伏せた。
「さ、さっき……その、最後まで、イケなかったから……」
「え?」
「ぱ、パステルに見られて、軽蔑されたんじゃないかって思ったら……! その、ぬ、抜けなくて……」
「…………」
それは……つまり。
えと。二回分溜まってる……ってことかな? もしかして……だから、あんな大きさに?
ええと。
「えと。クレイ……その、じゃあ、さ?」
「…………ご、ごめん」
きっとクレイは、わたしが嫌がると思ったんだろう。
じゃあ、やめよう。痛いのは嫌、怖いから……って、そう言われるのを覚悟したんだろう。
でも、わたしには、やめる気なんて全然なかった。
さっき、クレイが望むなら……って思ったことは、嘘じゃない。その気持ちは、今でも変わらない。
「その……じゃあ、一回……したら、大丈夫?」
「え?」
「い、一回、その、抜いたら! 大丈夫……かな?」
「…………」
クレイの目が、真ん丸に見開かれた。
信じられない、という視線を浴びながら……わたしの手は、ごくごく自然に、クレイのモノを握っていた。
いやいや、最初はもちろん抵抗があった。でも……わたしの、その、アソコを、クレイは何のためらいもなく触れて、あまつさえなめて、くれた。
すごく、気持ちよかった。クレイの優しさが、思いやりがいっぱいに伝わってきた……そんな気が、した。
わたしも、同じことをしてあげたい。
固く張り詰めたソレを握って、見よう見まねで動かしてみる。
頭上から響いたのは、「うっ……」といううめき声。痛い? と囁くと、すごい勢いで首を振られた。
ゆっくりとクレイが身を起こす。あぐらをかく彼の前に身を伏せて、ゆっくりと両手を添えた。
軽く動かすと、先端から透明な汁がにじみ出てきた。気持ちいい? と聞くと、熱い吐息と共に、耳元で囁かれた。
好きだよ。
好きだよ、パステル。
そう、何度も。
掌がやけどしそうな熱が伝わってきた。あれだけ大きく膨らんでいたモノが、手の中でさらに膨らんだような、そんな気がして。
何だか面白くなって、ぱくり、とくわえてみた。
「っ! ぱ、パステル! うあっ!」
「ん〜〜……」
ええと、正直に言わせてもらえば変な味がした。
じゅぷじゅぷと舌を動かして、なめまわしてみる。とても全部は飲み込めないから、根元の方を両手で握り締めて、一心不乱に舌を動かした。
多分、そんなに長い時間じゃない。
軽く吸い上げた瞬間、「うわっ!」という悲鳴が聞こえた。
強く肩を突かれる。あがないきれずに唇を離した瞬間、熱く濁った液体が、すごい勢いで噴き出した。
べっとりと顔を汚す液体に、わたしはしばらく呆然としていた。
うっ……噂には、聞いてたけど……まさか、こんなに……
視線を落とす。中途半端に握ったソレは、さっきに比べれば、幾分小さくなっている……ように見えた。
視線を上げる。クレイは、目を伏せたまま……けれど、その顔は泣きそうなくらい歪んで、ついでに真っ赤になっていた。
「ご、ごめん」
「…………」
「本当に、ごめんっ! が、我慢できなくて……」
「……ええと」
ど、どう言えばいいのか、わからないけど。
正直な感想……とか言わない方がいいよね、きっと。
「も、もう大丈夫……だよね?」
「え?」
そっと手を離して、そのまま、自分からベッドに倒れこむ。
クレイの顔を見た瞬間、また、胸が「きゅんきゅん」と高鳴った。
この感情に何と名をつければいいのか。わたしには、よくわからない。
「今なら……わたし、クレイのこと……受け入れられる、かな?」
「…………」
足首に引っかかっていたパンティを床の上に落として。ゆっくりと膝を立てた。
すごく恥ずかしかったけど、今は、多分自分でやってあげた方がいい、って思ったから。そのまま、太ももを開いた。
空気が触れる。
さっき、ぐちゃぐちゃに濡らされたはずのソコは、少し乾いていたけれど。クレイの視線を感じただけで、再び熱く潤みはじめた。
「入れて……いいよ? ううん、来て、クレイ……」
「……パステル……」
クレイの大きな身体が覆いかぶさってきて、視界から、光が遮られた。
額に、頬に、首に、胸に、いくつもキスの嵐が降り注いだ。
きしむような音を立てて、クレイのモノが、わたしの中に入って来る。やっぱり少し痛かったけど、でも、今度は悲鳴をあげなかった。
クレイの大きな胸の中にすっぽりと包まれているからか。痛みよりも、悦びの方がずっとずっと大きかった。
その最中のことは、正直よく覚えていない。
ベッドがぎしぎしきしんでいて、下に聞こえたらどうしよう、とか。
唇から漏れる嬌声が、自分のものとは思えないくらいにいやらしかった、とか。
耳たぶをかまれた瞬間、びりびりっ! と身体の中がすごく熱くなった、とか。
断片的な感想はあるけど、それだけ。
身体の中に熱い雫が吐き出された。その瞬間、わたしの目の前が真っ白になって、自分の手が痛くなるくらい、クレイの背中に爪を立てていた。
ああ、わたし、クレイと一つになったんだ……
それが、すごく嬉しかった。
クレイの荒い息が、やけに耳について仕方がなかった。
身を起こすと、太ももを、血と白っぽい液体がとろっ……と落ちて行った。
急に恥ずかしくなって、膝を閉じる。顔を上げると、クレイは、わたしの顔を見ていなかった。
「クレイ……」
「パステル……」
泣きそうな声に聞こえた、と思ったのは、わたしの気のせいじゃない。
「パステル……なあ、聞いても、いいか?」
「え……?」
「もし……俺が、トラップだったとしても。君は、同じ事を……した?」
「…………?」
クレイの言葉の意味が、最初、よくわからなかった。
「クレイ?」
「あのとき、部屋に居たのがトラップで。同じように、君を想像して……一人で、していたとしたら。君は、同じことを言った?」
「え…………」
どうしてそんなことを言うの?
「ごめん。こんなこと……言うつもりは、なかったんだけど。……パステル。俺は……さっきも言ったけど、君のことがずっと前から好きだったんだ。好きだからっ……ずっと、パステルとこうしたいって思ってたんだ」
「…………」
「でも、君は……そうじゃ、ないよな? 俺のこと……そんな風に見たこと、なかっただろう?」
「…………」
こくん、と頷くと、クレイの顔が、傷ついたように歪んだ。
ああ。
さっき、クレイが何か言いたそうにしていたのは……このことだったんだなあ、と、今頃気づいた。
わたしが、同情で、あるいは好奇心で……クレイと、したんじゃないか、と。
あのとき、わたしが見てしまったのがトラップだったのなら。やっぱり、トラップに同じように言ったんじゃないか、と。
クレイは、それを心配して……
「言った、かもしれない」
「…………」
「でも、多分最後まではできなかったと思う」
続けた言葉に漏れたのは。「え?」という、何だか間の抜けた声。
わからない。だって、ここに居たのはクレイでトラップじゃない。わたしはトラップのそんな姿を見たことないし。
当たり前だけど彼からそんな対象として求められたことはもちろん、見られたことがあるかどうかも怪しい。
だから、想像しかできない。そんな答えでも許されるなら。
「ここに居たのがトラップで、同じように好きだって言われたら……同じように、いいよって言ったかもしれない。でも、多分途中で逃げ出したと思う」
「パステル……」
「だって、想像しちゃったんだもん!」
ばしっ! と、その胸に平手を叩きつけて。
わたしは、クレイの身体に、自分の身を投げ出した。
「そんなこと言うから想像しちゃったじゃない! トラップだったら? 今、したのが……トラップだったら? って。ぞっとしたの。何だかすごく怖かったの! 乱暴にされるかも、とか、痛いかも、とか、そんなことじゃなくて!」
「パステル……」
「そんなのじゃなくて。言葉で説明できないけどっ! ……ありえないって、何だか嫌だって……気持ち悪いって、そう思っちゃったの……」
決して、トラップが嫌いなんじゃない。
ただ、そういう対象としては絶対に見れない。そんな対象としては考えたくない。
わたしにとってのトラップは、そういう相手だった。
だから。
「クレイとは、全然嫌じゃなかった。気持ちよかった。もっとしたいって思った。……ねえ、これじゃ駄目? この答えじゃ駄目かな……」
「…………」
「クレイのこと、そんな風に見たことなかったから。だから、すぐに答えが出せない……でも、クレイとなら、いいよ? 全然、嫌じゃないよ? ねえ、クレイは……こんな答えじゃ、嫌かな」
「…………」
ぎゅうっ、とわたしの身体を抱きしめて。クレイは、耳元で囁いた。
「希望持って、いいかな」
「……うん」
「いつか、パステルが俺を好きになってくれるって……好きだって言ってくれるって、そう期待していいかな」
「うん……うんっ」
「パステル……好きだよ」
顔を上げると、間近にクレイの顔があった。
ごく自然に唇が重なった。そのキスが、もっと、ずっと深いものになって、わたしの身体が再びベッドに沈むまでに、長い時間はかからなかった。
END