「あれ、パステル。どうしたんだ、それ」
クレイがわたしの足元を見ながら言う。
「あ、コレ?マリーナからもらったの。かわいいでしょ?」
そう言って脚を向けた。
マリーナがくれたのは、ロイヤルブルーのカラータイツ。
今、カラシ色や赤紫色とか様々な色のカラータイツがエベリンで流行っているらしい。たしかに、ポイントとなってなかなかかわいい。あったかいし。
普段オシャレ出来ないわたしにとって、ささやかな乙女心なのだ。ぐっすん。
「…おれはいつもの方がいいんだけどな…」
「え?何か言った?」
「いやいやいや!な、なんでもない!かわいいよ、うん。すげーかわいい!」
慌ててクレイが首を横に降ったり縦に降ったりする。
珍しくクレイがわたしの変化に気づくなんてねー。
普段髪型変えても気づかないくせに。
まったく、男ってのは!
「そういえば、パステルって昔緑のタイツ履いてませんでしたっけ?」
キットンが横から口を挟む。
「何言ってんだよ、緑のタイツって言ったらこいつだろ」
クレイが指さしたのはもちろんお馴染みのトラップ。珍しくそれまで静かだったトラップだが、急に話を振られたからなのか動揺してたように見えた。
「あ、あったりめーだろ!?由緒正しきブーツ家に伝わる緑のタイツ様だぞ?な、なんで、こ、こいつがもってんだよ!なぁ、クレイ!」
そう言って顔を見合わせた。
それにしても、キットンって実は細かいところまで見てるのね−。
それにひきかえ、トラップとクレイったら!
実はそんなに長くはないんだけど、結構前に履いてたんだ、緑のタイツ。
赤のスカートには合わないから最近お蔵入りしてたんだけど。
………あれ?それにしても、あのタイツどこへ行っちゃったんだろう?
…あっぶねー。
キットンのやつ、変に記憶力がいいからな。
にしても、あいつが緑のタイツを履いてた期間なんてそんなに長いことじゃねえんだぞ!なんで覚えてやがんだ。
クレイもクレイで『緑のタイツ』ときたら、俺様なんてお約束のように話ふるんじゃねー!
ったく、この場はなんとかごまかすことが出来たし、パステルもすぐに家計簿とかなんやらですぐに忘れるに決まってるしな。
まー、とりあえずは一安心ってとこだな。
どういうことかって?
へへ、俺様は盗賊のトラップ様だぞ。盗めねぇもんなんてねぇんだ。
しかもいつもぼーっとしてる財務担当さんのとこからなんざ、1Gやそこらスッたって全然気付きゃしねーんだ。ったく、財務担当が聞いて呆れるよな!
え?パステルの緑のタイツを盗ったかって?
バッキャロ−、おめぇ今の話の流れからわかんじゃねぇか。
ああ、そーだよ。盗りました。盗りましたとも。あんだよ、文句あっか。
なんで盗ったか?そりゃ、おめぇ愚問だよなぁ。
ま、おめぇも男ならわかんだろ?おれだって健康な男の子なんだかんな。
普通だったら年頃の男と女が一緒に生活してたら何が起こるかわかったもんじゃねぇ。な、だろ?
…それなのに、あいつときたら全然意識してねぇんだから、どうしていいかわかんねぇよなぁ。これだから厄介なんだよな。
だから、たまーに元気になっちまう息子のためにちょっくら拝借したっつーわけ。
んだよ、そんな目で見んじゃねぇ!
は?タイツをどう使うかだと?
しらねー!んなことまで言えるか!
んまぁ、その辺は好みっつーか…それぞれ趣向があるっつーことはおれのじっちゃんもよく言ってたもんだ。
でもまぁ、もしおれが持ってたのが万が一見つかったとしても…何かあったときのスペアとしときゃーいいしな!
まぁ、正直言うとパステルは生足が一番だよな!
…か、勘違いすんじゃねーぞ!誰のだっていいわけじゃねぇんだから!
「んー…どこにしまったんだろ」
わたしは荷物の中からあのタイツを探しているが、一向に見つかりそうもない。そういえば、あのタイツ…よく考えたらトラップとお揃いみたい…。
そんなことを想像して、思わず首をぶんぶん振った。
いっけない!あんな派手好きの盗賊とお揃いなんて…なんだかわたしまで趣味が悪いみたいに思われそうじゃない!?
あーあ、やめたやめた。きっと破けて捨てちゃったんだよ。うんうん!
トラップとお揃いなんて、ぜーったい、やだ!
あ、そういえばノルにこの格好まだ見せてなかったんだ!
…ふふ、ノルったら褒めてくれるかな?
わたしは立ち上がると、馬小屋へと走った。