「お前なぁ!ガキ臭いことしてパステルを泣かせるな!いいかげんにしろよ!」  
 「おめえこそなあ、甘いことばっか言って本気でこいつのことを考えてるってのかよ!」  
 「ちょっとl・・・。二人ともこんな時まで、いいかげんにしてよ!」  
 薄暗いダンジョンの中、わたしの泣き声だけが虚しく響いた。  
 してよ・・・してよ・・・。  
 わたしの最後の叫び声はこだまとなって何度もリフレインする。ようやくわたしの前で醜く争っていたクレイとトラップも気まずそうに黙った。  
 「今は・・・そんなこと言ってる時じゃないでしょう・・・?」  
 「ああ・・・」  
 「そうだな・・・」  
 クレイは後悔しているのか目を伏せ、トラップは不貞腐れたようにしゃがみ込んだ。  
 わたしは・・・涙を浮かべて天井を見上げた。  
 「この天井・・・さっきと同じね」  
 そう、わたしたちは迷っていた。ううん、正確に言うと閉じ込められていたのだ。このダンジョンに。  
 
 
 
 あなたたちって本当に仲のいいパーティーね。  
 羨ましいよ。  
 まるで家族みたいですね。  
 
 今まで知り合った何人もがそう言ってわたしたちを褒めてくれた。  
 わたしもそう思っていた。確かにいつまでもレベルが上がらない貧乏パーティーだけど、わたしたちの絆だけはどんなパーティーにも負けない確かなものだと思っていた。家族のような愛情をみんながみんなに抱いていると思っていた。  
 その絆は本物。どんなパーティーにも負けない。  
 それなのに、それはある日唐突に、あっけなく壊れてしまうほど脆いものだったのだとわたしは思い知らされた。  
 クレイからの突然の告白でもって。  
 
 「パステル・・・俺、君のことが好きなんだ・・・」  
 それは、ありきたりの台詞だった。飾り気のない、だけど何よりも真心のこもった告白。  
 正直嬉しかった。クレイみたいな格好いい人にそう思われるのは光栄だと思えた。そして次にとても困った。  
 だってわたしは・・・クレイをそんな風な目で見たことは今までになかったから。  
 返事は急がない。そう言ってくれたのは彼の優しさ。いつだって彼は、自分の気持ちよりもわたしを優先してくれる。  
 もし、わたしがここで彼を拒絶しても、きっと彼は少し寂しそうではあっても笑顔を見せ、「そうか、仕方ないな。でも、これからもいい仲間でいてくれよ」と言ってくれるだろう。そしてわたしに罪悪感を抱かせないよう、いつもと変わらず接してくれるだろう。  
 でも、確実に彼は傷つく。  
 わたしは確かに鈍感だ。だけど、今まで恋愛に疎かった彼が、サラという綺麗な婚約者がいて、マリーナ、親衛隊の女の子達に好意を寄せられても喜びより戸惑いを覚えていた彼が好きだと言ってくれた。その想いの深さに気付かないほど、わたしは鈍感じゃない。  
 わたしが一人悩んでいる時、傍にきたのはトラップだった。  
 「おめえさ、何悩んでるんだよ」  
 クレイと顔を合わせられなかったわたしが部屋に篭って原稿を書いている時、突然彼はやってきた。  
 「え?何もないよ?」  
 「おめえさ、嘘つくの下手すぎ。ひょっとして・・・クレイと何かあったのか?」  
 わたしの顔は強張ったのだろう。確かに彼の言う通りわたしは嘘をつくのが苦手だ。相手が仲間で、人一番勘の鋭い彼相手ならなおさらのこと。  
 「そ、それは・・・」  
 わたしの顔から察しのいい彼は気付いたのだろう。じっとわたしの顔を見て彼は呟いた。  
 「そっか。あいつ・・・とうとう言ったんだな。なのに、おめえはあいつを避けるんだな。あいつが好きじゃないのか?」  
 「好きだよ、もちろん。でも・・・クレイは仲間なんだよ。家族みたいなものだから・・・そういう対象として見たことなんか一度も・・・」  
 そこまで言った時、強い力で腕を掴まれた。  
 「え?」  
 「それは、俺もか?」  
 驚いて顔を上げると、そこには明るい茶色の瞳が、いつになく真剣な光をたたえていた。  
 「トラップ・・・?」  
 「俺は、おめえがクレイを好きなんだと思ってた。クレイがおめえに告白したんなら、もう諦めるしかないと思ってた。だけど違うんだな。おめえは、あいつを家族のようにしか見られないんだな。・・・なら、俺のことは?俺のことも家族としてしか見られねぇ?」  
 何を言われているのかわからなかった。だけど、彼の瞳は真剣だった、とても。なぜか心臓の鼓動が激しくなる。  
 「トラップ・・・?」  
 「おめえが好きだ、パステル」  
 顔が赤くなるのがわかった。  
 そんな・・・。いつもわたしを子ども扱いしてからかうトラップが、わたしを好き・・・?  
 「おめえはどうだ?やっぱり、クレイみたいに俺を男としては見られねぇ?」  
 「それは・・・」  
 クレイと違って彼は強引だった。答えをすぐに求めている。だけど、それはそれだけわたしを求めているわけでもあるんだと思う。  
 トラップは、なんだかんだいって慎重なところは慎重に行く人だ。その彼が、切なげにわたしを見ながら「俺のことを男として見られないか」と問いかける。  
 
 わたしは・・・。  
 その時、後ろでガタンと音がし、わたしとトラップが振り返った。振り返った先には・・・クレイがいた。  
 息を呑むわたしの横で、トラップがクレイを真っ直ぐに見た。  
 「聞いての通りだ、クレイ。俺もこうなったからにはパステルを諦める気はねぇ」  
 「パステルの意思はどうなるんだ?パステルは俺達の関係が壊れるのを一番恐がっているんだ」  
 クレイの言う事は当たっていた。結局彼は、わたしの本心を見抜いていたんだ。  
 「だからなんだ!俺達がいつまでも同じパーティーでやっていくとは限らねぇだろ!?キットンだってノルだって当初の目的は果たしてんだ。俺だってお前だっていつかはドーマに帰る!いつまでも仲良しパーティーのままでいるわけじゃねぇんだよ!」  
 トラップの言葉にわたしの体はビクリと揺れた。  
 そう、彼の言うこともまた真実だ。  
 キットンとノルはそれぞれの目的を果たしてる。クレイとトラップはもともと家業を継ぐための修行だったし、ルーミィだって、もし彼女の両親が見つかったりしたら、その場でわたしたちと離れることになってしまうんだ。  
 わたしが大好きだった強い絆を持つ、家族のような暖かいパーティー・・・。  
 それは、こんな脆いものの上で成り立っていたんだ。  
 でも、わたしがもしどちらかの手をとれば、少なくともその人とは離れることはない。  
 わたしはどうしたらいいのかわからず両手で顔を覆った。  
 「いいかげんにしろ!パステルの気持ちも考えて・・・」  
 「おめえだって、結局は居心地のいい関係でいてぇだけだろ!?その癖それは本心じゃねぇ!汚ぇんだよ!」  
 「なんだと!?」  
 「やめてよ!」  
 これ以上二人に争って欲しくなくて、わたしは叫んだ。  
 そして泣き出した。  
 今までの関係が何て薄っぺらかったんだろうと思って泣いた。どうしてこんなことになってしまったんだろうと思って泣いた。どうしたらいいのかわからなくて泣いた。  
 
 わたしたち三人の問題は、キットンとノルには、もちろんルームィとシロちゃんには何も話さなかった。  
 でもキットンとノルには何となくわかったのだろう。ルーミィとシロちゃんも、何も理解できなくとも不穏な空気を感じ取ったのか、どこか不安な目でわたしたちを見つめている。  
 
 
 
 でも、いくらばらばらになりかけてたって、わたしたちは冒険者だ。しかも情けないことにとびきり貧乏な。  
 だからキットンが持ってきた「儲け話」にわたしたちは乗った。  
 キットンの話はこうだった。  
 ある薬草を欲しがっている人がいる。ただしその薬草は貴重でどこにでも生えているわけではなく・・・あるダンジョンの奥深くにしか生えていないそうなのだ。  
 「モンスター自体はそれほど手強いわけじゃないんですよ」  
 珍しく神妙な顔付きでキットンはそう言った。  
 「ただ・・・なぜだかその中で頻繁に神隠しが起こると言われています。勿論ならない人もいるんですが。神隠しにあった冒険者で、帰ってきたのはわずか数人しかいなかったとか」  
 「へえ、一体どうしてその人達は帰って来れたんだろうね」  
 わたしがそう言うとキットンも首を傾げた。  
 「ええ。まったくの謎です。生き残った冒険者・・・その方々はちょうど二人の冒険者でしたが、レベルが特別高かったわけでもなかったんです。なぜ生きて帰れたのかはお二人とも揃って『わからない』と言っていたそうですが・・・」  
 「まあ、ここでああだこうだ言ってもしゃーねえじゃん?行ってみるしかねぇんじゃねえの」  
 トラップがそう言うと、キットンとノルもうんうんと頷いた。  
 「そうだな・・・クエスト自体は難しくないようだしな」  
 クレイも同意したところで、わたしたちの次の目標は決まった。  
 
 そしてわたし、クレイ、トラップがその神隠しにあってしまったのだ。  
 それは不思議な出来事だった。先頭を歩いていたクレイ、真ん中を歩いていたわたし、そしてしんがりを務めていたトラップがなぜだか気付けば三人だけで見知らぬ場所にいたのだから。  
 なぜ神隠しにあったのがわたしたちかと言えば・・・出られないのだ、この回廊から。  
 「見て、この壁。さっきわたしがつけた目印だわ」  
 わたしは思わず自分のマッピングした地図を見た。そりゃわたしはマッパーの癖に方向音痴だし、また間違えた可能性も(かなり)高いけど!  
 「間違えたにしては妙だよな・・・。さっきから15分と歩いたわけじゃない」  
 「分かれ道があったってわけでもねぇしな」  
 クレイとトラップも厳しい顔で頷く。  
 「ってことは・・・何かの魔法か?幻覚とか・・・」  
 「帰ってこれた人達は・・・一体どうしたんだろうな」  
 わたしはそう言いながらきょろきょろと辺りを見回した。誰かに見られている・・・そんな感じはしない。  
 「また・・・同じ目印」  
 もう一周したらしい。わたしはへなへなと座り込んだ。  
 「どうしよう・・・どうやって帰ったらいいの?」  
 キットンとノルは無事なの?ルーミィは・・・ルーミィはどうしてるのかな?わたしがいなくて泣いてたりしない?どうやったらみんなとまた会えるの?  
 恐怖と不安でわたしの頬を涙が伝った。  
 「おい!こんなとこで泣いてても仕方ねぇだろ!?」  
 「だって・・・」  
 「だー!『だって』じゃねぇ!泣いて解決するなら俺だってそうしてんだよ!帰って来る方法はあるんだ、どうにか・・・」  
 それはいつものトラップの憎まれ口だった。泣いて立ち止まるわたしへの、彼らしい手厳しい叱咤と激励。だけど、その時もうひとつの声がした。  
 「やめろよ。パステルだってこんな状況じゃ弱気にもなるさ。みんながお前みたいに強いわけじゃない」  
 「あんだとぉ!?おめえがそうやって甘やかすからこいつが成長できねぇんじゃねぇか!」  
 「お前はパステルに厳しすぎるんだよ。そりゃ時には厳しいことも必要なことはわかるさ。でも俺達は仲間なんだ。対等な相手なんじゃないのか。お前、自分がパステルを育ててるとでも勘違いしてないか?」  
 その言葉にトラップの目が鋭くなった。あの目は、本気で怒っている目だった。  
 この言い合いがさっきの喧嘩の発端なんだけど・・・。  
 
 「わたしたち、ばらばらだね・・・」  
 疲れきったわたしたちはその場で座った。少し休憩と、頭を冷やす必要があると思ったから。  
 本当、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。  
 わかってる。わたしがはっきりと言わなかったのがいけないんだ。  
 でも、いつまでもあの家族みたいなパーティーでやっていきたいと思う事は間違いだったの・・・?  
 静かで薄暗いダンジョンの中、モンスターたちは一匹たりともやってこない、ある意味落ち着いた環境の中、わたしはふと思った。  
 ずっと混乱してて、関係が壊れることを恐れてわたしは肝心な、二人にどう向き合うべきかと考えることが出来なかった。  
 答えは宙ぶらりんのまま。だからこの二人だっていつまでもいがみ合うしかできないんだ。  
 二人は優しいから。  
 優しいから、わたしの答えを急がせない。だけど苛立っているから、つい互いを責めてしまうんだ。  
 そっか・・・。わたしが一番悪かったんだ。  
 わたしが変化を受け入れず、ただ変化が恐くて泣いているだけだから、パーティーはばらばらになりかけているんだ。  
 右隣で壁にもたれて目を閉じているクレイを窺った。  
 左隣で膝を抱えて考え事をしているトラップを窺った。  
 クレイもトラップも、わたしにとっては何よりも大事な人。大切な仲間。それは確かだ。  
 もちろんルーミィやキットンやノルだって同じ。  
 でも、この二人に抱いている感情は、キットンやノルに対しての感情とは少し違うかもしれない。  
 だって、クレイに告白された時、嬉しかった。トラップに告白された時、ドキドキした。  
 二人に想いを告げられ、わたしは確かに困ったけど、それだけじゃない、胸が温かくなった気持ちも、確かにあったんだ。  
 告白してきたのがキットン(そりゃ彼は妻帯者だしそんなことはないだろうけど)やノルだったら、わたしはあんな気持ちになっただろうか。  
 
 ・・・たぶんならなかった。  
 二人は、とてもとても大事。  
 パーティーをばらばらにしたのがわたしなら、それを繋げるのもわたしでなくてはならない。  
 カタをつける。それがこの三人の中の、わたしの役目なはず。  
 わたしはそっと口を開いた。  
 「クレイ、トラップ聞いて」  
 わたしが静かな、落ち着いた声を出したので、二人は少し驚いたようだったけど、わたしの真剣な顔に、そのまま何も言わなかった。  
 静かにわたしの言う言葉に耳を傾けようとしてくれていた。  
 ありがとう、二人とも。いつだって二人はわたしのことを大事にしてくれたよね。  
 嬉しくなってわたしは二人に微笑みかけ、続けた。  
 「考えてみたの・・・二人のこと。こんな時に、なんだけど」  
 「・・・ああ」  
 「いいぜ、続けてくれ」  
 こんな状況だったけど、二人はそのままわたしを促してくれた。  
 「あのね。わたし、正直に言って今まで二人のことは家族としてしか見てなかったの」  
 「・・・そうか、やっぱりな」  
 「わかってたさ、そんなこと」  
 そう言って二人は揃って苦笑した。二人は、わたしがどんな結論を下しても、きっとこんな風に受け入れてくれたんだろう。  
 「だけど・・・二人を誰かに渡したくない。だって二人は・・・」  
 クレイとトラップが驚いてわたしを見ている。だけどわたしは少し泣けてきて声を詰まらせながら続けた。  
 「クレイとトラップは・・・本当に大事な人だから。キットンやノルに抱いている感情とは違う。二人から告白されて、本当に嬉しかった。ドキドキした。  
 二人とも大好き。クレイはわたしを包み込んで、わたしの意見を尊重してくれる人。トラップは、わたしを理解して、わたしを導いてくれる人。だからあの時すごく困った」  
 涙が一粒零れでたのでわたしは慌てて拭った。喉からこみ上げてくる熱いものに、わたしはしゃべるのが困難になる。でも、続けなきゃ。わたしを愛してくれる、愛する人達のために、わたしができることだもの。  
 「こんなどっちつかずみたいなこと言ってごめん。でも、これがわたしの正直な心なの。どっちも同じくらい大事で、どちらかを選ぶことなんて・・・わたしにはどうしても無理だった。  
 ごめんね、軽蔑してくれてもいいよ。でも、二人とも大好きなの」  
 それが、わたしの正直な気持ちだった。  
 家族と思っていたとか、今の関係を壊したくないとか、もっともなことばかり言って。  
 本当の絆があれば、例え一時期恋愛問題でごたごたしたとしても、乗り越えることはできるはずなのに。そんなこともできないくらい、わたしたちの絆は安くなかったはずなのに。  
 わたしが躊躇したのは、ただ単に選べなかったんだ。  
 その時、もうどうしようもなく溢れた涙を、二人は両側からそっと拭ってくれた。  
 「パステル、もういいよ」  
 「おめえの気持ちはわかった」  
 目を開けると、そこにはとびきり優しいとび色の瞳と薄茶色の瞳。  
 「ごめんね、二人とも・・・。わたし、こんな中途半端な・・・」  
 「いや、それは違うよパステル」  
 「中途半端なんかじゃねぇよ。おめえの気持ちはよくわかった」  
 二人はそう言って、互いに笑いあった。  
 「実は俺、ずっとパステルはトラップが好きなんだと思ってたんだ。トラップと一緒にいるパステルはすごく楽しそうに笑ってたし。  
 トラップの気持ちは知ってたし、いずれは二人はくっつくと思ってた。告白したのは・・・パステルが俺の気持ちを何も知らないままトラップと一緒になるのが悲しかっただけなんだ」  
 「おめえ馬鹿か?」  
 トラップが呆れ声を出した。その後、彼は少し気まずそうにぽりぽりと頬を掻いた。  
 「でもよ、俺もなんだ・・・。クレイは顔もいいし、何よりおめえに優しい言葉をかけてやれるだろう?そのたびにパステルは嬉しそうに笑うんだ。  
 俺にはできねぇ。いつだって泣かせることばっかり言っちまうんだ。だから、クレイがパステルに告白したと知った時は覚悟した」  
 「つまりさ・・・」  
 クレイが優しくわたしの髪を撫でてくれた。  
 「俺は、楽しそうに笑っているパステルを見るのが好きだ」  
 「俺は、嬉しそうに笑っているパステルが好きだ」  
 それってつまり・・・。  
 わたしは戸惑って二人の顔を交互に見るしか出来なかった。  
 「おめえ、変な顔してんじゃねぇよ」  
 トラップが声を上げて笑いながら、わたしの額を軽くデコピンした。  
 「変な感じだけど、なんか、これが一番しっくりいかねぇ・・・?」  
 
 その後、わたしたちはごく自然に体を重ねた。  
 急な展開に、わたしならもっと戸惑うと思ってた。二人もそう思っていたみたいで驚いていた。  
 だけど、わたしは今まで悲しかった分、不安だった分を取り戻したくて性急に二人を求めた。  
 一度はばらばらになったわたしたち。それを繋ぎ合わせるにはこうするのが一番いい気がして。  
 こんな場所でと、普段のわたしなら思うかもしれない。  
 だけど、わたし達の「初めて」は、冷たく薄暗いこの場所が、どんな場所よりもふさわしいような気がした。  
 「あっ・・・」  
 クレイの大きなごつごつした手がわたしの胸をなぞった。わたしの体を電流が走る。  
 「んっ・・・」  
 トラップの細い繊細な手がわたしのふとももを撫でる。わたしの体が震えた。  
 「パステル、かわいいよ」  
 「おめえはいい女だよ」  
 二人から耳元で囁かれる。わたしの体が熱くなる。  
 二人の舌がわたしの体を優しく這い回る。きっと、わたしの体で二人に支配されなかった場所なんかないだろう。  
 敏感な箇所、ううん、体中の隅々まで攻められ、わたしは息も絶え絶えだった。だけどなんて幸せなんだろう。  
 「ああんっ」  
 一際大きなうねりがわたしの体を襲い、わたしはたまらず声を上げた。  
 「その声、いいな・・・」  
 「もっと聞かせてくれよ」  
 そのたびに、二人が切なげに囁く。  
 「大好きっ」  
 わたしは思わず叫ぶように言った。  
 「クレイ、トラップ、二人とも大好きっ」  
 「俺もだ」  
 「俺も」  
 二人の指が、舌が、わたしを翻弄し、わたしの奥深い場所を攻め立てた。  
 
 きっとわたしたちの愛は他人からは理解されない。でも、それでいいと思った。  
 未熟で不完全なわたしたち。だからこそきっとこの関係も成り立つんだろう。  
 不安定で、同時に揺ぎないわたしたちの愛は、とても奇妙でとても不思議で・・・そして何よりも純粋だった。  
 「同時に愛して欲しい」  
 わたしがそう言うと、二人は驚いていたようだった。  
 「お前、その意味わかってるのか?相当痛いぞ?」  
 「そんなことしなくてもいいんだよ、パステル」  
 わかってる。でも、初めての時は同時がいいとわたしは思った。  
 痛い?だからなに。どれほど痛くても、この二人とばらばらでいた時ほど痛いわけがないもの。  
 二人は時間をかけて、ゆっくりと丹念にほぐしてくれた。わたしの願いを聞き届けてくれるつもりなんだろう。  
 「そろそろいいか・・・?」  
 「痛かったら無理するなよ・・・?」  
 二人が心配そうに声をかけてくれる。こんな時でも、二人はわたしを優先してくれるんだ。嬉しくてもう一度涙が出た。  
 「うん、いいよ・・・。きて・・・?」  
 その瞬間、激しい痛みと衝撃、快楽とそして強い喜びがわたしを包んだ。  
 
 気がつくと、クレイとトラップが心配そうにわたしを見つめていた。  
 「クレイ・・・?トラップ・・・?」  
 「大丈夫だったか?」  
 「すまねぇな。痛くしちまった・・・」  
 少しだけ申し訳なさそうに言う二人がおかしくて、わたしはくすりと笑った。平気と伝えたくてわたしは身を起こした。  
 いつの間にか服を着込んでいた。どうやら眠っている間に二人が着せてくれたみたい。  
 「ここは・・・」  
 「どうやら、俺達あそこから抜けられたらしいな。あの後、すぐに抜け道を見つけたんだ」  
 クレイがそう言ってわたしの頭をそっと撫でた。  
 「え?」  
 「ほら、見てみろよ」  
 そう言ってトラップが見せてくれたのは・・・キットンがさっき見せてくれた薬草辞典のイラストと同じ薬草・・・。  
 「たぶん、パステルのおかげなんだと思う。なぜだかわからないけどそう思う。パステルがばらばらだった俺達を一つにした。だから戻ってこれた。そんな気がするんだ」  
 「うん」  
 クレイの言葉にわたしも頷いた。  
 「わたしもそう思うよ」  
 そう言って、わたしは二人に深いキスをした。  
 その時、遠くでキットンたちのわたしたちを探す声が聞こえて来た。  
 クエストは成功したのだ。  
 
 「いやあ、一時期はどうなるかと思いましたが、パステルたちも無事だったし、薬草は見つかるしよかったですねぇ!」  
 薬草を届け報酬を貰って猪鹿亭に戻った後、キットンはそう言ってぎゃっはっはといつものように笑った。  
 「ところで、どうやって戻ってきたんですか?」  
 わたしの体が思わず強張る。隣にいたクレイも食べていたミケドリアを喉に詰まらせ目を白黒させた。  
 「ああ?パステルが偶然隠しドアを見つけたんだよ。で、俺が罠を解除して、後から出てきたモンスターをクレイが倒したんだ。ま、連携のなせる業だな」  
 しゃあしゃあと言い切ったのはトラップ。彼はそう言った後、何も言えないわたしたちにニヤリと意味ありげな笑みをなげかけた。  
 うう〜・・・。やっぱり嘘の上手いトラップがいてくれてよかった・・・。何も言わないけど、きっとクレイもそう思ってるんだろうな・・・。  
 「そうだったんですか・・・。じゃあ次の時も、わたし一人じゃ無理ですね・・・」  
 「ああ、またあの薬草が要るんだったら、俺達が行ってやるよ」  
 キットンは一人納得している、彼はさっきから顔が明るい。  
 珍しい薬草を手に入れたこともあるだろうけど、たぶん・・・わたしたちが元に戻ったことに気付いたんだ。  
 ノルも、ルーミィもシロちゃんもわたしたちを見てニコニコ笑っている。きっと、彼らはわたしたちが思っている以上にわたしたちを心配してくれてたんだね。ごめんね、もう大丈夫だからね。  
 わたしは嬉しくなって一緒にうふふと笑った。  
 「おや?パステル機嫌がいいみたいですね。・・・それにしてもパステル、何かちょっと雰囲気変わってません?」  
 キットンの何気ない言葉にわたしの心臓が跳ねた。  
 雰囲気が変わった・・・?も、もしかして、クレイとトラップとの・・・アレのせい!?  
 「そそそそう?ど、どんな風に・・・」  
 「う〜ん・・・上手くはいえませんが・・・綺麗になったというか、色っぽくなったというか・・・」  
 「綺麗」のところまではニコニコ聞いていたクレイとトラップが・・・「色っぽくなった」の部分で急に顔色を変えた。  
 な、なんというか・・・すごく、怖くなった。  
 一気に変貌した二人に、ノルが一歩引いている。ルーミィとシロちゃんは目を丸くした。キットンは一人気付かずなおも続けている。  
 「そうそう!色っぽくなった!そんな感じですね。パステル、あなたお化粧でもしてるんですか・・・?今日は妙に肌が・・・」  
 ビシ!  
 トラップがキットンに思い切りデコピンした。  
 「うぎゃ!何するんですかトラップ!?一体わたしが何を・・・」  
 ドン!  
 キットンが抗議の声を上げた瞬間、クレイがもっていたショートソードをキットンの前のテーブルに突き刺した!  
 「ひ!」  
 「キットン・・・こいつをそんな目で見てんじゃねぇ・・・」  
 「次にそんなふざけたことを言ったら、俺も容赦はしない・・・」  
 「は?はひ?」  
 二人の目は真剣だった。二人が本気で怒っている事は理解できても、それがなぜなのかがわからないキットンはすっごい戸惑っている・・・。  
 そうだよね、ご、ごめんね、キットン。でもわたし・・・今、すごく・・・う、嬉しかったりする・・・。  
 この二人って、こんな風に妬いてくれるんだ・・・。  
 純粋に感動したわたしはキットンに助け舟を出すのを忘れてしまった。  
 はっと気がついたらキットンが二人に小突かれて叫んでいた。  
 「ちょ、ちょっと!何やってるのよー!?」  
 二人の大事な恋人を止めるため、わたしは大声を張り上げた。  
 
 

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