よーし、できたっと。  
 わたしはつけていたエプロンを外すと、思い切り伸びをした。  
 台所のテーブルの上には、リボンをつけた小さな包みが山と積みあがっている。  
 しかし我ながらたくさん作ったもんだわ。  
 クレイでしょ、トラップでしょ、キットンでしょ、ノルでしょ、そしてもちろんシロちゃんとルーミィにも。  
 お世話になっているみすず旅館のおかみさんやリタやルタ、印刷屋のご主人にもお渡ししたいし……  
 ひとつひとつあげる人を数えながら包みを紙袋に入れていくと、最後にひとつだけが残った。  
 大きなテーブルの上にぽつんと佇んでいるそれをそれをそっと手のひらに載せると、軽くため息。  
 シックなブラウンの包み紙に赤くて細いリボンを結んである。  
 小さな包みはたくさんの中に埋没していた時は気にならなかったけれど、こうしてひとつだけ残ると、なんだか妙に自己主張しているようで、たかがチョコレートなのになんだか気後れしてしまうなあ。  
 
 ひとり包みとにらめっこしていると、廊下からとててててと小さな足音がした。続いてチャッチャッチャという、足音ならぬ爪音。  
「あ! ぱーるぅ、それなあに?」  
 足音の主は予想通り、ルーミィとシロちゃん。  
 わたしが手のひらに載せた包みに気づき、すぐお菓子とわかったんだろう。  
 目をキラキラさせながらスカートにまとわりついてくるルーミィ。  
 ふわんふわんのシルバーブロンドを撫でながら、手の上の包みを差し出そうとして手を止める。これは……いや、中身も外見も全く同じなんだけどね。  
 一瞬の躊躇いの後テーブル上にそれをそっと置くと、紙袋の中から別の包みを取り出す。  
「はい、チョコレートだよ」  
「ちょこえーと! ありがとだお!」  
 にっこぉーっと満面の笑みを浮かべるルーミィ。かわいいなぁ。  
 お行儀よく座り込んでいたシロちゃんにも差し出す。  
「シロちゃんにもあるのよ、はい」  
「ありがとさんデシ!」  
 二本足で上手に立ち上がってお礼を言うシロちゃんの背中のリュックにチョコレートを入れてあげる。  
 彼は食べたくなったら自己申告してくれるだろうから、その時剥いてあげればいいや。  
 このふたりが帰ってきたということは。  
「ノル? いるんでしょう?」  
 勝手口のドアを開ければ、やっぱり。  
 今帰ってきた風情のノルが、裏庭に干した洗濯物を取り込んでいるところだった。  
 長身の彼はみすず旅館に入ると床が抜けちゃうので、ふたりがちゃんと旅館に入ってきたか外から見守ってくれてると思ったんだよね。ふふふ、大当たり。  
「おかえりー、ノル。ふたりのお守りありがとう。これ、バレンタインのチョコレート」  
「ありがとう、パステル」  
 洗濯籠を片手に抱えた彼は、手のひらどころか指先に載ってしまうほどの包みを受け取るとにっこりと笑った。  
 うーむ、ノルにはちょっと小さすぎたみたい。もう少し大きく作ってあげればよかったかなぁ。ま、いいや。  
 チョコレートをポケットにしまって洗濯物の取り込みを再開したノルに軽く手を振ると、わたしは踵を返して台所へと戻った。  
 わたしと入れ違いに裏庭へと飛び出していくひとりと一匹の後姿を見送ってから、わたしは階上へと足を向けた。  
 
「入るよー」  
 男部屋のドアを開くと、相変わらず怪しげな実験に没頭しているキットンと、帽子を顔に載せて傍のベッドで寝転がっているトラップが視界に入る。  
 キットンは例によって例のごとく軽くトランス状態で、目の焦点が合ってないような状態だけど……話通じるのかなあ。  
「キットン、チョコレート……」  
「はいはーい、そこに置いといてもらえますかあ?」  
「……わかった」  
 返ってきた返事はどう聞いてもラリった人のそれで……あまり関わらないほうが身のためかもしれない。  
 キットンから半径1メートルほど離れた場所にそっとチョコレートを置いて振り返ると、寝ているように見えたトラップが帽子を持ち上げてニヤリと笑った。  
「俺にもあるんだろうな、もちろん」  
「あるよー、はいこれ。でもどうせファンクラブの子達から山ほどもらったんでしょ?」  
「そりゃもう。でも俺甘いもん苦手なんだよなぁ。まーおめえのくらいならちいせぇから食ってやらねえでもねえけど」  
 偉そうに寝転がったままニタニタしているのが癪に障るなぁ、もう。  
「あ、そう。別に無理に食べてもらわなくったっていいんだけど?」  
「まぁそう言うな。置いてけよ」  
 まったく。  
 にゅっと伸びてきた手にひょいと包みを載せて部屋を出ようとすると、背後から飛んできた唐突な質問。  
「おめえ、本命はどしたんだよ」  
 ぎく。  
「は? 何の話よ」  
「今シルバーリーブに来てんだろ? 情報通の俺を舐めてもらっちゃ困るぜ」  
 トラップが言ってるのは間違いなく。  
 特別警備隊の任務で、南部への移動途中でシルバーリーブに宿をとっているギアのこと……だと思う。他に該当者はいない。  
 ギアと行動を共にしているダンシングシミターは今一緒じゃないらしいし、実際そうかどうかはともかく、本命かなんて言葉で尋ねられる相手は他に思い当たらないし。  
「本命も何も……」  
 口ごもるわたしに呆れたようなトラップ。  
「あのなぁ、ぼやぼやしてていいのかよ。チョコレートくれえ準備してんだろうに。あいつ明日には行っちまうらしいぞ?」  
 そうなんだよね。  
 ギアは先日この街に来て、みすず旅館を訪ねてきてくれた。  
 前の別れ方が別れ方だっただけにどんな顔をしていいのか微妙だったけど、兎にも角にも久々の再開を喜んだんだよね。  
 でも数日滞在しただけで、すぐに南部へ出発してしまうそう。  
 南の街でダンシングシミターと落ち合う予定なんだとか。  
 
 そしてわたしはというと。  
 ギアに再会してからというもの、落ち着かないような考え込んでしまうような、なんとも気持ちがはっきりしない日を過ごしていた。  
 そんな気持ちのままでバレンタインデーを目前に迎え、毎年恒例、周囲皆へのチョコを作るうち、気がついたらひとつ余分を拵えていたというわけ。  
 どうしてわたしったら、単にバレンタインだからという理由で渡せばいいだけなのに、ひっかかりまくってしまってるのか……  
 トラップの言葉に思わず考え込んでいると、意外に真面目な声色が問いかけた。  
「おめえ見てりゃわかるっつーの。後悔しねえうちに早いとこ持ってけ」  
 別に何を相談したわけでもなんでもないのに、その言葉はお見通し、と言わんばかりで。  
 でもその表情は意外に揶揄するでもなく前みたいに不機嫌そうなわけでもなく。  
 どことなく心配してくれている感じすらあって……あのトラップがねえ。なんだか不思議。  
 トラップはわたしの様子を見て取ると、苦笑しつつごろりと寝返りを打った。  
「嫁にまで行くんじゃねーぞ」  
「はあ!? そんなわけないでしょ!」  
 わたしはいつもの調子で勢いよく言い返しながらも、こっそり心の中で背中にお礼を言った。  
 
「で? どうするんだい」  
「……どうって」  
 こちらははなっから真面目なコメント。でもその口元にはやさしい笑みが湛えられていて、ひしひしと気遣いが伝わってくる。  
「持って行ってくる……つもりだけど」  
「それがいいよ。パステル、ずっと考え込んでたから心配してたんだ」  
 隣に座ったクレイは、手の中のチョコレートを胸元のポケットにしまうと、わたしの肩をぽんと叩いた。  
「行っておいで。暗くならないうちに」  
 
 そしてわたしはドアの前にいる。  
 ギアが泊まっている部屋。少しお高い部類の宿屋で、絨毯の敷かれた廊下はしんと静まり返っている。  
 さっきまでのもやもやした気持ちは、パーティの皆に会ううちにだんだんと形になってきたみたい。  
 ただの義理チョコのつもりで渡す気になれないのはどうしてなのか。  
 ギアがシルバーリーブに来ることなんて、ううん、そもそも会えることなんて滅多にない。  
 彼がここにいる間に会いに行こうと思うのはどうしてなのか。やっとわかってきた気がする。  
 好きとか嫌いとかわからないけど……どうしても会いたかった。  
 バレンタインのチョコレートが気持ちを伝えるものならば、わたしはこれを、どうしてもギアに渡したかったんだ。  
……わたしって、自分のことにまで鈍いのね、本当に。  
 散々トラップに鈍いと言われて怒ってきたけど、あながち間違いでもないみたいだわ、こりゃ。  
 
 トラップとクレイの言葉に背中を押されて、わたしは夕暮れの中みすず旅館を出た。  
 始めはゆっくりとした足取りだったけど、なんだか気がせいてきてどんどん早足になり、このドアの前に立った今は肩で息をしているわたし。  
 暫く呼吸を整えて、ドアをノックする。静かな廊下に響くノック音に、思わず周りを見回してしまいながら。  
 
「どうしたんだ? ここを訪ねてきてくれるとは」  
 部屋に招き入れてくれたけれど、不思議そうなギア。  
 わたしはどう言ったものか迷ったけれど、結局それには答えないで持ってきた紙袋を差し出した。  
「これ」  
「おれに? 何だい?」  
 ば、バレンタイン知らないのかなあ。いやまさかそんなわけないか。  
 一瞬がくっと脱力しつつ、まぁ冒険者だしそんなこといちいち気に掛けてもいないだろうと思い直す。さてどう言おう。落ち着かない心持ちで視線を泳がせつつ口を開く。  
「……えっと、その……バレンタインだからチョコレート持ってきたんだけど……」  
「あ、そういえば今日バレンタインか。わざわざおれに?」  
 端整な顔に柔らかい笑みが浮かぶ。  
 その顔を見た時、わたしはどうしても、どうしても言っておきたくなってしまった。  
「あの、それ……いわゆる義理じゃないから」  
 大きく目を見張るギア。  
 い、言っちゃった。こんな言い方でちゃんと伝わるんだろか。慌てて言葉を継ぎ足す。  
「あ、あのね、バレンタインって本来大切な人にチョコレートあげるって日でしょ?  
 パーティの皆にもあげたしお世話になってる人たちにも渡してきたの。  
 でも、その、ギアに持ってきたのはそれだけじゃなくって、えーと好きとか嫌いとかうまく言えないんだけどね、パーティの皆にも行って来いって言われて、えっと」  
「もういいよ、パステル」  
 しどろもどろにとりとめのない説明をするわたしをギアが遮った。  
 大きな手がわたしの手をそっと握る。少しひんやりとして乾いた手のひら。  
「言いたいことはよくわかったよ……来てくれてありがとう」  
 黒い瞳がやさしく微笑んだ。  
「え、いえ、どういたしまして」  
「じゃあこれは本命チョコという風に受け取っておくよ」  
「ほ本命って、そんな大袈裟なっ」  
「違うのかい?」  
「……」  
 違わないけど……いや違うような……うーむ。  
「でもさ、パステル。贅沢かもしれないけど、本命にしてはちょっと小さいんだな」  
 あ、それは。  
「ごめんなさい、あまりにもたくさん数が必要だったから、材料がギリギリになっちゃってそのサイズに」  
 焦って顔の前で両手を振って謝ると、ギアがぷーっとふき出した。  
「そんな真面目に謝らなくてもいいさ。冗談だって。というか」  
「え? きゃっ」  
 
 唐突に失われる平衡感覚。目の前にギアがいるのは同じなんだけど、その背後に見えていた窓が、今は天井……  
 わたしはひょいと抱き寄せられて、そのままベッドに押し倒されていた。  
 ほわんほわんと弾む、やわらかいマットの感触。ルームライトの光を背中に背負ったギア。  
「チョコレートが小さいのはさ、ありがちなアレかと期待したりしたんだよ」  
「アレ?」  
 状況にも関わらずつい真剣に問い返すと、形のいいな唇がくくくっと笑った。  
「ほら、わたしもどうぞ、みたいな」  
 ぼん! と顔に血が一瞬にしてのぼったのが自分でもわかってしまった。  
 うー、きっとトマトみたいになってるんだろうな。だってだって、ギアってばなんてこと言うのよお!  
「違うの?」  
「違うも何も、……そんなつもりはまったく……んんんっ」  
 
 言い訳をする唇を、前触れなく冷たいものが塞いだ。  
 睫毛がふれんばかりの至近距離にあるギアの顔。  
 すらりと高い鼻がぶつからないように、斜めに被せられたキス。  
 そ、そりゃいつかキスされたことはあるけど。正直なところわたしのファーストキスはあれで、セカンドキスがこれなわけですけどっ。  
 内心ジタバタしているんだけどどう反応していいやら、完全にそのままの姿勢で固まっているわたし。その動揺を感じたのか、わずかに唇が離れてくれた。  
 ふう。思わず止めていた息をほんの少しこぼすと、同時にギアも小さく息をついた。唇の間を交差する吐息はほんのりとあたたかい。  
 
「パステルがいけないんだからな」  
「だからなんでそう、や、んっ」  
 体制を立て直そうとした抗議は、頬から耳元へ滑るギアのキスにあっさりと遮られる。  
「んっ、ギア、や……め」  
 耳元から首筋を、舌がゆっくりと伝い下りていく。  
 襟元に手をかけたギアはわたしの抗う手を軽く押しのけ、器用にボタンを外してしまった。うぅ、恥ずかしいよお。  
 わたしの上半身からブラウスを取り払いながら、自分のシャツも脱ぎ捨てるギア。一見細身だけれど、鍛えられた裸体が薄暗くなってきた部屋に浮かび上がる。  
 
「思いつめたような顔してチョコレート抱えて」  
 そのままわたしにの胸元に顔を埋めて。胸に唇をつけたまましゃべるからか、少しくぐもった響きの声。  
「頬っぺた真っ赤にして。好きな女の子にそんな一生懸命告白されたら……男だったら黙って帰せやしないよ」  
 告白……あれって告白だったんだろか。  
 言ってた自分も必死でよくわかってなかった気もするんだけどな。  
 この状況下にも関わらず思わず内心首をひねる。そんなわたしにはおかまいなく、ギアはブラジャーをくいと引っ張ってずらすと、胸をあらわにしてしまった。  
 必死に両手で隠そうとするけど、簡単に手の動きを封じられてしまう。  
 全然力を入れているように見えないのに、男の人の力ってこんなに抗えないものなんだ。  
「抵抗しても無駄だよ。男をこんな風にさせておいて、今更止められるかい?」  
「させておいてって、そんなっ」  
 別にわたしがそうさせたわけじゃないってば!  
 ささやかに反論しつつ、どうにか逃れようと体をよじらせるも無駄な抵抗にしかならない。  
 ギアの大きな手がわたしの胸を包むように触れた。やさしく柔らかく、押しつぶすように揉みあげる。  
「ぁあ……あ、ん」  
 ついこぼれた喘ぎに、思わずまた頬が熱くなる。だってこんな声が自分から出るものなのかっていうだけで恥ずかしくて。  
 そもそも誰かに体をさわられるなんて初めてだし、しかもそれがギアみたいにかっこいい人なわけで。  
 しかも慣れているのか大人だからなのか……正直、気持ちよかったり……する。  
「後悔なんて……させないからな」  
「ん……っ、はっ」  
 乳首を口の中で転がしながら呟くギア。  
 舌先でくりくりと舐めまわされると、皮膚感覚が凝縮されたみたいに先端が更に敏感になる。寒いわけでもないのに鳥肌がたってて。  
「ひっ」  
 スカートの中に、いつの間にか手が忍び込んでいた。下着の上からわたしのその部分をそっと撫でる指。  
 わたしの抵抗なんて全くの無駄。  
 思い切りきつく閉じているはずの太腿の間を滑らかに割り込むと、何度も何度もそこを緩やかになぞる。  
「や、あっ」  
 ぞくぞくする。ギアの細いけれど節くれだった指が動くたび、脚の間にくすぐったいような熱いような感じたことのない感触が広がる。と、お尻側に回った手がつるりと下着をずり下げた。  
「や……だぁ……」  
 ぎゅっと目をつぶり、胸のあたりに覆いかぶさっているギアの頭を反射的に抱き締める。指に触れる、ちょっと硬めの黒髪。  
 
「怖くないから、大丈夫」  
 胸を愛撫しながら、視線だけこちらに向けるギア。こ、こんな状態で目があってしまうのって、ある意味余計恥ずかしいものなのね。  
「あ、んっ、ん……んん」  
 実にどうでもいいことなんだけど、唇を噛み締めて喘ぎを殺そうとすると、「ん」の音にしかならないことに気づく。そしてかなり息苦しい。いつまでこれで堪えられるかなぁ……  
 
 ギアはわたしに体を密着させたまま、右手でわたしの秘部を愛撫する。  
 気がつくとスカートも下着も脱がされていて、いったいいつの間に全裸にされていたのか見当もつかない。  
 でも、そんなことを悠長に気にしている余裕もなく、彼はわたしの敏感な部分を刺激する。  
 刺激に慣らすかのように、表面だけにやさしく触れていた指は徐々に潤ってきたその部分に少しずつ分け入ってきた。  
「ん、ん……ぁあん」  
 じわじわと奥へと進むギアの指。ほぐすよう奥まで辿り着くと、一旦それは引き抜かれ、太さを増してまた内壁を擦るように進んでくる。  
 そうして何度も何度も出し入れされるうちに、膣の奥の方まで熱を帯びてきて痺れてきたみたい。  
 指の動きに合わせてぴちゃ、ぴちゃっと音がたてられて、他に何の音もしない部屋に響いて何とも恥ずかしい。  
「濡れてるね。痛くないか?」  
「……うん」  
 やさしく気遣う言葉に、回らない舌で答える。なんだか頭までぼおっとしてきたみたい。  
 
 つとギアが体を離した。汗ばんだ体と体の間を通り過ぎた空気が火照りを冷やす。  
 彼はそのままわたしの脚を開かせると、その間に屈み込んだ。  
「な、やっ、そん、なっ……」  
 少しざらりとした舌がわたしの襞の上を這う。その襞を押し分けると、普段は隠れている蕾を舐めあげた。  
「や、やぁぁっ、あぁんっ」  
 びいん、と音を立てるみたいに電流のような快感が走る。  
 もう言うまでもなく当たり前だけどこんなところを触られるのは初めてで、もちろん舐められるなんてあり得なくて。  
 でもそこは止めようがないくらい気持ちよくて。  
「気持ちいいかい? その状態で入れた方がよさそうだな」  
 前半は質問、後半は一人ごちるように呟いたギアは、その部分から唇を離した。  
 体を起こすと細身のパンツと下着を床に脱ぎ捨てる。  
 わたしの半分脱力して開いたままの脚の間に体を入れると、そそりたった自身のものをあてがう。  
 思わずそこを凝視しているわたしに苦笑してみせた。  
「大丈夫。こう見えても、女慣れしてないわけじゃない。無理はさせないから」  
 そう言いながら本当に少しずつ、少しずつ腰を進めるギア。  
「ん……くっ」  
 愛撫で潤ったその部分は苦もなくギアのものを受け入れている感じだけど、やっぱり途中でひっかかるようなきつさと抵抗を感じる。ギアが時間をかけてほぐしてくれていたからか、恐れていたほどの痛みはないんだけど。  
「痛い?」  
「だい……じょうぶ」  
 わたしを気遣いながら、抵抗がある度に腰をゆるゆると回すようにして動きを緩める。  
 そうしてすごく時間をかけて、ギアのものはわたしの体の一番奥まで差し込まれた。思わずはーっと息をつく。お腹の中にはもちろん違和感。  
 
 ギアはわたしが落ち着くのを待って、ゆっくりと、本当にゆっくりと腰を動かし始めた。  
 自身は上体を起こして背筋を伸ばした姿勢で、わたしの両脚を握って。  
「は……あっ、んっ、くっ」  
 徐々にスピードがあがってくる。滑らかになってるとはいえ、膣の中の襞に逆らうような動きに鈍い痛みが混じり始める。  
 それを見透かしたように、ギアは腰を動かしながら自分の指先を舐めて湿らせると、わたしの蕾に伸ばした。  
「ひゃ、んっ」  
 再び走る電流。お腹の奥で鈍い痛みを感じつつも、一番外側にある敏感な部分を刺激されて、もう痛いんだか気持ちいいんだか。  
「あ、や、やん、あん」  
 もう声を堪えることなんてできない。  
 ギアの突きこむリズムに押し出されるように喘ぎがこぼれる。  
「パステル」  
 
 目を上げるとギアの黒い瞳がわたしをじっと見つめていた。  
 ほとばしるような想いが伝わってきて、思わず手を伸ばす。  
 ギアは一瞬目を見開くと、伸ばしたわたしの手を握り返し、そのままわたしの体を引き起こした。  
 下半身はつながったまま、逞しい胸にぎゅうっと抱き締められる。  
 下から強く突き上げるギアのものは、わたしの中をえぐるように動き、痛さと快感とがごちゃまぜになった状態で、わたしはギアに思い切りしがみついた。  
「んっ、あっ、あっ、あぁぁっ」  
「パステル。おれを呼んで」  
 耳元で荒い息をこぼしながら低い声が呟いた。  
「ギ、ア……ぁ、あん、ギア、ギアぁっ」  
 お互いの熱い息と声と体が絡み合い、わたしはギアの背中に跡が残るほど爪をたてた。  
 
 もうとっぷりと日が暮れた夜道。  
 ギアは夜道は危ないから送ろうといってくれたけれど、断った。慣れた道だし知った街だしね。  
 ギアの泊まっている旅館の外までついて出てくれたギアに、改めて握手。  
 長身のギアを見上げると、いつかダンジョンで初めて抱き上げられた時の思い出が蘇る。  
「何考えてるんだい?」  
「ううん、何でもない」  
「そうか」  
 何気ない会話。  
 でも、夜が明けたらこの人はまた旅立ってしまう。  
 わたしの気持ちを知ってか知らずか、彼は伏せ目がちに微笑んだ。  
「じゃあ」  
「またモンスター討伐に行くのね」  
「ああ。でもまた必ず来るさ……いつかガイナに連れて行ってくれるんじゃなかったのかい?」  
 そんな話をしたことがあったっけ。正直、今なら本当にギアと戻ったっていいやと思っている自分がちょっと怖い。でも。  
「でもわたし、もうしばらくは冒険していくと思うんだ」  
「おれだってそうさ。おれの剣の腕も、特別警備隊ではまだ必要とされているようだし」  
「そりゃそうだよ!」  
 ギアは薄く笑うと、わたしを腕の中に抱き締めた。  
 うっ、こんな旅館のどまん前でいいのかなあ。幸い誰も通る気配がないからいいけど……  
「ホワイトデーまでいないからお返しがあげられないけど」  
「そんなの、いいよ」  
 厚い胸に押し付けられたままモガモガと答える。  
 ギアは、抱き締める腕に力を込めた。  
 
「あぁ、このまま連れていってしまいたいな」  
 切なそうな、辛そうな、独白。  
 ギアはそこまで言うとわたしから体を離し、くるりと踵を返した。黒衣の広い背中。  
「きっと会いに来るよ」  
 振り返らずそのまま建物の中へ歩いていくギア。  
 追いかけて背中に抱きつきたい衝動をぐっと堪えて、立ち去る後姿を見送った。  
 
 追いかけたい。  
 でも、わたしにはパーティの皆がいるし、守るべき人たちもいる。  
 非力なわたしだって誰かに必要とされてる以上、まだまだ冒険者として頑張らなくっちゃ。  
 そうよ、誰かさんにも、嫁にまでは行くなよって言われてるんだもんね!  
 お腹に力を入れるとブーツの踵を軸に回れ右。  
 わたしは金色の月明かりの下、懐かしいみんなのいる場所へと、大またに帰路を急いだ。  
 
 
 
 

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