確かに、覚えてる。  
 わたしには恋人がいた。彼氏って呼べる人がいた。付き合い始めてから、まだそんなには時間は経っていないけど……でも、いわゆる「最後まで」進んだ、そんな相手が。  
 好きだって言われたのは生まれて初めてだった。これまでだって、人を好きになったことは何回かあるし、好きだって言われたことも何回かあったけど。でも、その頃のわたしは、自分で言うのも何だけど、「恋」っていうのがどういうものか、よくわかってなかった気がする。  
 だって、「好きだ」という言葉の先にどんな行為が待っているか、なんて、全然考えたこともなかったし!  
 でも、「その人」は違ったんだ。  
「その人」から好きだって言われて、最初は戸惑って、すごく困って、どう答えようか迷って……結局「うん」って頷いた。その葛藤も覚えてる。うわーどうしよう、何て言えばいいんだろう!? って、何日も迷って、しばらくはなかなか眠れなかった。  
 考えて考えて、そうしてようやく決心がついて、恋人同士になって……それから、わたしはこれまで、噂でしか知らなかった経験を色々とした。  
 手を繋ぐこと、腕を組むこと、唇で触れ合うこと……身体の奥深くまで、繋がること。  
 そこに進むまで、時間は大してかからなかったけど。でも、わたしの中では、それこそモンスターだらけのダンジョンに飛び込むくらい緊張したし、なけなしの勇気だって振り絞った。  
 初めてはやっぱり痛かったなあ、とか……「その人」もすごく緊張してて、そんな顔見たの初めてで、ちょっと笑っちゃったんだよねえ、とか……そんな感情すらもはっきり覚えてる。  
 うん。これは夢なんかじゃない。想像でもない。もちろん妄想でもない!  
 わたしは確かに「誰か」と付き合っていた。できれば将来のことも真剣に考えたいなあって、そう思える相手が、確かにいた。  
 なのに。  
「……どうして……?」  
「おい、パステル。おめえ、どうしたんだよ?」  
「大丈夫か、パステル? 顔色が悪いようだが……?」  
 辺りは湯気が立ち込めていた。お風呂場……うん、間違いない。ここはお風呂場。それもみすず旅館でも、猪鹿亭でも、ましてやエベリンのマリーナの家とかでもない。初めて使わせてもらう、クエスト先の宿のお風呂場。  
 わたしはそこに立っていた。正確にはその入り口……よくある「女湯」「男湯」ってなっているあそこね? ……の前に、タオルや着替えの下着を持って、立っていた。  
 それは、いいよ? わたしは……わたし達は、クエストのためにこの町まで来た。そして今日、無事にダンジョンをクリアして、明日にはシルバーリーブに戻ることになった。  
 で、依頼人が気前のいい人で、宿代を出してくれたから、ってこともあって、この宿に泊まることになった……うん、間違いない。覚えてる。  
 それから……?  
 それからわたしがお風呂に入ろうと思ったとしても、何の不思議もない。結構深いダンジョンだったから汗もかいたし汚れもしたし。  
 でも、それなら何でわたしは一人なんだろう? こういうとき、わたしは絶対にルーミィと一緒に入るのに?  
 いや、それは時間を考えれば不思議じゃない……?  
 ちらっと目をやれば、窓の外はもう真っ暗で、シーンと静まり返っている。虫の鳴き声さえ聞こえない。  
 多分……身体もすごくだるくて疲れてるから、時間は深夜なんじゃないか、と思う。ルーミィ達は、きっともうとっくに夢の世界だろう。  
 クエストが終わったのは夕方で、宿に引き上げてきたのは「これから夕食だ」って時間だったのに、何でこんな時間までお風呂に入らなかったのか?  
 何で、こんな時間にお風呂に入ろうと思ったのか……?  
 その答えは、きっと彼らにある。  
 わたしの目の前に立っている、二人の男性に。  
 
 一人は、肩の下まで赤毛を垂らした、ほっそりとした身体つきの男性。  
 一人は、面差しの鋭い、削ぎ落としたような痩身の黒髪の男性。  
 トラップと、ギア。一人は大切なパーティーの仲間で、一人は、とあるクエストで知り合った用心棒の男性。  
 二人は戸惑った顔でわたしを見ていた。わたしが何でポカーンとしているのかわからない、そんな顔で。  
「……おい、パステル。おめえさあ、あに間抜け顔してんだあ? まさか、俺の顔を忘れたとか言うんじゃねえだろうな?」  
「どうした、パステル。入らないのか?」  
 二人は、お互いの存在を不審にも思っていないらしい。もちろん、わたしも。  
 当たり前のように手を伸ばして、わたしを呼んでいる。  
 すなわち……男湯の方へ、と。  
 な、何!? 何でこんな状況になってるのー!?  
 
 しばらく前から、ギアがわたし達のパーティーに参加することになった。  
 何で? って言われると……その理由もすごく曖昧だ。何かのやり取りがあってきっかけがあったはず、なのに、いつの間にか、そこに居た。わたしの記憶では、そうなっている。  
 そして、今回のクエストでも当然のように第一線で活躍してくれた。まあ、当然だよね。わたし達とは全然レベルの違う冒険者だし。  
 いつまでいるのか、いつかは抜けるのか。それも、今のわたしは覚えていない。記憶喪失、っていうのとは、ちょっと違う。どっちかって言うと、寝起きで頭が混乱してるとか、そういう状態に近いと思う。  
 だって、細かいやり取りを忘れているだけで、「確かそういうことがあった」っていうぼんやりした記憶は、残っているから。  
 うん……そうだ。ギアとトラップが並んでるのも、不思議なことじゃない。初めて会ったときはやたらギスギスしてた二人だけど、一緒にクエストをクリアするうち、男同士の友情? って奴が芽生えたのかな? 最近は、二人で何やら話し込んでいることも多かった。  
 そうだよねえ。プロ意識に溢れるって意味では、二人ってすごくよく似てると思うもん。昔、初めて出会った頃は……まあ状況っていうか、間が悪かっただけで。お互いに腹を割って話し合えば、分かり合えるところも通じるところも多かったんだろう。  
 ギアとトラップがいつの間にか仲良くなっていた。仲良くなってくれた。それも、覚えてる。  
 それで……?  
「うん……わたし、お風呂に入ろうと、してたんだよね? うん、覚えてる……」  
「おい。おめえなあ……あんまふざけてると、いい加減怒るぞ、俺も」  
 いつまでも要領を得ないわたしに苛立ったのか、トラップが、こつこつと壁を叩いて言った。  
「こんな時間だあら、誰か来るとは思わねえけど。うっかりチビ達が目ぇ覚ましたら面倒だろ?」  
「……う、うん」  
「おいトラップ。そうやいのやいの言ってやるな」  
 困っているわたしを見かねたのか、手を差し伸べてくれたのはギアだった。  
「無理もないよ。戸惑うのも当然だ。……大丈夫、パステル。怖いことは何もない。俺達を信用してくれ」  
「え、と……」  
 何で、お風呂に入ることになったんだっけ? 汚れたから? 何で? 何をして?  
 
「あんだ、おめえ怖がってんの? 初めてじゃあるめえし」  
「三人はさすがに初めてだろう」  
「ヤることは変わんねえだろ? それともあれか? 噂に聞く尻の穴も使うっつー……」  
「馬鹿。言っただろう? パステルを苦しめることは絶対にしない。痛い思いもさせないって」  
「冗談だよ、じょーだん! 第一、ありゃ本の世界だろ。入るわけねえじゃん、あんなとこにあんなもんが」  
「や、ちょっと! ちょっと待って!」  
 放っておくとどんどんルーミィには聞かせられなくなりそうな話を遮って。わたしは、おそるおそる声をあげた。  
「あ、ええと……ほ、んき?」  
「んだよ、今更。本気も本気、大本気だっつの。おめえだって『うん』って言ったじゃねえか」  
「うん……?」  
「全然気づかなくてごめん。それで許してくれるなら、それでいいよって、そう言ったじゃねえか」  
「ゆる、す……」  
 あ、待って。少しずつ思い出して来た。  
 そう。わたし……わたし、は……  
「ひゃっ!」  
 不意に、つつっ、と太ももを生暖かい液体が伝っていって、わたしは思わず悲鳴をあげた。  
 いや、一瞬もらしたのかと心配したんだけど。どうも、そういうのじゃなくて……何だろう。もっとどろっとした……  
「……あ……」  
 そうっと視線を下ろす。いや、さっきから薄々気づいてはいたんだけど、きっと汗だとか、そんな風に言い聞かせて考えないようにしていたというか。  
 わたしは今、服を着ている。でも、上着ははだけてるし、スカートもしわだらけだし、どうも一度脱いでまた着たような、そんな感じになっている。  
 じっとり湿った下着。ぴったりとあそこに張り付いているのが、見なくてもわかる。  
 そして、その奥から染み出しているのは……いや、あふれ出して来たのは……  
「あ……」  
 太ももをすり合わせるようにしてうつむくと、事態に気づいたのか。トラップの顔が面白そうにゆがみ、ギアは静かに目をそらした。  
 ああ、そうだ。思い出して……来た。  
 わたし、さっきまで……その、してたんだ。  
 何を? ……この寒いのに、わざわざ外に出て。ここなら誰にも見つからないとか、早く戻らないとルーミィが心配するから、とか言いながら……恋人、と、この宿の裏で。何度も抱き合っては唇を合わせ、「好きだ」「綺麗だ」「すごく可愛い」なんて言葉をもらって……  
 その、クエストクリアの高揚感もあって。つい、いわゆる「身体と身体のお付き合い」という奴を、やってしまったのだ。  
 うわああああああああああああああ恥ずかしい! な、何やってるんだろうわたしってば!  
 いや、でもすごく盛り上がってしまったのを覚えてる。汚れるからって躊躇してたら、大きな手がそっと下着に触れてきて、「立ったままでも大丈夫」なんて言葉を囁かれて……  
 い、いや、忘れよう。うん。忘れてしまおう! あのときのわたしはちょっと浮かれてた。マッピングもちゃんとできたし、影ながらクロスボウで戦闘の役にも立てた。「よくやった」って褒めてもらえてすごく嬉しくて……  
 嬉しくて、そして?  
 
 そうだ。いくら盛り上がったとは言え……そのう、すごく気持ちよかった、とは言え、場所は外。誰に見られるかわかったものじゃないから、時間的にはそんなに長くなかった。せいぜい三十分くらい?  
 本当はもっとずっと一緒にいたい、もう別に一室取っちゃおうかなんて言いながら、何とか身体を離して……そうだ。下着も汚れちゃったし汗もかいたから、わたしはお風呂に入る、って言ったんだ。  
 で、「彼」も一緒に入ろうなんて冗談交じりに言ってきて、わたしはそれに「誰かが来たらどうするの! もう、馬鹿!」なんて肩をひっぱたいて……  
 そんなやり取りをしているうちに、「誰か」が来たんだ。  
 
 ――そういう関係だったんだ――  
 ――何となくは気づいていたけど、そんなわけないって言い聞かせてた――  
 ――正直ショックだった――  
 ――だって、俺も好きだったんだ――  
 ――ずっと好きだったんだ、パステルのことが――  
 
「あ……あ……」  
「ほれ、行くぞ。ギア、誰もいねえよな?」  
「ああ、大丈夫だ」  
 あれよあれよという間に、腕を引かれた。  
 ひょいと入り口にかけられる「準備中」の札。閉じられるドア。がちゃりと落ちる鍵。  
 脱衣所の中も、ガラス戸で仕切られたお風呂場も静まり返っていた。本当に誰もいない……わたしと、トラップとギア以外は。  
「脱げよ、パステル」  
「ぬ、脱げって」  
「あんだよ、脱がせて欲しいとでも言うつもりか?」  
「ば、馬鹿っ! そんなわけっ……ない、でしょ……?」  
「……そういうお前は早すぎだ、トラップ。焦ることはない。夜はまだまだ長いぞ?」  
「へっ。そういうおめえこそ、さっきから視線が泳いでるぜー? 早く拝みてえんだろ? まあ気持ちはわかるけどな」  
「…………」  
 わたしの視線など気にする様子もなく、さっさと服を脱ぎ捨てる男二人。  
 いや、さすがは冒険者。二人とも細く見えるけど鍛えてるんだねえ……って、ってー!?  
 タオルすら使わず、隠すそぶりもなく堂々と全裸になる二人に、瞬時に血が上るのがわかった。  
 わーっ、わーっ!? や、は、初めて見たわけじゃない……と、思うんだけど!? な、な、なーっ!?  
「ちぇっ、やっぱ大きさでは敵わねえのなー」  
「体格を考えればお前も相当立派なものだと思うが? 大分遊んできたようだな」  
「そりゃお互い様って奴だろ? そういうあんただって、その年まで綺麗な身体でいたとは思えねえぜー?」  
「ふん……想像に任せる、と言ったところか」  
 わたわた、おたおたしてるのはわたしだけで、トラップもギアも、全然焦る様子がない。全くの余裕の表情。  
 そんな顔見せられると、一人だけ焦ってるのが馬鹿みたいなんですけど!?  
 
「で、パステル。準備はできたか?」  
「……ちょ、ちょっと待ってよ! い、今脱ぐ……から……」  
 わけがわからないけど。不思議でしょうがないけど……でも、状況を考えれば、脱ぐしかない、らしい……  
 え、ちょっと待ってよ? そう……わたしはよりにもよって「恋人」と身体を重ねている場面を「誰か」に見られてしまった、らしい。  
 ところが、その「誰か」も、わたしのことを好きだった、らしい。  
 それから……?  
 
 ――可哀想だと思うなら、悪いと思うなら――  
 ――一度だけでいいから――  
 ――そんなの――に悪いから――  
 ――それなら――  
 
「…………」  
 いや、ちょっと待ってよ? 本当なの、ねえ? わたしのこの記憶は本物なの!?  
「……パステル……」  
 機械的にブラウスを脱いだ。ついで、スカート。  
 既にホックの外れていたブラを床に落とし、最後にショーツから足を引き抜く。  
 食い入るような視線を感じて顔を上げれば、トラップが、ギアが、じーっとわたしを見ていた。  
 恥ずかしくて目を落とすと、目に飛び込んできたのはよく今まで履いてられたよねえ……と感心してしまうくらい、汚れきった下着。白っぽい、どろどろした液体。  
 ……嘘、じゃない。夢じゃない。確かにわたしはついさっき、誰かの身体を受け入れてる……  
「ってええええええええええええ!? 何でえっ!?」  
「ば、馬鹿っ! 大声出すなっ!」  
 思わず両手を頬に添えて絶叫した途端、ギアとトラップ、両方から抱え上げられてしまった。  
 それからはあっという間。両脇から腕を取られて、開け放たれたガラス戸の中に飛び込んで、ぴしゃりとドアを閉められて……  
 そうして三人で、ざばん! とお湯に……泳げそうなほど広い湯船に、飛び込んだ。  
「――ぷはっ!」  
「ったく、びっくりさせやがって。誰か来たらどーすんだっつーの」  
「うー。ご、ごめん……」  
「お前の声も十分大きい。ドアには鍵をかけてあるから大丈夫だ。……じゃあ、パステル」  
 お湯の中で身を縮めていると、ギアの手が、トラップの手が、そっとわたしの肩に置かれて……そのまま、耳元で囁かれた。  
『好きだ』  
 
 ――好きだって言ってもらえて、すごく嬉しかった。何でわたしは今まで気づかなかったんだろうって、本当に申し訳なく思った。  
 けれど、謝らないでくれと言われてしまった。それはみじめになるだけだから、って。  
 でも、どうしても気が済まなかった。お詫びがしたいと言った。  
 そうしたら、「彼」は言ったのだ。  
 
 ――一晩限りの、思い出が欲しい、と――  
 
「……正直、受け入れてもらえるとは思わなかったな」  
「そりゃ、普通あんまねえよなあ。いわば恋人と愛人と三人でヤるようなもんだろ? でもまあ、たまにはこういうのもいいんじゃねえ? いっつも普通だと、飽きるって言うしな」  
「まあ、それを言うなら俺達も、だしな」  
「だな。でもまあ、同じ女を好きになったもん同士。気持ちはわかるよなあ……こいつの鈍感ぶりにやきもきさせられた仲間って思ったら、他人とは思えないっつーか」  
 
 そう、だ。  
 さすがに、それはちょっととわたしは尻込みした。当たり前だよね。いくら「好きだ」って言ってもらえたのが嬉しかったからって、恋人がいるのに、他の男の人とそんなっ……!  
 でも、何だか男二人が盛り上がってしまったのだからしょうがない。  
 ああだこうだ言い合っているうちに、「大体お前が鈍感だったのが悪い」だとか「思わせぶりな態度ばっかり取って」とか「そもそも嫌いじゃないとか好きって言ってもらえたのが嬉しいとか、そんな言い方するから相手が勘違いする」とか何とかかんとか。  
 いえ、それはもう全くその通りなんだけどさ。ごめんなさいって言うしかないんだけどさ!?  
 それにしたって、「1対1は許せないけど俺も加えてなら許す」って、それはあんまりじゃない!?  
「……パステル」  
「ひゃああああああああああああああああ!?」  
 ぴちゃり、と首筋をなめられて、わたしは思わず悲鳴をあげた。  
 あ、駄目。今、わたしの身体……  
「すっげ……触ってもいねえのに、もう乳首が尖って来てんじゃねえか……」  
 キスしてきたギアに対抗して、だろうか。次に指を伸ばして来たのは、トラップだった。  
「おめえ……感じやすくなってんだな」  
「やっ! ひゃあっ! だ、駄目だってばっ……」  
 つんつん、と胸をつつかれて、わたしは思わず身もだえしてしまった。  
 だって、だってしょうがないじゃない! わたしっ……ついさっきまで「そういうこと」しててっ……本当はもうちょっと、って思ってたけど、でもこんな時間だし外でだしルーミィ達も待ってるだろうしって、一生懸命我慢したところで……  
 そんなときに、触られたらっ……頭がどうかなっちゃいそうで!  
「パステル……脚を、開いてくれるかい?」  
 わたしが十分に感じていることはわかったんだろう。ギアの柔らかい言葉が、ゆるゆると耳朶を打った。  
「まずは……綺麗に、しような?」  
「きれ、い?」  
「ん、そりゃまあそうだな。前の男の匂いが残ったままっつーのは、やべえよな」  
 ぽかんとしていると、横でトラップが頷いた。  
 そっと胸から手が外される。あー……と、ちょっと残念に思っていると、そのまま、指が下腹部まで滑り降りて行った。  
 え、まさか……  
「ひゃっ……やああああああああああっ!?」  
「おー……十分やわらけえ。ほれ、ギアも触ってみ」  
「ああ」  
 じたばたともがいていると、二人がかりで太ももをつかまれてしまった。  
 膝裏を通すようにして、二人の指が差し伸べられる。触れられたのは……さっきからうずいてしょうがなかった、わたしのあそこ。  
 
「やあん……は、恥ずかしいってば。やっ」  
「とか何とか言って。硬くなってんじゃん」  
 まだろくに触れられてもいないのに。お湯の中で、わたしの中に二人の指が沈みこんでいるのが見えた。  
 ごついギアの中指と、少し細い、トラップの中指。  
 そのまま、同時にうごめき始めた。もちろん狭い場所だから、そんなに激しい動きじゃないけど。二人分の指が、わたしの内部をこすり上げて、絶叫したくなるような快感が駆け上って行った。  
 だっ……駄目っ……  
「あっ……あああああああああああああああああああっ!」  
 一瞬で目の前が真っ白になった。びくびくっ! と身体を痙攣させていると、お湯の中に、とろりとした液体があふれ出るのがわかった。  
 さっきわたしの中に吐き出されたばかりの、白い液体が。二人の指にまとわりつくようにして、お湯の中へと流れ出て行った。  
「ううー……」  
「イッたみてえだな……っつーか、お湯の中って滑りが悪くねえ?」  
「しょうがないだろう。流れてしまうからな……外よりは寒くないから、大丈夫だろう」  
 ぐったりしているわたしの頭上では、好き勝手な言葉が飛び交っている。けれど、それに抗議する余裕なんて、もちろんない。  
 そのまま、わたしの身体は湯船のへりに押し上げられた。けれど、二人の身体はお湯に沈んだまま。  
 視線が、そそがれる。ちょうど彼らの目の高さにある、腰掛けたわたしの中心部に……  
「や……み、見ないでよ……」  
「だーめ、隠すなっつの。こんな機会、滅多にねえんだし。ほれ、おめえも見たかったら見ていいんだぜ?」  
「もお、ばかぁっ!」  
「恥ずかしがることはないよ、パステル。とても……綺麗だから」  
「…………」  
 い、いや。その、こんな場所を「綺麗」って言われても……言葉に困る、って言うか。  
 身体の中が、熱くなってくるのがわかった。もじもじと膝をこすり合わせていると、「……欲しいのか?」と囁かれた。  
 欲しい。何を? ……そんなの、決まってる。  
「……うん」  
「ちゃんとおねだりをして欲しいな」  
 うつむくわたしを見て、ギアが浮かべたのは苦笑だった。  
 たくましい身体が湯船から上がってくる。隣に腰かけられて、びくりと身を強張らせると……そのまま、肩を抱き寄せられた。  
「パステル」  
「あ」  
 ぴちゃり、と耳をなめられた。  
 きゅうっ! と下半身に走った、締め付けられるような衝撃。震えていると、伸びてきた手が頬を撫でて、そのまま鎖骨のラインを辿って行った。  
「お、ギア。おめえ抜け駆け」  
「早い者勝ちだ。同時には無理なんだから仕方ないだろう」  
「あに言ってんだよ。ぶちこむ前に色々やることはあんだろー? やってもらうことも、さ」  
「……そうだな。パステル」  
「ん……」  
 くりくりと、胸を撫でられた。  
 さっき、ほんのちょっと撫でられただけで硬く尖ってしまったわたしの胸。ギアの愛撫はとても丁寧だったけれど、少し力が強い。痛いようなくすぐったいような微妙な感じに悶えていると、トラップが、わたしの脚を肩に担ぐような格好で膝立ちになった。  
 太ももの上に置かれたのは、骨ばった手。  
「なあ、パステル」  
 はあ、はあと息を荒げながら、トラップが注視しているのは……わたしの、唇?  
「どっちが、先に欲しい?」  
「……どっち、って」  
「どっちのを、先に、欲しい?」  
「…………」  
 ここまで来て、その意味がわからないって言うほど、わたしも馬鹿じゃない。  
 でも、どう答えればいいのかわからない。欲しいって思ってる。来て欲しいって思ってる。このままやめられたら、きっとわたしは、どれだけみっともなくても泣いてすがるんじゃないかって思う。それくらい、身体がうずいてる。  
 でも、答えられない。だって……  
 
 どっちかは、恋人で。どっちかは、恋人じゃない……そのはず、なのに。  
 トラップと、ギア。どちらがわたしの恋人なのか……今のわたしには、それが、わからない。  
 

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