あぁもう……お酒臭い。  
 なんかもうこの臭いだけで酔いそうなんですけど。  
 上品なワインレッドの絨毯を敷き詰めた廊下一帯に漂う、なんともいえないお酒臭さ。  
 正しくは、前を歩く酔っ払い約1名からにじみ出ていると言うべきなのかも。  
 ワインの甘い香りやお料理に使うブランデーの芳醇な香りは大好きなわたしだけどさあ、さすがにこれはないでしょ。  
 
 わたしの数歩前を歩く、いや酩酊した足取りでフラフラしているのはクレイ。言うまでもなくアルコール臭の発生源。  
 そしてそのクレイを半身抱えたクレイより更に長身の男性は、なぜか嬉しそうな表情で「貸しはでかいぜ」だの「しっかり歩けってば」と愛すべき弟を叱咤している、。  
 クレイのお兄さんであり、膨大な人数のファンクラブを有する、ロンザ騎士団でもアイドル中のアイドル。わたしみたいな一般庶民には普通近づくことすらできない雲上人……アルテア。  
 ちなみに双子の兄弟であるところのイムサイはここにはいない。  
 いつも彼等は一緒にいてふたりでひとつの芸術品みたいなイメージがあるので、ひとりのアルテアを見るとなんとなく違和感を感じたりするんだけどね。  
 
「ごめん、パステル。そのドア開けて」  
 ツンツンに立ててアレンジされたヘアスタイルの、形のいい後頭部が振り向いた。  
 襟元にさりげなく飾られた、真珠をモチーフにしたピンが微かに煌く。  
 それはもうため息が出そうなほどかっこよくて。  
「パステル?」  
 困ったように首を傾げるアルテア。いけないいけない、見とれてる場合じゃなかった。  
「ごっごめんなさい、いま開けますっ」  
 慌てふためいて重厚な装飾の重い木製扉を押し開ける。  
 中はふたつのベッドルームのある続き部屋になっていて、勿論ドアに負けぬ劣らぬ上品な豪華さ。  
 緞子のベッドカバーやカーテンはもちろんのこと、ちょっとした暖炉の装飾ひとつとっても決して成金じみた金ぴかさはない。  
 お部屋全体で調和の取れた控えめな品のよさが醸し出されている気がするなあ。  
 なぁんてわたしみたいな小娘でも、思わず評論家口調になっちゃうほど。  
 さすがはドーマでも名家のアンダーソン家のお屋敷だよね。  
 
 しかし、なんで今日に限ってクレイがこんな風になっちゃったんだろう。  
 アルテアにベッドまで連れていってもらい、酩酊状態のままで羽枕につっぷしているクレイを見やり、こっそりため息をつく。  
 
 まぁあの夕食じゃ仕方ないのかもしれないけど。  
 今日の夕食には彼の厳格なおじいさまが同席されていた。  
 久々にクエストの途中でドーマに寄ったからというのでアンダーソン家では大歓迎して頂けて、たっくさんのご馳走が並んだんだけどね。  
 おじいさまはやっぱりご機嫌斜めだったみたいで……前の時みたいに女子供のパーティだの帰ってこいだのとボロクソには言われなかったからまだいいんだけど。  
 軽口を叩きつつ素晴らしくスマートにコース料理を平らげていくアルテアとイムサイに挟まれ、仏頂面のおじいさまのご機嫌と様子を窺ってカチンコチンに緊張していたクレイ。  
 余程喉が渇いてたんだろうね。無意識のうちに手元のグラスをぐいぐいあけて、お水のグラスがあっという間にカラに。  
 そこで隣のアルテアがいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべると、そのグラスにおかわりを注いだ。  
 目の端で終始おじいさまをちら見していたクレイは「あ、ありがとうアルテア兄さん」なんて真面目にお礼を言ってたけど、グラスの中なんてまともに見ちゃいない上の空。あのそれ、ロゼワインですからっ!  
 それにすら気づかないクレイは何杯もグラスを重ね……見事にこの酔っ払いのできあがり。  
「冷たいよなー、イムサイも。けっこうこいつも重いんだから手伝ってくれてもいいのにさ」  
 いじけた調子で恨み言を言いながら、閉めてあったカーテンをザッと音をたてて開けているアルテア。  
 薄暗かった部屋の中に月の光が差し込んできて、窓辺のすらりとした長身を控えめに照らし出した。  
 食事があらかた終わった頃イムサイは、コーヒーにもデザートにも手をつけず目の焦点がいっちゃってるクレイを見て軽く嘆息。  
 アルテアにあっさりと「責任とれよな」と言い置くと席を立ってしまった。  
 
 その一部始終を見ていた、すぐ向かいに座ってたわたし。  
 アルテアにパチンとウインクされ、どぎまぎしながらクレイを運ぶお手伝いしたんだけどね。  
 ここまでついてきて何やったって、結局ドアを開けることしかしてませんし。  
 正直わたしも1杯だけとはいえワインを頂いちゃって、ちょっと頬がぽーっとしてたりする。  
 今日は泊まらせてもらえることになったから、お部屋に行って休もうかな。  
 クレイがこんな調子じゃ、これ以上ここにいたって介抱のしようもない気がするし……うん、そうしよそうしよ。  
 それを伝えようとベッドサイドでクレイに布団をかけていたアルテアに近づくと、振り向いた笑顔が口を開いた。  
「悪い、ちょっと水汲んできてくれないか? 次の間にあるから」  
「あ、はい」  
 部屋を出るタイミングを失い、まぁいいかとお水を取りに行く。  
 今いた部屋と次の間はドアの代わりに暗幕みたいな布を垂らして仕切られている。  
 金の縁飾りのついた布をめくると、次の間も同じような作りでかなり広いのが見てとれた。  
 辺りをきょろきょろ見回し、部屋の奥まったところにある暖炉の上に目指すものを発見。これこれ。  
 凝ったカットのガラスの水差しと伏せられたグラスの載ったトレイを両手で捧げ持って仕切りの布をめくろうとするも、四苦八苦。  
 ……今に始まったことじゃないけど、わたし不器用なんだよね。  
 トレイを傍らに置いて布をめくると今度はトレイが置き去りになっちゃうし。ええいどうしてくれよう。  
 
 もたもたと布と格闘していると、クレイに寝ぼけ声で名前を呼ばれたような気がした。  
 目が覚めたのかな。  
 返事をしようとした瞬間。聞こえてきたアルテアの言葉に、布を掴んだまま手が止まる。  
「へえー寝言にまで言う程なのか。いいねえ仲が良くてさ」  
 寝言? 確かにクレイが答えないとこを見ると(いや聞くと?)ほんとに寝てるのかな。  
「なぁクレイ。つき……ろ?」  
「……」  
「は? 違う? 聞こえないっての」  
「……」  
 クレイの声はほとんど聞こえない。というより、アルテアが一方的に何か話しかけてるみたいで、会話になってるのかどうかすら怪しい。  
「ふぅーん。俺はてっきりお前の……いや、違うなら気にしなくていいよな……なあ? パステル」  
「は、はいっ?」  
 急に話振らないでほしい……いや別に立ち聞きしてるつもりはないんだけど、心臓に悪いってば。  
 危うく落とすところだったトレイを持ち直し、背中で布を押し分けてどうにか仕切りを通りすぎると、ベッドの端に腰掛けたアルテアがにこにこと笑いながら手招きしていた。  
 トレイを受け取ってお礼を言うと、さわやかな笑顔のままでわたしにダメ押しのように問いかける。  
「かわいい弟クンではあるが、この場合遠慮なんていらないよな。パステルもそう思うだろ?」  
「は? 何がですか?」  
「そうだよな、わかんないよなー。いいよいいよ。ははは」  
 全く話が見えず、狐につままれたような気分。  
 しかし、なんでこの人こんなに嬉しそうなんだろう。  
 ふたりで会話してたのかと思ったけど、クレイはさっきと全く同じ格好で、相変わらず赤い顔に半開きの口で目は閉じたまま。  
 何か口をぱくぱくさせてるみたいなんだけど、うわごとにしか聞こえないんだよね。なんて言ってるの?  
 まだ漂うお酒臭にちょっと顔をしかめつつ、クレイの口元に耳を近づけて聞き取ろうとしたら、大きな手が伸びてきて手首を掴まれた。  
 そのままぐいと引っ張られバランスを崩したわたしは、アルテアの膝の上に倒れこんでいた。  
 仰向けに半身ひっくり返ったわたしのすぐ上にあるのは、90度角度の変わった方向から覗き込む甘やかな瞳。  
「きゃ、すみませんっ。ってあのっ」  
 凛々しい顔が至近距離にあることと自分の姿勢に焦って飛び起きようとした、んだけど。手首を掴まれたまま離してもらえない。  
 
軽く押さえ込まれてしまって、アルテアの膝の上から動けないんですけど!  
「俺が引っ張ったのにあやまらなくても」  
 そ、それもそうだよね。我に返ると同時にこの姿勢の不自然さに気づき、一気に顔が真っ赤。  
「あの、あの離し」  
「まぁそう言わないの」  
 押さえ込まれたままでの会話。なんかもう眩暈してきたし……離してください、いやほんと。  
「あのね。一応聞いとくけどさ、君らつきあってるわけじゃないんだろ?」  
「は!? わたしとクレイがですか!? そんな、わたしたちパーティだしパーティといえば家族みたいなもんですしそんなつきあってるなんて」  
「わかったわかった。そう言うと思ったよ」  
 しどろもどろに答えるわたしの口を、しいっと言うかのように長い指がそっと押さえた。  
 少しひんやりとして、細くて長いアルテアの指。  
「いまクレイにも聞いてみたんだけどね、てんで要領得ないんだ」  
「?」  
「確かに君は可愛い。うん。正直初めて会った時から純朴でかわいーなーとは思ってたからね」  
「はあ、それはどうも」  
 可愛いって……そりゃそう言われると嬉しいけど、自分より遥かに美形な人に言われても正直微妙なんだけどなあ……  
 素直に喜べないわたしを見て、苦笑するアルテア。  
「気のない返事だなぁ」  
「す、すみません」  
「あやまんなくていいって。そういうとこが初々しくていいんだけどね。クレイが大事にしてんのもわかる」  
 大事にされてる? まあさすがに粗末にはされてないと思うけど。一応パーティの仲間なんだし。  
「俺はてっきりクレイと付き合ってるのかと思ってたからね。寝言にまで名前呼ぶくらいだからラブラブなのかと思いきや……一方通行なんだね。相変わらず不憫な奴だ」  
 饒舌に喋るアルテア。なんだかいまいち話が見えないんですけど……わたしがクレイと付き合ってないってことだけは間違いなく言える。  
 だってねぇ、何度も言うけどパーティでしょ? 今までそんな目で見たことないもん。  
「とりあえずはっきりしてんのは、パステルはクレイのものじゃない。じゃあ俺がもらったっていいだろ?」  
「もらうって、あの、それって」  
「いやクレイには悪いと思うけど、そりゃ早いもん勝ち……いや違うな、取ったもん勝ち……でもないか。まぁそれはいいけど、クレイはゴニョゴニョ言うばっかりで何が言いたいのかさっぱりわかんないし」  
 
 ……わけがわからない……ってあの、もらうよってわたし物じゃないし!  
 リーダーであるクレイに聞いたって、パーティの一員を相手がお兄さんとはいえどうぞ持っていけなんて言わないと思うもん。  
 いや、そもそもさあ、こんな人に欲しがって頂ける理由がなんら思い当たらないんですけど。  
 とりあえず不自然極まりなく寝転がったまま、恐る恐るその疑問をぶつけてみる。  
 だってわたし冒険者としてのスキルなんてアルテアから見れば無いに等しいだろうし。  
 何か優れた特殊能力があるかって別にないし。  
 アンダーソン家にはお手伝いさんがたくさんいたからそんなのいらないだろうし。  
 ……自分で言うのも何だけど正直何のお役にもたてないと思うんだけどな……  
 
 アルテアの膝の上、ある意味膝枕状態で。  
 しみじみと自分の潰しのきかなさと無力感を感じて暗くなるわたしの質問に、勢い良く吹きだした彼は軽く眉間を押さえて横を向いた。  
「……そっか、意味通じてないな」  
 えーと……わたしなんかおかしいこと言ったのかなあ?  
 脱力した様子のアルテアは口元に苦笑いを浮かべると、膝の上のわたしをひょいと腕の中に抱き上げた。  
 途端に厚くがっしりした胸板に密着し、さらに顔に血がしゅわわわっとのぼるのがわかる。  
「ちょ、おおおろおろしてくださいっ」  
「ほら噛まない暴れない。もう言うだけ野暮かなと」  
「は?」  
「わかんなくていいよ。くくくっ」  
 含み笑いをしている彼に軽々と運ばれ、否応なしに連れて行かれたのは次の間。  
 相変わらず目を開けず、グロッキー状態のクレイをそこに残して。  
 
 わたしを抱えたままの手で、器用にブランケットを跳ね上げるアルテア。  
 ベッドにそっと抱き下ろされてようやく密着状態から抜け出すことができたけど、なんとも身の置き場に困るような気分。  
 なんでわざわざこっちの部屋に運ばれたのか、さっきの話の意味もわかんないし……  
 考えれば考えるほど、自分の置かれている状況が理解できなくなってきた。  
 と、背中に当たるベッドのヘッドボード。我知らず少しずつ後ずさっていたらしいわたし。  
「なんで逃げるかなあ」  
「いえ、その逃げてるわけじゃ」  
「いいから。ほらおいで」  
 アルテアはおたおたしているわたしの両手をやさしく絡め取り、片手でまとめて握りこんでしまった。  
 とても大きい手のひら、長い指。わたしの両手首を掴んでもまだ余裕がある。  
 抗う余地もなく唐突に拘束状態にされて、もう何が何だか。  
 口を開きかけた瞬間、一瞬早く目の前を何かに塞がれた。  
 これ以上近づけないくらい至近距離にあるのは。端正で凛々しいなアルテアの顔。  
 唇に触れているのはほの熱くさらりとして形のいい唇。  
 これって……キス、だよね。唇当たってるし。キス。キスかぁ……睫毛長いなあ。  
 頭ぐるぐる。目も閉じられず、ぼおっとそんなことを考えながらアルテアの顔を見つめていると、ふと唇が離れた。  
 
「こういうこと」  
 
 目の前のひとはそれはそれは嬉しそうに、花がほころぶように微笑んだ。  
 こんな非常時なのに、思わず見とれてしまって暫し時間が止まる。  
 固まっているわたしを見て浮かぶ、ほんの少し困ったような目の色。かと思うと近づいてきた唇がまた重ねられた。  
 やさしくやさしく、唇全体を軽く吸うようなキス。  
 形のいい唇の間から漏れるわずかな息は甘く熱く、少しずつわたしの唇を湿らせていく。  
 ほんのり熱を帯びた舌が唇を割ると、つるりと滑り込んできた。  
 それはわたしの舌を探し当てるとそっと吸い上げ、歯列をなぞるようにゆっくりと這っていく。  
 アルテアは何度も顔の角度を変え、味わっているかのように穏やかにとろりとしたキスを続けた。  
 ひとつひとつの呼吸が全て吐息になって、もうこのままだと気を失いそうって思った時、ようやくそっと離れた唇。  
 吸っても吸っても苦しい息をなんとか吸い込み、大きく息をついて言葉を搾り出す。  
「どうして、こん、な……?」  
「あれ、まだわかんないの? 困った子だね」  
 呆れた表情のアルテア。  
 形のいい唇はさっきのキスで微かに濡れていて、もうなんとも言えず色っぽい。  
 本日何度目か、自分の置かれた状況を忘れて見とれていると、真っ白なシーツの上にやわらかく押し倒され大きな体がのしかかってくる。  
 目の前に迫るのは、いつの間に上着を脱いだのか、クリーム色の上質そうなシルクのシャツに包まれた厚い胸板。  
 強引に抱き込まれてどうあがいても動けない。いやその困りますってばっ!  
「こら、猫じゃないんだからジタバタ暴れないの」  
 限りなく甘い声が耳たぶに囁いた。電源OFFのスイッチを押されたように動きが止まる。  
「パステルが可愛いから……俺がもらった。クレイも君を好きらしいけど手を出す度胸もないようなので先着順。以上。わかったかい?」  
「好きって、その、もらうって、えっと」  
 わかったけど、わかったけどどうすればいいの、わたし。  
 酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせるわたしを笑いながら制したアルテアは、さっきとは打って変わって強引に、噛み付くように唇を奪った。  
「なっ、ん、ぁむっ」  
 貪るように舌を吸い上げ、息つく間もないほど激しく口付けながら、鮮やかな手つきで片手でわたしの服を脱がせていく。  
 抵抗することもできずなすがまま。そもそも服を脱がされているのすら今やっと気づいたし……  
 やっとキスから解放された時、下着1枚にされている自分に気づいて慌てて胸を隠す。  
 知らぬ間に顎まで伝っていた唾液が冷たい。  
 
「パステル、幼い顔してるけどちゃんと女性だね」  
 どこを見て言ったのか、何気なくつぶやかれた言葉にカッと熱くなる頬。  
 そのすぐ横をかすめて首筋をつうっと撫であげられる。「ひっ」反射的にピクンと首をすくめるわたし。  
 首元から襟足をかきあげた細い指は触れるか触れないかくらいのタッチで首から肩、胸元を滑り降りてくる。 ぞくぞくと背中を何かが駆け上がり、指の動きにつれて呼吸が乱れてくるのが自分でもわかる。  
「はぁ……っん、ん」  
「パステル勿論初めてだよね? その割に感度いいなぁ。まだ肝心なとこは全然さわってないのにさ。ほら」  
 やたら嬉しそうなアルテアは、不意にわたしの下着の上からその部分に触れた。  
「ひゃんっ! やっ、そんなとこ……っ」  
「残念、ここはそう言ってない」  
 下着1枚で恥ずかしいのも緊張もあって、ぎゅーっと閉じていた太ももと下着の三角地帯。  
 そのわずかな隙間に滑り込んできた指にはわかってしまったと思う……意に反してその部分が、じっとりと湿り気を帯びてしまっていることを。  
 
「今からこんなにしてどうするんだい? お楽しみはこれからなのに」  
「お楽しみ、って……あ、やめ、てくださいっ」  
 なんとか胸を覆い隠していた両手を、無常にもあっさりとほどかれる。  
 月明かりの中にもはっきりと見えるさらけ出された胸。  
「すごくきれいだ。隠しちゃだめだからね」  
 甘く釘を刺されてもう一度隠すこともできず、もうどうしようもなく恥ずかしくて。せめてもの抵抗に目を閉じて顔を背ける。  
 
 ぴちゃ。  
 
 静かな部屋に響いた湿った音。  
 先端の部分をぺろりと舐め、軽く歯を立てるくらいの甘噛みの愛撫。  
 同時に大きな手のひらで乳房全体を包むようにくるみ、さわさわとやわらかく揉みあげられる。  
「あ……ん、んんっ」  
「ほぉら、もう硬くなっちゃった」  
 その都度指摘しないでほしい……隠せないからだの反応を言葉にされると、見えないところまで裸にされちゃったみたいで逃げ場がない気分になってしまう。  
 わたしのそんな気持ちなんておかまいなく、揉みしだかれる胸。  
 舌が離れたかと思うと、指先がくにくにと円を描くように乳首をこねたりごく軽くはじいてみたり。  
 痺れるような刺激と初めて感じる快感とに翻弄されて、脚の間にじゅん、と熱いものが滲む。  
「どうしたの? 切なそうに身をよじっちゃって」  
 
 ……聞かないでほしいのに。  
 あの部分が疼くような熱いような変な感触を持て余し、つい両脚をぎゅうっとすり合わせてしまっていたみたい。  
 ほんのりあたたかくなった手が胸からウエストをなぞって降りて来て、わたしのかたく閉じた太腿を何の苦もなく押し開いた。  
 かろうじて最後の1枚を履いているとはいえ、その中はもうびっしょりになっているのがわかる。  
 そんなところをまじまじと見つめられてしまい、もう顔から火が出そう。  
「ほんとに感じやすいんだね」  
 いつの間にかわたしの足元にいたアルテアが、感心したように呟いた。  
 羞恥で視線をあわせることもできないわたしの顔を悪戯っぽい表情で覗き込んだ。  
「白い布がびしょびしょに濡れて透けちゃってるよ」  
「……」  
「色までわかる……ほら!」  
「ひっ! や、あぁっ」  
 一気に引き剥がされた下着。  
 器用に片脚を抜かされ、抵抗の余地なく足首をつかんでぐいと膝を曲げさせられてしまう。  
 もはや隠すものなく晒されてしまったわたしのあそこ。  
 
「やっぱりね。キレイなピンク色してるなぁ」  
「や、見ない、で……」  
「そんな無理な注文困るって。自分で見てごらん。すごく……いやらしいからさ」  
 最後の部分、喉に少しだけからんだようなアルテアの囁き。  
 思わず言われるままにを自分の秘部に目をやる。  
 薄く生えた髪と同じ色の茂みは、雫がつくほどに濡れてしまっていた。  
 そして何より恥ずかしいのは、開かされた脚の間にアルテアがいて……その色っぽく微かに潤んだ眼差しに穴が開くほどその部分を見つめられていること。  
「濡れ濡れだねー。ほら」  
「んんっ」  
 熱い息がそこに吹きかけられた。何度も、何度も。  
 直接触られてないのに、アルテアの熱い息がかかるたび、わたしのその部分はどくどくと激しく、心臓とは別の動きで勝手に脈打っている。  
 からだの奥の方から雫がどんどんにじみ出てきて、飽和状態になったように一滴がつるっとお尻へ伝うのがわかった。  
「やらしいなぁ。全然触ってないのに溢れちゃってるよ。そんなに欲しい?」  
 欲しいって……欲しいってよくわからないけど。  
 男の人に触れられたことなんてないのにこんな気持ちになってしまったのが、正直不思議で仕方ないんだけど……  
 この疼きはきっと、直接触れて欲しいから、なのかな……  
 目を伏せてコクンと頷くと、ちょっと驚いた顔をしたアルテアは、心底嬉しそうに微笑んだ。  
「もうほんとに……可愛いなぁ」  
 体をするりとずらして頬にかるいキス。瞳に宿る艶っぽい色。  
「気持ちよく……してあげるから」  
「きゃ……あぁ、ああんっ、やっ」  
 言葉が終わらないうちにずぶっと指が差し込まれる。  
 そこから頭のてっぺんまで電流が走ったみたいになって、漏れる声が抑えられない。  
 ぬちゃ、ねちゃっとなんともいえない音を立てながら、襞を割って出し入れされる細い指。  
 奥のほうで小刻みに指先が動かされるたび、例えようのない快感が走る。  
「んく、んっ、あ……ん、やぁ、そ、こ……」  
「んーここがいいのかな? パステルはエッチだねぇ。初めてなのにこんなに濡らしてさ」  
 わたしの反応を楽しむようにいやらしい言葉を重ねるアルテア。  
 一度抜いた指をまた膣の奥まで押し込むと同時に、襞の重なりをかき分けると躊躇いなくクリトリスに吸い付いた。  
「ひっ、あ、あぁっ! や、あ……あぁ、ん、んんっ」  
 唾液をたっぷりと含ませて弾くように芽をつつき、硬くなってしまったそれを舐めあげる舌。  
 そして休むことなく内壁を擦ってかきまわす指。  
 快感の階段を駆け上がっているような、ううん、強引に押し上げられているような気がする。  
 ぴんと伸ばしきって愛撫に耐えている脚がつりそうになった時、前触れなく不意に指が引き抜かれ、アルテアが身を起こした。  
 
 どう……して? こんな、途中で梯子を外すみたいに……  
 火照って潤みきったその部分は、恥ずかしさを捨てきれないわたしの気持ちとは裏腹に、アルテアの指と唇を求めていた。  
「そんな顔しないの」  
 見透かしたような一言。  
 我知らずすがるような表情になってしまっていたらしい。  
 いつの間にか服を脱いでいたアルテアは、わたしの愛液で濡れた口元を手の甲でぬぐうとやさしくくちづけた。  
「いくらなんでもここでやめたりしないからさ」  
「いやそんな、ええっと……」  
 慌てて形だけでも否定しているわたしの頭を軽く撫でると、彼はわたしの脚を開かせた。  
 よく見えないけど引き締まったお腹のおへそ近くまで立ち上がったアルテア自身を見ると、本能的に怖さが先に立ち腰が引けてしまう。  
「大丈夫。できるだけ痛くないようにするから」  
 
 アルテアは軽く頭を振りさばいて大きくひとつ息を吸うと、わたしの上にゆっくりと跨った。  
 怖い。でも。  
 
 そのとき、何か空気が揺れた気配がした。  
 
 わたしより一瞬早くにそれに気づいたアルテアが振り返る。  
 彼越しに見える間仕切りのカーテン。そこに立っていたのは……夜目にもわかる、驚愕の表情を浮かべたクレイだった。  
 
「パステル!?」  
「クレ……イ」  
 
 喘ぐようにつぶやいたわたしの声と、クレイの信じられないといった声は同時だった。  
 見られちゃった……よね。まずい、よね。これ。  
 さっきとは違う意味で頭が真っ白になっているわたしにアルテアは、ふっと息をついて体を離すと、そっと体を隠すようにシーツをかけてくれた。  
「いいとこで邪魔が入ったね」  
「アルテア兄さん……なんで、パステルと」  
 まだ酔いが醒めてるわけじゃないんだろう。  
 どことなく焦点の怪しい目で、間仕切りを片手で千切らんばかりに握り締めているのが見える。わなわなと震える握り拳。  
「おまえさっき言っただろう? 彼女じゃないって」  
 目をむくクレイ。  
「そんなこと聞かれたっけ? いや、そりゃ本当に彼女じゃないけど、だからって」  
「弟とはいえ、こんな可愛らしい子を譲る義理はないじゃないか」  
「いや譲るって……アルテア兄さん、いつからそんな」  
「おまえが連れてきたときから可愛いなとは思ってたさ。でもおまえにはいつまで経っても彼女にするだけの甲斐性がないみたいだからなあ」  
「甲斐性も何も、アルテア兄さんが全力で迫って勝てるわけないだろ!?」  
 悲痛な叫び。  
 ……クレイ、例えそうだとしてもそこまで言い切らなくても。いや論点はそこじゃないけど。  
 
「気に入ったから実力行使。全ては実力主義だよ、我が弟クン。用事が済んだならそっち行って寝てろよ。まだ酔いは醒めてないんだろ?」  
 なんとも人の悪そうなニヤニヤ笑いを浮かべたアルテア。そういえばこの人って、けっこう意地悪だったんだよね。  
 対するは今まで見た中で一番悔しそうなクレイ。  
 真っ白になるほど唇を噛み締めると、わたしに向かって言った。  
「……パステルは、それで……いいのかい?」  
 いいのかって……わたしどう答えればいいんだろう?  
 いや正直なところ、アルテアとこうなっちゃったのも怒涛の勢いに押し流されたようなもんだし……  
「あのなあクレイ。パステル困ってるじゃないか。おまえがだらしないから俺がさっき強奪したの。彼女の意思とかあまり反映されてないといえばないけど……パステル、それはごめん」  
 なんか話のついでにあやまられてるけど。  
「で、おまえはどうなの。それであきらめられるのか?」  
 いつになく真面目な声色のアルテア。  
 クレイに対してお兄さんらしい威厳のある言葉。状況が状況だけにあまり締りがない雰囲気ではあるんだけどね。  
 
「俺は……」  
 うつむいて暫し逡巡していたクレイは顔をあげると、心を決めたように口を開いた。  
「あきらめられない。パステルが、好きだよ」  
「よし、よく言った」  
 必死で言ったと思われるクレイの言葉に、意外やぱあっと嬉しそうに笑ったアルテア。  
「全力で弟の恋愛成就を応援してやりたいとこだが、もう遅い」は!?  
「まだ完遂はしてないけど、ここまでしちゃったからねぇ……ほら」  
「きゃああっ!?」  
 ぺろっとシーツをめくるアルテア。もちろんその中にいるのは、全裸のわたし。  
 焦りまくってシーツを引き戻す。どうにかくるまって体を隠してはみるけど、見る間に真っ赤っ赤になったクレイ。  
 くるっと回れ右して激しく頭をかきむしっている。  
 
「パステルにここまでしておいて途中止めなんて、俺は紳士としてできない」  
 紳士って、あの。  
「でもこのままクレイの意思を無視って遂行すると寝覚めが悪いよな……仕方ないなぁ。来いよ、クレイ」  
「来い?」  
 棒読みで鸚鵡返し。クレイは首だけこちらに振り向いた姿勢で固まってしまっている。  
「相変わらず鈍いな、おまえは。まぜてやるって言ってるんだよ」  
「まぜるぅ!?」  
 見事にシンクロしたクレイとわたし。  
 まぜるって、混ぜるってその……  
「パステル。今どっちか選べなんて酷なこと聞かないからさ。それとも何? この状態で……やめちゃっていいのかい?」  
 シーツの下に手を差し込んだアルテアは、わたしの脚の間にするりと手を滑り込ませた。  
「ひっ、ゃぁんっ」  
「ちょ、ちょっと兄さんっ」  
 立場は違えど、それぞれの理由で慌てふためくわたしとクレイ。  
 こんな状況になったというのに、さっきの愛撫のせいでそこにはまだ潤いが残っている。  
 アルテアはそれを指先に絡ませて引き抜くと、立ち尽くしたままのクレイにこれ見よがしに見せた。  
 親指と中指をくっつけて離す。とろりとねばって糸を引く液体……  
 まだ顔の赤いクレイはそれを見て何かわかったらしく、ゴクリとつばを飲み込む音が響いた。  
「というわけだ。いいよね? パステル」  
「いいも悪いも……」  
「それとも……嫌? 俺のこと嫌い? クレイのこと嫌い?」  
 実に楽しそうに、ちょいと頬をつつく指。  
「……」  
 やっぱりこの人って、意地悪だ。  
 わたしがそんな風に思ってないの知ってるくせに。  
 さっき途中でやめられたことで、どんなになってるかよくわかってるくせに。  
 返事の代わりにシーツから手を出すと、アルテアの指先をきゅっと握ると、それはそれは鮮やかな満面の笑みが返ってきた。  
 
「ほら、クレイを呼んでやりなよ」  
 毒を食らわば皿まで……この場合はちょっと違う、いやだいぶ違うけど。  
 わたしは尻込みする気持ちをぐっと飲み込むと、自分を包んでいるシーツの端を少しだけ捲った。  
 
「ど、どうぞっ」  
「どうぞか……どうぞねぇ。くくっ」  
 何がおかしいのかお腹を抱えて笑っているアルテア。  
 わたしそんな変なこと言ったっけ?  
 しかしそれを全く気にも留めない、というより葛藤と戦ってた風のクレイは。  
 真っ赤な顔のまま機械的に胸のボタンを外し、おぼつかない手つきで脱いだロングブーツを放り出す。  
 下着だけになって遠慮がちにベッドに近づいてきたクレイは、わたしが作ったシーツの小さな隙間から、広い肩幅を斜めにするように体を入り込ませた。  
 シーツの下で腕や脚が軽くぶつかり、双方焦って身を引くけどもちろん逃げ場なんてない。  
 笑いをどうにか収めて、果てしなくぎこちないわたしたちの様子を見ていたアルテアは呆れたように唇を歪めた。  
「あのね、君らここまで来て引いてどうするんだよ……パステル、出ておいで」  
「あ、は、はいっ」  
 本日2度目、勢い良くはがされるシーツ。今度はお腹に力を入れて叫び声をあげないよう頑張ってみる。  
 一気に外気にさらされてひゅうっと縮こまる皮膚。  
 隠しようもない裸の体を4つの目に凝視されているのが痛いほど伝わってくる……もうどうにも恥ずかしくてたまらない。  
「おまえも初めて見るんだな。綺麗だと思わないか?」  
「……うん。すごく、綺麗だ」  
 ゆっくりと言葉を区切りながら言うクレイの言葉に、ぎゅっとつぶっていた目をおそるおそる薄く開いてみる。  
 
 わたしのすぐ傍らに座ったクレイと、足元にいるアルテア。  
 兄弟だからかな、当たり前だけどすごく雰囲気が似ている。  
 クレイも長身だけどアルテアの方がさらに高くて、胸や腕の筋肉もひとまわりがっちりとしていて。  
 でもこれはアンダーソン家の遺伝なのか、がっちりしているけど決してムキムキなわけじゃなく、引き締まった細身の筋肉質っていう表現がぴったりくる気がするんだよね。  
 裸の上半身をついまじまじと観察していると、アルテアがにやりとした。  
「なーに見てるのかな? なんか比べてる?」  
「いいいえ、そんなっ」  
「そんな落ち着いてる余裕があるのかなあ? ほら」  
「やぁ……」  
 また伸びてきた手が、閉じた太腿をぐいと開いた。あらわにされるわたしのあそこ。  
 く、クレイそんなに見ないでほしい……  
 食い入るように見つめている目が真剣すぎて怖い。  
「あぁさっきの方がもっとびしょびしょだったのになぁ。途中参戦のおまえのせいだぜ」  
 残念そうに言わないでくださいっ!  
 クレイが真に受けちゃってるし!  
 
 アルテアは芝居がかった口調で責任転嫁しつつ、人差し指をついと立てるとわたしのおへそに軽く触れた。  
 そのまますーっと線を引くように、まっすぐ茂みの部分まで指をおろす。  
「んっ」  
「お、毛が立った。本当にパステルは感じやすいんだね……よいしょ」  
 その人差し指を茂みの中に這いこませると、指の腹でクリトリスをむにっと押しつぶすようにこねる。  
 同時にずぷんと合わせ目に差し入れられた親指。  
 ヒダヒダになった部分を指先でほぐすように愛撫され、膣の奥からまた何かがじわっと湧き出すのを感じた。  
「ぁんっ、あ、や……ぁぁあ……っ」  
「クレイ。ぼーっとしてないで何かすることがあるだろ?」  
「え、何かって」  
「俺が手がまわらないとこ、あるんだけどなあ」  
 皮肉っぽい含み笑い。  
 その視線の先に気づいたクレイ。暫し落ち着きなく逡巡していたけれど、思い切ったようにわたしの胸に手を伸ばした。  
 恐らく彼も初めてなんだろう、慣れない動きの愛撫。  
 すんなりとなめらかなアルテアの手に比べると、ファイターっぽいごつごつ感があるんだけど……その硬い動きで逆に昂ぶらされてしまっている気がする。  
「あれぇ、どんどん濡れてくるんだけどなー。クレイも貢献してるってことかな?」  
 からかうようなアルテアの言葉に、胸のあたりに屈みこんでいたクレイがわたしの顔を見た。  
「パステル……そうなのか?」  
「あ、うん。気持ち……いいけど」  
 言った後で顔から火が出そうになる。  
 そんなに真面目に聞くから、つい素で答えちゃったじゃない!!  
 き、気持ちいいだなんて……もうわたしどうかしちゃってるし!  
 
 内心身悶えているわたしの気持ちなんて知らず、ほっとしたように嬉しそうな顔をしたクレイ。  
 そんな顔されたら文句も言えやしない。  
 なんとも複雑な気分に陥っていると、愛撫の手をとめたアルテアがベッドから滑り降りた。  
「兄さん?」  
「そろそろ大丈夫だと思うよ。クレイ出番」  
「は?」  
「パステルとしたいんだろ? 最初は譲ってやるから」  
「……」  
「モタモタしない。俺が先でもいいのか?」  
「良くない!」  
 大真面目に即答した弟の顔を見たアルテアはぷーっと吹きだし、笑いながらクレイを促して体の場所を入れ替えた。  
 
 わたしを背後から抱え起こすと、後ろからぎゅっと抱きしめる。  
 裸の厚くて硬い胸板が背中に触れ、今更、本当に今更すぎるんだけど、心臓が跳ね上がった。  
「クレイだから慣れてなくて痛いかもしれないけど……サポートするから大丈夫」  
 耳元で囁く甘い声にコクコクとぎこちなく頷くわたし。  
 アルテアは耳たぶを軽く噛み、ぺたんと座り込んでいたわたしの両膝の裏をぐっと持ち上げた。  
 ちょうど子供がおしっこをするように膝を立てたあられもない姿。  
 隠すもののないその部分は打ち続く愛撫にぐっしょりと濡れ、空気の動きにすら敏感になってしまうほど。  
「お互い初めてなんだから、ゆっくり。ゆっくりだぞ、クレイ。パステル壊すんじゃないよ」  
「わ……わかってるよ」  
 兄弟のなんともいえない妙なやり取りを経て、クレイは股間にそそりたったものをわたしの脚の間に押し当てた。  
 その予想しない熱さに思わず身震いする。それを感じてかやさしくなだめるように、とんとんと動くアルテアの指。  
 
 クレイの先端がおずおずと襞を押し分けた。堅くて今まで感じたことのない異物感。  
「んくっ」  
「痛い? 痛いかっ?」  
「だ……いじょうぶ」  
「クレイ、とにかくゆっくり。少しずつ入れなきゃ裂けちゃうから」  
 アルテアのアドバイスに無言でせわしなく頷きながら、クレイは腰をゆっくりと押し進める。  
「く……っ、んっ、んんっ」  
 ぺたりとくっついたものを剥がすような、狭いところを無理に通ろうとしているような感触だけれど、不思議にそんなに痛みは感じない。  
 ただ圧倒的な圧力がそこにかかっているのはわかるんだけれど。  
「奥に当たる? よし、パステルの顔色をちゃんと見ながら、そーっと動かして」  
「いい……かな、パステル」  
「う、ん」  
 何がいいのか。自分でもよくわからないけど頷く。  
 細心の注意を払っているような真剣な表情で、クレイが腰をわずかに引いた。  
 ずず、とお腹の中が擦られているようなひっかかりとわずかな痛み。  
 微かに寄せた眉根を見たクレイは焦ったように腰を止めてくれたけれど、また少しずつ、少しずつ動かし始める。  
「ぁ……ぁん……んっ」  
 じわじわと押し広がるような快感に流され、さっきから感じていた痛みはその底辺にほんの少しの苦味のように残っている。けど、気持ち……いい。  
 背後から両脚を支えていた手が離れ、両胸を包み込んだ。  
 下から持ち上げるように揉みながら先端を弄くる指に、胸とあそこの両方から責め立てられて喘ぎ声が抑えられない。  
「あ、はぁ……あっ、や、ぁあっ」  
 わたしとクレイのつながったところから、愛液がとろとろと漏れ出して太腿にぬるく伝い、腰の動きに合わせて飛沫になって散る。  
 動きを押し殺すみたいにそおっとだった腰の動き。それが段々と早くなってきたと思うと、苦しそうなクレイの両手がわたしのウエストを掴んだ。  
「パステル、パス……テル、もうおれっ……!!」  
「ぁあん、クレ……イぃっ……」  
 思い切り強く突きこむと同時に、クレイが体を震わせて動きを止めた。  
 お腹の奥の方にどぼっとなにか注ぎ込まれたみたいに熱い。  
 アルテアに倒れこむように体を預けると、厚い胸がわたしの背中を受け止めてくれた。  
 乾いた手のひらがやさしく額の髪をかきあげる。  
 
「大丈夫? パステル」  
「は……い」  
「クレイ、早い」  
 
 アルテア、ちょっとこのタイミングでそれは……  
 
「そんなこと……言われても……無理だよ」  
 
 ゼエゼエ荒く息をついていたクレイは、恨みがましい目でアルテアを見ると、わたしから体を離してベッドの端にごろんと横になってしまった。  
 裸の胸が呼吸に合わせて上下している。  
 
「まぁ初めてだしね、仕方ないけど。パステルはもう……満足かな?」  
「え? あ、やっ」  
 伸びてきた指がわたしのそこを確認するように探った。  
 指の行き先は、ほんの少し半開きの、濡れそぼってまだ熱い入口。  
「まだこんなに。足りないんじゃない? ほら」  
「あっ、あん、あぁぁん……っ」  
「かわいい弟のフォローは、やっぱり兄がしなきゃいけないよね。さ、手ついて」  
 
 抱きしめられていた体を前に少し倒され、四つんばいになるように促される。  
 お尻をそのままアルテアに向ける姿勢が恥ずかしいけど……抗えないのはこの火照るからだのせいだと思う。  
 わたしは言われるがままに両手をベッドについて目を閉じた。  
 暫しの空白の時間に思わず振り返り首をひねって見上げれば、とろりと色っぽさのにじんだ眼差しがわたしを見つめていた。  
 赤い舌が軽く唇を舐める。  
「あーそそられる。そんなせがんじゃって」  
 大きな手がわたしの腰骨をがっちりと押さえ、太くて堅いものが、クレイに潤されたわたしのあそこへめりめりと押し込まれてきた。  
「あぁ、んっ、はぁん」  
「まだきついなあ……クレイのが入ってるからまだましか」  
 つぶやきながらゆっくりと自身を進めるアルテア。  
 ぷっくりふくれている充血した襞を巻き込みながら、時々中をかきまわすように動かされる。  
 じゅぶ、じゅぶっと湿った卑猥な音。  
「ぁん、あん、あぁ……はぁ……ぁっ」  
「可愛いよ……パステル」  
 背中にキスの雨を降らせながら、ゆっくりと、でもわざと乱暴にしているかのように強く、後ろからわたしを犯すアルテア。  
 肌同士がぶつかる音とわたしの喘ぎが静かな部屋に響き、アルテアが腰を動かす速度があがるにつれて目の前が白くなっていくような気がした。  
「だめ、な、んか、へ……んに……」  
「イキそう? いいよ、変になっても」  
 アルテアの少し乱れた呼吸。  
 いつの間にかすぐ前にいたクレイの唇が降ってきた。  
「ぁむっ、んっ」  
「パス……テル……」  
 舌を貪るようにキスしながら、わたしの名前を囁くクレイ。  
 アルテアは腰をリズミカルに動かしながら片手を伸ばすと、クリトリスを摘むように指先で弾いた。  
 
「やぁ、あああっ、だめ、だめぇ、も、あぁ、やあああぁんっ……!!」  
 思い切り喉の奥から叫ぶと、耳の奥でぱしっと何かが弾け飛んだような音がした。  
 一面スパークしたみたいにチカチカして、まぶたの裏がじんじん熱い。  
 やっと視界が落ち着いてくると、わたしはアルテアの腕の中に抱きしめられていた。  
 髪をなでてくれているのはクレイの手だろうか。  
 
「大丈夫? ごめん、初めてなのに無理させたかな」  
「うう……ん」  
 力なく首を振る。  
 しばらくわたしを落ち着かせるように抱いていたアルテアは腕を解くと、いつの間にか身に着けた下着姿で立ち上がった。  
「パステル、シャワー浴びておいで。俺達はあっちの部屋のを使うから」  
「え、アルテア兄さんと一緒に?」  
「へーえ、俺とじゃ嫌とでも?」  
「嫌とかじゃないけど……」  
 すごく嫌そうな顔してるよ、クレイ。  
 気持ちはわからないでもないけど。  
「俺達は男同士の会話があるからね」  
「何だよそれ」  
 不承不承といった感じで部屋の入口に追いやられたクレイが、続き部屋への仕切りをくぐった。  
 続いて布を捲ろうとしたアルテアは、ふと思い出したように戻ってくると、座り込んだままのわたしの傍で身を屈めた。  
「今度はふたりで……ね?」  
 それだけ言って踵を返すと、彼は仕切りの向こうへ消えた。  
 すぐシャワーの音が聞こえてくる。  
 
 唇を軽く曲げて笑ったアルテアは、なんだかとっても……大人っぽかった。  
 
 
 

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