初めて見た男性の……その、何て言うんでしょうか。それに対する感想は、まあ少なくとも綺麗とはたくましいとか、そういう「いい感想」じゃなかったのは確か。  
 生々しいって言うか……うーんはっきり言っていいだろうか? グロテスク。多分これが一番ぴったり来る。  
「おい、何だその目つきは。言っておくがこれでも俺は自分の身体にはそれなりに自信があるつもりなんだが?」  
「言ってやるな、ダンシング・シミター」  
 とても直視することはできなくて目を伏せるわたしを見て、ダンシング・シミターは不愉快そうな顔をし、ギアは慰めるように髪を撫で続けた。  
「初めてなんだろう? パステル、無理しなくてもいい。怖かったら、目を閉じていればいい。俺達に任せておけばいいんだ」  
「う、うん……」  
「こう考えろダンシング・シミター。お前のが立派すぎるからパステルが怯えるんだ」  
「ふん。そんな調子でよくもあの店に行こうなんて考えたもんだ」  
 ギアの言葉に不本意そうな言葉を並べつつ。悪い気はしなかったのか、ダンシング・シミターはちょっと嬉しそう。  
 ああ、そう言えばトラップとクレイが前に何か言い争ってたような。どうせ身体でお前には敵わないとか俺のはお前より小さいとかだから女はみんなお前を選ぶとか何とか……  
 最初、わたしは「何を言ってるんだろう」と呆れたものだけど。今思い返すと……  
 大きい、小さいってもしかしてこのことだったのお!?  
 ああ、何だかショック。トラップ達に限って、とは思っていたけど。彼らもやっぱり男の子なんだねえ……  
「パステル、どうした?」  
「あ、う、ううん、何でもない」  
 ああ、何だか急に気が軽くなってきた。  
 馬鹿馬鹿しい思い出に浸ったせいか。さっきまでごちごちに強張っていた身体が、少しほぐれて来るのがわかった。  
 多分に、「どうもトラップ達もとっくに経験済みらしい」ということに気づいてしまったのが原因なんじゃないか、と思うけど。  
 そうだよねえ。よく考えたら、わたし達の年で既に親になってる人達だって、世の中には大勢いるもんね。  
 それを考えたら、いまだ未経験だったわたしが少し遅れてたって言うか……  
 経緯がちょっとアレなのは認めるにしても。決して嫌いじゃない……ううん、むしろ好き? 尊敬してる? 二人の男性に教えてもらえるんだ、って考えたら、いいことなんじゃないかって思えてきた。  
 そう、思おう。大人な二人に色々教えてもらいながら初めてを経験させてもらえる。それってすごくラッキーなことなんだって、そう思おう!  
「ごめんね、ダンシング・シミター……お願い、続けて?」  
「……顔つきが変わったな。覚悟を決めたか」  
 目を開けて、まっすぐに正面の顔を見据えると。覚悟が伝わったのか、ダンシング・シミターは、にやりと笑った。  
「いい顔だ」  
 そう言って、彼は、妙に滑らかな手つきで、わたしのブーツと靴下を脱がせた。  
 やっぱり素足の方が楽だなあ……なんて思っていると。そのままわたしの足首をつかんで、大きく押し広げた!  
 ってきゃああああああああああああああああああ!?  
「あ、あわっ! やっ、その!」  
「ぱ、パステル、暴れるな!」  
 思わずもがくと、後ろから抱きしめてくれていたギアが、ものすごーく焦った声で、言った。  
「暴れるな。大人しくしていてくれ」  
「うう、だってえ……」  
 だ、だってだって! は、恥ずかしいんですけどっ……?  
 大体こんな場所、今までトイレとお風呂以外、自分でも見たことも触ったこともない。そ、そりゃ、直接じゃなくて、下着越しではあるんだけど。  
 無理やり太ももを広げられたせいかな? 薄い布地が、段々と割れ目に食い込んでいくのが自分でもわかって……!  
 熱い視線を感じた。恐々と視線を下ろすと、ダンシング・シミターが、身じろぎもせず、食い入るように「ソコ」を見つめていた……  
 
 ひっ!  
 じわり、と、身体の内部から何かがにじみ出るのがわかった。  
 何だろう、この感覚。トイレに行きたい……っていうのとは、ちょっと違う。あれは、我慢しようと思えばいくらかは我慢できる。  
 でも、今は駄目だった。どれだけ我慢しようとしても……ううん、我慢しようとすればするほど? 内部で灯った熱は、強さを増した。  
 じわじわと奥深くから何かがにじみ出ようとしている。それを自分では止めることができない。見られてるってことはわかってるのに、それがすごく恥ずかしいことだってわかってるのに……  
 恥ずかしいって思えば思うほど熱くなるのは何で!?  
「ひゃあっ……やっ……み、見ないで……うう……」  
「パステル……」  
 わたしの様子に気づいたのか、ギアは困ったような声をあげて……やがて、乾いた唇を、わたしの首筋に押し上げた。  
「あっ……」  
「目を閉じて、黙って、パステル」  
 ちゅうっ、と、小さな音と共に、首筋に熱い刺激が走った。  
「素直に、無理に逆らおうとするな。身体から力を抜いて」  
「う、うん……」  
 目を閉じる。またまた強張ってしまった身体を何とかほぐそうとすると、ギアの唇が、ゆっくりと背中に降りてきて……同時、骨ばった手が、胸にあてがわれた。  
 うひゃっ!  
「うっ……やっ、くすぐったい……ギア、くすぐったいよっ……」  
「黙って、少し我慢していてくれ」  
「だって……」  
 さっき、ダンシング・シミターに軽く触れられた胸。今度は、そこにギアが触れている。  
 強い刺激じゃなかった。痛くも何ともなかった。ゆっくり動き出した指先が、円を描くように中心部へと向かっていく……そんな、動き。  
 次いで、ただ足首をつかんだまま動こうとしたダンシング・シミターの手も、動いた。  
「感度は十分なようだな。いいことだ」  
「わわっ!?」  
 一瞬だけ、沈黙が走った。薄目を開けてみると、どうもギアに目配せを送っていたらしい。  
 あれ? と思うと同時、膝を抱え上げられ、そのまま前に引っ張られた。  
 うひゃっ!  
 ずるっ、とシーツの上でお尻が滑った。さっきまでギアの胸に預けられた背中は、今はベッドに預けられ。下半身だけをダンシング・シミターに抱えあげられているという、何とも中途半端な状況。  
 さっきまで背後にあったギアの顔が、今は天井と並んで見える。覗き込まれている、ということを理解するまでに、少し時間がかかった。  
「ギア……ダンシング・シミター……?」  
「熱いか?」  
「う、うん」  
 質問に素直に頷くと、そうか、と軽い答え。  
 そして……  
「うっ……ん!?」  
 ダンシング・シミターの唇が、つまさきに触れた。  
 そのまま足首、ふくらはぎ、膝へと、徐々にキスが上ってくる。  
 ついで身体の中心を貫いたのは、感じたことのない、鋭い刺激。  
 
「んんー!?」  
 けれど、悲鳴を上げることはできなかった。わたしの唇は、ギアに塞がれていたから。  
 さっきよりも浅い、その代わり長い、そんなキス。その間にも、襲う刺激は、強くなるばかりで弱まることはない。  
「ん、ん、んんっ!?」  
 びりびりと、電撃のような刺激が走った。  
 ごつい指が、下着の隙間にねじいれられた。そのままスリットをかきわけて、表面をなぶるように踊っていく。  
 内部に入ろうとはしない。それなのに、ああそれなのに! ぐちゅっ、という湿った音がやけに大きく響いて、わたしの頭は軽いパニック状態!  
 な、何なに! この感覚はなに!  
「んんっ……」  
 我慢できなくて、無理やりに唇を開こうとすると、あわせてギアの唇が軽く開かれた。  
 どうしてそんなことになったのかわからない。けれど、わたしの舌は自然とギアの中へと引き寄せられ、熱く彼の舌と絡み合った。  
 しようと思ってやったわけじゃなく。ただ彼が欲しかった。もっと熱く繋がりたいと、そう思ってしまった。  
「ふっ……んっ……」  
 所在をなくした腕を、ギアの腕が抱え込んで、そのままキスが深められた。ぴん、と張った胸に時折軽く触れながら、ただ、わたしの身体を優しく撫で続けた。  
 対してダンシング・シミターは無言でわたしの内部を攻め立てた。ぐちょぐちょという音は大きくなるばかりで、さっきまでは「にじみ出る」だった刺激がやがて「あふれ出る」に変わり、シーツを湿らせていくのがわかった。  
 これが……快感……?  
 軽く背中をのけぞらせると、待っていた、といわんばかりに、指が内部へと吸い込まれていった。  
 最初は一本。やがて、二本、三本……  
 かきまわすような動きは、まるで頭の中をかきまわしているかのように、ダイレクトな刺激を与えてきて、目の前が真っ白にスパークするのが、わかった。  
「んんーっ!」  
 びくん、びくんっ! と、身体を貫く感覚に、背中が浮いた。  
 一瞬の硬直と弛緩。それと同時、ギアとダンシング・シミターは、同時に身体を離した。  
「イッたようだな」  
「ああ」  
 はあ、はあ……と、荒い息の下で目をあげると、二人とも軽く息を弾ませていた。  
 イッた……? 誰が? わたし、が? 今のが、「イク」ってことなのかな……?  
「これは、もう邪魔だな」  
 そして。  
 ダンシング・シミターの指が、ぐちゃぐちゃに湿った下着に引っ掛けられて、そのまま膝までずりおろされた。  
 今のわたしにはそれに逆らうこともできない。さっきまでは確かに「見られて恥ずかしい」って思っていたはずなのに、今は……  
 今は、何だか。見られても……ううん、それよりも。  
 もっとして欲しいって、そう思ってる……?  
「そろそろいいだろう。ギア、交代してやる。初めては俺よりお前の方がいいだろう」  
「ああ」  
 ぼんやりとされるがままになっているわたしを見て、ダンシング・シミターが浮かべたのは苦笑。  
 ひっかかっている下着、それとスカートが床の上に落とされる。これでわたしは完全なすっぽんぽん。もはや隠すものは何もない。  
 ついで、ころんと身体をうつぶせにされた。ぎしぎしというきしみ音と共に、ダンシング・シミターが頭の方へ、ギアが足の方へと回りこんでくる。ちょうど、さっきと体勢が逆転した感じ。  
「パステル。尻をあげてくれるか?」  
「え、ええ……? あの……」  
「大丈夫、恥ずかしがることはない。それに、その方が、きっと君も楽だと思う」  
「う、うん。ギアがそう言うなら」  
 
 確かに、ダンシング・シミターもそうだったけど、ギアもかなり大柄だからね。受け入れるためにずっと両脚を広げているっていうのは、体勢的に辛いかもしれない。  
 というより、さっきダンシング・シミターが遠慮なく押し広げてくれたせいで、ちょっとふとももが突っ張ってたりするし。  
「これで、いいかな?」  
「ああ。可愛いよ、パステル」  
「うひゃっ!」  
 ぴちゃっ、と濡れたような音がするキス。それをお尻とその「下」に降るように浴びせられて、収まりかけていた興奮が、再び高ぶってくるのがわかった。  
「ああ……」  
「おっと、俺のことを忘れてもらっても困る」  
 お尻だけ突き出すような格好で突っ伏すわたしの肩を支えて、にやり、と笑ったのはダンシング・シミター。  
「ギアに最初を譲ってやったんだ。少しは俺にもいい目を見させてもらわんとな?」  
「うー……ど、どうやって?」  
 両腕をベッドについて、いわゆる四つんばいの格好になると、ダンシング・シミターはベッドの上で膝立ちをしていた。  
 そうすると、ちょうどわたしの顔の前に来るのは、ダンシング・シミターの……  
「手でも口でも構わんぞ、お前の好きな方で。この意味はわかるか?」  
「…………」  
 こくん、と頷くと、「いい子だ」と頭を撫でられた。  
 ついでギアの手が、わたしの腰を支え。熱い塊を、お尻に押し付けてきた。  
「……いいか?」  
「ああ。こっちの交渉はまとまった。さて、どうする?」  
 どうするも何も。この格好で「手」は使えない。だったら、こうするしか……ない。  
 さすがにちょっと怖かったけど。でも、ここまで来てしまったら、もういいか……という気分になっていた。  
 何事も経験とはよく言ったもの。今のわたしに羞恥心はあまりない。それ以上にあるのは……未知の経験に対する、好奇心?  
 そそり立つモノに、軽く唇をあてがう。頭上から響いたのは「うっ!?」といううめき声。  
 へえ、あの人もこんな声が出せるんだねえ……と思うと、何だか面白くなってきてしまって。  
 わたしは、大きく口を開くと、そのまま、ダンシング・シミターのモノをくわえこんだ。  
 同時、強い衝撃が、下半身を貫くのがわかった。  
 
「んんんーっ!」  
 そこは十分に濡れて柔らかくなっていたはずだけど、やっぱり、ちょっとだけ痛かった。  
 最初は先端だけ。やがて、わたしが暴れないってことがわかったのか、少しずつ奥へ。  
 うわっ……何だろ、これ? 辛い苦しいすごく痛いって話だったけど、それって絶対嘘だよね?  
 すごく……熱くて。気持ち、いいよ……?  
「ん、ん、んっ!」  
「ほら、口がお留守になってるぞ」  
「んんーっ!」  
 悲鳴ともうめき声ともつかない声をあげてもだえていると、ダンシング・シミターの手が頭を小突いた。  
 わかってるよう、と抗議の視線だけ向けて、そっと舌を動かしてみる。  
 初めて頬張ったソレは……まあ、美味しくはなかった。それは、確か。  
 でも、何だろう? 食事として味わったのなら、絶対に「まずーい」って言って吐き出していただろうけど。  
 今、こういう場面で、感情に振り回されるようにして味わったソレは、何とも言えない満足感を、わたしに与えてくれた。  
 
「ん、ん、んっ!」  
「そう……それでいい……もっと舌を動かせ。そうだ。苦しいなら無理をしなくていい。飲み込むんじゃない。口の中で転がすと考えろ……いいぞっ……」  
 ずん、ずんっ! と、リズミカルにギアの腰がわたしのお尻に打ちつけられる。  
 溢れる雫が太ももを伝いながら辺りに飛び散るのがわかった。本当ならギアの名前を呼びたいところだけれど、口がふさがっているからそれは叶わない。  
 だから代わりに、一心不乱に舌を動かした。内部でうごめくソレに巻きつけるようにして、ときに吸い上げるようにしながら、ダンシング・シミターへ感謝の思いをぶつけていた。  
 いつの間にか、わたしの腕は正面のたくましい脚にすがりついていた。砕けそうになる腰を震える太ももで支えながら、ただ、行為に夢中になっていた。  
 やがて……  
「くっ……パステル、出る、ぞ」  
「ん、ん、んーっ!」  
「っ……こっちも限界だ!」  
 どんっ、と、ギアの腰が突き放された。  
 自然前に倒れこむようになると同時、喉の奥に、苦い刺激がほとばしった。  
「んぐうっ!?」  
「くっ……お、お、うおっ!? おい、大丈夫か!?」  
「ん、んん……」  
 どくん、どくんと、口の中いっぱいに熱くてべとべとした感触が広がっていった。  
 ダンシング・シミターも焦ったのかな? 慌ててわたしの肩を小突いたけれど、わたしは、意地でも離れなかった。  
 最後まで刺激を受け止める。大分唇の端からこぼれおちた白い雫を、何とか、飲み下して。  
 勢いを失ったソレをゆっくりと舌で綺麗にして、顔を上げた。  
「あ、あの……」  
「……驚いた。初めてでよくそこまで」  
「うう。ごめんなさい」  
「いや、謝ることはない。そこまで期待はしていなかったからな。役得だ」  
 うつむくわたしの頭をわしわしと撫でて、ダンシング・シミターが浮かべたのは、爽快な笑顔。  
 そして。  
「おいギア。お前はどうだった」  
「……大したものだったよ」  
 だるい身体を何とか起こして、振り向く。ギアは、ベッドに突っ伏すようにして、ぜいぜいと荒い息をついていた。  
「正直……持たせるのに苦労した」  
「ふん、俺と対抗しようなんざ十年早いってことだ、若造が」  
「大して年は違わんだろう」  
 言いながら上半身を起こしたギアは……何だろう。申し訳なさそうな、それでいてすごく満足そうな、そんな顔をしていた。  
「どうだった、パステル?」  
「え、え? どう、って」  
「痛くはなかったか?」  
「う、うん! それは、大丈夫!」  
 痛くなんて、全然。むしろ、すごく気持ちよかったです……って、言っちゃっていいのかなあ。  
 思わずベッドの上に正座して。わたしは、今更「かあっ」と頬を染めた。  
 いや、正直……ね? ギアを受け入れたその場所、まだ何て言うのか、熱くて。ギアとダンシング・シミター、二人がたっぷり可愛がってくれたからかな? って思うと、ますます、その……  
「お……」  
 そして、わたしの様子に気づいたのか。  
 脇から覗き込んできたダンシング・シミターが、実に嬉しそうな声をあげた。  
「どうやら、俺達が雇った女は、まだまだ働く気十分なようだ」  
「え、ええ!?」  
「ふん、当然だ。まだ俺は下の方を味あわせてもらってないからな。少し休んだら第二ラウンドだ」  
「あ、あの……」  
「安心しろ。俺のは、ギアよりいいぞ?」  
 
 そんなこと言われて、何て答えればいいのよう……  
 困っていると、微かに不機嫌そうな顔をしたギアが、ずいっ、と立ち上がった。  
「……痛い思いをさせたら俺が止めるからな」  
「そんなヘマをすると思うか? そういうお前こそ物足りなさそうな顔をしているな。第三ラウンド以降は追加料金が必要なんじゃないか?」  
「いくらでも払ってやる」  
 ギアも止める気はないんだね。とほほ……  
 い、いや、嫌じゃないよ? だって、確かに……疲れてはいるけど、動けない、ってほどじゃないし。何よりも、身体が……まだ、熱い。興奮が、冷めない。  
 だけど、だけど……何だか、自分が自分じゃなくなっていくのが怖い、って。そう言ったら、二人は笑うだろうか!?  
   
 一度最後まで「イッた」からだろうか?  
 ダンシング・シミターは、確かにギアよりは長くわたしの中にいた、ような気がする。  
 さっきは四つんばいだったけど、今度はあぐらをかいたダンシング・シミターの上にわたしがまたがるような形。  
 その格好で正面に立つギアのモノをくわえるのはなかなか大変だったけれど、その分、満足感は高かった。  
 座り込む形のせいか、つながりはずっとずっと深かったし。ダンシング・シミターは、彼も彼で休むことなくふとももやら胸やらへ愛撫を続けながら、背中に熱いキスマークをいっぱいつけてくれて、快感もずっと強かった。  
 だから、かな? それとも二回目だから? ギアに対する舌使いもさっきよりずっと情熱的になって、最後は彼に「も、もう勘弁してくれっ!」て悲鳴まで上げさせてしまった。  
 うーん、これって成長……って呼んでいいのかなあ……?  
 ダンシング・シミターに続いてギアのものを飲み下しながら、わたしはぼんやりと考えていた。  
 もっとずっとこうしていたいっていう思いと、そんなわけにはいかないっていう冷静な思い。  
 相反する感情に振り回されながら、行為の中に、溺れていった。  
   
 契約は一晩、っていう話だったけれど、わたしもすごーく疲れていたからそのまま眠りたかったけれど。夜中になって、ギアが「宿まで送っていく」って言い出した。  
 泊めたら一晩で我慢できそうもない、という言葉に、ダンシング・シミターは呆れ顔で「好きにしろ」とだけ言った。「ただし、俺はもう寝る。さすがに疲れた。行くならお前一人で行け」と付け加えて。  
 で、今。わたしとギアは、並んで宿への帰り道を急いでいた。  
「……悪かったな、パステル」  
「悪かった、って?」  
「いや、その……こんな形で……その、何だ。あんたの窮状につけこむような真似して、悪かった」  
「そんなこと……」  
 ふらふらする身体を、ギアがしっかりと支えてくれた。  
 今日、何回二人の身体を受け入れたのか、正直覚えていない。最後は、ベッドのシーツなんて目もあてられない惨状になってて、ダンシング・シミターとギアで「誰がシーツの交換を申し出るか」なんて話でもめていたくらい。  
 確かに、今になって冷静に考えると……本当によかったの? どんな理屈をつけようと、お金のためにこんなことして、本当に正しかったの? なーんて心の声も聞こえてくる。  
 でも少なくとも、わたしは後悔はしていなかった。  
 ポケットの中で握り締めたお財布には、ギアとダンシング・シミターが少し多めに払ってくれたお金が入っている。  
 いい、って言ったのに、二人とも聞き入れなかった。予想以上に働いてもらったんだからサービスするのは当然だって、そう言った。  
 これだけあれば、少なくともこの冬は乗り切れる。そのことにもホッとしていたし。  
 それ以上に……  
 
「……こんな形ででも。ギアと……こういうことになって、わたし、嬉しかった」  
「パステル?」  
 言おうか、言うまいか、ずっと迷っていた。  
 でも、言わなかったら、生真面目なギアのことだから、ずっとわたしに謝罪を続けるかもしれない。後悔、するかもしれない。  
 それが嫌だったから。わたしは、素直に伝えることにした。  
 自分の本音を。  
「本当は……以前プロポーズされたとき、すごく嬉しかった。うん、って、すぐにでも言いたかったよ? だって、好きだったから」  
「パステル……」  
「でも……ギアは言ったよね。わたしが冒険者をやめるって言ったら、ガイナに行く、自分も冒険者をやめるって」  
「…………」  
「でも、あの後、わたし気づいちゃった。わたしはまだまだ冒険者を続けたい、パーティーのみんなとも別れたくないって。でも、きっとプロポーズを受けてしまったら、それは叶わないから」  
 わたしとギアがよくても、パーティーのみんながきっと迷惑するだろう。ぎくしゃくするだろうし、誰かさんあたりは「中途半端な気持ちで冒険者をやるんじゃねえ」って怒るだろうし。  
 どっちかしか選べなかったから。わたしは、ギアを諦めるしかなかった。一度諦めてしまったのだから、もう一度……なんて虫のいいことは言えないって、そう思っていた。  
 けれど。今日……わたしは、ギアと一つになることができた。  
 恋とか愛とか、そんな重い関係じゃなくて。お仕事として。今夜限りの関係を、ギアと築くことができた。  
 明日からは、また元のように冒険者としてパーティーのみんなと笑いあうことを許される、そんな関係を。  
「勝手なこと言って、ごめんね。でも、わたし後悔はしていないって、それだけ伝えたかったんだ」  
「……パステル……」  
 俺は、と言いかけるギアを制して、わたしは笑った。  
「ダンシング・シミターにも感謝してる。あの人は、きっとわたしの気持ちをわかってくれていたんだね。初めては、全部ギアに譲ってくれた」  
「…………」  
「ああ、この人……最初は敵として出会ったけど。でも、本当はこんなにいい人なんだなあって思ったら……そうしたら全然嫌だなんて思えなかったよ。だから、そう伝えて」  
「……ああ」  
「パーティーのみんなを助けることができて、わたし、本当にホッとしてる。本当に感謝してる。ありがとう、って」  
 それが、けじめの言葉のようなもの。  
 今日のことを二度と口には出さない。二度と思い出さない。全て今夜限りの思い出として、胸の中に秘めておきましょう、と。そんな思いをこめて口にした、言葉。  
「ああ、わかったよ、パステル」  
 わたしの気持ちは、伝わったんだろう。ギアも、それ以上は何も言わなかった。  
 いつの間にか近くに見えてきていた、みすず旅館の明かり。こんな時間なのに宿の中は明るくて、きっとみんなが、わたしの帰りを待っていてくれるんだろう、ってことがわかった。  
「さよならだ、パステル」  
「うん、さよなら」  
 今度は、別れのキスさえなかった。  
 ぽん、と肩を叩いて遠ざかって行くギアの背中を見送った後、わたしは、深呼吸して、みすず旅館の入り口に手をかけた。  
 大丈夫。涙は出ていない。悲しくも寂しくも、ない。  
「――ただいまあ!」  
 

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