クロスボウを改造する為に、トラップはどこから集めてきたのか強化パーツを持ってパステルとルーミィの部屋に入った。
手のかかる作業だから邪魔にならないようにノルがルーミィをつれて散歩に出かけていったので、しーんと静まりかえっていた。
その静けさが気になるのかわざとドッカりと椅子に座りトラップが口を開く。
「やり方教えっからアンタがやんな」
トラップにしては律儀に工具の柄の方を向けてビシッとパステルに手渡した。
「えぇ〜っ!?トラップがやるんじゃないの?」
パステルは眉をひそめて抗議するが
「甘い!甘い!甘い!ホレ銃床から弓を外す!」
トラップに圧倒されてパステルはぶつぶつ言いながらも、バラしたパーツを机に広げ一個一個とにらめっこするパステル。
「だーぁらフロントサイトはそこじゃねぇっつーの照準が狂うだろ?レールと平行だっての」
「そんないきなり言われたってわからないわよっ!!」
「あぁん?マッパーなんだろ?ちゃんとやれよ」
「んもー部品の名前すらわからないのに!というよりマッパーと関係ないじゃない」
何度も何度も説明を受けて半泣きになりながらも、パステルはやっとこさ組み上げていくのでトラップはベッドに横たわって見ていた。
「ちょっと!トラップ何寝ころんでいるのよ」
「あぁー?オレが見ていないから寂しいってか?」
にやけ顔で言うも
「何それ?それよりほらココ!」
パステルにあっさり冗談を切り捨てらて、ブスッとしながら差す方を見ると、あとクロスボウの弓と弦の部分の接続するだけとなっていた。
しかし弓のポンド数が強化されているからしならせて繋ぐのにはパステルの力だけでは無理だった。
「ここが堅くてできないのよゴメンねお願いできる?」
「んだよしょーがねーな!ホレ俺がここを押さえっから繋げてみそ」
トラップはパステルを背後から包むかのように長い両腕を伸ばし、グイと弓の部分を押さえる。
薄着なので肌の温度が伝わる。夢中で弦と格闘しているパステルの横顔の間近にトラップの顔があり、弓をしならせようと腕に力を込めると頬と頬が触れ合って柔らかい感触がした。
カチリとパステルが弦を張るとトラップは頬を離した。
「できたートラップありがとう」
最後は手伝ってもらったがパステルが自分でやった事でうれしさもひとしお振り向いて笑顔をトラップに向けようとしたその時だった。無意識のうちにトラップはそのままパステルを抱きしめていた。
カタンと工具が床に落ち静かな部屋にひびく。
なんぼ鈍いパステルも自分の置かれている状況が把握できたのか赤面していく。
お互いの鼓動がうるさいくらいに伝わり長いようで短い抱擁からパステルを解放した。
「あ、あの…トラップ?」
うわずったようにパステルは言うのを遮るように
「ホレ、クロスボウ貸してみな細かいサイト調整してやっから。そしたら訓練やんぞ」
というと、トラップはパステルの頭をぽんと叩いてクロスボウをもって部屋に戻ってしまった。
夜になり、夕食も済むとルーミィとシロちゃんは早々に寝てしまった。
パステルはとうとう夕食の時間トラップと顔を合わせることがなかったが、自分から訓練を申し出た手前、約束通りに大きめのカンテラを持って外にでた。
(そうよね!トラップの気まぐれよねあれは。よし!戦闘で足手まといにならないようにがんばらなきゃ)
外に出るとトラップが待っていた。
木には的が既に設置されている。
「じゃあ矢をセットしてこっから、この的に当ててみそ」
トラップがいつものトーンで話すからパステルも気が楽になったのか、クロスボウに矢をセットする。
パワーを上げるとセットするのも大変になってくるので、フットレバーに体重をかけて装填する。
「よし!できた」
パステルが的に向けて構える重さは従来より少し重いがなんとか構え、トリガーを引く。
バシュッ
ガサッ
「きゃあ」
反動でパステルが尻餅をつき、矢は大きく外れた。
「言うの忘れてたけど、威力が増えた分反動もすごいぜ?」
「言うの遅いわよっ!!」
パステルはスカートのほこりを払いながらもう一度装填して構える。
(前はトラップに上を狙えっていわれたんだよね)
前の通りに上を狙ってトリガーを引く。
バシュッ
ヒュッ
風切り音とともに矢はカツンという音と共に、木の上の方に刺さる。
「あれ?」
「おめぇ上ねらったのか」
「なんで判るのよ?」
「あのなぁー弓は威力が上がると軌道は山なりじゃなく直線に近くなんだよ」
トラップは地面に拾った小枝で絵をかき説明する。
「だってトラップが今まで¨上狙ってみそ¨って言ってたから」
パステルがトラップの真似をしながら言うと、心なしか笑みをこぼしながらトラップは軽くパステルを小突く。
「あと、反動があるからブレるっていうのかな?手が動いちゃうんだけど」
「あぁん?そんなもん筋トレしろよ!今日は支えてやっから構えろよ」
支えてもらって撃つが、支える前よりもあらぬ方向に飛んでしまい、矢のストックも尽きてしまった。
矢を拾っては撃ちの繰り返したが、結果は散々なものだった。
「やっぱりもう訓練できない…ゴメンね私から言っといて」
飛んだ矢を回収しながらパステルは言った。
あきらめたような、そんな言い方のパステルにイラ立ちながらトラップがパステルの肩につかみかかる。
「あんでだよ理由を聞かないと納得できねぇーよ」
「…トラップに触られてると昼間の事…意識しちゃってちゃんと撃てないのよ…」
パステルの顔がカンテラに照らされると、真っ赤になりながら泣きそうな、恥ずかしそうな複雑な顔をしていた。
「昼間は悪かったな…
抱きしめたらどんな反応するか…怖くて急いで部屋に戻っちまったんだ。反応みて告白しようか、冗談ですませようかそんな下らねーこと考えてたんだ」
カンテラは燃料がなくなり火がゆらゆらと尽きようとしている。
トラップの表情が読みとれないぐらい火が落ちるとトラップは意を決したように口を開いた。
「俺はおめぇが、パステルが好きだ」
つかんだ肩を引き寄せ抱きしめた。
(私も…トラップの事好き…だとおもう…ううん、きっと好きなんだ。告白されてこんなに嬉しいんだもの)
霧のようにモヤモヤしていた気持ちが晴れるかのように、パステルはトラップに触れた。
「私もトラップの事好きだよ…でもそうなると」
でも、という次に否定の言葉が続きそうな雰囲気にトラップの表情が曇る。
「でもなんだよ?」
「やっぱり触られているとドキドキすると思うの」
思わずガクッとなりそうなトラップだったが、何を思いついたのかニヤリと笑みを浮かべた。
「じゃ俺に慣れろ」
そういうと、トラップはパステルの手を引き寝室に向かった。
終わり