「わぁー」
そこにあったのは、コーベニアに着く前に見たような、枝という枝すべてに実ったコトユリの木。
満天の星空の下、見上げたコトユリの木は、見事に実った実と星々が、まるで数え切れないほどの小さな金色の実に見えた。
──パステルにも見せてあげるよ──
あれ?これって……クレイ・ジュダがわたしにいつか見せたいって言ってた光景よね!?
「約束したからな」
「え!?」
クレイの言葉にわたしの胸はドキンとする。だって、それはクレイ・ジュダがわたしにくれた約束だもの。
「ん?いや、してないよな。おれ何言ってるんだろ」
「……したの」
わたしはそう言うとクレイにぎゅっとしがみついた。
「そうだっけ……?」
「そうなの!」
クレイが口にした約束はあなたからの合図だと思ってる。
だから、いいかな?
わたしもここから歩きだしても。
しばらくの間、わたしたちは、その見事な光景に見とれていた。
「パステル」
「なぁに、クレイ?」
「あのさ……。このタイミングで言うのはズルい……かな?」
「どうしたの?」
「……おれが、パステルを……好きになってもいいか?なんて」
うそ!?クレイがわたしを!?
……すごく嬉しい……だけど。
「……うん、クレイはズルいよ」
「はは……」
「だってそんな中途半端な言い方して、ちゃんとこっちを見てくれないんだもの。ズルいわよ」
「……ごめんな」
クレイは赤くなったまま、顔を伏せた。
「キス、して」
「パ、パステル?」
「きっと、口で言うより、ずっと……クレイの気持ち、わかるから」
「わかったよ……」
そっと、わたしの頬を撫でるクレイの大きな手。彼の鳶色の瞳がわたしを見つめる。
どちらともなく瞳を閉じて……。
まるで星が降りそうな夜。コトユリの木の下で、わたしとクレイは初めて唇を合わせた。
少しぎこちなく優しく柔らかく何度も重なる唇。だけど、徐々にわたしたちの鼓動は重なっていくみたい。
クレイがギュッとわたしを抱きしめる。
わたしはクレイの腕に包まれながら、唇からクレイの想いを受け取る。
心が暖かく包まれていくような感覚にわたしは砂糖菓子みたいに溶けちゃいそう。
「こ、こら、パステル」
「どうしたの?」
「おれが気持ちを伝えるキスなんだから……おまえから舌を入れるなよ」
クレイってば苦笑い。
「……伝わったから、応えたの。ダメ?」
「ダメじゃないよ……」
深みに落ちていくキス。
わたしたちはまず唇から愛し合い始めた。
言葉がなくても伝わる想いが心を満たしていく。
またここから始めよう。
今度こそ、幸せになろうね?
ねぇ、クレイ。
時をこえた想いは未来への翼。
だから、ずっと忘れない。
わたしは、あなたの過去も未来も愛してる。
心の中で、そっと呟いた。
遠い昔にあなたも同じ場所で見た、降りそうな星空の夜、コトユリの木の下で。
おわり