クレイ・ジュダはわたしをデッキへと連れ出した。 
月明かりが幻想的に浮かぶ夜。 
デッキにはもう人影はなかった。 
「パステル、こっちに来て」 
「クレイ?」 
わたしはわけがわからないまま、クレイ・ジュダにさらに引っ張って行かれる。 
クレイ・ジュダってば、どこに連れて行く気なんだろ? 
わたしはズンズンと歩いていくクレイ・ジュダにただついていくしかなかった。 
「パステル」 
「ひゃっ!?」 
わたしは突然、デッキの端の柱と柱の間のくぼみに押し込まれた。 
な、なに? 
「ん……っ」 
クレイ・ジュダはそのままわたしを抱きしめて唇を合わせる。 
それは、すぐに舌を絡ませる深いキスになって、彼の手はわたしの体をまさぐり始めた。 
触られた瞬間、もう条件反射のようにわたしの体は熱くなる。 
的確にわたしの感じやすい場所を攻めてくるクレイ・ジュダの巧みな指先の動きに、わたしは外なのも忘れて声をもらしそうになってしまった。 
「ク、クレイ?……んんっ」 
再び唇を塞がれる。 
スルリと下の方に降りてきたクレイ・ジュダの手がわたしの腰をグイと抱き寄せて……わたしの敏感な部分に堅いモノが押し当てられる。 
クレイ・ジュダはわたしのウエストを押さえて強く強く敏感な場所同士を押し付けたまま、前後に腰を動かし始めた。 
服越しだけど与えられる強い刺激にわたしは腰が砕けそう。 
ぐりぐり押し付けられる刺激と、彼が堅く、逞しくなっているという想像がわたしの理性を揺さぶる。 
ど、どうしよう……外なのに……最後までしたくなっちゃうよ……! 
「ん…っ、んんっ」 
気が付けば、わたしもクレイ・ジュダの腰に手を回し、二人が強く押しつけ合えるように強く抱き寄せ、腰を動かしていた。 
「んん…っ」 
クレイ・ジュダは空いてる方の手をわたしの服の中に侵入させ、胸のふくらみをもみ始める。 
クレイ・ジュダも最後までしたいのかな……外なのに……。 
このままじゃ止まれなくなっちゃうよ。 
「ん…、あぁ…っ」 
「はぁ…はぁ…もっと…気持ちよくしてあげる…パステル…」 
「あぁぁ…っ」 
わたしの服を捲り上げると、クレイ・ジュダはわたしの胸の先端を吸い始めた。 
もう片方は、指先で摘まれながら先端をこすられて……体の真ん中に集まる快感にアソコもビクンビクンとなっちゃう。 
「パステル」 
クレイ・ジュダはわたしの前に、ひざまずいて、わたしの手を取った。 
そして、おもむろにその指を舐め始める。 
わたしの指がクレイ・ジュダの唾液に濡らされていく。 
「ほら、塗れた指を、おれの舌だと思って自分でおっぱいを揉んでごらん……」 
「あ…っ、はぁん……っ」 
わたしはクレイ・ジュダの唾液で濡らされた指先で、彼の舌の感触、指使いを思い出しながら、自分の胸を愛撫し始めた。 
こんな所……いつ誰が来るかわからないのに。見られるかもしれないのに。わたしの指先は自分の胸のふくらみをまさぐるのに夢中になってる。 
それはさらに体を熱くする行為で、わたしの体を巡る快感は逃げ道を求めていた。 
早く……頂点に昇りつめたいよぉ……。 
「いい子だ……自分で気持ちよくしてる姿も綺麗だね」 
クレイ・ジュダは優しく微笑むと、わたしの下着に両手をかけて一気に下ろす。 
わたしは自然と片足を少し上げて、脱がせやすくした。 
「いやらしいな……誰かに見られるかもしれないのに」 
わたしの前にひざまずいたまま、クレイ・ジュダはわたしが胸をまさぐってるところを見上げてる。 
「はぁ…ん」 
クレイ・ジュダは、それから目を離さずに、わたしの中に指を沈め、アソコを舐め回した。 
彼の舌先はわたしを喜ばせることをよく知っていて、足元が崩れそうなくらいに巧みに攻め立てる。 
こんなところ誰かに見られたらどうしよう……? 
そんな羞恥心に似た気持ちもまた、さらにわたしを高ぶらせていく。 
「あぁ…っ、クレイ……、もぉ……我慢……できないよぉ……」 
「おれもだ、パステル。後ろを向いて」 
わたしは壁の方を向いて立たされた。後ろからカチャカチャとベルトを外す金属音とファスナーを下ろす音が聞こえてくる。 
わたしが待ちわびていた瞬間が近付いたのがわかった。 
「壁に手をつくんだ」 
「ん……」 
「いくよ」 
「ひゃあぁあ……っ!」 
背後から押し込まれて、わたしたちは立ったままつながった。 
クレイ・ジュダが猛りすぎているのか、体位のせいなのか、いつもより強く擦られてて……。 
「あぁん…っ、ク、クレイ……!へ、変になっちゃうよぉ…っ」 
「はぁ…、はぁ…、おれも」 
「あんっ、あぁんっ、クレイ…っ」 
「ダメだ……もっと、声は抑えて……見つかってしまう……」 
クレイ・ジュダはそう言うと、わたしの口を手のひらで塞いだ。 
やだやだ息苦しいってばぁ! 
体全体に力が入っちゃう……! 
すごく苦しくて、小さく短く繰り返すわずかな呼吸はどんどん激しくなり、頭はジンジン痺れていくよう。わたしはクラクラしながら初めての感覚に身を任せた。 
「っあぁ……締まる……っ」 
クレイ・ジュダは呻くように、そう呟くと、さらに強く腰を突き入れた。 
波の音のリズムのように絶え間なく腰を打ちつけられる。 
それはどんどん荒々しくなり、わたしは押し寄せる快楽の中、もうわけがわからなくなってしまった。 
クレイ・ジュダの手のひらで塞がれていた口が解放されたときには、わたしの口の中に破裂寸前の彼がいて……生暖かく、トロトロして、少し苦い彼の精液が、わたしの口内に勢いよく、たっぷりと放出されていた。 
喉に絡みつくようなそれを、わたしは一気に飲み干す。 
あまりおいしくなかったけど、クレイ・ジュダの精液を飲み干す行為は、わたしを満たされた気持ちにしてくれた。 
「最後の一滴まで残さず吸って……」 
わたしはクレイ・ジュダの前にひざまずかされたままの格好で素直にそれに従う。 
口の中にいる彼を、ちゅるっと強めに吸った瞬間、クレイ・ジュダが小さく呻いて、トロリとした感触が舌に乗ったのがわかった。 
「ほら、残しちゃダメだよ?」 
クレイ・ジュダはわたしの唇の端をぬぐうと、その指を舐めさせた。 
少し苦い彼の味がした。 
 
わたしたちは行為が終わっても船室には戻らずにデッキでぼんやりしていた。 
クレイ・ジュダとわたしは手をつないで寝そべり、星を眺めてる。 
行為のあとのフワフワした感覚と降りそうな星空はどこか現実感に欠けていて、それが心地いい。 
「パステル」 
「なぁに、クレイ?」 
「コトユリの木を覚えているかい?」 
「うん。覚えてるわよ」 
「昔……冒険者生活を始める前にね、一人で実家の裏山に行ったことがあってさ。その時もこんな星空だったかな。まるで降ってきそうで……何だか現実感がなかったのを覚えてる」 
「クレイもそう思うの?わたしも今日の星空を見てそう思ったのよ」 
「はは。そうなのかぁ。気が合うね」 
「あ、ごめん。話をさえぎっちゃった」 
「いいよ。……その夜にね、コトユリの木を見たんだ。この前ステアも言ってたけど、コトユリの木は毎年実るとは限らないんだ。だけど、その時はね、枝という枝すべてに見事に実ってて……そうだな、コーベニアに着く前に見たコトユリの木みたいな感じでさ」 
「うん」 
「満天の星空の下、見上げたコトユリの木はね、見事に実った実と星々が、まるで数え切れないほどの小さな金色の実に見えて……それが、とても幻想的で……」 
「へぇー。すごいわね。わたしもそんな光景見てみたいなぁ」 
「パステルにも見せてあげるよ」 
「でも、毎年実るとは限らないんでしょ?」 
「毎年見ればいいよ。そしたら、いつか見れるだろ?」 
「そっかぁ。だけど、いつ行けばいいのかなぁ?実る時期ってちゃんと決まってるわけじゃないでしょ?」 
「それは……ドーマに住めばいいんじゃないか?暮らしやすい町だよ」 
「いいかも!」 
「はは。パステルらしいな」 
クレイ・ジュダは、なぜか苦笑い。 
どうしてー? 
「クレイ?」 
「いや、気にしないで。また今度言うから」 
意味ありげに微笑むクレイ・ジュダ。 
な、なによ? 
「ちょっとー。気になるってば!」 
「……教えてあげない」 
「いじわる!」 
「いじわるなのはパステルの方だよ?」 
「どうして?」 
「そういうところがね」 
わたしの問いかけに、クレイ・ジュダは困ったようにそう言うんだけど、 
「わかんないかも」 
クエスチョンマークでいっぱいなわたし。 
「大丈夫だよ。わかってくれるまで何度も言うから」 
うーん。何なんだろう?気になるなぁ! 
 
「おまえ……そこまで言われてわからなかったのか?」 
「う、うん。ステアはわかるの?」 
翌日の朝、わたしとクレイは二人でデッキにいた。 
それで、昨日の夜の話をクレイにしてみたのだ。もちろん、外でしちゃったことは内緒だけど。 
「それは……おれでもわかるぞ?クレイ・ジュダも苦労してるんだなぁ」 
クレイまで苦笑いしてる。 
「ねぇ、わかったなら教えてよ」 
「クレイ・ジュダはわかってくれるまで何度も言うってパステルに言ってくれたんだろ?」 
「うん」 
「それならクレイ・ジュダに任せた方がいいよ。おれが代わりに言っても意味ないし」 
「そうなの?」 
「そうだよ。ま、幸せそうで何よりだなぁ。パステルは、おれのひいおばあさまへの道を着実に歩んでるわけか」 
「もー、その言い方は嫌だってばぁ!だいたいわたしはステアより年下なのよ?」 
「はは。そういえばそうだな」 
「そうよ。まだ17歳なんだから」 
「そういえば、パステルも大人になったんだなぁ」 
「やだ、えっち!」 
「え?いや、そういう意味じゃないよ」 
「そ、そうなの?」 
わたしたちは、お互い真っ赤になって顔を見合わせる。 
うう。わたしってば、想像力を膨らませすぎだってば! 
やっぱり、クレイ・ジュダに抱かれてるのをクレイに目撃されたのを未だに気にしてるのかもしれない……。 
「パステルはさ、クレイ・ジュダと出会ってから……綺麗になったよな」 
優しい笑顔でわたしを見つめるクレイ。 
それが妙に大人の男の人を意識させる雰囲気で……少しドキドキした。 
「あ、ありがとう……」 
わたしはクレイと目を合わせずに小さく呟いた。 
だって、恥ずかしいんだもの。クレイがわたしに、そんなこと言うなんて! 
「これ言うと怒られるかもしれないけど……」 
「な、なによ?」 
「ほら、こないだの朝、おまえがクレイ・ジュダと……その……抱き合ってたとき……あの時も、すごく……綺麗だなぁって思ったよ」 
「……!」 
「だから……そういう意味でも、びっくりした……なんて言わない方が良かったよな」 
クレイは困ったような、照れくさそうな表情。だけど、優しいまなざしでわたしを見つめていて……なんだか恥ずかしい。 
「そ、そんなこと……ない、わよ。嬉しい、かも」 
「おれはさ、おまえのこと14歳の頃から見てて、ルーミィとセットで妹としか見てなかったけど。クレイ・ジュダがいつか言ってたように……魅力的なんだな」 
「もぉー。クレイってばどうしたのよ」 
「どうしたんだろうな」 
クレイはおかしそうに笑う。 
「からかわないでよ」 
まったくクレイってば、こういう言い方するから、いつも女の子に勘違いされるのよ。 
わたしだって、クレイ・ジュダがいなかったら心がぐらりとしそうだ。 
クレイってば罪だなぁ。わたしは勘違いしてクレイに告白する女の子たちに同情してしまった。 
 
それから、わたしたちはぼんやり海を見てた。 
クレイとこんな話をしてるなんて不思議だなぁ。クレイ・ジュダがわたしを好きになってくれたことはもっと不思議だけど。 
いろんなことが変わっていってるんだろうか。 
体はクレイ・ジュダに大人にしてもらったけど……心も少し大人になろうとしてるのかな? 
わたしはクレイ・ジュダと出会ってからすごく変わったと思う。 
その変化をクレイも魅力的だって認めてくれてるのなら……それは素直に嬉しい。 
「パステル」 
「ど、どうしたの?急に改まっちゃって」 
沈黙を破ったクレイのまなざしも声もすごく真剣で、わたしは動揺してしまった。 
「幸せになれよ。……おれ、ホントは少し寂しいんだけどな」 
「……!」 
「なーんてな。クレイ・ジュダとパステルって意外とお似合いだし、あの人ならおまえのことを大事にしてくれるよ」 
「意外と、は余計よ、余計!」 
「ん?噂をすれば……ひいおじいさまの登場だよ。ひいおばあさま」 
「ステアー!」 
わたしがクレイをこずいていると、 
「はは。二人とも、楽しそうだね」 
クレイ・ジュダがニコニコしながらわたしたちのところにやってきた。 
「おはようございます」 
「おはよう、ステア。何の話をしてたんだい?」 
「あなたとパステルがお似合いだって話ですよ」 
「そうかぁ。ありがとう、ステア」 
「あの、クレイ・ジュダ……パステルのことお願いします。おれがわざわざ言わなくても、もう幸せそうだけど。おれにとって、パステルは大事な妹ですから」 
「ああ、もちろんだよ。大事にする」 
はぁぁぁー。わたしって幸せ者だなぁ。恋人にも仲間にもこんなに恵まれてるんだね。 
あれれ?そう思ったら、いつの間にか涙がこぼれてた。 
「泣かないで、パステル」 
クレイ・ジュダはグッとわたしを抱き寄せ肩を抱いてくれる。 
「良かったな」 
クレイの声も優しくて……クレイとも、このまま離れたくないな。 
元の時代に帰る方法が見つかったら……きっと離れ離れになっちゃうけど……一日でも長く一緒にいたいよ。 
「よお、おめぇらこんなとこにいたのか。飯でも食いに行こうぜぇ」 
妙にしんみりしているわたしたちのところに、ランドがいつものように陽気にやってきた。 
「うん!そうだね」 
「ほえ?なんだぁ?おめぇ泣いてたのか?」 
「だって嬉しかったんだもん」 
「なんかよくわかんねぇけど……良かったな」 
「うん!」 
今は、まだこの四人で一緒にいられるんだ。 
少なくとも、そうしていられる間はいっぱい笑って楽しく過ごしたいな。 
もしかしたら、それはある日突然終わってしまうかもしれないけど……。 
この幸せが続きますように。 
わたしは心の中で、こっそり願った。 
 
そして、わたしたちを乗せた連絡船はパントリア大陸の最東端の港エドニーへ到着したの。 
その後の、行程もスムーズに行って、わたしたちがエベリンに到着したのは、エドニーを出発して一週間後のことだった。 
 
 

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