「じゃあ、おれが見張りをします」 
「おお。ステアちゃん、ありがてぇ」 
「ステア、おまえは寝ても大丈夫だよ?」 
「そうよ。さっきあんなことがあったんだし」 
「いえ。目が冴えちゃって寝れそうにないんです」 
わたしたちは遠慮したけど、クレイは譲りそうにない。 
うーん。今日はいろいろ大変だったし、クレイに見張りを頼むのは何だか悪い気がするなぁ。 
「そっかぁ。わかったよ。次はおれが代わるから」 
と、クレイ・ジュダ。 
「パステル、おまえも休んでいいよ」 
クレイは優しいなぁ。 
「ん。ありがとね、ステア」 
「いいって。ゆっくり休めよ」 
クレイってば、すっかりステアだ。 
トラップがこの話を聞いたらなんて言うだろう! 
 
うーん。 
眠れない……。 
突然こんなことになったせいかな。 
目を閉じても、頭が冴えちゃう。 
「パステル?」 
「眠れなくて」 
「だよな」 
クレイは剣のお手入れをしてた。どこにいても好きなんだなぁ。 
「ステア」 
「なんだよ」 
「どうして、ステアなの?」 
「言えないだろ?こんな話。普通信じられないよ。それよりさ、クレイ・ジュダって、すごい人だよな。パステルもそう思うだろ?」 
「うん。まだ知り合ったばっかりだけど。すごく人を惹きつけるものがあって、優しい微笑みをしてて」 
「魅力的、だよな。だけど、すごく自然体な人だろ?かっこよくても嫌味もないしさ。完璧だよ」 
「そうね」 
「おれが思ってた感じと全然違ったんだ」 
「そうなの?」 
「うん。おれが思ってた以上にすごい人だよ。……何で、おれ、なんだろうな」 
「ク、」 
「ステアだろ」 
「はは。ステアね」 
「なぁ、パステル。おれでいいのかな?」 
「んー。ステアはステア、よ」 
「前にもおまえにはそんなこと言われたよな」 
「そうだっけ?」 
「ああ。おれ意外とパステルには助けられてるんだぜ?」 
うーん。そんなつもりもなかったんだけど。クレイが嬉しそうならいいかな。 
「それにしてもさ、おまえよくクレイ・ジュダやランドと気楽に話せるよな」 
「何だか、あの二人って話しやすいのよね」 
「そうかぁ?おれ緊張しちゃってさ。口数が減りまくりだぜ?」 
「あはは。そういえば、大人しいわよね」 
「だろ?パステルってさ、人なつっこいよな。おれたちともすぐ仲良くなかったし、クレイ・ジュダたちみたいな大人ともすぐ仲良くなるし。ギアやアルテア兄さんだってそうだろ?うらやましいよ」 
「ちゃんと考えたことないかも」 
「自分では気付かないんだよ、きっと」 「そうなのかなぁ」 
「おれたちこれからどうなると思う?」 
「んー」 
「帰れるのかな」 
「わかんない。けど、ひとりぼっちじゃないから。なんとかなるんじゃない?」 
何も根拠はないんだけどね。 
クレイと一緒だってこと、クレイ・ジュダたちと出会えたことは、わたしにとって心強かった。 
「ホントおまえは前向きだよなぁ。ま、おれも見習わなきゃな。クレイ・ジュダにも考えすぎるなって言われたし」 
「なによ?わたしが何も考えてないって言いたいわけ?」 
「それもあるかもな」 
「もうっ」 
わたしはほっぺをふくらませてクレイをこずいた。 
 
わたしとクレイが盛り上がっていると、 
「……パステルも起きてたのか」 
と、クレイ・ジュダ。 
「す、すいません。うるさかったですよね」 
「いや。そろそろ交代の時間だろ?いいよ」 
クレイ・ジュダは眠そうな顔。 
ぼーっとした感じがなんだかかわいい。 
こういう顔もするんだなぁ。 
わたしがまじまじと見つめていると、クレイ・ジュダがその目線に気づいて、微笑んでくれた。 
はぁぁぁー。なんて素敵なの。 
クレイはそんなわたしをやれやれという目で見て、また剣のお手入れを始めた。 
「ステア……その剣……!」 
あっ。そういえば、クレイの剣はクレイ・ジュダのシドの剣じゃないかって言われてるのよね。 
「見せてくれ」 
クレイ・ジュダはクレイから剣を受け取った。 
「そんなはずは……ステア、この剣どうしたんだ?」 
「えーっと、うちの武器庫から持ってきたんですけど」 
「武器庫!?ステア、こっちはおれの剣だ。見てくれ」 
クレイ・ジュダが取り出した剣……それはクレイの剣とまったく同じものだった。 
「ず、ずいぶん似てますね」 
「いや。似てるというよりも……同じだ」 
やっぱり、シドの剣だったんだ! 
感動! 
だけど、クレイってばどうするの?自分のこと話すのかな? 
「剣の空似ですよ、きっと」 
あの、クレイ。それを言うなら他人の空似よね? 
「それはないよ。持ってみればわかる」 
「じゃあ、同じなんじゃないの?それにしてもお揃いなんて偶然よね」 
「パステル、この剣は特別な剣なんだ……この世にふたつとないはずなんだが」 
「そ、そうなの?」 
フォローしたつもりが、ますます墓穴。クレイ、ごめんね!(こっちにきてから何回目?) 
「……クレイ・ジュダ」 
「なんだい?」 
「おれ、今は訳あって詳しく話せません……だけど、いつかちゃんと話しますから」 
「そっかぁ。わかったよ。ステアが言いたくなったときでいいから、話してくれ」 
クレイ・ジュダは優しく微笑む。 
「はい……」 
クレイは、やっぱりシドの剣に選ばれたんだ……。きっと、クレイもそのことを考えているのかな。 
焚き火に照らされたクレイの横顔は、もの思いにふけっていた。 
 
「へぇー!こりゃ不思議なこともあるもんだ」 
ランドは二人の剣をしげしげと見つめる。 
「どう見ても贋作じゃないぜ?そういえば、おめぇらもなんとなく似てるよな。雰囲気とかさ」 
「そ、そうですか!?」 
ビクッとするクレイ。そろそろ、ホントのこと言うべきかもよ? 
「おうよ。目元の感じとか。目の色は違うけど。その上、名前はおいらと似てるしよ。ステア、おめぇは何者なんだ?」 
「えーっとぉ……」 
もう、クレイってば、しどろもどろ。 
「アーマーも見たことねぇような……竹か?それ?」 
「……はい」 
「へへっ。おめぇはホントにおもしれえ奴だよなぁ」 
ランドは大笑い。うーん。どうやら追求していたわけではないらしい。 
「ランド、からかうなよ。そのアーマー、高レベルな魔法がかかってるんだろう?」 
「どうしてそれを?」 
「おれも魔法の心得はあるからね。そういうのはわかるもんだよ。おれのアーマーも魔法で鍛えてあるんだ。重い装備は苦手だからね」 
「おいらは、ステアのアーマーのほうが好きだぜ。竹アーマーの戦士なんて珍しいじゃねぇか」 
ランドってばニヤニヤしてる。まるで、トラップみたいな言い方にクレイってば真っ赤。 
「ランド……!おれ、その内ちゃんとしたプレートアーマーを買いますから!」 
「なんでぇ?いいじゃねっかよー。カランコロンいい音だよなぁ」 
「……!」 
ああ。ランドってば、面白がってる。 
「ランド、いいかげんにしろよ。だけど、ステア。おれも君のアーマーでいいと思うよ。ま、おれよりも体格がいいからプレートアーマーでもいいとは思うが。軽くて動きやすくて守備力があるほうが戦いやすいだろ?」 
「うう……っ。クレイ・ジュダ、あなたまで……」 
クレイ・ジュダは不思議そうに首をかしげる。その様子を見て、ランドはさらに笑った。 
「わたしも竹アーマー好きよ。ステアの手作りだし、涼しげな音するし」 
「パステル!」 
ひゃあー。こ、怖いっ!悪のりしすぎたかも! 
「こらこら、ステア。パステルがびっくりしてる」 
なんて言いながら、わたしの頭をよしよしとなでるクレイ・ジュダにわたしはまたまた真っ赤になってしまう。 
はぁぁぁ。ドキドキする……。 
「す、すみません」 
なぜか謝っちゃうクレイ。やっぱり優しいなぁ。 
「いや、謝ることはないさ。おれたちもからかったわけじゃないんだよ。おれもステアの手作りなら、なおさらいいと思うし」 
うう。クレイ・ジュダってば、わたしの頭の上に手を置いたまま。恥ずかしい……けど、嬉しかったりもする。 
「ほらほら、ジュダちゃんだって、そう言ってんだ。気にすんなよ。行こうぜぇ!」 
ランドはクレイの肩に手を回して歩き始めた。 
「さて、おれたちも行こっか」 
クレイ・ジュダに頭をぽんぽんされてわたしは倒れそう。 
ああ、わたしってば、どうしちゃったの!? 
 
「おれたちは、コーベニアから船でロンザ大陸に渡るんだが。二人はコーベニアから先はどうするんだい?」 
ええー!?一緒に行こうって、コーベニアまでの話だったの!?今日の夕方過ぎにはお別れじゃない!? 
わたしが呆然としているとクレイが、 
「あの、クレイ・ジュダ。そのことなんですけど。おれたちも一緒に連れて行ってくれませんか?」 
「うーん。ステアたちは仲間とはぐれたんだろう?大陸を渡ったりしたら、会えなくなるんじゃないか?」 
「それだったら、大丈夫です。こっちに残っても会えませんから……それに、おれ、あなたのそばにいたいんです」 
「ひょおー。ステアちゃん、愛の告白かぁ?」 
ランドがちゃちゃを入れるけど、クレイは妙にキラキラしてクレイ・ジュダを見つめてる。 
「わかったよ、ステア。君もシドの剣に選ばれたようだし……何か縁があるんだろう」 
「クレイ・ジュダ……ありがとうございます……!」 
クレイは感無量って感じ。クレイにとって、クレイ・ジュダは誇りだもんね。 
「で、おめぇは?」 
「へ?そりゃあ、わたしも一緒に行くわよ?」 
「だぁー。そうじゃねぇよ。ジュダちゃんへの告白だよ」 
「な、な、な……!」 
「ステアは終わったぜ。おめぇはどうすんだよ。へへ」 
「ランド!まったくおまえは。告白は女の子にさせるものじゃないよ」 
「へぇぇー。楽しみだな、パステル」 
ニヤニヤするランド。 
な、な、なによ!? 
わたしが口をパクパクさせていると、クレイ・ジュダは優しく微笑んで、わたしの頭に、ぽんっと手を置いた。 
うう。心臓が口から飛び出しそう。 
「あ」 
「ど、どうしたの、クレイ?」 
「コトユリの木だ」 
クレイ・ジュダの目線の先にはあったのは、金色の小さな丸い実をつけた木。 
コトユリの木……聞いたことがあるような? 
「すごい。毎年必ず実るとは限らないのに、見事ですね」 
と、クレイ。 
「ああ。こんなに木の枝という枝すべてにたくさんの実がなってるのは久しぶりに見たよ」 
クレイ・ジュダはそう言いながら手を伸ばし、そっと丸い金色の実に触れた。 
「おれもです。コトユリの木は、実家の裏山に昔からあるけど……。おれが生まれた年くらいしか、こんなに見事に実ったことはなかったとか」 
そっか。確か、クレイのお父さんの夢にクレイ・ジュダが出てきて、コトユリの木が実を結んだ頃に男の子が生まれたら自分の名前を付けてくれって言って、名前を受け継いだんだよね。 
クレイにはすごく思い入れがある木だ。 
ん?そんな話して大丈夫なの!? 
「偶然だね、ステア。おれの実家の裏山にもコトユリの木があるんだよ」 
クレイがハッとする。 
ほらほら、こんなふうだから、もう正直になったほうが楽じゃないのかなぁ。 
「へぇぇー。すげぇなぁ。やっぱり、おめぇらはなんか縁があるのかもな」 
ランドはしきりに感心してる。 
しかも、クレイの驚いた顔を違う風に解釈してくれたみたい。うーん。よかった。 
「そうだなぁ。おれ、ステア見てると妹を思い出すしなぁ」 
「そうなの?」 
「ああ。妹は明るい鳶色の目をしててね。だから、ステアの目を見てると思い出す」 
「ふーん。実は弟なんじゃねぇの?」 
「それはないが……でも、親近感はわくよ」 
「そうか、そうか。おいらにとってもステアは弟みたいなもんだ。同じブーツ一族だしな。仲良くしようぜぇ、ステアちゃんよぉ」 
「ねぇ、ランド。わたしは?」 
だって、話題から置いてけぼりなんだもん。寂しいじゃない? 
「おめぇはジュダちゃんがいればいいんじゃねぇの?」 
「えぇぇぇー!」 
もー、ランドってばなんなのよ!? 
「ランドのことは気にしなくていい。じきに飽きるさ。行こう、パステル」 
クレイ・ジュダは、その場に立ちすくんで、固まってるわたしの手を取り歩き始めた。 
ひゃあぁぁぁ。 
余計にドキドキするってば! 
クレイ・ジュダはそんなわたしの動揺は気にせず、にこりと笑いかけてきた。 
その微笑みにわたしはまたとろけてしまったのだ。 
 
夕方すぎに、わたしたちはコーベニアに着いた。 
うわぁ。街並みは少し違うけど、活気ある雰囲気は変わらない。 
この四人でこの町にいるなんて不思議だよね。 
「まずは宿屋を探そうぜ」 
ランドの提案で、わたしたちは宿屋探しをした。そして、食堂付きの宿屋に泊まることにしたの。 
そうそう、わたしとクレイのお金は全部クレイ・ジュダたちが払ってくれて……うう、申し訳ないなぁ。 
しかも、わたしだけ一部屋とってもらったんだ。男性陣は三人で一部屋なのに悪いなぁ。 
旅の疲れもあるし、わたしたちは荷物を部屋に置いて一息つくことにした。 
夕食までは少し時間もあるし、お風呂にも入ってすっきりしなきゃ! 
 
「うめぇなぁ」 
「うん!美味しい!」 
わたしたちは海の幸がふんだんに使われた食事に舌鼓をうつ。 
大皿料理が豪快に並んでるんだけど、さすがに男性陣が三人となると、あっというまに平らげてしまった。 
「なぁ、これから冒険者ギルドに行くんだよな?」 
「ああ、そうだよ」 
「その後は、行くよな?」 
わたしとクレイはランドの言葉の意味がわからず顔を見合わせる。 
「へへ。ステアは来いよ。パステルは留守番だぜ」 
「どうして?」 
「どうしても、だ」 
ううう。意味がわからないぞ。 
「まぁ、遅くならないようにするからさ。パステルはゆっくり休んでるといいよ」 
と、クレイ・ジュダ。 
「うん。じゃあ、そうしようかな」 
「そうそう。パステルはおとなしくしてるんだぜぇ?」 
「?」 
なんか引っかかるなぁ。ランドってば、妙に楽しそうだし。 
「ま、男同士で飲む時間も欲しいってことよ。おめぇは気にすんな!」 
ランドの表情は怪しさ満点なんだけど、そう言われたら納得するしかない。 
「飲みすぎないようにね」 
「おうよ」 
そうして、男性陣はわたしを残して出かけて行ったのだ。 
 
ベッドにごろんと転がる。 
はぁー、幸せ。 
だけど、少し退屈。三人はどこに行ったんだろう? 
男同士で飲みたいなら仕方ないけど、わたしも行きたかった。 
それにしても、ホントこれからどうなるんだろう。 
ずっと、この時代で生きていくのかなぁ。 
だけど、クレイも一緒だし、ランドは面白いし、クレイ・ジュダは……。急に、ほっぺが熱くなる。 
クレイ・ジュダ……彼のことを考えるとなんでこんなにドキドキするんだろう。 
うう。困るなぁ。 
わたし、変。絶対、変。どうしちゃったのかな? 
ぎゅっと枕を抱きしめる。 
好き、なのかな。 
まだ、クレイ・ジュダのことはよく知らないけど。 
一目惚れ、なんだろうか。 
初めて会ったときから、気が付いたら視線がクレイ・ジュダを追っかけてて。彼が微笑んでくれたら、すごく幸せで。 
なんだか胸が苦しいな。 
ふわぁぁぁー。 
落ち着かない。じたばたしてたら、何だか、のどが乾いてきちゃった。なんか飲みたいな。 
気分転換に飲み物でも、もらいに行こうっと! 
 
「パステル」 
「あ、クレイ。おかえり!ランドとステアは?」 
ひゃあ。さっきまでクレイ・ジュダのことを考えていたからびっくり。 
「二人はまだ飲んでるよ。おれだけ先に帰ってきたんだ」 
「そうなんだぁ」 
「美味しそうなの持ってるね。おれもなんかもらってこようかな。二人で飲もうよ」 
「うん!」 
えへへ。嬉しいかも。 
「じゃあ、パステルの部屋に行くよ。待ってて」 
そう言って微笑むクレイ・ジュダは……ああ、やっぱり素敵だった! 

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