女の子が降ってきた……。
物のたとえではない。今、おれの目の前で起きたことだ。
「だ、大丈夫か?」
「……」
怯えた目をしてる。おれの人相のせいか?まったく……悪かったな。
それにしても、ずいぶん若そうだ。跳ねた茶色の髪の毛、小柄で華奢な体、全体的に幼いイメージ。14〜16歳くらいか?
「おれは冒険者だ。怪しい者ではないからな?」
地面にへたりこんでる少女に、とりあえず、手をさしのべてみる。
「……ありがとう。わたしも冒険者だ」
「そうなのか?見えないな」
「ちゃんと冒険者カードだって持っているよ。ほら」
「?」
おれは少女の冒険者カードを見て、クエスチョンマークでいっぱいになる。
「ジグレス384年……?」
「どうした?」
「今はジグレス467年だぞ?このカード……どうしたんだ?」
「これはわたしのカードだ。試験だってちゃんと受けたぞ」
どうなっている……?
「いや、だから今は467年だよ。ほら、見てごらん」
今度はおれの冒険者カードを見せてみる。
「…………。そうか」
納得?してくれたようだ……。
「あんたは一人なのか?仲間は?」
「……。一人だ。仲間は……いない」
仲間の身に何かあったのだろうか。おれは自分の過去を思い出し胸が痛んだ。
「まぁ、とにかく。もう日が暮れる。おれは野宿するが、あんたはどうする?ここらへんは夜になるとあんた一人じゃ危ないよ?」
「……」
「そんなに、おれ、人相悪いかな?」
黙り込む少女にかけた自分の言葉に思わず、苦笑いしてしまう。
「いや。優しい目をしていると思う」
「そうか?」
「うん。雰囲気は、少し怖い」
「正直なんだな」
苦笑いするしかない。言われ慣れてることではあるが。
「一緒に行っていいのか?」
「ああ。もちろんだよ。携帯食料もあんたの分くらいはあるからさ。このまま放ってはおけないよ」
「ありがとう、優しいな」
少し警戒を解いてくれたらのか、柔らかな微笑みを浮かべながら、澄んだ深みのある紺色の瞳に見上げられて、おれはドキッとした。
かわいい……な。
「い、いや。気にするな。ルルフェット」
「ルルフェでいい。みんなルルフェって呼ぶ」
「そうか、ルルフェ。おれのこともギアでいいよ」
「ん。わかった、ギア」
こうして、おれはルルフェと野宿をすることになったのだ。
「……………」
「……………」
焚き火を囲みながら、お互いに沈黙が続く。
「……………」
「……………」
ルルフェはどうやら恥ずかしがり屋のようだし、おれも口数が少ない。
「……………」
「……………」
さすがに、ここまでの沈黙は気まずいな。
「ルルフェ」
「な、なんだ?」
突然、話しかけられてびっくりしている。その様子がまたかわいかった。
「仲間はどうした?」
「もういない」
「なんかあったのか?無理には聞かないけど」
「……」
ルルフェの紺色の瞳が暗く沈む。聞いてはいけなかったか。
「すまない。立ち入ったことを聞いてしまったな」
頭をぽんっとした瞬間、ビクッとするルルフェに思わず苦笑いした。
「悪い……」
自己嫌悪も若干混じりつつ、おれは困ってしまった。ルルフェはそんなおれに消え入るような声で、
「ギア、そんな顔するな。ずっと森で育ったから……慣れてないんだ」
やっぱり、かなりの恥ずかしがり屋なんだな。
「森で?」
「今は森を出て冒険しているけど」
「そうか……」
「仲間……仲間はもういない」
「おれも昔、仲間をなくしたことがあるよ」
「そうなのか?」
「ああ。クエスト中に罠に引っかかってね。おれ以外全員。一瞬だった」
「ギア……」
「そんな顔するな、だろ?ルルフェの言葉、そのまま返すよ」
しょんぼりしたルルフェの頭をなでてやる。今度は平気みたいだ。
「わたしは……自分からいなくなったんだ」
「なにかあったのか?」
ルルフェはコクリと頷き、
「デュアンは……わたしを迷惑がってた」
「ルルフェの仲間か?どうして?」
「デュアンはホントはアニエスが好きだから……」
パーティー内での恋愛トラブルか……意外と多いんだよな。
おれもかつてはパーティーを組んでいたサニー・デイズが好きだった。
デュアンというのが、ルルフェが好きな人なんだな。どうやら三角関係といったところか。同じパーティーだと距離が近い分、切ないな。
「言われたのか?」
「いや、わかる」
「どうして?」
「アニエスにはかなわないんだ。好きだと言わなかったけど、彼女と話して……二人がどれだけ強く結ばれた関係かわかった……」
おれは、そこまで話して泣き出したルルフェの肩を抱いてやる。
「つらかったんだな」
コクリと頷くルルフェ。小さな体を揺らして泣いてる姿が痛々しくて、おれはルルフェを抱きしめた。
どれくらい二人でそうしてたのだろう。
「大丈夫か?」
「ギア、ありがとう」
「かまわないさ。おれもなんとなく気持ちがわかるんでね」
「そうなのか?」
「まぁ、おれの場合は大失恋だが」
「ギア……」
「プロポーズまでしたんだぞ?でも、その子は仲間たちと冒険をすることを選んでね……別れてからだいぶ時間はたったけど、忘れられないよ」
パステル……元気かな。
「今も好きなのか?」
「ああ。好きだよ」
「……ギアの気持ち、わかる」
ルルフェはぽつりと呟く。
「ありがとう、ルルフェ」
おれは胸がいっぱいになって、ルルフェを強く抱きしめた。
小さくて、華奢だけど、柔らかい。
「……ギア、離して」
「すまない……」
ルルフェの言葉が少し寂しい。おれは彼女を抱きしめた腕をほどいた。
「ギアの寂しい顔、見たくない」
「ルルフェ?」
ルルフェの細い腕がおれを抱き寄せて、その華奢な体で一生懸命抱きしめてくれた。
あまり柔らかさもない胸だったけど。ルルフェの抱擁は優しくて、おれの心を癒やしてくれた。
「ルルフェ」
それがあまりに愛くるしくて。おれはルルフェの腕をグイと引き寄せ、思わずキスをしてしまった。
唇を合わせては、離して。何度もそれを繰り返す。舌を入れたくなってしまうが……それは我慢した。
おれの腕の中で壊れてしまいそうなルルフェに、何度もキスをした。
だんだん理性が壊れそうになっている……呼吸が荒くなっていくのが自分でもわかる。
触れるだけのキスでここまで気持ちが高ぶってしまうとは思わなかった。
小さな肩を抱いて……押し倒す。
相手はルルフェだぞ?
それなのに、すっかり反応してしまってる体に我ながら驚いてしまった。
ルルフェはかわいいが、そういう対象ではないだろう?
がっつきすぎだ……。
これ以上キスしてはマズいと思い、おれは唇を離した。
「……もう、いいのか?」
「ああ、十分だよ。癒された。ありがとう、ルルフェ」
そう言って、おでこにキスをする。
おれはルルフェを腕の中に抱きしめたまま、パステルのことを思い出していた。
ぼんやり空を眺めて、月が綺麗だなぁと思った。
すやすやと穏やかな寝息をたてて、ルルフェが眠っている。
おそらく、おれとは一回り近く年の離れているルルフェ。まだ幼さすら残したような女の子とキスしてしまった。
パステルのときでさえ、相棒のシミターには、ロリコン、と冷やかされたものだ。
ルルフェは生年月日がわからないから正確な年齢は不明だが、パステルより年下なんだろうな……。
まいったな。
はぁー。
思わず、うなだれてしまった。
おれはロリコンじゃないはずなんだがな、たぶん。
たまたま、年の離れた女の子とそうなってしまうだけだ……きっと、そうに違いない。
たとえばパステルがおれと同い年でも好きになってた。
ルルフェだって、もっと大人だったとしても魅力的だと思うに違いない。
ふぅ。
やれやれだ。
だが、おれは、ルルフェの頭をなでながら、かわいいなぁと思ってしまう……。
…………。
自分の欲望や気持ちを否定するのに、おれは必死だった。
おれはロリコンじゃないからな!
「へぇ。ルルフェットって、鳥の落とした木の実、って意味なのか」
おれはルルフェと出会ったときのことを思い出し、くくっと笑った。
「なにがおかしい?」
「いや、ルルフェが降ってきたことを思い出してね」
「わたしが拾われたときもそうだったらしい」
「そうなのか……。なぁ、ルルフェ」
「なんだ?」
「ルルフェはどこから来たんだ?」
「ジグレス384年から」
ルルフェの答えに苦笑いする。そんなおれを見てルルフェは、
「ギアは信じてくれないのか?」
と言ってうつむいてしまった。
「す、すまない。そういう意味じゃないんだが」
「これ」
ルルフェが緑色の宝石を取り出した。
「これは?」
「わたしの願いを三つまで叶えてくれる。遠くに行きたいと願ったら……ここに来たんだ」
「マジックアイテムか」
ルルフェはコクリと頷いた。
ずいぶん強力なマジックアイテムみたいだな。
願いを叶えてくれるくらいだから、時空をこえるのもたやすいか。
「願いが叶うならどうして、彼の気持ちを手に入れなかったんだ?」
「そうやって手に入れた気持ちになんか意味はない」
「そりゃそうだな」
もしおれでも……マジックアイテムでパステルを手に入れるのはイヤだ。
「まだあと二回使えるけど。何も考えてないんだ」
「そっか。ルルフェはこの時代で生きていくつもりなのか?」
「……」
「行くあてなんてないだろう?」
「……」
ルルフェはうつむいたまま黙り込んでしまった。
どうしたものか。
しばらく一緒に連れて行こうとも思ったが、昨日キスしてしまったことで、それは言い出しにくい。
なんだか下心が丸見えみたいだからな。
かと言って、放ってはおけない。
おれが頭を悩ませていると、
「……ギアと一緒にいるのはダメか?」
ルルフェはおれが望んでいることを言ってくれた。
「おれはかまわないよ」
むしろ、嬉しい。
「じゃあ、ついてく」
ギュッと上着の裾を掴まれる。すくい上げるようにおれを見上げる紺色の瞳がかわいい……。
だが、下心は封印しなければ。
「相棒もいるんだ。今、別行動をしててね。次の街で合流するんだが。気のいい奴だよ」
「楽しみにしてる」
こうして、おれはルルフェを連れて、相棒ダンシングシミターと合流する街を目指した。
シミターと合流の約束をしている宿屋に到着した。
宿屋の主人に宿泊者リストを確認してもらったが、どうやらシミターはまだ到着してないらしい。
おそらくおれのほうが早く到着するだろうと思っていたから、これは想定の範囲内だ。
それよりも……。
「一部屋しか空いてない?」
「へい。一人部屋がひとつしか空いてませんねぇ」
「ギア、わたしはギアが良ければ、同じ部屋でもいいけど……。ここで待ち合わせしてるんだろう?」
ここで、というか、この町にはここしか宿屋がないんだよな。
「うーん。仕方ないな。すまない」
「いや、いいよ。宿代も、もったいないし」
「そっか。わかったよ」
こうして、おれたちは同じ部屋に泊まることになった。
おれは何をドキドキしているのだろう。
興味深そうな宿屋の主人の視線が痛い。
おれたちって、どう見えるんだろうな……。
兄弟……見えないな。どうせ、ロリコンが少女を連れ込んでとでも思われているのだろう。
はぁぁぁー。
違うんだ。パステルもルルフェもたまたま年が離れているだけだ……。
おれは被害妄想に近い気持ちにうなだれながら部屋に向かった。
「おれは床でいいから。ルルフェはベッドを使えばいい」
「いいのか?」
「ああ。おれはどこでも寝れるからさ」
「優しいな」
「そうでもないさ」
ルルフェとは、どんどん会話が増えていった。おれにはそれがなんだか嬉しかった。
男の二人旅が続いてたからな。
ルルフェには癒される。
「ギア?」
「え?ああ。ぼんやりしてた」
「大丈夫か?」
「ありがとう、ルルフェ」
かわいい。頭をよしよししてみる。
「ギアはすぐわたしに触る」
「すまない……」
「謝ってばっかりだ」
「そういえばそうだな」
思わず苦笑いをする。ついつい触れてしまうんだよな。
「別にいいから。ギアに触れられると安心する」
「ルルフェ、すごく嬉しいけど……。男にそういうことを言うもんじゃない」
「どうして?」
「それは……勘違いするからだ」
「勘違い?」
「まぁ、勘違いというか、その気にさせてしまうというか」
「その気……?」
「昨日のキスより……もっと先のことだよ」
余計なことを言ってしまった、気がする……。
「ギアはわたしとしたいのか?」
「い、いや。そういうことじゃ……」
ああ。お願いだから。そのすくい上げるような目線は止めて欲しい。
しかも、図星、だ。
ああ、そうだ。
必死に否定してるが、おれには確実に下心がある……。
だが、次にルルフェはおれが愕然とすることを言った。
「……ギアとならいいよ」
頬を赤く染めて、紡がれた言葉はおれの欲情を熱く反応させる。
「ルルフェ……」
もう無理だ。我慢できない。
おれの理性のブレーキはあえなく壊れていった……。
グイッと抱き寄せて唇を合わせてきたおれにルルフェは無抵抗だった。
もう理性なんてなかった。
おれはルルフェを押し倒して、合わせた唇から舌を侵入させた。
意外にもルルフェはそれを受け入れて……おれに応えてきた。
なんだ?まさかこういうキスの経験があるんだろうか……?
ルルフェに限って、そんなことはないよな……?
まさかな……。
「ん…っ」
おれの舌がルルフェの舌を絡めとる。
キスが深まれば深まるほど、熱が上がっていく。呼吸が荒くなっていく。
おれの手も自然とルルフェの体をなぞっていた。
太ももをなで上げるとびくんっと体を震わせたルルフェ。
感じて、くれてるのか。
「ルルフェ……」
耳たぶを甘く噛み、首筋に舌を這わせる。
「ん…」
ギュッと瞳を閉じて、小さく漏らす吐息におれの胸は高鳴った。
「初めてだよな、優しくするよ」
「いや、初めてじゃない」
「そ、そうなのか?」
「うん……」
世間知らずでウブな感じのルルフェが経験者だというのは少なからずショックだ……。
だが、おれはそんな動揺は包み隠して、愛撫を続けることにした。
服に手をかけ、脱がせにかかる。
あらわになっていく体は、予想通り幼い。それでも、おれは完全にルルフェに欲情していた。
「ルルフェ……かわいいな」
おれはルルフェの小さな胸の先端を、舌で、唇で、吸って、舐めて、じっくりと味わう。
「ぁあ……っ、ぎぁ…」
小さく漏らす声は甘く、甘く、おれを刺激する。
すでに、男を知ってる体とは思えない。
まだ誰にも汚されてないんじゃないかと錯覚してしまう……。
おれの発情の訴える先に、指を伸ばす。
「ゃ…ぁ」
「濡れてる……」
ルルフェもおれを受け入れようとしている。嬉しかった。
指を深く深く沈め引き抜くと、おれの指はヌルヌルとしたルルフェの粘液で包まれている。
欲情を突き入れたい、そんな、はやる気持ちを抑えて敏感な場所に念入りに指を滑らせる。
「ぎ、ぁ…」
恥ずかしそうに、抑え込んだ甘い声。
抑えれば抑えるほど、甘さが濃縮する。
「いいね……ルルフェの声、かわいいよ」
潤滑な指の動きにルルフェは余すとこなく反応する。その様子がたまらなかった。
「体は大人なんだな……」
「ゃ…」
「いやらしい子だ……」
おれは、くくっと笑う。
「ぁぁっ」
「ちゃんと見せて」
おれはルルフェの足を大きく開かせ、そこを指で広げた。
むき出しになってしまった膨らみを、おれは容赦なくこする。
「ぁっ、ぎぁっ、ダメ…だ…」
「舐めたい」
おれは指で押し広げたままのそこを今度は舌を尖らせ刺激する。
「ふぁ…っ」
さらに空いている手の指をルルフェの中に沈めた。さっきよりも、熱く潤ってる。
わざと、ぴちゃぴちゃと音をたてて辱めたくなるのはおれの悪癖か。
「ルルフェもずいぶんとおれを欲しがってる……いやらしい音だな」
「ゃ……」
顔が見たい。
おれはルルフェの足を胸につくくらい押し上げた。
無防備にさらされたそこを更に執拗に舐めまわし、恥ずかしそうに反応するルルフェの顔を観察した。
感じている顔があまりにかわいらしくて、おれはルルフェをもっと気持ちよくしてあげたくなった。
それに、おれの欲情も我慢の限界らしい。
「入れるよ?」
「うん……」
顔を赤くして、おれを見上げるルルフェが愛おしい。
おれは堅く、いきり立った欲情をルルフェの入り口にあてがうと、グッと腰を進めた。
「あぁ…っ!」
「ルルフェ……」
「ぎぁ…っ」
「入ったよ……奥までいい?」
コクリと頷くルルフェ。おれは一気に奥まで押し込んだ。
「ぁ…っ、んんっ、ぁぁっ」
腰を動かして擦り始めると、ルルフェも気持ち良さそうな声を上げる。
「気持ちいいよ、ルルフェの中、気持ちいい……」
ルルフェの中は狭かった。おれを柔らかく締め上げ、じんわりと温めてくれる。 さらにルルフェの幼く小柄な体をおれが貫いてしまったという背徳感がなお気持ちを高ぶらせて快感を増していく。
「んぁっ、んんっ、はぁ…っ、ん…、気持ち、いい…」
「ルルフェ……おれのを入れられて……気持ちよくなってるのか……」
腕の中にすっぼり入るルルフェの華奢な体は激しく突き上げると、壊れてしまいそうだ。
「ぎあ…」
普段は少し男っぽい話し方をするルルフェが、おれに突き入れられるたびに甘くよがる。
「ほら、もっと声を出すんだ。おれしか聞いてないから……」
「んん…っ、ギアは、嬉し、い?」
「ああ、すごく興奮する……」
どんどん鳴かせたくて、さらに激しく腰を打ちつける。
「ぎぁ…っ、ぎぁ…っ、ぁ、んん…っ」
「はぁ…、はぁ…、いいね…、もっと名前呼んで…」
快感が体の真ん中に集まってくる。早くも達してしまいそうだ……。
それをぐっとこらえて、ルルフェと唇を合わせる。
おれは強烈にルルフェに惹かれている……理由はわからない。
かと言って、パステルを忘れられたかと聞かれたら、そうではない。
二人とも大好きだ。
「おれは君の虜だよ……」
「ぎぁ…」
「ルルフェ……出していい?」
「いいよ……」
「ルルフェ…、かわいい…、好きだ…っ、好きだよ…っ」
「ぎぁ…っ、ぎぁ…っ」
「くっ、い、イク…っ、はぁっ、はぁっ、はぁ……っ」
がっくりと力が抜けて、おおいかぶさったおれをルルフェの細い腕が抱きしめてくれた。
「よぉ、相棒。久しぶりだな!」
シミターが町に到着したのは、それから三日後の夜だった。
「うまくいったみたいだな」
「おまえさんもな」
今回の仕事はおれとシミターそれぞれ違う場所でこなさなければいけなかったので別行動をしていたのだ。
シミターの報告を聞いて、おれはほっとした。
「ところで……。そのお嬢ちゃんはどうしたんだ?」
お嬢ちゃん、とはもちろんルルフェのことだ。
ルルフェは、シミターの奇抜な見た目にびっくりしたのか、おれの後ろに隠れて上着のすそをつかんでいる。
それがまた愛くるしい。
「紹介するよ、ルルフェだ。彼女も冒険者なんだよ。こう見えて、レベル7だぞ」
「よろしくな、ルルフェ」
シミターが手を差し出すと、ルルフェは恐る恐る手を伸ばす。
「シミターは大丈夫だよ。見た目はこんなだけど」
「おまえさんには言われたくないね」
「はは。そうかもな」
がっちりとルルフェと握手をするシミター。
「そうだ。今回の仕事のことでおまえさんと二人で話をしたいんだが。ルルフェ、ちょっとギアを借りるぞ」
「うん。わかった」
「じゃあ、おれの部屋に来い」
「悪いな、ルルフェ」
おれとシミターはルルフェを残して部屋を後にした。
「で、どういうことだ?」
「なにが?」
「ルルフェ。まだずいぶん子供だろう?家出とかじゃないだろうな?」
「ああ。似たようなものかもな……」
おれはこれまでのいきさつを説明した。パーティーに入れたいということも。
「なるほどなぁ。そりゃ居場所がないわな。ま、冒険者としての腕前もあるなら連れて行ってもかまわんよ」
「ありがとう、シミター」
反対されたらどうしようかと心配していたから、ほっとした。
「ところで、おまえさん」
「なんだ?」
「まさか……ないよな?」
「……」
シミターが言ってるのは……男女の関係ということだろう。
めちゃめちゃあるが……言うのはためらわれる。
おれは動揺した。
「おまえさん……うそだよな?」
「いや……」
あっさりバレてる……。隠し事は苦手なんだ……。
「子供だろ!?」
「だな」
「前々から心配していたが、やっぱりそうなのか」
「それは……たまたまだ」
重ねて言うが、ロリコンではない、たぶん。
「懲りないねぇ。ああいう若い子は気まぐれだぞ?」
「かもな」
「まぁーったく。困ったもんだなぁ。もの好きというか」
「しょうがないだろ」
「しかしなぁ、おまえさんも本当に好きなのか?」
「ああ、……好きだよ」
「いやね、さっきおまえさんから聞いた話を聞いて思ったんだが。傷の舐め合いをしてるだけじゃないのか?」
「それはないよ」
と言いつつ、シミターの言葉に胸がズキズキと痛んだ。
「あの子も完璧にフラれたわけじゃないんだろう?そのうち自分の本当の居場所に帰っちまうんじゃないのか?」
「……」
「別に反対するわけじゃないがな。またおまえさんが傷つかないか相棒としては心配なわけだ」
「その気持ちは受け取っておくよ。ありがとう、シミター」
傷の舐め合い……か。だとしても、そこに愛がないことにはならないだろう?
おれは自分にそう言い聞かせた。
気持ちがモヤモヤしたおれは部屋に戻って、とりあえず、ルルフェを抱いた。
少なくとも、ルルフェを抱いている間はおれの頭を悩ます全てのことから逃れられるから。
「ギア、どうした?」
「なんでもないよ」
「そうは見えないけど」
「おれはさ、ルルフェさえいてくれたら大丈夫なんだよ」
「ギア……好きだ。だから頼って欲しい」
まっすぐにおれを見つめる深い紺色の瞳が心配そうだ。
「ありがとう。おれも好きだよ、ルルフェ」
おれはルルフェを抱き寄せてキスをした。
似てる、からなのかな。こんなにも強烈にルルフェに惹かれるのは。
同じような穴が心に空いてるから……依存してしまってるんだろうか。
本当にルルフェのことが好きなら、おれはどうして未だにパステルにこだわってしまうのだろう……。
「やっぱり変だ」
「ルルフェ」
「わたしには言ってくれないのか?」
「おれは君の虜だ」
「ギア……答えになってない」
「そばにいてくれ」
おれはルルフェにおおいかぶさり、また唇を合わせた。
次の日、おれたちは食堂に集まり、食事ををとることにした。
豪快な肉料理が腹を満たしてくれる。
「ルルフェ、事情はギアから聞いた。一緒にくるのは賛成だが条件がある」
「なんだ?」
「冒険者試験を受けてくれないか?」
「冒険者カードならもう持ってるぞ。ギアには見せた」
「ああ、そのことなんだがルルフェ。おれも受け直すほうがいいと思ってた。ルルフェのは今の時代のカードじゃないだろう?」
「そうだけど」
「まぁ、面倒かもしれないが。頼む」
「ギアがそういうなら、わかった」
おれはそのときルルフェが何とも複雑な表情をしたのを見逃さなかった。
少し悲しそうに遠くを見るようなうつろな瞳。
だが、おれにはその理由を聞けなかった。
その夜。
相変わらず、モヤモヤする気持ちから逃げ出したくて、ルルフェを抱く。
だけど、何の解決にもならなかった。
それに、おれだけじゃない。
ルルフェだって、様子がおかしい。
「ルルフェ、なんか変じゃないか?」
「そんなことないよ」
「そうか?夕食のときからなんか変な気がするけど」
「……」
「どうした?」
「……デュアンのことを思い出した」
「そうか……」
聞かなければよかったかな。
「冒険者試験を受けたとき……デュアンがずっと助けてくれた」
うつむきながら話すルルフェの言葉をさえぎろうとするようにキスをしてみたけど。
ますます、おれの気持ちはモヤモヤしていくだけだった。
その次の日も、そのまた次の日もそれは変わらなかった。
朝、目を覚ますと、ルルフェが泣いていた。
「ルルフェ?寝てないのか?」
泣きはらした疲れた瞳。おれは胸が痛んだ。
そして、
「ギア」
「どうした」
なんだか今はルルフェと話したくない……。
「……デュアンに会いたい」
そう言ってルルフェはまた泣き崩れた。
おれは何も言えずに、ただ抱きしめた。
「とりあえず、シミターに話してからにしよう」
「ごめん……」
「男と女なんてそんなもんだよ。どっちが悪いとかじゃないさ」
いつかもこんなこと言ったよな。
「ギアのことも……好きだ」
「うん。おれも好きだよ」
抱き合ってキスをするけど、満たされない。
もうおれたちは終わってしまったんだなぁと思った。
「そっか。まぁ、残念だけど仕方ないな」
「シミターも元気で」
「おうよ。ルルフェもな」
「ギア……」
切なそうな瞳。別れは何回経験しても慣れないな。
「ルルフェ……元気でな」
よしよしと頭をなでる。
短い間だったけど、この子には癒されたな。
傷の舐め合いだったのかもしれないけど、愛おしかったのは事実。
結局、おれは大好きだった。
気持ちのずれの理由はきっと、おれがルルフェの気持ちを全て手に入れきれなかったからなんだな。
それは仕方ないことだけど。
「ギアも」
「ああ」
緑色の宝石を取り出すルルフェ。
「そういえば、あと二つ願いが叶うんだよな。まずは元の時代に戻るとしてあとひとつは?」
「いや、もうあとひとつで終わりだよ」 「そうなのか?」
「さっき、使った。ギアが幸せになるようにって」
「ルルフェ……ありがとう」
できれば離したくないな。言わないけど。
おれは言葉を飲み込む代わりに、抱きしめた。
「そろそろ、帰るよ」
「達者でな」
「ルルフェも幸せになれたらいいな」
「うん。ギア、いろいろありがとう。忘れないから」
「おれも忘れないよ、ルルフェのこと」
ぐいっと腕を引き寄せて、唇を合わせる。別れのキスだ。
ルルフェが宝石を使うと、眩しい光があたりを包んだ。
ルルフェの姿が消えていく。
気が付けば、そこには誰もいなくて。
変わらない森の景色があった。
「フラれたな」
「ああ」
「大丈夫か?」
「まぁ、いいさ」
「そうか……よしっ!今夜は飲むか。おれのおごりだ」
「いいね」
「よし、じゃあ早いとこ次の町を目指すぞ」
また一つ増えた思い出を大事に抱えて、おれは歩き出した。
おわり