どうしてだろう。
あいつが特別になったのは。
「もう!トラップ?呼んでるんだから、ちゃんと返事してよね?」
顔を膨れさせて、わがパーティーのへっぽこマッパーが顔をのぞかせた。
…わざと聞こえないふりをしていることは、絶対にこいつには気付かれないだろう。
こいつは鈍い。ものごとには裏があるってことも少しは考えたほうがいい。だがまあ、それはこいつのいいところでもあるからな。
俺が何を考えているかなんて、きっとしっかりいつだって、勘違いしているに違いない。
頭はよくねぇし、鈍くさい。十人並みで、よく泣く。…んで、よく笑う。
感情が表情に直結してて、よく怒るし、そのぶんすごく喜ぶ。
こいつは俺の『特別』だ。
誰にもやらない。
だから、おれは細心の注意をはらう。
気付かれないように、かけらも匂わさないように。
中途半端なところで気付かせたら、あいつは絶対に逃げるから。
「もう、みんな猪鹿亭に向かってるんだからね。急ごう」
振り向かず、歩くあいつの金色の髪を…気付かれないように、ひと房。
掴んで、くち付けた。
「…トラップ?いまなにかした?」
「ん?ああ、背中にでかいクモがいたから、見てたんだけどな
」
「え、えええ?!と、と、取ってよーーーーー!!!」
色気もなくぎゃあぎゃあと騒ぐ。
いまはこれでいい。だけどな、いつか。
――覚悟してろよ?パステル。
その日のことを思って、おれはニヤリと笑った。