あれれ?
ここ、どこだっけ?
初めて見る街並みだなぁ。
そういえば、わたしひとりじゃない。
みんなはどこだろう?
変なの。
頭の中が変。
ああ。なんか面倒だなぁ。いろいろ考えるの。
ま、いいや。
ふわわ。なんだろ?
「パステル?」
へ?わたしを呼ぶ声。それは懐かしい声。
「クレイ……!」
そう。それはクレイ・ジュダだった!
相変わらず、絶世の美男子。
少し髪が伸びたかも。
「やっぱり、パステルか!何してるんだ?あの日、いなくなったと思ったのに……」
「クレイこそなんでいるの?どうしてここに?」
「おれは旅の途中なんだが……。パステルは帰ったんじゃないのか?」
「うーん。そうだったはずなんだけど」
わたしたちは顔を見合わせる。
クエスチョンマークでいっぱいだ。
と、そこに、
「おーい。おめぇ、さっさと先に行きやがるからどうしたのかと思ったらナンパかぁ?へへっ。ジュダちゃんもこんなことするんだなぁ?」
ひょろっとした長身で、背中まで伸びた赤毛を三つ編みした軽ーいノリの人。誰?
「ランド」
クレイ・ジュダは赤毛の彼をたしなめる。ん?ランド?
「まぁー、いいじゃねぇか。珍しいこともあるんだなぁ。まさか、おめぇがなぁ。かわいこちゃんだなぁ。そうか、そうか、こういう子が好みだったのかぁ」
一人でしゃべって、勝手に納得してる。
ランドって、もしかして!?
「パステル、すまないな。うるさいやつで。紹介するよ、ランド・ブーツだ。ここしばらく一緒に旅をしててね」
うそ───!
やっぱり、トラップの曾祖父のランドなんだぁ!
ぷぷっ。緑のズボン履いてる!
タイツの話はうそだったけど、緑の服はブーツ家の伝統なのかも。
あはは。なんだかおかしい!
「なんだぁ?おめぇ、何ニヤニヤしてるんだぁ?あぁ、わかったぜ。いい男二人に囲まれて嬉しいんだろ?そりゃそうだ!」
「はは……」
確かに、ランドもなかなかかっこいい。
「まったく、うるさいやつは放っておくに限る」
苦笑いするクレイ・ジュダ。
「あーん?なんだってぇ?」
「いいのよ。気にしないで、クレイ」
もぉー、おかしくって仕方ない。
だって、クレイとトラップを見てるみたいなんだもの。
クレイ・ジュダとランドもいいコンビだなぁ。
「ランド、悪いけど」
「わーったよ。おめぇが自分から声かけたくらいだからなぁ。これ以上は邪魔しねぇぜ?パステルちゃん、こいつのこと頼んだぜ、へへっ。よしっ。おれも今夜は帰らねぇ。ま、ごゆっくりな。ジュダちゃんもがんばれよ?」
「おれのことはいいから。おまえも飲みすぎるなよ」
「へいへい。じゃあなー、パステルちゃん」
パチッとウインクすると、ランドは手をヒラヒラさせながら街の雑踏に消えていった。
うーん。ちょっと残念かも。もう少し話してみたかったなぁ。
「騒がしいやつだろ?」
「でも、いいコンビよね」
「ははは。そうだな」
微笑むクレイ・ジュダ。変わらないな。あの頃と同じだ。
「……元気だったか?」
「うん……」
きゅーっと胸が切なくなる。
見つめ合うわたしたち。
ドキドキして……、まるで時間が止まったみたい。
「おいで、パステル」
わたしはクレイ・ジュダの両手に抱き締められる。
わわわ。懐かしいな。この感じ。
相変わらず、暖かくて、大きくて安心する。
「クレイ……」
なんでこんなことになったのかは、わからないけど。
すごく幸せ……!
「パステル」
わたしを見つめるのは、あのときと変わらない瞳。
「行こう」
クレイ・ジュダはわたしの手を取り歩き出した。
角を曲がるとすぐにクレイ・ジュダたちが部屋を取っている宿屋があった。
お互い会話もなく、手を取り合い、早足で二階へ上がる。
早く二人きりになりたい。
きっとクレイ・ジュダも同じ気持ちなのかな。
部屋までの短い距離すらもどかしい。
ガチャ。
クレイ・ジュダがドアを開けてくれてわたしは部屋に入る。
そして、ドアが閉まる音と同時にわたしは手首をすごい力で引っ張られた。
「パステル……!」
そのまま、クレイ・ジュダはわたしを強く抱き締めると唇を合わせてきた。
ベッドまで待ちきれないと言ってるかのような、すごく荒々しいキス。
クレイ・ジュダはわたしの髪の毛をぐしゃりと掴み、頭をぐっと押して更に唇の密着度を高めた。
穏やかな彼が内に秘めていた情熱に驚く。
わたしだって同じだけど。
まだこんなにも想いが眠っていたなんて。
クレイ・ジュダの求めに臆することなく対等に応えてる。
もう絶対に会えないと思ってた。
別れの言葉さえ交わせずに、突然別れてしまった大切な人。
後悔を埋めるように深く深く口づけを交わす。
どれぐらいそうしてたんだろう?
わたしを抱き締める力がふっと緩んで我に返った。
その次の瞬間、抱き上げられて体がふわりとする。
「クレイ……」
わたしはクレイ・ジュダの首筋にかじりついた。
「パステル、いいかい?」
「もちろんよ、クレイ……」
ぎゅっと力を込める。
そして、背中に感じたのはベッドの柔らかさ。
「パステル……、また君に会えるなんて」
クレイ・ジュダはわたしにおおいかぶさり、愛おしそうに見つめてきた。
熱っぽく、うっすら潤んで見える瞳に胸が締め付けられる。
「あのとき何度も呼んだのよ?クレイのこと」
「そうだったのか……」
「どんどん闇に包まれて、クレイが遠くなって……」
クレイ・ジュダの手が優しく頬をなでてくれる。
「怖い思いをさせたね……すまない」
「クレイのせいじゃないよ」
「パステル……」
再び唇を合わせるクレイ・ジュダ。
「ん……っ」
さっきあれだけキスを交わして、舌を絡ませたのに。わたしたちの空白を埋めるにはまだ足りなかった。
口の中で絡み合う舌は発情の度合いを語る代弁者みたい。
「はぁ…む」
一瞬、唇が離れるたびに呼吸を整えたくて息を吸うのに、そんなのは無意味だった。
「んっ…んん」
もぉ、とろけちゃう……。
「パステル、会いたかった、ずっと」
「クレイ……わたしだって」
抱き合う腕はいつの間にか、お互いの服を脱がせ合うためのものになっていた。
「はぁ…はぁ…」
まだ愛撫されているわけでもないのに。
淫らな息づかいが唇からもれる。
わたしは着ているものをすべて剥ぎ取られ、素肌があらわになる。
「パステル、早く脱がせてくれよ」
わたしはクレイ・ジュダのベルトを外し、ズボンを脱がせながら、わたしたちはもういつでも、つながれるんだなと思った。
「好きだよ、パステル……」
「わたしも好きよ、クレイ」
直に触れ合う素肌から忘れかけていた体温が伝わってくる。
「パステルの体、変わらないね。感じるところも。感じやすさも。ほら」
そう。こうやって何度もクレイ・ジュダに愛された。
わたしの体は彼の、唇も、指先も、ちゃんと覚えてる。
「クレイ……っ、あぁぁ…っ、ゃぁ…ん」
体が熱を思い出す。
「すごく濡れてるよ」
「ひゃっ」
わたしの甘い場所はクレイ・ジュダの指を飲み込む。
スルリと指を吸い込んだ感触でよく濡れているのがわかった。
「前より感じやすくなった?」
快楽は全部この人から教わった。
わたしはまだクレイ・ジュダしか男の人を知らない。
「やぁあぁ…っ、ダメっ、ダメ…ぇ」
クレイ・ジュダがわたしの中で指を曲げてそこを押すと、体からガクンと力が抜ける。
そ、そこを押さないで。頭がまっ白になっちゃう。
「やぁ…っ、ク、クレイっ」
こするのも、ダ、ダメ……!
「すごいよ。溢れてきた」
「はあぁ…ん……っ、ぁむぅ……っ、あぁぁ───っ」
わたしはクレイ・ジュダの指先であっという間に達してしまった。
「……おれのことも気持ちよくしてくれるかい?」
クレイ・ジュダはわたしの手を堅く大きくなってる部分に導いた。
ど、どうすればいいんだろう?
わたしがまごついていると、
「舐めてごらん?」
とクレイ・ジュダ。
ええ!?そんなこと恥ずかしい……!
でも、クレイ・ジュダのこと気持ち良くしてあげたい。
わたしはコクリと頷いて、それをペロペロと舐め始めた。
それはクレイ・ジュダの容貌にはまるで似つかわしくない……すごくいやらしいモノだった。
だけど、すごく愛おしい。
わたしを気持ち良くしてくれるモノ。
クレイ・ジュダがわたしにしてくれるように丁寧に愛してあげたい。
「パステル……くわえてみて」
「ん……」
わたしの口にはおっきいそれをゆっくりと含んでみる。
何でだろう。わたしがクレイ・ジュダを気持ち良くしようとしてるのに。
何故か体の奥が熱くて……声がもれちゃう。
「はむぅ……」
わたしが舐めていると、時々ぴくんっとする。クレイ・ジュダは感じてくれてるのかな。
「パステル、綺麗な顔を見せてよ」
えぇ!?この状況で!?
ちらりとクレイ・ジュダの方を見る。
わわわ。目が合っちゃった……。
「恥ずかしがらなくていい……すごく綺麗だから」
ただでさえ、綺麗、って言葉がピンとこないのに。
こんなにいやらしいわたしでいいの?
「そうだ……いいね」
クレイ・ジュダも気持ち良さそう。もっと気持ち良くしてあげたいな。
胸がきゅーっとする。
ああ。どうして。
彼のモノを舐めてると複雑な感情や感覚に襲われるんだろう。
恥ずかしいのに、もっとしたくなる。
舐めてるわたしもまた気持ち良くなっていく。
「く…っ」
ぴちゃぴちゃと口の中で舐めまわすたびに、彼が小さく呻く。
「ぅむぅ……」
わたしも声をもらす。
早く、早く欲しい。
体をつなげたい。
「クレイ……もぉ我慢できないよ」
「なにが我慢できないんだい?」
「もう口じゃ、やなの。欲しい、の」
そんなわたしにクレイ・ジュダは優しく微笑んでくれた。
「わかったよ、パステル。挿れてあげる……」
再び組みしかれた体。
ぐっと足を広げられて、わたしが舐め尽くしたモノがあてがわれる。
クレイ・ジュダが腰を押し込むと、わたしの甘い場所はするりと彼を吸い込んだ。
「あぁあぁぁぁ……っ」
「パステル……っ」
リズミカルな摩擦運動が始まる。
それに乗せるように、わたしは甘い喜びの声を上げ続ける。
粘着質な音を出しながら、交わっている場所は大きな快感を感じてる。
「はぁあ…んっ、ぁんっ、く、クレ、イ…」
「パステルの中、暖かくて気持ちいいよ」
「ひゃっ」
奥までグイグイ突き上げられる。
そのたびにわたしはあまりの快感に、だらしなく顔をゆがませる。
「感じてる顔も綺麗だよ」
「ゃぁだ…っ、クレイ…っ、こんな顔見ないでぇ」
わたしが腕で顔を隠すと、クレイ・ジュダはあっさりとその腕をとり払った。
「駄目だよ、おれは見たいから」
「クレイ……っ」
もぉ、ずるいよ。クレイ・ジュダは、こんなときでも涼しげな顔をしてるのに。
「もっと興奮させてよ」
「あんっ、ぁあっ、ぁ…ん…っ」
端正で品のいい顔立ちでそんなことを言うなんて。クレイ・ジュダの雰囲気は、今してる行為とあまりにアンバランスだ。わたしはまた高ぶってしまう。
「我慢しなくていいから」
「あぁんっ、クレイ…っ、クレ、ぃ…っ」
「乱れていいんだよ」
「やぁぁ…っ、ああ…っ」
すでにクレイ・ジュダの腰使いに合わせるように甘く悶え、乱れているのに。
これ以上、どう乱れろって言うの?
欲情しきった塊を突き入れられ、かき回され、おかしくなりそうなのに。
「今日のクレイ……すごくえっち……っ」
「前から言ってるだろう。おれは聖人君子ではないって。こういう抱き方だってするよ」
優しい微笑みは相変わらず天使みたいなのに。
悪魔のようにわたしを溺れさせる人。
「ひぃぁあんっ」
胸のふくらみを鷲掴みにされて、わたしは息も絶え絶えに喘いでしまう。
「泣きそうな目……。かわいいよ」
クレイ・ジュダがわたしの唇を塞ぐ。
それはすぐに荒々しくなった。
「ん……っ」
トロリとした舌の感触。体を重ねながらのキスはなんでこんなにとろけてしまうんだろう。
「そろそろ、いい?」
わたしはコクリと頷いて答える。
「パステル、愛してるよ」
「ひぁっ、クレイ……、嬉しいっ」
「パステルはどうなの?」
「わ、わたしも……愛、愛してる……っクレイっ」
再び唇が塞がれた。
突っ込まれた舌は、まるでわたしたちの下半身みたいに激しく絡みあってる。
深く、力強く、突き入れられた彼のモノが速度を増して、わたしの中をこする。
意識がどんどん遠のいていきそう。
こぼれそうなくらい、くちゅくちゅと舌が交わり、とろける。
「んんっ」
強く、強く、性器がこすりつけられる。その速度がすごい勢いで加速されていく。
「……!!!」
次の瞬間、クレイ・ジュダがわたしの中でドクンっと大きく脈打ち、トロトロとした精液を放出して……深く深く唇を合わせたまま、わたしたちはとろけるように達した。
「はぁ……っ、はぁ、はぁ」
「ん……っ」
いったん解放された唇がまた塞がれる。
そして、クレイ・ジュダは離れる体を惜しむようにもう果てたモノを何度もこすりつけた。
「パステル……好きだよ」
「わたしも好きよ」
合わさる唇。もう何回好きだと言い合い、唇を合わせたんだろう。
「前は一回しか言ってあげられなかったから……」
「クレイ……」
「ずっと言ってあげたかったけど。パステルがいなくなることを想像したら何も言えなくなってた。何度もパステルのこと抱いておいて、勝手な言い分だけど」
「そうだったの?」
「ああ。一目見たときから君が好きだったよ」
「クレイ、嬉しい」
ぎゅっと抱き合う。
そんな彼の気持ち想像もしてなかった。
「突然、別れることになって、別れの言葉も言えなくて、悲しい思いさせちゃったなぁって後悔してた」
「クレイ……」
「すまなかった」
完璧だと思ってたのにな。
やっぱりクレイ・ジュダも普通の男の人なんだ。
きゅーっと胸が切なくなる。
「わたし、クレイの気持ち知れて良かった。ありがとう」
「パステル……」
合わさる唇は愛しさの高まりをあらわす合図。
クレイ・ジュダが愛おしくて仕方ない。
「まったく君は。突然、現れたり、いなくなったり、また現れたり。忙しい子だね。方向音痴にもほどがあるだろ?」
「はは、そうかも」
そういえば、なんでわたし、クレイ・ジュダにまた会えたんだろう?
「このまま……この時間が続けばいいのにな」
「うん……」
「離れるなよ」
「クレイも離さないで」
「ああ。愛してるよ」
クレイ・ジュダの腕に包まれて、愛の言葉を囁かれて。まるで夢の中みたいな幸せな時間。
「うーん?なんだか、ものすごく眠くなってきたかも……」
あれれ?なんだか尋常じゃない。何だろう?
「ああ。おれも……」
覚えているのは、最後の力を振り絞って抱き合って交わしたキス。
強烈な睡魔はあっという間にわたしたちを闇へと落とした。
クレイ・ジュダの姿が薄くなっていって……ああ、ほどけていくんだなぁって思った。
「おーい。おめぇどうしたぁ?」
瞳を開けようとして、自分が泣いていたことに気づいた。
「なんだ?」
照れくささもあって、短くぶっきらぼうに、おれを心配そうに覗きこむ赤毛のランドに答える。
「いやぁー。おめぇ寝ながら泣いてたからさぁ。悪い夢でも見たか?」
「……懐かしい夢、かな」
「ほうほう!ジュダちゃん、なるほどねぇー。女の夢だ!そうだろ?」
「ああ。そうだよ」
まるで、この手にあの子を抱いた感触が残っているような生々しい夢。
まるで夢だったことが不思議なくらいに。
別れの言葉も交わせずに突然別れた愛しい少女。
後悔や未練のせいだろうか。
彼女の夢に涙してしまったのは。
そういえば、夢の中であのとき伝えられなかった言葉を彼女に伝えてた気がする。
「そうかそうか。おめぇが女の夢を見て涙を流すなんてなぁ。そういうこともあるんだなぁ」
「ランドはおれを特別視しすぎだよ。たまにはこんな日があってもいいだろ」
「まぁな。もてすぎるおめぇにもいろいろあるか」
遠い目をするランド。彼は昔、亡くした最愛の人のことを思い出しているのだろうか。
「たぶんもう会えないけど、好きだった」
「そっか……。おお!そういえば!」
「どうした?」
「夢と言えば、おれも見たぜ。しかもとびっきり面白い夢だ」
「はは。聞かせてくれ」
「おれとおめぇがさぁ、どこかの街に立ち寄るわけだ。でもどこかはよくわからねぇ。そこで、おめぇがさぁ、突然走り出すんだよ、それで……」
おれはランドの夢の話の続きを聞いて、笑みがこぼれた。
おわり