「浮気者!」 
そう言って、俺を睨みつけるパステル。急に豹変した態度と身に覚えのない言いがかりに面食らう。 
「どうしたんだ、パステル?」 
とりあえず、落ち着かせようと肩を抱こうとするが、ふりほどかれる。 
「ちゃっかり恋人作ってるんだからー!」 
この子は何を言っている? 
「俺の恋人はパステル、君だ」 
まさか魔物に取り付かれているのか?以前、俺がキスキンの王家の塔でやられたように。 
「もぉー!パステル、パステルって!せっかく会いに来たのに!」 
「……」 
言葉がでない。本当に魔物のしわざかもしれない……。 
しかし、いつだ? 
ついさっきまで普通に会話を交わしていたのに? 
「ギア久しぶり!」 
面食らってる俺を無視してパステルはそんなことを言う。 
「君は……」 
どうしてしまったんだ?と、俺が言葉を続ける前に、パステルはニコリとして言った。 
「サニー・デイズ!」 
 
どう考えても、俺をからかってる。 
そうとしか思えなかった。 
目の前にいるのは、俺が誰よりも愛している恋人パステル……のはずだ。少なくとも姿形は。 
だが確かに、仕草、話すときの癖、ちょっとした表情、それはパステルではなかった。 
もっと懐かしい……、 
「本当にサニー、なのか?」 
自分が馬鹿げたことを言ってるようにしか思えない。 
「やっと信じてくれた?」 
やれやれという眼差し。クスリと笑う顔はパステルの表情ではない。 
少し生意気でいつも俺と憎まれ口を叩き合っていたサニー・デイズそのものだった……。 
「待ってくれ……、意味がわからない」 
そう、サニー・デイズは死んだ。それを確認したのは俺自身だ。間違いない。 
それに、目の前の少女はさっきまでパステルだったし、今もパステルのはず、だ。 
「そうよね、突然わたしが現れても意味わかんないか」 
「当然だ」 
「ゆっくり説明するほど時間もないんだけど……」 
サニー・デイズが言うにはこうだ。 
メナースという恋の女神が恋への後悔を残して死んだ者に対して一度きりだが願いを叶えてくれる、というイベントをやっているらしい……。 
その女神はサニーの話を聞き、願いを叶えてあげる!と言ったそうだ。 
それで波長の合う人間の体を借りて会いにくるということで、パステルの体が選ばれた、らしい。 
「……………………………」 
神さまがそれでいいのかと言いたくもなったが……、サニーと再会できたのなら感謝すべきか。 
後悔を残したのは俺も同じだから。 
「ちょっとギアー。なんか言いなさいよ。……わかるでしょ。先に言わせないで」 
サニーは真っ赤になって、ふてくされた表情を浮かべる。 
「ああ、俺も好きだったよ」 
あの頃言えなかった言葉がサラリと出てきた。自分でも驚くほどに。 
「ギア、好きよ」 
瞳を潤ませ俺の胸に飛び込んできたサニーを……俺は迷いもなく抱きしめた。 
「朝がきたらこの子に体、返さなきゃ」 
そう呟いた声は強気なサニーに似合わず弱々しく、途端にせつなさが襲ってきた。 
そして、俺はあの日のように彼女と唇を合わせた。 
 
不思議なものだった。何度となくキスを交わしたパステルの唇なのに……俺がキスをしたのは確かにサニーだった。 
何故だろう。パステルの体を借りているだけなら、いつもと変わらないはずなのに。 
舌を割り込ませると、サニーもそれに答える。絡め取られるままのパステルよりも積極的な反応だな、と思う。 
感情に流されるまま、ベッドに押し倒して服を脱がせる。あらわになるのは俺が何度も抱いたパステルの体だ。 
だが、感じ方も喜び方も……パステルではなかった。 
長いまつげも、柔らかな唇も、少し小さいけど形のいい胸も。知り尽くしているパステルの体なのに。 
唇を合わせ舌を絡ませながら、サニーの体を愛撫する。指の動きに合わせて、唇からうっすら声が漏れる。 
「サニー、好きだよ……」 
我ながら最低なことをしてるな。恋人を昔の女の名前で呼び、愛の言葉を囁き……抱いている。 
「ギア」 
潤んだ瞳で俺を見つけるサニー。 
顔立ちが似ているせいか、そこにサニーの表情や仕草が加わると、借り物ではないサニー自身がここにいるように錯覚してきた。 
恋人を目の前にしてそれを思うのはひどいことだと思うし、サニーを抱くことはパステルへの裏切りだ。 
体がパステルだからといっても裏切ってないことにはならないだろう。 
わかっているのだが……。  
かつて愛した女を抱くことに俺は夢中になってしまった。 
「ギぁ、…ぁっ…、ん…」 
パステルが一番感じる場所を人差し指でこすり続けてみると、サニーも気持ち良さそうな声をあげる。 
奥を探ると、ぬりゅっと暖かく俺の指を絡めとる。 
舌先で胸の突起を刺激しながらサニーを見ると、一緒に冒険をしてた頃に一度も見たことがない──あんなにずっと一緒だったのに──頬がほんのり染まり、長いまつげをピクリとさせ、俺の愛撫に反応するように眉の辺りをしかめる表情が何とも魅力的で可愛かった。 
俺に触れようと手を伸ばし、髪の毛をまさぐってくる指も可愛くてたまらない。 
「髪、伸びたね」 
サニーは俺の首に手を回し、さらさらと髪の毛と指先を戯れさせる。 
一生懸命俺を求めるサニーを満足させてやりたいと思った。 
「サニー、かわいいよ」 
パステルは俺が尽くして、それに彼女が答える、そんな抱かれ方をする。 
サニーの場合はお互い求め合うような抱かれ方をすると思った。性格の違いか?もちろんそれぞれに魅力的だが。 
パステルに要求できないことも、サニーとならできる気がした。 
「サニー、俺のを……舐めてくれよ」 
俺がサニーの唇を熱くなった場所に誘導すると、彼女は迷うことなくそれを口に含んだ。決して上手いとはいえないが、一生懸命にしゃぶりついてくれるサニーが愛おしいと思った。 
「舌が引っかかるところは強めに舐めるんだ……わかるだろう……そう……そこだ……上手だね」 
俺が感じるところをサニーの舌が探り当てる。 
「手も使ってごらん」 
サニーの唇が俺のものをくわえこみ、手で上下運動を加えている。その光景は、あの強気だったサニーを征服したようであり……高揚感が興奮を加速させる。 
「そのまま俺の方を見てくれよ……」 
サニーは俺のモノをくわえながら、チラリと見てきたが、すぐに合わせた目線を逸らした。 
「ダメだ。ちゃんと俺の目を見るんだ」 
いやらしい目だ、と思った。 
俺の意図を察し、今度はわざと見せつけるようにこちらを見てくる。 
パステルだったら、恥ずかしくて泣きそうな目で見てくるかもしれない。まぁ、どちらもそそられるが。 
こうしてサニーを抱いてても時々パステルのことが頭をよぎる。というか比べてしまっている。もちろんどちらが良いということではない。二人とも抱かれている姿はかわいくて仕方ないから。 
「今度は俺が気持ち良くしてやろう」 
俺はサニーの足を開かせ、溢れ出してる部分に舌を這わせた。さっき触れたときよりもすごいことになっている。 
「俺のを舐めてたらこんなに濡れてきたのか?」 
「そんなこと……っ」 
「体は嘘をつけないみたいだよ」 
敏感さが増した突起を舌で舐め回すと、刺激が加わるたびにサニーはかわいい声をあげる。 
中をかき回す指が熱を帯びていく。 
「指ではもの足りないみたいだな」 
愛おしくて、愛おしくてたまらない。 
サニーがこんなにも俺を求めてくれる。 
もっともっと乱してやりたい。 
「俺が欲しいか?」 
「欲しい……、ギアが、欲しい、よ……」 
はぁはぁと肩で息をしながら懇願するような瞳で泣きそうな声になりながら訴えかけるサニー。 
俺はたまらない気持ちになり、サニーが口で限界まで堅く大きくしてくれたモノで一気に突き上げた。 
「あぁっん…、ぎ…ぁ……っ」 
「くっ……」 
呼吸が乱れる。サニーは何度も何度も俺の名前を呼んできた。 
俺も彼女に応える。 
「はぁはぁ……、サニー、愛してる……愛してるよ……」 
サニーは柔らかく俺を締め付ける。俺はサニーが与えてくれる快感に応えるように腰を動かした。 
「ぁあん……、ギア……っ、愛してるわ……」 
昔の俺たちに想像できただろうか。こんなに激しく情熱的に愛し合うなんて。 
体を一つにして、唇を合わせる。サニーとすべて一つになってしまいたいとさえ思う。 
だが、彼女は永遠に俺の物にはならない……。 
そんなもどかしさも、せつなさも、愛しさも、欲望も、そのすべてを彼女の粘膜に何度も何度もこすりつけていた。 
俺たちは乱れて乱れて。 
壊れるくらいに愛し合った。 
 
お互い気が済むまで行為に耽った後、俺とサニーは色々な話をした。 
かつて一緒した冒険の思い出、ひとりになってからのこと、パステルたちのパーティーと解いたクエストのこと、ダンシングシミターと再会したこと、キスキン国のこと……。 
「一緒に冒険するうちにこの子のこと好きになったんだー」 
俺の腕の中に抱かれているサニーはいたずらっぽい瞳で俺を見てくる。 
「ま、まぁ、そうだな」 
答えにくいことを言わないでくれよ。 
「ギアって、実はロリコンだったわけ?」 
「………」 
そう言われても、仕方ない、が。 
「冗談よ、冗談」 
「相変わらず憎まれ口を叩くんだな」 
俺は苦笑いして、腕の中のサニーの頭を空いてる方の手でポンとすると、サニーはクスクスと笑う。 
「……わたしと似てるから?」 
急に真剣な顔になる。 
「……ああ、そうだ」 
実際はきっかけにしか過ぎなかったが……今はそういうことにした方がいいと思った。 
「ギア……大人になったね」 
「そうか?」 
「うん。余裕があるっていうか。昔はいつも必死で……たまに心配だった」 
「それは……君に認めて欲しかったからだよ」 
「……無理、させてた?」 
「そんなことはない。おかげで成長できて今の俺がいるからな」 
サニーの肩を抱く手にぎゅっと力を入れる。 
「最初はね、浮気者!なんて言っちゃったけど、わたし、ギアが幸せそうで良かったって思うんだ」 
「サニー……ありがとう」 
柄になくに目頭が熱くなる。 
「ギア、あなたとは結ばれない運命だったけど。一緒に冒険したことや、さっき過ごした時間のこと……ずっと忘れないからね?」 
「ああ、俺もだ」 
サニーの唇にそっとキスをする。 
「なんだか……、眠くなってきたかも」 
気が付けば、空が明るくなろうとしている。 
「……もう、行くのか?」 
「うん。約束だから」 
俺はサニーを強く強く抱き締めた。離れることがないように強く。それが無理だと知っていても。 
そして、最後になるであろうキスをする……。 
「ギア、ありがとう……。また会えて良かったわ」 
「サニー?」 
「おやすみ……」 
そのとき、すーっとサニーがいなくなる気配を感じた。サニーはもういないんだなと俺は思った。 
 
 
「ひゃあー」 
わたし、裸で寝てる!ギアも! 
あれれ?昨日の夜ってどうしたんだっけ? 
記憶ないかも。裸で寝てるってことはギアと? 
ううっ。思い出せないよ。  
「おはよう、パステル」 
すごく眠そうな顔。ギアが目を覚ます。 
「ギア、昨日の夜、わたし……?」 
「あ、ああ……」 
ん?気まずそうな顔をするギア。どうしたんだろう? 
「いつ寝たんだっけ?」 
はぁぁぁー。トラップに聞かれたらバカにされるだろうなぁ。 
「いつの間にか……、ぐっすり眠っていたよ」 
なんていうか。それよりむしろ記憶が抜け落ちてしまったようなおかしな感じなんだよね。 
こんな感じ初めてかも。 
「あ、あの、ギア?昨日……したっけ?」 
「……」 
うーん。なんかギアってば変なんだよね。 
「途中、まで……。パステル、起きてくれなかったからそのまま寝たんだよ」 
確かにブラックドラゴンのダンジョンでも爆睡したわたしだけど。 
いつもだったら、くすぐったくて目を覚ますのに。 
わたしが考えこんでいると、 
「すまない……」 
叱られた子供みたいな顔で謝るギア。 
「そ、そんな、謝ることないってば!」 
慌ててフォローするけど。 
ギアってば変!よくわかんないけどなんか変!わたしの中の何かがそう訴えてくるけどよくわからなかった。 
「あ、そういえば、懐かしい人の夢を見たんだ」 
ギアがなんだかすまなそうにしてるのに悪い気がして。わたしは話題を変えることにした。 
「懐かしい、か。どんな人なんだい?」 
ギアは一瞬遠い目をした。なぜかその瞳がとても悲しそうに見えたけど、それには触れなかった。 
「人っていうか、昔クエストで知り合った、メナースっていう恋の女神なんだけどね」 
突然ギアがびっくりした顔。クールな顔が台無しになるくらい。 
「ギア?」 
「い、いや。何でもない。神さまに知り合いがいるなんてすごいな。で、どうしたんだ?」 
「ん、ごめんね、だって」 
「……」 
ギアの顔色が悪いような。やっぱり痩せすぎなのかな。 
「変な夢だよね。たった一言そう言われたんだ」 
「そうか……」 
「また会う機会があったらギアにも紹介するね!」 
「あ、ああ……。楽しみに、してるよ……」 
消え入るような返事。 
うーん。やっぱり今朝のギアは変なんだけど。 
私には理由なんてさっぱり思い付かなかったんだ。 
 
(だってあんなに盛り上がっちゃうなんて思わなかったんだもーん!ごめんね!) 
 
おわり 
 
 

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