俺はあの子の何に惹かれているのだろう…  
 
ストロベリーハウスの傭兵達の談話室になっている部屋の一角で、  
左手を頬杖してコーヒーを飲みながら、ふと小さなため息をつく。  
最初に意識したのはいつだったか。  
出会って間もない頃(いまも知り合ってそんなに立ってないが)、  
あのキットン族のダンジョンでのことだ。  
 
ストロベリーハウスの用心棒として雇われている俺は、  
この日ある冒険者たちの監視を命ぜられた。  
抜け目のなさを見込まれてか、ここ最近の仕事は、この手の(つまり  
金を返す当てのない輩の)目付け役が多い。  
最初は仕事を何時ものように淡々とこなすつもりで  
彼らについていったが、聞けばレベルは低いし、女子供犬はいるはで  
はたからみてもかなり危ういメンバーだ。  
いや、実際彼らは危うかった。  
うるさい農夫に、虫も殺せぬ様なつぶらな瞳の巨人、魔法使いらしい子ども、  
優男の戦士、派手な盗賊、犬っコロ、そして、普通の女の子…。  
おおよそ冒険者らしからぬどこにでもいるような子だ。  
まるで、家出してきた子どもたちがそのままパーティーを組んでいるような  
…そんな第一印象だった。  
だからかもしれない。  
あんなことをしてしまったのは…。  
 
「俺が運んでやろうか。」  
「ええっ!?」  
岩壁が炎に照らされて煌々と赤く染まって視える。  
キットン族とやらのダンジョン、炎が噴出す面で、  
きのこの階段の様なものがポコポコと現れ、  
足場の悪いこの状況を彼らが、どう打破しようかと  
会議していたときだった。  
実際はおのおので渡るしかない、と彼らの話が  
終盤に入る頃(きのこを渡る練習をしていた)、  
俺は声を掛けた。  
今まで黙って彼らを、そう、ただ「仕事」をしようと  
口を挟まず腕組みをして見ていたが、つい言葉が出た。  
みな驚いた顔でこちらを見ている。  
自分でも内心少し驚いてた。いままで人との係わり合いを避けてきた  
自分が思ったことを考えもせず口にしてしまうなんて…。  
ふと彼女を見る。彼女は口をあんぐり開けて、目も大きく見開いて  
いたが、視線が合い、見る見るうちに頬を紅潮させていく。  
「たしかにあの高さは女の子には酷だろう」  
足場は狭い、下は溶岩、暑さで体力も消耗しているはずだ。  
俺は彼女の返事を待たず、抱き上げた。  
 
ギアパス2  
「おいっ!勝手なことすんなよ!」  
赤毛のシーフが俺の肩をつかみ口を出す。  
いや、口を出したのは俺のほうだったか。  
横目に彼を見ると、すごい形相で睨んでいた。  
どうやらこのパーティ、先ほどから見ていても絆、というのか、  
連帯意識だけはやたらと高い。  
彼は部外者の俺が口を出したのが気に入らなかったらしい。  
「せっかく本人がやる気になってんだから、よけいなことすんじゃねぇよ!!」  
派手な盗賊……トラップ、とかいったか。  
彼は特に彼女、パステルに気をかけていたようにも見えた。  
言いたいことはわかるし、言いたくなる気持ちも分かる。  
「そう。じゃ、やめる?」  
腕の中でアタフタしていたパステルに声を掛ける。  
一瞬、ビックリした表情で固まっていたが、  
ぶるぶると首を振るとぎゅっとしがみついてきた。  
その様子を信じられない様子で見ていたトラップだったが、  
それも一瞬のうちで、今度はパステルを睨みながら  
俺の肩から下ろした手をぎゅっと握って拳を作り、  
「けっ、勝手にしやがれ!」  
と、そっぽを向いた。  
その口調に怒りがこめられいることは明白だ。  
「じゃあ、行こうか。」  
彼女に声を掛けるが、後ろめたいのか、どことなく気まづそうだ。  
そんな少し寂しげな彼女をみて、俺は余計なことをしたかも知れないなと  
思った。  
「つかまって、目を閉じていて。すぐ着くから。」  
パステルを安心させるように言う。  
こくりとうなずき、首に手を回してぎゅっとしがみついた  
彼女の背中をポンポンとたたいて、不意に笑みがこぼれてしまった。  
それはなんだったのか。  
そのときは気にもしなかった。(第一パステルは目を硬く閉じていた)  
今思えば安堵の笑みだったのだろう。  
俺はきのこに一歩を踏み出した。  
 
きのこを渡って中盤くらいまでは来ただろう。  
一人ならばとっくに渡り終えているが、腕の中のか弱い少女の  
ことを気に掛け、俺は慎重になっていた。  
女の子一人くらいたいしたことはないが、なにせ下は溶岩だ。  
パステルに不安を与えないペースできのこを登る。  
登りながら思った。  
さっきは余計なことをしたかもしれないと思ったが、  
いくら冒険者とはいえ、このか弱い女の子を「やる気」だけで  
危険な場所に放るのは無茶がある。  
現に下も見れずに体を震わせ、初対面の男の申し出に  
あっさり乗ったではないか。  
俺は自分に「正しい判断をした」と思いたかったのかもしれない。  
普段ならば絶対にしない行為に、自分が納得できる  
理由が欲しかったのかもしれない。  
それもあるが、……  
 
「着いたよ。」  
足場の安全な所まで来た。  
きのこではなく、溶岩が固まってできた地面だ。  
パステルを先ほど渡ってきたところから少し離れた所に  
(俺なりに気を使って溶岩が視界に入らなくしたつもりだった。)  
下ろしてやった。  
「うわぁ…」  
せっかく安全を考慮したというのに、  
パステルは下を覗こうと岩壁に近づく。  
「おいおい、せっかく運んだのに落ちないでくれよ」  
苦笑して言うと、パステルはキョトンとしている。  
そして気を取り直したように  
「ギア、運んでくれてありがとう」  
と屈託のない笑顔で礼を述べた。  
 
なんだか。  
無防備、というんだろうか。  
すぐに後のメンバーが来るのは分かっていることだが、  
それでも少しの間、知らない男と二人きりになるというのに。  
俺は思った。  
彼女のまとうやんわりとした空気と、素直さが  
力になりたい、と俺を動かしたんだろう。  
形は違えど、トラップも同じ気持ちだったに違いない。  
自分のパーティを失って数年、暗くふさぎこんでいた自分の心に  
日差しが当たるような気分だった。  
サニー・デイズを想った時のように必死で相手を  
追いかけるのではなく、心を解きほぐされるような、そんな感じだ。  
 
「君たちは仲がいいな。」  
顔を合わせる二人。  
それを見てまた微笑ましくなった。  
パステルもトラップもなんだか分からないといった顔をしている。  
俺もあんたらのような家族がいたらな、と心に思い、  
この危ういパーティの最後尾を陣取るのだった。  
徐々に芽生えつつある秘めたる想いを今は隠して……  
 
                  終わり  
 

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