「ほんとごめんなさい、トラップ」  
「………」  
むっつりとした横顔を眺めながら、大きくため息をつく。  
猪鹿亭での夕食からの帰り道。星明りがとてもきれいな夜なのに  
私はトラップに謝り続けながら歩いている。  
 
夕食を食べ終わっていざ清算、という時に、突然キットンが大声で  
「ああーーーっ!思い出した!今日、トラップの誕生日じゃないですか!?」  
なんて言い出したもんだからみんな大慌て。  
「ごごごごごめん!トラップ!」  
「ごめんな、トラップ。改めて誕生会するからさ」  
「…すまない、トラップ」  
「とりゃー、ごめんなさいだおぅ」  
「あんちゃん、ごめんデシ」  
「ひゃっはっはっは、すっかり忘れてました」  
最後の一人はぶん殴られていたけれど  
みんなに謝られて余計気分を害したのか、  
「うるせぇ」と言ったきり、ずーっと黙ったまんま。  
で、クレイが「パステル、後は頼む!」と言い置いて  
みんなは先にみすず旅館に帰ってしまった。  
頼むって言われても…はぁ…  
 
「ねぇ、ごめんってば!いい加減に機嫌直してよ、トラップ!」  
「………おめぇ、人の誕生日忘れておいてごめんで済まそうってか?」  
ああ、やっと口をきいてくれた。  
「あの、プレゼントはちゃんと後であげるから…」  
「待てねぇ」  
そう言うと立ち止まり、怒った顔のまま私の方に向き直る。  
その、いつもと違った表情になんだかどぎまぎしてしまう。  
「だって、もうお店なんて開いてないし…」  
今日は無理、と言いかけた唇はそれが叶わなくなった。  
目の前に瞳を閉じたすんごいどアップのトラップの顔。  
両肩の上にはちょっとひんやりとした手。  
そして、そして、唇のこの感触は…!  
 
私の頭が状況を理解するよりも早く、ぱっと体を離したトラップは  
「今日はこれで我慢してやる」と言い捨てると  
さっさと先を歩きだした。  
けれど。  
振り返って、まだ硬直して動けない私を見ると  
「だあぁ、早く帰るぞ!」  
と手を引いて歩きだした。  
「あ、あ、あの、トラッ…」  
「うるせぇ。何にも言うな!残りは後でちゃんともらうからな!」  
え、残りって…?  
さっきの出来事と今のセリフとつないだ手の感触に  
私の顔はどんどん赤く、頭はますます混乱するばかりだった。  
 

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