薄く開いたカーテンの隙間から、青く透明な月明かりが差し込んでくる。
部屋の中も、青い静寂に包まれて、まるで海の底ようだ。
窓際の机の上には、溶けて消えてしまったロウソクと
マス目の埋められた原稿用紙。
そして、その原稿の上に広がる、柔らかな髪。
昼間は、それこそ陽だまりのように明るいその色も
月明かりを受けて少し冷たい色に見える。
その髪の毛の主は、静かに寝息を立てている。
〆切間近だと切羽詰まっていた原稿は、何とか仕上がっているようだ。
原稿に追われたせいか少し疲れ気味なようで
長いまつげがくっきりと影を落としている。
頬にかかる髪の毛を耳にかけてやると、その皮膚の冷たさにぎょっとする。
「これじゃ、風邪を引いてしまうな・・・」
肩を抱いて体を起こし、頭を自分の肩に乗せ
そのまま背中と膝の裏を持ち上げる。
よほど疲れているのか、目を覚ます気配はない。
首筋にかかる寝息が少しくすぐったいが、抱き上げた体は冷え切っている。
ベッドに運び、毛布をかけると、机に戻り原稿を整える。
いちばん上のページにちょっとヨダレが落ちているのに苦笑しながら
文字が滲まないよう気をつけながら拭きとっていると
「・・・クシュン!」と小さなくしゃみが聞こえる。
あんなに冷えていては無理もない。
ベッド近づくと自分も隣に潜り込んで、冷えた体を柔らかく抱きしめる。
「・・・・・クレイ・・・・・」
ポツリと小さく呟いて、体を摺り寄せてくる。
起こしてしまったか?とちょっと申し訳ない気持ちになったが
すぐに密やかな、しかし安心したような深い寝息が聞こえてきた。
その寝顔を見つめていると幸せな気持ちになる。
「おやすみ、パステル」
額に口付け、目を閉じた。