その事件は、おれがマリーナの家でのんびり昼寝を楽しんでいるとき、起こった。
…ん?
きゃあきゃあと甲高い声がふたつ、近づいてくる気配がする。マリーナとパステルだな。
今日は女の子どうしのショッピングを楽しむのよねー、とか言ってなかったか?
ったく、安眠妨害もいいとこだ。だがまあ、暇だと思われて荷物持ちやらやらされたらたまらんからな、
寝たふりするにかぎる。
「…で、でも!あんなところで知らないひとになんて!無理よ!」
「だけどそうやってみんな買ってるのよ?パステルってばもう…」
あー、やっぱうるせぇ。…にしても、なんの話だ?知らないひと?
「ま、いいわ。じゃあ測るから、ちょっと服脱いでくれる?」
「う、うん」
がさごそ、と布のすれる音。おいおいおい。まさか。測るって…
ちょっとちょっとちょっと待て?!おれが寝てるのに気付いてないのか?
「やっぱりいまの下着サイズ合ってないわねー」
「そうなの?」
「そうよー。はみだしちゃってるっていうか、浮いてるというか」
「うー。わかんない…」
「女性として当然の知識!まずサイズを把握しなくちゃ。それ、取っちゃって。測りづらいから」
「う、うん」
うおおおおおおおおお!
べたべたした汗がせなか中から発せられてるのがわかる。
取っちゃって。だぁ?
おれがいるって気付いてねぇのか?
い、いや。開けるな。目を開けたら負けだ!耐えるんだ!ブーツ家の名にかけて!
「はい、ちょっと脇あげてね。…あ、あげすぎ。自然でいいから。
やだ、パステルってばアンダー細いのね。羨ましいわぁ」
「えー、そんなことないよ。やせなきゃなぁ、って思う」
「パステルはこれ以上やせる必要なんてないわよ!体を壊しちゃうから、ダイエットなんてしないことね。
栄養バランスが崩れると、肌も荒れるし。はい、じゃあ次はトップね」
「う、ううう…うん」
「照れない、照れない。…あ!ほらやっぱり!パステル結構サイズ大きそうよ?」
「そ、そう?」
「そうよ!ほら、さっきもらった表あったでしょ?ここか、ここのどっちか」
「えーーーー?!そそ、そんなに大きくないよ、わたし…!!」
「あら。わたしはちゃあんと測ったわよ?…えい!」
「え?きゃあ!マ、マリーナぁっ!」
パステルの叫び声を聞いて、とっさに。
いいか、とっさにだ。びっくりして、だ。わざとじゃねぇ。
ぎゅっと閉じていたまぶたを、開けてしまった。
「……☆×◎…!!☆…★…!!」
でかい鏡に映った、いつものスカートにブーツを履いてる、だけど上半身裸のパステルの、乳を。
後ろから羽交い絞めにするようなカタチで、細い指でつかみ持ち上げている…マリーナ。
真っ赤な顔であせっているパステルを、意味深な笑顔で鏡越しに見ているようだ。
パステルのピンクの乳首。ピンクの乳首、ピンクの乳首!
「寄せてあげる、これブラの極意」
「ちょ、ちょっと…マリーナ!」
「パステルの肌って触り心地いいー。なんていうのかなぁ、吸い付くみたいにしっとりしてて」
「マリーナってばっ!」
「いいじゃなーい、女の子どうしなんだし。それにしても触るとわかるわね、ボリューム」
「ぼ、ボリュームって…あ、ああっ」
「全然小さくなんてないわ。ちゃんとした下着で支えてあげないと将来タレちゃうわよ?」
「や、ちょ。ちょっと、マ、マリ」
おいおいおいおい。
マリーナのやつ、そ知らぬ顔してパステルの胸を揉みしだいてねぇか?
パステルの声がなんだか少しだけ甘い響きになってきているような…
それを聞いて下半身がものすげぇ勢いで元気になっていきやがる。なのに身動きが取れねぇ。
く、くそ。マリーナ!!代われぇぇ!!!
「マ、マリーナ…、あぅ、もう…」
「うふふ。じゃあそろそろ、下着屋さんにいきましょうか?」
顔をまっかにして目に涙を浮かべたパステルの耳に、マリーナがそっと唇を寄せて…
舐めた。
マリーナのやつ、舐めやがった。
あわれパステルは硬直しちまってる。そんなパステルの胸をようやく開放し、マリーナはうーん、と伸びをした。
「じゃ、続きはまたこんど、ね。」
小さな声だったが、確かに聞こえた。
そしてマリーナは意味ありげなウインクを投げ、「さ、服着て早く出ましょ」とパステルをせかす。
…何もなかったかのように。
そして2人の気配が完全に消えて。
「クレイじゃ、なかったのかよ…あいつが好きなの…」
完全に不意打ちだった伏兵の登場に、おれはぼやくしかなかった…