「あ、あれれっ?」  
扉を開けてまた同じ光景が目に映った瞬間、背後から一斉に  
「はぁあ〜…」とため息が響いた。  
「おめぇさ、一体何回この部屋に来れば気が済むんだよ」  
なかでもひときわ疲れた声を出したのは、わがパーティーの盗賊・トラップだった。  
 
わたしたちは今、あるクエストに望んでいた。  
レベルもまあまあ、距離的にはシルバーリーブから少しあるけど、  
(珍しく)わたしたち向きのちゃんとしたクエスト、のはずだった。  
ダンジョンは魔法仕掛けの部屋がいくつも廊下でつながっていて、  
罠があれば解除して進む。  
ただ廊下が入り組んでて、開ける扉を間違えると通り過ぎたはずの部屋に  
逆戻りしてもう一度進み直さなければならなかったりして。  
で、その無限ループにまんまとおちいっている最中なのだ。ううう…。  
 
「ごめん!ほんっとごめん!もう一回だけ…」  
「いや、もういい」  
あわてて書き込んだマップを見返した瞬間横からトラップがそれを取り上げた。  
つらっとマップ全体を見回して、視線をクレイに向ける。  
「この分じゃあ永久にクリアできそうにねぇよ。今日は帰ろうぜ」  
「ん…、そう、だな」  
私に配慮しつつクレイも同意した。  
そうだよね、人工のダンジョンだから今のところモンスターは出てきてはいないけれど、  
扉があるたびに罠外しをしてるトラップだけは精神的負担が大きいと思う。  
それをおなじとこ何度もくり返されちゃあ、ねぇ。  
「先には進めなくても、戻るのには支障なかったよな。  
とにかく一度さっきの村まで戻ろう」  
「そうだな」  
「わかりました」  
リーダーであるクレイの決定に他のみんなもうなずいた。  
 
「みんな本当にごめんね。えーと、じゃ、どの扉だっけ…」  
帰り道を見ようとしたわたしにトラップはマップを突き返すと、  
そのまますたすたと歩き出した。みんなも彼についてゆく。  
「え?あれ?」  
「ぱーるぅ、かえんないんかぁ」  
「パステルおねいしゃん、いくデシ」  
一瞬で取り残されそうになって、わたしもあわてて後を追う。  
ええっ!?トラップ今ので道おぼえたの?  
はあ、わたしっていつまでたってもお荷物だなぁ。とほほ。  
 
そうしてそのまま、一度も迷うことなく進んだわたしたちは無事に宿まで帰り着いた。  
そこはシルバーリーブより少し小さいのどかな村で、みすず旅館と同じように  
部屋を2つ取って(ノルはやっぱり馬小屋で寝てもらって)休むことになった。  
 
宿の作りもみすず旅館によく似てて(といってもどこの宿屋もたいてい似てるけど)  
階段を上がったとこがわたしたちの部屋。  
途中にあった食堂ですでに夕食は終えていたから、ここで解散することになった。  
「それじゃあおやすみ」  
「うん、ごめんね、迷惑かけて。明日はがんばるね」  
すっかり寝こけてるルーミィを抱っこしてるクレイから受け取ろうとしたとき、  
わたしをさえぎってトラップがルーミィの上にさらにシロちゃんを押し付けた。  
「は?」  
「今晩チビたち頼むな。  
パステル、おめぇはおれが一晩みっちりマッピング教えてやるから来い!」  
言いながらずるずるとわたしを女の子部屋の中へ引きずっていく。  
「お、おい、トラ…っ」  
静止するクレイの声も聞かず扉を閉めると、ガチャリとカギのかかる音。  
「ちょ、え、やだ、トラップ!」  
「やだじゃねぇよ、いいからさっきのマップ出せ」  
 
結局わたしの抵抗もむなしくトラップからマッピングを教わることになってしまった。  
なにしろ今日のマップのひどさは自分でも認めざるをえないから拒めないんだよね。  
おまけに一番疲れているはずのトラップが直々に教えてくれるって言うんだから、  
むしろわたしにとって大変ありがたいお話なわけで。  
口は悪いし乱暴だけど、やっぱりトラップって優しいかもね。  
クレイたちも「トラップ頼むな」なんて言って部屋に入っていった。  
 
冷たい床にじかに座って、マップを見てるトラップの前で正座してるわたし。  
なんかこれって学生時代、先生に怒られてる時みたいだなあ。  
「ひでぇな」  
がくりと頭をうなだれる。  
自覚してます。スミマセン。  
「だいたいなぁ!何でこんなに部屋の大きさがバラバラなんだよ!  
廊下の長さもむちゃくちゃじゃねーか!!」  
言って強く拳を床に置いたマップに叩きつける。  
ひぃっ!今何時だと思ってんのよっ。  
「ちょっとトラップっ。静かに!」  
あわてて床の拳を持ち上げると、すぐさま乱暴にその手を振りほどかれた。  
「………」  
一瞬間があって、  
「おめぇさ、自覚あんのかよ」  
ぽつりと言われたことの意味を確かめようと顔を見ると、冷たい視線で見下ろされていた。  
うう…怒ってるなぁ。  
 
「わぁーった。じゃ静かにやる。  
おれが口でダンジョンの形状を言ってくから、頭使ってマッピングしてけ」  
ええ〜、見てないものをマップにしてけっていうの?  
それってすごく難しいことじゃない?  
「ちなみに1コ1コ確認してくからな。まちがってたらペナルティ…そうだな」  
部屋中をすみずみまで見回して、ついでにわたしを上から下まで見て、にやりと笑う。  
うわ、ヤな予感。  
「ブラウスのボタン、外してくってのはどうだ」  
 
ゴツ…ッ!  
思わずげんこつをお見舞いする。  
「ってーなあ!」  
「痛てーなじゃないでしょっ。何考えてんのよ、やらしいわねっ!」  
まったく普段、出るとこがどーの引っ込むとこがどーの言ってるくせに!  
ちなみに今はブラウスにミニスカートという格好なんだけど、  
このブラウス上から下まで5ヶ所2つずつボタンが付いてるから  
10回間違ったら全開しちゃうじゃない。  
「たとえおめぇがはだか踊り始めたとしても変な気起こさねぇ自信があっから安心しろよ。  
それともやめるか?明日も一日中おれらを引っ張りまわしておんなじとこ回るつもりかよ」  
ぐ…っ、反論出来ないのが悔しいっ!  
「いいから始めるぞ。イヤなら間違えなきゃいーんだから。  
とっとと新しいマップ出せ」  
あーもうーも言えずトラップのマッピング教習は始まったのだった。  
 
「焦んなくていいから正確に描け、正確に」  
「ちげぇよ、この廊下は5歩だっつたろ。コレじゃ長すぎ」  
「なんだこの長細い部屋は。隣の部屋とクロスしてるじゃねーか」  
「だぁらこの扉はこっちとつながってんだよ。おめぇほんっと距離感ねぇなあ」  
「何本も線を描くなって何度言やーわかんだ、このバカ!」  
 
間違えるたびひとつひとつ確実にボタンが開けられていく。  
手首のとこにある4つも含めていいって言ってくれたけどそれもとっくに全開してて、  
前は上から2つ、下から6つまで開いていた。  
つまりもう胸元の2つしか残ってない──。  
 
「はああああ……」  
何度ため息をつかれたろう。もう始めてから何時間経つのかもわからない。  
トラップに言われたとおりにイメージしてるつもりなんだけど、  
すでにオーバーヒートしてる頭じゃ冷静に言葉を理解するなんて努力も無理で、  
こうかな、でもやっぱりこうかもと考えてるうちにさらに混乱の悪循環。  
トラップは約束したとおり必要以上の大声を出さないようにかなり我慢して  
付き合ってくれてるのに。  
「ごめん…」  
また一つボタンをはずすのかぁ。  
この分じゃ最後の一つも簡単に開きそうだなぁ、はあ〜。  
突然、胸元にかかった手がぐっとつかまれた。  
ビックリして顔をあげると、ぎょっとするほど近くにトラップの顔。  
「…っ」  
「おまえさぁ、もしかして誘ってんの?」  
 
………………。  
はあ?な、なななに言って……っ。  
顔が赤くなるのが自分でもわかる。  
心臓なんか飛び出しそうなくらい早く打ってて痛い。  
トラップは真面目な、いや少し怒ってるみたいな恐い顔で、  
つかんでいた手をピストルの形にすると、人差し指の先端をわたしの胸元に伸ばした。  
胸の谷間の肌に爪の感触が直接あたる。  
 
「そんな簡単に脱いでて、おれに抱かれてーわけ?」  
 
だだだ、だって、じぶんが、言ったんじゃない。  
そう言いたくても言葉にならない。身体も動かない。  
恐かった。  
急に目の前にいる人が、全く知らない人に見えて。  
 
「大して考えもせず間違えてひょいひょいボタン外してっけど、今の状況わかってる?」  
状況…。  
真夜中で、年頃の男女がふたりきりで、……胸元が、こんなに、あらわで。  
背筋をすーっと冷たいものが流れた。  
 
……わたし、なにしてんの……。  
 
「最後も、間違うつもりか?」  
囁くみたいに言われて弾けるように首を横に振った。  
ついでに身体を引いて開いた胸元を閉じる。  
「じゃあ、次」  
トラップも体勢を元に戻して、次の部屋の説明を始めた。  
冷静に、よく聞いて、正確にイメージしするのよ、パステル。  
廊下の幅、長さ、このくらい。  
部屋の大きさ、あ、これじゃ少し小さい。  
今書いた線をぶれないように慎重に伸ばしてく。  
そうか、そうするとここの通路とつながる?  
注意されたことを思い出しながらゆっくり書いていく。  
落ち着いて。落ち着いて。  
 
「ん、まあ、いいんじゃねぇ」  
その言葉に身体中の力が抜ける。  
よ、よかった……。  
こんなに集中してマッピングしたのなんか、もしかして生まれて初めて?  
でもなんか冷静に正確に描くってのがわかった気がする。  
予備校でちゃんと習ってたのにつかみきれてなかった感覚がようやく。  
「だいたいおめぇは変に焦ってばっかでなにがなんでも間違えねぇって気合も  
真剣みも足んねーんだよ。  
正しいマップが描けなきゃ、出口わかんなくなってダンジョン内でのたれ死ぬ  
っつーこともあるんだぜ。  
パーティー全員の命預かって進路を決めてるってこと、ちったぁ自覚したか?」  
 
「あ……」  
そっか。そうなんだ。  
そしてこの先もっと危険なダンジョンに挑んだ時にようやくそれに気付くんじゃ遅いんだ。  
「おめぇだってちゃんと落ち着いてやりゃーできんだからな」  
「うん、ありがとトラップ。…大好きだよ」  
さらりと言葉が出た。  
 
──そうだ。  
わたしはいつだってわたしのことを誰より考えてくれるこの人が  
ずっと好きだった──。  
 
 
トラップは面食らったような顔をして、それから凄い勢いで目をそらした。  
「ば、バカ。さっきおれが何言ったか覚えてんだろ」  
「うん。でも好きなの」  
何言ったか、と言われて再びよみがえる言葉。それに反応する身体の奥の熱。  
心臓はずっと壊れた速さのまま。  
でもさっきとは真逆の温度を示していた。  
恐かったのは本当。  
わたしに緊迫感を持たせるためにトラップが作った空気は刺さるほど冷たかった。  
でも今は…。  
トラップはそらした瞳をゆっくりとわたしに戻した。  
「わかってて言ってるんだよな。じゃあ礼でももらえるわけ?」  
かすれるような小さな声に熱が上がる。  
 
ちらりと視線が胸元に降りたのに気付いて心臓がさらに大きくはねたけど、  
わたしはうなづいた。  
「……おれはおめぇがただの礼やなりゆきだけでこういうことするような女じゃ  
ねぇって思ってるんだけど、あってる?」  
もう一回うなづく。それから、  
「わ、わたしもトラップは軽々しく仲間にこんなこと言う人じゃないって  
思ってるんだけど、あってる?」  
「当たり前だろ」  
両腕が優しくわたしの身体を抱きしめた。  
 
 
「ねぇ、変な気起こさない自信はどうしたの?」  
ちょっといじわるしてみたくて言ってみたけど、  
「んなもんはおめぇのマッピング能力のなさと一緒に駆け落ちした」  
やっぱり口では敵わなかった。  
 
「…っ、ふっ…」  
月明かりだけの静かな部屋。  
何度も角度を変えて重ねられるかさついたくちびるから漏れる微かな音。  
ベッドに横たえられたわたしは進入してくる舌についていくのが精一杯だった。  
思っていたより重くて熱い身体が気持ちよくって、わたしから思考能力を奪う。  
やがてくちびるの端からこぼれた唾液を追うように  
トラップの舌が首筋へと移動していく。  
ぞくぞくというか、ぞわぞわというかトリハダにも似た感覚に身をすくませてると、  
トラップの片手がお腹からブラウスの中にもぐりこんできた。  
「…んんっ」  
「ずいぶん肌が冷えてるな。わりぃ」  
うん、でもトラップが暖めてくれるんでしょ。  
なんて思っても言えなかったけど。  
まるで心の声が聞こえたみたいにニヤリと笑ってその手を胸へと這わせた。  
「ひゃ……っ」  
ブラジャーの上からさするように動き回ってるかと思うと、もう片方の手が背中に  
まわされる。  
わ、わ、わっ、せ、背中が〜。  
撫であげれらる指にぞくぞくがいっそう強くなって背筋をそらすと、  
これ幸いとばかりにホックが外された。  
 
あまりに素早い動きに翻弄されっぱなしの心がちくっと痛んで。  
「………」  
「な、なんだよ?」  
急に動きを止めたわたしにトラップが怪訝そうな顔をする。  
「ねぇ、なんか慣れてない?」  
 
そりゃあトラップはもてるし、こういうこともしたことあるんだろうけど。  
あ、やだな、変なこと気付かなきゃよかった。  
一瞬落ち込みかけると、トラップの手がわたしの右手を捉えた。  
ルーミィをあやす時みたいな顔。  
そのまま手を自分の胸に当てる。  
「?」  
「わかんだろ、心臓」  
言われて手のひらに意識を集中する。  
ううん、集中なんかしなくても十分早い鼓動伝わってくる。  
「あ……」  
「慣れてなんかねぇよ。おれだって、初めてだよ」  
「本当…?」  
なんて、つい口から出ちゃったけど、心臓の速さで嘘をつける人なんていないよね。  
「…ごめん、わたしってばつまらないヤキモチ…」  
「つーことで」  
わたしが謝ろうとするのを塞ぎ、すぐに離した口元はまた余裕の笑みを浮かべてる。  
「お互い初モノなわけだし、おれとしてはそれを免罪符に欲望のままもっと性急に  
してーとこなんだけど?」  
ぼんっと脳みそが爆発しそうになった。  
あわてて激しくお断りする。  
 
「だだだめ、えと、あの、ゆっくりで!」  
 
って必死に言ったのに。  
「却下」  
の一言で片付けられてしまう。  
「ええぇ〜」  
「わりぃけど、おれ持ちそうにねえし」  
言いながら片手はすでにスカートの中に入れられている。  
舌を胸に這わせると先端に吸い付いてくる。  
「……んっ、や…ぁっ」  
「へえ、思ったよりいい声」  
悦んだ色を声に出しながら、止まらない太ももを撫でさする手と胸元の舌の動き。  
ど、同時は…やだ……っ。  
びくんびくんと身体が勝手にはねるのを止められない。  
ふわっ、ゆ、指が、トラップの指がぁっ……。  
「あ…っ、やっ」  
静かに下着に進入した指は、すぐに無遠慮に動き回った。  
「うっわ、とろとろだぜ」  
………っ!  
耳元で囁かれる。  
指と舌、息と、言葉。それだけでわたし…っ。  
 
身体がさっきより激しくけいれんする。  
嵐の海にただよう木っ端が岩に叩きつけられたみたいな衝撃。  
ぐるぐるになって、ふわってなって、びくんってなって、真っ白になって。  
そしてそれが終わると、身体中の力が吸い取られたみたいだった。  
 
「イった?」  
優しいような、いじわるいようなどちらとも取れるような顔でトラップが聞いてくる。  
多分今の感覚をそういうんだろうけど、わたしはまばたきさえも億劫なくらいで、  
半開きの目のままうなづくこともできなかった。  
そんなわたしを満足そうに見て、トラップは身体を起こしてわたしの足から  
下着を抜き去る。  
そこが急に冷たくひえて、濡れているんだっていやでも自覚してしまう。  
やだ、はずかしい…っ。  
抵抗したくても足を数cm動かすのがやっと。  
次に彼が何をしようとしてるのかわかったけど、動けなかった。  
でも本当は、抵抗する気なんかないってバレてると思う。  
 
「ゃ、ああああぁあぁ……っ」  
焼けた鉄の棒が入ってくるような痛み。  
身体はまだがくがくしてる。  
つまさきから髪の毛の一本一本まで電流が通ってるみたい。  
無我夢中でトラップの肩に手をかけた。ううん、きっと爪をかけてる。  
「くっ、せめぇ…」  
眉根を寄せながら侵入者が奥へ奥へと進んでいく。  
おぼれてるみたいに息苦しくて、のどを開いて呼吸しようとすると伸ばした首筋に  
トラップのくちびるが寄せられる。  
今はどこを触れられても、だめっ……!  
 
きつく結んだまぶたから涙がこぼれてくのが分かった。  
するっと耳の中へ落ちていくのさえ刺激的で。なのに。  
「痛ぇだろ、…やめるか?」  
そんなわたしの様子に遠慮がちな声が響く。  
わたしはすばやくかぶりを振ると、腕を背中に回して強くトラップにしがみついた。  
「だめ、いかないで…」  
わたしの一番深いとこに、いて。  
 
ゆっくりといたわるような律動が始まる。  
粘着質な音。きしみをあげるベッド。抑えきれない声。  
「…ふっ、……んんっ、…っ」  
「パステル……っ」  
かすれた声で呼ばれる名前。  
それ以外の音が静か過ぎて、世界にわたしたち二人しかいないような  
そんな錯覚さえしそうになる。  
「声、出せよ。聞きたい」  
「だ…って、……聞かれちゃ…」  
「誰も、…起きてねぇよ、こんな時間」  
でも、とためらう。なのに意に反して声はのどの奥からどんどん溢れてくる。  
「ふぁ、あ、…っあぁ、んっ…、とら…っ」  
はすかしいのに止められない。  
「……ん、も…、やべぇ…っ」  
加速してくトラップとともにわたしは再び嵐の海に引きずりこまれた。  
 
あれからまるでさかりのついた動物のようにわたしたちは求め合って。  
当然のように翌朝起きるなんて出来なくて、結局あのダンジョンの最奥へ  
たどり着いたのは翌々日の夕方のことだった。  
そこで見つけたのは空になった宝箱。  
「はぁ、この様子じゃあとっくの昔にこのクエストは終わってたってかんじだな」  
クレイがため息をつく。  
あーん残念。せっかくがんばってここまで来たのに。  
「これだけほこりかぶってりゃ悔しい気も失せるな。  
終わったクエスト売りつけるたぁしょせんはオーシってとこか」  
うう、このクエスト代請求しても無理かなあ。  
「お前が空の宝箱見てけろっとしてるなんて珍しいな。  
ま、しょうがない。帰ろう」  
「かえるおう!」  
「帰るデシ」  
やれやれ、今回はマッピング能力が上がっただけでもよしとしなきゃね。  
クレイの声に、背中を向けて歩き出したみんなの後を追おうとして  
目を盗んで寄ってきたトラップに肩を抱かれる。  
「な、なに?」  
どぎまぎするわたしに顔を寄せて彼は満面の笑みを見せた。  
 
「まあ、おれたちはなによりのお宝をいただいたわけだし?パステルちゃん」  
 
 

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