ミモザ姫の即位式前夜祭が華やかに続いている会場を一人こっそりと抜けだすと、  
個人用にあてがわれた部屋へ戻ってきた。  
明かりもつけずに月明かりに照らされたベッドへ倒れこんで、ぼんやりと  
さっきの会話を思い出す。  
 
『おまえ、ギアと結婚するつもりなのか?』  
『ギアならおめぇを幸せにしてくれそうだしさ』  
『……そっか』  
 
「……そっか、か」  
何であんな事を言ったんだろう。  
聞かなきゃ良かったこと、言わなきゃ良かった事をぐるぐる思い出している。  
 
ふと、ドアをノックする音で意識を戻された。  
「いる?」  
低く響く声にどきりとする。  
今一番会いたくない人物かもしれない、となんとなくやな気持ちでゆっくりと  
ドアを開けた。  
長身に黒髪、全身黒一色の正装姿。削ぎ落としたような頬も黒く影を作っていて、  
控えめな明かりしかない廊下ではまるでシルエットだけみたいに見えた。  
「……ギア」  
「やあ。姿が見えなかったから」  
「…なに?」  
「うん、ちょっとね。いいかい?」  
仕方なく身体を引くと、暗闇の部屋にギアが入ってきた。  
 
「明日出発することにしたよ」  
「えっ」  
思ってもみない事に振り向くと、ギアはくすりと笑った。  
「そんな顔しなくてもいいよ。パステルは連れていかない」  
「だって……」  
「いいんだ、もう決めた。だから」  
するりとギアの腕が腰に回る。  
「最後の挨拶をしに来たんだよ」  
 
「なっ、ちょ……っ」  
抗議しようとした声が冷たいものでふさがれた。  
「んんっ」  
身長差から上向きにさせられ唇を開かされると、ぬるりとしたものが口内へ  
侵入してくる。  
嫌悪に眉をしかめてもお構いなしに口の中の隅々までうごめき続け、  
自分の舌も絡め取られる。  
やがて唇の端から二人の唾液が溢れてこぼれていくと、その後を追うように  
ようやくギアの舌が移動していった。  
「…ぁ……はぁ」  
溜まらず上げた息継ぎの息が信じられないほど熱い。  
思わずふらつくと身体を支えられてベッドに押し付けられてしまう。  
「……やめっ…」  
抵抗しようにも力が入らない。  
その間にもギアは馴れた手つきでするすると服を脱がし、愛撫を続けていく。  
開いた胸元から忍び込む冷気や這い回る冷たい指と、身体の中の熱さとの温度差に  
くらくらする。  
「…いや…だ……、ギア…っ」  
やっと絞り出した声も自分自身でさえ喘ぎ声のようだと思った。  
「でもここは嫌がってないようだけど」  
楽しげな声で遠慮の欠片もなく露出された下半身に触れられる。  
「ああ…っ」  
「ほら、こんなにぬるぬるになってる」  
 
冷たく節くれだった指が太ももから這い上がっていきそこに触れる。  
他人になんて弄られたことない場所を強弱をつけて蹂躙されていく。  
「はじめて、だろう?力、抜いて」  
ギアの声が掠れている。  
下半身に熱い昂ぶる存在を感じて全身に恐怖が走った。  
慌てて身を引こうとしたが一瞬遅い。  
「ぁあああああ……っ」  
ぎりぎりと身体の中に入ってくるもの。  
熱く焼けた刀で切り裂かれているような痛み。  
そこから逃げようとするが、ギアに強く押さえつけられていて出来ない。  
「ああっ、痛……っ、…やめっ」  
無我夢中にもがいても押さえつける腕は揺るがず、  
「すごい……熱い…」  
恍惚とさえ言えるギアの声が耳元で熱く囁かれ、律動が始まった。  
 
「…っ、はぁ……っ、んん……」  
深く腰を打ちつけられるたび、自分の声と粘着質な音が暗闇に響いて、  
聴覚からも刺激される。  
やがて、ただ痛みしかなかった行為がゆっくりと快感に変わっていくのが分かった。  
粘膜を擦られるたび痺れが電流のように身体中を駆け回る。  
「……ギア……っ」  
思わず名前を呟いて背中に回した腕に力を込めた。  
そんな態度に答えるように、さらなる高みへ向けてギアは動きを激しくさせた。  
「…あっ、……ああっ、はあ………っ」  
そして最後の瞬間、ギアがようやくおれの名を呟いた。  
「………トラップ……」  
 
ベッドの上でぐったりと横たわる身体にシーツを掛けてくれているのを  
夢うつつに感じながら眠りにつく。  
まだ前夜祭は続いているらしい。  
音楽は今も鳴り響いていた。  
 
END  
 
 

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