パステルと二人きりで行動するのは、久しぶりだった。  
ここ最近、俺は彼女を避けるようにしてたから。  
でも、いろんな事が重なって、二人だけでお使いクエストに出かけた。  
ヒポで日帰りの予定だったけれど、天候が悪化たため一泊することになった。  
飛び入りで入った村に一軒しかない宿屋は、同じように宿を求める人で溢れていて。  
俺たちは、シングルの一部屋しか取れなかった。  
シングルの部屋は、ベッドと小さな机と椅子がひとつだけの簡素なものだった。  
夕食の後、部屋に引き上げたとき、パステルは机に向かって何かをメモしていた。  
原稿の下書きかな、と思ったけれど、話しかける勇気がでなかった。  
パステルと二人きりの部屋は、息苦しかった。  
俺にとってパステルは、もう妹とかパーティーの仲間じゃなかったから。  
ぼんやりと、何も考えないようにして荒れる窓の外をみていた。  
窓枠を風がガタガタとゆらし、ガラスには雨が幾筋も流れている。  
季節外れの嵐は、まるで俺の内心を映してるみたいだった。  
そのままじっと立ち尽くしていると、背後から近づく気配があった。  
「…クレイは、私のこと、どう思ってるのかな?」  
「え…?」  
振り向くと、真剣な眼差しでもってパステルが俺を見つめていた。  
「最近、わたしを見ると、クレイは何処かにいっちゃうよね。わたし、何かしたのかな…」  
肩をおとして、なお告げる彼女から俺は視線をそらした。  
そして視界の端にうつるベッドを締め出すように首をふった。  
「気のせいだよ。あと俺は今夜、ここで寝ないから。ベッドはパステルが使ってくれ」  
「じゃあ、どこで休むの?」  
「…パステルは、気にしなくていい」  
俺がそう言うと、彼女の表情が歪んだ。まるで泣き出す寸前のように。  
つかの間、唇をきゅっと結ぶとパステルは決然と言った。  
「わたし、わたし、クレイが好きなの!」  
聞こえた言葉が、信じられなかった。  
驚いて見おろしたパステルの瞳には決意と、不安と、俺が憧れてやまない光があった。  
それは輝く星のように、闇に迷う俺をいつも照らしてくれた優しい光だった。  
 
「パステルを見てると…思い知らされるんだ」  
そう言うと、はしばみ色の瞳に悲しみが宿るのがわかる。  
君が思ってるようなことじゃないって、どう告げればいいんだろう。  
「自分が、とっても情けない男だって」  
笑みを浮かべながら白状すると、パステルは首をかしげた。  
言葉の意味が上手く捕らえられなかったらしい。そんな風に小首をかしげる姿は、愛らしかった。  
誰よりも愛しい姿をみつめながら、俺はベッドに腰を下ろす。もう、後戻りはできないだろう。  
「俺も、君が好きだよ。パステル」  
名前を呼んで、手をさしのべる。  
息がつまりそうな沈黙があった。  
パステルは、どう反応していいのか迷っているみたいだった。  
それでも、ゆっくりと彼女は俺の手をとった。導かれるままに、俺の膝の上に身を置いた。  
それがどういう行為をもたらすものか、理解してると信じたい。  
俺は、パステルを横抱きに抱きよせた。  
彼女の首筋に顔をうずめた。触れ合った肌は温かく、柔らく、甘い匂いがした。  
パステルは小鳥のように震えていた。けれど逃げなかった。  
おずおずと上げられた腕が、俺の背中に回される。  
告白されたのに、なおもおびえてる自分を白状するのは情けない。  
でも告げなければ、彼女を手にすることができないと思った。  
「君といると、俺は俺でいられる。迷っても、為すべきことを選ぶことができる。  
それなのに、今は――どうしていいのか、わからないんだ」  
「クレイは…どうしたいの?」  
囁かれる優しい声。そこに軽蔑の響きは微塵もない。  
「パステルが好きだって自覚したときから、俺は、君が欲しかった。心も、身体も、全部。  
我慢しようって、思ってたんだ。でも、やっぱりダメみたいだ。俺は、君が欲しい。  
情けないって思ってくれていい。俺は、君を独占したい。君を見るたびに、そう思ってるんだ…」  
「……情けなくなんか、ないよ。わ、わたしも、クレイを独占したいって、思うもん…」  
震える声が、心底嬉しかった。視線を交わすと、パステルは真っ赤になりながらも頷いてくれた。  
 
肩の線にそって手をすべらせ、ボタンを外したブラウスを落とす。スカートも下着も、  
膝の上にのせたまま剥いでいくと、パステルも頬を染めながら、俺のシャツのボタンを外した。  
そうして腕をのばして互いを抱きしめた。裸の胸が密着し、指を金茶色の髪にからめる。  
パステルもまた応えるかのように、俺を抱き返してくる。  
誘われるように唇を重ね、彼女を求めていた。  
「…クレイ…」  
熱に浮かされたような声が聞こえた。あおられるままに、細い肢体をまさぐる。  
「や、あぁ…っ…」  
揃えられていた足の片方を抱え、俺をまたぐような体勢をとらせると、  
小さな悲鳴をあげて、パステルが上体をのけぞらせてわななく。  
密着していた胸から、形のよい乳房が離れて、冷たい空気を感じた。  
片手をパステルの腰に手をあてがうと上体を引き戻し、つんと尖った乳首を口に含む。  
もう片方の手を伸ばし、指先で淡い茂みをかき分けて湿った秘所を探り出す。  
中指をあてがい滑り込ませると、そこは熱く潤んでいた。  
「あっ…ふ…」  
のけぞったために、突き出された乳房。薄紅色の乳首を舌で転がし、かすかに歯をたてる。  
きつく吸い上げれば、指先で感じる箇所が、さらに濡れていく。  
「ふぁ…あん、あ、ク…レイ…!」  
指の本数を増やし、かき混ぜれば粘着質な水音が聞こえた。パステルの吐息は、なお熱くなり、  
しとどに濡れた指を引き抜くと、無意識に俺の腰に濡れた谷間を押し付けてくる。  
そっと彼女の腰をつかむと細い肢体を持ち上げ、微調整を加えた。  
彼女を欲してやまない先端に、熱い蜜を感じるように。  
「パステル…君が、好きだ」  
「クレイ…」  
熱に浮かされた瞳をみつめながら、一気に腰を突き上げた。  
細い悲鳴が聞こえても、止められなかった。  
破瓜の抵抗を若干感じたけれど、十分な潤いに導かれて根元まで彼女の中に飲み込ませた。  
初めて男を迎え入れた場所は、痛いほど締め付けてくる。  
だけど彼女の痛みは、俺以上なんだろう。  
パステルは俺の首にすがりついたまま、固まっていた。  
 
「痛い…?」  
「うん…で、でも、大丈夫だから…」  
心配になって問いかければ、泣きそうな顔で彼女が微笑む。  
睫毛がふれあう距離で見つめあい、吐息を感じ、身体は熱く深く結びついている。  
夢中になるのに、他に何が必要だろう。  
パステルの身体がひくりと震えた。痛みのせいか、他の何かなのかは、わからない。  
けれど身体の震えは内側の微妙なうねりになって、刺激を与えてくれた。  
それを何とかやり過ごして、俺はゆっくりと腰を動かした。  
「あっ…やっ、あん…っ!」  
パステルの内側は狭く、きう、と吸いつくように締め付けてくる。  
思わず、息を吐いた。ぞくぞくするような衝撃が駆け登ってくる。  
とても耐えられそうになくて、俺はパステルの腰をつかむと、激しく腰をゆすっていた。  
「あ…っ、クレイ、クレイ…っ!」  
俺の名を繰り返しながら、パステルがすがり付いてくる。  
頭を前に倒して、突き上げられる衝動にあわせるように。  
泡立つような水音が聞こえた。絡みつき滑る内側に、何度も根元まで埋めた。  
「ふぁ、やぁ、だ…だめ…っ…あ…――っ!」  
「パステル…っ!」  
加速する大きな波に、飲み込まれるみたいだった。  
パステルの内壁がびくびくと波打ち、きゅうっと収縮する。  
頭の中が、真っ白になる。限界、だった。  
 
波が通り過ぎて、余韻をかみしめる。  
そっと目をあければ、俺にすがりついて、ぐったりと目を閉じているパステルの姿が見えた。  
乱れた金茶色の髪がまとわりつく彼女の姿は、とても綺麗だった。  
視線を感じたのか、まぶたが震える。  
ゆっくりと瞳を開けたパステルは、とても満ちたりた表情をしていた。  
それを見ていると、凪いだと思っていた波が、また高ぶってくるのがわかった。  
「あ、あの、クレイ…?」  
繋がったままだから、それはダイレクトにパステルに伝わっていた。  
熱っぽい瞳のまま戸惑う彼女に、答えるかわりに口づけを落とした。  
そうして、優しくベッドに押し倒していく。  
窓の外の嵐がおさまった気配はない。夜は、まだ始まったばかりだった。  
 
おしまい。  
 

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