何で、こんなコトになったかなぁ。
自分がガックリと肩を落とす状況になるだなんて、考えたコトもなかった。
視線が落ちると、自動的に「今」の自分の身体が見える。
実は、自分のスタイルの良さには自信があったんだ。
詐欺の仕事で男を騙すのは、得意中の得意だったし。
でも「今」。この身体で迫って、落ちてくれる男はいないと思う。
探せば、いるのかもしれないけど。
少数派なのは、間違いないはず。だって「今」のわたしの身体は。
細身だけれど、綺麗に筋肉のついた……男の身体だった。
詐欺の仕事の結果なのよね。自業自得と言われてしまえば、それまでなんだけど。
でも仕事は成功したのよ!それに、あの土地神の怒りって、絶っっ対、八つ当たりだと思うし!
細かいことを話すと長くなるから、はぶくけど。
結局、詐欺の仕事に携わったわたしたち――アンドラスとその他諸々は、
性別が逆転するという呪いを受けちゃったんだ。呪われたわたしたちは、当然パニック状態。
だけど依頼主が責任を感じて、呪いを解く方法をすぐに見つけてくれたの。
それはそれでよかったのは、確か。でも、その方法ってのが、また大問題。
呪いを解く方法。それは処女もしくは童貞とヤっちゃうコト。どんな解呪方法なのよ、それはっ!
わたしは頭が真っ白になってしまった。なのに、それを聞くとわたし以外の連中(全員男。今は女)は、
そそくさと夜の街へと消えていっちゃった。そして翌朝には皆、呪いを解いて帰ってきた。
……立派な詐欺師たちだと思うわ。あのアンドラスがどうやって相手をたらしこんだのか、
知りたいよーな、知りたくないよーな…。ま、まあ、それは置いといて。問題は、わたし。
童貞は夜の街をウロウロしてるかもしれないけど。お堅い処女は、そうそういるもんじゃない。
遊んでるっぽい女の子は、わりと見かけるんだけどね。やっぱり、確かめるしかないのかな。
さすがに堅気のお嬢さんと関係をもつのは……問題だと思うしね。
エベリンに帰ってきたものの、この姿で部屋に帰るわけにもいかないから。
とりあえずホテルに滞在しながら、呪いを解く方法をさがすことにした。
見つかればいいなぁと思うんだけど。こればっかりは…運みたいなモノなのかもしれない。
夜な夜な後腐れのない処女を探して、ナンパするだなんて。
あー、何だか最低野郎だわ。自己嫌悪。
そんな憂鬱なときだった。
クレイやトラップたちがエベリンに来てるって情報は、アンドラスから聞いていた。
今回は会うことができそうになくて、残念に思ってた。やっぱり、彼らには特別な思い入れがあるし。
何よりパステルと、女の子らしい話題で盛り上がりたかった。
彼女と話してると、心がすごく和むの。癒し系なのよね。そういう友達って貴重だから。
クレイたちよりも、ずっと会いたくて話したかったのが本音。だけどね。
今の姿で会いたかった訳じゃないの…!
夕暮れの残照が全て消え、夜の帳が街を多い尽くした頃。
わたしは憂鬱な気分のまま、夜の街へと繰り出そうとしていた。
悲鳴に気づいたのは、偶然だった。
耳をすませば路地の奥から聞こえてくるのは、女の子にからむ男の声。
助けるためにおこした行動に、下心がなかったとは言えない。だって、こっちにも事情があるし。
見返りを期待してもいいかなー…と思ってたのは、確かだけど。
まさか、助けた相手が彼女だったとは。
「助けてくださって、ありがとうございました!」
無邪気な笑顔で礼をいって、見上げてくるのは――パステル。わたしが親友と呼べる大切な人。
わたしは、彼女を見下ろしていた。だって、男の姿だから。今の身長は、トラップぐらいかな?
体格も細身で、似てると思う。決定的に違うのは、きっと服装のセンスくらい。
だから助けに入ったわたしを、パステルはトラップと見間違えた。
仕方がないことだと思うし、当然だとも思う。だけど、彼女がトラップの名を呼んだとき。
名前をつけることのできない感情が、わたしの中にわきあがっていた。
ねぇ、パステル。あなたは、トラップを見てるのかしら?
クレイを見てあげてねって、わたしが言ったこと、忘れちゃった?
純真で鈍感な彼女を騙すのは、赤子の手をひねるよりも簡単だった。
口先三寸で言いくるめ、ワンショットバーで口当たりが甘いけど度数の高いカクテルをご馳走する。
あまりアルコールに強くない彼女は、あっという間に酩酊状態になっていた。
介抱するそぶりでもって、寝泊りしているホテルに連れ込む。
事情を知らないフロントが顔をしかめるのを無視して、階段を登るふりをした。
部屋に戻ったりはしない。そんな事をしたら、掛けてもいい。
事に及ぶ前に、場所をかぎ付けたトラップかクレイに踏み込まれるだろう。
あの二人は、パステルをとても大切にしてるから。
それを思うと、頬が歪んだ。大切すぎて、触れることもできない臆病者たちを笑った。
あなたたちができないことを、わたしがしてあげる。
そうして、わたしはエベリンで一番安全で邪魔の入らない場所へとパステルを連れ去った。
そっと髪を撫ぜると、閉じられていた瞳がうっすらと開かれる。
「…だれ…?」
あどけない問いに答えず、ゆっくりと髪を撫で続けると、パステルは再び瞳を閉じた。
安心したような笑みを浮かべながら。
心地よい夢をみているような幸せな寝顔に、苦笑してしまう。
今のパステルの状況は、全然、安全じゃないのに。
わたしたちがいるのは、エベリンのわたしの部屋だった。
トラップやクレイは、わたしが留守だって知ってるから、絶対に此処へはこないはず。
窓から差し込む月明かりだけの部屋はほの暗く、ベッドの上に横たわる裸身はほの白い。
金茶色の柔らかな髪を撫ぜながら、改めてパステルの身体を見つめた。
服を脱がせてて思ったのは、やっぱり彼女は着やせするタイプなんだなーってこと。
ついでに下着も実用本位で、カップとかもあんまり気にしてないみたい。
今度、身体にあった下着を買いにいこうね!って、場違いなことを思ったりして。
だって合わない下着をつけてると、身体のラインが崩れちゃうときもあるんだから。
もったいないじゃない!パステルってば、こんなに綺麗な身体してるのに。
華奢な首筋、くっきりとした鎖骨。薄い肩から伸びるほっそりとした腕。
トラップが「出るトコが引っ込んで…」といつも揶揄する胸は、つんと尖った円錐形。
上下対称で、ほれぼれするほどふくらみのある理想的な形をしてる。
美乳っていうのかしら?カップはC〜Dってところかな。
アンダーが細いから、服を着ちゃうと目立たなくなっちゃうんだろうな。
なめらかな曲線を描いてくびれたウエストは細く、その下の腰も細めでお尻も小さめ。
女として、この細さは羨ましい。それに、これだけ細いと脚も棒っきれっぽくなりがちなのに。
パステルの脚は、これぞ美脚!というべき、脚線美だったりする。
この美脚でもって、ミニスカートなのね……自覚がないって、罪だと思うわ。
慌てて目をそらしてたクレイや、気づかないのをいい事にガン見してたトラップを思い出す。
感嘆と憧憬と羨望をこめて、しなやかな脚にふれた。爪先、足首、ふくらはぎ、太もも。
淡い茂みをそっと擽ると、パステルはむずかるように寝返りをうつ。
うつぶせになったため、顕わになった可愛いお尻をたどり、背骨をたどっていく。
「あ…ん……」
吐息と一緒に、かすかな声がこぼれる。
背中が弱いのかな?本人は鈍感でも、身体は敏感なのかもしれない。
柔らかで滑らかな肌。こんな風に他人に触れることは、女同士だって滅多にできない。
興味津々で、パステルの身体を探っていく。
トラップもクレイも知らない、彼女の秘密を暴いていく。
それは途方もない優越感を、わたしにもたらしてくれた。
パステルに欲情できるか、というと正直、よくわからない。
ただ彼女と、それ以上に幼馴染であるトラップとクレイに対しては、複雑な感情があった。
愛情と羨望と劣等感と優越感と虚栄心と…説明できないどろどろとした欲求。
その対象として彼女を求めたのかもしれない――呪いの解呪を言い訳にして。
パステルには申し訳ないと思う反面、彼女の甘さに甘えてみたかった。
うなじや背中に口付ける。白い肌には、面白いようにくっきりとキスマークが浮かび上がった。
「や…な、に…?」
まだ酒気に浸されてるパステルの意識は重い。
自分が何をされているのか、よくわかってないらしい。
背後から手をまわして、張りのある乳房を掌にすっぽりと収めた。
「ひゃあっ!」
色気のない悲鳴に苦笑しながら、触り心地のよい乳房をゆっくりとさするように揉みしだく。
背後から腕をまわしてるから、何だか自慰をしてるみたい。
屹立した乳首を転がしながら、もう片方の手は、お臍をたどって薄い茂みをかき分けていく。
「いやっ…なに、やめ…っ!」
悲鳴をあげるパステル。自分が何をされてるのか、把握したのかな?
切羽詰った悲鳴は泣き声のよう。じたばたと抵抗するんだけど、今のわたしの力には敵わない。
罪悪感もあって、自分でするときのように彼女の身体を慰めてあげた。
優しく、気持ちよくしてあげる。茂みの奥は温かくて湿っているけど、まだ濡れてはいなかった。
「痛っ…!」
指でこじ開けると、パステルが痛がる。こればっかりは我慢してもらうしかない。
こういうとき、女の身体って不便かなって思う。痛みから身を守るための、生理現象なんだけど。
硬くきつく閉ざされている場所を、指先で探っていくと熱気が噴出してくる。
お目当てのものを弄ると、びくんと大きく背中が跳ねた。
「ひぃ、あっ、ああっ、んぅ…っ……!」
あ、ちょっと刺激が強すぎたかな?パステルは頭を振り、泣きながら悲鳴を上げた。
でも、ここを刺激するのが一番気持ちよくなると思うんだけど。
ひょっとしてパステル、弄るの初めてだったりして。うわー。何か、ありそう。
瞬く間に、パステルの身体は熱くなり、溶けていくようだった。
体内に差し入れた指先が、その場所の筋肉が震えるのを伝えてくる。
「や、だめ、だめなの、やぁああああ!」
最後の一押しをしてあげると、パステルはあっけなく登りつめていた。
全身を上気させて汗でしっとりと濡らし、それ以上に探る指先を締め付け、しとどに濡らしていた。
イくのも初めてだったらしいパステルは、荒い息のまま呆然としている。
そっと背中からはなれて、彼女を仰向けにした。やっぱり、基本は正常位だと思うし。
こういうとき、男の身体って便利かなって思う。申し訳ないと思いつつ、節操なく元気なんだもん。
どこか虚ろな視線のパステルに、そっと告げた。
「大好きだからね、パステル」
後から、いくらでもあやまるし説明するから。とりあえず、いただきます。
久々に、自分の部屋で朝を迎えた。
まだ夢の中にいるパステルを残して、ベッドから降りる。
やっぱり、自分の身体が一番だなーって思いながら、足取りも軽く台所へ向かった。
朝食のパンケーキを焼いてると、どんどんと乱暴にドアが叩かれた。
パステルが起きちゃうじゃない。もう少し寝かせてあげたいのに。不機嫌な顔でドアをあける。
そこには何ともいえない顔のアンドラスと、もの凄い形相のクレイとトラップがいた。
「こんなに朝早く、何の用なの?」
「いやー……マリーナ、久しぶり。こっちにパステルがいるんじゃないかと思ってね」
アンドラスの声は妙に白々しかったが、クレイもトラップもそれどころではないらしい。
「昨日の夜から帰ってないんだ!」
「変な野郎と一緒に目撃されてるし、あの馬鹿、一体何を…!」
彼らにとって、ここは最後の頼みの綱なんだろう。
朝まで待ってくれたアンドラスに感謝しつつ、パステルから目を離した大馬鹿者たちに微笑む。
「昨日、パステルは、ここに泊まったわ」
そう告げると、見るからに二人は安堵したようだった。何も知らないって、幸せよね。
「安心したなら、アンドラスの家で寝てくれば?二人ともすごい顔よ。百年の恋も冷めそうな感じね。
わたしの店は、今日は休みなの。お昼をごちそうしてあげる」
そういうとクレイはほっとしたように頷き、トラップは不服そうな顔をした。
わたしの家で仮眠をとりたかったのかもしれないけど、それはダメなの。諦めて貰うわ。
もう少し、彼女と二人だけですごしたいから。結局、お人よしの彼女はわたしを許してくれたし。
これからパステルはいっぱい泣いて、すごく悩むと思う。自分のこと、クレイのこと、トラップのこと。
パステルは、もう逃げられない。望まなくても、女になっちゃったから。
わたしも、ちゃんと責任は取るからね。だから昨日の夜は、二人だけの秘密。
おしまい。