クエストからの帰り。わたし達は、乗合馬車に揺られていた。  
 今回のクエストも無事成功! で、結構な報酬ももらえたので、ちょっと贅沢して、いつもなら歩いて帰る道を馬車にした、ってわけ。  
 ハードなクエストだったからね。みんな疲れたらしくて、荒れた道にもめげず、馬車の中は盛大な寝息で包まれている。  
 他のお客さんがいたら怒られただろうけど。今回は、たまたま馬車がわたし達の貸切状態で。だから、ルーミィやキットンなんかは、座席一つ占領してごろりと横になっている。  
 うーん、羨ましいなあ……まあ、わたしの身長じゃあ、あんな風に寝転がるのは無理だろうけど。  
「ん……ん」  
 かく言うわたしも眠くて眠くて。隣のトラップの肩に頭を預けて、うつらうつらしていた。  
 わたしの向かいでは、ノルとクレイがお互いの肩と頭をもたせかけるようにして、くうくうと寝息を立てている。  
 ああ、宿まで後どれくらいなのかな。気持ちいいな。まだしばらくは大丈夫だよね……  
「ん!」  
 なーんてことを思った、そのとき。  
 膝の辺りに妙な感触を感じて、わたしは、薄目を開けた。  
「……とらっぷぅ……?」  
 口調が頼りないのは、眠気のせい。  
 上目遣いに見上げる。ついさっきまでは平和な寝息を立てていたはずのトラップが、今、同じように薄目を開けた状態で、わたしを見下ろしていた。  
 足元が冷えるから……と、わたし達は一枚の毛布を半分ずつ膝にかけていた。その毛布の下で、どんな鍵でもするりと外してしまう器用な指が、するすると太ももを這っていた。  
「ちょっと……」  
 こんなところで、と文句を言おうとした途端、「しーっ」と唇に指を当てられた。  
 静かにしろ、ってことらしい。みんなが起きるだろ、なんて言われたら、反論できないけど……  
「や、やめてよ……」  
「……今回のクエスト、結構長くかかったかんなー……」  
 トラップの耳にだけ届くように、ひっそりと囁くと。同じように、微かな微かな声が、耳朶をくすぐった。  
「俺、もー我慢できね。欲求不満……」  
「ちょっ……馬鹿っ……」  
 少しずつ、少しずつ這い上がってきた指が、スカートの下をくぐって、下着へと到達した。  
 悲鳴をあげそうになってぐっと堪える。もう随分長いこと触れられていなかった「ソノ場所」は、わずかな刺激に、驚くほど敏感な反応を示した。  
「んっ……」  
 指が、下着をかきわけて、わたしの薄い茂みを撫でた。  
 最初はスリットをくすぐるように……やがて、わたしが抵抗しない、とわかったのか、徐々にその動きは大胆になっていった。  
「んんっ……や、めっ……馬鹿ぁ……」  
 ああ、駄目だ。自分で言うのも何だけど……こんな言い方で「やめて」って言ったって、説得力の欠片もありゃしない……  
 
 何とか、片腕をトラップの背中に回して、つねりあげてやろうとしたんだけど。トラップもさるもので、わたしの動きをさっとかわして……逆に、ぐっ! と身を寄せてきた。  
 そりゃ、隣同士に座ってたから、今までだって体温は感じていた。でも、その瞬間、肘を胸に押し付けられて。触れられたその場所が、煙が出るんじゃないかってくらい熱くなって、思わず身悶えした。  
 ああ……  
 トラップだけじゃなくて、多分、わたしも……なってたんだろうな。「欲求不満」って奴に……  
「……とらっぷぅ……」  
 ぐちゅぐちゅと、いやらしい音が馬車中に響き渡った。  
 その音でみんなが起きるんじゃないかと恐かった。こんなところ見られたら、何て言い訳すればいいんだろう。  
 だって、今のわたし、多分頬だって真っ赤に火照ってて、息だってすごく荒くなって……  
「はぁ……あ、あんっ……」  
「……だーめ」  
 長い指が、赤く熟した一番敏感な部分をいじめて、耐えられなくなった。  
 もっと……と目で訴えると、意地悪な視線で貫かれた。  
「こんなところで、できるわけねえだろ……? 今は、ここまで」  
「……いじわる……」  
「宿についたら、いくらだって可愛がってやるよ。この二週間分、思いっきりな……今夜は寝かせねえから」  
 だから、今のうちにしっかり寝ておけ、と、彼は笑った。  
 ぬらぬらと光る指をぺろりとなめあげて。それはそれは色っぽい笑みを、浮かべた。  
「……だったら、こんなこと、しないでよ……熱くなっちゃった」  
「ふん……二週間、指一本触れさせてもらえねえで。まさか飽きられたんじゃねえかってずーっと恐かったんだぜ? ちょっとしたお仕置きだよ、お仕置き」  
 でも、失敗した。俺も辛い……  
 毛布の上から軽く「自分」を撫でて自嘲気味に笑うトラップを見て。わたしは、思わず笑い声をあげていた。  
 馬車がつくまで、後数時間。たったの数時間がこんなにも待ち遠しかったのは、初めてのことだった。  
 
 
――――完結  
 

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