「ぱーるぅ、いってくるおう!」  
「行ってきますデシ」  
 
 小さなリュックを背負って、にこにこと手を振るルーミィ。  
 シロちゃんがその足元で尻尾を振っている。  
 
「気をつけて行くのよ、ルーミィ、シロちゃん。ノル、よろしくね」  
「まかせて」  
 
 ルーミィを抱っこしたノルは、にっこり笑って答えた。  
 
「ではクレイ、薬屋さんへの連絡、頼みましたよ」  
「あぁ、わかった。このメモを渡せばいいんだな?」  
「け、そんくれぇ自分で言えよなー」  
「トラップ、あーたちょっと黙ってて下さいよ! 私はクレイに頼んでるんですっ!!」  
「まあまあキットン、落ち着けって」  
 
 いつもの調子で、やいのやいのやってる男たち。  
 キットンが小さなメモをクレイに渡し、傍から口を挟むトラップを怒鳴りつけながら、なにやら説明している。  
 あぁそっか、エベリン行きが決まったの、昨夜遅くだもんね。  
 薬屋さんの今日のバイト、お休みするって言えなかったんだろうな。  
 わたしがそんなことを考えているうちに、乗合馬車の時間が迫ってきた。  
 もう一度暫しの別れを惜しんで、にぎやかに馬車乗り場へ向かって歩いていく一同が角を曲がるのを見送ると、ほっとため息。  
 
 ちなみに、皆の行き先はエベリン。  
 昨日の夜クレイが、明日から始まる大きなイベントの入場券をもらって来たんだ。  
 いつもよく働いてくれるからって、バイト先の武器屋さんの奥さんからのプレゼント。さすがだよね〜。やっぱり彼の誠実さとマダムキラーは健在だと思う。  
 
 だけど残念なことに、ちゃんと人数分の券があったのに、行けないメンバーが3人。  
 まずわたし。言わなくたってだいたいわかるでしょうけどね。  
 はい、原稿です。締め切り、明日なんだよお……悠長に遊びに行ってる場合じゃない。  
 そしてトラップ。彼はバイト先が忙しくて、お休みがとれないんだそう。  
 最後はクレイ。入場券をもらった次の朝、つまり今朝にね。  
 武器屋さんのご主人が怪我されちゃったと連絡があって、急遽代理で店番をしなきゃならなくて。  
 もらって来たのは彼なのに行けなくなっちゃうなんて、やっぱり不幸すぎるよ……  
 
 そんなわたしたちを他所に、大喜びしたのはルーミィとシロちゃん。  
 このところ原稿原稿で遊んであげられなくて、すっかりすねちゃってたからね。  
 ついて行けないのがちょっと心配じゃあるけど、ノルとキットンに任せておけば大丈夫だろうし。  
 これで原稿も進みそうだし、正直なとこ、ちょっぴり肩の荷が下りた気分のわたし。  
 そりゃ行きたくないわけじゃないけど、締め切りは待ってくれない。  
 
 
「あにボーっとしてんだよ」  
「え? はい?」  
 
 ぼんやりと考えこんでいたわたしに、唐突にトラップが声をかけた。  
 その後ろでクレイが苦笑している。  
 さっきまで部屋着だった2人とも、既にでかける用意をしてて……いつの間に着替えてきたんだろう。  
 
「ったく、いつまで突っ立ってるつもりだぁ? 俺らもうバイト行くからな」  
 
 馬鹿にしたように笑うトラップ。  
 そりゃーわたしはいつもボケっとしてますけどね。  
 そんな呆れたような顔しなくたっていいと思わない?  
 
「パステル、原稿書くんだろ? あんまり無理するなよ」  
 
 と、やさしい言葉をかけてくれるクレイ。うーん、実に対照的。  
 
「うん、ありがとう。そうだクレイ、夕食は猪鹿亭で食べるんでしょう? なにかテイクアウトしてきてくれないかなぁ?」  
「いいよ。リタに頼んでみる」  
「よろしくね」  
 
 軽く手を振ってクレイが歩き出し、少し先で待っていたトラップに追いついた。  
 さっきと同じみすず旅館の門のところで、今度は彼らを同じ姿勢で見送る。  
 いつまでわたし、ここでお見送りしてるんだか。いいかげん中に入ろう……  
 さて、原稿頑張らなきゃ!  
 誰もいなくて静かな今のうちに、できるだけ進めなくっちゃね。  
 
 
 バタン! と大きな音が階下から響いた。  
 ……クレイ達かな。  
 もう帰って来たの? 早いなぁ。ふと時計に目をやればなんと、もう夕方。しかも窓の外は既に夕暮れ。  
 ええー! もうそんな時間なの!? わたしそういえば、お昼食べてない!  
 道理でお腹が空くわけだ。  
 両腕をあげて、思い切りうーんと伸びをする。と、いきなり扉が開いた。  
 
「あんだよ、いたのか。えれぇ静かだから寝てんのかと思ったぜ」  
「んもう! トラップ、ノックくらいしてって言ったでしょ!」  
 
 わたしの文句を聞き流したトラップは、片手に持っていたバスケットをどん!と机の端に置く。  
 
「ほれメシだ」  
「あれ? クレイはどうしたの?」  
「俺じゃー役不足だってぇのか? ふーん、じゃいらねんだな」  
 
 意地悪なことを言いながら、置いたばかりのバスケットに手を伸ばすトラップ。  
 その手をぺしっとはたき、バスケットを抱えて睨みつける。  
 
「んもー、誰もそんなこと言ってないわよ!」  
「おいこら、トラップ! 手伝え!」  
 
 廊下から、噂の主、クレイの声がした。  
 椅子ごと振り返ってドアの外を見やると、重そうに大きなダンボールを抱えたクレイが階段を上がってきたところだった。  
 けっこうな汗をかいて、顔が真っ赤。  
 体力自慢のクレイがそれだけ重そうにするなんて、そのダンボール、いったい何が入ってるのよ?  
 
「おっ、クレイちゃん、ご苦労さまー」  
 
 ニヤニヤ笑うトラップ。  
 
「あのなぁ、ちっとは手伝え! お前いらないのか!?」  
「いやいや。クレイちゃんがもらったんだから、大事に持って帰らなきゃじゃーん」  
 
 クレイはダンボールを抱えたまま、頭を振ってまとわりつく髪をさばいた。  
 輝くような黒髪が、汗で濡れた首筋に貼りついて気持ち悪そう。  
 
「ねえ、それなあに?」  
「あぁパステル。これさ、武器屋のおかみさんに頂いたんだよ。ビールの詰め合わせだって」  
「ビール?」  
 
 首を傾げるわたしに、トラップが口を挟んだ。  
 
「チケットあげといて、使えなくしたお詫びだってよ。いいねぇ、そこまで気遣いしてもらえるとはねぇ。さすが無敵のマダムキラー!」  
「……うるさい」  
「きゃー、クレイちゃん、怒っちゃいやーん」  
 
 嬉しそうに笑いつつ、駆け出して行ったトラップ。  
 隣の男部屋のドアを開ける音がする。  
 
「パステル、ごめんな、邪魔して」  
「ううん、いいけど」  
「原稿、あんまり根詰めないようにな。じゃ、俺ら隣にいるから」  
 
 汗びっしょりの顔でにっこり笑ったクレイは、ダンボールを抱えなおすと部屋を出て行った。  
 器用に足でドアを閉めて。  
 
 
 ……嵐が去った。  
 これから2人は、あのビールで酒盛りでしょうね。やれやれ。  
 さて、原稿の続きを書かなきゃ。日中頑張ったから、あとちょっとで仕上がるだろうし。  
 でもその前にごはんにしようと、わたしはいそいそとバスケットの蓋を開けた。  
 
 その時、わたしは随分集中していたんだと思う。  
 隣で飲んで盛り上がっていただろう2人の声なんて、まったく聞こえてなかったんだから。  
 耳に聞こえていたのは、自分の動かす鉛筆が原稿用紙の上を滑る音だけ。  
 だからこそ隣のドアが、蝶番を壊さんばかりに開けられた音に、びくっと心臓が止まりそうになってしまった。  
 ただ文章をつむぐだけの繭の中から、いきなり現実に引き戻されたわたし。  
 鉛筆を止めドアを振り向くのと、ドアが勢い良く開いたのは同時だった。  
 
「な……なに?」  
 
 そこに立っていたのは、空手の型みたいに、片足を蹴りのポーズにあげたトラップ。  
 彼の背後には、後をついてきたらしいクレイの姿が見えている。  
 トラップの足の裏がこっちに向いているということは、恐らくドアを足で蹴り開けたんだろう。なんて乱暴な。  
 文句を言おうと口を開きかけると、トラップは足を下ろした。  
 椅子にかけたままのわたしに向かってスタスタ歩いて来、至近距離で立ち止まる。  
 
「……何よ。トラップ、酔ってるの?」  
「酔ってねえよ。俺様のどーこがどぉ酔ってるっつーんだよ」  
 
 ……全部よ、全部。  
 酔眼朦朧、すっかり据わって三白眼になった目に、舌ったらずな口調。  
 しかも異様に酒臭くて、トラップが入ってきた途端、部屋中がお酒の臭いで充満してるし。あーもう、この匂いだけでわたしは酔ってしまいかねない。  
 
「用がないんなら出てってよ。わたし、原稿あるんだから」  
 
 トラップは華奢な上半身を折り曲げ、手を伸ばしてわたしの顎をつまみ、くいと上向かせた。  
 わたしの言葉を聞いているのかいないのか、低い声が呟く。  
 
「おめえに聞きてえことがあんだよ」  
 
 わたしの顔を覗き込む、薄い茶色の瞳。  
 お酒のせいか微かに潤んでいて、なんというか……妙に色っぽい。  
 その瞳が、みるみるうちに近づいてきた。なんなのなんなのーーー!!  
 
「な、ななな……っ」  
「こら、トラップ! やめないかっ!!」  
 
 どもりつつも、必死に身を引く。  
 背後に立ち尽くしていたクレイが慌てたように駆け込んできて、トラップを羽交い絞めにしてくれた。ほっ。  
 酔ってるとはいえ相手はファイターのクレイだもんね。  
 華奢な盗賊であるところのトラップは、力強い腕で、あっさりとわたしの傍から引き離された。  
 
「うっせえ、離せ!」  
「誰が離すか、バカっ!」  
 
 喧々囂々と怒鳴りあう2人を、言葉もなく見比べるわたし。もう何がなんだか。  
 トラップは身を翻すようにしてクレイの腕から逃れると、わたしをビシッと指差した。  
 
「とどのつまりは、こいつが悪りいんだよ!」  
 
 は? 怒りをこらえたような表情のクレイが、トラップの腕を引いた。  
 
「やめないか」  
「おめえはだあってろ! この鈍いボケ女がいつまでたってもはっきりしねーから、俺たちが迷惑してんだろが!」  
 
 えらい剣幕で怒鳴るトラップに首をすくめつつも、その内容は聞き捨てならない。  
 誰がボケ女よ、誰が。実は当ってるだけに、余計に感じ悪い。  
 
「あのさあ、話が全然見えないんだけど」  
「そりゃー見えねえだろうよ。見えねえから鈍いつってんだ」  
 
 冷たく言い放つトラップに、わたしは段々腹が立ってきた。  
 だって、唐突に人の部屋に来たかと思うといきなりボケだの鈍いだの、人をなんだと思ってるわけ?  
 
「単刀直入に聞く。おめえ、今好きな奴いんのか」  
「はあ!? なんであんたにそんなこと答える必要があるのよ?」  
 
 何が好きな奴よ、ばっかばかしい。  
 いい加減頭にきてるわたしに、そんなつまんない質問するなんて、いい度胸だ。  
 思い切りトラップをにらみつけた時、黙っていたクレイが口を開いた。  
 真剣な鳶色の瞳。ただし顔は、お酒のせいで見事に真っ赤っ赤だけど。  
 
「……いないのかい?」  
「え? クレイまで。そんな人……いない……けど」  
 
 思わぬ援軍に、わたしは口ごもりつつ答えた。  
 我が意を得たりといった感じのトラップ。  
 
「じゃあ俺らはどうなんだよ」  
「は? 俺らって?」  
 
 ぽかんとしているわたしに、トラップは天井を仰いで絶叫した。  
 
「今ここに、俺とクレイ以外の男がいんのか、このバカがぁ!」  
「そ、そりゃそうだけどっ。バカとはなによ、バカとは!!」  
 
 怒鳴り返すわたしに、トラップががっくりとうなだれて頭を抱えた。  
 
「ちっくしょおおおおお……俺とも、俺様ともあろうものが……なんでこんなボケに……」  
 
 そのすぐ背後に立っていたクレイが、トラップの肩をポンと叩く。  
 同情的な眼差しを見交わす2人。  
 あのーもしもし? 2人だけで世界作らないでほしいんですけど。  
 酒臭い息を吐きながら、トラップが赤い髪をゆらりと揺らして顔を上げた。  
 その、あまりにうらめしそうな顔に思わずひるむ。  
 
「俺とクレイはな、紳士協定結んでたんだ」  
 
 紳士協定? 聞きなれない言葉。  
 
「なに、それ」  
「おめえの、パステルの意思を第一に、俺たちは自分から動かねえって約束だよ。おめえが選ぶなら、まず俺らどっちかだと思ってたからな。でも」  
「自惚れだったのかもしれないけどね」  
 
 トラップの言葉をクレイが引き取った。自嘲的な微笑み。  
 その言葉に、重々しく頷きながら言葉を継ぐトラップ。  
 
「おめえはいつまでたっても、誰も選ぶ気配がねえし。なのに周囲には男が群がりやがって。昨日は花屋に、下心アリアリの花もらってくるしよ」  
「あれは売れ残りをくれただけだってば」  
「花屋さん、けっこう男前だよな……その前はメッセンジャーのバイトの子に声かけられてたしさ」  
「あの子、まだ12歳だよ!?」  
「そうそう、あのバカ俺の後輩の癖して……一昨日は村長の息子に言い寄られてたろーが」  
「町内清掃のお誘い受けてただけでしょ!?」  
「でも直接声かけてたのはパステルだけだよ……しかもギアの影はまだ見え隠れしてるし」  
「だろだろ? キスキンの若造にまでコナかけられてたしよ。こんなんじゃ、いつ誰に持ってかれるかわかりゃしねえ。そうなっちまったら、俺らの努力はどうなんだよ!? 必死に自制して動かずにいるっつーのに!」  
「…………」  
 
 見事に息の合ったコンビネーションで、矢継ぎ早に畳み掛けてくる2人に、わたしはついに言葉を失った。  
 いえね、この流れでどう言えと? どう答えろと!?  
 もう駄目。不整脈が出そう。ほとんど言いがかり、思い込み激しすぎとしか思えない。  
 なんでわたしがそんなに、男の人はべらせてるみたいに言われなきゃいけないのよ?  
 
「……で、わたしにどうしろと」  
 
 投げやりに聞くわたしを、トラップがじっと見据えて答えた。  
 
「他に好きな奴がいねえんなら……俺らどっちを選ぶ」  
「なんであんたたち2人から選ぶのよ」  
「……パステルは、俺たちが嫌いなのか?」  
 
 どことなくさみしそうなクレイの言葉。  
 思わずその表情を振り仰げば、鳶色の瞳が憂いを湛えてわたしを見つめている。  
 冷静に考えれば、とんでもなく脈絡のない展開だというのに、なぜか胸の奥がぎゅっと痛くなった。  
 
「嫌いだなんて、そんな」  
「じゃあ好きなのか?」  
「好きだよ、好きだけどそれはパーティの仲間としてであって」  
「俺たちはなあ、おめえのことを女として見てんだ。女としてしか見られねんだよ。とにかくどっちか選べ」  
「だ、だめだよお……そんなの選べない」  
 
 首をブンブン振るわたしに、しかめっ面のトラップと困ったようなクレイは顔を見合わせた。  
 ……困りたいのはこっちだ。  
 当たり前でしょ!? いくら他に好きな人がいないからって、唐突に告白された挙句どっちか選べ、だなんて無茶苦茶じゃないのよ!  
 その時、難しい顔をしていたトラップが、ぱあっと笑顔になる。いかにもいいことを思いついた、と言いたげな表情。  
 
「あのよ。ある意味とんでもねえ提案だけど」  
 
 これ以上なにがどうとんでもないのよ。  
 今更何を言われても驚かない。驚くもんか!  
 
「おめえがどっちか選ぶ気になるまで、俺とクレイでおめえを共有するってのはどうだよ」  
「は!?」  
「それ……いいかもしれないな」  
 
 ど、どこまで出鱈目な理論なわけ!?  
 クレイ、お願いだから嬉しそうな顔しないで。お前頭いいな、ってトラップをほめないで!  
 トラップは得意げに大きく息を吸い、機関銃のようにまくし立てた。  
 
「おめえは好きな奴はいねえ。言うなれば、俺らが一番候補としちゃ近いだろうが」  
「そ、そうなるのかな?」  
「しかしだ。おめえがどっちか選ぶ気になるまでっつったら、いつになるかわかりゃしねえ。その間に他の奴に持ってかれねえとも限らん」  
「……」  
「かといって指咥えて待つなんて、もう俺にもクレイにも無理だ。おめえがうんと言わねえなら」  
「……言わないなら?」  
 
 妙にシリアスになったトラップに、恐る恐る尋ねる。  
 
「俺たちはパーティを抜ける」  
「えええ!? なんでよ、どうしてそんなことで!!」  
「俺たちにはさ、そんなことじゃすまないんだよ」  
 
 苦笑いするクレイに、頭が真っ白になるわたし。  
 停止しかける思考で必死に考える。  
 つ、つまり2人とも私のことを思ってくれてるわけで、でもわたしがどっちかなんて選べない以上、一緒のパーティにいるのは辛い、ってこと……なのかな……  
 だからって、クレイとトラップがいなくなっちゃうなんて……そんなのイヤだ!  
 半べそをかいたわたしの頭を、トラップの手がぽんと撫でた。割と大きいけれど、指の長い繊細な手。  
 
「俺たちがいなくなったらイヤか?」  
 
 うんうんと無言で頷く。  
 薄い茶色の瞳が優しく笑い、クレイと目を見交わした。  
 
「じゃ、決まりだな」  
「……」  
 
 なんとも節操のない話ではあるけど……わたしは少し逡巡して、コクンと頷いた。  
 ちょっと、いやかなり複雑な気分だけど、彼らがいなくなっちゃうよりはずっといい。  
 そもそも嫌いじゃないんだし、確かにそうしてるうちに、どちらかを好きになるかもしれないし。  
 わたし、自分のせいで2人がそんなに苦しんでるなんて知らなかったからね。  
 トラップの手がもう一度わたしの頭を撫で、彼はゆっくり立ち上がった。  
 すぐ傍に立ち尽くしていたクレイに向かって口を開いた。  
 
「そんじゃとりあえず。クレイ、口と下とどっちがいいよ」  
「は? 口? 下……って」  
「最初にキスするか最初に入れるか、だな。これはどっちもウエイトでかいだろ? 同率にしていいと思うぜ」  
「な、ちょっと、なんの話よっ!!」  
 
 いきなりどうしてそういう話になるわけよ!? わたしは焦って椅子を立ち、2人の間に割って入った。  
 
「俺たちは付き合うわけだろ? 人数が奇数じゃあるけど。付き合うなら体の関係くらいあってもおかしくねえじゃん」  
「そそそりゃそうだけど、なんでいきなり! しかもどうして3人でいっぺんにそんなこと!?」  
「バーカ。どっちかが先にやったら不公平だろが」  
「不公平……」  
 
 絶句。  
 その時、クレイが遠慮がちに口を挟んだ。その顔は、お酒による酔いとは違う種類の赤色になっている。  
 
「あのさ、トラップ。それはまだちょっと」  
「ばっかやろ、とりあえずこいつが、俺たちのことを男として見なきゃー意味ねえんだよ。つきあうって言葉どおりに考えてんのか? おめえ。それか、抜け駆けして俺が先にパステル抱いてもいいのかよ」  
「そ、それはっ!」  
「だろ? わかったらその手離せ。苦しいっつーの」  
 
 トラップの言葉に、反射的に彼の胸倉を掴みあげた手を離したクレイ。  
 
「……すまん」  
「という訳だ。おめえに聞いてもいいがな。パステル、おめえはどっちがいい? 俺とファーストキスでクレイと最初にヤるのがいいか、その逆か」  
「…………」  
 
 呆れてものが言えないとはこのことだ。  
 短い人生ではあるけれど、こんなことを選択する羽目になるとは思わなかったよ、わたし。  
 もういいや。もう考えるのやめよう。  
 3人でお付き合いしましょうとなった時点で、わたしの理解の範疇を超えてるんだもの。普通の神経じゃ無理だと思うよ、さすがに……  
 
「……好きにすれば」  
 
 わたしの言葉に、トラップは嬉々としてクレイの肩を抱き、あっちを向いて密談を始めた。  
 はー、とため息をついてベッドに腰掛ける。  
 実のところわたし、こんなことしてる場合でもないんだけどな。  
 原稿は……まいっか。あと2枚くらいだし、朝でも間に合うよね。  
 考えることを放棄して、原稿書きで凝った肩を無心でぐるぐる回していると、2人が同時にこちらを振り向いた。  
 
「おーし、決まりっ。クレイがまず口な」  
「はあ」  
「クレイはよお、ナニもでけえからよ。おめえ処女だろ? パステルが裂けちまったらまずいもんなあ」  
 
 うっ。そんな生々しい説明は結構ですっ。  
 トラップは律儀にそう決まった理由を話してくれつつ、かちこちに緊張して見えるクレイに手伝わせてもうひとつのベッドを動かし、わたしをどかすと2つのベッドをくっつけた。  
 狭い部屋の中、こうするとベッドが妙に存在感を主張している。  
 
「さすがにシングルひとつじゃ狭えもんな。これでいいだろ。ほれ、クレイ」  
 
 新たにくっつけたベッドの端に座ったトラップは、クレイの腕を引っ張って顎をしゃくった。  
 よろけて、シーツに片手をつくクレイ。  
 彼はそのままぎくしゃくと靴を脱ぎ、ベッドの上に胡坐をかいた。  
 わたしを見つめる、照れたようなやさしい瞳。  
 
「……パステル」  
 
 喉にからんだような声が、わたしを呼んだ。その声の低さに、胸がどくっと弾む。  
 耳の奥で脈打つ鼓動を感じながら、わたしはおずおずとベッドによじ登った。  
 クレイの傍にぺたんと座り込むと、ぎこちなく伸びてきた手が髪を撫でた。  
 微かに震えている大きな手が、こわごわと髪を滑り肩に回される。  
 ピクっと震えたわたしは、悟られないよう小さく息を吐いた。  
 クレイはトラップの方を一瞬振り向いて頷いてみせると、ゆっくりとわたしを抱き寄せた。  
 う、まだ少しお酒臭いや。  
 逞しい腕に抱きしめられ、頬に厚い胸板が触れている。  
 わたしの耳はちょうど彼の心臓のあたりにくっついていて、早い鼓動が直接耳に伝わってくる感じ。  
 
「パステル……好きだよ」  
 
 胸から直接聞くクレイの言葉。いとおしげで、一生懸命な言葉。  
 わたしを抱きこんでいた腕が少しだけ緩められ、クレイの胸が離れた。  
 気配に顔を上げると、眩しそうに目を細めたクレイの顔が迫ってきていた。やっぱりクレイって男前だよね……至近距離で見るなんて滅多にないけど、こうして見るとよりそれがわかるなあ……  
 密かにつまらないことを考えていると、みるみる近付いてきた形のいい唇が、わたしの唇に触れた。  
 感触を確かめるように、何度も何度もくちづけてくる、意外に柔らかいクレイの唇。  
 キスって、ギアとのファーストキス以来初めてのわたし。  
 ぽーっと彼に体を預けていると、唇の間から何かが忍び込んできたのは、熱くてねっとりとした舌。  
 探るように少しずつ這い回るそれが、わたしの舌にぶつかる。その瞬間、一気にわたしの舌はからめとられ、クレイは吸い上げるようにキスを貪った。  
 
「んんっ!」  
 
 強引に舌を割り込ませるクレイに、わたしの口はほとんど全開にされ、溢れた唾液が顎を伝う。  
 荒い息が繋がった唇からこぼれ、わたしはそのままベッドの上に、どさっと勢い良く押し倒された。  
 
「きゃっ」  
 
 弾みで離れた唇。  
 クレイの顔はわたしの首筋に埋められ、その手が前身ごろのあたりをむんずと掴んだ。  
 とんでもない力で押さえ込まれて、身動きできない。こ、怖いよっ!  
 
「ちょ、おいっ、クレイ! 落ち着けっ」  
 
 その様子に慌てたトラップが、彼の逞しい腕を掴んだ。  
 揺さぶられ、はっと顔を上げるクレイ。呆然として、目が泳いでる。  
 
「ご……ごめん、俺……頭真っ白になってた」  
「ま、おめえも男だったってことだろ、クレイ」  
 
 はあ、と軽く息をついたトラップが、肘でクレイをつつき、ニヤっと笑った。  
 
「まあ落ち着いていこーぜ。じゃ、続き続き。俺も混ぜろ」  
「あ、ああ」  
 
 混ぜろとはまた……なんて言い方。  
 わたしが内心呆れていると、クレイは血の上った頭を冷やすように頭を振り、前髪をかきあげた。  
 今度は、そっとわたしのボタンに手をかけたクレイ。  
 
「怖がらせてごめんな、パステル。……いいかい?」  
 
 叱られた子供みたいな表情がやけにかわいく見えて、わたしはつと手を伸ばして黒髪を撫でた。  
 びっくりしたように目をパチパチさせるクレイに、にっこりして頷いてみせる。  
 クレイは照れたように微笑み、わたしのブラウスのボタンをひとつずつ外した。  
 下に着ていたブラジャーを外そうとするも、ホックの位置がよくわかってないみたい。  
 そうだよねえ、クレイがこんなの片手で外したら、人格疑っちゃうよ……  
 と、横からトラップの手が伸びた。  
 
「貸してみ」  
 
 わたしの背中に手を回したトラップは、いとも簡単にホックを外してしまった。さすがは盗賊というべきか、トラップらしいと言うべきか……  
 トラップはそのままブラジャーをずり上げ、胸があらわにされてしまう。  
 反射的に隠そうとするもあっさり腕を押さえられ、わたしの胸は男2人の舐めるような視線にさらされた。  
 
「で……けえな、けっこう」  
「本当だ……」  
 
 あのね、まじまじと観察しないでくれる? さすがに恥ずかしいんだけど。  
 そもそもそんなことに感動しないでほしい……いくらこれまで貧乳に見えてたとしても。  
 じと見しているわたしに気付いたのか、先に我に返ったトラップが、照れ笑いをしながら胸に手を伸ばした。  
 
「やんっ」  
「うお、やらけー……クレイ、ほれおめえも」  
「……本当だ」  
 
 左右の乳房をそれぞれに触られ、思わず背中が反ってしまう。  
 トラップの手はくるむように胸を揉み、親指の先が乳首をつついている。  
 
「気持ちいいのか? もう勃ってきてんぞ、これ」  
「ひゃ……や、ぁん」  
 
 器用な細い指。繊細で強弱をつけた愛撫に、乳首がつんと固くなっているのがわかる。  
 同時に、逆の胸はごつくて筋張った大きな手に、ためらいがちに揉みしだかれていて。  
 左右の胸を違う方法でさわられてるって、こんなに気持ちいいものなんだ……ってわたしの場合、両方同じ方法だろうが、他の人にさわられたことなんてないんだけどね。  
 我知らず口からこぼれる吐息を、斜めに覆いかぶさってきたトラップの唇が吸い取った。  
 軽くて滑るようなキスは唇と舌をなぞり、首筋を伝い下りたかと思うと乳首を舐めた。  
 
「ひゃんっ」  
 
 ぺちゃぺちゃ唾液の音をたてながら、長く伸ばした舌で胸を舐め回すトラップ。  
 やっぱり器用なのかな。トラップのひと舐めごとに、快感が全部乳首に集まってく感じ。  
 
「クレイ、ちょっとこっち頼む。おめえじゃ、下ほぐすの無理だろ」  
「え、あ、わ……かった」  
 
 暗にダメ出しされていることに気付いているのかいないのか、クレイは素直に頷いた。  
 わたしの足元へと移動したトラップの代わりに、おずおずと胸に舌を這わせてくる。  
 
「はっ……ん……」  
 
 これがね。実は意外に気持ちよかったりする。  
 そりゃあもうぎくしゃくした、お世辞にも滑らかとは言い難い舌の動きなんだけどね。  
 ゆっくり動かされるクレイの舌は、熱くてぽってりしてて、そのつもりはないんだろうけど焦らされている感じすらする。  
 もっと動かしてほしいのに……とそこまで思って、わたしはひとり顔を赤らめた。もっとだなんて、わたし結構淫乱なのかも……  
 胸元のクレイの端整な顔を見直した途端、足の間がじゅん、と疼いた。  
 
「んっ」  
 
 え、何だろう、これ。思わず膝をくっつけて腰をくねらせると、いつの間にか足元に屈みこんでいたトラップが、その膝を掴んで両足を押し開いた。  
 
「今おめえ、クレイの愛撫で濡れたんだろ? 染み出してんぜ」  
「やぁー……」  
 
 濡れる、といういやらしげな響きに、頬にかあっと血が上り、唇を噛んで目をそらす。  
 そらした先にクレイのはにかんだ笑顔があった。  
 
「本当に? パステル、気持ちいい?」  
「……うん」  
 
 そんなキラキラした目で聞かれたら、答えなきゃいけないじゃないのよお……  
 つい頷くわたしに、クレイは嬉しそうに微笑み、胸への愛撫を再開した。と、足の間に今までにない感触が走る。  
 
「きゃ!」  
「うへ、もうびしょびしょになってやんの」  
 
 クレイの体の先、わたしの開かせた足の間に座ったトラップの指が、わたしの一番敏感な部分に触れていた。  
 下着がすっかり濡れて、秘部にぴったり張り付いているのが自分でもわかる。  
 トラップの細い指が、下着の上からその部分をつつくように撫ぜ、その度に奥の方からじわっと何か生暖かい液体が押し出されていく。  
 
「パステル、おめえ随分感じやすいんだなぁ」  
「や、やだっ、見ないでよぉー…………」  
「バーカ。見ないでどうやってすんだよ。よっと」  
 
 わたしの懇願にも耳を貸さず、トラップはその器用な手でわたしの下着をするりと脱がせた。  
 あまりの恥ずかしさに目をぎゅっと閉じる。  
 張り付いた下着がその部分から離れる時、なにかねばったものが糸を引いたような気がする。わたし、そんなに……濡れてるのかなあ……?  
 暫しの沈黙。  
 胸のあたりにのクレイの重みがないのに気付いて目を開けると、クレイとトラップは、大きく開かされたわたしのその部分を凝視していた。ちょっとちょっとちょっと!!  
 
「も、もうやだっ、何じっと見てるのよ!」  
 
 絶叫調に怒鳴りつけたわたしの声に、2人はビクッと反応する。  
 
「あ……いやごめん。初めて見たもんだから」  
 
 愛想笑いを浮かべるクレイ。  
 だからって、だからって無言で観察しなくてもいいじゃないのよ! 顔から火が出そう。  
 と、黙ったままだったトラップが、おもむろに指を伸ばした。  
 
「ぁんっ!」  
 
 くちゅ、という湿った音と共に、彼の細くて長い指は、わたしの中に埋め込まれていた。  
 そのまま、器用に動く指は襞をかきわけ、膣の中を執拗に擦りあげる。  
 じゅわ、とまた奥から染み出してくる液体。これって……感じてるから出てくるんだろうか。  
 どこか冷静なままの頭でそんなことを考えながらも、わたしの体と喉は、実に素直に反応していた。  
 
「んっ……あ、あぁ……」  
「クレイ、おめえ、ここさわってみ」  
「ええと……ここか?」  
 
 トラップが指を動かしながら、もう片方の手でクレイの手を導いた。  
 
「きゃぁんっ!!」  
 
 思い切り海老ぞりに跳ねる腰。  
 クレイが触れたその部分は、トラップの指が納められている部分の、もっと先の襞の中。  
 痛いほど敏感な芽を、太い指が探るように弄くり、わたしはあられもない声で喘いだ。  
 
「や、やっ、クレ……そこ、やぁっ」  
「え、そんなに気持ちいいのか?」  
 
 わたしのあまりに過敏な反応に、目を丸くしているクレイ。  
 
「ほれクレイ、指止まってんぞ」  
「あ、ああ」  
 
 ニヤニヤと笑うトラップに促され、クレイはわたしを気遣うような顔色ながら、またごつい指を動かし始める。  
 一番感じやすい芽には電流が絶え間なく走り、内壁は激しく擦られて愛液を溢れさせる。  
 生温かいそれは、お尻を伝ってシーツに染みているんじゃないだろうか。  
 二箇所を同時に、違う強さと速さで愛撫され、わたしの頭の中は足の間に負けず劣らずぐちゃぐちゃだった。  
 
「ひっ、や……あ、だめ、だめ……っ」  
「お! もうイキそうじゃん。これでどうだっ」  
 
 トラップの指の動きが早くなり、わたしのその部分がぬちゃ、ぬちゃっと卑猥な音をたてた。それにつられるように、クレイの指に力が込められる。  
 
「や、や、やぁ……あ、ああああっ!!」  
 
 2人がふれている部分から、体の中心に向かってゆっくりとよじ登ってきていた快感が、一気に頭まで突き抜けた。  
 堪え切れなくなって喉の奥から絶叫する。  
 自分のまわりだけ、音や色といった、五感で感じられるものが無くなったような不思議な感じ。  
 それから、どれくらいの時間がたったのか。恐らくは数秒か数分なんだろうけど、現実に戻ってくるまでは随分長かったような気がした。  
 微かに痙攣するまぶたをどうにか開けると、クレイとトラップが片や心配そうに、片や嬉しそうに覗き込んでいた。  
 
「大丈夫か? パステル」  
「イッたのかよ? 気持ちよかったかぁ?」  
 
 ……なんなんでしょうね、この2人の違いは。  
 薄い膜がかかったようだった視界の中の2人に、とりあえずコクコクと頷いてみせる。  
 あれ。よく見ると、2人とも手回し良く裸になってる。いつの間に脱いだんだろう?  
 すぐ傍にいるクレイの裸体が目に映る。  
 胸板は厚くてよく鍛えられて、あらわになった肩から二の腕のラインがとってもきれい。  
 滅多に見ることのないお腹はくっきりと腹筋が割れて、その下に……えっと……天に向かって隆々とそそりたつソレが、しっかり自己主張してる。  
 
「あ……のさ、パステル、そうマジマジ見ないでくれよ」  
「あ、ごめん」  
 
 つい凝視しちゃってたらしい。  
 だってね、初めて見るその部分はすごく大きくて太くて、こんなの……入るんだろうかと不安になるほどなんだもん。  
 クレイの言葉に、えへへと笑いながら目をそらした先の、トラップの体が視界に入る。と同時に、  
 
「おいこら見比べんじゃねえ! クレイの方がでけえに決まってんだろうが!」  
 
 憮然とした表情のトラップ。あ、いや別に見比べたつもりは……  
 でもトラップの体だって、細いけど十分逞しいんだよ? そりゃ彼も冒険者。かなり鍛えてるんだろう。  
 手足も長いし、脱ぐと意外にごついのね、この人。  
 って、なんかだんだん批評する目になってきた自分がイヤだわ。  
 
「あに百面相してんだよ。ぼちぼち入れんぞ」  
「え、もうっ」  
「当たりめえだ。これ以上我慢できるもんかっ」  
 
 力が抜けて投げ出していた足首をぐいと掴まれ、まるでカエルみたいに大きく広げられる。  
 今更ながら恥ずかしくて身をよじるも、脱力してしまった足は言うことをききやしない。  
 そしてトラップは、クレイより多少小さいながらもしっかり勃起した自分のものを、濡れそぼったわたしの秘部にあてがった。  
 
「や……怖いよ……痛いの?」  
「こんだけ濡れてりゃ大丈夫じゃね? おいパステル、クレイのを口でしてやれよ。指咥えて見てるだけなんて訳にいかねえだろ」  
「口? 口って……」  
 
 聞き返しかけて、その言葉が何を示すかに思い当たり、わたしは思わずまたクレイのその部分に目をやった。  
 クレイは困ったような、なんとももどかしそうな表情で、横になったわたしを見つめて言った。  
 
「い……いいか? パステル。してくれるかい?」  
「……うん、やってみる」  
 
 クレイはわたしの言葉を聞くと、身を屈めて額にキスした。  
 その大きな手でクレイ自身を握り、倒すように傾け、わたしの口元に寄せてくる。  
 うわ、間近で見ると、ますます大きく感じるよお……赤黒くて、表面に血管が浮いてて、パツパツに皮膚が張ってる感じの肉の棒。  
 手を伸ばしてソレをおそるおそる掴み、舌先で舐めてみる。  
 
「うっ」  
 
 呻くクレイ。い、痛いのかな? 大丈夫かなあ?  
 そろそろと口を開けると、鼻で息を吸いこんでから、口に含んでみる。と。  
 
「んんんんんんんーーーーーーーっ!!!」  
 
 同時に脚の間に激痛が走った。  
 びちびちびちっと裂けるような感触と、一気にあふれだすぬめり。  
 泣き叫びたいくらい痛いのに、口の中にクレイのものが一杯に入ってるせいで、モガモガとしか声が出ない。  
 かといって、これに噛み付くわけにはいかないじゃない?  
 シーツとかクレイの腕とか、そのへんにあるものを思い切り爪を立てて握り締め、必死に痛みに耐える。  
 
「んくっ……んん……っ」  
「うぉ……すっげぇ気持ちいい……」  
 
 恍惚とした表情で、腰をリズミカルに突き入れているトラップ。  
 彼の動きに合わせて、お腹の奥に鈍い痛みがずくずくと走る。  
 知らない間に涙目になってたんだろう。クレイの太い指が、目尻をやさしく拭ってくれた。  
 あ、痛さのあまり口がお留守になってたみたい。  
 思わず歯を食いしばりそうになるけれど、さすがにそれをやったらクレイのが輪切りになっちゃうのでなんとか堪え、一生懸命舌を動かす。  
 
「パステル、つらい……かい?」  
 
 いたわるような、どこか眩しそうにわたしを見ている眼差しに、ううんと首を振ってみせて答える。  
 少しやせ我慢だけどね。でもトラップのソレは、染み出る液体で滑らかに滑り始めてて、痛みが少しずつ間遠になっていく感じなんだ。  
 遠くなる痛さと引き換えに、疼くような押し上げてくるような……これは快感? 体の奥の方で何か、うずうずしたものが蠢いてる感じ。  
 それを追いかけようとして、つい腰をくいっと動かした時、トラップとクレイが同時に呻き声をあげた。  
 
「お、くっ、もーイキそーだ……」  
「俺……もっ」  
 
 え? え? わたしがオタオタしていると、2人は同時にソレを引き抜き、白濁した液体を吐き出した。  
 トラップは器用に自分の手で受けて、クレイは……  
 
「ひえ……」  
「ご、ごめん、パステルっ!」  
 
 あの、顔にちょっとかかっちゃったんですけど……うえーん、なんか変なにおい!  
 
「おいおい、顔射してんじゃねーよ」  
 
 大笑いしてるトラップをよそに、顔を真っ赤にしたクレイは大慌てでわたしの顔をぬぐってくれた。  
 
「ごめんな、大丈夫か?」  
「うん、なんとか……」  
 
 本当はあんまり大丈夫じゃないんだけどね……とりあえずへにゃっと笑う。  
 わたしとクレイがそんなことをしていると、背中を向けて後始末していたらしいトラップがこちらを向いた。  
 細くてなめらかな赤毛がふわっと揺れる。  
 
「おーし、じゃあ第2ラウンド行くぜっ」  
「えええー! もう!? ちょっと休もうよっ」  
 
 上半身飛び起きて文句を言うも、わたしの抗議なんて歯牙にもかけないトラップ。  
 そりゃそうか。ここまでほとんど、彼の口車に乗せられて流されたようなもんだしね。今更抗議もないもんだけどさあ……  
 
「あに言ってんでえ。クレイがまだなんだぜ? まー顔射なんて珍しいことしちゃいるけど」  
「……トラップ」  
「あーもう、何でもいいから早くしよーぜ!」  
 
 苛立ったようなトラップに腕を捕まれ、くるりと半回転させられる。  
 ベッドにうつ伏せになった状態で腰を持ち上げられ、気がつくと四つんばいの姿勢に。  
 
「や、やだちょっと」  
「暴れんな」  
 
 突き上げる形になったお尻を、ぺしっとはたかれる。  
 だってだって、この格好って後ろから丸見えじゃない? 恥ずかしいよお……  
 
「クレイのはでけーからさ。こっちからの方が入れやすいんじゃね?」  
「え、そうなのか?」  
 
 トラップの言葉に半信半疑な顔色のクレイは、ゆっくりとわたしの足元に回った。  
 むき出しのわたしのお尻に、ゴクンと息を呑むクレイ。  
 うっ、そんな食い入るように見ないでほしい。  
 顔を合わせるのが恥ずかしくなって枕に顔を埋めると、腰に大きな手がかかり、ぎこちなくお尻が広げられた。  
 そっと当てられる、もう堅くなったクレイ自身。  
 ピクっと腰を震わせるわたしに、背後から遠慮がちな声が聞いた。  
 
「パステル、ここで……いいのか?」  
「……うん……ゆっくり、ね」  
 
 ぼそぼそと答えるとクレイは、自分自身をわたしの秘部におそるおそる擦り付けた。  
 ぬるっとした感触と気持ちよさが脚の間を走る。  
 
「あ……ん」  
 
 クレイは、堅くなったものの先端でわたしの襞をつつくようにしながら、慎重に探るように動かしていた。  
 そのぎこちない動きは……クレイに限って有り得ないけど、まるで焦らしているみたい。  
 わたしの脚の間は疼いて熱くなり、思わずクレイを振り返ってしまう。  
 
「おい、クレイ、パステルが早く欲しいってよー」  
「ちょ、トラップっ」  
「事実じゃん。腰揺らしてよ。淫乱だね〜」  
 
 妙に嬉しそうなトラップは、そんなことを言いながらわたしの顔の傍に跪き、股間のものを口元に寄せてきた。  
 反射的に口に咥え、ぺろぺろと舐め回す。  
 
「おー、いいねえ……おめえ巧えぞ」  
 
 トラップのって……言ってはナンだけど、クレイのよりは若干細めだから、咥えやすかったりするんだよね。  
 クレイのは口の中いっぱいいっぱいになっちゃって、口に入れるので精一杯だったり。  
 って比べてどうするのよ、と密かに自分に突っ込みを入れた時。  
 
「あっ……あああん!!」  
 
 思わず口からトラップのものがこぼれるほど叫んでしまったのは、脚の間に思い切り熱い圧力がかかったから。  
 襞と襞を押し分けて入ってきたのは、熱くて堅いクレイのもの。  
 それは、さっきトラップが裂いて広げた部分を通り、わたしの中にすっぽりと納まった。  
 
「き……もちいいなあ……」  
 
 喉から絞ったような、クレイの喘ぎ混じりの声。  
 そのなんとも色っぽい声に、クレイのものを咥え込んだ部分が、またジュンと熱くなる。  
 トラップが慣らしてくれたからかもうほとんど痛みはなく、トクトク疼くように脈打ってる感じ。確かにこの順番は正解だったかも……  
 クレイは、自身をわたしの中に入れたまましばらく動きを止めていたけれど、少しずつ腰を動かし始めた。  
 
「ん……っ、あ……あん、あっ」  
 
 なんかすごく……気持ちいいのはなんでだろう。  
 ぬるぬるしたものを纏ったクレイ自身が、膣の内壁を力強く擦る。  
 ゆっくりと動かされるクレイの腰の動きに、翻弄されるように喘いでいると、不意に前髪を軽く掴まれ、上向かされた。 目が合ったのはいたずらっぽい瞳のトラップ。  
 
「気持ちよさそーじゃん? 俺のも頼む」  
「んっ……あっ、んんっ」  
 
 わたし、一体どうしちゃったのかなあ?  
 目の前に突き出されたトラップのものはてらてら光ってて、なんだか美味しそうなものにすら見えてくるから不思議。  
 クレイの一定のリズムで、秘部から紡ぎだされる快感のやり場を求めて、口に咥えたトラップ自身を情熱的にしゃぶってみる。  
 喘ぎ声をこぼしながら、頬っぺたに力を入れて、じゅぼじゅぼ音をたてて吸い上げたりして。  
 
「お、おーっ、すげえよ、パステル」  
「ん……ひもひいい?」  
 
 舌を止めないで上目遣いにトラップに聞くと、彼は眉間に皺を寄せてうんうんと頷いた。  
 顔に髪がかかるのもかまわず頭を振ると、口の中でトラップのものが張り詰めて大きくなってきたような気がする。  
 
「パ……ステル、パステルっ」  
 
 クレイが、荒い呼吸の中で呟いた。  
 彼の腰の動きはどんどん激しくなり、ぱぁん、ぱぁん、って破裂音のような音がお尻のところから聞こえてくる。  
 わたしのお尻を大きな手でしっかり掴み、思い切り強く突き上げるクレイ。  
 一番奥をソレの先端がえぐる度に、ずくずくした快感が溢れてきて。  
 
「あぁ……はぁ、んっ……んむっ」  
「ごめん、俺……くっ」  
 
 クレイはギリっと歯を食いしばるような音を漏らしながら、ずぼっと自分自身をわたしの中から引き抜いた。  
 抜く瞬間に、彼のものの先端がわたしの襞にひっかかり、弾かれるように快感が走る。  
 
「んっ、は……んっ」  
 
 背中に熱い液体がどぼどぼっとこぼされ、咥えているトラップのものを吐息と一緒に吐き出しそうになってしまう。  
 必死に咥えなおすと、トラップは低く呻いて頭を左右に振った。  
 
「も、おめえ良すぎ……やべ……」  
 
 口の中のソレが一瞬痙攣したかと思うと、わたしの喉の奥に向けて、なにか熱くて苦いものが吐き出された。  
 
「も、もが……げほ、げーっほ」  
「パステル、悪りい。間に合わなかったぜ」  
「にっがぁ……気持ち悪いぃ……」  
 
 ねばねばしたものをどうにかこうにか飲み込み、涙目でトラップを睨む。  
 謝る言葉とは裏腹に、ニヤニヤと嬉しそうに笑っているトラップ。  
 えらいもん飲んじゃったよ……おなか痛くならないかなあ?  
 気持ち悪い口の周りをぬぐっていると、背中を拭いてくれている気配。四つんばいのまま振り向くと、クレイが焦った顔で背中に撒いた液体を拭き取ってくれていた。  
 
「あ……りがと」  
「いや、その……」  
 
 なんて間抜けなんだろう。  
 四つんばいになったわたしに、自分の股間をいそいそとぬぐうトラップ、そしてわたしの背中を一生懸命拭いているクレイ。  
 わたしたちは目が合った瞬間、思わず揃って吹き出した。トラップの大笑いがそれに重なった。  
 
 
 
 
 ぼんやりと開いた目にうつるのは、まだ夜も明けてない、暗い部屋の中。  
 こんな変な時間に目が覚めたのは、きっと慣れないことして気が昂ぶってたのと……息苦しかったんだろうな、わたし。  
 首に巻きついてる、細めの腕。  
 それはわたしの首をぐいぐいと引っ張っていて、いい加減窒息しそう。  
 自分の顔にわたしの顔をくっつけるようにして、天下泰平の寝息をたてているトラップ。  
 腰の下にはクレイの逞しい左腕が回されていて、彼の右手はわたしの左手と手をつないだ状態。  
 クレイも安らかな顔をして静かに目を閉じている。  
 いつの間にこんな不自然な体勢になったんだろう? そりゃ寝苦しいわ。  
 
 わたしは苦労して2人の腕を抜け出し、ベッドから降りた。  
 わたしが腕の中からいなくなると、彼等はもぞもぞと体を動かし、手であたりをまさぐっていたかと思うと、触れたものをそのまま抱き寄せてしまったみたい。  
 お互い、探し当てたものが間違っていることに気付かないまま、ぎゅうっと抱き締めあってて……  
 うひゃー……男2人で抱き合って……ちょっと気色悪い。起きた時びっくりするだろうなあ……  
 
 わたしは含み笑いをしながら身づくろいを整え、椅子に腰掛けた。  
 とりあえず、書きかけの原稿を仕上げてしまおうと、放り出していた鉛筆を握る。  
 ひと呼吸して原稿に向き直りかけて、思い直してベッドを見やる。  
 
 口を半開きにして、子供みたいな寝顔のトラップ。  
 眠ってる時も端整な表情の、凛々しいクレイ。  
 そして、2人の寝顔を見てるだけで、なんだか嬉しくなって微笑んでしまうわたしがいる。  
 これって恋愛感情なのかな? うーん……まだよくわかんないけど。  
 こんな無防備な表情をわたしだけに見せてくれることとか、2人がなんのかんの言ってもわたしを大切に思ってくれてることとか……そんなことが何より嬉しい。  
 
――もう少し、このままでもいいんじゃない?  
 
 わたしは、静かに眠る2人にそっと囁いて、音をたてないように原稿用紙をめくった。  
 
 
 

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