あたりには誰もいない。  
ここには、わたしただひとり。  
みんな、どこ行っちゃったんだろう?わたしどうすればいいんだろう?  
……だからわたし、やめとこうって言ったのにぃ!!!  
 
 
トラップがオーシと交渉の末に、値切って手に入れてきたシナリオ。  
それはわたしたちのレベルから言えば、少し高目のクエストだった。  
でも、皆調子よくレベルアップした後だったし、いつも簡単なクエストばかりじゃ駄目だろう!ってんで、皆妙に気合が入っちゃってて。  
でもシナリオを見る限りではどうも、相当複雑なダンジョンみたいだったんだよねえ…  
入り組んだ構造の上にワープはあるわ罠は多いわなんだもん。  
ぶっちゃけ、へたれマッパーなわたしには、全くマッピングの自信がなかった。  
だから、もう少しレベルが上がってからにしようよ、って言ったんだけど……結局押し切られちゃって。  
でもさあ、世の中そんなにうまくはいかないでしょ?  
うん、少なくともわたしたちの場合は、いつもそう……  
 
ダンジョンに入ったはいいけれど、案の定、いつもより数段難易度の高い内部構造。  
かなりの時間を歩き続けるうち、マッピングノートは何ページにも跨り、完璧意味不明になってしまってた。  
うーむ、まずい。どうしましょ。  
書いた本人にも、何がなにやら全然わかんない!んだわ、これが。  
ノートとにらめっこしては、脂汗をたらして唸っていたら、またも気がつくと皆とはぐれてしまってたんだよね。  
はいそうです、みんなわたしが悪いのよ。  
歩けど叫べど、誰にも会わない、誰もいない。  
何の気配も残さず、パーティの皆は消え失せてしまっていた。  
わたしは重いため息をつくと、がっくりと肩を落とした。  
あぁもう、何度やれば気が済むんだろう?わたしってば………  
 
暗いダンジョンの中、わたしの持ったポタカンだけが光を放ち、岩壁をぼんやり照らしている。  
さ迷い歩いた末に辿り着いたここは、通路の先端、袋小路の場所にあたり、小さな部屋のような形状をしていた。  
本来ならここから戻って、別の道を探したいところなんだけど……もう手元の明かりが頼りない。  
ポタカンの油がじわじわと少なくなり、あたりはどんどん薄暗くなってきちゃってる。  
……途中で継ぎ足すつもりだった予備の油は、ノルのリュックの中なんだよね。  
こんなことなら横着しないで、満タンになるまで油入れとくんだったーー!わたしのバカー!!  
自分で自分の頭をぽかぽか殴りたい気分になりつつ、あたりをきょろきょろと見回す。  
 
とりあえず、危険なものやモンスターはいなさそう…だよね。  
わたしはどうしようもない自分に歯噛みしながら、仕方なく岩壁を背に座り込んだ。  
うぅ、皆どこ行っちゃったのかなあ……  
皆が見つけてくれるって保証もないし、かといって真っ暗な中じゃ動けないし………  
鼻の奥がつんと熱くなる。  
なんかもう泣き出したくなりながら、わたしは立てた膝を抱えて顔を埋めた。  
と、その時。  
 
「誰かいるのか?」  
 
突然あたりに響き渡ったのは、よく通る大きな声。  
どき!と弾む心臓。焦って顔を上げる。  
は、話すってことはモンスターじゃないよね?  
パーティの仲間じゃない、男の人の声なんだけど。  
誰!?いや、この際誰でもいい、わたしを助けてっ!  
ヒタヒタと微かな足音がし、ポタカンが放つ、オレンジ色の明かりと共に現れたのは。  
 
「なんだ、またお前か」  
 
浅黒い肌に精悍な面立ち。切り込むような鋭い眼差し。  
この人……そうだ。ダンシング・シミターだ。  
弁髪……っていうのかな。  
頭の周囲の毛を剃り上げ、てっぺんだけ長く残して結んだ、変わった髪形。  
東洋風のベストのような胴着に、ウエストに紫の布を結んだ、ゆったりしたズボンを身につけている。  
鍛えられて筋肉の盛り上がった体が、人工の明かりに浮かび上がっている。  
 
この人には、過去に何度も会う縁があった。  
ほとんどは敵同士だったんだけど、なんか憎めないところのある人なんだよね。  
剣の達人の癖して、非常時でも笑い出すと止まらない笑い上戸だったり。  
 
「あ……なたはなぜここに?」  
「そりゃ遊んでるわけじゃない。クエストの途中だ。お前こそ、いつものメンツはどうした」  
「いえその……はぐれちゃって……」  
 
きまり悪さに、ぼそぼそと口の中でつぶやく。  
ダンシング・シミターはそんなわたしを見て、鼻先で軽く笑いながら言った。  
 
「お前の仲間たちは、見事にテレポートの罠にかかっていたようだがな」  
「ええっ!? 本当に?」  
「ああ。あの罠だと、特に怪我なんかはないだろうが、ダンジョンの入り口まで飛ばされてるはずだ」  
「あらまぁ……あれ? でも入り口までって……」  
 
なんで知ってるの?と聞きかけたわたしを、大きな目がぎろりと睨む。  
 
「シナリオを読んでないのか。記載されてただろうが」  
「あ、そ……でしたっけ」  
 
そんなのあったっけな?  
実はわたし、地図にいっぱいいっぱいで、シナリオ詳細まであんまり見てなかったんだよね。  
愛想笑いをするわたしを横目に、彼はどこからか小さなノートを取り出し、仔細に眺めていた。  
どうやらマッピングノートらしい。  
うーん、あんな小さいノートで、よくマッピングできるなぁ……  
 
「入り口まで戻されたら、ここまで来るには……ふむ。ちょっとやそっとでは無理だな」  
 
がああああん………  
そういえば、そうでした。  
入り口入ってからわたしがはぐれるまでって、相当長時間歩き詰めだったもんね。  
途中で食事も2回はしてる訳だから、それから考えると6時間や7時間、平気でかかってるかも。  
 
「ま、ここで待つのが正解だろう。こっちから出向いたところで、入り口からは分岐点が多いからな。あいつらがどこを通ってくるかわからん。最悪行き違いだ」  
 
自分のノートと、書き写したらしい地図を広げて指差しつつ、彼は続ける。  
 
「しかしその分岐した道は、最終的に全部この袋小路を出た場所に到達するからな。ということは、ここにいれば前を通る人間がいればわかるって算段だ。そもそも無闇に動かん方がいい。お前達が遭遇したかどうかは知らんが、面倒なモンスターが結構いるぜ」  
「そ、そうなのぉ?……」  
 
半分泣き声になってしまう。  
これまで、ほとんどモンスターには会わなかったけど、あれは偶然だったのね。  
そんな危険なところだったのかあ……  
じゃあここでひたすら、モンスターに脅えながら皆を待つしかないの?  
どっぷり落ち込むわたしの傍に、ダンシング・シミターはどさっと腰を下ろした。  
ポタカンがカタンと地面に置かれ、下から彼の彫りの深い顔を照らし出す。  
 
「ったく、まともにシナリオくらい読んで来い。というより、恐らくこのダンジョンは、お前達にはちとレベルが高いぞ」  
「そうよね、わたしもそう思って、やめようって言ったのよ」  
 
ブツブツと文句を言うわたしに、ダンシング・シミターは唇の端を持ち上げて笑った。  
 
「まあ入った以上、今更文句を言っても仕方ないだろ。これも何かの縁だ。心配するな、俺が一緒にいてやる」  
「ほ、ほんとに!?」  
 
願ってもない申し出。  
わたしは胸の前で拝まんばかりに両手を組むと、彼の顔を見直した。  
ダンシング・シミターは長く垂らした髪の先を引き寄せ、指で梳かしている。  
 
「実のところ俺も、似たような境遇だからな」  
「え?」  
「うちのパーティの連中も、もれなく揃って罠にひっかかりやがった。今頃入り口で、そっちの連中とバッタリ会ってるんじゃないのか? ったく、使えない連中ばかりだぜ。なんで俺の雇い主は、毎度毎度バカばかり揃ってるんだか……」  
 
呆れたように唇を歪め、吐き捨てるようにつぶやく。  
その言葉に、ゾラ大臣を思い出す。  
そういえば確かにあの人も、見事に使えない上司だったよねぇ……  
わたしは思わず含み笑いをもらしかけ、ふと思い出す。  
この人、いま、ギアとパーティ組んでるんじゃなかったっけ?!  
 
「ねえ、ダンシング・シミター、今あなたはギアと」  
「いない。残念ながら」  
 
わたしの言葉をひったくるように否定するダンシング・シミター。  
長い脚を折り曲げるようにして胡坐をかくと、ニヤっと笑ってみせる。  
 
「ま、ギアじゃないが我慢しろ」  
「そっ………」  
 
いや別にギアにいてほしいわけじゃ……って、そもそもいないんだから。  
何をひとりで焦ってるの、わたしってば。  
彼は、おたおたしているわたしの気も知らず、素知らぬ顔で背負い袋から何かを取り出すと、こちらに放った。  
受け止めるとそれは、冒険者にはお馴染み、薬草入りのチョコレート。  
 
「食っておけ」  
「あ、はい」  
 
助かる。お腹すいてたんだよね。  
自分も持ってるとはいえ、ここへ来るまでに結構食料は消費しちゃってて、残り少ないし。  
ありがたく口に入れると、疲れのとれる甘さと、ほんのり苦い薬草の風味が口の中に広がった。  
同じようにチョコレートを頬張る、ダンシング・シミターの横顔を眺める。  
褐色を帯びた色の、精悍で野生的な顔立ち。  
大きくてくっきりとした目は、目の前の地面に置いたポタカンの炎に向けられ、その表情は至極落ち着いている。  
とりあえずは、多少モンスターが出ても、この人がいれば大丈夫でしょう。  
ダンシング・シミターの剣技の凄さは、何度も見てるしね。  
安心したのとお腹が落ち着いたのとで、ついぼーっとしていたわたしに、彼は横顔のまま促した。  
 
「暇だな。何か話せ」  
「は?」  
 
きょとんとするわたし。暇、ってねぇ。  
まあ確かに、何もすることがないといえば、そうなんですけど。  
 
「何かって言われても」  
「お前、ギアとはあれっきりか」  
 
……暇だからって、それを聞きますか?  
動揺を隠し、唾を飲み込んでゆっくりと答える。  
 
「お、終わったことよ」  
「始まってたのか?」  
 
うっ。  
詰まるわたしに、かんらかんらと笑うダンシング・シミター。  
 
「面白い女だな、お前」  
「あ、どうも」  
 
ほめられてるんだろうか?わたし。  
微妙に首をかしげていると、彼はチョコレートの包みを指先で小さく畳みつつ、思いもよらないことを言った。  
 
「お前達、なかなか似合いだと思っていたんだがな」  
「え、そ…う?」  
「ああ。あの時、なぜあいつを振った?」  
 
口調はとても淡々としているのに、どことなく優しさを滲ませた笑顔が、斜めにこっちに向けられている。  
なんだか、すごく意外。  
この人、こんな顔もするんだね。  
見たことのない表情に釣り込まれ、ついぽろっと口が滑った。  
 
「……本当は、ついて行きたかった…わよ。………好き、だったもん」  
「ほぉ。女ってのは、好きでも男を振れるもんなのか」  
「そうよ。好きだったけど、ね」  
 
つとめて何気なく答えてみせる。  
そう、もう過去だから。踏み込まないでほしい。  
忘れられなくて、でも忘れようとしてきた気持ちだから。  
 
「過去形だな」  
「うん。過去」  
 
わたしは、炎をじっと見つめて頷いた。  
その視界が、唐突に遮られる。  
つと目の前に伸ばされたダンシング・シミターの腕。  
長い指が、無遠慮にわたしの首元をまさぐった。  
 
「ひゃ、何っ」  
 
思わず首をすくめると、鼻先に引っ張り出されていたのは、服の下に着けていたペンダント。  
天使が赤く輝く宝石を抱いている、かわいらしいペンダントトップ。  
そう。ギアにもらった………あのペンダントだった。  
 
「過去ではない、ようだが」  
「……」  
 
思わず目を泳がせてしまう。  
 
「……あいつ、さらってしまえば良かったものを」  
 
嘆息したダンシング・シミターは、ペンダントから指を離すと、わたしの髪にふれた。  
ピクン、と耳元に震えが走る。  
 
「まだ、好きなのか」  
「かか、簡単に忘れてしまえたら、楽なんだけどねっ」  
 
頬にかあっと血が上る。  
痛いところを突かれて、でも否定出来ない訳で、わたしは半分やけっぱち気味に叫んだ。  
そんなわたしを見て、ダンシング・シミターは呆れたように笑い。  
何の前触れもなく、ごつい腕を髪から肩に滑らせると、わたしをぐいと抱き寄せた。  
 
「なっ……」  
「健気だな。気に入った」  
 
突然のことに、わたしの体は抵抗らしい抵抗もできないまま、逞しい腕の中にすっぽりと納まっていた。  
焦ってダンシング・シミターの顔を振り仰ぐ。  
白目のきれいな目が細められ、深く輝く瞳が、一瞬強い光を放つ。  
かと思うと、逃げる間もなく唇が降ってきた。  
 
「んんっ!」  
 
強引に押し付けられる彼の唇が、わたしの唇を押し開き、熱い舌がぬるっと差し入れられる。  
それはわたしの口の中を、貪るように激しく動き回った。  
ささやかに抵抗しようとするも、抱き締められて身をほどくこともできない。  
 
「………はっ」  
 
唇が離れた途端、胸苦しさをほどくように息を吐く。  
早い鼓動が、ドクドクと耳の奥で響いてる。  
その鼓動に重ねるように、張りのある声が耳たぶに向かって囁いた。  
 
「俺の女になれ」  
 
その囁きはわたしの耳を甘くなぞり、耳孔にねっとりしたものが這い込んできた。  
 
「ひぁっ」  
 
ダンシング・シミターは、身を堅くするわたしを力強く抱きすくめ、耳から首筋を長い舌に舐め伝わせる。  
背筋をぞくぞくするような快感が走り、思わず仰け反ってしまうわたし。  
胸元に舌が這い降り、同時に大きな手がスカートの中に忍び込もうとする。  
 
「や、やだぁ!やめてっ!!」  
 
太い腕を精一杯叩き、必死に身をよじる。  
じたばたさせた頭が、偶然ダンシング・シミターの顎にがん!と当たった。  
 
「いててて………」  
 
彼はわたしを片手でがっちりと拘束し、残る片手で自分の顎を撫でた。  
きれいに整えられた顎鬚。  
しきりにその脇を撫でつつ、にやにやと笑う。  
 
「手ごたえがあるな。ますます気に入ったぜ」  
 
ダンシング・シミターは、顎から手を離すと、両手でわたしをさらに強く抱いた。  
わたしの目の前には、鮮やかで澄んだ瞳。  
人を食ったような笑いから、一転して真面目な顔が問いかける。  
 
「いつまでも、あいつの残像に囚われてるつもりか?」  
「そんなつもりじゃ………」  
 
口ごもってしまうわたし。  
好きで……囚われてるわけじゃないもん。  
気持ちのやり場に困って、思わず目を伏せるけれど、そこをぬっと覗き込まれた。  
強い眼差しが、まっすぐにわたしを見つめる。  
 
「悪いようにはせん。………お前にあいつを、忘れさせてやろう」  
 
……それはわたしにとって、例えようのない甘言だった。  
忘れられるなら、忘れたい。  
そう思い続けながらも忘れられなくて、ずっと時を重ねてきた。  
この引きずってきた甘苦い想いを解放してやるという、それはそれは誘惑される言葉。  
 
一瞬揺らいだわたしの気持ちにつけ込むように、ダンシング・シミターは手を伸ばした。  
太ももの上を生き物みたいに這い回る、大きな手。  
 
「や…ぁんっ」  
「……細いと思ったが……意外に」  
 
ダンシング・シミターはそこで言葉を切った。  
くっきりとした陰影を刻んだ口元が、ニヤリと笑う。  
つと、ごつい指が素早く這い込んできた。  
強く閉じていたつもりなのに、いつの間にか力の緩んだ、わたしの脚の間に。  
 
「あ……っ」  
 
下着の上から、その部分を撫でさする指。  
びくっと震えた体は、その愛撫に徐々に強張りを抜かれていく。  
彼の指が動くたび、濡れた下着の薄い布地が、わたしのそこにしっとりと纏いついた。  
 
「……は……ぁ…んっ」  
「随分と濡れたな」  
 
ダンシング・シミターは独り言のようにつぶやくと、すっかり力の抜けたわたしの両脇に手を差し入れ、軽々と持ち上げた。  
自分の胡坐の上に、わたしをゆっくりと下ろすと、膝を割って大きく脚を開かせる。  
わたしは頬にまた血が上るのを感じたけれど、もう抵抗する力はない。  
半分あきらめ、残りの半分は、この屈強な男に説明できない魅力を感じ始めていた。  
厚い胸板にもたれかかって身を預ける。  
こめかみに頬に唇に、ダンシング・シミターの端正な唇が降りかかった。  
くすぐったくて熱くて、ついこぼれる、鼻にかかった吐息。  
 
「んっ……」  
 
その声に彼は目を細めて微笑み、アーマーの隙間から胸を揉んでいた手も、ゆっくりと脚の間へと滑らせる。  
片手がわたしの下着をくい、と引っ張る。  
広げた隙間から、残りの指が滑るように入り込んできた。  
 
「あぁ!や……あぁんっ」  
 
ぴちょっ、という音を連れて、液体がじわりと溢れ出す。  
ダンシング・シミターの無骨な指は、その雫を逃さずなすりつけるように、秘部の襞をぬるぬると蠢いた。  
 
「ん、あぁ……ぁん……っ、あっ」  
 
わたしの喘ぎを確かめるように、慎重に続けられていた愛撫。  
花弁をほぐすように、ひとしきり縁を撫で回していた指は、突如として乱暴に、前触れなく奥まで押し込まれた。  
 
「ぁうっ」  
「ふーむ、処女か。その割に感度がいいな」  
 
感情を全く乱さず、淡々と話しながら指を動かすダンシング・シミター。  
その指の腹が襞と襞を割り裂くように動き、一番敏感な芽を爪先で引っかく。  
 
「あぁ、ん……や、やぁっ、んっ」  
「イイだろ?ここが。ん?どうだ?」  
「ん、ぅんっ…やっ」  
 
手を止めることなく、彼はわたしの耳に甘く囁き続けた。  
初めて感じる快感が、とろりとにじるように膣の奥を這い登り、熱っぽい疼きが止まらない。  
容赦なく責め立てられたそこは、充血して熱く、途切れることなくとろとろと愛液を垂れ流している。  
 
「そろそろ……イクかい?」  
 
舌なめずりするように唇を舐めたダンシング・シミター。  
膣の中に太い親指が、ずぶずぶと根っこまで押し込まれた。  
 
「ん……くっ」  
 
その指をぬちゃぬちゃと出し入れしながら、もう片手の指が、ぷくりと膨れたクリトリスを、小刻みに擦った。  
 
「ひっ…あ、や…ぁうっ、だ、めえぇっ……!」  
 
悲鳴のような喘ぎが、洞窟の狭い天井に反射する。  
体中が昂ぶって、まっすぐ体を起こしてなんていられない。  
わたしは、後頭部を逞しい胸にぐいぐいと押し当ててのけぞった。  
ダンシング・シミターは、グラグラするわたしの上体をしっかりと支えると、指先を磨り潰さんばかりに激しく動かした。  
 
「かまわん、イってしまえ」  
「や、や……やああぁぁんっ!!」  
 
脚の間から脳天を突き抜けるような快感に、天井を仰いでぎゅっと瞳を閉じる。  
パシン!!と弾けるように、瞼の裏が白っぽくスパークした。  
視界で散らばっていった銀の欠片が落ち着くまで、どのくらいの時間がかかったんだろう。  
弾む息を飲み込みながら目を開けると、すぐ間近に、わたしの顔を覗き込むダンシング・シミターの顔があった。  
 
「大丈夫か?」  
「う……ん」  
「余程良かったようだな。一瞬気を失ってたぞ」  
 
彼は満足そうな笑顔を浮かべると、完全に脱力しきったわたしの脚を持ち上げた。  
されるがままのわたしの、ぐっしょりと濡れた下着を、引き剥がすように脱がせる。  
ぼと、っと重く湿った音をたてて床に落ちる、丸まった白い下着。  
わたしはそれを他人事のように眺めながら、乱れた呼吸を切れ切れに吐き出していた。  
筋肉の盛り上がった腕が、またわたしをひょいと抱き上げた。  
そのまま体をくるりと回され、向かい合うように膝の上に座らされる。  
ダンシング・シミターは、わたしの顔をねめつけるような視線で見つめながら、ゆったりしたズボンの前を探り、自分のものを掴み出した。  
 
「見てみろ」  
 
言われるがまま、自分の開かされた脚の間に目を落とす。  
そこには、きつく欲望を漲らせた、血管の浮き出したものがあった。  
初めて見るそれは赤黒く長く、反り返るような角度でそそり立っている。  
ダンシング・シミターは、わたしの額に唇を寄せながら、低く艶っぽい声で言った。  
 
「お前が欲しいと。お前の中に入りたいと泣いている」  
「そ……うなの?」  
「ほら、涙だ」  
 
先端の部分についた液体を指に擦り付け、わたしの口の前に差し出した。  
おそるおそる舐めると、ほのかに苦い味がした。  
 
彼は、眉根を寄せるわたしの髪を両手でかき上げて、少し笑った。  
その手は肩から腰にそって降りてくると、両脇からお尻を抱え上げ、わたしの体をまっすぐ持ち上げた。  
わたしの秘部を確かめているのか、自分の腰をまわすように動かし、襞と襞の割れ目に男根をあてがう。  
思わず腰が引けそうになるけれど、がっちりと掴まれて身動きすることもかなわない。  
 
「もう、逃がさないぜ。深呼吸しろ。痛いぞ」  
 
半月形の口の片方をくいと上げた、ダンシング・シミター。  
わたしはその強い眼差しに負け、おとなしくその言葉に従い、大きく息を吸う。  
胸に溜めた息を吐き出すのに合わせ、彼のものはゆっくりとわたしの中へ埋め込まれていった。  
合わさる物同士を無理矢理割り裂くような、めりめりっという衝撃が体の中心を襲う。  
 
「っく、い…たいっ、い…痛ぁ……っ」  
「わかった。ゆっ…くり、呼吸しろ」  
 
体の深部をえぐるような痛みに、我知らず、助けを求めるように手が泳いだ。  
無意識の指先が触れたのは、目の前の逞しい上半身。  
堅くて厚みのある肩に、倒れこむようにしがみつく。  
ダンシング・シミターは首を傾け、わたしの汗ばんだ耳にキスした。  
 
「ぁん」  
 
耳元から首筋を執拗に舐める舌が、痛みをとろりと溶かしていく。  
引き締まった腰が密やかに揺らされ、男根はわたしの内部をごく緩慢な動きで擦った。  
苦痛の上に、シフォンのようにふわっと被さる快感。  
 
「っは…ぁ…ん……ぅん……」  
「お前のここには、俺のものしか……入ってないぞ」  
 
抑えきれない情熱を吐き出すように、ダンシング・シミターは低く囁いた。  
 
「後は忘れろ。これだけ」  
 
彼はそこで言葉を切ると、腰を思い切り突き上げた。  
 
「ああぁっ!!」  
 
どく、っと重く体内を貫く、張り詰めた堅いもの。  
わたしの蕩かされた肉襞をぬめっと押し開く。  
躍動的に、力強く腰を動かすダンシング・シミター。  
力を込めた腹筋はくっきりと割れ、弁髪の長い毛先がリズミカルに揺れる。  
 
「あぅ、んっ、ん……あ…ぁああっ」  
「俺に、抱かれた、ことだけ……覚えて、おけっ」  
 
彼は、腰を突き込む度に乱れる、荒い呼吸の合間に言葉をつないだ。  
濡れた襞はひくつき、彼自身をすっぽりと咥え込んでいる。  
火照った膣の奥底をずく、ずくん、と突き上げられ、体中の血がそこに集まっていくみたい。  
わたしはダンシング・シミターの太く頑健な首にすがりつき、魂を吐き出すように声をあげた。  
剃りあげた頭のすべすべした感触を感じながら、わたしの意識は遠のいていった。  
 
 
どうしてこんなことになったのかなあ……  
しみじみと、なんとも不思議な感慨に浸る。  
あの後気がついたら、ダンシング・シミターの膝枕で寝かされていたわたし。  
目が覚めた途端、思わず焦って飛び起きた。  
だって、あのぎょろ目がじぃっとこっちを見据えてるんだもん。そりゃびっくりしますって。  
飛び退るように彼から離れ、俯いて乱れた服を直す。  
傍らで胡坐をかいて腕組みしていたダンシング・シミターはゆっくりと立ち上がると、腕と背筋を伸ばして伸びをしながら言った。  
 
「俺は浮気はせんぞ。お買い得だ」  
「はぁ?」  
 
何言ってるの、この人。  
ぽかんとしているわたしに、ニヤリと不遜に笑うダンシング・シミター。  
 
「しかも、剣の腕には自信がある。少なくとも、今のギアには……負けんつもりだがな」  
「……って、あの」  
「なにか問題でも?」  
 
顎をくいとしゃくり、横柄に聞き返される。  
そんなこと言われても、どうしろと。  
真剣に考え込んでしまうじゃありませんか。  
 
「ま、後足りないのは髪くらいか」  
 
つるりとスキンヘッドをなで上げて、難しそうな顔がつぶやく。  
思わず、ぷーっと吹き出してしまうわたし。  
顔だけ振り返ったダンシング・シミターは、不機嫌そうに文句を言った。  
 
「あのな、一応言っとくが。俺のこの頭は別に禿げてるわけじゃない! 剃ってるんだ!!」  
「あ、そうなの。剃ってるのね、くくくっ」  
「…笑うな」  
 
そんなの無理です。駄目だぁ、どうにも笑いがとまんない。  
この人の笑い上戸じゃあるまいし、ヒーヒー言いながらお腹を抱えるわたしに、彼は額に青筋をたてて怒鳴る。  
 
「だから笑うなと言ってるだろう!!」  
 
ダンシング・シミターは、真っ赤な顔してあっちを向いてしまった。  
いかんいかん、笑いすぎかしら。  
笑い涙を拭いていると、ふい、とスキンヘッドが振り向いた。  
もういつものシニカルな表情に戻っている。  
この人って、けっこう表情豊かなのね。笑ったり怒ったり、最初の印象とはえらい違いだ。  
 
「お迎えが来たぞ」  
「え!?」  
 
本当だ。  
遠くの方から、わたしの名を呼ぶ声が微かに聞こえる。  
それはダンジョンの壁を伝わるように響き、だんだんと近付いてくるようで、わたしは嬉しくて色めきたった。  
 
「よ、よかったぁ……」  
「もうひとりでも大丈夫だろう。俺は行く」  
「え?」  
 
背負い服を担ぎなおし、地面に置いていた曲刀を、背中の鞘にかちんと納めたダンシング・シミター。  
馬の尻尾みたいな髪をたらした後頭部に、慌てて問いかける。  
 
「ダンシング・シミター、あなたのパーティは?待ってたんじゃないの?」  
「俺のパーティの連中は来んさ。あいつらとは、はぐれた時点で別行動にする、とダンジョンに入る前に決めてあったからな」  
「じゃあ………どうして?」  
 
一瞬の間の後、ダンシング・シミターは体をこちらに向けた。  
身を屈め、長い指でわたしの顎を摘んで、軽く持ち上げる。  
浅黒い顔の中でひときわ綺麗な、澄んだ白目。  
鋭利な刃物みたいな凛然とした眼差しが、わたしを真正面から見据えた。  
 
「気に入った女には、ボランティアくらいするさ」  
「それって、あの…っ」  
 
わたしの言葉をみなまで聞かず、くるりと向けられた広い背中。  
 
「またいつかどこかで逢うだろう。必ずな」  
 
笑みを含ませたような、よく通るはっきりとした声。  
そして彼は、長身を翻して通路の向こう側へと消えた。  
わたしは、その残像を見つめて立ち尽くし、たった今立ち去った男に思いを馳せた。  
 
風のようにやってきて、駆け抜けていった男。  
また、巡り逢うことがあるんだろうか。  
 
間遠に聞こえていたクレイたちの声が、すぐ近くまで聞こえてくる。  
わたしはなにかを振り切るように、思い切り大きな声で皆の名を呼んだ。  
 
 
 
 

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