あたりには誰もいない。
ここには、わたしただひとり。
みんな、どこ行っちゃったんだろう?わたしどうすればいいんだろう?
……だからわたし、やめとこうって言ったのにぃ!!!
トラップがオーシと交渉の末に、値切って手に入れてきたシナリオ。
それはわたしたちのレベルから言えば、少し高目のクエストだった。
でも、皆調子よくレベルアップした後だったし、いつも簡単なクエストばかりじゃ駄目だろう!ってんで、皆妙に気合が入っちゃってて。
でもシナリオを見る限りではどうも、相当複雑なダンジョンみたいだったんだよねえ…
入り組んだ構造の上にワープはあるわ罠は多いわなんだもん。
ぶっちゃけ、へたれマッパーなわたしには、全くマッピングの自信がなかった。
だから、もう少しレベルが上がってからにしようよ、って言ったんだけど……結局押し切られちゃって。
でもさあ、世の中そんなにうまくはいかないでしょ?
うん、少なくともわたしたちの場合は、いつもそう……
ダンジョンに入ったはいいけれど、案の定、いつもより数段難易度の高い内部構造。
かなりの時間を歩き続けるうち、マッピングノートは何ページにも跨り、完璧意味不明になってしまってた。
うーむ、まずい。どうしましょ。
書いた本人にも、何がなにやら全然わかんない!んだわ、これが。
ノートとにらめっこしては、脂汗をたらして唸っていたら、またも気がつくと皆とはぐれてしまってたんだよね。
はいそうです、みんなわたしが悪いのよ。
歩けど叫べど、誰にも会わない、誰もいない。
何の気配も残さず、パーティの皆は消え失せてしまっていた。
わたしは重いため息をつくと、がっくりと肩を落とした。
あぁもう、何度やれば気が済むんだろう?わたしってば………
暗いダンジョンの中、わたしの持ったポタカンだけが光を放ち、岩壁をぼんやり照らしている。
さ迷い歩いた末に辿り着いたここは、通路の先端、袋小路の場所にあたり、小さな部屋のような形状をしていた。
本来ならここから戻って、別の道を探したいところなんだけど……もう手元の明かりが頼りない。
ポタカンの油がじわじわと少なくなり、あたりはどんどん薄暗くなってきちゃってる。
……途中で継ぎ足すつもりだった予備の油は、ノルのリュックの中なんだよね。
こんなことなら横着しないで、満タンになるまで油入れとくんだったーー!わたしのバカー!!
自分で自分の頭をぽかぽか殴りたい気分になりつつ、あたりをきょろきょろと見回す。
とりあえず、危険なものやモンスターはいなさそう…だよね。
わたしはどうしようもない自分に歯噛みしながら、仕方なく岩壁を背に座り込んだ。
うぅ、皆どこ行っちゃったのかなあ……
皆が見つけてくれるって保証もないし、かといって真っ暗な中じゃ動けないし………
鼻の奥がつんと熱くなる。
なんかもう泣き出したくなりながら、わたしは立てた膝を抱えて顔を埋めた。
と、その時。
「誰かいるのか?」
突然あたりに響き渡ったのは、よく通る大きな声。
どき!と弾む心臓。焦って顔を上げる。
は、話すってことはモンスターじゃないよね?
パーティの仲間じゃない、男の人の声なんだけど。
誰!?いや、この際誰でもいい、わたしを助けてっ!
ヒタヒタと微かな足音がし、ポタカンが放つ、オレンジ色の明かりと共に現れたのは。
「なんだ、またお前か」
浅黒い肌に精悍な面立ち。切り込むような鋭い眼差し。
この人……そうだ。ダンシング・シミターだ。
弁髪……っていうのかな。
頭の周囲の毛を剃り上げ、てっぺんだけ長く残して結んだ、変わった髪形。
東洋風のベストのような胴着に、ウエストに紫の布を結んだ、ゆったりしたズボンを身につけている。
鍛えられて筋肉の盛り上がった体が、人工の明かりに浮かび上がっている。
この人には、過去に何度も会う縁があった。
ほとんどは敵同士だったんだけど、なんか憎めないところのある人なんだよね。
剣の達人の癖して、非常時でも笑い出すと止まらない笑い上戸だったり。
「あ……なたはなぜここに?」
「そりゃ遊んでるわけじゃない。クエストの途中だ。お前こそ、いつものメンツはどうした」
「いえその……はぐれちゃって……」
きまり悪さに、ぼそぼそと口の中でつぶやく。
ダンシング・シミターはそんなわたしを見て、鼻先で軽く笑いながら言った。
「お前の仲間たちは、見事にテレポートの罠にかかっていたようだがな」
「ええっ!? 本当に?」
「ああ。あの罠だと、特に怪我なんかはないだろうが、ダンジョンの入り口まで飛ばされてるはずだ」
「あらまぁ……あれ? でも入り口までって……」
なんで知ってるの?と聞きかけたわたしを、大きな目がぎろりと睨む。
「シナリオを読んでないのか。記載されてただろうが」
「あ、そ……でしたっけ」
そんなのあったっけな?
実はわたし、地図にいっぱいいっぱいで、シナリオ詳細まであんまり見てなかったんだよね。
愛想笑いをするわたしを横目に、彼はどこからか小さなノートを取り出し、仔細に眺めていた。
どうやらマッピングノートらしい。
うーん、あんな小さいノートで、よくマッピングできるなぁ……
「入り口まで戻されたら、ここまで来るには……ふむ。ちょっとやそっとでは無理だな」
がああああん………
そういえば、そうでした。
入り口入ってからわたしがはぐれるまでって、相当長時間歩き詰めだったもんね。
途中で食事も2回はしてる訳だから、それから考えると6時間や7時間、平気でかかってるかも。
「ま、ここで待つのが正解だろう。こっちから出向いたところで、入り口からは分岐点が多いからな。あいつらがどこを通ってくるかわからん。最悪行き違いだ」
自分のノートと、書き写したらしい地図を広げて指差しつつ、彼は続ける。
「しかしその分岐した道は、最終的に全部この袋小路を出た場所に到達するからな。ということは、ここにいれば前を通る人間がいればわかるって算段だ。そもそも無闇に動かん方がいい。お前達が遭遇したかどうかは知らんが、面倒なモンスターが結構いるぜ」
「そ、そうなのぉ?……」
半分泣き声になってしまう。
これまで、ほとんどモンスターには会わなかったけど、あれは偶然だったのね。
そんな危険なところだったのかあ……
じゃあここでひたすら、モンスターに脅えながら皆を待つしかないの?
どっぷり落ち込むわたしの傍に、ダンシング・シミターはどさっと腰を下ろした。
ポタカンがカタンと地面に置かれ、下から彼の彫りの深い顔を照らし出す。
「ったく、まともにシナリオくらい読んで来い。というより、恐らくこのダンジョンは、お前達にはちとレベルが高いぞ」
「そうよね、わたしもそう思って、やめようって言ったのよ」
ブツブツと文句を言うわたしに、ダンシング・シミターは唇の端を持ち上げて笑った。
「まあ入った以上、今更文句を言っても仕方ないだろ。これも何かの縁だ。心配するな、俺が一緒にいてやる」
「ほ、ほんとに!?」
願ってもない申し出。
わたしは胸の前で拝まんばかりに両手を組むと、彼の顔を見直した。
ダンシング・シミターは長く垂らした髪の先を引き寄せ、指で梳かしている。
「実のところ俺も、似たような境遇だからな」
「え?」
「うちのパーティの連中も、もれなく揃って罠にひっかかりやがった。今頃入り口で、そっちの連中とバッタリ会ってるんじゃないのか? ったく、使えない連中ばかりだぜ。なんで俺の雇い主は、毎度毎度バカばかり揃ってるんだか……」
呆れたように唇を歪め、吐き捨てるようにつぶやく。
その言葉に、ゾラ大臣を思い出す。
そういえば確かにあの人も、見事に使えない上司だったよねぇ……
わたしは思わず含み笑いをもらしかけ、ふと思い出す。
この人、いま、ギアとパーティ組んでるんじゃなかったっけ?!
「ねえ、ダンシング・シミター、今あなたはギアと」
「いない。残念ながら」
わたしの言葉をひったくるように否定するダンシング・シミター。
長い脚を折り曲げるようにして胡坐をかくと、ニヤっと笑ってみせる。
「ま、ギアじゃないが我慢しろ」
「そっ………」
いや別にギアにいてほしいわけじゃ……って、そもそもいないんだから。
何をひとりで焦ってるの、わたしってば。
彼は、おたおたしているわたしの気も知らず、素知らぬ顔で背負い袋から何かを取り出すと、こちらに放った。
受け止めるとそれは、冒険者にはお馴染み、薬草入りのチョコレート。
「食っておけ」
「あ、はい」
助かる。お腹すいてたんだよね。
自分も持ってるとはいえ、ここへ来るまでに結構食料は消費しちゃってて、残り少ないし。
ありがたく口に入れると、疲れのとれる甘さと、ほんのり苦い薬草の風味が口の中に広がった。
同じようにチョコレートを頬張る、ダンシング・シミターの横顔を眺める。
褐色を帯びた色の、精悍で野生的な顔立ち。
大きくてくっきりとした目は、目の前の地面に置いたポタカンの炎に向けられ、その表情は至極落ち着いている。
とりあえずは、多少モンスターが出ても、この人がいれば大丈夫でしょう。
ダンシング・シミターの剣技の凄さは、何度も見てるしね。
安心したのとお腹が落ち着いたのとで、ついぼーっとしていたわたしに、彼は横顔のまま促した。
「暇だな。何か話せ」
「は?」
きょとんとするわたし。暇、ってねぇ。
まあ確かに、何もすることがないといえば、そうなんですけど。
「何かって言われても」
「お前、ギアとはあれっきりか」
……暇だからって、それを聞きますか?
動揺を隠し、唾を飲み込んでゆっくりと答える。
「お、終わったことよ」
「始まってたのか?」
うっ。
詰まるわたしに、かんらかんらと笑うダンシング・シミター。
「面白い女だな、お前」
「あ、どうも」
ほめられてるんだろうか?わたし。
微妙に首をかしげていると、彼はチョコレートの包みを指先で小さく畳みつつ、思いもよらないことを言った。
「お前達、なかなか似合いだと思っていたんだがな」
「え、そ…う?」
「ああ。あの時、なぜあいつを振った?」
口調はとても淡々としているのに、どことなく優しさを滲ませた笑顔が、斜めにこっちに向けられている。
なんだか、すごく意外。
この人、こんな顔もするんだね。
見たことのない表情に釣り込まれ、ついぽろっと口が滑った。
「……本当は、ついて行きたかった…わよ。………好き、だったもん」
「ほぉ。女ってのは、好きでも男を振れるもんなのか」
「そうよ。好きだったけど、ね」
つとめて何気なく答えてみせる。
そう、もう過去だから。踏み込まないでほしい。
忘れられなくて、でも忘れようとしてきた気持ちだから。
「過去形だな」
「うん。過去」
わたしは、炎をじっと見つめて頷いた。
その視界が、唐突に遮られる。
つと目の前に伸ばされたダンシング・シミターの腕。
長い指が、無遠慮にわたしの首元をまさぐった。
「ひゃ、何っ」
思わず首をすくめると、鼻先に引っ張り出されていたのは、服の下に着けていたペンダント。
天使が赤く輝く宝石を抱いている、かわいらしいペンダントトップ。
そう。ギアにもらった………あのペンダントだった。
「過去ではない、ようだが」
「……」
思わず目を泳がせてしまう。
「……あいつ、さらってしまえば良かったものを」
嘆息したダンシング・シミターは、ペンダントから指を離すと、わたしの髪にふれた。
ピクン、と耳元に震えが走る。
「まだ、好きなのか」
「かか、簡単に忘れてしまえたら、楽なんだけどねっ」
頬にかあっと血が上る。
痛いところを突かれて、でも否定出来ない訳で、わたしは半分やけっぱち気味に叫んだ。
そんなわたしを見て、ダンシング・シミターは呆れたように笑い。
何の前触れもなく、ごつい腕を髪から肩に滑らせると、わたしをぐいと抱き寄せた。
「なっ……」
「健気だな。気に入った」
突然のことに、わたしの体は抵抗らしい抵抗もできないまま、逞しい腕の中にすっぽりと納まっていた。
焦ってダンシング・シミターの顔を振り仰ぐ。
白目のきれいな目が細められ、深く輝く瞳が、一瞬強い光を放つ。
かと思うと、逃げる間もなく唇が降ってきた。
「んんっ!」
強引に押し付けられる彼の唇が、わたしの唇を押し開き、熱い舌がぬるっと差し入れられる。
それはわたしの口の中を、貪るように激しく動き回った。
ささやかに抵抗しようとするも、抱き締められて身をほどくこともできない。
「………はっ」
唇が離れた途端、胸苦しさをほどくように息を吐く。
早い鼓動が、ドクドクと耳の奥で響いてる。
その鼓動に重ねるように、張りのある声が耳たぶに向かって囁いた。
「俺の女になれ」
その囁きはわたしの耳を甘くなぞり、耳孔にねっとりしたものが這い込んできた。
「ひぁっ」
ダンシング・シミターは、身を堅くするわたしを力強く抱きすくめ、耳から首筋を長い舌に舐め伝わせる。
背筋をぞくぞくするような快感が走り、思わず仰け反ってしまうわたし。
胸元に舌が這い降り、同時に大きな手がスカートの中に忍び込もうとする。
「や、やだぁ!やめてっ!!」
太い腕を精一杯叩き、必死に身をよじる。
じたばたさせた頭が、偶然ダンシング・シミターの顎にがん!と当たった。
「いててて………」
彼はわたしを片手でがっちりと拘束し、残る片手で自分の顎を撫でた。
きれいに整えられた顎鬚。
しきりにその脇を撫でつつ、にやにやと笑う。
「手ごたえがあるな。ますます気に入ったぜ」
ダンシング・シミターは、顎から手を離すと、両手でわたしをさらに強く抱いた。
わたしの目の前には、鮮やかで澄んだ瞳。
人を食ったような笑いから、一転して真面目な顔が問いかける。
「いつまでも、あいつの残像に囚われてるつもりか?」
「そんなつもりじゃ………」
口ごもってしまうわたし。
好きで……囚われてるわけじゃないもん。
気持ちのやり場に困って、思わず目を伏せるけれど、そこをぬっと覗き込まれた。
強い眼差しが、まっすぐにわたしを見つめる。
「悪いようにはせん。………お前にあいつを、忘れさせてやろう」
……それはわたしにとって、例えようのない甘言だった。
忘れられるなら、忘れたい。
そう思い続けながらも忘れられなくて、ずっと時を重ねてきた。
この引きずってきた甘苦い想いを解放してやるという、それはそれは誘惑される言葉。
一瞬揺らいだわたしの気持ちにつけ込むように、ダンシング・シミターは手を伸ばした。
太ももの上を生き物みたいに這い回る、大きな手。
「や…ぁんっ」
「……細いと思ったが……意外に」
ダンシング・シミターはそこで言葉を切った。
くっきりとした陰影を刻んだ口元が、ニヤリと笑う。
つと、ごつい指が素早く這い込んできた。
強く閉じていたつもりなのに、いつの間にか力の緩んだ、わたしの脚の間に。
「あ……っ」
下着の上から、その部分を撫でさする指。
びくっと震えた体は、その愛撫に徐々に強張りを抜かれていく。
彼の指が動くたび、濡れた下着の薄い布地が、わたしのそこにしっとりと纏いついた。
「……は……ぁ…んっ」
「随分と濡れたな」
ダンシング・シミターは独り言のようにつぶやくと、すっかり力の抜けたわたしの両脇に手を差し入れ、軽々と持ち上げた。
自分の胡坐の上に、わたしをゆっくりと下ろすと、膝を割って大きく脚を開かせる。
わたしは頬にまた血が上るのを感じたけれど、もう抵抗する力はない。
半分あきらめ、残りの半分は、この屈強な男に説明できない魅力を感じ始めていた。
厚い胸板にもたれかかって身を預ける。
こめかみに頬に唇に、ダンシング・シミターの端正な唇が降りかかった。
くすぐったくて熱くて、ついこぼれる、鼻にかかった吐息。
「んっ……」
その声に彼は目を細めて微笑み、アーマーの隙間から胸を揉んでいた手も、ゆっくりと脚の間へと滑らせる。
片手がわたしの下着をくい、と引っ張る。
広げた隙間から、残りの指が滑るように入り込んできた。
「あぁ!や……あぁんっ」
ぴちょっ、という音を連れて、液体がじわりと溢れ出す。
ダンシング・シミターの無骨な指は、その雫を逃さずなすりつけるように、秘部の襞をぬるぬると蠢いた。
「ん、あぁ……ぁん……っ、あっ」
わたしの喘ぎを確かめるように、慎重に続けられていた愛撫。
花弁をほぐすように、ひとしきり縁を撫で回していた指は、突如として乱暴に、前触れなく奥まで押し込まれた。
「ぁうっ」
「ふーむ、処女か。その割に感度がいいな」
感情を全く乱さず、淡々と話しながら指を動かすダンシング・シミター。
その指の腹が襞と襞を割り裂くように動き、一番敏感な芽を爪先で引っかく。
「あぁ、ん……や、やぁっ、んっ」
「イイだろ?ここが。ん?どうだ?」
「ん、ぅんっ…やっ」
手を止めることなく、彼はわたしの耳に甘く囁き続けた。
初めて感じる快感が、とろりとにじるように膣の奥を這い登り、熱っぽい疼きが止まらない。
容赦なく責め立てられたそこは、充血して熱く、途切れることなくとろとろと愛液を垂れ流している。
「そろそろ……イクかい?」
舌なめずりするように唇を舐めたダンシング・シミター。
膣の中に太い親指が、ずぶずぶと根っこまで押し込まれた。
「ん……くっ」
その指をぬちゃぬちゃと出し入れしながら、もう片手の指が、ぷくりと膨れたクリトリスを、小刻みに擦った。
「ひっ…あ、や…ぁうっ、だ、めえぇっ……!」
悲鳴のような喘ぎが、洞窟の狭い天井に反射する。
体中が昂ぶって、まっすぐ体を起こしてなんていられない。
わたしは、後頭部を逞しい胸にぐいぐいと押し当ててのけぞった。
ダンシング・シミターは、グラグラするわたしの上体をしっかりと支えると、指先を磨り潰さんばかりに激しく動かした。
「かまわん、イってしまえ」
「や、や……やああぁぁんっ!!」
脚の間から脳天を突き抜けるような快感に、天井を仰いでぎゅっと瞳を閉じる。
パシン!!と弾けるように、瞼の裏が白っぽくスパークした。
視界で散らばっていった銀の欠片が落ち着くまで、どのくらいの時間がかかったんだろう。
弾む息を飲み込みながら目を開けると、すぐ間近に、わたしの顔を覗き込むダンシング・シミターの顔があった。
「大丈夫か?」
「う……ん」
「余程良かったようだな。一瞬気を失ってたぞ」
彼は満足そうな笑顔を浮かべると、完全に脱力しきったわたしの脚を持ち上げた。
されるがままのわたしの、ぐっしょりと濡れた下着を、引き剥がすように脱がせる。
ぼと、っと重く湿った音をたてて床に落ちる、丸まった白い下着。
わたしはそれを他人事のように眺めながら、乱れた呼吸を切れ切れに吐き出していた。
筋肉の盛り上がった腕が、またわたしをひょいと抱き上げた。
そのまま体をくるりと回され、向かい合うように膝の上に座らされる。
ダンシング・シミターは、わたしの顔をねめつけるような視線で見つめながら、ゆったりしたズボンの前を探り、自分のものを掴み出した。
「見てみろ」
言われるがまま、自分の開かされた脚の間に目を落とす。
そこには、きつく欲望を漲らせた、血管の浮き出したものがあった。
初めて見るそれは赤黒く長く、反り返るような角度でそそり立っている。
ダンシング・シミターは、わたしの額に唇を寄せながら、低く艶っぽい声で言った。
「お前が欲しいと。お前の中に入りたいと泣いている」
「そ……うなの?」
「ほら、涙だ」
先端の部分についた液体を指に擦り付け、わたしの口の前に差し出した。
おそるおそる舐めると、ほのかに苦い味がした。
彼は、眉根を寄せるわたしの髪を両手でかき上げて、少し笑った。
その手は肩から腰にそって降りてくると、両脇からお尻を抱え上げ、わたしの体をまっすぐ持ち上げた。
わたしの秘部を確かめているのか、自分の腰をまわすように動かし、襞と襞の割れ目に男根をあてがう。
思わず腰が引けそうになるけれど、がっちりと掴まれて身動きすることもかなわない。
「もう、逃がさないぜ。深呼吸しろ。痛いぞ」
半月形の口の片方をくいと上げた、ダンシング・シミター。
わたしはその強い眼差しに負け、おとなしくその言葉に従い、大きく息を吸う。
胸に溜めた息を吐き出すのに合わせ、彼のものはゆっくりとわたしの中へ埋め込まれていった。
合わさる物同士を無理矢理割り裂くような、めりめりっという衝撃が体の中心を襲う。
「っく、い…たいっ、い…痛ぁ……っ」
「わかった。ゆっ…くり、呼吸しろ」
体の深部をえぐるような痛みに、我知らず、助けを求めるように手が泳いだ。
無意識の指先が触れたのは、目の前の逞しい上半身。
堅くて厚みのある肩に、倒れこむようにしがみつく。
ダンシング・シミターは首を傾け、わたしの汗ばんだ耳にキスした。
「ぁん」
耳元から首筋を執拗に舐める舌が、痛みをとろりと溶かしていく。
引き締まった腰が密やかに揺らされ、男根はわたしの内部をごく緩慢な動きで擦った。
苦痛の上に、シフォンのようにふわっと被さる快感。
「っは…ぁ…ん……ぅん……」
「お前のここには、俺のものしか……入ってないぞ」
抑えきれない情熱を吐き出すように、ダンシング・シミターは低く囁いた。
「後は忘れろ。これだけ」
彼はそこで言葉を切ると、腰を思い切り突き上げた。
「ああぁっ!!」
どく、っと重く体内を貫く、張り詰めた堅いもの。
わたしの蕩かされた肉襞をぬめっと押し開く。
躍動的に、力強く腰を動かすダンシング・シミター。
力を込めた腹筋はくっきりと割れ、弁髪の長い毛先がリズミカルに揺れる。
「あぅ、んっ、ん……あ…ぁああっ」
「俺に、抱かれた、ことだけ……覚えて、おけっ」
彼は、腰を突き込む度に乱れる、荒い呼吸の合間に言葉をつないだ。
濡れた襞はひくつき、彼自身をすっぽりと咥え込んでいる。
火照った膣の奥底をずく、ずくん、と突き上げられ、体中の血がそこに集まっていくみたい。
わたしはダンシング・シミターの太く頑健な首にすがりつき、魂を吐き出すように声をあげた。
剃りあげた頭のすべすべした感触を感じながら、わたしの意識は遠のいていった。
どうしてこんなことになったのかなあ……
しみじみと、なんとも不思議な感慨に浸る。
あの後気がついたら、ダンシング・シミターの膝枕で寝かされていたわたし。
目が覚めた途端、思わず焦って飛び起きた。
だって、あのぎょろ目がじぃっとこっちを見据えてるんだもん。そりゃびっくりしますって。
飛び退るように彼から離れ、俯いて乱れた服を直す。
傍らで胡坐をかいて腕組みしていたダンシング・シミターはゆっくりと立ち上がると、腕と背筋を伸ばして伸びをしながら言った。
「俺は浮気はせんぞ。お買い得だ」
「はぁ?」
何言ってるの、この人。
ぽかんとしているわたしに、ニヤリと不遜に笑うダンシング・シミター。
「しかも、剣の腕には自信がある。少なくとも、今のギアには……負けんつもりだがな」
「……って、あの」
「なにか問題でも?」
顎をくいとしゃくり、横柄に聞き返される。
そんなこと言われても、どうしろと。
真剣に考え込んでしまうじゃありませんか。
「ま、後足りないのは髪くらいか」
つるりとスキンヘッドをなで上げて、難しそうな顔がつぶやく。
思わず、ぷーっと吹き出してしまうわたし。
顔だけ振り返ったダンシング・シミターは、不機嫌そうに文句を言った。
「あのな、一応言っとくが。俺のこの頭は別に禿げてるわけじゃない! 剃ってるんだ!!」
「あ、そうなの。剃ってるのね、くくくっ」
「…笑うな」
そんなの無理です。駄目だぁ、どうにも笑いがとまんない。
この人の笑い上戸じゃあるまいし、ヒーヒー言いながらお腹を抱えるわたしに、彼は額に青筋をたてて怒鳴る。
「だから笑うなと言ってるだろう!!」
ダンシング・シミターは、真っ赤な顔してあっちを向いてしまった。
いかんいかん、笑いすぎかしら。
笑い涙を拭いていると、ふい、とスキンヘッドが振り向いた。
もういつものシニカルな表情に戻っている。
この人って、けっこう表情豊かなのね。笑ったり怒ったり、最初の印象とはえらい違いだ。
「お迎えが来たぞ」
「え!?」
本当だ。
遠くの方から、わたしの名を呼ぶ声が微かに聞こえる。
それはダンジョンの壁を伝わるように響き、だんだんと近付いてくるようで、わたしは嬉しくて色めきたった。
「よ、よかったぁ……」
「もうひとりでも大丈夫だろう。俺は行く」
「え?」
背負い服を担ぎなおし、地面に置いていた曲刀を、背中の鞘にかちんと納めたダンシング・シミター。
馬の尻尾みたいな髪をたらした後頭部に、慌てて問いかける。
「ダンシング・シミター、あなたのパーティは?待ってたんじゃないの?」
「俺のパーティの連中は来んさ。あいつらとは、はぐれた時点で別行動にする、とダンジョンに入る前に決めてあったからな」
「じゃあ………どうして?」
一瞬の間の後、ダンシング・シミターは体をこちらに向けた。
身を屈め、長い指でわたしの顎を摘んで、軽く持ち上げる。
浅黒い顔の中でひときわ綺麗な、澄んだ白目。
鋭利な刃物みたいな凛然とした眼差しが、わたしを真正面から見据えた。
「気に入った女には、ボランティアくらいするさ」
「それって、あの…っ」
わたしの言葉をみなまで聞かず、くるりと向けられた広い背中。
「またいつかどこかで逢うだろう。必ずな」
笑みを含ませたような、よく通るはっきりとした声。
そして彼は、長身を翻して通路の向こう側へと消えた。
わたしは、その残像を見つめて立ち尽くし、たった今立ち去った男に思いを馳せた。
風のようにやってきて、駆け抜けていった男。
また、巡り逢うことがあるんだろうか。
間遠に聞こえていたクレイたちの声が、すぐ近くまで聞こえてくる。
わたしはなにかを振り切るように、思い切り大きな声で皆の名を呼んだ。