「お、喧嘩でもしたのかあ?別れ話かなーっと」  
「……そうかもねぇ……だったらどうする?」  
 
軽口に神経を逆なでされ、ぎろりと睨みつける。  
おそらくは、いつになく鬼気迫る表情で。  
 
その言葉に、トラップの顔色が曇った。  
何だかいつになく心配そうな表情。あの人でもあんな表情ができるのね、と妙なことに感心していると、不意に二の腕に痛みが走った。  
「何?」  
「こっちこい。いいから」  
痛い、と思ったのは、トラップにがっちり腕をつかまれていたから。  
何だ何だ、と目を白黒させている間に部屋を連れ出される。そんなわたし達に手を振っているキットンを横目で見やりながら、わたしは、隣の空き部屋へと連れ込まれた。  
「痛いじゃない!」  
「あにがあった?」  
抗議の声をあげるわたしに、トラップの顔はあくまでも真剣。  
「何があったんだよ。何ヤケになってんだ?」  
「……は、何って」  
「話してみろよ」  
真面目な口調に、何だか酔いがすーっと冷めて行った。  
もごもごと口の中で今日の出来事をつぶやく。話しているうちに、カッかしていた頭が冷えて。言い終えたとき胸に宿ったのは、「まあクレイだもんね」という諦めの気持ち。  
そうだよね、クレイだもん。どうせ彼のことだから、酔った女の子でも見つけて、放っておけずに快方でもしてたんだろう。  
そうだとしても、腹立たしいのは変わらないけど……キットンやトラップに八つ当たりするようなことじゃ、なかったよね。  
「と、というわけなの。ごめんね、何だか話してるうちにすっきりしてきちゃった」  
「……や」  
「えーっと何考えてたんだろうね、わたしってば。クレイが誰にでも優しいのなんて、わかりきってるのにね? ごめんね、カッとしちゃって」  
「い、いや、おめえは悪くねえだろ。うん。悪いのはクレイだ。間違いねえ」  
わたしの言葉に、トラップは慌てて言った。  
妙に必死な様子に眉を潜めていると、不意に肩をつかまれた。  
 
「トラップ?」  
「そういうのを放っておくのはよくねえって。うん。大体クレイの奴はな、嫉妬ってのがどういう気持ちなのかを全然わかっちゃいねえんだ」  
「は、はあ」  
「何しろ、あいつはそういう感情に無縁な奴だったからな。だあら、おめえが辛い思いしてるなんてこれっぽっちもわかっちゃいねえ。彼女として、それは放っておいちゃいけねえだろう」  
「はあ」  
トラップの言葉に、わたしは生返事。  
いや、言いたいことはわからないでもないけど……だから、どうだっていうんだろう?  
わたしはそういうクレイを好きになり、彼の恋人になったんだからして。今更、そんな……  
「トラップ?」  
「だあら、おめえが教えてやれっつってんだ」  
「へ?」  
「恋人の浮気疑惑っつーのがどんなに辛いもんかを教えてやれ。うん。今後のためにも、絶対その方がいい」  
「教える、って。どうやって……」  
わたしがそう言い終えるより先に。  
使われていない部屋特有の、埃っぽい空気の中に、独特の甘い匂いが漂った。  
いや、それはもちろんわたしの錯覚か何かだったんだろうけれど。実際そんな風に思ったんだから仕方ない。  
闇の中に光る、二つの色素の薄い瞳と。  
そして……  
「……んむっ……」  
「だあら、俺が協力してやるって」  
己の唇と、わたしの唇を銀色の細い糸で繋いで。  
トラップは、妙に甘い口調で囁いた。  
「大切な親友と、仲間のおめえのためだかんな。俺が協力してやるよ。浮気される辛さをクレイに教えてやれ……それにはおめえが浮気して見せ付けてやるのが一番だ。そうは思わねえか?」  
そう囁いて。  
闇の中で、トラップの手が、わたしの身体の上を這って行った。  
 
 
頭がぼうっとするのは、酔っ払っているから、だろうか。  
気持ちいい、と感じているのも、それも、酔っているせい?  
「んああああああっ!」  
思わず声を上げたわたしを見て、トラップは、びっくりしたみたいだった。  
いや、うん、今の声は大きかった。下手したらキットンのところまで聞こえたんじゃないだろうか?  
でも、でも我慢できなかったんだもん! トラップって……  
「いやあっ……そこ、だめぇっ!」  
細い指が、服越しに身体のラインをなぞって、そのまま、スカートの中へと滑り込んでいった。  
薄い布越しにぐりぐりと指を差し入れられる。クレイの指とは随分違う、細くてしなやかに動く、トラップの指……  
「やっ……」  
「……感じてんのか?」  
対照的に、トラップの目はまん丸に見開かれていた。  
どうせ彼のことだから、半分くらいは冗談のつもりだったんだろう。  
彼の予想では、「もう、何するの! ふざけるのはやめてよね!」とか言いながら突き飛ばされることにでもなってたんじゃないだろうか?  
けど……普段のわたしなら、絶対にそうしていただろうけれど。残念なことに、今のわたしは「普段のわたし」じゃなかった。  
多少落ち着いていたとは言え、クレイに対する怒りはまだまだ残っていたし。諦めちゃ駄目、許しちゃ駄目っていうトラップの言葉も、妙な説得力を持っていた。  
何よりも……トラップは、上手だった。  
クレイと違って、本当にうまかった。慣れてるんだろうか?  
「や、トラップぅ……」  
「おめえ……おい、ちっと触れただけでこんだけ濡れるか? 嘘だろ……?」  
ぐちゅり、ぐちゅり。  
濡れた下着がきりり、と内部に食い込んで、その刺激が、余計に快感を煽った。  
身悶えしていると、トラップの腕にがっちりと捕らわれた。潤んだ視界の中で見上げれば、驚くほど近くに、薄茶色の瞳が迫ってきていた。  
もう一度、キス。さっきは不意打ちだったから、何の反応も返せなかったけれど、今度は、ごくごく自然に、彼を求めることができた。  
自分から舌を絡ませてきたわたしにトラップはもう一つ驚いたようだけれど。それでも、すぐに応えてくれたあたり、やっぱり慣れてるんだと感心した。  
悪いけど、クレイは……わたしが初めての相手だったから、かな? 「気持ちいい」って思えたことは、ほとんどなかったんだよね。  
わたしだって、教えられるほど経験豊富なわけじゃないしさあ……  
「んっ……ふぅっ……」  
「おい……いいのか?」  
べっとりと、やたらに濃厚なキスを交わした後、トラップは、少しばかり焦った口調で言った。  
「おい。俺、ここまで来たら冗談で済ませてやる自信、ねえぞ」  
「……誰が、冗談なんて言ったのよお……?」  
 
じいっ、とその顔をにらみつける。暗がりの中のトラップの顔は、思った以上に真剣だった。  
でも、それはわたしだって同じ。わたしだって、真剣。  
今、わたしとトラップがこうして抱き合っている間も、きっとクレイは、あの女の子と仲良くやってるに違いない。  
何しろ彼は優しすぎるくらいに優しい人で、すがられたら突き放すことができない人だもん。  
女の子が「今夜は帰りたくない」とか「傍に居て」とか言ったら、絶対絶対振り切れない。わたしが好きになったクレイは、そういう人だから。  
だから……腹が立つんじゃない!  
「浮気される辛さを教えてやれって、そう言ったのは、トラップじゃないのよお!」  
「い、いや、言ったけどよ」  
「それとも、なにぃ? やっぱり、教えられる自信、無い? それとも、わたしが相手じゃ、不満?」  
「い、いやいや、それはねえ。それはねえぞ? うん。相手に不足はねえっつーか、何つーか」  
「じゃあ、いいじゃないのよお!」  
 そんなわたしの顔をまじまじ見つめて、トラップは、ため息を一つついた。  
「酔ってるな、おめえ」  
「誰が酔ってるのよお!」  
「いやおかしいと思ったんだ。クレイにぞっこんべた惚れのおめえがよお、まさか……いや、でもま、いっか」  
一体トラップの心中でいかような葛藤があったのかはわからない。  
けれど、どうやら何がしかの踏ん切りをつけることには、成功したらしい。  
「……そうだよな。クレイの奴だって、どうせ今頃よろしくやってるに決まってんだ。おめえだって、楽しまなきゃ不公平ってもんだよな?」  
「うん……そうだよ、ねえ?」  
「気持ちいいのか?」  
「うんっ」  
その言葉には素直に頷くことができた。  
「トラップは、上手だから。すっごく、気持ちいい。」  
「……そりゃ、どーも。お褒めに預かり光栄」  
耳に届くは皮肉っぽい笑い声。  
瞬間、熱くうずく内部に、再び指が差し入れられた。さっきとは違って、二本同時に。  
「やっ! んああっ……」  
「すっげ……やわらけぇ……」  
とろとろと、太ももを熱い雫が伝っていった。  
息苦しさを感じて大きく深呼吸すると、そのまま、強く抱きすくめられた。  
とくん、とくんと響くトラップの鼓動。その音に耳を傾けていると、何だか、妙に心が落ち着いた。  
クレイと居るときとは違う。トラップのそれは……何と言えばいいんだろう? クレイと感じる安らぎが「守られている」安らぎだとすれば……  
トラップとの安らぎは、「お互いに寄りかかっている」……そんな風に、感じた。  
いや、でもまさかね。わたしがトラップに……って言うのはともかく、あのトラップがわたしに、なんて。まさか。  
 
「んんっ……」  
くちゅ、くちゅという小さな音が、いやに耳について離れなかった。  
片手で内部をまさぐりながら、もう片方の手で、優しく身体を撫でられた。妙な安心感を感じて目を閉じると、耳元で、「いいか?」と囁かれた。  
いいよ。もちろん、いい。むしろ、早く来て欲しいって、そう思ってたくらい。  
頭がぼーっとするほどの快感の中で、わたしがこくこくと頷いてみせると。トラップは、小さく頷いて、指を、引き抜いた。  
たちまちのうちに物足りなさを感じた。もう後ちょっとなのに……という中途半端な昂りを感じていると、「ちぃーっ」という微かな音が、闇の中に響き渡った。  
「あ」  
つん、と、最初に遠慮がちにあてがわれたのは、固いような柔らかいような、熱いような冷たいような、不思議な何か。  
「ああ」  
ずんっ! と、下着をかきわけるようにして、一気に内部にねじ入れられた。  
それは痛くも何ともなかった。最初に十分にほぐしてくれていたから。大事に扱ってくれていたから……その反動で、なのか。その律動は暴力的なまでに荒々しくて、身体が宙に浮くほどの衝撃を感じた。  
「やっ! あっ! とらっ……」  
「うっせっ……」  
息が、できない。  
がくん、がくんと揺さぶられる。壁に頭を打ちそうになって、必死に身を丸めていると、そのまま、両腕で抱きこまれた。  
わたしの身体なんかすっぽりと収まってしまう、広い、胸。  
「うあっ!」  
ざらっ! とした肌触りを太ももの裏側に感じた。それが、トラップの吐いていたズボンの生地触りだ、ということに気付くのに、妙に時間がかかった。  
二人とも何も言わなかった。ただ行為に没頭していた。髪を振り乱して、トラップの首にかじりついた。太ももを伝って床に滴り落ちていく雫が一体何なのか、それも、よくわからない。  
「いやあっ!」  
ばんっ! と、一際大きな音が響き渡って。  
それと同時、トラップの動きが、止まった。  
「トラップ……?」  
「……おめえ、結構、慣れてんな?」  
額に前髪を張り付かせながら、トラップは、荒い息の下で言った。  
「いつも、クレイにこんな風に可愛がってもらってたのか?」  
「…………」  
無言で首を振った。否定すべきなのか肯定すべきなのか、とっさにはわからなかった。  
「トラップとの方が、気持ちよかった。クレイに抱かれてるときは、それで十分幸せだって思ってたのに」  
「へえ……」  
「でも……何だろう。トラップ、わたし……」  
どろり、と、さっきよりもずっと粘性の高い「何か」が、内部から溢れて太ももを伝い落ちた。  
浮気、した。トラップと浮気した。クレイと付き合ってるのに? クレイのことが好きなのに? トラップのことを「そういう対象」として見たことなんか、一度もないくせに……?  
ぐるぐると、頭の中を色んな言葉が駆け巡った。  
さあ、どうしよう? と、ぼんやりと考えていた、そのとき……  
 
どどどどどどどどっ……  
 
けたたましい足音が、廊下中に響き渡った。  
 
「え?」  
「…………」  
何の音だろう、と、わたしはぽかんとした。  
トラップは、無言でドアをにらみつけた。  
ばん、ばんっ! というあちこちのドアが開く音。そして……  
「パ、パステルっ、ごめん、あの俺っ」  
場の空気、というか、雰囲気、というか。そんなものが、一気に壊れた。  
ドアを開けたその格好で硬直するクレイと、トラップにすがりつくような格好で呆然としているわたし。何を考えているのかわからない無表情でクレイを見つめるトラップ。  
何だか、絶対出会っちゃいけない三人が、出くわしてしまった。そんなことを、わたしは、妙に冷静に考えていた。  
 
「ぱ、パステル!? トラップ! これはっ……」  
「く、くれいっ……」  
さあああああっ、と。冷静になると同時、血の気が顔から引いていった。  
浮気の辛さを教えてやるんだ! って、怒り狂っていた威勢のいいわたしは、どこにもいない。  
どうしよう、どうしよう?  
頭の中をぐちゃぐちゃになってしまって、何の考えも浮かばなかった。  
冷静に、冷静によーく考えてみれば。クレイは確かに優しい人ではあるけれど、それと同時に、潔癖な人でもあった。  
わたしという彼女がありながら、他の女性に手を出すなんて、絶対にできない人だった。  
例えばわたしより好きな女性ができたとしたら、そのときは誠意を持ってわたしに謝罪して、その人と正式なお付き合いを始める。そういう人、だった。  
クレイに限って、「浮気」なんて、できるわけなかったのにっ……少なくとも、こういう意味での浮気は!  
「あ、あっ……ええとっ……」  
せめて、抱き合ってる、くらいだったのなら、まだごまかしも効いた。それこそ「浮気されてるかも、って思っちゃう辛さがわかった!?」なんて、開き直ることもできたかもしれない。  
でも、もう無理だ。トラップに抱かれて最後までイってしまった。クレイよりも気持ちよかったとさえ言ってしまった。半分脱げかけた服も、太ももをどろどろに汚した雫も、何もかもが、事態を最悪の方向へと導いて……  
「うあ……」  
「クレイ」  
そのとき。  
さっ、と立ち上がったのは、トラップだった。  
何かの決意を秘めた顔。厳しい表情。わたしが流した雫で汚れた指を舐め上げて。彼は、いやに凶悪な……荒んだ笑みを、浮かべた。  
「おめえ、帰って来るのが遅すぎたぜ?」  
「……え……」  
「パステルに、何をした?」  
その言葉にクレイが浮かべたのは、痛みを堪えるような表情だった。  
「俺は……その……」  
「泣いてたんだぜ、パステルが。仮にも恋人っつー関係の女を放り出して、他の女と遊んでた? 俺はおめえを見損なったぞ」  
「遊んでっ……ち、違う! 彼女は親衛隊の子でっ……その、酔っ払ってて、だからっ……」  
「関係あるかよ。ようするにおめえはパステルのことをほったらかしにして、他の女の相手してたんだろうが? それが浮気じゃなくて何なんだよ。ああ?」  
「…………」  
「だから」  
 
口で、クレイがトラップに敵うわけがない。  
いや、クレイだけじゃなく。誰だって、敵う人なんかいやしない。  
トラップの言葉には、それだけの説得力がある。  
例え、それが嘘八百でも。  
「だから、パステルがあんな顔で泣いてたんだろ。誘ってるとしか思えねえ顔で」  
「!?」  
「……え?」  
はっ、と弾かれたように顔をあげるクレイと、ぽかん、とするわたし。  
きっと、誰もわからなかった。トラップが何を言おうとしているのか。彼が、何を言いたいのか。  
「おめえな、あんな顔で泣かれて、すがりつかれて、我慢なんてできるわけねえだろうが。おめえらのあんあんやってる声、散々聞かされて来たしな。こっちだっていい加減我慢の限界だっつーの」  
「なっ……トラップ、お前っ……」  
「知ってるかあ? 一番落としやすい女がどういう女か。失恋した直後の女を狙うんだよ。男なら誰でもいいって気になってっからな。でもまー、さすがパステルだぜ。てこずらされた」  
ひらひらと悪びれる様子もなく手を振って、トラップは、腰を上げた。  
わざとらしい伸びをしながら、挑戦的な目で、クレイをにらみつけた。  
「おめえに悪い、裏切りたくない、やめてくれって泣いてる女を犯すのもたまにはいいもんだな。何しろ、こっちは狙った女を次から次へとおめえに掻っ攫われてきたからな。たまには、一矢報いてみたくなって何が悪い?」  
「トラップ……」  
「貧弱な外見の割りに、いい身体してたぜ、パステルは。おめえが開発してやった結果か?」  
その瞬間、クレイの拳が振り上げられて。そのまま、トラップの頬に叩きつけられた。  
トラップなら、それを避けるのは簡単なことだったはずなのに。彼は、あえて避けようとはしなかった。  
あくまでも、不敵な表情は崩さないまま。にやり、と笑ってみせた。  
「勘違いすんなよ? 俺だって、パステルがあんな顔で泣いてなきゃ、手を出そうなんて思わなかった。幸せいっぱいに笑ってたら、つけこもうなんて思わなかった。パステルを泣かせたのはおめえだ、クレイ」  
「っ…………」  
「じゃあな。これに懲りたら、もっとパステルを大切にしてやれ」  
ぺっ、と血の混じった唾液を吐き捨てて……トラップは、部屋を出て行った。  
最後まで、わたしの顔を見ようとはしなかった。  
「トラップ……」  
「パステル……ごめんっ!」  
呆然とその後姿を見送っていると、不意に、抱きすくめられた。  
今にも泣きそうな顔で、クレイが、わたしを見つめていた。  
「ごめん……ごめん、パステル。本当に、ごめんっ……」  
「クレイ?」  
「ごめん。俺が……俺のせいで……何て言って謝ればいいのかわからない。殴って気が済むのなら、いくらでも殴ってくれ……」  
「…………」  
「誓って言うよ! 彼女とは何もしてない。何もなかったからっ……ただ、酔っ払ってたみたいで、放っておけなくて。でも、それでもパステルを放っておくべきじゃなかった。本当に、ごめんっ……」  
ぎゅうっ、とわたしを抱きしめて、クレイは、泣いた。  
一度として、わたしを責めようとはしなかった。  
 
トラップ……  
ねえ、トラップ。どうしてそこまで。自分が悪者になってまで。ねえ、どうして?  
クレイはわたしを許してくれた。それだけじゃなくて、もう二度と他の女の子に目を向けたりしないって、一生わたしだけ大事にするって、誓ってくれた。  
わたしにとっては、最高の結末を迎えた。  
でも、あなたは?  
ねえ、トラップ。  
あなた、これでよかったの? 二十年近い友情を捨ててまで、わたしを守ってくれた。本当に……これでよかったの?  
あなたにとってのわたしって、一体、何だったの? あのとき……あなたは、何で、あんなことを?  
その答えを、わたしは知らない。多分、一生知ることはないだろう、と、妙に確信できた。  
 
××××  
 

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