見たくないものを見た。  
いっそ夢か幻なら、良かったんだけど。  
でもそれは、わたしの前から、断固消えることを拒否していて。  
 
猪鹿亭の、厨房裏の細い通路。  
薄暗いそこには、背の高い男の人の後姿が見える。  
艶のある長めの黒髪、広い背中―――あれはわたしの恋人、クレイ。  
 
ねえ、クレイ。  
あなたの首に回されてる、細い手はなあに?  
ねえ、クレイ。聞いていいかな。  
あなたの体の隙間から見え隠れしてる、その女の子………だあれ?  
 
 
 
「あ、パステルにクレイじゃない。いらっしゃーい!」  
 
ドアを開けた瞬間に、いつもの大きな声が飛んできた。  
出迎えてくれたのは、猪鹿亭の看板娘、リタ。  
大きなドアにつけられたドアベルが、陽気な声に負けじと、賑やかに鳴り響く。  
 
「忙しいとこごめんねー」  
「なあに言ってんの、あんたたちなら大歓迎よ!で、何にする?」  
 
ばあん!と背中を叩かれてよろける。い、痛いよリタ。  
窓際のテーブルを選び、腰を降ろしつつ答える。  
 
「ええと、何にしよっかな……クレイは?」  
 
クレイはわたしの向かいの椅子を引きながら、壁に掛けられた黒板に目をやった。  
今日のおすすめメニューは、定食が3種類。  
 
「えーと、俺はB定。後、ビール飲もうかな」  
「じゃあわたしもBにする。リタ、お願いね」  
「あいよ、ちょっと待っててねっ」  
 
赤いチェックのエプロンをつけたリタは、どん!と水の入ったグラスを置くと、忙しそうに厨房へ引っ込んだ。  
その後姿を見送って、周囲を見回す。  
たくさんのお客さんが陽気に談笑し、お酒や食事を楽しんでいる猪鹿亭。  
 
今日は珍しく、クレイと2人きりなんだよね。  
いつもなら、ひと山いくら状態の団体行動なんだけど……  
たまにはデートもしたいよねってことで、2人で食事に出てきたんだ。  
デートと言いつつ行き先は、毎度おなじみ猪鹿亭ってところが、目新しい場所のないシルバーリーブらしいけど。はは。  
 
机に両肘を突いて、目の前のクレイを見上げる。  
長めの黒髪はランプの灯りを反射して輝き、澄んだ鳶色の瞳に、わたしの姿が映っている。  
やさしくて凛々しい、わたしだけの騎士様。  
あー、なんでこの人、こんなにかっこいいんだろう?  
眺めてるだけで、ひたひたと幸せな気分になっちゃうなあ。  
 
「どうかした?」  
「ううん……なんか幸せだなあって思って」  
 
えへへへっと笑った途端、背後からあきれたような声がした。  
 
「お熱いわねえ、おふたりさん。はい、ご注文の品だよ!」  
 
いっぺんに何枚ものお皿を持ったリタの腕が、わたしとクレイの前をずいっと割った。  
慌てて肘をどけると、次々と定食のお皿が並べられていく。  
最後にクレイの前に、どかっと置かれた大きなジョッキ。  
 
「うふふ、ごゆっくり」  
「あ、ありがとう、リタ」  
 
からかうような口調のリタに、照れたように頭をかいているクレイ。  
彼女はひらひらと手を振りつつ身を翻すと、他のテーブルへ廻って行ってしまった。  
わたしたちは目まぜしてくすくす笑いながら、フォークを手にとった。  
半分方食事が済んだところで、ふとクレイの袖に目がいく。  
 
「あれ?ここ、汚れてるよ」  
「ほんとだ。ソースかな?ちょっと洗ってくるよ」  
 
腕を返して袖を確認したクレイは、席を立つとにこっと微笑んだ。  
 
「先に食べてて」  
 
ちゃんと言い置いていくところが、気遣い抜群の彼らしい。  
わたしは、店の奥にあるトイレの方へ歩いていく、すらりとした後姿を眺めながら、フォークをくるくる回した。  
……しかし、待てど暮らせど、いつまでたってもクレイは戻ってこなかった。  
何してるのかなあ?そんなにひどい汚れには見えなかったけど。  
 
わたしはしばらく逡巡した後に、カタンと椅子を押しやり、立ち上がった。  
猪鹿亭のトイレは、厨房の裏の細い通路の奥にあり、ここからは見えない。  
ホールを抜け、親父さんの忙しく立ち働く厨房を横目に、角を曲がって細い通路に入る。  
ううん、正しくは入ろうとして、立ち止まった。  
なぜなら、その通路の突き当たりにクレイが立っていたから。  
あ、なーんだこんなところにいたのね。  
そう声をかけようとして、全身が硬直する。………え?  
 
彼の襟足のあたりに、細くて白い手が見えた。  
クレイの太い首に回された手。  
濃い目のローズに染められた、長い爪がちらちらと視界に入る。  
すーっと血の気がひいていくのがわかった。  
それなのに、わたしは目を閉じることも背けることもできず、射るような眼差しで、仔細に彼の後姿を観察していた。  
………  
声は聞こえない。  
猪鹿亭の喧騒の中、ここだけが音のない空間になったみたい。  
クレイはこちらに背を向けて立っているから、表情も見えない。  
でも、黒髪をさばくように、少し首を振った時に目に入ったのは、頬にぺったりついたピンクの口紅。  
深い紺色のジーンズの向こうには、ひらひら揺れる花柄のスカートのレース。  
クレイの両手が、花柄スカートのウエストに添えられているように見えるのは……気のせいだろうか。  
 
「ねーえ、クレイってばぁ」  
 
甘ったるく、不愉快に媚を売る声が、耳に突き刺さる。  
その声で、わたしははっと我に返った。  
細心の注意を払い、足音を立てないようにその場を離れる。  
ぎこちない足取りでテーブルまで戻り、椅子にかけようとしたところで、混乱する頭の中は、臨界点に達した。  
――あの子、誰?誰よ?  
わたし、自分をクレイの彼女だと思ってたけど、実は違ってたってこと?  
裏切られた怒りと戸惑い、悲しみ、いろんなものがごっちゃになって、頭がグツグツ煮えてしまいそうだった。  
通路にとって返して、クレイを締め上げたい衝動にかられたけれど、なんだかもうそれすら馬鹿馬鹿しくなる。  
 
両膝の上で拳を握ったまま、平静を失った視線を彷徨わせる。  
と、机の上に残された、まだ半分以上残っているビールジョッキが目に入った。  
えーい、もう知らないっ!!  
泡が消え、周囲にたっぷり汗をかいたそれをぐいと掴むと、わたしは何も考えず、一気に呷って飲み干した。  
ぬるくなりかけたビールはわたしの喉を焼きながら通り過ぎ、頭にはさらにかあっと血が上る。  
さっきよりさらに輪をかけた、雲を踏むような千鳥足でテーブルを離れると、大きなお盆にあいたジョッキを山と積んだリタを捕まえる。  
 
「リタぁ。これお勘定」  
 
エプロンのポケットに、丸めてくしゃくしゃになったお札を突っ込む。  
怪訝そうに、「え?」という顔をしたリタ。  
 
「パステル?どうしたのよ、あんた飲んでんの?!」  
「…悪い?」  
「わ、悪かないけどさぁ……あれ、それにクレイはどうしたのよ」  
「……知らないもん。後よろしく」  
「ちょっと、ちょっとパステルってば!!」  
 
お盆を持って手の離せないリタを残し、わたしは体当たりするようにドアを開けた。  
追いかけてくる声を振り切って、ひんやりした夜の空気の中へよろけ出る。  
空に浮かぶ月が明るい光を放ち、わたしの姿を煌々と照らしている。  
自分の月影を踏みながら、ふらふらと夜道を歩く。  
どこをどう歩いたかも覚えていないまま、気がつくとわたしはみすず旅館に戻ってきていた。  
 
「あの……パステル。どうかしたんですか?」  
 
キットンは、わたしの腕の中ですやすや眠る、ルーミィ及びシロちゃんとわたしを見比べ、困惑したように言った。  
 
「今夜はクレイと話したいことがあるの。一晩、お願い」  
「そりゃいいですけどね……パステル、あなた目が据わってますよ。お酒飲んでるんでしょう?」  
「そーよっ。何か問題でもぉ?」  
「いえ、その………」  
 
帰ってくる間に酔いがまわったのか、すっかりからみ口調になっているわたし。  
隣のベッドから、トラップがにやにや笑いながら口を挟んだ。  
 
「お、喧嘩でもしたのかあ?別れ話かなーっと」  
「……そうかもねぇ……だったらどうする?」  
 
軽口に神経を逆なでされ、ぎろりと睨みつける。  
おそらくは、いつになく鬼気迫る表情で。  
目を逸らしつつ、半笑いでごまかしながら押し黙ったトラップを尻目に、わたしは静かにドアを閉めた。  
 
 
 
ばったあああーーーん!!  
 
ドアを蝶番ごと突き倒しそうな勢いで蹴り開け、女部屋に駆け込んできたのはクレイ。  
猪鹿亭から走ってきたのか、汗びっしょりで息を切らしている。  
 
「パ、パステルっ、ごめん、あの俺っ」  
「……謝ってるってことは、わかってるんだよね」  
「……ごめん。あの子は親衛隊の子らしいんだ。  
 べろべろに酔っぱらって抱きついてくるからさ、ほっとくわけにもいかなくて…」  
 
申し訳なさそうな顔に上ずった声で、必死に言い訳をするクレイ。  
……ふーん。ほっとけない、ですかあ。  
それにしては、ねえ?  
 
「なんか頬っぺたにキスされてたよねえ」  
「あ、あれは無理矢理っ」  
「女の子の腰、大事そうに抱えてたしねえ」  
「だだ大事そうって、そんなんじゃないよ!あの子が床に崩れ落ちそうになるから、仕方なく……」  
「仕方なく……ね」  
 
ちらーりと冷たい流し目を送る。  
クレイの顔には、罪悪感と言う言葉が、くっきりと太字で書かれている。  
大きな手が、黙っているわたしの両肩を掴んで、がしがしと揺さぶった。  
 
「な、パステル、ほんとに、ほんとにごめん」  
「………」  
「俺が悪かった。パステルの気分を悪くさせて……殴ってくれよ。気が済むまでさ」  
「…そんなんじゃ気が済まないもん」  
「じゃあ、どうしよう。どうしたら許してくれる?」  
 
クレイはわたしの顔を覗き込むけれど、すっかり取り乱しておろおろしている。  
そりゃそうでしょ。  
わたし、不機嫌この上ない顔してるもんね。  
つーんと尖らせたまんまの口を開く。  
 
「……クレイが全部悪いって訳じゃないけどさあ。  
 如何せん、他の女の子に優しすぎるんだもん。  
 わかってる?あなたがそんなだから、付け込まれちゃうんだよ?」  
 
わたしの言葉に、塩をかけた青菜みたいに、しゅーんとしおたれるクレイ。  
ちょっとは反省してくれたかな?  
でもねえ実のところ、程度の差こそあれど、似たようなことには何度も遭遇しちゃってるんだよね。  
なまじハンサムで人気者のクレイには、わたしが傍にいても、平気で寄ってくる女の子は沢山いる。  
なのに、いつもいつもいつもはっきり言ってくれないクレイ。  
その度にわたしは、無駄にヤキモキイライラさせられて、ストレスはうなぎのぼりなわけよ。  
今日という今日は、このくらいじゃ許してあげないんだからねっ。  
さあて、どうしましょう。  
わたしは両肩をがっちりと掴まれたまま、腕組みして目を閉じた。  
 
「パステル?なあ、パステルってば!」  
 
そんなわたしの様相に、さらに不安が増幅されたらしいクレイは、鼻と鼻がくっつかんばかりにしてわたしに呼びかける。  
暫しの間考えをめぐらしていたわたしは、ゆっくりと目を開けた。  
 
「パステル?」  
 
わたしの一挙手一投足を、食い入るように見つめるクレイ。  
その必死な表情に吹き出しそうになりながら、わたしは無表情を装ってベッドに座った。  
立ち尽くす長身のクレイを上目遣いに見上げながら、おもむろに胸元のボタンを外し、脱いだブラウスを椅子の背に放り投げる。  
 
「な、何を!?」  
 
クレイは一瞬にして真っ赤になると、落ち着きなくブラウスとわたしを交互に見比べた。  
スカートのファスナーを下ろし、キャミソールを脱ぎ、背中のホックをぱちんと外す。  
痛いほどの視線の中、こっちも赤くなりそうなとこだけど………つとめて何気なく服を脱ぐ。  
少しだけ迷ってから、えいやっと最後の1枚も脱ぐと、シーツの上に仰向けに寝転んだ。  
さっき一気飲みしたビールが残ってるのか、なんだかポヤンとする頭は熱く、ひんやりしたシーツが裸の背中に心地いい。  
深呼吸したわたしに、喉にからんだような声が問いかけた。  
 
「………パステル…?」  
「お仕置き」  
 
少しすねたような言い方でつぶやいてみる。  
 
「ごめんなさいと愛してる、っていう気持ちを、ちゃんと示してよ」  
「……わかった」  
 
さすがの鈍いクレイにも伝わったらしい。  
そりゃそうだよね。  
女の子にここまでさせて、意味わかりませんだなんて、冗談じゃ済まないんだから。  
クレイは部屋の明かりを消すと、緊張した手つきで服を脱いだ。  
窓から差し込む月明かりに、精悍な裸体が浮かび上がる。とくん、と弾む鼓動。  
 
おずおずと覆いかぶさってきたクレイは、壊れ物に触れるようにして、わたしにキスした。  
始めは浅く、ついばむように。  
そしてだんだんと深く。  
彼らしく律儀に順序の決まった、礼儀正しいとすら言えるようなキス。  
唇は首筋から胸へと這い下りる。  
大きな手が胸をやさしく揉み、あたたかな舌は乳首を包むように舐め廻す。  
それにつれ、密やかに乱されていくわたしの呼吸。  
いつものキス、いつもの愛撫、いつもの快感。  
ううん、わたしの”お仕置き”っていう言葉のせいかな。  
愛撫はいつもよりもっと丁寧で丹念で、奉仕してるって言ってもいいくらい。  
 
ただひたすら一生懸命な愛撫を受けながら、わたしは何かが違うってことにふと気づいた。  
クレイに体を預けたまま、その違和感の正体を考えてみる。  
――彼にご奉仕させて気持ちよくなれば、それで満足?  
ううん、違う。そんなんじゃ満足しない。そんなことが欲しいんじゃない。じゃあ?………  
もやもやした違和感は、自問自答の末、頭の中ではっきりと形をとった。  
よし。  
それを確認したわたしはひとり頷くと、唐突にがばっと上体を起こした。  
弾みで、わたしの胸に顔を埋めていたクレイを、突き飛ばしたような形になってしまう。  
「うわっ」と声をあげつつ、後ろへのけぞるクレイ。  
 
「ぱ、パステル?どうした?」  
 
わたしは狭いベッドの上でごそごそ姿勢を変えると、枕をぽんぽん叩いた。  
 
「クレイ、ここに寝て」  
「え?あ……あ、うん」  
 
目を白黒させつつも、わたしの言葉におとなしくしたがうクレイ。  
よいしょとわたしの腰を抱えて位置を入れ替えると、長々とベッドに寝そべった。  
怪訝そうな瞳が、足元に座り込んだわたしを見上げている。  
わたしはクレイの長い脚を跨ぐと、逞しいからだの上に横になり、ぴったりと自分の体を重ねた。  
少し汗をかいて、熱を帯びたクレイの体。  
胸のふくらみを厚い胸板にむにゅっと押し付け、形のいい唇にそっとくちづける。  
唇から少しざらざらする顎へと舌を伝わせ、喉仏をなぞって鎖骨を甘く噛む。  
 
「ん……」  
 
その喉から、甘い吐息がほんの少し漏れた。  
体を下へとずらしながら、鎖骨から胸に広がるなだらかなラインをゆっくりと這っていく。  
唇に力を入れて吸い付くと、日焼けした肌に生まれるのは赤く小さな痣。  
少し眉間に皺を寄せるクレイ。  
 
「……チクチクしてくすぐったいよ」  
「…わたしのものだっていう、証拠ね」  
 
そんなことをつぶやくわたしに、苦笑いするクレイ。  
広い胸のあちこちにわたしの烙印をつけていく。  
時々は歯先で噛み付いて、紫まじりの赤にしてみたり。  
 
「痛いよ、パステル」  
 
困ったような顔をするクレイ。  
ふーんだ、そんな子犬みたいな顔したって駄目なんだから。  
知らん顔で胸にキスの雨を降らせ、控えめに自己主張している乳首をぺろっと舐める。  
 
「あ……」  
 
思わず漏れたらしい声に、慌てて片手で自分の口を塞ぎ、赤くなるクレイ。  
うふふ、かーわいいんだ。  
思わず含み笑いをもらしつつ、敏感なわき腹をすーっと舌で撫でるようにおりていく。  
びく!と震える腰を通過し、股間から突き出している堅くなったものを掴むと、大きく口を開いてぱくんと食いついた。  
 
「お…ぉっ」  
 
クレイは低い呻き声を漏らし、のけぞるように顎を突き出した。  
片手が前髪をかきあげ、そのまま照れたように両目を覆い隠す。  
その様子を上目遣いにじーっと見つめながら、わたしは口でクレイのものを愛撫した。  
彼のものは、わたしが口を精一杯開けてようやっと咥えられる程、太くて大きい。  
わたしは半分外れそうになる顎に力を入れて堪え、喉の奥までぐいぐいとくわえ込む。  
頭全体を前後に振ると、じゅぼじゅぼという音が口元から漏れ、伝い落ちるわたしの唾液が、クレイの股間を湿らせていった。  
 
「……う…く……ッ…」  
 
奥歯を噛み締めて、快感に耐えているクレイ。  
 
「ね、クレイ、気持ちいいの?」  
「………うん」  
 
恥ずかしそうに顔を半分隠したまま、でもちゃんと答える律儀な恋人。  
その悪気のなさに、なんだかもっと、苛めたくなっちゃうんだよねえ……  
ずっぽりと吸い付いていたクレイのソレを口から抜き出すと、なめらかな布みたいな舌触りの先端に、舌を細くしてつるっと割り込む。  
じわじわと湧き出す透明な液体が、かすかな苦味を伴ってわたしの唇を濡らした。  
軽くそおっと歯をたて、唇の先でちゅ、ちゅ、っと音をたてて吸いついて、クレイの反応を見定める。  
 
「ここ?こうっ?」  
「あ、うっ、も……う…っ」  
 
その言葉を聞いて、わたしはぱっと口と体をクレイから離した。  
血管が浮き出して赤黒く充血した棒状のものは、今にも弾けそうに張り詰め、わたしの唾液でてらてらと淫靡に光っている。  
荒い息をつきながら、わたしを見つめるクレイ。  
 
「パス…テル?」  
 
もどかしそうで、どうして止めたんだ?と言わんばかりの、訴えかけるような表情。  
言葉に出さなくたって、言いたいことはわかってしまう。  
そうだよねぇ………あと少しだったんだもん。  
でも、まだ許してあげない。まだ。  
わたしはクレイに向けて、邪心たっぷりににまぁっと笑って見せた。  
 
「まだ、だーめ。お仕置きだもん」  
「えっ……」  
 
クレイの口元がひくっと引きつったのを横目に、わたしはそ知らぬ顔で四つんばいの姿勢になる。  
ベッドをギシギシ言わせながら、上へと移動していき、よいしょっと彼の肩を跨いだ。  
わたしの両足の間には、仰向けになっているクレイの顔。  
かなり恥ずかしい格好ではあるけど、今のわたしには怖いものはないんだからね。  
 
「なっ、パ……!」  
 
クレイは有り得ない姿勢に激しく動揺し、わたしの太ももを掴んだ。  
その汗びっしょりの額に張り付いた黒髪を、指先でかきわけてあげる。  
 
「絶対、さわっちゃだめだからね」  
 
わたしはゆっくりと自分の脚の付け根に指を伸ばした。  
そこはほんのりと微熱を纏っていて、触れた指をねっとりと濡らす。  
人差し指と中指で、弾力のある割れ目を押し分けるように開き、クレイの目の前に秘部を晒してみせる。  
ぱっくりと口をあけたその部分は、きっといやらしく紅色に染まっているはず。  
 
「ねぇ、見える?」  
「うん………濡れてるよ…」  
 
ぎこちなく乾いた唇を舐めるクレイ。  
ごくりと唾を飲む音が、やけに大きく響いた。  
 
「もっと………見て」  
 
クレイは言われるまでもなく、熱っぽく潤んだ鳶色の瞳で、わたしのそこを凝視している。  
文字通り彼の目の前で、わたしはもう片方の指を、広げたスリットに沿って動かした。  
ぬぷん、という音と共に指を付け根まで差込み、かき回すように出し入れする。  
 
「んん……っ、は……ぁぁ……」  
 
自分の痴態を見られているせいなのか、淫らな姿勢のせいなのか、わたしはどうしようもなく興奮してしまっていた。  
クレイの焦げつきそうな視線が、直接触れていないのに、わたしの秘部をしとどに濡らす。  
ねちゃねちゃと溢れ出た愛液が指を伝い、クレイの口元にぽたりと落ちた。  
舌を伸ばしてそれを舐め取るクレイの表情は、例えようもなく艶めいて、わたしの心臓を跳ねさせる。  
身震いするくらいの快感が、無防備な背中を駆け上った。  
割れ目をさらにかきわけて突起を探り、既にぷにぷにに勃ったその部分を、濡れた指の腹でこねるようになぞる。  
 
「ひゃ……ぁうっ、あん、あっ」  
 
のけぞって喘ぎながら、わたしは自分で自分のそこを弄くる。  
黙ったまま荒く息をしていたクレイが、太ももを掴んだままだった手に力を込めた。  
脚の間から聞こえてくるのは、切なげで、それはそれは甘い声。  
 
「パステル………もう…我慢、できないよ……」  
 
わたしはたっぷりと間をとった後、火照った頬に手をそえながら、やさしく聞いた。  
 
「………どうしてほしいの?」  
「……パステルのここに、入れたい………入れさせて、くれ…」  
 
わたしを見上げ、少し舌足らずな、とろっとした口調でせがむクレイ。  
こんなクレイなんて、見たことない。  
わたしを何よりも欲しがる、その思いが痛いくらい伝わってきて、わたしはきゅーっと胸を締め付けられた。  
いとおしくてたまらなくて、抱きついてしまいたくなる。  
……こんな姿勢でなければ。  
 
わたしはクレイの肩をさっきとは逆に跨ぎ、体を下に移動させた。  
クレイのソレに手を添えて、自分の割れ目にぬるぬると擦り付ける。  
 
「あ……ん……っ」  
 
自分の指とは違う快感が生まれ、喉から声が零れた。  
とろりとした裂け目を滑らせるように、何度も何度もクレイの先端でなぞる。  
クレイはその度に腰を浮かせ、奥まで押し入れようとするけれど、ひょいとお尻を突き出して逃げてみせる。  
膣の中がうずうずするのを、受け入れたいのをぐっと堪えて。  
もうこうなると、ほとんど我慢比べだよね。  
 
たまりかねたように、クレイがわたしの両腕を掴んだ。  
ため息と哀願するような眼差しが、なにか訴えている。  
わかっているけど……思い切りいたずらっぽく笑ってみせながら、言葉で聞いてしまう。  
……ほんとに意地悪だなあ、今日のわたしってば。  
 
「なーあに?」  
「……頼む…よ、俺、ヘンになっちまう……」  
 
すがるような、甘えたような鳶色の瞳。  
もうね、なんて言うのか……おねだりするその姿がかわいいったら………  
思わず満面の笑みが浮かんでしまいそうになる。  
 
「わたしのこと……本当に好き?」  
「…好きだよ、大好きだ。……俺にはパステルしか、いないんだよ……っ」  
 
一番欲しかった言葉。心底わたしを欲しがる、愛しいクレイ。  
焦らしに焦らして、ようやく気が済んだとでもいうのかな。  
わたしはその言葉を聞いて、どこかひっかかっていたものが溶けるのがわかった。  
 
緩む口元を引き締めながら、クレイに跨ったままで身を屈め、軽く唇に触れた。  
そのままゆっくりと膝を曲げて腰を落とし、クレイのものに自分を突き刺していく。  
その反動のように、胸の奥から押し出される、色つきの吐息。  
 
「は………ぁん」  
「パス、テル……中が、熱い……」  
 
わたしはお尻を少し後ろへずらしながら、自分の奥深くまで、熱く昂ぶったものを収めた。  
クレイ自身の先端が、わたしの一番奥をぐにっと押し上げ、お腹の底を貫くような快感が走った。  
広い胸に突っ張った両手を支えに、わたしはお腹に力を込めて、思い切り腰を動かした。  
クレイのソレが出入りするたび、ずぷっ、ずぷっ、といやらしい音と愛液が飛び散る。  
 
「あんっ、あ、ぁん…っ、ク、レイぃっ」  
「パステル、すごく……い、い…っ」  
 
半分苦痛に近い表情を眉間の辺りに覗かせ、絞るように呟くクレイ。  
わたしの滴で湿った、クレイの濃い茂みとわたしの細い毛が、からむように擦れ合う。  
大きな手が、白いシーツをくしゃくしゃに握り締めていた。  
上体を起こして、花芯をクレイのものに擦るように腰を突き出す。  
脚の間がピリっと弾かれたような刺激に刺され、その快感を追いかけるように、わたしは一心に恥骨を押し付けた。  
 
「んっ…あん、クレイ……気持ちいい、よぉ……」  
 
のけぞる体に逞しい腕が伸ばされ、ごつい指がわたしの胸を鷲掴みにする。  
下から乳房を持ち上げるように、押し潰さんばかりに揉みしだく。  
つんとたった先端をくりくりと指先で転がしながら、クレイはわたしの腰の動きに合わせるように股間を勢いよく突き上げてきた。  
熱くて堅いクレイのものが奥を押し上げ、体の芯を鈍痛にも似た衝撃が突く。  
 
「あぅっ、あ、そこ、そこぉっ」  
「…ここ?ここが、いいのかっ?」  
「んっ、そう……そこ、奥ぅっ」  
 
クレイはわたしの嬌声に答えるように、汗を跳ね散らして下から突き上げてくる。  
あぁ、もう、くらくらするくらい気持ちいい。  
快感にヒクヒクする膣が、クレイのものをねっとりと捉え、絡むように巻き込んでいるのがわかる。  
わたしは恥骨のあたりに力を入れて筋を持ち上げると、腰にタイミングを合わせ、膣全体をきゅ、きゅっと締め上げた。  
クレイはその収縮に、ビクッとして一瞬頭を起こした。  
そのままの姿勢で切れ切れに息を吐きながら、低くかすれた声でつぶやく。  
 
「あ、パステル、俺……」  
「ん、だめっ、あと……あと、ちょ、っとなのぉっ」  
 
わたしはクレイに自分の肉襞を覆い被せるように、重ねて腰を打ち付け、絶頂に思い切り手を伸ばした。  
頭が枕に埋まってしまうほど、思い切りのけぞったクレイ。  
噛み締めた歯の間からこぼれる、切ない呻き。  
 
「だめ…だ、我慢、でき…な……」  
「やんっ、もっと、もっとぉっ!ああああっ!!」  
「パス…テル……ッ!!」  
 
高く低く、重なるふたつの甘い悲鳴。  
わたしたちは、反発する磁石みたいに正反対に体を反らせ、同時に上り詰めた。  
弓なりにしなった背中を、汗がつうっと伝い落ちていく。  
わたしはゆらりと前に体を倒した。  
そして目の前の、甘やかな光を宿した瞳を見つめたまま、深くむさぼるようにくちづけた。  
 
 
青白い月の光が、整った面立ちと精悍な上半身を照らしている。  
ま、その胸はわたしのつけたキスマークで、不気味な斑になっちゃってるんだけど。  
わたしはその胸に頬を乗せ、穏やかに響くクレイの鼓動を感じていた。  
 
「ねえクレイ、もうあんなことしちゃ嫌だからね。  
 これからは、はっきり女の子には言ってよ?」  
 
顎をぐいぐい胸板に押し付けながらブツブツ言うと、髪をやさしく撫でていたクレイが、含み笑いをしながら答えた。  
 
「俺……またするかもしれない」  
「なんでよお!?」  
「そうすれば、またパステルにお仕置きしてもらえるだろ?」  
 
嬉しそうに笑うクレイが、なんとも憎らしくて、でもいとおしくて。  
んもぉ……なんなんだろうね、この感情。  
わたしは思い切り頬を膨らませ、目の前のクレイの胸板を、ぱっちーん!と思い切り引っぱたいた。  
 
「なに言ってるのよ、もうっ!」  
「いったいなぁ……」  
 
笑いながら顔をしかめているクレイを軽く睨みつつ、ごそごそと毛布に潜り込む。  
手探りでクレイの柔らかくなったモノを握って、大きく口を開ける。  
 
「ぱ、パステル!?……う…くっ、また!?」  
 
泡を食って、わたしの脚をぺちぺち叩いて抗議するクレイ。  
しーらないもんだ。  
 
「むぁだ、許さないんだぁらっ」  
 
モガモガと半分口に含んだまま、変な発音で宣言すると、わたしはまたそれをしゃぶり始めた。  
微かに喘ぎ始めるクレイ。また堅さの戻ってくるクレイ自身。  
 
当分、絶っ対、離してなんかあげないもんね。  
まだ、月は天高い位置にある。  
わたしのお仕置きは、まだまだ始まったばかりなんだから。  
 
 

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