「あぁ?あんだって?」
ベッドにひっくり返って、眠そうにこちらを向いたトラップ。
わ、わたしの言ったこと聞いてないの?
「だ、か、らっ」
お腹に力を入れて息を吸い込む。
きっと顔は真っ赤っ赤だろうけど、かまっている暇はない。
「わたし、トラップのことが好きなの!ずーっと好きだったの!!」
半ば怒鳴るように、生まれて初めて、告白というものをやってのけたわたし。
トラップはそんなわたしを、面白そうに眺めて言った。
「で?俺にどうしろっての?付き合ってくれってこと?」
「そ…うよっ、そうなん、だけど………」
当初は威勢の良かったわたしの言葉も、冷静な茶色の瞳に見つめられると尻すぼみになってしまった。
しどろもどろに口の中で小さくなる言葉。
片手をあげて赤毛の頭を掻きながら、トラップは軽く笑った。
「………ま、考えとくぜ」
「よよ、よろしくねっ!!」
なにがよろしくなんだか…
何言ってるの、わたしってば。
もう駄目、緊張のあまり頭が爆発しそう。
わたしはぎくしゃくと回れ右し、くすくす笑ってるトラップの声を聞きながら部屋を飛び出した。
自分の部屋に戻り、クッションを抱き締めてばふっと顔を埋める。
あぁ、頬っぺたが熱い……
もうずっと長いこと、あの人のことを見てたんだ。
赤毛でひょろりと背の高い、トラブルメーカーの盗賊。
わたしはこれまで、彼とはパーティの仲間として過ごしてきたけど。
日々膨れ上がる片思いには行き場がなくて、胸で疼いてどうしようもなくて、わたしはついに告白することを選んだ。
誰もいない時を見計らって、必死に勇気を振り絞ってはみたんだけど………
…トラップはどう思っただろう?
考えとくって………すぐ断られなかったってことは、少しは期待していいのかなあ?
うわーん、頭がもうぐちゃぐちゃ。
髪をかきむしってひとり悶えているうちに、高い位置にあった太陽はゆっくりと傾き、気がつくと日は暮れてしまっていた。
もう夜になっちゃったのね……わたし、いったい何時間ぼーっとしてたんだろう……
のそのそと起き上がった時、ドアが唐突に開いた。
びく!っとそちらを振り向くと、ドア枠に持たれて立っていたのは、トラップその人。
「な……何?」
うわずる声で聞いてみる。
「ちょっと来い」
トラップは、ドアの外へついと顎をしゃくる。
わたしはぎこちなく頷いてクッションを置くと、彼についてみすず旅館を後にした。
早足で、人目を避けるように裏道を歩くトラップに、小走りでついて行くのは大変だった。
たっぷり歩きとおして、ようやくたどり着いたのは、シルバーリーブのはずれもはずれ。
小さな林に背後を囲まれるように、無人の古い小屋が佇んでいる。
ここには、冬場に街道を雪かきするための道具や、土嚢やなんかが置かれていたはず。
普段だと、特に人が立ち入ることのない場所だけど…トラップ、ここへ何をしに来たんだろう?
もしかして、さっきの返事……聞かせてくれるのかなあ?
トラップは立て付けの悪い扉を押し開けると、中に入るよう促した。
ドキドキしながらドアをくぐると、そう大きくない小屋の中は薄暗く、整然と片付いている。
わたしに続いて入ってきたトラップは、後ろ手でドアを閉めた。
薄茶色の瞳が、じっとわたしを見つめる。
「あのよ、俺、おめえと付き合うことにする」
「ほ、ほんと!?」
嬉しさのあまり飛び上がりそうなわたしを、トラップが押しとどめた。
「まぁ待て。それよりな」
ドアを背に座り込むトラップに習い、その場に腰を下ろす。
ひんやりとした木の床がお尻に冷たい。
「俺、さっきカジノでな、流れもん相手にカード勝負してたんだよ。
んで、どうも分が悪かったから、ちょーっとだけイカサマ使ったら…」
「いかさまぁ?インチキしたの?」
わたしの怪訝な声にも、トラップは悪びれず続けた。
「ま、そうとも言うな。
その場じゃバレなかったんだけどよ。
店出たとこで待ち伏せられちまって、さっきの金よこせー!ときたもんだ。
でも困ったことに、そいつらの後の相手にボロ負けでよ、出せる金もなかったんだよなぁ。
逃げても良かったんだが、あいつらまだシルバーリーブにいるみてえだから、後めんどくせえし」
「ええ!?じゃあ殴られたりしなかったの!?」
慌てて腕や足に目をやるけど、怪我をしたりしている様子はない。
「そりゃおめえ、俺の交渉力を見くびんじゃねーよ」
「ふーん……」
なんだかよくわからないけど、その言葉には納得する。
トラップは足を組み替え、その場で座り直した。
体を斜めに傾けると、襟足で結ばれた赤毛の束がふわりと揺れる。
どことなく、ずるそうな表情の上目遣い。
「でよ、ものは相談なんだが」
「相談?なあに?」
「これから、ここにその流れもんが来る。2人だ」
「え、ここに来るの?
じゃあもしかして、代わりにわたしに謝れってこと?
でもそれで許してくれるかなあ……」
首をひねるわたし。
今までこの人が引き起こした問題ごとは、クレイが謝って話を収めるパターンが多かったけどね。
わたしじゃどうも役不足な気がするけどなあ。
「そりゃ、もとはトラップが悪いわけだから、一緒に謝ってあげるくらいかまわないけど。
でもその人たち、なんだか怖そうだし……」
「違うっての」
トラップはあきれたようにつぶやき、わたしの方へぐいと身を乗り出した。
「交渉はまとまってんだよ。金の代わりを渡さなきゃならねえ。
という訳で、そいつらの相手してやってくれ」
「相手?何の相手すればいいの?」
きょとんとして聞き返す。
さもおかしくてたまらないといった風に、ゲラゲラ笑ったトラップ。
「あのなぁ、まだわかんねえのかよ。
俺はそいつらに、金の変わりに女提供する、って言ったんだっての。
つまり、おめえ」
「女?……提供……って」
聞き返す言葉が詰まる。
目の前のトラップが、急に遠くなった気がした。
「まぁそれで矛先収めてくれるんなら、この際仕方ねえわな。
この不幸な俺を救えるのは、パステル、おめえだけなんだよ。
恋人のピンチだぜ?身をもって救ってくれるよなあ?くくっ」
トラップは含み笑いを漏らしながら、細い指を伸ばすと、わたしの顎をくいと持ち上げた。
この人のこんな表情、初めて見る。
これ以上ないほど冷ややかで、何を考えているのかわからない、笑顔。
何が言いたいの?何を考えてるの?
熱を帯びたこめかみが、ズキズキと脈打ち始めた。
「なあ。おめえ処女だよな?」
「……」
だからなんだと言うんだろう。
口ごもるわたしの顎を、つうっとなぞる爪先。
「それも……もったいねえなあ。このままあいつらにやっちまうのは…な」
きらりと光ったトラップの瞳。
舌なめずりをするように、赤い舌が唇を舐めたと思うと。
どさっ!!
「きゃああっ!!」
間髪入れずに堅い床に押し倒され、狭い小屋にわたしの悲鳴が響いた。
両手首を握られ、力まかせに押さえつけられる。
床に打ち付けられたせいか、赤く擦り剥けた手の甲が痛い。
ジーンズを履いた膝が、ぐいぐいとわたしの脚を割る。
「や、やだっ」
必死の抵抗もむなしく、トラップはなんなくわたしの脚の間に入り込んだ。
わたしの両手を拘束したまま、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「嫌な訳ねえよなあ?俺のこと好きなんだろー?付き合って欲しかったんだろーが?」
「でも……でも、こんなのっ…」
「いいじゃん、俺の女になったんだから。
ま、俺は別におめえが好きでも何でもねえけど」
「………え」
冷たい手が心臓をぎゅっと掴んだ。
わたしのこと、好きじゃ、ないんだ。
それなのに、恋人って………
熱がある時みたいに、頭の中でなにかがぐるぐる渦を巻く。
俺の女、って、もしかしてこのために…?
わたしを差し出すために、ちょうどいいからつきあうって、言った……の?
聞きたいのに聞けない疑問。
悲しかった。まぶたが熱かった。
舌が喉に張り付いたみたいで、声が出せない。
絶望がわたしの心を、じわじわと埋め尽くしていく。
目の前にトラップがいるのに、わたしの瞳には何も映っていなかったらしい。
なにか冷たいものが唇に触れ、ねっとりした舌が這いこんでくるまで、わたしはキスされていることに気づかなかった。
半開きにされたわたしの口に、割り込んでくるトラップの唇。
舌を執拗に吸い上げ、顎を伝う唾液をべろりと舐め取る。
「……は…あ……」
トラップの意外に大きな手が、わたしの両手をまとめて握り込む。
空いたもう片方の手が、わたしのブラウスを捲り上げた。
「やっ」
「じたばたすんな」
冷ややかにつぶやいた唇が、胸元に寄せられる。
ブラジャーからつかみ出された胸に、トラップの繊細な指先が触れた。
敏感な先端が弄られ、軽く甘噛みされると、思わず喘ぎが口をついた。
「ぁ……んっ」
「もう乳首ビンビンじゃん。初めての癖して、これだけで感じてんのかよ?
淫乱だねぇ、パステルちゃん?」
形のいい頬を歪め、嘲るように笑うトラップ。
言葉で辱められる羞恥に、頬にまた血が上る。
そんなわたしにおかまいなく、太ももに伸びてきた手は、勢いよくスカートをめくった。
「きゃっ」
足を縮こまらせようとするも、わたしの脚の間には、トラップの体がある。
大きく足を開いた格好でなす術もない。
トラップは、つとわたしを掴んでいた両手を離した。
咄嗟に身を起こそうとしたその時、鼻先に鈍く光る刃が突きつけられた。
どこから取り出したのか、魔法みたいにきらめくナイフ。
思わず寄り目になり、顎がひけるわたしを見て、トラップは静かに言った。
「おとなしく、な?」
冴え冴えと冷たく、ひとかけらも愛情なんてない微笑。
好きじゃなくたって、恋人じゃなくたって、わたし達、パーティの仲間じゃなかったの?
トラップは、声に出せないわたしの問いが聞こえたかのように、つぶやいた。
「信頼ってのは……裏切るためにあるんだぜ?」
聞きたくない、そんなこと。
涙をこらえて、せめてもの意思表示に首を振る。
トラップは、そんなわたしにはおかまいなしに、ナイフを持ち直した。
ゆっくりと刃が下着に引っ掛けられ、ピリッという微かな音と共に布を裂いた。
何も隠すもののない下半身がすうすうする。
わたしは奥歯を噛み締めて、顔を背けた。
涙が目頭からつうっとこぼれる。
視界の端っこで、トラップが自分の指を舐めた。
「ひっ!」
ずくんと鈍い痛みに、半分閉じかけていた目を思わず見開く。
わたしのそこには、細い指が捻じ込まれていた。
トラップは立て膝をついて、強引に指を出し入れする。
「痛い……っ」
「濡れねえなぁ、ま、処女だもんな」
軽くため息をつき、わたしの脚の間に屈みこむトラップ。
両手が足首を掴み、膝をぐいっと曲げさせられた。
反射的に足に力が入ったけれど、さっきのナイフが脳裏を散らつき、お腹の底を恐怖心がかすめる。
唇を噛んで震える膝から力を抜くと、トラップはそのまま、何の躊躇もなくわたしのそこに唇を押し付けた。
「ひゃ………ぁああ……っ」
自分でも滅多にさわることのないそこを、舐め回す舌。
ぬめるように体の奥から、どろっとした感触が湧き上がる。
例えようもなく気持ち悪いのに、なぜかどこか気持ちいい。
意識せず、わたしは声を漏らしていた。
「あ……あぁ…は…っ」
「お、なんか濡れてきたぜ。気持ちいいのかぁ?」
見えないけれどわかる、ニヤニヤしたトラップの笑い顔。
否定したくでもできない。
脚の間から流れる生暖かい液体。
それがとろりとお尻へ伝うのを感じ、背中がぞくっとする。
トラップは口元を拭いながら身を起こした。
カチャカチャというベルトを外すような音が、静かな小屋に響く。
息を飲み込むわたしのそこに、なにか堅くて熱いものが、ぬるっと押し当てられた。
本能的に恐怖を感じて、びくりと震える腰。
「い、や………許、して……」
頬を伝う涙が、耳に入って冷たい。
力なく哀願するわたしに、トラップは肩をすくめて見せた。
「ま、見も知らねえ奴らより、俺が処女破った方がマシじゃね?恋人だもんなあ?」
何の慰めにもならない言葉。
声もなく涙をおとすわたしを一瞥し、トラップは自身をゆっくりと押し進めた。
固い蕾を割り裂くように、ぐいぐいとそれは割り込んでくる。
思わず苦痛の呻きがこぼれる。
「い、いや……痛い、よおぉっ……!!」
先端が少し入ったところで、ごりごりと何かに引っかかってトラップのものは止まった。
「おい、力抜け」
「む……無理っ」
もう抵抗する気力もないけど、痛む体はがちがちに強張っていて、とても力なんて抜けない。
「力抜かなきゃ、痛いのはおめえだぞ」
トラップはそうつぶやくと、腰に力を乗せるようにして、わたしの中へ一気に入り込んできた。
めりめりっと肉の裂けるような衝撃。
お腹の中まで無理矢理引き毟られるような痛みが、わたしを襲った。
「いやあああああああっ!!!!」
ずぶずぶと荒っぽく動かされる、トラップのもの。
無残に破られたそこからは、破瓜の残骸が流れ出していた。
二種類の粘度の液体が混ざり合い、飛び散り、体を、床を、汚していく。
体の中が煮えてしまいそうだった。
泣き叫ぶわたしの前で、あたりは徐々に色を失い、一面銀色に染まっていった。
あぁ、このまま気を失った方が…楽だ……よね………
深い深い、奈落の底へ落ちていくみたい。
その銀の闇に身を沈めようとした時、わたしの熱く潤んだ瞼の裏を、赤い髪がよぎったような気がした。