馬屋の1階部分にいるのは、俺とキットンとクレイ。
俺たちは、目を丸くして口をぽかんと開けて……早い話がアホ面で、呆然と梯子を見上げていた。
危なっかしい足取りで梯子を降りてくるのは、ルーミィを抱っこしたパステル。
見慣れぬアップにした髪には、光り輝くリボン。
ひらひらと黒マントが頼りなく揺れ、ラメでキンキラしたレオタードが見え隠れしている。
しかも、暖簾のごとき長紐がまとわりついた、ケツのラインが丸出しときたもんだ。
細い足は網タイツなんてものに包まれ、俺がよく行くカジノのバニーちゃんにも、全く引けを取らねえ色気っぷり。
パステルが梯子を降りてくるにつれ、見えなかった上半身が視界に入る。
胸元は見事に開いて、結構深い谷間が覗いて………
げ!やべっ!
俺は、実に素直に股間が吊上がるのを感じつつ、必死でポーカーフェースを作った。
カモフラージュの為、おもむろにポケットに手を突っ込みながら。
「お、胸どうした?パッドも入れたん?」
「ばかもの!」
頬を膨らませたパステルに、銀のリングでぽこっと殴られ、シルクハットが歪む。
しかし、こいつは想定外だ……
恋人関係になってそう長くないとはいえ、こんなにも殺人的に悩殺されたのは初めてだ。
いつもの色気もへったくれもない、無粋なアーマー姿からは想像もつかねえ。
いや、あのミニスカートなら、それはそれで色気ってもんが、あの、えーとその……とにかく!
要は、俺の頭ん中は妄想と煩悩が駆け巡り、とてもじゃねえけど手品なんてメンタルなもんをできる状態じゃなくなっちまった。
かといって、んなことを堂々とこいつらに言うわけにもいかねえし。
なあ、どうする?俺。
このまま股間膨らませたまんまで手品すんのかよ?
……そらまじいだろう。いくらなんでも…じゃあどうする?
俺は、騒いだり段取りを確認している連中の間で、めぐるましく脳を回転させて案を練った。
それとなくそのへんの、造花やトランプなんかをつつきながら。
そして、俺の明晰頭脳による作戦は完成された。
………おし、これでいくか。
傍で俺たちの様子を眺めていた、黒装束のピートを捕まえる。
「なあ、まだ出発まで時間はあんだよな?」
ピートは俺の問いに、ブルーアイをしばたたかせて答えた。
「出発ですか?そうですね……
おそらく後1時間後くらいに、ザックの合図があると思いますよ」
「おう、サンキュ。
おい!おめえら、ちょっと聞け!」
連中が一斉に顔を上げ、俺の方を振り向く。
ぐるりと一同を見回し、パステルの上で視線を止める。
「ちっと早えが、もうそろそろ森ん中に隠れててくれ。
んで、パステル。おめえは俺と残れ」
「え?なんで?」
小首を傾げて自分を指差すパステル。
「おめえのチャイニーズリング、まだ危なっかしいからよ。
まだ小一時間あんだろ?最後に仕上げ練習だ。
マンツーマンでみっちりやっからな」
「えええーーーわたしだけぇ?」
パステルはすねて唇を尖らせたが、仕方ないと理解したのか、不承不承頷いた。
と、そこでクレイが口を挟んだ。
「あのさ、俺も仕上げ練習した方がいいかな?
完璧かって言われると自信ないんだけどさ」
い、いらん提案をするな!
クレイまで残っちまっちゃ、何の意味もねえんだよ!
「クレイ、おめえはもういい。
もう十分、最高、問題なし!だぁら、先行ってろ」
我ながら、実に嘘臭い。
一歩間違えば観客目掛けてナイフが飛ぶような、半人前ジャグラーを捕まえて、問題なしとは。
クレイは俺の、必要以上の褒め言葉に一瞬戸惑ったようだが、にっこりと笑って頷いた。
…馬鹿正直に素直で疑うことを知らねえ奴ってのは、こういう時実に助かる。
「そっか、わかった。じゃあ先に行ってるぞ」
「ぱーるぅ、行かないのかあ?」
「すぐ追いついてきますよ、ルーミィ」
不安そうな顔をしたちびエルフを、キットンがなだめる。
よしよし、いい塩梅だ。
ここでこいつに残られちゃあ、俺の計画は台無しだっつーの。
「パステル、おめえは上で待ってろ」
「うん……ね、トラップ、これ持ってけばいいのね?」
パステルが俺に示したのは、銀色に光るチャイニーズリング。
ま、実のところいらねえっちゃいらねんだが…
それを居残り理由にしてる以上、必要と言わざるを得ない。
「おう、も、勿論。持ってっとけ」
「はあい」
パステルは、さっき降りてきた梯子をそろそろと上っていった。
馬屋の外に出ると、どてっ腹にけばけばしい装飾をされたヒポが、眠そうな目で待っている。
「じゃ、ザックの合図を確認し次第出発して、俺達を拾ってってくれ。
俺達も確認し次第、すぐここを出るからよ。いいな?」
神妙な顔が口々にわかったと答えた。
ヒポに乗り込んだ奴らが見えなくなるのを見届けると、俺は逸る心を抑え、梯子を駆け上った。
2階では、パステルが棒立ち状態で突っ立って、リングの練習をしていた。
ガチンガチンと鈍く響く金属音。
相変わらずぎこちない手つきではあるが、リングは一応繋げられ、完成の様相を呈している。
照れたような顔でへへっと笑うパステル。
「なんとか……できたよ」
「ふーん。とりあえず大丈夫じゃね?それ、ちょっと貸せ」
パステルの手から繋がったリングを受け取ると、ひょいと傍に放り投げた。
カシャカシャカシャーン!と景気のいい音を聞いて、パステルはびくっと身を竦める。
「な、何よお?練習するんじゃなかったの?」
「まーそれはそれ。
今はなあ、それより大事なことがあんだよ」
にやあっと笑う俺を見て、不審げな表情を浮かべるパステル。
俺はおもむろにシルクハットを傍の箱の上に置き、燕尾服の上着を脱いだ。
ちょいちょい、と指でパステルを呼ぶ。
「そこ座れ」
「?なんで?」
「いいから、座れ」
顔一杯に疑問符を貼り付けているパステルを、そのへんに積まれている干草の塊に座らせる。
レオタードの裾からぶら下がっている紐が乱れ、そこからのぞくのは網タイツの太もも。
素肌、ってのは見たこともさわったこともあるが。あるがよ……
網タイツだぜ、網タイツ。畜生っ、たまらん。
荒くなる鼻息を抑えつつ顎を上げ、蝶ネクタイをむしり取るように外す。
俺を見上げていたパステルの傍にどさっと座ると、マントの上から細い腰に腕をまわす。
「……何?」
こいつは何を企んでるんだ、と言わんばかりの、めいっぱい怪訝そうな顔。
うーん、意外に化粧も似合ってるよな。
濃い色に塗られた、まぶたと黒く長い睫毛がやけに色っぽい。
…アイラインがはみ出したりしてんのは、まぁご愛嬌ってやつだが。
俺はパステルの華奢な手をとると、ゆっくりと自分の股間に誘導した。
「ほれ」
「…なっ?!」
いきなりそそり立ったモノを握らされたパステルは、目を白黒させた。
逃げようとする手を押さえ、その耳元に唇を寄せると、そっと息を吹きかけながら囁いてやる。
俺の吐息にピクンと震えた耳たぶ。
そこにくっついてる派手なイヤリングが、しゃらんと音を立てた。
「ひぁ……っ」
「あのな、俺おめえのせいで、元気になっちまったの。
こんなんで手品なんてできねえよ」
イヤリングを迂回して、細い首筋をつうっと舐めてやる。
「んっ……わたしの……せいって…なんでよぉ……?」
喘ぎ声の合間に、苦労して言葉をつむいでいるのがわかる。
変な姿勢になってるせいで、図らずも流し目で俺を見つめ返すパステル。
何気に女っぺえよなぁ、その目。
「その格好、ちょっと目の毒すぎだぜ。責任とってくれ」
ついと指を伸ばし、鎖骨のところで結ばれたリボンを解く。
干草の上に、ばさっと落ちる黒マント。
「きゃ!?ち、ちょっとぉ!!」
「うるせー、さわぐな」
「んんっ、んーーーー!!」
ジタバタ暴れるパステルを羽交い絞めにし、顔を斜めに覆い被せて唇を塞いで黙らせる。
いつもとは違う、ぬめっとした口紅の感触。
ふーん、口紅ってこんな味がすんのか……
舌を差込んで口内を這い回らせ、小さく熱い舌を吸い上げながら、右手を細い肩に伸ばす。
肩紐の役目を果たしてるらしい、細い鎖をするっと下ろし、胸を覆っているラメのレオタードをぺろっと引き剥がした。
既に半分見えてるような胸がもろにあらわになる。
「や、こんなことしてる場合じゃっ」
唇を解放されて、ようやく呼吸と言葉を取り戻したパステル。
その頬は、滅多にしない頬紅でピンクに染められている。
だが、その人工的な色の下に見えているのは、それとは異なる火照った赤。
半ば怒ったような抗議の言葉を聞き流し、ピンク色の乳首に舌を這わせる。
「やんっ」
寒さと弄られることで堅くなったそれを舌先で転がし、真っ白い丸みにかぶりつく。
ふにふにしているのに、どこか歯ごたえのある果物を思わせる感触。
片手を足の付け根へ伸ばす。
「ね、ねえ、だめだってばぁ…こんな時に……」
「俺さぁ、こんな状態でマジできねえって。
手品ってさ、相当繊細なテクニックがいるんだぜ?失敗したら困んだろ?」
「そ…りゃそう、だけどっ」
俺の言い分にも一理あると思ったか?困ったような表情で口ごもるパステル。
これ幸いと、レオタードの隙間から指をねじ込ませる。
伸縮性のある布だからか、簡単にその隙間は広がった。
指の腹に引っかかるような、網タイツの手触り。
「あぁ……ん……」
「お、なんか濡れてるぜえ?パステル」
「やだもう、バカぁ………っ」
なまめかしげに喘ぎながら文句言われてもなぁ。
ついつい嬉しそうな表情になっているであろう、俺。
しかし、このレオタードどうするよ?
隙間からナニを突っ込もうにも、下にタイツ履いてやがるもんなあ。
しかも……この触感は二重履きかよ?なんと厳重な。
つらつらと考えつつ、じわりと濡れた部分を撫でさする。
爪先でくいっと網目を広げてみようとするが、その動きに、突如として我に返ったらしいパステルに怒鳴られる。
「…ちょ、トラップ!これから本番なのに破らないでよっ?!」
半身起こして文句を言いはするが、モロ出しの胸じゃあイマイチ迫力に欠ける。
「バーカ、俺を誰だと思ってんだよ。んな不器用な真似するかっての」
とはいえ、俺の手にも余るな、こりゃ。
このエロっちいレオタード着たまま、ってのが密かに惹かれるもんがあったが……仕方ねえ。
罠解除並みに指先に神経を集中させる。せーの。
俺は、胸の下までめくってあったレオタードを、一気に太ももまでずり下げた。
器用な盗賊に生まれて、こういう時良かったと思う。
その感謝はどこか間違っている気もするが……
「え?な……きゃあ…ん、む!?」
俺のあまりの手並みの良さに、一瞬自分が何をされたのかわかっていなかったパステル。
タイツと下着のみにひん剥かれた体に目を落とすと、遅ればせながら叫び声をあげた。
いや、正しくはあげかかった。
まあその動きは簡単に予測できたので、あっさりと阻止。
とりあえずキスして悲鳴を塞いでおき、唇をぺろっと舐めて囁く。
「静かにしろ、ってーの。誰か来ちまうぞ?」
「……だってぇ……」
はしばみ色の瞳が、上目遣いで恨めしそうに俺を見上げている。
そんな可愛い顔したって、仕方ねえだろうが。余計止まんねえぞ。
ちょっと体を浮かせ、パステルの体をくるっとひっくり返し、うつ伏させる。
スレンダーな背中と、下半身を包む網タイツ。
うーむ、これはこれでそそる。
裸でタイツのみ、ってのも相当にやらしいよな……
どうせなら中に何も履いてねえとか、タイツ破り放題ってならもっとナイスなんだが……って、何を考えてる、俺。
今はとりあえず高望みはすまいと己を戒め、2重タイツと下着をまとめて引き下ろした。
同時に細腰を掴み、ぐいと腰をあげさせる。
真っ白で丸い尻と、その隙間のほんのり色づいた部分が俺の目の前に現れた。
「やー、もおぉ………」
力なく抗議しつつ、自分のマントに顔を埋めるパステル。
アップにしたうなじが羞恥に染まり、後れ毛がほつれて張り付いている。
俺は両手で尻の割れ目を押し開くと、ふーっと息を吹きかけてやった。
「はっ…」
丸みに沿って、下から上へなぞるように何度も吐息で愛撫する。
触っていなくても、パステルのそこは潤んで蜜が滲み出してくる。
俺は焦らすだけ焦らし、滴が太ももに伝い落ちる寸前、大きく口を開けてパステルのそこにしゃぶりついた。
「あぁん!やぁ……ぁあっ」
花びらのように合わさったソレの隙間に舌を差し入れると、切なげな喘ぎはいっそう高まった。
後から後から溢れる液を、じゅるっと音を立てて吸う。
襞を唇で引っ張ってパステルを喘がせておいて、同時進行でファスナーを下ろす。
窮屈だから脱いじまいたいんだが……俺の履いてるのは、黒のスラックス。
んな埃っぽい床に落としたら最後、汚れまくりそうだよな。
仕方なく、ファスナーの開口部からにょっきりとナニを引っ張り出した。
パステルの秘部を覆う襞を、我慢汁の滲んだ先端で、2度3度割るように滑らせる。
「ん…は…ぁ…」
「……いくぞ」
俺は声と同時に、ぐいと腰を突き入れ、そのまま熱を帯びた肉の中に己を埋めた。
「あああぁっ!……やぁ…ん、あ、あんっ」
がっちりとウエストを掴んだままで、腰を前後に動かす。
張りのある汗ばんだ尻と俺の肌が、ぱんぱん音をたててぶつかり合う。
四つんばいのパステルの喉からは、甘えた猫のように甲高い鳴き声。
「あ、んっ、はん、ト、ラ……ップ……ぅっ」
俺はガチガチに堅く怒張した自分自身で、力任せにぬめる内壁をえぐる。
パステルの中はねばついて熱く、奥へ奥へと誘導されてるみてえだ。
螺旋状に渦を巻く襞のイメージが、脳裏をよぎる。
俺が腰を振る度に、パステルの耳やら首につけられた装飾品がにぎやかに鳴る。
太ももまでずり下ろした網タイツと下着に降りかかる、飛び散る愛液の飛沫。
俺の半分外した蝶ネクタイは、右へ左へと生き物のように跳ねた。
「う……すっげぇ締まる……」
「トラップ、トラッ……プ…あ、あぁ………」
喘ぎの途切れ間に、必死に俺の名を呼ぶパステルの声。
濡れた肉襞が痙攣するように収縮し、俺のナニを止めを刺すように吸い上げた。
もぎ取られそうな圧力に、脳天が真っ白になりそうなほどの快感。
うおぉ……も、我慢できねえ。
俺は歯を食いしばってのけぞり、外に出すか中で出すかを迷う暇もなく、精を一気に吐き出した。
身づくろいを終え、不器用に髪を結いなおすパステルを手伝っていると、窓から白い洗濯物が見えた。
げ、ザックの合図じゃねえか!
焦って階段を下りようとするパステルを押しとどめ、マントごと細い体を抱き締める。
「おめえ……すっげえ可愛かった。てゆーか、今も最高」
ぽーっと頬を染めるパステル。
俺の燕尾服の裾を引っ張りながら、恥ずかしそうに俯く姿がやけにいじらしい。
「ねえ……わたしこんなんじゃ失敗しそうなんだけど」
ったく、世話の焼ける奴だよなあ。
「大丈夫。そうなっても、俺がフォローしてやっから」
ピンクに染まった耳をちょいと摘み、思いっきり優しい声で囁いてやる。
我ながら緊張感のねえ………俺のほうが失敗しちまいそうだぜ……
俺はにやっと溶けそうになる顔を自覚しつつ、梯子を軽やかに降りていった。