あっちーなー・・・
俺は、みすず旅館の台所で、椅子に体半分ずっこけた状態で座っていた。
これを座ってると表現して良ければ、の話だが。
窓の外は月も出てない、どんよりとした闇。
無闇と蒸し暑く、まさに熱帯夜と呼ぶのがふさわしい。
こんなんじゃ、落ち着いて寝ることもできやしねえ。
シルバーリーブの夏は、暑い。
砂漠に近いせいか、山間部にあるせいか、はたまたただの異常気象なのか知んねえけど。
日中は、真夏日なんつー言葉すら生ぬるい。
陽炎が立ちのぼるほどの陽気、いや熱気で、脳みそが沸騰しそうな気温になってやがった。
うだった頭に、そのへんに転がっていた団扇でパタパタと風を送る。
クレイがバイト先から持って帰ったらしいそれには、”サマーバーゲン!アーマー格安大放出!!”なぞと印刷されている。
いくら格安でもあいつにゃ、渋茶色に燦然と輝く、竹アーマープラス1があるもんなぁ・・・気の毒に・・・
団扇を置き、オレンジ色のタオルで汗を拭く。
しかしまー、ぬぐう端から吹き出しやがる、この大量発汗はなんとかならねえのか。
2階の男部屋ときたら、風は通らねえわ熱はこもるわで、サウナも真っ青の灼熱地獄なんだよな。
あの部屋にいちゃあ、盗賊のミイラが出来上がるのも時間の問題だっつーの。
しかし、涼みに降りてきて、もう結構な時間になる。
明日もバイトだしな・・・ちったぁ寝ねえと、さすがの俺ももたん。
しゃあねえな、寝るか。
そよとも吹かない風に見切りをつけ、せめて体内を冷やそうと冷蔵庫を開ける。
えーと・・・残念、ビールはねえ。その代わり、ワインを1瓶発見する。
ボトルごと取り出して、栓を開けるとラッパ飲み。
ぷは、さすがは安物。
アルコール度ばっかやたら高いのに、なんともはっきりしねえ味だな。
まあ贅沢は言うまい。
これで少しは安らかに眠れることを期待しつつ、俺は階段を上がった。
昼間の熱気を存分に溜め込んだ男部屋。
扉を開けると、廊下に吐き出されるむっとする空気。
うっへー、やっぱ相当にあちいな。
部屋に誰もいないのをいいことに、ドアを全開にしてベッドに転がる。
実はこのくそ暑いシーズンに限り、ありがたいことに、全員個室にさせてもらっている。
この狭さに野郎3人が密集状態で寝るなんざ拷問だっつーの。
明くる朝にゃ、茹った死体が転がってても、なんら不思議はねえからよ。
本来なら値上げされるとこだが、そこはマダムキラークレイの出番ってことで。
奴を前面に押し立て、穏便におかみさんの恩情を勝ち取ったのは、我ながらナイスな作戦だった。
愚にも付かんことをダラダラと考えながら、右に左に寝返りをうっていると、どこかの部屋のドアが開き、階段を下りていく足音が聞こえた。
誰か知らんが、まー、今夜は皆寝れねえだろうな。
ノルを除く全員が、くそ暑い2階に寝てるわけだから、台所を避難所にしたくなる気持ちもわかるぜ。
あそこは窓が2方向にあるせいか、ちったぁましな気温が保たれてっからよ。
そのうち、アルコールのおかげかようやく薄っすらと眠気が訪れてくれ、これ幸いと睡眠モードに入ろうと努める。
先ほどの台所避難者が階段をあがってくるようだ。
その足音を意識の端っこで聞きながら、眠りにおちかかっていた俺だが。
唐突に、突然ベッドに転がり込んできた、熱くて柔らかいものに現実に引き戻される。
眼を擦りつつ、貼りつきかかったまぶたをひっぺがすと、そこにいたのは。
「あぁ?・・・なんなんだよ、一体・・・」
パステルだった。
せっかくの眠気もすっとび、一気に目覚めちまった俺。
「・・・あれ?トラップ・・・なんでここにいるのぉ?」
半分閉じかかった、とろんとした眼でパステルが聞いた。
「それはこっちのセリフだ!部屋間違えてんじゃねーよ!」
「ふーん・・・あついぃーー・・・暑いよぉぉ・・・」
正当極まりないはずの俺の反論を聞き流し、うわごとのようにつぶやくパステル。
そのままぺたりとひっついてくる。
「ぱ、パステル!おめえがくっつくから余計にあちいんだよ!」
「トラップ・・・冷たくて気持ちいいねー・・・」
冷てえだと?・・・あぁ、なるほどな。
確かに俺は死ぬほど汗かいてっから、皮膚の表面は熱を放出してひんやりしてんだろうよ。
って納得してる場合じゃねえし!
「おめえが涼しくても俺は暑いっての。離れろ!こら!」
「やだー」
気持ちよさそうにパステルは微笑んだ。
じんわりと熱をもった肌を俺にくっつけ、暑苦しいことこの上ない。
・・・なんか、こいつおかしくね?
頭のネジ緩んでるっつーか、暑さのあまり変になったか?
疑問が頭に浮かぶと同時に、その原因がわかる。
・・・こいつ、酒くせえ・・・
もしかして、さっきの俺の飲み残しを飲んじまったのかよ?
くそ、グラスに移して冷蔵庫に入れたのが失敗だった。
普段しもしねえことをした俺が悪かったよ!
あれじゃ、見た目はただのジュースだよな、確かに・・・
激しく慙愧の念にとらわれている俺をよそに、軽い寝息をたて始めたパステル。
くそ、このバカのせいで、ただでさえ暑いってのにますます・・・
イラつきながらパステルに眼をやった俺は、今更ながら動揺した。
パステルがパジャマがわりに着ているのは、下着と言ってもさしつかえない程薄い、キャミソール。
しかも、よりによってノーブラでいやがんだよ、こいつは。
なんてぇ無防備な・・・
俺だってなぁ、健全でまっとうな性欲を持った、立派な男だぞ?いちお。
・・・一体どうしたもんか。
ため息をつく俺の視界には、横向きに寝ているパステル。
胸元はよじれ、レース部分から覗く谷間。
ささやかな胸ではあるが・・・いや中身を見たことはねえんだが!
意外に深い谷間が形成されていることに、密かに驚く。
どく、と今頃になって跳ねる心臓をなだめつつ、そおっと腕を持ち上げると、人差し指をその谷間に差し込んでみる。
汗のういた肌はしっとりして、吸い付くようなもち肌。
ふくらみを軽く押すようにすると、むにゅ、と指が埋まる。
うおぉぉ・・・さ、さわっちまった。さわってるぞ、俺ぇぇ!
興奮のあまり手がつりそうになる。
ま、まじい。
静かに静かに引き抜いた指をそのままの形で天に向け、声をあげずに悶え狂う。
はー、はー、俺って今、相っ当に怪しい人だよな・・・
荒い息をこらえて、目の前の女に、再度血走った視線を向ける。
今、触ったせいなのかなんなのか、胸の先端がつんと尖って、キャミソールの薄い布を押し上げていた。
こ、これはっ・・・
一旦引っ込めた指を、再度パステルの胸に伸ばす。
ふれるかふれないかの微妙なタッチで、布の上から乳首をかすめる。
ひとたび触っちまうと、段々大胆になるのが人間ってもんだよな。
俺はそんな自分を他人事のように眺めつつ、柔らかいふくらみと先端を撫で回した。
くっそ、見てえ、脱がしてえ、舐めてみてえっ!!
なんでこのベッドはこんなに狭いんだ、畜生め!
激しく方向性の間違った身も蓋もない怒りを、己の寝ているシングルベッドに向ける俺。
暴走しつつある欲情は、そろそろ自分でも止めようがなくなりつつあった。
舐めるような視線を、俺にほとんど密着している下半身に送る。
パステルが履いているのは緩めの短パン。
だが、夏用なのか安もんなのか、それは格段に短く薄く、にょっきり出ているふとももが視界に入る。
白く細めで、冒険者という職業柄、たるんだりはしてねえ締まった脚。
ま、んなものはいつも見慣れてる。
基本的にいつでもミニスカートなぞ履いてやがるからな。こいつは。
今はそっちじゃねえ。
大事なのは・・・何が大事なんだ?俺。
いいいや、今の焦点は、その上だ。
パステルが走ったりこけたりするたびに、チラチラ見え隠れするスカートの中身。
今、その部分のガードは限りなく緩み、へそを半分のぞかせた状態で俺に手招きしている。
いや、こいつ的に手招きしてる気は毛頭ねえんだろうが・・・そんなことを言ったら苦情と張り手が飛んできそうだ。
あくまで冷静さを装うかのごとく、自分自身にツッコミを入れつつも、パステルの眠りの深さを確かめる。
よし。
細心の注意を払って、手を短パンの中へするりと滑らせた。
こ、こっそりやろうとすればするほど、異様な程に興奮するのはなぜなんだか。
第一関門、短パンの緩めのゴムをゆっくりとくぐる。
その先には第二関門、パンツのゴムが行く手を阻んでいやがる。
しかしだ。
俺の指は盗賊仕込み、こんなことで根を上げるほど柔じゃねえ!
限りなく使用用途を勘違いしている気もするが、俺の職人技を備えた指は、爪先でゴムをくいと持ち上げると、何の苦もなくその中へ潜り込んだ。
最初に指先が触れたのは、もそもそとした感触。
細くて少しうねったような毛が密集しているのがわかる。
その部分を軽く撫でさすりつつ、さらに下へと指を押し進めた。
毛の先にあったのは、裂け目のような・・・あんだこりゃ。
言うなれば、唇を縦にしたような・・・
うーむ、見えねえ以上、ようわからん。
その裂け目に指をするっと進ませてみると、指の腹にひっかかるのは、柔らかい突起物。
指先で触れつつ、行きつ戻りつしてこねくりまわす。
「ん・・・」
ね、寝息だよな?おい、寝てんだろ?パステル。
・・・返事をされても怖いもんがあるが。
ビビりながらも、手は抜かず愛撫を続ける。
なんか指がぬる、と滑るようになってきたような気がすんだけど・・・
こいつ、寝ちゃあいるが、いちお感じてはいるわけだよな?これは。
意味もなく息を止めると、突起から裂け目に沿って、おそるおそる指を押し込んでみる。
・・・お、なんかきついっちゃきついが、入る入る。
ぅおぉー・・・指が吸い込まれるような、ねっとりとした吸引力。
ここに・・・俺のナニを・・・入れるわけだよな?
って、お邪魔するお許しも何も頂いちゃいねえんだけど・・・
いやあのその・・・もう無理だ。
もうこの状況下で、入れるなっつー方が難しい。
えーっと。狭いベッドではあるが、向きを変えりゃなんとか・・・
何かに急き立てられるように体勢を変え、パステルの体をまたぐ。
俺の下には、ほんのりと頬を染めたパステル。
この状況下でもおとなしく寝てくれてるあたり、感度がいいのか悪いのか知んねえが、もうこの際知らん!
こんなシチュエーションに俺を追い込んだ、おめえが悪い!
果てしなく一方的な言い訳を、内心絶叫しつつ。
俺が鼻息も荒く、わななく手でトランクスをずり下げかけたその時。
ドアの外から、眠そうな声が聞こえた。
「おや、あなたも寝られないんですか、クレイ」
げげ!キットン!?
即座にトランクスを履き直す。
「キットンもか?暑いもんなぁ、今夜」
く、クレイまで。
よりによってなんでこんな時に。
開けたままのドアから、奴らの呑気な声が聞こえてくる。
最凶にして最悪のタイミング。
まままじいぞ、いくらなんでも。
この状況下であいつらに目撃された日にゃー、まず言い逃れは不可能だ。
ドアは開いている。
奴らはドアのすぐ外側にいる。
となると、今更閉めに行くことはできねえ。
パーティ始って以来、いや人生最大の危機!
どうすんだよ、俺!?
俺はまだ、シドの剣の赤サビにゃーなりたくねえぞ!
テンパりつつも、とりあえずはパステルの脱がしかけた服を、震える手で直す。
・・・しかしだ。
こいつが寝ててされるがままだから、俺が襲ってるように見えるわけだよな?
いや実際に襲ってると言えばそうなんだが・・・。
って、それはこの際置いといて。
てことは、パステルが起きてりゃ合意の上と認識されるんじゃね?
それなら、あいつらも、すき好んで馬に蹴られるような事はすまい。
静かにスルーしてくれるんじゃねえだろうか。
自分で自分の考えに納得した俺は、パステルを揺さぶろうと手を伸ばした・・・んだが、また手を止める。
いや、ちょっと待てよ。
こいつ、俺のベッドに自主的に入ってきたことを覚えてんのか?
そもそも起こしたところで、今この状況を眼にして、納得するんだろか。
・・・しねえだろうな・・・
起こすべきか起こさざるべきか。
・・・どっちにしても、このままだと破滅。
既に地獄に片足突っ込んでいるのは、気のせいだと思いたい。
「トラップは寝てるのかな?」
「この状況下でよく寝られますねぇ。さすがは無神経なだけはある。ぎゃっはっは」
「・・・キットン、うるさいぞ。夜中だって」
俺はこの暑さだというのに、背中に冷たい汗を感じつつ、人生最大の岐路に立ちつくしていた。
至極平和で平穏な、廊下の立ち話を聞きながら・・・