「よーよーリタ、おまえさんって、けっこうべっぴんだよな」  
「何よ、ツケにしろって言うの?」  
「・・・そうじゃねえけど・・・  
 いやぁ、しみじみと見ると意外になあ。  
 見事なまでに女っぽくはねぇけど。ぬはははっ」  
 
既にジョッキを数杯あけて赤ら顔のオーシは、トレイを持ったあたしをじろじろと見ながら大笑いした。  
ぎろりとひと睨み。  
 
「割り増し料金、とられたいわけね」  
「・・・すまん」  
「わかればいいのよ」  
 
おとなしくなったオーシを一瞥すると、あたしはあいたテーブルのお皿を片付けた。  
意図的に不機嫌な表情を崩さないまま、お皿の山に向かってこっそりため息をつく。  
はぁ・・・素直じゃないなぁ、あたしも。  
ぶっちゃけ、気になってる男に一応ほめられてるのに、即座にやりこめるしかできないなんて・・・  
いくらなんでもかわいくないわよ。  
 
え?誰を気になってるかって?  
話の流れで、もうだいたいわかんでしょ?  
・・・ええそうよ、あの汚いかっこした中年オヤジよ。  
悪趣味で悪かったわねえっ!!と、天を仰いで絶叫したくなる。  
 
だけどさ、仕方ないじゃないの。  
店で忙しい毎日じゃ、ろくな男との出会いはないし。  
って、いやオーシは十分ろくでもない男なんだけど・・・それを言ったら話が終わってしまう。  
 
クレイだのトラップだのといった、いわゆる有望株には興味ないからね、あたし。  
あの膨大な人数のパワフルな親衛隊を考えると、怖気がふるうわ。  
あたしはまだ命が惜しいですからね。  
そもそも、シルバーリーブなんて田舎町には、いい男なんていない。いるわけがない。  
いたらとっくにアクション起こして、猪鹿亭の跡継ぎくらいこしらえてるわよっ!  
って、誰に言い訳してるのかしら、あたしは。  
 
洗い場から客席をそっと盗み見る。  
4人がけテーブルをひとりで占拠し、大ジョッキを片手に近場のオヤジと盛り上がっている、あいつ。  
オーシ。  
胡散臭いシナリオ屋で、汚げな格好に無精ひげの、押しも押されぬただの中年オヤジ。  
見るからに独身、当然ながら彼女なんていなさそう。  
あたしがそれを喜んでいいのか、微妙なとこだけどさ。  
一番しょっちゅう顔つきあわす常連だし、まぁ話すことも多いわよね。  
ほとんどからまれてあしらってるだけだったはず。  
・・・それだけだったはずなのに、なんでこうなっちゃったんだか。  
 
はぁ。とりあえず、このジョッキと皿を洗わなきゃ。  
大きな水瓶から手桶で汲んだ水を、洗い桶に注ぎこみながら考える。  
 
あれは・・・市場まで仕入れに行った時だから、先週のことだったかしら。  
ついつい、安売りの食材を買いすぎたのよね。  
調子に乗って買いだめして、いつもの倍はあったと思う。  
それを両手に抱えた、よろよろしながら抱えての帰り道、何度目かの休憩をしていた時のこと。  
 
「おいリタ、また今日の荷物は随分と重そうじゃねえか」  
「オーシ、み、見てるんなら手伝ってよ!」  
「やなこった・・・と言いたいとこだが、ほれ貸しな」  
 
ニヤっと笑ったオーシは、あたしが四苦八苦していた巨大な紙袋をひょいっと奪い取ると、スタスタ歩き出した。  
 
「ま、待ってよ」  
 
慌てて追いかけるあたしを振り返った彼は、  
 
「こんなので重いってか?  
 おめえさんも意外に華奢じゃねえか。かわいいとこあんだなー」  
「かっ・・・殴るわよ!」  
 
一気に顔にのぼった血の気のやり場に困り、とりあえず怒鳴っておく。  
 
・・・そう、これだけ。これだけなのよ。  
ご都合主義な漫画じゃあるまいし、なんてありがちなのっ。  
あれからというもの、オーシが気になってしかたない、あたし。  
オヤジだけど。  
姿をみかけるたび、ついつい眼で追いかけてしまう。  
オヤジだけど。  
いや、もうそれはこの際いいわ。  
 
自分の意外なひ弱さを認識させられた、というか・・・  
酔っ払いの戯言や店での挨拶代わりじゃなく、かわいいなんて言われたことが・・ええと・・・  
ああぁっ、もうわけわかんない。  
自分が情けないったらありゃしない!  
このあたしが、こんなにも簡単に恋に落ちるだなんて!!  
それもあの、ボンクラオヤジに!!!  
 
「ね、ねえちゃん、水・・・」  
 
恐る恐る話しかけてきたルタ。  
どうやら、考えながらひたすら水を汲み続けていたらしいあたし。  
手元の桶はとっくに水があふれ、床まで水浸しだった。  
 
「うわっ!」  
「何やってんの?・・・」  
「ちょ、ちょっと考え事してたのよ」  
 
ルタを追いやり、慌てて雑巾で床を拭く。  
拭きながら、またも重いため息が口をつく。  
あれ以来、ずっとこんな感じで、調子が狂うったらないんだから。  
 
ええ、認めるわよ。  
あたしは、あの男のことが気になってる。  
気になってる、なんて控えめな言い方じゃあフォローしきれないほど、気にしてるわよ。  
これって恋愛感情って言うしかないと思うわ。  
だけど、この感情をどうしろと?!  
 
告白?どの面下げて。  
あいつに真面目な顔して「好きです」なんて言ったら、熱でもあんのかって言われるのがオチよ。  
かと言って、このまま秘めておくのは、正直無理そうなのよね。  
今の水あふれ事件といい、昨日はお皿を落っことして割るし。  
一昨日はジョッキに間違ってビネガーついじゃったし。  
あのお客さん、景気よく噴き出してたわねえ・・・  
要は、毎日なんらかの弊害が出てるってわけ。  
父ちゃんにも、「具合悪いのか?」なんて的外れな心配されちゃうしさ。  
この調子だとあたし、ぼーっとして店を全焼させかねないわ・・・  
 
そんなこんなで、あたしは本気で苦悩している。  
だというのに、毎日能天気な顔して店に顔を出すあいつを見ると、全部あんたのせいなのよとマジギレしたくなるのよ。  
いったいあたしはどうすりゃいいの!?  
思わず床の雑巾に突っ伏しそうになったところへ、当のオーシのご機嫌な声が聞こえた。  
 
「おーいリタ、おかわりっ」  
「はーいただいまー」  
 
ウエイトレスにあるまじき、我ながら気のない返事だわ。  
雑巾を打ち捨てると重い腰をあげ、オーシのテーブルへ生ビールを運ぶ。  
 
「おめえ、なにシケた面してんだ?  
 おおわかったぞ、さては男がらみだろ!?」  
 
当事者に図星を指されて心臓が飛び上がる。  
 
「なな・・・んなわけないでしょ!  
 男にかかずりあってる暇なんてないわよ!!」  
「お、ビンゴか?  
 んな、必死になって隠さなくてもいいだろーが。喧嘩か?フラれたか?  
 ぬはは、罪な奴だなぁ、その男は」  
 
・・・あんたよ、あんた。その罪な男は。  
 
「俺なら、おめえさんくらいべっぴんで、キモの座った女なら大事にするぜえ?  
 気がつええのも手ごたえがあるしよ。ぎゃははははっ」  
 
ほんとに!?と喉まででかかる言葉を飲み込み、とりあえず持っていたトレイで後頭部を張り倒しておく。  
ぐえっと蛙のつぶれたような声が聞こえたけど、無視。  
厨房に駆け戻ると、客席の見えない陰で深呼吸をする。  
くー、よくやった、あたし。  
よくまぁあそこで飲み込めたわよ。  
 
そりゃ今のは、間違いなく酔っ払いの管巻きでしょうけどね。  
そうわかってるのに、飛び上がりそうに喜んでる自分にムカつくわ。  
ああやって適当な言葉で振り回されて、喜んだり落ち込んだり・・・  
情けない!いくらなんでも情けなさすぎだわ。  
こんなのあたしじゃないっ!  
これでいいのか、リタ!  
 
 
そしてあたしはここにいる。  
お客がひけて店じまい作業を済ませた後、腹をくくって乗り込んだのは、村はずれにあるオーシの家。  
ガンガンガンと力任せにドアを叩く。  
ドアが開き、顔を出したオーシは、仁王立ちしているあたしに目を丸くした。  
 
「およ?リタじゃねえか。うちに来るたあ珍しいな」  
「話があんのよ。入るわよ」  
 
返事も待たず、まだ酒臭いオーシの脇をすり抜け、ずかずかと入り込む。  
部屋は意外にも、本人の汚げな風貌とは裏腹に、一応整理されていた。  
 
「なんだか知らんが、とりあえず座れや」  
 
首をひねりながら、ひとつしかない椅子を勧めてくれたオーシ。  
彼の顔を見ないように、どしんと座る。  
オーシはすぐ傍らのベッドに腰掛け、ポケットを探って煙草を取り出し、口にくわえた。  
 
「で?こんな時間に、何の用だ?」  
 
確かに、時計はもうすぐ0時を指してるんだけど。  
あんたが確実に家にいるのは、カジノもうちの店も閉まった後しかないんだから、仕方ないでしょ。  
深呼吸して、言葉を搾り出す。  
 
「あのさぁ、迷惑なのよ」  
 
不審げな顔をするオーシ。  
 
「はぁ?俺、おめえさんになんかしたか?」  
「したわよ、した!」  
「えーと・・・この前、酔って看板蹴ってへこませた件か?」  
「・・・それも迷惑だったけど、今日はその話じゃないわ」  
「じゃあ・・・ビールの本数ちょろまかした、あれか?」  
「・・・そんなことしてたのね」  
「げ、違うのかよ。言うんじゃなかったなぁ。  
 じゃあ、いったい何しに来たんだ?」  
 
あくびをしながら尋ねるオーシ。  
まったく緊迫感のない呑気なやり取りに、あたしはキレた。  
 
「全然違う!あのねっ!!  
 あたしはもう、あんたに振り回されたくないのよ。  
 あんたのせいで、あたしの平穏な毎日は台無しだわ。  
 自分のペースを取り戻したいのよ。  
 あんたの一挙手一投足に踊らされて、一喜一憂してるなんてもう嫌なの!」  
 
我ながら、見事に脈絡のない内容を、つばをとばして怒鳴り倒す。  
オーシの口から、くわえていた煙草がぽろりとおちた。  
 
「どういうこった?なんか、全然わけわかんねえぞ。  
 なんで俺がお前さんを振り回してることになんだよ?」  
 
聞くか、それを。  
言わせるか、あたしに。  
 
「あんた・・・今の話で、わかんなかったの?」  
 
わかんないでしょうね。  
でも、ここで言わなきゃ女がすたる。ええ、言いますとも。  
あたし、そのためにここへ来たんだもの。  
 
「・・・あたしを、あんたの女にしてちょうだい」  
 
あたしの言葉にしばし固まっていたオーシは、ゆっくりと口を開いた。  
 
「それって、つまり・・・」  
「まったくもう、そこまで言わせるの?  
 あたし、あんたのことが、好きなのよっ!」  
 
目の前の男を見据えて、言い放った。  
顔が真っ赤なのは百も承知。  
 
「リタ・・・目がすわってんぞ」  
「ほっといてよ」  
 
オーシの額には、一気に浮かび上がった玉の汗。  
汗かきたいのはこっちだわ。  
ぎん、と真正面から睨み据える。  
 
「で?返事は?」  
「・・・」  
 
黙っているオーシ。  
あ、ダメかも。望み薄って言わない?こういうのって。  
 
「・・・嫌なの?嫌なら嫌でいいわよ。・・・あきらめるから」  
 
そうよ、曖昧にごまかされるより、振られたほうが余程すっきりするわ。  
するといつもの皮肉げな調子に戻ったオーシは言った。  
 
「へぇ、じゃああきらめきれるわけだ」  
「・・・仕方ないじゃない。無理強いするわけにはいかないしさ」  
 
あーあ、あたし振られちゃうわけね。  
一世一代の気合を振り絞ったというのに・・・  
 
「じゃあ、なんでそんなにシケた面してんだよ」  
「ったりまえでしょ!  
 好きな男に振られてヘラヘラ笑えるほど、あたしは無神経じゃないわよ!!」  
 
力任せに怒鳴り散らして立ち上がりかけたその時。  
オーシのごつい手があたしの手首をつかんだ。  
そのままオーシの胸に引き寄せられる。  
頑丈な胸板に真正面からぶち当たるあたし。  
 
「は、鼻打ったじゃないのよっ」  
 
あたしのささやかな抗議は黙殺され、オーシの腕の中にぎゅうっと抱き込まれる。  
さっきから駆け足だった動悸は、一気に全力疾走し始めた。  
な、なんなの?  
あたし、振られたんじゃなかったの??  
頭を疑問が飛びかってめまいがするわ。  
 
帰ってからシャワーを浴びたらしく、Tシャツから石鹸の香りが漂う。  
熱を帯びたたくましい腕。  
頬に触れるのは、ザラザラした無精髭。  
そして耳に入ってきたのは、信じられないくらいやさしい声だった。  
 
「マジ、と思っていいみてえだな」  
「え」  
 
思わずオーシの顔を見直そうと顔をあげ・・・ようとしたが、ぐいと押さえ込まれた。  
だから痛いってば。  
 
「見んなって、照れるからよ」  
 
確かに、視界に入ってくるオーシの太い首は日焼けの上に赤くなって、ずず黒い。  
 
「からかわれてんのかと思ったぜ。  
 女にコクられるなんてよ、何年ぶりだ?はは。  
 覚えてねえや。覚えてねえけど・・・嬉しいもんだなぁ」  
「じゃあ、オーシ」  
「おう。振るわけがねーだろ、こんないい女をよ」  
 
ぎゅうぎゅうとさらに抱きしめられた。  
負けじとこっちも腕に精一杯力をこめて、抱きしめ返す。  
 
あぁ・・・疲れた。ひと仕事終えた気がするわ。  
あたしの片思い、実ったって言うんでしょうね、これって。  
抱き合ったまましみじみと感慨にふけっていると、突然両の二の腕をつかまれ、オーシの体から引き剥がされた。  
 
「さ、もう帰れ」  
 
えー?今やっと思いが通じたっていうのに帰れですって?  
もうちょっと、こうしていたのが人情ってもんじゃないのよ。  
 
「嫌よ。まだいいじゃない。あんたって冷たいのね」  
「そうじゃねえよ」  
 
オーシはあたしの両手を離すと、ガリガリと頭をかいた。  
そっぽを向いた真剣な顔。  
 
「俺も・・・男だからな。見てのとおり。わかるか?」  
 
それが何を意味しているか、わからないほど子供じゃないわ。  
伊達に客商売やっちゃいない。  
そりゃあもう、年季の入った耳年間ですからね。  
 
それに・・・経験はなくとも、あたしだって性欲というものは持ち合わせてる。  
好きな男とそういうことをしてみたい、と思うのは当然でしょ。  
臆病な気持ちは押し隠し、精一杯の虚勢を張って、つぶやく。  
 
「あたしも・・・女なんだけど?」  
「知らねえぞ。オヤジさんに叱られても」  
「・・・朝までには帰るわよ」  
 
あーあ、言っちゃった。  
ちょっとリタ、あんた初めての癖して、なに慣れたフリしてんのよ?  
うそぶく自分に思わず突っ込む。  
オーシはニヤっと笑うと、そんなあたしの頭をくしゃっとつかんだ。  
 
「それなら助かる。  
 嫁入り前のおめえさんを朝帰りさせちゃ、オヤジさんに殺されかねんからな」  
 
ひょいと抱き寄せられ、そのままベッドに押し倒される。  
よ、よかった。このシーツ、いちお洗濯してありそうだわ。  
そんなボケたことを考えて安心していると、目の前にオーシの顔がぬっとあらわれ、そのまま唇をふさがれた。  
煙草の苦味のするキス。  
これがあたしのファーストキスになるわけかぁ・・・  
そして・・・え、エッチも同じタイミングになるわけよね。  
これって結構珍しいかも・・・  
意外に冷静に、オーシのキスを受け止めていたあたし。  
だけどそうしていられたのは、唇の隙間に舌が割り込んでくるまでの短い間だった。  
 
オーシの熱い舌が、あたしの口の中を這い回る。  
感じたこともないぬめった感触。  
舌を吸い上げられ、唇をべろりと舐められると、背筋を電流が駆け上る。  
むさぼるような長いキス。  
オーシの唇は頬伝いに、あたしの耳へと這っていった。  
耳たぶを甘がみされ、下を耳孔に差し込まれる。  
 
「ぁんっ」  
「・・・かなり敏感だな。  
 んな姿、初めて見るけど、十分女っぽいぜ」  
 
あ、当たり前でしょ・・・こんな自分、自分でも初めてお目にかかるわよ。  
耳に熱い息を吹きかけながら、首筋、胸元へと下がっていく唇。  
肌に無精ひげがちくちくと当たり、それがまた意外に気持ちよかったりして。  
そのままあっさりと胸元がはだけられた。  
オーシは両手にあたしの両胸をつかんでやわらかく愛撫し、時々ぺろりと先端の突起を舐め上げられ、のけぞるあたし。  
 
「・・ひぁっ・・・」  
「かわいいじゃねえか、リタ。  
 普段の顔からは、微塵も想像もつかねえや」  
 
・・・想像されてたまるもんですか。  
油断すると口から漏れそうになる喘ぎを飲み込みながら、密かに反論。  
 
ひょいと身をおこしたオーシは、あっという間にあたしの服を全部剥ぎ取った。  
この人って・・・意外に慣れてるわよね。  
女の転がし方っていうの?鮮やかというか手馴れてるっていうか・・・  
年も年だし、やっぱ色々経験あるのかしら。  
・・・あるわよね、そりゃ。当たり前だわ。  
 
急に恥ずかしくなり、傍らにあった掛け布団を引っかぶる。  
そんなあたしを横目で見ながら、オーシは両腕を交差させてTシャツをすぽりと脱いだ。  
冒険者と言っても問題ないほど、厚い胸板があらわになる。  
・・・か、かっこいいじゃないの。  
なんだかドキドキしてるわね、あたしってば。  
顔がいい男はなんとも思わないけど、逞しい体の男には惹かれるもんがあるわ。  
だからこいつを好きになったってのも、正直頷けるんだけど。  
 
あたしの視線に気づいているのかいないのか、そ知らぬ顔でズボンを床に脱ぎ捨てたオーシ。  
 
「ほれ、んなかっこしてちゃできねーだろ?」  
「そんなこと言ったって・・・」  
「あんだよ」  
「・・・結構慣れてるなーとか思ったりして」  
 
途端、ぺしっと頭をはたかれた。  
 
「何言ってんだよ。もうどんだけご無沙汰かっ」  
「嘘ぉー。彼女とかいたんじゃないの?」  
「やかましい。んなもんいりゃ、とっくに結婚しとるわい」  
「・・・それもそうね」  
 
お説ごもっとも。  
そんなことを言ってる間に、せっかく身を隠してくれていた布団はあっさりと引き剥がされた。  
 
「おっ。こりゃまた色っぺえなあ。さすがはナイスバディ」  
 
オーシは笑いを含みながら大きな体をあたしに覆いかぶせ、閉じていた脚を体が割る。  
再び胸に唇をよせられ、軽く吐息が口をついて出た時、脚の間に伸ばされた彼の手。  
体の中心に、ぱしん!と火花が散った気がした。  
 
「・・やっ!」  
「おい・・・もう濡れてやがるぜ」  
 
オーシの下卑た言葉に、顔が瞬間沸騰したように紅潮する。  
トマト並みの熟れっぷりじゃないかしら・・・  
 
太い指が、あたしの過敏な芽を撫ぜ、まわりの襞をなぞる。  
湿った感触と、じんじん熱をもったその部分がピクンと震えた。  
そのまま、彼の指はあたしの中へとねじ込まれた。  
 
「・・ん・・・あぁっ・・・」  
 
ねちゃ、ぐちゃ、という卑猥な音をたてて出し入れされるオーシの指。  
はじめはゆっくりだったそれは、だんだんとリズミカルに動きを早める。  
押し込まれ、また半分抜かれる度に、シーツに飛沫が散っているのがわかった。  
 
「もう大丈夫だろ。・・・リタ、いいか?」  
 
閉じていた目をあけると、少しギラついた表情の男がいた。  
今までならただのエロオヤジ、って感想を持つとこだろうけど、今のあたしにならわかる。  
きっとこういう表情を、セクシーって言うんだわ。  
 
「・・・嫌、だったら・・・最初から来ないわよ・・・」  
「それを聞いて安心したぜ。  
 さすがの俺も、ここで止められちゃかなわんからな」  
 
オーシが引き抜いた指には、あたしの蜜がねっとりとまといつき、糸を引いている。  
その蜜の量の多さに驚くと同時に、抜かれた指にどことなく不満に感じた自分に気づいて愕然とした。  
あ、あたしって、結構スケベだったんだ。  
初めての癖して、こんなに感じちゃうなんて・・・ねぇ。  
あたしがひとり自己嫌悪していると、いつの間にか下着を脱いでいたオーシ。  
その股間には・・・り、立派って言うんでしょうねえ、こういうの。  
父ちゃん以外の成人男性のものなんて、見ることないからわかんないんだけどさ。  
ほとんど垂直という角度まで、拳を突き上げたような格好で立ち上がっている、ソレ。  
太いわ長いわ・・・こんなの、入るわけ?ほんとに。  
遠慮もなく、ついしげしげと眺めていたあたしにオーシは苦笑した。  
 
「おい、んなじっくり見てんじゃねえよ」  
「ご、ごめん」  
「心配すんな。痛くねえように、ゆっくりやっからよ」  
 
あたしは大きく両足を開かされ、オーシはそっと自分自身をあてがった。  
ごくごく軽く腰を揺らすようにしながら、その先端であたしの入り口をつつく。  
あたしは敏感な部分を刺激され、声を漏らさないように唇を噛む。  
でも、擦るように、すり付けるようにするばかりで、一向に入れようとはしない。  
オーシのソレはあたしの液体でさらに滑らかに滑るけれど、もどかしい疼きのような快感が地を這うように続くばかり。  
逃げ場を見つけられないあたしは、半べそでオーシの腕をつかんだ。  
 
「ねえっ・・・」  
「ん?」  
「・・・」  
「欲しいのか?」  
「・・・」  
 
オーシの問いに、かあっと熱くなる頬を隠すように、そっぽを向く。  
これが欲しいという感覚なのかどうか、あたしは知らない。  
だって処女ですもん。  
けど、このやり場のないもどかしさは、きっとそれを求めているんだと思うから。  
あたしのその部分は、オーシに、この疼きを鎮めて欲しがっている。  
 
オーシはもう一度あたしにキスすると、じわりと腰を進めた。  
なにか、硬くて熱いものがあたしの中に入ってくるのがわかる。  
それに伴うのは、めりめりっと何かが裂けるような感触。  
 
「・・・ぁやっ・・・く・・っ」  
「・・・きっつー・・・っておい」  
 
涙目になるあたしに、オーシは呆然としたように  
 
「おめえさん、まさか」  
「し失礼ね、あたしは初めてよっ!」  
 
痛みと怒りにまかせて怒鳴り返す。  
彼は失礼にも吹き出し、あたしの中に入ったままで大笑いした。  
お、おなかに響くっ、笑い声が響くってば!!  
 
「そ、そりゃそうだよなー。すまんすまん」  
 
顔に笑いを残したままで、彼はゆっくりと腰を動かし始めた。  
動きに合わせて、鈍い痛みがおなかの奥に響く。  
なのに・・・あれ?なんだか・・・・気持ちよくなってきたんだけど・・・  
はじめはキツキツで張り裂けそうだったそこは、潤滑油のような滴に助けられ、どんどん動きはスムーズになる。  
太ももを伝うのは、さらさらした液体と、ねばっこい・・・おそらく、血じゃないかな。  
襞を押し分け、過敏な突起をかすめながら出し入れされるオーシ自身。  
痛みはだんだんと軽減し、奥底から沸いてくるような快感に覆われていった。  
 
「・・あ・・っ・・・はぁ・・・ん」  
 
あたしの顔を覗き込み、満足そうなオーシ。  
全身にびっしょりと汗をかいている。  
 
「その表情は・・・気持ちいんだろ?」  
「・・・いいわ・・・よ」  
 
腰は休まず動かしながら、彼の指があたしの額に張り付いた髪をかきあげる。  
そして何を思ったか、つながったままだというのにあたしの背に手を回し、軽々と抱き起こした。  
 
「よっと」  
 
そのままあたしを持ち上げると、一番奥まで埋め込まれていたオーシのものが半分ほど抜ける。  
腰を浮かせてあぐらをかいたオーシは、突然あたしを支えていた手を離した。  
 
「ぃやあぁぁんっ!!」  
「うおぉ・・・いいねえ・・・」  
 
自分の体重で自然落下したあたしは、一気にオーシに貫かれる。  
ずぶっと言ういやらしい音とともに感じたのは、今まで感じたことのない、弾けるような快感。  
 
「・・きゃ・・・やぁ・・・んっ・・・」  
 
そのままオーシは、荒く息をしながら何度も楔を突き上げる。  
あたしは階段を2段飛ばしで上るように上り詰め、その瞬間、オーシのものをくわえた部分がぎゅっと収縮するのがわかった。  
オーシの体に爪をたててしがみつく。  
もはやこらえきれず、あられもない声で鳴くあたし。  
 
「・・・あ・・だめえぇ・・・っ」  
「う、リタ・・・んな締めたらいっちまう・・・っ」  
 
耳元でオーシの絞るようなうめき声がした。  
びくっと一瞬縮んだオーシのそれは、あたしの中に熱い精を放った。  
呼吸するかのようにどくどくと脈打ちながら。  
 
オーシの太い腕での腕枕されてはいるけど、あたしはまっすぐ天井を見上げている。  
なんだか照れくさくて彼の顔が見づらいのよね。  
あたしのそんな事情も知らず、オーシのでかい顔が視界内に割り込んできた。  
 
「どうした?痛てえのか?」  
「ううん、大丈夫よ」  
「・・・すまなかったな」  
「なにが」  
 
侘びの言葉が全く似合わない満面の笑み。  
 
「あんまり気持ちいいもんだから、つい中で出しちまった」  
「・・・赤ん坊抱えて乗り込むからいいわよ」  
「迎え撃つぜ。俺も男だ。やったことの責任はとる」  
 
突然真面目な顔になったオーシに、焦る必要はないのになぜか焦るあたし。  
 
「冗談だってば」  
「冗談じゃねえよ。元気な子を産んでくれ」  
 
あのさあ、いくらなんでも気が早いと思うけど?  
 
「・・・ま、その時はよろしくね」  
「おう」  
 
なんだか、初Hした後だというのに、果てしなく変な会話してる気がするんだけど。  
あたし、この人と結婚すんのかしら。結婚!?  
そこまで考えちゃいなかったんだけど、既にそういう流れになってない?  
・・・ま、いっかぁ。  
惚れた上に初めて抱かれた男と結婚するのも、悪くないわね。  
ふふ、初恋で初体験の相手かあ。  
なかなかに乙女ちっくでいいじゃないの。  
相手がこの髭面オヤジだから、ムードぶち壊しだけどね。  
 
「なあ」  
「何よ」  
「浮気すんなよ」  
「しないわよ」  
「本当だぜ。おめえさん、べっぴんだから心配なんだよ」  
「・・・しつこいわね。殴られたいの」  
「・・・ごめんなさい」  
 
早くも尻にしいた気がするのは気のせいかしら。  
軽くため息をつくと、時計が4時を指しているのに気づいた。  
あ、まずい。  
そろそろ帰らなきゃ、父ちゃんにバレちゃうじゃないの。  
ふと見ると、オーシは寝ていた。  
なんかゴーゴーうるさいと思ったら・・・  
口は半開きだし、あーあ、なんてアホ面なのよ。  
・・・かわいいんだから、ったくもう。  
 
我ながら信じられない感想をもらすとあたしは、オーシの腕をすり抜けた。  
にぎやかな鼾をBGMに、床に散らばった服を拾って身に着ける。  
ほつれまくった髪を結いなおすと、そっと扉を開けて、オーシの家を後にした。  
うわ、もう空が白んできてる。急げっ。  
あたしは深呼吸をひとつすると、家に向かって駆け出した。  
 
 

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