「よーよーリタ、おまえさんって、けっこうべっぴんだよな」
「何よ、ツケにしろって言うの?」
「・・・そうじゃねえけど・・・
いやぁ、しみじみと見ると意外になあ。
見事なまでに女っぽくはねぇけど。ぬはははっ」
既にジョッキを数杯あけて赤ら顔のオーシは、トレイを持ったあたしをじろじろと見ながら大笑いした。
ぎろりとひと睨み。
「割り増し料金、とられたいわけね」
「・・・すまん」
「わかればいいのよ」
おとなしくなったオーシを一瞥すると、あたしはあいたテーブルのお皿を片付けた。
意図的に不機嫌な表情を崩さないまま、お皿の山に向かってこっそりため息をつく。
はぁ・・・素直じゃないなぁ、あたしも。
ぶっちゃけ、気になってる男に一応ほめられてるのに、即座にやりこめるしかできないなんて・・・
いくらなんでもかわいくないわよ。
え?誰を気になってるかって?
話の流れで、もうだいたいわかんでしょ?
・・・ええそうよ、あの汚いかっこした中年オヤジよ。
悪趣味で悪かったわねえっ!!と、天を仰いで絶叫したくなる。
だけどさ、仕方ないじゃないの。
店で忙しい毎日じゃ、ろくな男との出会いはないし。
って、いやオーシは十分ろくでもない男なんだけど・・・それを言ったら話が終わってしまう。
クレイだのトラップだのといった、いわゆる有望株には興味ないからね、あたし。
あの膨大な人数のパワフルな親衛隊を考えると、怖気がふるうわ。
あたしはまだ命が惜しいですからね。
そもそも、シルバーリーブなんて田舎町には、いい男なんていない。いるわけがない。
いたらとっくにアクション起こして、猪鹿亭の跡継ぎくらいこしらえてるわよっ!
って、誰に言い訳してるのかしら、あたしは。
洗い場から客席をそっと盗み見る。
4人がけテーブルをひとりで占拠し、大ジョッキを片手に近場のオヤジと盛り上がっている、あいつ。
オーシ。
胡散臭いシナリオ屋で、汚げな格好に無精ひげの、押しも押されぬただの中年オヤジ。
見るからに独身、当然ながら彼女なんていなさそう。
あたしがそれを喜んでいいのか、微妙なとこだけどさ。
一番しょっちゅう顔つきあわす常連だし、まぁ話すことも多いわよね。
ほとんどからまれてあしらってるだけだったはず。
・・・それだけだったはずなのに、なんでこうなっちゃったんだか。
はぁ。とりあえず、このジョッキと皿を洗わなきゃ。
大きな水瓶から手桶で汲んだ水を、洗い桶に注ぎこみながら考える。
あれは・・・市場まで仕入れに行った時だから、先週のことだったかしら。
ついつい、安売りの食材を買いすぎたのよね。
調子に乗って買いだめして、いつもの倍はあったと思う。
それを両手に抱えた、よろよろしながら抱えての帰り道、何度目かの休憩をしていた時のこと。
「おいリタ、また今日の荷物は随分と重そうじゃねえか」
「オーシ、み、見てるんなら手伝ってよ!」
「やなこった・・・と言いたいとこだが、ほれ貸しな」
ニヤっと笑ったオーシは、あたしが四苦八苦していた巨大な紙袋をひょいっと奪い取ると、スタスタ歩き出した。
「ま、待ってよ」
慌てて追いかけるあたしを振り返った彼は、
「こんなので重いってか?
おめえさんも意外に華奢じゃねえか。かわいいとこあんだなー」
「かっ・・・殴るわよ!」
一気に顔にのぼった血の気のやり場に困り、とりあえず怒鳴っておく。
・・・そう、これだけ。これだけなのよ。
ご都合主義な漫画じゃあるまいし、なんてありがちなのっ。
あれからというもの、オーシが気になってしかたない、あたし。
オヤジだけど。
姿をみかけるたび、ついつい眼で追いかけてしまう。
オヤジだけど。
いや、もうそれはこの際いいわ。
自分の意外なひ弱さを認識させられた、というか・・・
酔っ払いの戯言や店での挨拶代わりじゃなく、かわいいなんて言われたことが・・ええと・・・
ああぁっ、もうわけわかんない。
自分が情けないったらありゃしない!
このあたしが、こんなにも簡単に恋に落ちるだなんて!!
それもあの、ボンクラオヤジに!!!
「ね、ねえちゃん、水・・・」
恐る恐る話しかけてきたルタ。
どうやら、考えながらひたすら水を汲み続けていたらしいあたし。
手元の桶はとっくに水があふれ、床まで水浸しだった。
「うわっ!」
「何やってんの?・・・」
「ちょ、ちょっと考え事してたのよ」
ルタを追いやり、慌てて雑巾で床を拭く。
拭きながら、またも重いため息が口をつく。
あれ以来、ずっとこんな感じで、調子が狂うったらないんだから。
ええ、認めるわよ。
あたしは、あの男のことが気になってる。
気になってる、なんて控えめな言い方じゃあフォローしきれないほど、気にしてるわよ。
これって恋愛感情って言うしかないと思うわ。
だけど、この感情をどうしろと?!
告白?どの面下げて。
あいつに真面目な顔して「好きです」なんて言ったら、熱でもあんのかって言われるのがオチよ。
かと言って、このまま秘めておくのは、正直無理そうなのよね。
今の水あふれ事件といい、昨日はお皿を落っことして割るし。
一昨日はジョッキに間違ってビネガーついじゃったし。
あのお客さん、景気よく噴き出してたわねえ・・・
要は、毎日なんらかの弊害が出てるってわけ。
父ちゃんにも、「具合悪いのか?」なんて的外れな心配されちゃうしさ。
この調子だとあたし、ぼーっとして店を全焼させかねないわ・・・
そんなこんなで、あたしは本気で苦悩している。
だというのに、毎日能天気な顔して店に顔を出すあいつを見ると、全部あんたのせいなのよとマジギレしたくなるのよ。
いったいあたしはどうすりゃいいの!?
思わず床の雑巾に突っ伏しそうになったところへ、当のオーシのご機嫌な声が聞こえた。
「おーいリタ、おかわりっ」
「はーいただいまー」
ウエイトレスにあるまじき、我ながら気のない返事だわ。
雑巾を打ち捨てると重い腰をあげ、オーシのテーブルへ生ビールを運ぶ。
「おめえ、なにシケた面してんだ?
おおわかったぞ、さては男がらみだろ!?」
当事者に図星を指されて心臓が飛び上がる。
「なな・・・んなわけないでしょ!
男にかかずりあってる暇なんてないわよ!!」
「お、ビンゴか?
んな、必死になって隠さなくてもいいだろーが。喧嘩か?フラれたか?
ぬはは、罪な奴だなぁ、その男は」
・・・あんたよ、あんた。その罪な男は。
「俺なら、おめえさんくらいべっぴんで、キモの座った女なら大事にするぜえ?
気がつええのも手ごたえがあるしよ。ぎゃははははっ」
ほんとに!?と喉まででかかる言葉を飲み込み、とりあえず持っていたトレイで後頭部を張り倒しておく。
ぐえっと蛙のつぶれたような声が聞こえたけど、無視。
厨房に駆け戻ると、客席の見えない陰で深呼吸をする。
くー、よくやった、あたし。
よくまぁあそこで飲み込めたわよ。
そりゃ今のは、間違いなく酔っ払いの管巻きでしょうけどね。
そうわかってるのに、飛び上がりそうに喜んでる自分にムカつくわ。
ああやって適当な言葉で振り回されて、喜んだり落ち込んだり・・・
情けない!いくらなんでも情けなさすぎだわ。
こんなのあたしじゃないっ!
これでいいのか、リタ!
そしてあたしはここにいる。
お客がひけて店じまい作業を済ませた後、腹をくくって乗り込んだのは、村はずれにあるオーシの家。
ガンガンガンと力任せにドアを叩く。
ドアが開き、顔を出したオーシは、仁王立ちしているあたしに目を丸くした。
「およ?リタじゃねえか。うちに来るたあ珍しいな」
「話があんのよ。入るわよ」
返事も待たず、まだ酒臭いオーシの脇をすり抜け、ずかずかと入り込む。
部屋は意外にも、本人の汚げな風貌とは裏腹に、一応整理されていた。
「なんだか知らんが、とりあえず座れや」
首をひねりながら、ひとつしかない椅子を勧めてくれたオーシ。
彼の顔を見ないように、どしんと座る。
オーシはすぐ傍らのベッドに腰掛け、ポケットを探って煙草を取り出し、口にくわえた。
「で?こんな時間に、何の用だ?」
確かに、時計はもうすぐ0時を指してるんだけど。
あんたが確実に家にいるのは、カジノもうちの店も閉まった後しかないんだから、仕方ないでしょ。
深呼吸して、言葉を搾り出す。
「あのさぁ、迷惑なのよ」
不審げな顔をするオーシ。
「はぁ?俺、おめえさんになんかしたか?」
「したわよ、した!」
「えーと・・・この前、酔って看板蹴ってへこませた件か?」
「・・・それも迷惑だったけど、今日はその話じゃないわ」
「じゃあ・・・ビールの本数ちょろまかした、あれか?」
「・・・そんなことしてたのね」
「げ、違うのかよ。言うんじゃなかったなぁ。
じゃあ、いったい何しに来たんだ?」
あくびをしながら尋ねるオーシ。
まったく緊迫感のない呑気なやり取りに、あたしはキレた。
「全然違う!あのねっ!!
あたしはもう、あんたに振り回されたくないのよ。
あんたのせいで、あたしの平穏な毎日は台無しだわ。
自分のペースを取り戻したいのよ。
あんたの一挙手一投足に踊らされて、一喜一憂してるなんてもう嫌なの!」
我ながら、見事に脈絡のない内容を、つばをとばして怒鳴り倒す。
オーシの口から、くわえていた煙草がぽろりとおちた。
「どういうこった?なんか、全然わけわかんねえぞ。
なんで俺がお前さんを振り回してることになんだよ?」
聞くか、それを。
言わせるか、あたしに。
「あんた・・・今の話で、わかんなかったの?」
わかんないでしょうね。
でも、ここで言わなきゃ女がすたる。ええ、言いますとも。
あたし、そのためにここへ来たんだもの。
「・・・あたしを、あんたの女にしてちょうだい」
あたしの言葉にしばし固まっていたオーシは、ゆっくりと口を開いた。
「それって、つまり・・・」
「まったくもう、そこまで言わせるの?
あたし、あんたのことが、好きなのよっ!」
目の前の男を見据えて、言い放った。
顔が真っ赤なのは百も承知。
「リタ・・・目がすわってんぞ」
「ほっといてよ」
オーシの額には、一気に浮かび上がった玉の汗。
汗かきたいのはこっちだわ。
ぎん、と真正面から睨み据える。
「で?返事は?」
「・・・」
黙っているオーシ。
あ、ダメかも。望み薄って言わない?こういうのって。
「・・・嫌なの?嫌なら嫌でいいわよ。・・・あきらめるから」
そうよ、曖昧にごまかされるより、振られたほうが余程すっきりするわ。
するといつもの皮肉げな調子に戻ったオーシは言った。
「へぇ、じゃああきらめきれるわけだ」
「・・・仕方ないじゃない。無理強いするわけにはいかないしさ」
あーあ、あたし振られちゃうわけね。
一世一代の気合を振り絞ったというのに・・・
「じゃあ、なんでそんなにシケた面してんだよ」
「ったりまえでしょ!
好きな男に振られてヘラヘラ笑えるほど、あたしは無神経じゃないわよ!!」
力任せに怒鳴り散らして立ち上がりかけたその時。
オーシのごつい手があたしの手首をつかんだ。
そのままオーシの胸に引き寄せられる。
頑丈な胸板に真正面からぶち当たるあたし。
「は、鼻打ったじゃないのよっ」
あたしのささやかな抗議は黙殺され、オーシの腕の中にぎゅうっと抱き込まれる。
さっきから駆け足だった動悸は、一気に全力疾走し始めた。
な、なんなの?
あたし、振られたんじゃなかったの??
頭を疑問が飛びかってめまいがするわ。
帰ってからシャワーを浴びたらしく、Tシャツから石鹸の香りが漂う。
熱を帯びたたくましい腕。
頬に触れるのは、ザラザラした無精髭。
そして耳に入ってきたのは、信じられないくらいやさしい声だった。
「マジ、と思っていいみてえだな」
「え」
思わずオーシの顔を見直そうと顔をあげ・・・ようとしたが、ぐいと押さえ込まれた。
だから痛いってば。
「見んなって、照れるからよ」
確かに、視界に入ってくるオーシの太い首は日焼けの上に赤くなって、ずず黒い。
「からかわれてんのかと思ったぜ。
女にコクられるなんてよ、何年ぶりだ?はは。
覚えてねえや。覚えてねえけど・・・嬉しいもんだなぁ」
「じゃあ、オーシ」
「おう。振るわけがねーだろ、こんないい女をよ」
ぎゅうぎゅうとさらに抱きしめられた。
負けじとこっちも腕に精一杯力をこめて、抱きしめ返す。
あぁ・・・疲れた。ひと仕事終えた気がするわ。
あたしの片思い、実ったって言うんでしょうね、これって。
抱き合ったまましみじみと感慨にふけっていると、突然両の二の腕をつかまれ、オーシの体から引き剥がされた。
「さ、もう帰れ」
えー?今やっと思いが通じたっていうのに帰れですって?
もうちょっと、こうしていたのが人情ってもんじゃないのよ。
「嫌よ。まだいいじゃない。あんたって冷たいのね」
「そうじゃねえよ」
オーシはあたしの両手を離すと、ガリガリと頭をかいた。
そっぽを向いた真剣な顔。
「俺も・・・男だからな。見てのとおり。わかるか?」
それが何を意味しているか、わからないほど子供じゃないわ。
伊達に客商売やっちゃいない。
そりゃあもう、年季の入った耳年間ですからね。
それに・・・経験はなくとも、あたしだって性欲というものは持ち合わせてる。
好きな男とそういうことをしてみたい、と思うのは当然でしょ。
臆病な気持ちは押し隠し、精一杯の虚勢を張って、つぶやく。
「あたしも・・・女なんだけど?」
「知らねえぞ。オヤジさんに叱られても」
「・・・朝までには帰るわよ」
あーあ、言っちゃった。
ちょっとリタ、あんた初めての癖して、なに慣れたフリしてんのよ?
うそぶく自分に思わず突っ込む。
オーシはニヤっと笑うと、そんなあたしの頭をくしゃっとつかんだ。
「それなら助かる。
嫁入り前のおめえさんを朝帰りさせちゃ、オヤジさんに殺されかねんからな」
ひょいと抱き寄せられ、そのままベッドに押し倒される。
よ、よかった。このシーツ、いちお洗濯してありそうだわ。
そんなボケたことを考えて安心していると、目の前にオーシの顔がぬっとあらわれ、そのまま唇をふさがれた。
煙草の苦味のするキス。
これがあたしのファーストキスになるわけかぁ・・・
そして・・・え、エッチも同じタイミングになるわけよね。
これって結構珍しいかも・・・
意外に冷静に、オーシのキスを受け止めていたあたし。
だけどそうしていられたのは、唇の隙間に舌が割り込んでくるまでの短い間だった。
オーシの熱い舌が、あたしの口の中を這い回る。
感じたこともないぬめった感触。
舌を吸い上げられ、唇をべろりと舐められると、背筋を電流が駆け上る。
むさぼるような長いキス。
オーシの唇は頬伝いに、あたしの耳へと這っていった。
耳たぶを甘がみされ、下を耳孔に差し込まれる。
「ぁんっ」
「・・・かなり敏感だな。
んな姿、初めて見るけど、十分女っぽいぜ」
あ、当たり前でしょ・・・こんな自分、自分でも初めてお目にかかるわよ。
耳に熱い息を吹きかけながら、首筋、胸元へと下がっていく唇。
肌に無精ひげがちくちくと当たり、それがまた意外に気持ちよかったりして。
そのままあっさりと胸元がはだけられた。
オーシは両手にあたしの両胸をつかんでやわらかく愛撫し、時々ぺろりと先端の突起を舐め上げられ、のけぞるあたし。
「・・ひぁっ・・・」
「かわいいじゃねえか、リタ。
普段の顔からは、微塵も想像もつかねえや」
・・・想像されてたまるもんですか。
油断すると口から漏れそうになる喘ぎを飲み込みながら、密かに反論。
ひょいと身をおこしたオーシは、あっという間にあたしの服を全部剥ぎ取った。
この人って・・・意外に慣れてるわよね。
女の転がし方っていうの?鮮やかというか手馴れてるっていうか・・・
年も年だし、やっぱ色々経験あるのかしら。
・・・あるわよね、そりゃ。当たり前だわ。
急に恥ずかしくなり、傍らにあった掛け布団を引っかぶる。
そんなあたしを横目で見ながら、オーシは両腕を交差させてTシャツをすぽりと脱いだ。
冒険者と言っても問題ないほど、厚い胸板があらわになる。
・・・か、かっこいいじゃないの。
なんだかドキドキしてるわね、あたしってば。
顔がいい男はなんとも思わないけど、逞しい体の男には惹かれるもんがあるわ。
だからこいつを好きになったってのも、正直頷けるんだけど。
あたしの視線に気づいているのかいないのか、そ知らぬ顔でズボンを床に脱ぎ捨てたオーシ。
「ほれ、んなかっこしてちゃできねーだろ?」
「そんなこと言ったって・・・」
「あんだよ」
「・・・結構慣れてるなーとか思ったりして」
途端、ぺしっと頭をはたかれた。
「何言ってんだよ。もうどんだけご無沙汰かっ」
「嘘ぉー。彼女とかいたんじゃないの?」
「やかましい。んなもんいりゃ、とっくに結婚しとるわい」
「・・・それもそうね」
お説ごもっとも。
そんなことを言ってる間に、せっかく身を隠してくれていた布団はあっさりと引き剥がされた。
「おっ。こりゃまた色っぺえなあ。さすがはナイスバディ」
オーシは笑いを含みながら大きな体をあたしに覆いかぶせ、閉じていた脚を体が割る。
再び胸に唇をよせられ、軽く吐息が口をついて出た時、脚の間に伸ばされた彼の手。
体の中心に、ぱしん!と火花が散った気がした。
「・・やっ!」
「おい・・・もう濡れてやがるぜ」
オーシの下卑た言葉に、顔が瞬間沸騰したように紅潮する。
トマト並みの熟れっぷりじゃないかしら・・・
太い指が、あたしの過敏な芽を撫ぜ、まわりの襞をなぞる。
湿った感触と、じんじん熱をもったその部分がピクンと震えた。
そのまま、彼の指はあたしの中へとねじ込まれた。
「・・ん・・・あぁっ・・・」
ねちゃ、ぐちゃ、という卑猥な音をたてて出し入れされるオーシの指。
はじめはゆっくりだったそれは、だんだんとリズミカルに動きを早める。
押し込まれ、また半分抜かれる度に、シーツに飛沫が散っているのがわかった。
「もう大丈夫だろ。・・・リタ、いいか?」
閉じていた目をあけると、少しギラついた表情の男がいた。
今までならただのエロオヤジ、って感想を持つとこだろうけど、今のあたしにならわかる。
きっとこういう表情を、セクシーって言うんだわ。
「・・・嫌、だったら・・・最初から来ないわよ・・・」
「それを聞いて安心したぜ。
さすがの俺も、ここで止められちゃかなわんからな」
オーシが引き抜いた指には、あたしの蜜がねっとりとまといつき、糸を引いている。
その蜜の量の多さに驚くと同時に、抜かれた指にどことなく不満に感じた自分に気づいて愕然とした。
あ、あたしって、結構スケベだったんだ。
初めての癖して、こんなに感じちゃうなんて・・・ねぇ。
あたしがひとり自己嫌悪していると、いつの間にか下着を脱いでいたオーシ。
その股間には・・・り、立派って言うんでしょうねえ、こういうの。
父ちゃん以外の成人男性のものなんて、見ることないからわかんないんだけどさ。
ほとんど垂直という角度まで、拳を突き上げたような格好で立ち上がっている、ソレ。
太いわ長いわ・・・こんなの、入るわけ?ほんとに。
遠慮もなく、ついしげしげと眺めていたあたしにオーシは苦笑した。
「おい、んなじっくり見てんじゃねえよ」
「ご、ごめん」
「心配すんな。痛くねえように、ゆっくりやっからよ」
あたしは大きく両足を開かされ、オーシはそっと自分自身をあてがった。
ごくごく軽く腰を揺らすようにしながら、その先端であたしの入り口をつつく。
あたしは敏感な部分を刺激され、声を漏らさないように唇を噛む。
でも、擦るように、すり付けるようにするばかりで、一向に入れようとはしない。
オーシのソレはあたしの液体でさらに滑らかに滑るけれど、もどかしい疼きのような快感が地を這うように続くばかり。
逃げ場を見つけられないあたしは、半べそでオーシの腕をつかんだ。
「ねえっ・・・」
「ん?」
「・・・」
「欲しいのか?」
「・・・」
オーシの問いに、かあっと熱くなる頬を隠すように、そっぽを向く。
これが欲しいという感覚なのかどうか、あたしは知らない。
だって処女ですもん。
けど、このやり場のないもどかしさは、きっとそれを求めているんだと思うから。
あたしのその部分は、オーシに、この疼きを鎮めて欲しがっている。
オーシはもう一度あたしにキスすると、じわりと腰を進めた。
なにか、硬くて熱いものがあたしの中に入ってくるのがわかる。
それに伴うのは、めりめりっと何かが裂けるような感触。
「・・・ぁやっ・・・く・・っ」
「・・・きっつー・・・っておい」
涙目になるあたしに、オーシは呆然としたように
「おめえさん、まさか」
「し失礼ね、あたしは初めてよっ!」
痛みと怒りにまかせて怒鳴り返す。
彼は失礼にも吹き出し、あたしの中に入ったままで大笑いした。
お、おなかに響くっ、笑い声が響くってば!!
「そ、そりゃそうだよなー。すまんすまん」
顔に笑いを残したままで、彼はゆっくりと腰を動かし始めた。
動きに合わせて、鈍い痛みがおなかの奥に響く。
なのに・・・あれ?なんだか・・・・気持ちよくなってきたんだけど・・・
はじめはキツキツで張り裂けそうだったそこは、潤滑油のような滴に助けられ、どんどん動きはスムーズになる。
太ももを伝うのは、さらさらした液体と、ねばっこい・・・おそらく、血じゃないかな。
襞を押し分け、過敏な突起をかすめながら出し入れされるオーシ自身。
痛みはだんだんと軽減し、奥底から沸いてくるような快感に覆われていった。
「・・あ・・っ・・・はぁ・・・ん」
あたしの顔を覗き込み、満足そうなオーシ。
全身にびっしょりと汗をかいている。
「その表情は・・・気持ちいんだろ?」
「・・・いいわ・・・よ」
腰は休まず動かしながら、彼の指があたしの額に張り付いた髪をかきあげる。
そして何を思ったか、つながったままだというのにあたしの背に手を回し、軽々と抱き起こした。
「よっと」
そのままあたしを持ち上げると、一番奥まで埋め込まれていたオーシのものが半分ほど抜ける。
腰を浮かせてあぐらをかいたオーシは、突然あたしを支えていた手を離した。
「ぃやあぁぁんっ!!」
「うおぉ・・・いいねえ・・・」
自分の体重で自然落下したあたしは、一気にオーシに貫かれる。
ずぶっと言ういやらしい音とともに感じたのは、今まで感じたことのない、弾けるような快感。
「・・きゃ・・・やぁ・・・んっ・・・」
そのままオーシは、荒く息をしながら何度も楔を突き上げる。
あたしは階段を2段飛ばしで上るように上り詰め、その瞬間、オーシのものをくわえた部分がぎゅっと収縮するのがわかった。
オーシの体に爪をたててしがみつく。
もはやこらえきれず、あられもない声で鳴くあたし。
「・・・あ・・だめえぇ・・・っ」
「う、リタ・・・んな締めたらいっちまう・・・っ」
耳元でオーシの絞るようなうめき声がした。
びくっと一瞬縮んだオーシのそれは、あたしの中に熱い精を放った。
呼吸するかのようにどくどくと脈打ちながら。
オーシの太い腕での腕枕されてはいるけど、あたしはまっすぐ天井を見上げている。
なんだか照れくさくて彼の顔が見づらいのよね。
あたしのそんな事情も知らず、オーシのでかい顔が視界内に割り込んできた。
「どうした?痛てえのか?」
「ううん、大丈夫よ」
「・・・すまなかったな」
「なにが」
侘びの言葉が全く似合わない満面の笑み。
「あんまり気持ちいいもんだから、つい中で出しちまった」
「・・・赤ん坊抱えて乗り込むからいいわよ」
「迎え撃つぜ。俺も男だ。やったことの責任はとる」
突然真面目な顔になったオーシに、焦る必要はないのになぜか焦るあたし。
「冗談だってば」
「冗談じゃねえよ。元気な子を産んでくれ」
あのさあ、いくらなんでも気が早いと思うけど?
「・・・ま、その時はよろしくね」
「おう」
なんだか、初Hした後だというのに、果てしなく変な会話してる気がするんだけど。
あたし、この人と結婚すんのかしら。結婚!?
そこまで考えちゃいなかったんだけど、既にそういう流れになってない?
・・・ま、いっかぁ。
惚れた上に初めて抱かれた男と結婚するのも、悪くないわね。
ふふ、初恋で初体験の相手かあ。
なかなかに乙女ちっくでいいじゃないの。
相手がこの髭面オヤジだから、ムードぶち壊しだけどね。
「なあ」
「何よ」
「浮気すんなよ」
「しないわよ」
「本当だぜ。おめえさん、べっぴんだから心配なんだよ」
「・・・しつこいわね。殴られたいの」
「・・・ごめんなさい」
早くも尻にしいた気がするのは気のせいかしら。
軽くため息をつくと、時計が4時を指しているのに気づいた。
あ、まずい。
そろそろ帰らなきゃ、父ちゃんにバレちゃうじゃないの。
ふと見ると、オーシは寝ていた。
なんかゴーゴーうるさいと思ったら・・・
口は半開きだし、あーあ、なんてアホ面なのよ。
・・・かわいいんだから、ったくもう。
我ながら信じられない感想をもらすとあたしは、オーシの腕をすり抜けた。
にぎやかな鼾をBGMに、床に散らばった服を拾って身に着ける。
ほつれまくった髪を結いなおすと、そっと扉を開けて、オーシの家を後にした。
うわ、もう空が白んできてる。急げっ。
あたしは深呼吸をひとつすると、家に向かって駆け出した。