ここはドーマ、トラップの家。  
小さめの客間だけど、今日はひとりで休ませてもらってる。  
ルーミィがトラップのお母さんに懐いちゃって、一緒に寝るって言い出したんだよね。  
く、クッキーに釣られたのぉ!?  
一応保護者の身としては寂しくないこともないんだけど、実は密かに喜んじゃった。  
1人でベッド占領できるなんて、滅多にないことだしさあ・・・  
ちょっと冷たい?わたしってば。  
 
食後、台所からもらってきたミルクティーを飲みながら、窓の外を眺める。  
一面に星がチカチカ瞬いて、吸い込まれそうな夜空。  
 
先日のクエスト中、トラップがヨウグス蛾の鱗粉にやられて発症しちゃったんだよね。  
でも無事特効薬を飲ませることができたから、今はここで療養してるんだ。  
トラップ、もうそろそろ完治するかな?  
さっきも大量に夕食をかっこんでたし、減らず口も戻ってきたみたいだし。  
この調子なら、来週にはシルバーリーブに戻れるだろうか。  
 
ぼーっと考え込んでいたわたしの視界に、人影が現れた。  
馬に跨った人影だから、正しくは、人影プラス馬影。  
お客さんかな?誰だろう。星明りじゃよく見えないや。  
その人は、入り口あたりでひらりと馬を下りた。  
そのへんの木に手綱を結びつけると、真っ直ぐ玄関に歩いてくる。  
しばらくすると階下から、トラップのお母さんの声が聞こえた。  
 
「パステルー!お客さんだよー」  
「はーいっ」  
 
え?さっきの人だよね?誰?  
ミルクティーのマグカップを机に置くと、慌てて部屋を飛び出す。  
階段を駆け下りた目の前は玄関。  
そこにいたのは、すらりとした長身、ツンツンたった髪に皮肉げな笑顔の・・・アルテアだった。  
 
「よ、パステル」  
「アルテアさん・・・」  
「だからアルテアでいいってば」  
「は、はい。アルテア。どうしてここへ?」  
 
聞けば、ナリスアでのモンスターが全部鎮圧できたので、戻ってきたんだって。  
そうそう、随分あの時はお世話になったんだよね。  
ついこの前のことなのに、もう随分前のことみたいに感じるから、不思議。  
 
「で、さ。ちょっとそこまで付き合わない?」  
「はい?」  
「イムサイの奴、実家に立ち寄ってから来るって言ってたから、すぐここに来るよ。  
 それまでの間」  
「はあ」  
 
わたしに何の用だろう?  
首をひねりながら頷くと、嬉しそうに笑ったアルテアは、玄関横の台所に声をかけた。  
 
「おかみさーん、パステルをちょっと借りますよ。すぐ戻りますから」  
「あ?あぁ、はいはい」  
 
食事の後片付けに手が離せないんだろう。  
トラップのお母さんの声だけが飛んできた。  
その言葉を確認すると、アルテアはわたしを外へ促した。  
 
「さ、おいで」  
 
何がなんだかわからないままついていく。  
アルテアはつないであった馬にひらりと跨ると、わたしをひょいと馬上に引っ張りあげた。  
軽やかなアンブルでパカパカと歩き出す栗毛の馬。  
 
「さて、どこへ行こうかなぁ」  
「は??」  
「いやなに、すぐイムサイが来ちゃうからね。  
 猶予は・・・15分ほどか。短っ!  
 そんな短時間じゃ、ゆっくり話すこともできやしないよなぁ」  
「あのぉ・・・話って何ですか?」  
「ま、もう少し歩いてからね。  
 ったく、ちょっと人目を避ける場所もないなんて、なんて不便な町なんだ。ここは。  
 かといって、ウチへ連れ込むわけにもいかないしなぁ・・・」  
「つ、連れ込むって、あの」  
 
意思の疎通ができてない会話をしつつ、たどり着いた場所は、アンダーソン家の牧場。  
いつぞや、わたしが迷った場所じゃなかったっけ?そういえば。  
そのまま馬は、牧場をぐるりと囲む小路をゆっくりと歩く。  
 
「パステルさぁ、クレイのこと好きなの?」  
「えぇ!?な、なんでそうなるんですかっ!」  
 
あまりといえばあまりに唐突な質問に、慌てて背後を振り仰ごうとして、馬から落ちそうになるわたし。  
 
「あれ、違うのか。じゃあトラップは?」  
「み、皆パーティの仲間ですよ。家族みたいなもんですから!」  
 
力をこめて反論すると、アルテアは、  
 
「ははは、そっか・・・いや、一応確認しとかないとと思ってさ」  
 
確認?何を??  
なんだかもう、アルテアが何を言いたいのかさっぱりわからないんですけど。  
 
手綱から手を離すアルテア。馬はその場に立ち止まった。  
つと伸びてきた手はわたしのウエストをつかむ。  
そのままひょいと抱き上げると、馬上でくるりと横向きに座らされた。  
右斜め上にあるのは、アルテアの端正な顔。  
 
「あの・・・」  
「パステル」  
 
いきなり、ぎゅううっと抱きすくめられた。  
装備をつけていない逞しい胸に、ぐいぐい押し付けられる。  
 
「きゃあっ!」  
「ほら、暴れない暴れない」  
 
心臓が弾み、止めようがないほどどきどきして、手を突っ張って精一杯身をもぎ離す。  
 
「じょ、冗談はやめてください」  
「おや心外だな。冗談じゃないんだけど?」  
 
いたずらっぽい笑顔をしたアルテアはわたしの手を軽く払うと、再びわたしを抱き寄せながら斜めに唇を覆い被せてきた。  
一気に頬に血がのぼる。  
 
「・・・ん・・・っ!」  
 
かたく抱き込まれて、身をよじることもできない。  
重ねられた唇から伸びてきた舌は口内に忍び込む。  
熱くて甘くて、なのに不思議にさわやかなキス。  
やっと唇が離れると、思わずため息がもれる。  
 
「眼ぇうるませちゃって。かわいいなぁ、ほんと。」  
「・・・どう、して・・・」  
 
にっこりと笑うアルテア。  
もう一度軽くちゅ、と啄ばむように口付けられた。  
明るい鳶色の瞳が、嬉しそうにキラキラ輝いてる。  
 
「俺、君のこと気に入ったんだ。駄目かな?俺じゃ」  
「えぇ!?駄目も何もっ・・・」  
 
それこそ何かの冗談でしょ?  
アルテアとイムサイといえば、とんでもない規模のファンクラブまであるらしいし、ロンザ騎士団随一の人気者と聞いてるし。  
そんな、天上人がなぜわたしに?  
疑問を顔いっぱいに貼りつかせたわたしに答えるように、彼はつぶやいた。  
 
「きゃーきゃー言ってくれる女の子達も、かわいらしいし悪くはないんだけどね。  
 アイドル扱いされんの、もう飽きた。  
 それに、パステルみたいに純粋でかわいい子っていないんだよ。新鮮なんだよなぁ」  
 
アルテアは片手でわたしを抱きしめたまま、残る片手を胸元に這わせてきた。  
ひとつ、ふたつとボタンを外し、開いた隙間から手を差し入れる。  
 
「ひゃあ・・・っ」  
「だから暴れないでって。落馬するよ。骨折りたくないだろ?」  
 
さらに強くわたしを抱く、逞しい腕。  
胸を弄んでいた手は、ミニスカートの中へ入ってくる。  
 
「あ、胸だけでこんなにして。  
 パステルってかなり敏感なんだな」  
 
笑いを含ませながら、下着の上から確かめていたアルテアの指。  
それが、するりと布と肌の隙間を縫うように忍び込んで。  
甘い声が耳に囁いた。  
 
「忘れられないようにしてあげるから」  
 
ずぶ、という音と共に、わたしの中へ差し込まれた指。  
 
「・・やぁ・・・んっ」  
「きついね・・・当たり前か。初めてだよな」  
 
つぶやきながらアルテアは、中におさめた指をゆっくりと動かし、別の指で襞をかきわけると、一番敏感な部分にふれた。  
中を擦られ、先端をいじくられ、卑猥な音が静かな中に響く。  
疼きに呼応するように、奥から奥から、とろとろと溢れてくる液体。  
きっと鞍まで伝ってるんじゃないだろうか。  
アルテアの指は何の苦もなく滑り、足の間に脈打つような鼓動を感じる。  
本数が増やされ、出し入れされるスピードが加速的にあがると共に、わたしのその部分が痙攣するのがわかった。  
 
「あぁ・・・やぁ・・・っ」  
「いいよ、イッて」  
 
先端を強く弾かれた時、目の前が真っ白になった。  
馬から落ちるほどにのけぞるわたしを、しっかりと抱きとめるアルテア。  
しばらくすると視界に色が戻り、荒い息をつく。  
目の前数センチのところに、わたしを覗き込むアルテアの瞳があった。  
 
「かわいい。かわいすぎるなぁ、パステル」  
 
心底嬉しそうな顔をして、おでこにまぶたに頬に唇に、キスの雨が降る。  
 
「もう、君は俺のだよ。いいね。  
 俺の指・・・覚えただろ?」  
 
かあっと顔が真っ赤になる。  
いや、とっくに真っ赤なんだけど。  
アルテアはわたしの服を直してくれると、わたしの両手をとって自分にしがみつかせた。  
なんだか、まだふわふわしてる感じがするなぁ。  
思わずアルテアの胸に顔を埋める。  
彼は再び手綱を握ると、馬の鼻面を来た方向へ向け直した。  
ゆっくりと歩き出す馬。  
 
「今日は時間がないし、次の任務があるからね。  
 すぐドーマを発たなきゃならない。  
 でも。  
 次会った時は、もっとよくしてあげる」  
 
アルテアは、いとおしげな光を眼に宿すと、そっとキスした。  
あわせたままの形のいい唇がつぶやいたのは、甘い束縛。  
 
「俺を忘れないで」  
 
どう答えていいのかわからなかったけど、わたしは小さく頷いた。  
 
忘れない。  
忘れようったって、無理。  
きっとこれから、ロンザ騎士団の動向が気になるだろう。  
ドーマに来る機会が増えればいい、と願うわたしがいるだろう。  
 
アルテアは夜目にも輝く大きな腕時計に眼をやると、  
 
「あ、まずい。もう15分たっちゃってるぜ。  
 イムサイ、怒ってるかもなぁ」  
 
と、馬の腹に蹴りを入れた。  
足取りはアンブルからトロットへうつり、誰もいない夜道を早足で駆ける。  
 
それは、星の降るような夜の。  
突然の嵐のような出来事だった。  
 

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