なんでこんなことになっちまったんだが・・・
俺は、背中ですやすやと眠るパステルに眼をやった。
完全に体の力を抜いて、全身を俺に預けている。
く・・・寝てる奴や死んだ奴の体ほど重いもんはねぇというが、ありゃ本当だな。
そりゃあもうずっしりと、背中にかかる重みにため息をつく。
事の起こりは猪鹿亭だ。
いつものように揃ってメシを食ってた俺たち。
久々にカジノで大勝した俺は超ご機嫌だったんだよなぁ。
珍しくクレイにビールおごってやる!って言うとパステルが、
「えーわたしにも何かおごってよぉ!」
なんぞと駄々こねやがった。
いつもなら一笑に付すとこだが、今日の俺様は機嫌がいいんだ。まかせとけ!
「おぉ、じゃーリタ!ビール追加だ!」
「おいトラップ、パステルにビールなんて・・・飲めるのか?」
「飲んだことないけどさあ。
でも、いつも2人とも飲んでるじゃない!わたしも飲んでみたい!」
クレイのごく常識的な問いに、頬を膨らませてすねるパステル。
ちくしょー、こいつ可愛いじゃねえか。
こんなことでもなきゃ、この鈍感女におねだりされる、なんてナイスなシチュエーションにはお眼にかかれない。
既に何杯もジョッキをあけていい気分だった上に、密かに思いを寄せる女の上目遣い。
これでオチなきゃ男がすたるってもんだろーが!
「いいじゃん、クレイ。これも人生経験ってもんよ!
ほれ、パステル、ぐっといけ!」
「いや、おい、トラップ」
止めるクレイを振り切り、パステルにジョッキを手渡す。
しかしだ。
あいつが、一口飲んで苦いとぶーたれた時点でやめときゃよかったんだ。
口に含むから苦いんだ、一気に飲んで喉越しを楽しめだなんて、レクチャーした俺が愚かだったよ。
はい、ごめんなさい。
そして素直に一気飲みした結果が、今俺の背中に乗っかるパステル、という構図だ。
そりゃそうだよな、酒飲んだこともねぇ奴にビール一気飲みさせりゃあ、酔って当たり前だ。
あっという間にへべれけモードに突入したパステル、歌うわ踊るわおかわりを要求するわの大騒ぎ。
こっ、この大トラ野郎が・・・
クレイにゃだから言っただろうと俺が怒られた。
ルーミィとシロは露骨にビビって近づきゃしないし。
ノルは困った眼をしたまま何もフォローもしてくれない(当たりめえか)。
キットンは無表情に鞄をさぐり、おごそかに俺の手に怪しげな丸薬を握らせた。
「これ、後でパステルに飲ませてあげてください。二日酔い防止の薬です」
「後で・・・って、おい、この酔っ払い置いてく気かよ!」
俺の叫びに、世にも冷たい視線をくれたのは竹アーマーの騎士。
「飲ませたおまえが悪い。責任持って連れて帰ってこい」
至極もっともなクレイの言葉に、うんうんと頷く一同。
俺はがっくりと頭を垂れた。
俺の隣には、机に突っ伏して平和そうに寝ているパステル。
水を運んできたリタは、横目でパステルを眺めるとニヤリと笑ってつぶやいた。
「ま、トラップの自業自得ね。毎度あり」
そして、冒頭シーンにつながるわけだ。
立ち止まり、ずりずりと下がってくるパステルを、どっこいしょと担ぎなおす。
何度かの休息を入れながらようやくたどり着いたみすず旅館だが、表玄関閉まってやがる・・・
そうか、もう夜中だもんなぁ。
仕方ねえので裏口にまわり、ポケットの鍵をさぐる。
俺はよく夜中に帰ってくっから、おかみさんから一応裏口の鍵だけ借りてんだよな。
が、しかし。くまなくポケットを探すが、鍵はない。
やべ、部屋に置いてきたか?
まぁいいや。外から2階の部屋に入るぐれえ、俺には造作ねぇこった。
パステルを背中からおろし、裏口の扉前に座らせる・・・が、何度座らせてもズルズル滑って寝転んじまうぜ、この酔っ払いは。
ま、冬じゃねんだし、すぐ戻るから良しとしよう。
とりあえず、裏口前に敷き詰められた石畳の上に寝かせて立ち上がろうとした時、甘ったるげな吐息が聞こえた。
「ん・・・」
思わず動きが止まる。
パステルは硬い石の上でで寝返りをうっていた。
真上を向かせていたはずが、横向きに体を倒し、こちらを向いている。
ミニスカートがめくれ、あと一歩で中身が見えちまう・・・って、俺、手を伸ばすなっつーの。
俺の意思とは別に・・・いや隠れた意思を表現した?右手を自らの左手で抑える。
必死で目をそらすが、そらした先が悪かった。
よじれた胸元から、白い肌がのぞいている。
胸の真ん中あたりのボタンがひとつ外れ、見え隠れする肌とブラ。
うおおおおおぉぉ・・・っ・・・ひとり身もだえする俺。
いいいや待て、そんなところ開けてちゃ、か・風邪ひいちまうよな?
さっき冬じゃねんだからと、気にもせず石の上に寝かせた事実はこの際忘れる。
外れたボタンに向かって震える手を伸ばす。
っておい、俺!
ボタンをはめる予定が、なんで別のボタンを外してんだよ!?
煩悩の波は、かろうじて抗う俺をじわじわと押し流していく。
上からみっつめまでボタンを外した、罪深き俺様の繊細な指。
あらわになったふくらみに、そっと手を伸ばすと、ぷにっという感触。
や、柔らけぇ・・・初めて触れた女の肌に、感涙にむせびそうになっている自分が情けない。
恐る恐るブラと肌の隙間に手を差し入れる。
ほんのりあたたかくて、どことなくしっとりしたパステルの胸。
掌中にふにふにと転がすうち、先端部分が自己主張をし始めた。
おぉぉ、勃ってきやがったぜ。
俺の股間みてえだな・・・そんなアホな感想を内心もらしつつ、そっとつまんでみる。
うぉっと!!ね、寝返り打たんでくれ、この状況下で。
焦って手を引き抜くと、パステルは体の向きを仰向けに変え、また寝息を立て始めた。
はーっ、はーっ、あ、焦った・・・
今起きられちまったら、なんと言い訳すりゃあいいんだか。
どこかへ旅立っていた理性が半分ほど戻ってくる。
ここでぐっとこらえて鍵を取りに行くのが得策かな・・・名残惜しいが・・・
パステルの寝姿を未練がましく眺めていた俺は、思わず目をむいた。
仰向けの姿勢で寝たまま、おもむろに片足を曲げて立てたパステル。
俺は今、こいつの足元側にしゃがみこんでいる。
ということはだ。
すなわち、こいつのミニスカートの中が丸見え、ってことで・・・
あぁ・・・せっかく戻った理性は、またも長い旅に出ちまった。
もう当分戻ってくることはねえだろう・・・
そおっと体制を変え、さらにパステルの足元よりに体を移動させる。
すると、たてた膝とめくれたスカートの奥に、まぶしく光る白い下着が拝めた。
いや待て俺、なんで手を合わせてるんだっ。
拝んでどうする、拝んで。
ブンブン首を振って邪念を払い落とすと、俺はパステルの脚の間にゆっくりと分け入った。
身をかがめ、下着の上からその部分にそっと触れてみる。
もちろん、初めて目にする下着。そしてその中身・・・
やっぱ、ここで引き返すわけにはいかねえだろ?
いっちょ拝ませてもらって・・・いやしつこいようだが拝む必要はないんだっつーの。
深呼吸して気合を入れる。
何か気合の入れる方向が限りなく間違ってる気もするが・・・
盗賊仕込みの器用な俺の指。
微妙にパステルの腰を浮かさせつつ、するっと下着をおろしてやる。
はああぁぁぁ・・・こうなってるんですか。女ってのは。
見様見真似で指を舐めると、そのほの赤い部分に触れてみる。
先端に何やらつん、と突出した部分を見つけ、こねるようにすると、黙って寝ていただけのパステルが軽い吐息をもらした。
心臓が跳ね上がる。
半分身を引きながらその表情に目をやると、少々頬が赤い。
寝ちゃいるけど感じてんのか?もしかして。
そして、奥の方からじわりと出てきた液体に確信する。
感じやすいんだな、こいつ・・・
そう思った途端、鼻の奥がつんと熱くなる。やべっ。
げげっ、ちょっと待て、ここで鼻血たらす気かよっ!?
んな勝負どころで鼻血出しちゃー末代までの恥だ!誰も見てねえけど。
ぐっと鼻をつまみ、深呼吸する。すーはーすーはー。
男トラップ、ここで真の男になる時だ!さぁ今こそ!!
そして、パステルの膝上まで引きおろしていた下着を、この際完全に脱がせようとむんずと掴む。
途端、いきなり何の前触れもなく、がばっと身を起こしたパステル。
「・・ルーミィ、このスライムにはコールドよ!コールドおぉ・・・」
俺の愛撫も無視して正体なく寝入っていたはずのパステルは、唐突に目を覚ましたかと思うと絶叫した。
そして、叫ぶだけ叫んでまた寝ちまいやがった。
っておめぇ、し、心臓が止まるかと思ったろうがぁ!!!
肋骨を突き破りそうなほどバクバクいう心臓。
クエストの夢でも見て寝ぼけたか・・・はぁ・・・
しかし、さすがにこの叫びで我に返る。
いくらなんでもここで入れちまうのはまじいか・・・
よし、とりあえず旅館の中に入れて・・・と、脱がせかけた下着を直してやったその時だった。
ガチャっと鍵を解除する音をともに、目の前のドアが開いた。
そこに立っていたのは、今一番会いたくなかった・・・クレイ。
「お前何やってんだ?
うるさいと思ったら今頃帰ってき・・・」
言葉半ばにして固まったクレイの目線の先には、半分胸をはだけてしどけなく寝転んだパステル。
そして、恐ろしく間の悪いことに、直した下着からまだ手を離してない・・・俺。
クレイの背後に、みるみるうちに黒いオーラが立ちのぼる。
顔を一気に紅潮させたクレイは、ワナワナと手を震わせながら俺を怒鳴りつけた。
「と、トラップ、貴様、なんてことしてるんだっ!!」
「いやクレイ、誤解だ、俺は着せてやってるだけで・・・」
「脱がせたのはおまえだろうーーーー!!」
そのとおりです。お怒りごもっとも。
クレイの怒号に、うっすら目をあけたパステル。
よいしょと身を起こし、目をこすりながら俺をクレイの顔を交互に見る。
「・・・あれ?ふたりとも何してんのぉ・・・?」
「パステル、大丈夫か?」
「ん?あぁ、クレイ・・・」
まとった黒いオーラに不釣合いなほどの笑顔をパステルに向け、クレイはゆっくりと俺に向き直った。
おい、今気づいたが、なんでおめえソード持ってんだ?
この上なく嫌な予感がし、そおっと後ずさる。
すると、ぽかんと不思議そうな顔をしていたパステルが、突如口をおさえて呻いた。
「ん・・・くっ」
「どうした、パステルっ。トラップに何かされたのかっ?!」
なんつう人聞きの悪い・・・
そりゃそうだけどよ、あぁ確かに間違っちゃいねえけどよっ。
クレイは慌てて屈みこんでパステルの背中をさすった。
この隙を逃してはならじと俺が回れ右したその瞬間、不幸は舞い降りた。
予想にたがわず、クレイの上へと。
「き・・・気持ちわるぅいぃ・・・うえぇぇっ」
「うわわっ、パステル!!」
振り返らなくてもわかる。
いや、振り返らないほうがいい。
あいつ・・・クレイめがけて吐いたな・・・位置的にモロだよな・・・
さすがは不幸の代名詞だけのことはあるよな。
もう少しクレイが出てくるのが遅けりゃ、あれは俺の役だったはずだから。
とりあえず、明日のクレイの怒りは、今は考えないことにする。
そそくさと逃走する俺の耳に、パステルの呻きとクレイの半泣き声が間遠になっていった。