外は、雨。
バケツをひっくり返したような勢いで、まさに土砂降り、っつーのがぴったりの降り方だ。
月も星も覆い隠した真っ暗闇だのに、時々昼間みてえに明るくなる。
ゴロ・・・ゴゴゴ・・・
さっきから腹の底に響き渡るような低音で、轟いているのは雷鳴。
おぉ、また派手に光りやがった。たーまやー。
「きゃあああああっ!!」
うるせぇなー・・・
さっきから聞こえていたけたたましい悲鳴。
絹を裂くような・・・いや、こいつの場合は雑巾破いたような・・・
その絶叫と共に俺のいる台所へ駆け込んできたパステルは、俺の姿を認めると転がるように飛びついてきた。
あのさ、重てえんだけど。
でも今そんなことを言えば、まず間違いなく張り倒されるだろうから黙っておく。
「と、トラップぅ・・・こわいよおーーーっ」
「怖いっておめ、たかが雷だろ?」
「たかがって・・・こわいもんはこわいんだよぉ」
半べそで抱きついてくる。
いや、こりゃさばおりとか言う技じゃねんだろか。
くくく苦しい。締め上げんな。
「そんなに嫌なら、さっさと寝りゃよかったろうが」
「だってぇ、原稿が・・・」
「そーゆーのを、後悔役に立たず、ってんだぜ」
パステルは、伏せていた顔をあげ、冷たい瞳でまっすぐ俺を見つめた。
「・・・先、だと思うよ」
「じゃかあしい」
きゃーのきゃーの言ってる割には、サックリ突っ込みやがる。生意気な。
と、また稲光と同時に落雷音が耳をつんざく。
「いいいっやぁぁぁーーーーーーっ!!!」
み、耳が変になるってゆってんだろーがあ!
頼むから、俺を身動きできん羽交い絞め状態にしておいて、耳元で絶叫すんのはやめてくれ。
おめえは俺の聴覚を破壊する気か。
とっとと放り捨てて部屋に戻りたいところだが、火事場のなんとか状態でしがみつかれ、手を振りほどくこともできん。
しかし、喜んで鼓膜を差し出す趣味は、俺にはねぇし・・・
ふと、いたずらっ気が起きる。
次の雷鳴のタイミングをはかり・・・お、きたっ。
「きゃあ・・・ん!?んーーーー!」
斜め上からかぶせるようにやかましい口をふさぐ。
ざまあ見やがれ、これで叫べんだろうが。
「ん!ん!」
こら、暴れんな。
痛てぇって、引っかくんじゃねえよ。
騒ぐわ暴れるわ、手負いの熊じゃあるめえし。
やっと黙ったようなのでおもむろに唇を解放してやる。
しがみついたままの体制で、呆然と俺を見上げるパステル。
「と、トラップ・・・」
「け、おめえがうるせえからだろ」
ピカッとばかりに、フラッシュを焚いたような派手な稲光があたりを照らした。
「いやあー・・・ぁむっ!ん!」
だぁらおめえは黙ってろって。もういいから叫ぶな。
俺の目の前数センチの位置のパステルの顔。
目を見開いたまま、反応もしねぇでいやがんの。硬直状態だな。
・・・おし。
ついでに目玉もつぶらせてやる。
キスしたまま、舌でパステルの唇をつつく。
口の中に忍び込み、逃げようとする舌を吸い上げる。
「・・んん・・・っ」
予想通り、ここでパステルは目を閉じた。
となると、さらにあれやこれやしてみたくなるのが、男ってもんじゃねぇ?
邪な誘惑にあっさり魂を預け、パステルの胸元に手を伸ばす。
びくっとした体が離れようとするが、ここでまたでかい雷鳴が響いた。
「んんーーーー!!」
手を離しかけては稲光にビビッてしがみつく、の繰り返し。
離れたいのは山々なんだろうが、怖がりのこいつは手をほどくこともできんらしい。
気の毒な奴だ(笑)
別に拘束した覚えもねえのに、自動的にひとりで捕縛されてるようなパステル。
それをいいことに、キスしたまんまでブラウスのボタンをあけ、
ブラの隙間にぐいっと手を差し込む。
白く、すいつくように柔らかで弾力のある肌にふれた。
胸の先端をつまみ、軽く引っかいてやると、唇の端から吐息がもれる。
「んふっ・・・ん・・・」
胸を揉むにつれ、間隔の短くなる喘ぎ。
すぐ傍の冷蔵庫にパステルの背中を押し付け、手探りでスカートの中に手を伸ばす。
反射的に閉じようとする脚を膝で割り、強引に開かせる。
ここでようやく唇をもぎ離したパステルは、身をよじって抵抗した。
「やっ、やめてっ、離してよ、トラップ!!」
「ん?いいのかよ?離しちまっても」
またもタイミングよく光ったのは稲光。
続いて素晴らしい連係プレーで落雷。
うぉぉ、こりゃまた激しいな。
雷音は、脳天から腹までを一気に貫いた。
一旦は上半身をほどきかけたのに、言葉とは裏腹に貼りついて来るパステルの体。
はいはい、いらっしゃーい。
「ほれ、怖えぇんなら、こうしてな」
左手でパステルの頭を抱え込み、耳にくちづける。
右手は再度スカートの中に這いこませ、下着の上からその部分を探す。
ま、探すまでもなくびしょびしょになってやがんだけどな。
下着の隙間から、襞を探る。
ぬるりとした触感。
「・・・っやぁ・・・あんっ」
頬を染めてあえぐパステル。
俺が下着を一気に引きおろそうと手をかけた、その時。
建物全体と足元をも揺るがすような轟音。
それに続いて、鼓膜も破れよと言わんばかりの破壊的な高音が響いた。
うっへぇ・・・どっか近くに落ちたぞ?こりゃ。
まだ耳がジンジンしてやがる。
目の前のパステルは、俺の体にしがみついたまま、呆然と固まって放心状態。
「と・・・トラップ・・・あれ」
「あん?」
パステルの目線の先は、俺の背後。
振り返ると、窓の外の闇に炎が見えた。
がっちりと俺の服をつかんだままのパステルの手をほどき、窓辺に歩み寄る。
少し先の空き地にある木に落雷したみてえだな。
まぁ、あの空き地にはど真ん中にでかい木が1本しかねえし、火の勢いもたいしたことはないようだし。
「大丈夫だろ。あれならすぐ消えるって」
「・・・ほんと?」
パステルは冷蔵庫にもたれたまま、不安そうな眼で外を見ている。
その時、あちこちのドアが開く音がした。
「まぁ見事に落ちましたね」
「大丈夫だとは思うけどな。一応様子を見てくるか」
「ぱーるぅ、おっきい音がしたおう!こわいおう!!」
「ルーミィしゃん、泣かないでくださいデシ!
パステルおねーしゃん、どこデシかー?」
轟音に飛び起きて、窓から外を見たんであろう、キットンとクレイ。
眼が覚めたらパステルがいないんで泣いているルーミィ、それをなだめるシロ。
口々に好き勝手なことを言いながら、廊下を走る足音が近づいてくる。
・・・いいとこだったのによ。
ま、寸止めも悪くはねえ。
次回へのアンチテーゼ?みてえじゃん。へへっ。
立ち尽くしたまんまでいるパステルの頭を、くしゃっとつかむ。
「じゃっ、続きはまた雷が鳴ったらな!」
ぽかんとしたようなパステル。
その顔に浮かんだのは、ほんのわずかに不満げな表情。
それを認めると、俺は満足げに台所を後にした。