――おめえは、もうぜってー酒を飲むな。  
 わたしが朝起きたとき、パーティー1のトラブルメーカー、趣味はギャンブル、特技毒舌の 
赤毛の盗賊、トラップは、何だかとても疲れた顔で懇願してきた。  
「わたし、お酒なんて飲んでないよ?」  
 そう言い返すと、トラップは何だかさらに疲れたみたいだった。  
 ――覚えてねーならそれでもいいよ。いやよくねーけどなっ! あーもう、何で俺ばっかこ 
んな目にあうんだよっ!!  
 一方的に怒鳴って、部屋を出て行ってしまった。  
 もー、何なのよ! わたしが何したっていうの!?  
 えーと、ゆうべは確か……  
 ……あれ?  
 そういえば、わたし、ゆうべ何してたっけ? それに、何でこんなに頭が痛いの?  
 うーっ、えーと、えーと、順番に思い出そう。確か、昨日は……  
   
「うっひゃー! いい気持ち!」  
 お湯につかって、わたしは思わず声をあげていた。  
 わたし達パーティーは、今、とある温泉街に立ち寄ってるんだよね。  
 目的は、その温泉街の近くにある山に生えてる珍しい薬草を取りにいくためだったんだけど。  
 そこで取れた薬草がびっくりするくらい高値で売れて。  
 で、まあこの先急ぐ用事があるわけでもないし、ってことで、一泊していくことにしたんだ。  
 もうわたしとルーミィはおおはしゃぎ。何しろ、クエストの最中って、滅多にお風呂になん 
か入れないんだよね。せいぜい水で濡れたタオルで身体を拭く程度。まあしょうがないんだけ 
ど。  
 だからこそ、あったかいお風呂に入れるのは貴重な機会なんだ。ふっふっふ、たっぷり堪能 
するぞー!  
 お風呂嫌いなキットンだけは、何だか不満そうだったけどね……もー! こんなに気持ちい 
いのに。  
 ちなみに、今わたしは湯船の中に一人だけ。  
 それもそのはずで、時間的にはもう真夜中過ぎなんだ。  
 もちろん、夕方にも一度入ったんだけど。ルーミィと一緒だと、ゆっくりお湯につかれない 
んだよねー。体洗ってあげたり、頭洗ってあげたり、何やかんやと忙しい。  
 それに、ここって露天風呂なんだけど、一応男女にわけられてるんだけど、間を隔てている 
岩にところどころ隙間があって、覗けるし身軽な人なら簡単に乗り越えられるようなつくりな 
んだよね。  
 男湯の方に誰かがいると、それだけで緊張しちゃってゆっくりできない。  
 だから、皆が寝静まった後で、ゆーっくり入りなおすことにしたんだ。もちろん、明日の朝 
にはもう出発だから、あまり遅くまではいられないけど。  
 ルーミィとシロちゃんはもうぐっすり眠ってたし、クレイは剣の手入れ。キットンは薬草の 
チェック、ノルは、やっぱり部屋の中に入れないから馬小屋を借りることになって、そこの整 
備。  
 トラップは懲りずにカジノに出かけてて、宿はたまたまわたし達しかお客さんがいなかった 
からこの広い温泉が完全に貸切状態! うーん贅沢。  
 というわけで、せっかくだからわたしは外でジュースを一本買って、それを飲みながらゆっ 
くりとお湯を堪能していたのだった。  
 熱いお湯につかって飲む冷たいジュースって、どうしてこんなにおいしいんだろう。  
 はーっ、と岩に持たれて月を眺めていたんだけど……  
 
 うーん? 何だか頭がボーッとしてきたぞ?? もしかして、のぼせたのかな?  
 いやいやいや。まだつかってからそんなに時間は経ってないはず。せっかくだからもう少し、 
もう少し……  
   
 
「あーっ、ちっくしょう。負けた負けた」  
 宿の入り口をくぐりながら、俺は愚痴らずにいられなかった。  
 ったく。たまーに懐があったかいとついついのめりこんじまうのは、俺の悪い癖だよなあ。 
いや、直すつもりは全くねーんだが。  
 初めてのカジノで勝手がわからなかったからだな、うん。次に行くときは、もうかるに違い 
ない。  
 と俺は決め付けることにして、温泉の方へ向かった。  
 よく考えたら、すぐカジノに向かっちまったから、まだ風呂に入ってねーんだよな。こんな 
時間なら誰もいねーだろうし、ゆっくりできるだろう。いつの間にか、もう真夜中になってん 
だよな。  
 というわけで俺は温泉でさっぱりすることにしたのだが。  
 見通しが甘かったことを知ったのは、数分後のことだった。  
   
「あーっ。いーい湯加減じゃねえか」  
 ざっと体を洗って湯につかると、思わず声が漏れる。我ながらじじくせえなあ。  
 こんな広い風呂に入る機会なんて滅多にねーんだし、ゆっくりするか。  
 そうやって俺が岩にもたれて鼻歌なんぞを歌っていると、だ。  
 ぷかぷかぷかと、岩の反対側から何かが流れてきた。どうやらコップみてーだが、空じゃな 
くて中身が少し残ってる。  
「んだよこれ。忘れもんかあ?」  
 ちょっと中身を飲んでみると、甘い味がするがれっきとしたアルコールだった。ここの名物 
でもある「チューハイ」って奴だ。ビールに比べて口当たりがいいんで、女に人気があるらし 
い。  
 ……このとき、俺は何となーく嫌な予感がしたんだよ。  
 根拠なんか何もねえが、鍛えられた野性の勘、って奴だ。  
 ざばざばと湯をかきわけて岩の向こう側にまわりこんでみると……  
 
「ぱ、パステル!?」  
 当たってほしくねー予感に限って当たるんだよなあ……  
 岩に持たれかかって真っ赤な顔で湯に沈みかかってたのは、間違いなく、パーティーの詩人 
兼マッパー、特技は方向音痴の、パステル・G・キング。  
 ……認めたくはねえが、最近やけに俺をいらだたせる奴でもある。こんな色気もなく鈍感き 
わまりない女に振り回されるなんざ、俺もやきがまわったもんだ。  
 ってんなことはどうでもよくて!  
 慌ててパステルの体をひきあげる。……風呂に入ってるんだから当たり前だが、裸。  
 み、見るなトラップ! これは女じゃない! 人間じゃない! 人形だと思え!!  
 自分に必死こいて言い聞かせながら、風呂からひきずりだそうとしたんだが……  
 まあ、状況は一目瞭然だ。ジュースと間違えてアルコールを飲んで、その状態で湯につかっ 
たりしたからあっという間に酔いがまわったんだろう。全くドジな女だぜ。  
 とにかくだ、俺はなるべくパステルの方を見ないようにしながら、すぐに風呂からひきあげ 
ようとしたんだ。やましい気持ちなんか断じてなかった。  
 そりゃあこうして見ると、いくらパステルとはいえ、だ。  
 もともと色白なところにアルコールが入って上気した肌とか、服着てるとよくわかんねえが 
裸になるときっちり自己主張してる胸とか、まあ、その……男の欲情って奴をかきたてる魅力 
が十分に備わってることは、認めてやってもいい。  
 しかしだ! 酔っ払ってるのにつけこんでいただいちまうってのは、いくら俺でも、さすが 
に気がとがめる。他の女ならまあいざ知らず、パステルだけは……  
 ……って何考えてんだ俺はー!!  
 どうも混乱してるのは、その、抱えてるパステルの肌触りとかが、嫌でも裸であることを知 
らせてるわけで。  
 んで、俺の身体は、律儀にそれに反応しかかってるわけで……  
 いやっ、17歳の健康な男子なら、それが当たり前のことじゃないか!? 俺を責めるのは酷 
ってもんだ!!  
 理性があるうちにさっさとパステルに服を着せようとしたんだが……そのときだった。  
 完全に気を失ってると思ったパステルが、ぱっちり目を開けたのは。  
 
 目があった。  
 温泉の中、お互い裸、俺はパステルの体を抱えていた。  
 その状況で、パステルの奴は目を開けやがった。  
 ッわああああああああああああああ!!?  
 思わず叫びそうになったがこらえる。こんな状況で他の奴らまでとびこんできた日には、い 
らん誤解を招くこと間違いなしだ。  
「ぱ、パステル、誤解すんなよ!? お、俺はな、お、おめえをた、たすけ……」  
「……とらっぷぅ?」  
 ところが、焦ってるのは俺一人。パステルは、何だかとろんとした目でじーっと俺を見つめ 
ているが、特に叫ぶ気配も暴れる気配もない。  
 それどころか、にへらっ、としまりのない顔で笑いやがった。  
 ……まだ酔ってやがるな、こいつ。まあ、助かった、というか……それにしても……  
 か、かわいいじゃねえか、ちょっと……  
 何の警戒心も無い顔で無邪気に笑うパステルは、ちょっと、いや、かなり、可愛かった。驚 
きで萎えかけてたのが、再び勢いを取り戻し……  
 や、やべえかも……  
「ぱ、パステル。いいか、さっさと出よう。それがお互いのためだ」  
「……いやぁ」  
「ああ?」  
「いやぁ。まだはいってるぅ」  
 そう言うと、あろうことか、パステルの奴は俺に抱きつきやがった!!  
 ぎゅーっと押し付けられる胸の感触。確実に、理性のたがの一つはぶっとんだ。  
「お、おめえな、俺はおめえのためを思って……」  
「とらっぷもぉ」  
「……あ?」  
「とらっぷもぉ、いっしょにはいろぉ」  
 ななななななな何とんでもねーこと言ってやがるんだこいつは!!  
 や、やべえ。本格的に理性がとびそうだ……  
 何つーか発射寸前、って感じになってしまったモノを抱えて、俺はぶくぶくと湯の中に座り 
込んだ。  
 ど、どーすればいいんだよ!!  
 
 しがみついたパステルは離れない。耳元で吐かれる熱い吐息。上気した肌。しかも悪いこと 
に、体勢が……その、座り込んだ俺の上に、腰掛けるような……やべえってマジでっ!!  
「ぱ、パステル、落ち着け。いいか、落ち着くんだ。こ、こ、この状況はな、ちょっと、洒落 
にならんというか……」  
「なによぉ。とらっぷは、わたしのこと、きらいなのぉ?」  
「いやっ、好きとか嫌いとかそーいう問題じゃなくてだな!」  
「じゃあー、すきなのぉ?」  
 無邪気に何てこと聞きやがるんだこいつは……  
 パステルのことが好きか? と聞かれたら、俺は実際にどう答えるかはともかく、心の中で 
はこう言うだろうな。  
 ああ、好きだよ。って。  
 そーなんだよ! 認めたくはねえが、俺はこいつに惚れてるんだよ!! もっとも、ぜって 
ー表に出すつもりはないがな! ……どうせ、パステルはクレイの奴のことが好きなんだろう 
しな。  
 クレイがどう思ってるかまではわかんねーが、まああいつもパステルのことを嫌ってること 
はねえだろう。  
 俺じゃクレイに勝てるわけねーしな。あいつみてーに優しくねえし。争う気もねえし。  
 だからだ。ぜってーばれないように、心の中だけに閉まっておこうとしている思いをだ。  
 どーしてこいつは剥き出しにしようとするんだよ!!  
 何だかむかむかしてきたが、睨もうとどうしようと、パステルは変わらずへらへら笑ってい 
る。  
 くっ……と理性のたがが残り一つを残して全部ぶっとんだときだった。  
「わたしはぁ、すきだよぉ」  
「……は?」  
「わたしはぁ、とらっぷのことすきだよぉ。だからぁ、いっしょにいよう?」  
 そう言うと、パステルは、俺の首にさらに強くしがみついてきた。  
 理性のたが、最後の一つが、音を立ててぶっとんだ。  
 
 
 もう止められねえ。俺は散々警告したし努力した。俺が酒を飲ませたわけでもなけりゃ、温 
泉に入れたわけでもねえ。  
 それでもこうなっちまったんだ。もう……止められねえ。  
 俺は、しがみついてくるパステルの顎をつかむと、ゆっくりとくちづけた。  
 ……ここで嫌がられて泣かれでもしたら、俺、かなり救われねえよな……  
 そっと唇を離して確認してみる。パステルの奴は、何だかきょとんとしてるみてえだが……  
 やっぱり、にへらっ、としまりのねえ顔で笑いやがった。……自分が何されてるかわかって 
んだろうな?  
「好き、だぜ」  
 耳元で囁いてやる。こいつが素面だったら、死んでも言えねえだろう台詞を。  
「好きだぜ、おめえのこと」  
「……とらっぷぅ?」  
 ぽかんとしてるパステルの唇をもう一度ふさぐ。強引に唇をこじあけて、深く、舌をこじい 
れる。  
 アルコールのせいか、風呂に入ってるからなのか、かなり熱かった。ついでにちょっと酒臭 
い。  
 からめるように、吸うようにした後、そっと目をあわせる。  
 パステルの目は……うるんでいた。  
 や、やべえ! 泣くか!?  
 一瞬俺はひるんだが、パステルは泣かなかった。離れようともしない。へらっと笑ったまま、 
つぶやいた。  
「いい、きもちぃ……」  
 ……それが風呂に入ってるからなのか、はたまた俺のキスがうまかった、という意味なのか、 
それはわかんねえが……何にしろ、俺の興奮を高めることになったことだけは確かだった。  
 パステルを膝に乗せるような形に抱きかかえて、そっと首筋に口付ける。  
 そのまま背筋をなで上げてやると、猫みてえに身をよじって「ふにゃあ……」とかつぶやい 
た。  
 ……感じてるんか?  
 自慢じゃねえが俺は女を抱いた経験はまだ無い。多分誘えばいくらでも相手はいただろうが、 
どうしてもそういう気にはなれなかったからだ。  
 パステルも、多分、無いだろう。この鈍感女が経験済みだった日には、俺は世の中の女が全 
て経験済みだと考える。  
 だから、その、こーいうときどうやってやればいいのかがまだよくわかんねえんだよ。一応 
本とかでやり方くれーは知ってるが、それだけだ。  
 
「……あんま、うまくねえかもしんねえぞ」  
「……」  
 ぼそっとつぶやいてみたが、パステルはとろんとした目で俺を見つめるだけだった。  
 背中を撫でながら、もう片方の手でパステルの体を持ち上げた。風呂の中だからこそできた 
ことだけどな。  
 湯に沈んでいた胸が、ゆっくりと外気に触れる。ほんのりと桜色に上気した胸は……綺麗だ 
った。  
 はやる気持ちを抑えながら、その胸の、桃色の頂点をそっと口にふくんでみる。  
 パステルの奴は「ひゃぁっ……」とか呟きながら、腕を俺の頭にまわしてきた。  
 いてっ、髪をつかむな髪を!  
 舌先でちょっとなめた後、飴玉をなめる要領で転がしてみる。すると、最初は柔らかかった 
それが、段々硬くなってきた。  
 背中にまわしていた手で、もう片方の胸を愛撫してみる。パステルの身体が、わずかにのけ 
ぞった。  
「やあ……とらっぷぅ……?」  
 パステルの顔がさらに上気したように見えたのは、俺の気のせいだろうか?  
 しばらく胸の愛撫を続けた後、体勢を入れ替えた。パステルの身体を背後から抱きしめるよ 
うな形に抱きなおす。  
 そうして背中にくちづけてやると、さっきよりも声が大きくなった。こいつ、多分背中が弱 
いんだな……  
 そのまま強く吸い上げると、白い背中に赤い痕が残った。前にまわした手を、徐々に下降さ 
せて……  
 今度は太ももをなであげてみる。「ぁんっ……」という声が聞こえたが、抵抗は無い。  
 ……こいつは、普段クエストの最中でもずっとミニスカートで。  
 こけたり走ったりするたびに、あらわになった太ももに、俺がどれだけ目をやるのをこらえ 
ていたか、わかってんだろうな?  
 太ももよりさらに上、本人だって滅多に触ることは無いであろう部分に、俺の指は到達した。  
 そっとかきわけるようにして、指でさすってみる。  
「ひゃあっ……やんっ……あっ……」  
 何つー悩ましげな声出すんだ……人がせっかくはやる心を抑えているというのに。  
 湯の中だからわかりにくいが、指をちょっともぐらせてみて……確信する。  
 濡れてる。パステルのそこは、明らかにぬるっとしたものを溢れさせていた。  
 ぐっと指を深く差し入れてみる。予想外に抵抗なくもぐりこんだ。そのままかきまわすよう 
にして出し入れすると、パステルの息が、どんどん荒くなっていった。  
 ……俺もだけどな。  
 
「……いつでも、逃げられたんだからな」  
 真っ赤になって「やんっ」とか「あんっ」とかうめいているパステルに、ささやきかける。  
「ここにいるのは、おめえの意思なんだかんな」  
 もしかして、俺、今ものすげえ卑怯なこと言ってるかも……  
 だが……パステルは、嫌がってねえ。  
 いくら酔ってるからって、好きでもねえ男にここまでされて、大人しくしてるってこたあ、 
ねえだろう。  
 おめえは、俺のことを……  
「くっ!!」  
 考えてられなかった。再びパステルを顔が見えるように抱えなおす。  
 そろそろ限界に達しそうだったモノを、指のかわりにあてがって……  
 一気に深く沈めてやった。  
「やあああああああああああああああっ!?」  
 パステルは、一瞬びびるくらい大声をあげて、俺の首にかじりついた。  
「やあっ、とらっぷぅ……いたぁい……」  
「っ……俺もいてぇよ……」  
 心がな。  
 暖かい、包み込まれるような感触。パステルの奴、相当痛いのかもじもじ身もだえするもん 
だから、それが余計に刺激となって、すさまじい快感って奴を与える。  
 やべっ、何かすぐにいっちまいそう……  
 パステルの身体を抱きしめて、その身体をゆっくりと上下にゆする。  
 湯の中ににじみ出ているのは……中から溢れた、血。  
「ふあっ……とらっぷぅ……なんか、へんな、かんじぃ……」  
「変、って、どんな……?」  
「いたいのにぃ……すごくぅ……ぞくっとして、きもち、いいのぉ……」  
「へっ、そうか……よかったな……」  
 気持ちいい、か。これが、抱く、って感触なのか。  
 何かがのぼりつめるような感触。上気するパステルの肌。とろんとした目。唇からもれるあ 
えぎ声。  
 そして――  
 パステルの身体を、ひときわ深く沈める。その瞬間、俺は、パステルの中で果てていた――  
 
 
 その後、パステルの奴は、相変わらずへらへら笑ったまま、俺にしがみついていた。  
 ったく、こいつ、自分が何されたのかわかってんのか? ……わかってねえだろうな……  
 とりあえず……その、血だとか何だとかを湯で洗い流して、パジャマを着せて部屋に運んで 
おく。  
 ベッドではルーミィとシロの奴が幸せそうに寝てやがったので、起こさないように注意して 
静かに……  
 って俺がこんだけ気ぃ使ってんのに、何でこいつは俺から離れねえんだよ!!  
 パステルの奴は、相変わらず俺の首にかじりついたままだった。  
 相変わらず「ふにゃあ……」みたいな声をあげて、幸せそうに……眠ってやがる……  
「こらっ、パステル、起きろ……っつーか離せっ、おいっ……」  
「うーん……とらっぷぅ……」  
「な、何だよ??」  
 一瞬起きたのかと思ったが、どうやら寝言だったみてーだな。目を開ける気配もない。  
「とらっぷぅ……だいすきだからねぇ……」  
「……俺もだよ」  
 かなわねーな、こいつには。  
 いつか、ぜってー、素面で起きてるときに言ってやるよ。  
 それが、おめえを抱いちまった俺にできる、せいいっぱいの償いだから。  
 眠るパステルに軽くくちづけて、ベッドに横たえた。  
 で、首にパステルの腕がかじりついたまんまなんで……俺は……  
 ベッド脇に座り込んだ。おいおい、このまま夜明かしかあ? 勘弁してくれよ、ったく……  
   
 
 ……うーんっ。  
 わたしが起きたとき、まだまわりは静かだった。ルーミィもシロちゃんも、まだ寝てるみた 
い。  
 そろそろ起きた方がいいかな? うーん。何だか頭が痛い……もうちょっと寝ていたいかな 
あ……  
 そこで、わたしは腕に何かを抱えていることに気づいた。  
 ぱちっ、と目をあけてみる。目の前に飛び込んできたのは、真っ赤な髪……  
「と、トラップ!? な、な、何してるのよこんなところで!!」  
 ルーミィ達のことも忘れてわたしが叫ぶと、トラップは、すごくげっそりした顔でにらみつ 
けてきた。  
 ……あれ? いや、わたしがトラップの首を抱えてたんだよね。えーっと?  
「……てめえ、何も覚えてねえのかよ……」  
「? 覚えてって?」  
「っあのなあっ――……いや、もういい。いいか、おめえはもうぜってー酒は飲むな……」  
「お酒?」  
 何のことだろう? わたし、お酒なんか飲んだっけ?  
「何のこと? わたし、お酒なんて飲んでないよ」  
「おめえなあっ……あー、もういいや。覚えてねーならそれでもいいよ。いやよくねーけどな 
っ! あーもう、何で俺ばっかこんな目にあうんだよっ!!」  
 トラップは、大声で叫ぶと、わたしの腕を振り払って部屋から出て行った。  
 もー何なのよ。わけわかんない! わたしが何したっていうのよ?  
 えーっと、昨日は、温泉に入って、ジュース飲んで……それから?  
 ……覚えてないや。まあ、いっか。後でトラップにもう一度聞こうっと。  
「うーん、ぱーるぅ。もう起きるんかぁ?」  
「おはようデシ」  
「あっ、おはよう、ルーミィ、シロちゃん」  
 もー、大きな声出すからルーミィ達が起きちゃったじゃないの。どうせそろそろ起こさなき 
ゃならなかったからいいんだけど。  
 
「もうシルバーリーブに帰るからね。さ、着替えよう」  
「うんっ! ルーミィ、おなかぺっこぺこだおう!」  
「あはは。うん、着替えたら朝ごはん食べようねー」  
「うんっ!」  
 ルーミィの服を着替えさせてやって、わたしもパジャマを脱ぐ。  
 ……あれ? わたし昨日パジャマに着替えたっけ? ……着てるってことは着替えたんだよ 
ね。  
 うーん、覚えてないなあ……  
「あれ? パステルおねーしゃん。それ、どうしたデシか?」  
「え?」  
 パジャマを脱いだところで、シロちゃんが不思議そうに言った。  
 何だろ?  
「ぱーるぅ。背中が赤くなってるおう」  
「え? 本当?」  
 赤く? 何だろ?  
 といっても背中だからね。自分じゃ見えない。  
 ルーミィに手鏡を持ってもらって、部屋にある鏡でうつしてみたんだけど、確かに、背中の、 
肩甲骨の下あたりに、赤くて丸い痕が残ってた。  
「いたくないかぁ?」  
「うん。全然痛くないよ。虫に刺されたのかな?」  
 でも、かゆくもないし。何に刺されたのかなあ?  
 えーい、悩んでてもしょうがないか。わからないものはわからないんだし。  
 そう思いなおして、さっさと着替えちゃうことにする。  
 さて、もう皆は起きたかな? まだなら起こさなくっちゃ。  
 ルーミィとシロちゃんを食堂の椅子に座らせると、わたしは男部屋のドアをノックした。  
 
 

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