世の中には女に踏まれて喜ぶ変わった趣味の奴もいると聞く。
だが、俺はそんなのごめんだ。
できることなら、俺は惚れた女には常に尊敬の目で見られていたい。できることなら常に優位に立っていたい。
それは別に女は男の下であるべきなんて考えてるわけじゃねえ。単純に、恋愛なんぞに振り回されるのが嫌なだけ。ただそれだけ! だ。
いくら相手が恋人だからと言って、顔色うかがってこそこそするなんて俺の柄じゃねえし。第一、この俺があの程度の女に惚れた……というだけでも十二分に譲歩しているのに、この上付き合った後まで譲歩してやる必要がどこにある!?
そうだ、そうだ。俺は……まあ自分で言うのも何だが、まあ顔もスタイルもそこそこイケてる方だと思うし。実際シルバーリーブのどうでもいい女どもは、恋人持ちの身となった今でも、うるさくぎゃあぎゃあわめいてくれる。
決して決して、うぬぼれなんかじゃねえはずだ。
あいつは、俺と付き合うことになった、という事実を、もうちょっと感謝すべきなんだよ。
感謝して、俺の……こう、何つーか、望みというか願いを、もっときちっと考えるべきなんだ。
何故か? それはもちろん、あいつが俺の彼女だから。
これ以上簡単な理由が、あるか?
つまり、何が言いたいのか……と言うと。
いいかげん、限界だ。つまりは、そういうこと。
「はーい。あれ、トラップ。どうしたの?」
その日、ドアをノックすると。パステルは、いつもと変わらねえ、締まりのねえ笑みを浮かべてドアを開けた。
「今、一人か」
「うん、そうだけど」
「原稿してたのか?」
「うん、まあね。でも、今ちょうど区切りがついたから、休憩しようかなあって思ってたところ」
「そっか。……入っていいか?」
「うん、いいよ。どうぞ」
俺の言葉に、パステルは無防備に頷くだけ。
お邪魔虫一人と一匹はクレイに押し付けた。隣の部屋の怪しい薬師も、薬草をエサに外に追い出した。
今現在、この宿には俺とこいつの二人きり。
そう。恋人同士が、部屋に二人きり。
いくらこいつが鈍感だからと言って、まさか、この意味がわからねえほど……
「トラップは、何してたの? またお昼寝しに来たの?」
俺をベッドに座らせて、自分は椅子に腰掛けて。パステルは、相変わらず笑みを浮かべたまま言った。
「確かにねえ、この部屋の方が日当たりはいいもんね。でもさあ、トラップ。わたしだって、お昼寝したいの我慢して原稿してるんだからさ、少しは気を使ってよね」
「…………」
わからねえほどお子様だから、困ったもんだ。
「パステル」
「何?」
「ヤりたいっつーかむしろヤらせろ」
「え? 何を?」
俺の直球ストレートな言葉は、実に見事はカウンターでまっすぐに跳ね返された。
くっ……こ、この女っ……
「なあ、パステル?」
「え、何?」
「この間、俺がおめえに言ったこと……覚えてるか?」
「え?」
まさか、「何のこと」と言われたりしねえだろうな……と、心の中でかなり真剣に心配したが。
いかな鈍感な女とは言え、さすがにこの質問の意味はわかったらしい。
色白な頬が、一気に真っ赤に染まった。負けるものかと目をそらさずにいると、その視線が、徐々に、徐々にと、床へ下がって行った。
「う……ん。その……」
「おめえって、今、俺の彼女なんだよな。そうだよな!?」
ベッドから立ち上がって、そのまま詰め寄った。椅子の背もたれに身体を押し付けると、「がたんっ!」という音がして、椅子が傾いた。
パステルの身体がゆっくりと倒れこみ。そのまま、机に支えられる形で、止まった。
俺が手を離せばそのままひっくり返る。実に微妙な体勢。
「そうだよな?」
「……そ、そう、なんだよね?」
「何で疑問形なんだ、何で」
「だ、だって……」
どうやら、知らず知らずのうちに、表情が険しくなっていたらしい。
俺の顔を見て、パステルは怯えたように表情を歪めたが。さすがに、泣き出したりはしなかった。
代わりに。
「だって、トラップ……その、こ、恋人同士になった、って言っても……何にもしてくれないし」
「…………」
「その、相変わらず他の女の子にも人気があるみたいだし。わ、わたし……自信が、無くて」
がくんっ! と、全身から力が抜けた。
性質が悪いのは、パステルのこの言葉は紛れもなく本心であり。例えば、付き合ってるという状態を認めたくてごまかそう、とか。例えば、わざと俺を焦らして本音を確かめよう、とか。そんな高度な駆け引きが一切含まれてねえところなんだが。
な、何にもしてくれねえって、あのなあっ!!
「パステル。おめえこの間、一緒に街に出たこと覚えてるか」
「うん覚えてるよ。買出しに行ったときのことでしょ? そう言えば、あのときはケーキ奢ってくれてありがとう。でも、珍しいよね。トラップから買出しに行こう、って誘ってくれるの」
「そんとき、別れ際に俺が何しようとしたか、わかってるか?」
「え? ああ、ええと、わたしの唇にクリームがついてたんだよね。取ってくれようとしたんだっけ?」
「……顔近づけた瞬間振り向いたのは、あれはわざとか?」
「え、わざとって? だって、クレイが呼んでたから……ええと?」
「……もう一つ聞くが、その次の日、俺が部屋に入ってきたの、覚えてるか?」
「ああ、あの日もいいお天気だったよね。お昼寝には最高だったよねえ」
「そうだな。一緒にベッドに入ろうって誘ったよな」
「うん。わたしも眠たかったしさ。締め切りにはまだ間があったし、いいかなあって」
「そうだよなー。んで、俺と一緒にベッドに潜り込んだよなっ! まさか忘れたとは言わせねえ!」
「もう、ちゃんと覚えてるよっ! お昼寝気持ちよかったよね。でもさ、トラップとじゃ、一緒に寝るには狭いよね、このベッド」
「だああああああああああああああああああああああああっ!!」
突然床を踏み鳴らした俺を見て、パステルはびくっ! と身を引いた。
俺が何故突然吼えたのか。その理由が全くわからねえ……と、そんな顔で。
ああ、ああ! クソっ! 何故だ! 何故俺は、この超ウルトラスーパー鈍感天然娘に参っちまったんだ!
いい年をして、「赤ちゃんはコウノトリが運んでくれるのよ」って言葉を信じてるわけでもあるまいにっ!
ぜいはあ、と息を切らすほどに興奮した俺を見て、パステルはただひたすらきょとん、としていたが。
怒りと鬱憤が頂点に達した俺にとっては、そんな態度も、ただただ欲情を煽るものでしかない。
そう……そうだ。よく考えろ、俺。
パステルは、今さっきこう言った。「何もしてくれない」と。
何かしようとするたびに散々スルーしておいてよくも言えたもんだ、とは思うが。
そんな台詞が出てくるってことは、パステルは、望んでる、ってことだよな。
俺に、何かされるのを。
「パステル」
「え、何?」
「何かっつーのは……つまりは、こういうことをして欲しい、ってことか?」
「え?」
行け、行っちまえ!!
勢いに任せて、そのままパステルの身体を押した。
斜めになっていた身体が、ゆっくりと傾いで……そのまま、椅子ごと、床にひっくり返った。
もちろん、頭や背中を打ったりしねえよう、その前に、手で支えを作ってやったが。
「と……トラップ?」
妙にアクロバティックな格好でのしかかってきた俺を見て。パステルは……首を傾げた。
何をしようとしているのか、と、そんな……って、本気でわかってねえのかよ!?
「パステル……ヤるぞ」
「な、何を?」
「何をって、あのなあっ!!」
まさか俺に行為そのものをずばり言わせようとしてるのか。こいつ、純情そうな顔してそんな親父みてえな趣味があったのか!?
一瞬そんな疑いを抱いちまったが。それと同時、「まさかパステルは子供ができるメカニズムを知らないのでは」という心配が、真剣に沸いてきた。
まさか、なあ……いい年をして……
真昼間とは言え、他に誰もいない、部屋に二人きりの状況。
彼女の身体は半ば以上床に倒れこんでいて、俺はその上に、のしかかるようにして彼女の顔を見つめている……
いけ、そのまま押し倒せ。むしろ一気につっこめ。
心の中の悪魔がそう声援を送っていたが。それと同時、心の中の天使が、弱々しく「焦るな」という囁きを送ってきた。
そう、焦るな。昔は、ちょっといい男を見かけるとすぐにフラフラ心を揺らすこいつを見てやきもきさせられたもんだが。
今、こいつは立派な俺の「彼女」で。つまりは、俺のことを真剣に好きでいてくれる……はず、で。
何も、今ここで焦って自分のものにしなくても、いずれは絶対俺のものになってくれるはず……そのはず、なんだ。
パステルの場合、その「いずれ」が真剣に十年二十年先のことになりそうだから焦ってるんだよ!
「パステル」
「だ、だからあ! 何なの!? トラップ! 一体、何がっ……」
「何がしたいってそりゃ俺の台詞なんだよっ!!」
「え、えと!?」
「さっき、おめえは言ったよな! 俺が『何もしねえから』不安だって!」
「え……」
「だったら言え! 今ここできっぱりと言え! おめえは一体俺に何をして欲しいんだっ! 俺に一体何を望んでんだ!? 俺が何をどうすればおめえは満足なんだよ、言え!」
「と、トラップ」
「俺を好きだっつーのなら言え!!」
ここで「好きじゃないから言わない」なんて言われようもんなら、俺は今すぐ去勢して巡礼の旅にでも出たことだろうが。
幸いなことに、神も、そこまで意地悪ではなかったらしい。
「ええと……そ、その、恋人らしいこと……とか?」
「…………」
「あの、さ。で、デートしたり……とか。その、手を繋いだり、とかさ? ええっと……ご、ごめん! わたしも、お、男の人と付き合うの、初めてだからっ……何がしたい? って言われても、困るんだけどっ……」
「…………」
「ええと。恋人らしいことがしたい、かな?」
その瞬間、俺の心の中で天使の羽が真っ黒に染まり、一秒と立たず悪魔の中に吸収された。
だがまあ、むしろここまでよく持った、と、むしろそっちを褒めて欲しい。俺としては。
「あ……の、トラップ?」
「黙ってろ」
「えと……」
初めてで床の上、というのは、さすがにまずい。何しろこの宿は安普請で、たまに釘が飛び出たりしてるからな。パステルを傷つけたくはねえ。
「やって欲しいんだろ?」
「……トラップ……」
「恋人らしいこと。つまりは……こーいう、こと……」
立ち上がったパステルの目線は、俺よりかなり低い。
その身体を机に押し付けるようにして、ゆっくりと、唇を被せた。
瞬間、パステルの身体が、震えた。
初めて……なのか? そうだよな? いやそうに決まってるよな!? この鈍感に経験なんざあってたまるか。俺にだってねえのに!
っつーか、よく考えたら、恋人同士になってから結構経つのにキスもしてなかったのかよ、俺達は。偉いぞ俺、よくぞここまで耐えた。
だから……
ちっとくらい暴走しても、許してくれるよな!?
「やっ! ちょ、ちょっと! 痛いっ……せ、背中! 背中痛いってっ……!」
「痛い? なら、痛くねえように自分で考えろ」
「え……」
ベッドの上でやりゃあいいじゃねえか、とも思うが。実際、ちっと前に一度はそれを狙ったんだが。
何つーか、このベッドでは常日頃からパステルにべったりのチビエルフと子ドラゴンが寝てるわけで……
つまりは、この数時間後には、そいつらがこのベッドに潜り込むわけで。そう考えると、さすがに、気が引けた。
いや、まさか、あいつらにこの行為の意味がわかるとも思えねえが……
「んっ……」
背中の固い感触に耐えられなかったのか。パステルは、顔をしかめて、身体を動かした。
机から逃れるように。つまりは、俺にすがりつくように。
そう……それでいい。
笑みを浮かべて、背中に手を回す。そっとブラウスの内側にもぐりこませると、「うひゃあっ!!」という妙な悲鳴が、耳についた。
「……もーちっと、色気のある悲鳴あげられねえか?」
「だ、だって! トラップが、いきなり変なコトするからっ……」
「変? おめえなあ。仮にも恋人同士の営みに、そういうこと、言うか?」
「っ…………」
俺の言葉に、パステルは真っ赤になりつつも。逃げようとだけは、しなかった。
ただ、潤んだ瞳を、静かにそらしただけ。
「こ、恋人同士って……こんなこと、するの?」
「恋人同士じゃなきゃ誰がやるってーんだ」
「……こ、こういうことって……結婚してから、するものじゃあ……」
熱い吐息を漏らしながらこんなことを言われて、「じゃあ結婚後までとっておきますか」なんて言える男がどれほど居るものか。
っつーかいねえ! 絶対いねえ! むしろ本気でそう言ってるのなら「じゃあ結婚してやる今すぐにでも!」と言いてえぞ、俺は!!
「おめえ、ガキだな」
「んなっ……」
「本当に、ガキ……でも……」
そんな女だからこそ、ここまで我慢しようって気にも、なれた。
何度も口付けを繰り返しながら、片手を背中に回したまま、もう片方の手を、ゆっくりと前にずらして行った。
腹をくすぐるようにして指を滑らせる。実に控えめな胸を下着越しに撫でると、「あ……」という悩ましげな声が、耳についた。
「や、やだ」
「断る」
「ま、まだ何も言ってないよ!?」
「大体わかるっつの! ここまで来たらもう止まらねえぞ。いいか、勘違いすんな。おめえが言ったんだ、こうして欲しいってな!」
「い、言ってない! わたし、そんなこと言ってないよっ……あ、やあっ!!」
ぐいっ、と膝の間に脚を割りいれて、そのまま、膝で内股をくすぐった。
自分の脚が長いことを真剣に感謝したのは生まれて初めてなんじゃなかろうか。
そんな馬鹿なことを考えながら、ゆっくりと膝で「その部分」をこすると。パステルの息が、ますます荒くなった。
……あれだけ鈍感だった癖して、身体は結構敏感じゃねえか。いや、むしろ身体が敏感だったからこそ、中身がそれに追いつかなかった、とか?
や、まあそれはいいや。
「入れる」
「っ……は、早っ!?」
「早くねえ! っつーかこっちはもう準備万端っつーかこのまんまだと入れる前に終わっちまいそうだっつの! そうなったらおめえが慰めてくれんのか!?」
「な、慰めるって……」
「そりゃ口で……」
「む、無理! 絶対無理っ!」
「ならヤらせろ」
「……や、やらせろ、って……そういう意味、だったの……?」
目が潤んでいるのは、快感だからなのか、あるいは真剣に泣きたいのか。
いや泣きたいのはこっちだぞ。あれだけストレートな要求を出して、どうしてここまでボケられなきゃいけねえんだ!? なあ、おめえは一体いくつなんだよ。実は年をごまかしてんじゃねえだろうな!?
「そう、ヤらせろ。そーいう意味。おめえを抱きたい」
「…………」
「言っとくけどな、単に欲求不満だから言ってるわけじゃねえぞ!」
いや、確かにそれも大きな要因の一つではあるが。
だが、断じてそれだけじゃねえ。
「女なら誰でもいい。そんないいかげんな思いで言ってるわけじゃねえ……」
言いながら、ゆっくりとブラウスのボタンを外していく。
ふわり、と肩からずれていくブラウスと、その下からあらわになる白い肌。
ゆっくりと舌を這わせて行くと、甘い香が、鼻をついた。
……ああ……
いい匂いがする。これが、丸ごと俺のもんになる……そう思って、いいんだよな……?
「おめえは自信がねえ、っつったな。本当に俺の彼女って名乗っていいのかわかんねえ、って」
「あ……」
「それは俺だって同じだ。おめえを早く『俺の彼女だ』って言ってまわりてえ。そのために、何か証みてえなもんが欲しい」
「あ……あか、し……?」
するり、と背中に回した手で探って、ホックを外す。
ぶつんっ、という音と共に、下着が外れた。その下に手をねじいれた瞬間、思った以上に柔らかい手触りに、反射的に手をひっこめそうになった。
っ……や、やわらけえっ! いいのか!? これ、思いっきりつかんだら壊れたり潰れたり……しねえよな……?
大丈夫、だよな?
「そう、証。おめえが俺のものになったっつー証。おめえと一つになりたい、一緒になりたい。だから抱きたい」
「…………」
怯えてる、なんてとこは見せたくねえ。
いや、そりゃ俺だって初めてだし、ちっとばかりおたおたするのは仕方ねえ、とも思うが。
パステルだって、何も知らねえんだ。何も知らずに、これからのことに怯えてる。
だったら、俺が安心させてやるしか、ねえじゃねえか……
「好きだから」
言った瞬間、パステルの両腕が、俺の首に回りこんできて。
そのまま、力いっぱい抱きつかれた。
それを「OK」の返事……と取ったのは。俺の思い過ごしとか、考え過ごしではねえだろう、絶対。
最初からいきなり「あれこれ」頼むのは気が引けた。
何より、初めてのパステルの身体は、ほぐれるまでに随分と時間がかかった。
これでも、手先は器用な方だったんだが。できれば痛い思いはさせたくねえ、と思うと、なかなか突入する度胸がわかなかった。
……相手が嫌がってるときは、無理やりやる気満々だったっつーのに。いざパステルが大人しくなると、途端に気が引けるのは何故だろう?
ああ、くそっ。何やってんだ、俺!
入り口、と思われる部分に自身をあてがって。何度突入に失敗したのかは、正直数えたくねえ。
滑るし狭いし。本当にこんな場所にこんなもんが入るのか……とかなり心配になったが。まさか、ここまで来て「やめましょう」なんて言えるはずもなく。
「パステル……」
「あ、えと……」
「痛いか?」
「…………」
立ったまま、という状態が、きついのかもしれねえ。
なら、なるべく楽にしてやりてえから、と。
ゆっくりと、身体を振りほどいて。そのまま、パステルの身体をひっくり返した。
「トラップ?」
「手で、支えてろ。こうすりゃ、ちっとは楽だろ?」
「え……え!? や! ちょっと! ちょっと待ってっ……」
机に両手をついた状態で、パステルが、悲痛な声を上げたが。
そのときには、俺の目は、向けられた尻に釘付けになっていた。
うおっ! こ、この体勢……そそるっ……
ミニスカートをまくりあげ、下着を膝までずり下ろした状態で、尻を突き出したパステル。
俺の位置からその表情は見えねえが、窓ガラスにうつる表情は、羞恥で今にも泣きそうに歪んでいた。
それが、嗜虐じみた欲望を、余計に煽った。
っ……パステル……
腰をつかんで、一気に迫った。じたばたともがく身体を押さえ込んで、強引に、中へと押し入った。
体勢が安定しているからか。さっきあれだけてこずったのが嘘のように、すんなりと、「ソレ」は中へと飲み込まれ……
「っ……い、痛いっ! やっ! 痛い、痛いよっ……」
「おわっ……」
締め付けのきつさに、そのまま、冗談抜きで昇天しそうになった。
や、やべえ……
優しくしてやろう、少なくとも楽しむ余裕くらいは与えてやろう、って。そう思ってたのにっ……
「悪いパステル! もうイくっ……」
「え!? う、そっ……って、ああっ!!」
果たして何回「動けた」のか。いや、むしろ何秒持ったのか?
痛みのせいだろう。パステルが軽く腰を動かした瞬間、俺の欲望は、一気に高みに上り詰めて。
そのまま、花火以上に呆気なく、弾けて消えた。
「あー……そ、その、悪い……」
「…………」
床に広がる血の染みと、耳につく泣き声。
手で顔を覆ってなくパステルを見て。俺の心にわきあがってきたのは、言いようの無い罪悪感。
信じられねえっ! 一人でヤッてたときは、もうちょっとは持った気がするのにっ……お、女とヤるって、こんなに気持ちのいい……
……って、一人で幸せに浸ってる場合かっ!!
「悪い、本当に悪い。いやええと……」
多分すぐにでも復活すると思うから、第二ラウンドでも……と言いかけた瞬間。
不意に、パステルが顔を上げて。そうして……にっこりと、笑った。
「あ、ありがとう、トラップ」
「……は……?」
「あの、ありがとう……わ、わたし、怖かったの。トラップに、好き、って言ってもらえて……すごく、すごく嬉しかったから。本当に、好きで居てもらえてるのかなって、ずっと、怖くて」
「…………」
「でも、何て言えばいいのかわからなかったの。何をして欲しいのかもよくわからなかったの……ごめんね、ごめんね、トラップ。何にも言えなくて、何にもできなくて」
「あー……や、それはその、何つーか……」
「ありがとう……嬉しかったよ。これで、わたし、やっとトラップの『彼女』って名乗って、いいんだよね?」
そう言って。
パステルは、乱れたブラウスをかき合わせながら、そっと俺の肩に、もたれかかってきた。
「あの……で、でも、さ。後ろからは……ちょっと、恥ずかしい……」
「…………」
「そ、それに、トラップの顔が見れないのは、寂しいから。だから……」
今度は、その、ちゃんと向かい合っていたい。
そう言われた瞬間、桜色の唇を強引に塞いで、床に押し倒していた。
痛い、という声は、既に右から左へ通過済み。
心の底から惚れた女に、こんな可愛いことを言われて。
黙って「そうですか」と頷くだけで、終わるわけねえだろうが!
「パステル!」
「わっ! と、トラップ! 待って待って!」
「待たねえっつの! あーもう……何で俺って奴は、今まで無駄な我慢をしてたんだろうな、ったく!」
こんなことなら、もっと早くに悪魔の声に耳を貸すべきだった。
心の中で猛烈に後悔しながら。
俺は、第二ラウンドに突入すべく、中途半端に絡まったブラウスを、剥ぎ取った。
〜END〜