「…―-!?」  
 
自分でも何を、どうしてこうなってるか…わからない。  
一瞬あと、ドアが反動で大きな音を立てて閉まった。  
声を出そうと思っても出なくて、かろうじて動いた右手を伸ばした。そしたら、届いた。  
ほんとにわたし、どうしちゃったんだろう!そのままギアの背中を…抱きしめちゃった。  
 
気付いたら部屋の中で、ギアに抱きしめられてた。愛しそうに、彼のくちびるが耳に触れる。  
 
ドンドン、とドアが叩かれる音。  
「パステル?寝てるんですか、パステルー!コーベニアまで行く激安ディスカウントチケットがあるって話で、朝から並ぶらしいんですよ!  
起きてください、手分けして並ばないと!」  
キットンだ!  
ディスカウントチケット!それは絶対手に入れなきゃ!…ああ、でも。  
わたしはギアの顔を見上げた。彼もちょっと困った様子で、わたしを見た。ドアはまだ叩かれてる。  
自分でも、どうして引き止めちゃったのかよくわからない。けど、これだけは言える。  
まだギアと一緒にいたいよ。  
 
ギアは2度目のキスをくれて、わたしをベッドに座らせた。  
どうするつもりなんだろ?  
不安な気持ちのわたしに、にっこりと微笑んで、…えええ??  
ギア…ドア開けちゃった!  
ぎゃー!キットンがものすごく間抜けな顔で(きっとわたしもいままでにないくらい間抜けな顔で)ぽかーんとしてるー!  
そそそ、そりゃそうよっ。わたしの部屋から。ギアが出てきたらっ。  
 
彼は呆然としてるキットンに耳を寄せて、なにごとか囁き、ドアを閉めた。  
 
もう、真っ赤。全身真っ赤。  
「キ、キットンに、なんて言ったの…」  
ギアはドアの脇に、荷物を置いて、防具を外した。  
「30分、待ってくれって言っておいた」  
「え?」  
「ダンシング・シミターも待ってる。だから、そんなに長いことはいられないんだ」  
あ…そっか。  
さっき廊下の先にちらっと見えた。  
もう行かなきゃいけないんだ、彼は。  
「ごめんギア、引き止めちゃって…わたし」  
我慢しようと思っても、涙がぽろぽろ出てきた。寂しいなんて思っちゃいけないのに。  
冒険を続ける決断をしたのは、わたしなんだから。  
「ごめんなさい…」  
 
ギアはわたしの肩を、身体を抱きしめながら、ベッドへ倒した。  
「30分だ。…パステル」  
「…?」  
「その間だけ、俺のわがままをきいてくれないか?」  
 
どんな意味なのか、ちゃんとわかった。鈍感だ鈍感だって言われるわたしでも、ちゃんとわかった。  
だから、わたしはこう答えた。  
「うん、…うん、ギア、30分でわたしにできること、全部させて?」  
 
ギアの掌がするすると寝間着をつたう。  
それだけで、なんだかからだの内側がドキドキするような気持ちになってしまう。  
「ん…」  
指先だけでなぞるように太腿まで。そのまま、裾をまくりあげて、下着をなぞった。  
ギアは同時にキスでくちびるを絡め取る。  
「パステル…」  
「やっ…」  
寝間着の上から胸に触れながら、キス。  
大きな手で揉んで、ときたまつまみあげる。そこから心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかってヒヤヒヤする。  
それで、それで。  
ギアは、何度も何度もわたしの名前を呼ぶの!  
呼ばれるたびに最初は返事をしたのだけど、それは必要がないみたいだった。  
そのたびに、彼はみたこともないような甘い、あまーい表情になって、  
それを見るだけでわたしも心臓を掴まれたような気分になってしまった。  
「…パステル」  
 
…こういうときってどうするべきなの?!  
触れられてる部分は、動かそうと思っても全然動かせない。そこだけじゃない。  
ベッドの縁を掴んだままの腕も、片方脱げかかってるスリッパも。  
全身の感覚が研ぎ澄まされたようにギアの感触に反応してるのに、身動きが取れない。  
強張った背中を、ギアが優しくベッドへ導いてくれた。  
ベッドを掴む手を剥がして、彼の背中へ。  
「緊張しないで、パステル」  
まぶたにキスしながら、耳元で囁いてくれる。  
あぁ…彼の低い声が聞こえる、それだけでドキドキしちゃうよ。  
ちょっとだけからだのちからが抜けた、そのとき。彼の指が下着の隙間を押し広げた。  
 
「……!!」  
ギアは何も言わないまま、わたしの熱くなっている部分にそっと触れた。  
こんな…こんなところ、触られたこと、ないよっ…!  
弄られながら舌を強く吸われて、思わずぎゅうぅ…っと、彼の背中に回した手にちからを込めた。  
 
ぎゅうっ、と思わず目も閉じていて。  
気が付いたら、彼はわたしに触れるのをやめて、微笑みながらわたしを見下ろしていた。  
その笑顔に思わず見とれてしまった…ずるい、もう。  
「…ギア」  
「残念だけど、時間切れだよ」  
「え…」  
もう?  
時間の経つのってこんなに早かったっけ?  
たぶんそれが顔に出てしまっていたんだろう、優しいキスをしてくれて、ギアは言った。  
「パステル、無理させちゃったんじゃないか?…ごめんな」  
「ううん、そんなこと…そんなことない!嬉しかったよ、ギア!」  
やだ。また、涙腺がゆるくなっちゃってる。  
こぼれそうになるそれをぬぐってくれながら、  
「次に会ったとき…もうすこしゆっくり時間をつくってくれるかい?」  
彼の問いに、わたしはうなずくしか出来なかった。  
 
 
待ってる。  
旅をしながら、あなたのことをずっと好きでいるね。  
それで次に会えたら、抱きしめてね。  
強く、強く。  
 
言葉にしなきゃいけない気持ちはたくさんあったのに、どうしても声が出なくて。  
全部全部伝わるといい。  
そう願いながら、背伸びして、彼のくちびるに自分のくちびるを合わせたんだ。  
 
 
 
 

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