「きゃあっ!!」 
クレイに両手を捕まれ、わたしはベットに押さえつけられた。 
「なんで、なんで普通でいられるんだよっ! 俺は人を殺したんだぞ!  
人殺しなんだっ!!」 
 
 
一週間前のこと。 
ちょっとしたクエストに出かけた帰り道。商隊と出会った私達は、元からいる 
人達と一緒に護衛することになったんだけど……。現れた盗賊達との戦いで、 
クレイはわたしを助けるために相手を殺してしまった。 
 
初めて人を殺したことで、クレイは酷く落ち込んだ。まるで話さなくなって、 
引きこもりがちなり、食事もあまり取らなくなったし、ちょっとしたことで 
周りに当たり散らしたり……。 
 ルーミイは怖がって近づかなくなったし、みんなもどう話しかけていいか 
わからなくて避けている。 
 わたしは…、自分の所為で変わってしまったクレイを元に戻したくて、いつも 
どおりに話しかけたり、自分なりに励ましていたつもりだったけど…。クレイの 
様子は、ますます悪くなっていた。 
 
「冒険者支援グループに相談してはどうですか」 
キットンの提案でノルと一緒にエベリンへ向かった。 
「暴れると、パステルはクレイ、止められない」 
宿はマリーナが準備してくれて、料金も幾らか出してくれた。 
そして、到着したその日の夜になって…。 
 
「ク、クレイ! 落ち着いてっ!」 
クレイの唇が口を塞いだ。首を振って逃げても追いかけてくる。 
「クレ、んんっ!」 
「くそっ。おとなしくしろ!」 
頬がヒリヒリする。クレイがわたしの頬を叩いたんだ。 
見上げるとクレイと目があった。今まで見たことのない冷たい目。 
呆然としてる間に唇を塞がれて、舌が口の中に入って来た。わたしは怖くなって目を 
瞑る。 
「や、んっ、ふうっ……、く、うんっ………」 
 口の中を乱暴に舌が動き回ってる。逃げたいけど、無理に動いたらクレイの 
舌を噛んでしまいそうで。 
「んっ! ひゃぁぁ!」 
胸、掴まれてる! ちょっ、嫌だっ!! 痛いよっ!  
 解放された左手で、クレイの手や体をどけようとしても、びくともしない。 
 
こんなの、嘘だよね? 悪い夢だよね? 
こんなことクレイがするはず無い。 
優しいクレイが、大好きなクレイが 
こんな酷いこと、するはず無いよね? 
 
服を脱がそうとする手を何度か払うと、クレイの体が離れた。 
諦めたのかな? そう思って、おそるおそる目を開ける。 
でも、クレイは、膝立ちでわたしの体を跨いでいて、そして、右手にナイフを握って 
いた。 
「あ、ああ………」 
「動くなよ。怪我ですまなくなる」 
ゆっくりと襟元から服の内側へ入れた。冷たい、ナイフの感触。 
クレイはナイフの刃を上向きにして逆手に持つと、服を下着ごと裂いていく。 
胸元がはだけて胸があらわになっても、怖くて、震える体は動ない。 
「リボンほどくぞ」 
髪を結わえていたリボンを解くと、それで両手を縛ってベットに縛り付ける。 
「もう………、やめて………、クレイ………」 
 
 
 
2 
 
「ひゃっ……」 
首筋を舌が舐めてる。下から上へ舐められる度に、ゾクッとした感覚が背筋を 
駆け上がっていく。 
 
あたし、犯され、ちゃうのかな。 
そう、なんだろうな……。 
手は縛られちゃったし、体はクレイが覆い被さって思うように動かせなくて、 
抵抗できない。大声を上げて、人を呼んだら助かるかもしれない。でも、そう 
したらクレイは……。 
あたりの景色が歪んだ。涙が溢れて流れ出す。 
 
「ひっ、い、痛! いやぁっ」 
乱暴に左の胸を揉んでいた手が乳首を摘んだ。ビクッと体が勝手に跳ねる。 
ちらりとクレイがわたしの顔を見て…、乳首を弄り出す。摘まれて、転がす 
ように弄られる内に、堅くなっていくのが自分でわかる。 
「やっ……、くっ……、う、ふぁっ?」 
いやだ、これ、感じてるの? 体が変……。 
ガイナにいた頃、友達同士の会話の中で、胸とか弄ると気持ちよくなるって 
聞いて、興味本位に弄ってみた事はある。でも、こんな強い感じに襲われた 
ことは無かったし、ガイナを離れてからはシタことはなかった。 
 クレイの舌が首筋から乳房へ上ってくる。や、やだ、まさか、吸ったりする? 
「やぁあ………、んふ……、だ、だめぇ……、」 
 乳首が吸い上げられた快感で、体がカアッと火照ってくる。じっとしてられ 
なくて、無意識にモジモジと動いてしまう。 
 
クレイの右手がスカートを捲り上げる。 
「いやっ! やめて! これ以上し、ひゃあああっ!」 
慌てて足を閉じようとしたけれど、クレイの手の方が早くあの部分にたどり 
着いて、下着の上からこね回してくる。 
「あっ、あっ、くっ………、んぁあっ………」 
ううっ、濡れてるんだ……。溢れ出すのが、わかる。 
「足、開け」 
「えっ! そ、そんなの、いやだ、できない……」 
クレイの眉が釣り上がった。そして、腰の後ろからナイフを抜く。 
「開けっ!!」「う、うう……」 
体が震えて、涙が止まらない。 
「早く開け!」 
恐る恐る開いた足の間に、クレイは顔を近づけてくる。息が、かかる。 
「すごい、濡れてる……」 
「はうっ! あ、ふっ…………、い、ひゃう………」 
滑った、柔らかいのが、割れ目に差し込まれて、動いて、ピチャピチャ音がして……。 
「ああああっ!!!!」 
割れ目の先の硬い何かに触れたとたん、快感が体を駆けめぐり背中が反り返る。 
そこを弄られる度に、頭の中が白くなって、もう、なんだか、解らない。 
「ハハハ、最低だな。好きな相手にこんな事をして。でも、もういいんだ。 
これで、しがらみも、悩みも、全部終わりにする」 
ナイフで下着とスカートを裂いてはぎ取ると、クレイは服を脱ぎだした。わたしは、 
ぼんやりとそれを見ている。 
「狂った俺に、誰も期待することなんてないからな」 
裸になったクレイの股間に、見たこともないモノがそそり立っている。男の人が 
興奮すると、あんな風になるって聞いたことがある………、って、えええっ!! 
開いた膝を押さえつけて、クレイは足の間に体を入り込ませてきた。 
「いやああああ!! やめてっ! お願い!」 
割れ目に、クレイのモノが当たる。 
「いやだいやだいやだいやだあああっ!! だめぇーっ!!!」 
ブチブチと何かが裂ける、凄まじい痛みが全身を走る。 
「ぐっ………、う………」 
あまりの痛みに、息が詰まる。 
「痛、い。おね、がい。抜いて………」 
「もう少し、だから、我慢して、えっ?」 
 
クレイのモノがズルリと抜けて、視界から姿が消えた。重い物が壁にぶつかる 
音がして、部屋が揺れる。 
「クレイ。見損なった」 
今の、声………。 
「ノ、ノル!!」 
 
 
 
3 
 
カーテン越しに、外の明かりが淡く部屋の中を照らしている。 
朝方まで寝付けずにいたけれど、いつの間にか眠っていたみたい。何時位なん 
だろう? 
 起きあがって振り向き、絵の掛かった壁を見る。その壁の向こうはクレイと 
ノルの部屋。 
 ノルは、この部屋にわたしを運んだ後、何度も隣と往復して様子を見に来て 
くれた。今は、隣の部屋にいてクレイの様子を見ているはず。静かで、何も 
聞こえてこない。 
「夢なら、良いのにね……」 
 縛られて赤くなった手首の傷跡を見る。 
 あの時のノル……、いつも穏和なノルが、あんなふうに怒るなんて信じられ 
なかった。 
 
 音のした方へ首を巡らす見ると、壁に叩きつけられ蹲って咳き込むクレイと、 
ノルの後ろ姿が見えた。 
「パステルがクレイのこと、どれだけ心配していたか分ってるのか?」 
「……………、しらない、よ。本当は、蔑んでいただけじゃないのか?」 
「バカ野郎!」 
ノルが拳を振り上げる 
「やめてっ! クレイ! ノル! もうやめて……。こんなの見たくない! 
聞きたくないよっ!」 
 
 あの後、騒ぎに気が付いて現れたた店員には、ケンカだって説明した。 
説明している間、わたしは隠れていた。さすがに強姦されたわたしがいると、 
誤魔化しきれないって考えて……。シーツに付いた血を訝しげにみていた 
けれど、何とか納得してもらえた。 
 
溢れた出した涙を手で拭う。 
どうして、こんなふうになってしまったんだろう…。 
クレイは本当に狂って……。 
首を振ってその考えを追い払う。 
どうにかして、クレイを立ち直らせなきゃ。 
 
 
「パステル、起きてる?」 
ノックの音がして、ノルの声が聞こえた。 
「うん。入っていいよ」 
戸を開けて入ってきたノルは、ちょっと疲れてるように見えた。 
「クレイの様子は?」 
「ベットの中に籠もったままだ」「そう………」 
「パステルは、大丈夫?」「うん、なんとかね」 
そう言って笑ってみせると、ノルはポンポンとやさしくわたしの頭を叩く。 
「無理、するな」「あ………」 
無理な笑顔だったのが分かったみたい。 
 
ノルはカーテンと窓を開けて、椅子をベットの側に置いて座った。 
「お昼、とっておいてもらったけれど、今から食べるか?」 
「そんな時間なの?」「うん。もう三時」 
「そんなに寝てたんだ…。でも、もういよ。おなか空いてないし」 
「そうか。じゃあ、これからどうする」 
「今日はこのままでいいと思う。明日…、冒グルの事務所に連れてく」 
「わかった」 
「…………。なんだか悔しいね」 
「どうして」 
「ねえ、ノル。わたし、クレイのために何も出来なかったの? クレイは『本当は、 
蔑んでいただけじゃないのか?』て言ったけど、わたしも、そんなふうに見えて 
いたのかな。 誰も蔑んでいないよ。みんな、クレイのことを心配してるのにっ。 
クレイなら分かるはずなのにっ! どうして!?」 
 思わず、ノルに向かって叫んでしまった。うう、何やってるんだろう、わたし…。 
 ノルは真剣な表情で、わたしを見つめてる。恥ずかしくなって俯いた。 
「パステル、クレイの事、どう思ってる? 信用していない?」 
「えっ、わたし、わたしは……」 
昨日のクレイの冷たい目が思い浮かんだ 
「信用してる、信じてる。だって、クレイは優しいし、周りに気遣いが出来る人、 
私達の気持ちは分かるはずだもの。他人を傷つけて、平気でいられる……」 
 肌に触れたナイフの冷たい感触がよみがえる。思わず左腕をグッと掴んだ。 
 いつものクレイなら、こんな時は側にいて、話を聞いてくれて、慰めて、 
励ましてくれて……。クレイの顔が見られて、声を聞ければ、落ち着いてい 
られるのに。 
 会いたい。もう一度、話がしたい。 
「パステル」 
泣き出した私の手を、ノルがそっと握る。 
わたしはうんうんと頷いて、涙を拭った。 
 
 クレイの本当の思いが知りたい。クレイの言葉を思い出す。 
『狂った俺に、誰も期待することなんてないからな』 
『ハハハ、最低だな。好きな相手にこんな事をして。でも、もういいんだ。 
これで、しがらみも、悩みも、全部終わりにする』 
クレイ、もしかして、本気なの? 
強姦した相手にこんなふうに思うなんて変かもしれない。でも……。 
「ノル、わたし、クレイともう一度話してみたい。二人だけで」 
「パステル、危険だよ」 
わたしは、首を振って答える。 
「大丈夫、クレイは二度としない。あんなこと」 
「けれど……」 
「お願い! やらせて」 
二人で見つめ合ったまま、暫く黙っていた。 
「わかった。でも、ずっと隣にいるから、何あったら呼んで」 
「ありがとう、ノル」 
 
 
 
4 
 
「クレイ、入るよ」 
ドアを叩いてから呼びかける。返事は無かったけれど中へ入った。 
「晩ご飯もってきたから、一緒に食べよ」 
部屋の中は日没間近の光が照らしている。テーブルには手のつけられていない 
食事が乗ったまま。 
「朝と、お昼の分ね。食べてなかったんだ」 
端の方に寄せて、二人分の夕飯をおく。 
「起きて、クレイ。一緒に食べようよ。食べないと、体に良くないよ?」 
 クレイは、シーツを頭まで被って、ベットの上で丸くなっている。黙ったまま、 
返事がない。 
「あっ、そうだ。夕飯に唐揚げがあるんだ。好物でしょ?」 
「……………」 
クレイは、身じろぎもしないで黙ったまま。 
「ふう………」 
溜息をついて、ベットの横に椅子を置いて座る。 
「クレイ、その、ね。聞きたいことがあるの」 
「……………」 
「『蔑んでいただけじゃないのか?』って、本気でい言ったの?」 
「……ああ」 
一瞬、その答えに息が詰まった。けれど、でも…。 
「嘘、言わないで。クレイが私達の気持ち、わからないはず無いもの」 
「パステル……」「な、何?」 
クレイはシーツの中から向こうを向いたまま頭を出して、かすれた声で話し出した。 
「よく、平気で話が出来るな」 
「えっ? どういう……」 
「自分を犯した相手と、よく話が出来るなっ」 
怒ったようなクレイの声に驚いてわたしは身をすくませた。 
「………平気じゃ、ないよ。でも、今のクレイ、ほうっておけないよ」 
「怖いんだろう? だったら無理するな。パーティから放り出せばいい。俺の 
代わりなんて、すぐに見つかるだろうしな。リーダーもパステルの方がよっぽど 
向いているよ」 
「クレイ」 
「まあ、こんな奴がいても迷惑なだけだろうし、君たちが何もしなくても、 
パーティから抜けるけどね。もういいよ、面倒見なくても。部屋を出て、 
ほうっておいてくれ」 
「どうして、そんな…、そんな、パーティ抜けるなんて嘘言わないでよ」 
鼻の奥がツーンとして、涙が溢れそうになる。 
「嘘? 嘘じゃないさ。今のだって本当にそう思って話してる」 
「違うよ、現実から逃げる為に嘘までついて言い訳してるだけじゃない」 
泣き出すのを我慢して話すから、早口になる。 
「そんな意気地なしだった? 心配してくれる仲間を『蔑んでいる』なんて言 
う人だった? 違うよね?」 
「……………」 
「わたしの、わたしが好きなクレイは、そんなこと考えるはず無いもの」 
 
言ってから、気がついて、慌てて訂正しようとしたけれど、振り返ったクレイと 
目があって何も言えなくなってしまった。 
 
 
 
5 
 
「えっと、あ、あああ、あの、その…」 
 わたしはクレイの視線に耐えられなくて俯いた。スカートの裾を弄ってみたり、 
髪の毛を弄ってみたりして、混乱した気持を紛らわそうとしても、はなかなか 
気分は落ち着かない。 
「何、言ってるんだろうね、こんな時に」 
ゆっくり息を吸って、はき出して、深呼吸を繰り返して、やっと言葉をはき出せた。 
「でも、クレイを好きなのは、本当、だから」 
 
「マリーナが、お見舞いに来てないけれど、何故だか分かる?」 
俯いたままクレイに聞いてみたけれど、返事は帰ってこない。 
「マリーナね、凄くクレイのことを心配してた。今度の事を話したら、『何で 
今まで黙ってたの!?』って怒られちゃったし。ここに泊まれるのもマリーナの 
お陰なんだ。でも、なんだかそれが疎ましく思えて、見舞いに来たマリーナを、 
今のクレイを見せたくないからって追い返してしまって。それ以来、一度も来てない。 
でも、よく考えたら、それって嫉妬だったんだよね。クレイに近づけたくない 
だけだったんだって」 
ふう、と溜息をついて、自分自身をギュッと抱きしめる。 
「クレイに好きって言われて、自分の気持ちはどうなんだろうって考えたら……、 
クレイを好きなんだって気がついたんだよ? その言葉も嘘だったの?」 
 
返ってくる答えが怖くて、目を瞑って体を強張らせる。腕に爪が食い込んで痛い。 
でも、クレイは答えないままだった。 
目を開けて恐る恐る顔を上げる。いつの間にかクレイは起き上がっていて、 
俯いて両手で顔を覆い、震えていた。 
「ク、クレイ! 大丈夫?」 
「お、俺……、パステル、………何を、………」 
シーツに、ポツポツと涙のシミが出来ていく。 
「パステル………、ごめん………、俺、……ごめん」 
嗚咽で言葉が繋がらない。 
「うっ……、ううっ……、くっ……」 
声を絞り出して泣くクレイを見てるのが辛くて、胸が痛くて、クレイを抱き締めた。 
そうしないとクレイが壊れてしまいそうで怖かった。 
 
嗚咽が消えて、震えが止まっても、しばらくの間クレイの体を抱き締めていた。 
「……放してくれないか」 
「あ、うん……」 
私が手を放すと、力無く俯いた。 
「ごめん。パステル」 
「うん、わたしは大丈夫だから、謝らないで」 
「でも俺は……」 
「いいから! もう、いいから……」 
「…………パステルは、強くなったね」 
「えっ?」 
「以前のパステルなら、こうして側にいるなんて無理だったはずだよ。比べて 
俺は、逃げ回って周りを傷つけて……。パステルの想いに答えられるような男 
じゃない」 
「…………」 
クレイは顔を上げて、私をじっと見つめる。 
「ノルとシルバーリーブに帰るんだ。俺の側にいても、パステルを辛く」 
「いやっ! 絶対に帰らないから! クレイが、クレイが元に戻るまで、ずっと 
離れないんだから!!」 
クレイの腕を掴んで、必死に叫ぶ。涙が、頬を伝って落ちた。 
「ほうっておいて欲しいなら、なんで、『狂った』『全部終わりにする』なんて 
言ったの? 止めて欲しかったからじゃないの!?」 
「…………」 
クレイの顔が苦しげに歪む。 
「クレイを、クレイを嫌いにさせないで! お願い……」 
クレイは、顔を背けた。どうして…、なんでなの? 
前が見えなくなるほど涙が溢れた時、頬に何かが触れた。 
クレイが、頬を伝う涙を拭いてくれた。 
「クレ、イ……」 
「そうだな。止めてもらうのを待っていたんだって思う。情けないよ」 
話してる間も、何度も涙を拭う。 
「もう逃げたりしない。だから、泣かないで」 
「うん、ありが、とう」 
でも、涙は、なかなか止まらない。何度もクレイの手が涙を拭ってくれた。 
 
ふと、その手が止まる。真剣な表情のクレイが、私を見つめていた。 
そっと肩に手が置かれる。 
私が無意識に目を閉じると……、私の唇に柔らかいものが触れた。 
 
 
 
6 
 
 唇に触れられた瞬間、急に昨日のことを思い出し、無意識に突き飛ばして 
しまった。全身の震え出して、歯がカチカチと鳴る。クレイが何か言った 
けれど、理解出来ない。 
 歯を食いしばって、全身に力を入れて震えを無理矢理止める。大きく2回 
呼吸して、椅子から勢いよく立ち上がると、クレイに背を向けた。 
「やっぱり、昨日の」 
「暗くなってきたから、灯りつけるね」 
「あ、ああ……」 
 力のない返事。このままだと、またクレイが落ち込んでしまいそう。昨日の 
ことは気にしてないって、態度でしめさなきゃ。でもどうやって?  
も、もう一度キスしてもらう? だっ、だめ、そ、そんなコトしたら、また 
クレイを拒絶してしまう。もうちょっと、おとなし目の方法考えないと。 
肩に手を置かれても何ともなかったのだから、だ、抱きしめてもらって……。 
「パステル?」 
 ぼーっと立ったままだったわたしは、クレイの声にはっとして、慌ててランプに 
灯をともすとベットに腰掛けた。 
「こっちに座って、クレイ」 
私の右側を指すと、一人分間をあけて座る。 
「ち、ちがう。もっと近づいて、その、私を抱きしめて欲しい……」 
顔が熱くなってくる。今鏡を見たらまっ赤じゃないかな。 
「えっ? あ、うん……」 
クレイがゆっくり近づいてくる。体が触れるほど近くに座ると、そっと肩に腕を 
回して抱き締めた。 
 体が震えだした。クレイが驚いて体を離そうとする。 
「放さないで!」 
わたしはクレイの背中に腕を回し、キスの時みたいに突き飛ばさないよう手をしっか 
り 
組み合わせた。 
 
暫くして、震えは収まった。 
「大丈夫。平気だから」 
クレイの胸に顔を埋めたまま話す。震えが収まると、今度は恥ずかしさが増して 
きて、顔が上げられない。胸がドキドキして、収まらない。 
そっと、クレイの手が頭をなでる。なんだか、それが心地いい。 
「パステル。顔を上げて、くれないか」 
ちょっと緊張したクレイの声。見上げると、同じように緊張した顔。 
「キスして、いいかな」 
「えっ、ええっと、そ、そんな、急に……」 
ど、どうしよう。面と向かって、答えにくいよ。 
「言わずにしたら、さっきみたいに震えるんじゃないか、そう思ったんだけど」 
クレイは、恥ずかしそうに顔を背けた。 
なんだか、そんなクレイの気遣いが嬉しくて、おかしくて。思わず笑ってしまった。 
「パ、パステル?」 
「あ、うん、ごめん。………その、いいよ、キス」 
目を瞑ると前と同じように、肩に手が置かれた。 
「ん……」 
唇同士が触れ合うと、ビクッと一瞬体が震えたけれど、それ以上は何もなくて。 
数回触れ合わせると、舌が唇に触れて辿っていく。 
ええっと、これって……。舌を、いれたいってこと? 
少し口を開けるとおずおずとクレイの舌が入ってきた。 
昨日みたいに乱暴に動き回るんじゃなくて、どこか、ためらいがちで。 
口の中を舐め回して、舌を絡めてくる。どうしていいか分からなかったけれど、 
クレイの舌を追いかけて絡ませあった。 
昨日は気持ち悪いだけで何も感じなかったのに、くすぐったいような、不思議な 
感じがして………、気持ちいい。体が火照ってきて、頭がボーっとしてる。 
「ん……、ふ……」 
クレイは私の体に腕を回して抱きしめると、少し体重をかけてきた。 
わたしはクレイに促されるように、キスしたままゆっくりベットに倒れ込んだ。 
 
 
 
7 
 
「んん………、ふ、あ………」 
クレイの舌が引き込まれて、唇の感触が無くなった。目を開けると、わたしを 
見下ろすクレイと目が合う。熱っぽい目……。わたしはどんなふうに見えてる 
だろう? 同じような目で、クレイをみているのかな…。 
 もう一度キス。唇が離れると、不意に切なさを感じてしまった。 
 もっとキスしていたい、もっとクレイに触れていたい、もっとクレイに触って 
欲しい、そう思ってる。 
 クレイがそっと胸に右手を置いて、じっとわたしの顔を見つめてる。も、もしか 
して、『動かしていいか』って聞いてるの? え、えええっと、その、いいけど。 
口に出して言えないから、頷いて返事をした。 
「ん……、ぅ…………」 
 クレイにゆっくりと胸を服の上から揉まれて、むず痒い感覚が広がってく。 
胸の切なさが増して、鼓動が早くなって、苦しくて、息が荒くなってくる。 
「ふあ……」 
 クレイの手が胸から腰の方へ、体をなぞって動き出した。背中がゾクッとして、 
声を上げてしまう。恥ずかしくて、顔を横に伏せた。 
「……パス、テル」「な、なに?」 
「ふ、服、脱がして、いいか」 
キスの時と同じように、緊張した声。腰まで下ろした右手が、わたしの服の裾を 
弄ってる。 
服? ふくをぬがすって? 
「…………!」「うわっ!!」 
クレイをはじき飛ばすように飛び起きて、顔を伏せて体を抱え込む。 
ドキドキドキドキ……、鼓動が早鐘のように鳴ってる。 
そ、そうよね、こ、このまま続けたら、脱がなきゃ行けなくなるよ、ね。裸を、 
見られちゃうんだ。 
「無理なら、いいんだ。パステルに嫌な思いさせたくないから」 
「嫌じゃないよ、だって、だって……」 
「…………」 
「ク、クレイにもっと触って欲しいって思ってたんだから」 
恥ずかしくて、一気に、早口で言った。 
うあ、あたし、何言ってるんだろう。体を火照らせてる熱で、おかしくなった 
のかな。顔から火が出そう……。 
顔を伏せたまま、ちらりとクレイの方を見る。驚いた顔でわたしを見てる。 
Hな子だって思われた?。でも……。 
手を伸ばして、クレイの手に触れて、絡ませる。 
「あ………」 
「…………向こう、向いてて。服脱ぐから。クレイも、脱いで」 
「あ、ああ」 
「…………好きじゃなきゃ、出来ないよ、こんなこと」 
聞こえないように呟いた。 
 
 
 
8 
 
 上着とスカートを脱いで、ショーツだけになると、ベットに仰向けに寝転んだ。 
恥ずかしくて目を腕で隠す。 
「触るよ……」 
 こくん、と頷くと、ゆっくり胸を揉みしだく。むず痒さが広がって、少し 
治まっていた体の火照りが強くなってくる。息も荒くなって、胸が、切ない。 
「は、くっ………」 
 クレイの手に立ち上がった乳首を指先で転がすように弄られて、声を上げて 
しまう。恥ずかしくて、下唇を噛んで我慢しても、ふうふうと声がもれていく。 
「ひゃあっ…………」 
唇の感触を右胸に感じると、昨日と同じように舌が乳首をねぶっていく。体が 
反応してピクピクと震える。昨日と違うのは、ゆっくりとしたクレイの動き。 
昨日、初めて感じた感覚が、体中に広がっていく。 
「ふ、うっ…………、っあう……」 
うう、い、いやぁ、体が変……。あそこが、熱いよ…。 
どうしていいかわからなくて、足をギュッとすり合わせる。 
クチュっと音がしたような気がした。濡れてるんだ…。あ、気持ち、いい…………。 
すり合わせてるだけなのに、甘い気持ちが広がっていく。 
胸を揉んでいた右手が、ゆっくり体をなぞりながら下へ降りていく。 
「ふぅ…………」 
ショーツに手がかかる。う………、覚悟はしてたけど、やっぱり、恥ずかしい。 
だって、見られる上に、濡れてるのがわかっちゃうんだよ? そんなの………。 
足をとじ合わせて、ちょっと腰をひねる。 
「パステル……」 
クレイの指先は、太股をゆっくり撫でている。わ、わかってるけど…。 
腰を、ゆっくり元に戻す。 
「力抜いて」「う、うん」 
足を、少し開く。でも、クレイの手はそこに触らずに、目を隠していた腕を掴んだ。 
そして、ゆっくりと腕を動かす。 
「あ………」 
目を開けると、心配そうなクレイの顔。そっと手が頬撫でる。優しいクレイの手、 
わたしと、皆を護ってくれるクレイの手。撫でられているだけなのに、それだけで 
心が満たされてく。 
 唇が合わさって、舌が入ってくる。口の中を舐めあって舌を絡ませあうと、 
頭の中がクラクラして体の力が抜けていく。 
「ん、んんっ、ふぅん」 
 クレイに割れ目をショーツの上からこすり上げられて、キスしたままで声を上げた。 
腰がかってに動いてしまう。気持ち、よくて。 
 
 ショーツが割れ目から溢れ出したので、びしょびしょになってる。 
「脱がすよ」 
頷いたのを見て、ショーツに手をかける。わたしは腰を上げて脱がすのを手伝だった。 
するすると足首からショーツが抜ける。クレイの動きが止まって、じっと、足の間 
を見てる。 
「あ、あんまり、見ないで……」 
思わず、手で隠す。 
「ご、ごめん……。その、は、初めて見たから、ビックリして」 
「でも昨日……」 
「よく覚えてないんだ。動転してたし……」 
そう、なんだ。………薄いとか、形が変だとかじゃないんだ。でも、初めてって、 
もしかして、せ、せえっくすするのも? 
「手をどけて、もう少し足をひらいて」 
「え? あ、ああ。うん」 
クレイの声に考えていたことを放り出して、ゆっくり足を開いていく。恥ずか 
しくて、シーツを掴んだ。 
 
 
 
9 
 
「あっ、あっ…」  
足の間に啄むようなキス。その度に背筋を快感が走ってく。そんな、汚いとこ 
なのに、なんで。 
割れ目の中に、滑った何か入り込んてきた。これ、クレイの舌…。 
中を、ゆっくり舐め上げる。溢れ出したモノと絡まってピチャピチャと音が 
してる。舌の動きが、掻き回すように変わった。 
「はあっ! くっ、ああぁ…………」 
今までより激しい快感に体が震えて、我慢しきれずに声を上げてしまう。自分の 
声じゃないみたい。 
「んん……、あ、あっ………」 
快感が、どんどん高まってく。 
どうなるんだろう、わたしの体、どうなっちゃうんだろう? 
クレイの舌が、硬い突起に触れて、息が止まる程の快感に体が反り返る。 
「もっ、やぁっ、はぁっっ!」 
舌で突起を転がされると、快感に頭の中をグチャグチャにされて、まともに 
考えることができない。 
怖い。怖いよ。クレイ、クレイっ……。涙が溢れて、こぼれていく。 
クレイに抱きしめてほしい。でも、そんなこと言ったら、わたしがHな、あ……。 
割れ目から溢れ出した液体が、お尻の方まで流れていく。 
ああ…、あたし、そんなに濡れてるんだ………。 
快感はどんどん膨れあがって、わたしを何処かへ押し流そうとしてる。 
昨日、クレイが入ってきた所に舌か触れて、そして、入ってきた。 
やっ、なに? なにか、くる、くるうっ、たすけ…… 
「やっ……、んっ……、あんっ、あっ、くっ、ふぁ……、い、あ、ああっ、 
ああああーーー!」 
快感が体を満たして、頭の中が真っ白になった。 
 
 さっきの感覚がまだ残っていて、思うように体に力が入らない。頭の中も 
どこかボーっとしたまま。 
 あんなはしたない所を見られるなんて…。Hなことしてるんだから、当たり 
前なんだけど。でも、やっぱり、恥ずかしい。今も恥ずかしくて、クレイに 
背中を向けて横になってる。 
「大丈夫か? パステル」 
 さっき、答える気力もないぐらいにクタクタで、返事が出来なかったからかな。 
酷く心配そうな声になってる。 
「やっぱり、嫌だったんだ……、俺……」 
ああ、もうっ! なんでこんな弱気なんだろう。 
「違うの、疲れてただけだから」 
振り返ると、正座して、畏まったクレイがいて……。しばらく、クレイの引き 
締まった体と、………股間のモノに見とれてしまう。 
「あ…………」「きゃあっ」 
悲鳴を上げて、また、クレイに背を向けた。 
そ、そうだった。クレイも裸だったたんだ…。そ、それより、クレイのアレ、 
あ、あんなになってるなんて、ど、どうしよう………。 
「パステル」「な、なに」 
「俺、パステルと一つになりたい」「!…………」 
 
 
 
10 
 
 ………どうしよう。頭の中が混乱して、どう答えていいか解らない。昨日の 
激痛と、これからどうなるのか解らない不安。抱きしめて、そして、わたしを 
クレイで満たして不安を消して欲しい、そんな願いとで混乱してる。服を脱い 
だとき、こうなるって覚悟はしたはずなのに。なのに……。 
 クレイの手が肩に触れる。振り返ると、泣きそうな顔してわたしを見つめてる。 
早く答えなきゃ、早く…。で、でもっ。 
 肩の手が離れた。慌ててその手を捕まえて、握りしめる。答えなきゃ。そう 
しないと前みたいに後悔……。そう……、ギアの、ギアの時みたいに、ずっと 
後悔することになっちゃう。勇気、出して。 
「クレイ。い、いいよ。ひとつになろう?」 
微笑んだつもりだけど、ちゃんど笑えたかな。 
 
 わたしの額にかかった髪の毛を払って、クレイは額にキスをする。続けて、 
瞼、頬。そして、唇。 
「ん……、ふうっ……」 
クレイの手がわたしの体を撫でていく。触れられてるところが熱い。 
「はっ! あ、くぅうん……」 
クレイの指が足の間に触れた。さっきのので、感じやすくなっているみたい。 
強い刺激にクラクラする。 
「……いくよ、パステル」「うん………」 
体のわきについたクレイの左腕を掴む。 
「大事にして欲しい……」「ああ……」 
「優しく……、して、ね……」「解ってる……」 
わたしの溢れ出した涙を、クレイは拭って微笑んだ。それだけで、凄く嬉しい。 
 
クレイのが当たってる。思わずクレイの腕をギュッと握った。 
「大丈夫だから、力を抜いて」「う、ん………」 
ぐっと割り込んでくるのを感じる。昨日ほどじゃないけど、少し痛い。 
「う、あ、くっ………。ちょっと、まって」 
「ゆっくり行くから、少し、我慢して」「ん………」 
ゆっくり、クレイが、満たして、くる。 
「う、く、パステル、力入れないで。俺も、痛くて……」 
「え……、あ、ああ……。うん……」 
で、でも、どうしたら……。そうだ、息を深くして……。ぐっ、と、クレイが 
奥に進んでくる。 
「くっ……、はぁ……」 
 あ……、奥に、当たってる。なんだか、その場所だけじゃなく、心も満たされた 
感じがして胸が一杯になった。 
「う、動くよ……」「ん………」 
 ゆっくり、ゆっくり動き出す。始めに感じていた痛みは徐々に消えていって、 
変わってその場所から快感が広がって、体を、心を埋めていく。 
「あっ……、ふぁあっ……、ん、ふ、ああっ」 
 じっとしてられない。中を擦られるたびに、体がビクビクと反応して動いて 
しまう。 
「やぁっ……、ああん……、く……、ふうっ…、ああっ、んん!」 
 クレイがの動きが早くなって、快感が高まってきた。でも、体が自分の物で 
なくなってしまうような不安も同時に感じてる。わたしはクレイの方へ、抱き 
しめて欲しくて両手を突き出した。 
「あっ、くっ、はあああっ!」 
 抱きあって、繋がりが深くなる。それでも、不安は消えず、もっとクレイを 
感じたくて、腰が浮かせてクレイを求めてしまう。 
 もう、理性なんてどこかへ飛んでしまったみたい。快感に溺れてしまっている。 
体を反らして、恥ずかしい声で叫んでる。 
「ああっ、く、ふあっ……、んん、い、あっ……、ふっ、あんっ…、ああ……」 
もう体、おかしい。浮いてっ、あっ、おちる、落ちちゃう! 
「ふっ……、ううっ……、おれ、もう、パステルっ!!」 
「やっ……、やはぁ…、あ、は、んんっ……、クレイっ、クレイっ……、もっ、 
いっ……、あっ、あっ、あっ……、っ………、あああああああっ!!」 
 わたしはクレイにしがみついて、クレイはわたしに抱き締めて。触れ合った 
体か伝える充足感と、今まで以上の快感に飲み込まれて意識を失った。 
 
 
 
11 
 
明るさを感じて目を開ける。いつのまにか眠ってたんだ。 
カーテンの開けられた窓からは、明るい日差しが入り込んでいる。クレイは…、 
ベットに座わって、わたしに背を向け外を見ていた。 
 今のクレイの背中は、昨日までのうなだれた力の無い背中じゃなくて、背筋の 
のびたいつもの様子に戻ったみたい。 
 がっしりした広い背中を見ていると、この背中に守られていだんだって思えて 
愛しさが込み上げてくる。 
 あ……、この傷は何時ついたんだろう? じっと見つめていると幾つか傷跡を 
見つけた。もしバランスの取れたパーティだったら、こんなに怪我をすることも 
なかったかもしない。今度のこともわたしがへまをしなければ、クレイが人を 
殺すこともなかった筈だもの。ふがいないパーティだから、その分クレイに 
苦労をかけてしまってるんだなって思う。 
 
「おはよう、パステル」 
「ひゃっ………、あ、お、おはよ……」 
 少しぼんやりと背中を見つめていたから、不意に振り返ったクレイに呼ばれて、 
どきっと心臓が跳ね上がる。気づかれたかも、クレイに見とれていたの………。 
昨日のこともあって、何だか恥ずかしくて目があわせずらい。 
「気分はどう? だいぶ疲れていたみたいだったけれど」 
「あ、うん。大丈夫。何ともないよ」 
シーツを抑えて体を隠しながら起き上がる。クレイは…。よかった、下着、 
ちゃんとはいてる。 
「今日は、これからどうする?」 
「えっ? ええっと、冒グルに行くつもりなんだけど…。クレイは平気?」 
盗賊と戦ったときから、自分から行動することなんて無かったのに。どうしたん 
だろう。 
「ああ、平気だよ。だけど、俺の気が変わらない内に行った方がいいな」 
わたしの訝しげな視線に気がついたのか、ちょっと天井を見上げてから、少し 
照れたように微笑む。 
「俺がしっかりしないとって思ったんだけれど、やっぱり、無理してるのが 
わかるみたいだね」 
ふう、とクレイは溜息をつく。昨日まで酷い状態だったのが急に変わったりしたら、 
誰だっておかしいって感じると思うけど…。 
 
「解ってはいたんだ。ちょっとしたことで怒ったり、沈んだり。後で酷く後悔 
して落ち込む…。悪循環だよ」 
クレイは背を向けて服を着ながら話している。わたしも、それを見て服を着る。 
「断ち切りたいって思っても酷く弱気になっているから、まともな判断が 
出来なくて。パステルやみんなに迷惑かけるばかりだった」 
服を着おわった私達は、ベットに並んで座る。わたしは、そっとクレイの左手に 
右手を重ねて彼の顔を見上げた。 
「パステルがいてくれなかったら、どうなっていたか解らないよ……。ありがとう、 
パステル」 
クレイにじっと見つめられて、心臓が、ドキドキと跳ねて頬か熱くなる。 
「パステルの告白にちゃんと答えてなかったよね」 
「え、あ、う、うん……」 
そ、そう言えば、クレイが泣き出してしまって、答えてもらってなかった……。 
「好きだ。パステル」 
嬉しくて自然に涙が溢れ出す。クレイは、そっとわたしを抱き締めて背中を 
ゆっくり撫でくれた。 
「う……、く……、ふ、あ、ありがとう」 
 
コンコン、とドアをノックする音にハッとして離れた。 
「クレイ、パステル。朝ご飯の準備できたけど、どうする」 
ノルの声にお互い見つめ合って微笑むと、クレイがドアの方へ向いて声をかける。 
「わかった。後から食堂へ行くから、先に行って待っててくれ」 
 
食事の後。ノルはわたし呼び止めて神妙な表情で辺りを見渡すと、顔を近づけて 
小声で話す。 
「あ、あの声は、抑えた方がいいと思う……」 
えっ、えええええっ!! と、隣まで、ききっ、聞こえてたんだ……。ううっ……。 
 
 
 
12 
 
クレイの提案で午前中に冒グルに向かうことになったんだけど、宿から出かける 
寸前にマリーナに出会して、一緒に行くことになった。 
道すがらの会話はなんだかぎこちない。わたしとクレイが結ばれたことを知っ 
たら、マリーナはなんて言うだろう? いつものように話しかけてくれるマリーナに 
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 
 
「パステル、ちょっと、いい?」 
冒グル事務所の部屋から出た途端、マリーナに呼び止められた。 
冒グルの事務所で事情を話すと、冒グルで心理的な相談事を担当する女性の 
神官に会うことになった。事務所の一室で彼女はクレイとわたし、ノルに 
一通り話を聞くと、クレイ以外の二人を外へ出した。マリーナは外で待っていた 
から、部屋の中でどんな会話があったか聞きたいのかなって思ったけれど、 
どうやらそうじゃないみたい。わたしの腕を掴んで事務所の外をちらりと見た。 
「ノル、マリーナと少し……、散歩に行ってくる。クレイのことお願い」 
「…………、わかった」 
返事に間があったから、きっと何事か気がついたんだと思う。 
 
公園のあまり人気のない場所。マリーナは数歩先にいて黙ったまま背中を向けている。 
「マリーナ?」 
一瞬、マリーナの肩が動いたような気がした。 
「何か、話したいこと、あるんでしょう?」 
振り向いたマリーナの表情は少し強張っている。 
「………。クレイ、元気になってたね」「う、うん」 
「パステルもエベリンに来た時と、何だか変わった………。私を避けてるみたい」 
「!…………」 
「クレイと何かあったの? あんなに落ち込んでいたクレイが数日で変わる 
なんて考えられない」 
「……………………」 
「何があったの?」 
わたしを見る強い視線に耐えられなくて、思わず顔を逸らしてしまった。 
「詐欺師なんて仕事してるとね、ちょっとした表情の変化で相手が何を考えて 
いるか解るようになってくるの。だからクレイがあなたに見せる表情や、あなたの 
態度を見ていたら、二人の関係がどう変わったかぐらいわかる。でも、パステルから 
答えを聞きたいの。他の誰かかから聞くより、その方が諦められると思うから」 
もし、言ったら、言ってしまったら、わたしと、わたし達とマリーナの関係、 
壊れてしまう。どうしたら…………。 
「言えないの? クレイに告白して、好きって言って貰えたんでしょう?」 
「……………」 
言わなきゃ。でも、でも……。 
「なんで、なんで言えないの!? まさか、もう抱かれ……」「マリーナ!!」 
思わず叫んでしまった。でも、それは……、肯定したも同然だった。 
「あ、あははは、そうなんだ。出鱈目言ったつもりだったのに」 
マリーナは射るような目つきでわたしを睨みつける。 
「どうして、私の居場所を奪っていくのよっ! その場所は、あなたが居て 
いい場所じゃないっ。クレイの隣は私が居るはずの場所なのにっ。泥棒猫!」 
「わたし、そんなつもりで……」 
膝がガクガクと震えてる。マリーナから恨まれるだろうって、予想はしてた。 
でも、面と向かって言われて混乱してる。もう、どうしたらいいのか解らない……。 
「わ、私、なんてこと言って……!」 
マリーナはハッと驚いた表情になって口元を抑えた。 
「あっ、ま、待ってっ!」 
わたしは駆け出すマリーナの腕を思わず掴んでしまった。 
 
 
 
13 
 
「ごめん、なさい」 
「なんであなたが謝るの……」 
「だって、マリーナの言うとおりだから。わたしがマリーナの……」 
「やめて。そんなふうに自分を責めても辛いだけよ? 私にクレイを返せって 
言われて、そう出来る?」 
「出来ないけど……。でも……」 
「でもじゃないわ。人の心配するよりもっと自分のことを心配したら? 
そんなんじゃ誰かにクレイ、取られちゃうかもね」 
「!…………」 
「少なくとも私はそんなことしないから安心して。でも、クレイは親衛隊が 
いるんでしょ? あなたがしっかりしてないと、持ってかれちゃうわよ」 
マリーナはそう言って、いたずらっぽく笑った。 
笑えるはず無いのにね。ずっとクレイへの想いを封じ込めていたのに。 
「そんな悲しそうな顔しないでよ。だいたい、私に意気地がなかったから、こう 
なったんだから」 
「そんな、マリーナは……」 
「いいの、もう終わったことだから。甘えてたのよ、幼馴染みっていう立場に」 
「……………」 
「本当は、もっと罵倒するつもりだったのにね。いざ言ってみたら、あんなに 
動揺するなんて。詐欺師失格かなぁ」 
笑って見せたマリーナの目から涙がこぼれ落ちる。 
「あ、あれ、もう、やだ……」 
「マリーナっ」 
わたしはマリーナを抱きしめて、そして、二人で泣いた。 
 
「パステル」 
「あ、クレイ、ノル……」 
ノルの声に振り返ると、少し疲れたような表情のクレイを連れて、冒グル事務 
所の玄関からノルが出てきた。 
「どうだった クレイ?」 
「うん……、もう大丈夫だろうけど、一週間ぐらい様子を見ようって言われてね。 
事務所の雑用を手伝いながら診てもらうことになった」 
「一週間? うーん。お金、大丈夫かな……」「足りないのか?」 
「うん、マリーナ……に、頼ってばかりじゃいけないし」 
「俺、帰ろうか?」「ううーん。ノルが帰っても足りない……」 
「俺が一人で残るよ。それならどうかな?」 
「えっ? あ、ああ、それなら大丈夫だと思う……」 
「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても」「うん……」 
「ところで、マリーナは? ノルに一緒に出ていったって聞いたけど」 
「先に、帰るって……」 
じっと、クレイがわたしの顔を見てる。 
「な、何……?」「目、赤いよ。マリーナと、何かあったんだね」 
「マリーナが、しばらく、会いたくないって………………」 
「……………」 
「会ったら、何をするか解らないから。落ち着くまで会いたくないって」 
クレイの顔が険しくなる。 
「そうか……。詳しい話は、宿で、聞くよ」 
 
 
 
14 
 
わたしはベットに寝転がって、ぼんやり空を見上げていた。今日は少し雲が 
多くて、時々日が陰る。 
 シルバーリーブに私達が帰ってから一週間。時間が経つごとに不安が増してる。 
なんだか、心がざわついて落ち着かない。マリーナは、クレイには会わないって 
言っていたけれど……。一週間、近くにいるんだし、偶然出会ったりすることも 
あると思う。その時、どうなるんだろう。もし、もしも、マリーナの気持ちが 
変わったら? 
はぁ……。なんで、嫌な方にばかり考えるんだろう。クレイが居ないだけで、 
こんなに不安になるなんて。二人を疑ってしまう自分が嫌になる。 
「早く、会いたい……」 
クレイの温もりを思い浮かべて、少し大きめの枕をギュッと抱いて横向きになった。 
ルーミイと二人分の大きめの枕。 
 こうすれば、少しは不安が治まるかなって思った。けど、そうじゃなくて、 
あの時のことを思い出して、かえって切なくなる。 
ドキドキして、顔が熱い。抑えようとすると、あの時の様子が浮かんで来てしまう。 
キスの真似をして唇に指を当てる。これがクレイだったら、いいのに。 
何度もキスをして、指を唇で銜える。舌でなぞって、そして、含んで。これは 
クレイの舌…。 
「ん、ふ………」 
なんだか、変な気持ち…。 
キスの真似だけじゃ物足りなくて胸をゆっくり撫でた。立った乳首がこすれて、 
感じてしまう。 
「はっ……、んんっ………」 
んっ、やぁ。ダメ、こんなことしたら。でも、でも……、このまま、もっと感じたい。 
指を舐めながら、服の上から胸を揉む。わたし、凄いカッコしてる。………ううん。 
これは、クレイの舌で、手だから。わたしはクレイに抱かれてるんだ。両手を服の 
裾へ延ばして。 
「ぱーるぅ!」「きゃっ!」 
突然、ドアが開いてルーミィが飛び込んできた。 
「るっ、ルルルーミィっっ! 部屋にはいるときはノックしてって言ったじゃないっ 
」 
「あっ、えっと、ごめんなさい。…それよりねっ、くれーから手紙だよ!」 
「ええっ!」 
小さく頭を下げたあと、すぐに顔を上げてにっこり笑って手紙を差し出した。 
二ヶ月前から、急に成長しだしたルーミィ。今は十二、三歳ぐらいに見えるけど、 
性格や動作が小さい頃と殆ど変わってない。 
わたしはルーミィの手から手紙をひったくるように奪って封を切る。 
「ね、ね、何て書いてあるの?」 
ルーミィは横から抱きついて、手紙をのぞき込んでる。 
「明日……、ううん。手紙の日付は昨日だから……、今日帰ってくるって」 
「ホントにっ!?」 
「クレイ、今日帰ってくるんだ……」 
ルーミィの言葉に答えずに、手紙を胸に押し当てた。 
 
 
 
15 
 
「パステル、今日はいいよ。話したいことあるでしょ? 二人っきりで」 
「えっ!」 
リタに『二人っきり』って言われて、思わず持っていたお皿を落としかけた。 
「あっ、ああああっ。ち、ちょっと、二人っきりって、そんな」 
「ははっ、わかりやすいなぁ。とにかく、クレイも待っているし」 
わたしの手から皿を取って、無理矢理厨房の出入り口に体を向けさせられる。 
 
今日は、クレイが帰ってきたお祝いにパーティを開いた。 
パーティはドミンゴさんの好意で、どの料理を頼んでも半額にしてもらえる 
約束だったけど、結局いつもより少し豪華で、いつもより少し多めの料理に 
なった。いくらお祝いだからって言っても、ドミンゴさんに負担をかけたく 
なかったし。それに、いつもの夕食とそんなに変わらなくても、全員が揃って 
いること、それだけでとても嬉しかったから。 
 
クレイは、パーティのお礼に片付けを手伝うと言ったわたしを、一人、テーブルに 
座って待ってくれていた。夜遅いから、片付けが終わったら送るって言って。 
「クレイ?」「あ…、もう終わったのか?」「うん、追い出されちゃって」 
外は満月で、月の光がぼんやりとあたりを照らしてる。私達は猪鹿亭へゆっくり 
歩き出した。なんだか話すのが照れくさくって、黙って歩く。 
パーティの最中でも、目を合わすと慌ててそらしてた。それをリタは見ていた 
らしくて、厨房から追い出す間際に 
「もしかして、つき合っていたり、する?」 
なんて言われた。リタには頷いて答えたけれど、ちゃんと伝わったかな。 
もしかして、みんなも気づいているんじゃ…。 
「あの、ね、クレイ。みんなに、私達のこと言った方がいいのかな?」 
立ち止まってクレイの顔を見上げると、ちょっと驚いた表情で振り返った。 
「リタに気づかれて聞かれたの。つき合ってるのって。黙っておくのも変だから、 
そうだって答えたけど……」 
「いいよ、言わなくても。トラップもキットンも気がついていたみたいだから」 
あぁ……、やっぱり。 
「絶対にからかわれるって思ってたから、気を使われると思わなかったよ」 
クレイは照れくさそうそうに微笑む。 
「はじめから、片づけが終わるまで待っているつもりだったけれど、二人に 
言われてたんだ。待つように。それに、話したいこともあったしね」 
「話したいこと?」 
「ああ……。俺、二、三日したらドーマに行くよ」 
「えっ? どうして、そんな急に」 
クレイはわたしの手を取って歩き出す。 
「クレイ!?」「婚約を取り消してもらおうと思ってる」 
「……………」「時間はかかるかもしれないけれど、必ず説得してくる」 
「わたしも一緒に行く」 
立ち止まって引き留めると、クレイは振り向くと少し険しい顔でわたしを見つめる。 
「俺一人の方がいいよ。婚約を解消する理由を、はっきり言うつもりなんだ。 
黙っていても、いつかは気づかれるからね。その時にパステルがいれば、詰って 
でも引き離そうとすると思う。辛い思いをさせたくないんだ」 
「それでも、いい。なんにもしないで待っているより、その方が……」 
何か言いそうになったクレイの手を強く握って引っ張った。 
「待ってるの、辛いんだよ。どんどん不安になって。マリーナと会ってるん 
じゃないか、クレイが心変わりしてないかって……。自分が周りを疑って 
ばかりいる嫌な女になっていくみたいで」 
目の前が歪んで涙が溢れてくる。何度も、何度も涙をぬぐう。 
「しまいにはジュン・ケイやギヤの時みたいに、失敗してしまうんじゃない 
かって、そんなことばかり考えてた……。こんな気持ちになったの初めてで、 
怖くて、どうしていいか解らないの。だから、だから、置いていったりしないで」 
「これは、俺がちゃんと決着をつけなきゃいけないことなんだ。だから……」 
「お願い………、一人に、しないで」 
クレイは、唇を噛んで目を伏せた。繋いでいた手に力がこもる。 
「…………。わかった。一緒に行こう」 
 
ドーマで私達のことを認めてもらうのに時間はかからなかった。サラさんが 
婚約の解消をすんなり承諾してくれたうえに、一緒に説得までしてくれたことと、 
トラップの家族も協力してくれたからだった。 
 わたしとクレイの話を町中にステアさん達が広めたことで、私達やサラさんに 
同情する意見が多くなって、サラさんのお父さん、クレイのお父さんへの批 
判が高まったことも影響したみたい。 
「領主とドーマ支部長の騎士だ。悪評が立つのは拙いのさ。ま、昔から言う 
だろ。人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえってな」 
トラップのお父さんは、そう言って笑っていたけど、そのおかけで町中を歩け 
なくなってしまった。 
だって、会う人会う人から冷やかされたり、励まされたりするんだよ? 凄く 
恥ずかしかった……。 
 
 
 
16 
 
ドーマから帰って一月。クレイはすっかりいつもの状態に戻った。今までの 
二週間が嘘みたいに。けれど、周りの人達は私達が変わったって言う。『大人っぽく 
なった』って。自分では全く解らないけど。 
 
「ん、ううん……」 
目が覚めると、日は随分傾いて辺りは茜色に染めていた。木にもたれて話して 
いるうちに、つのまにか眠ってしまったみたい。見上げると、クレイも目を 
瞑り眠っている。わたしは、クレイに寄りかかっていた体を起こして、辺りを 
見回し溜息をついた。 
「今度はちゃんとしたデートになると思ったのに……」 
 何度かデートをしようとしても、相変わらず続いている親衛隊の嫌がらせに 
邪魔されてばかりだった。だから今度は、見晴らしの良い、シルバーリーブを 
見下ろす丘でのんびりしようと決めたのに。この日にあわせるために、遅くまで 
小説を書いていたのが悪かったみたい。 
 もう一度溜息をつくと、クレイが身じろいで目を覚ました。 
「ん……、ああ、もう夕方なんだ」「あ、ご、ごめんなさい!」 
クレイは突然謝られて、驚いた顔をしている。 
「デート台無しにして、ごめん…」 
「いいよ。気にしていないから。ここのところ、夜遅くまで小説書いていたん 
だろう?」 
「うん……。でも」 
「いいんだよ、これくらい。パステルには迷惑かけてばかりなんだし」 
何も言わずに黙っていると、クレイは立ち上がって歩き出す。 
「そろそろ帰らないと…。行こう」 
わたしは慌てて荷物を集めて後を追った。 
 
「怒ってる?」「怒って無いよ」 
緩やかな坂道を、二人並んで降りていく。さっきからこの繰り返しばかり 
してる。 
「俺って、つくづく不器用だよな。気の利いた言葉の一つ出てこない……」 
「えっ……」 
「トラップみたいに、女の子の扱いになれていたらなって思うよ」 
クレイは、自嘲気味に笑って見せた。 
「わたしは、このままがいいな」 
そう言ってクレイの腕に自分の腕を絡める。 
だって、これ以上クレイがもてるようになったら大変だもん。それに…… 
「不器用でいいよ。そんな、クレイが好きなんだから」 
「何か言った? パステル」 
「ううん、なんにも。ふふふっ」 
絡めていた腕を抱きしめる。どんなことがあっても、離れないように。 

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