段差─父さんの背丈の半分はあるだろうか─に踏み登り、振り向く  
目深に被った帽子の影で明鐘の目が不安に揺れている  
「はい」  
手を差し出すと、一転、花のように笑って握り返してきた  
「いくぞ、せーのっ・・・」  
「うぅん・・・っ!」  
明鐘の体はちょぴり重い  
女の子に重いって言うのは失礼なんだって誰かが言っていたけれど  
明鐘と僕の背丈なんてそう大きくは変わらないんだ  
体重だってそうだろう  
だから重いとか、そう感じる事を僕は恥ずかしいなんて思わない・・・でも  
「よい・・・しょ!」  
明鐘を引き上げる  
今、この位は格好良くしたい  
僕は明鐘の「兄さん」なんだから  
「えへへ・・・ありがと」  
「いいよ、これくらい」  
握り合っていた右手に明鐘が左手を添えて笑う  
照れくさくなった僕は先に向かおう、と目で促す  
明鐘は解ってくれたようで手を─少しだけ、名残惜しそうに─離してくれた  
「多分、あと少しだから」  
「うん」  
明鐘はどこへ行くのかは聞いてこなかった、そして僕も言わなかった  
多分、どこへ行くつもりであっても明鐘がついてくるんだっていう事がなんとなく判っていたから  
 
############  
 
見たこともない場所  
学校の近くでも、お家の近くでもない  
もっとずっと遠い場所  
今日は私と兄さんと、お父さんとお母さん  
みんなでお出かけ  
お父さんが運転する車は今、森のそばを走っている  
いっぱい木が生えていて、並ぶお家は小さくて、透明な川が流れている  
「お話の国みたい・・・」  
「もうちょっとで着くからな、着いたら荷物を降ろして、すぐに遊べるぞ」  
お父さんが柔らかい声でいう  
「広いから迷子にならないようにね」  
お母さんが振り返って言う  
「気をつけるよ」  
「うん」  
兄さんと二人頷く  
お母さん、大丈夫だよと  
「お・・・外、右の方だ見てみろ」  
お父さんが言う  
右側には兄さんが座っている  
目が合って、兄さんはすぐに場所を変わってくれた  
「うわぁ・・・」  
目の前には原っぱ  
所々で白い花が咲いていてとても綺麗だ  
隣合った森との境界にかすかに見えるもの  
なんだろう?教会?  
全てを目に納める前に景色は途切れてしまった  
道と並ぶように立ち並んだ木が遮ってしまったのだ  
少し、残念  
「残念だったな」  
「兄さんは」  
はっと思い出して、見れたの?と続けようとした  
「うん、少しだけど」「兄さん、ありがと」  
「ああ、どういたしまして」  
兄さんを見て、なんとなく思い浮かんださっきのあの教会  
まるでお人形のお家のように可愛らしい  
お話の国みたいなこの場所のあんなに綺麗な教会で  
兄さんの・・・お嫁さんになれたら  
「明鐘?」  
「きゃっ!?」  
兄さんがのぞき込むように私を見ていた  
「大丈夫か?顔、赤いぞ」  
「なんでもないよ・・・大丈夫」  
そう答えはしたけれど  
私の意識はそれからあの教会に釘付けになってしまった  
「・・・」  
 
******  
 
「よしこれで大体は・・・」  
「そうね・・・涼、明鐘!」  
お母さんが呼んでいる、行かなきゃ  
「明鐘、待って」  
呼び止められ、振り向くと兄さんがずぼっと私の頭に帽子を被せた  
「クスクス・・・もういいわよ、遊んでらっしゃい」  
「うんっ」  
兄さんが嬉しそうに頷いた  
 
 

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