ある日曜日の午後のこと。
日曜日にしては珍しくバイトが休みだったので、俺――水原涼は部屋に掃除機がけをしていた。
開けた窓から入る風が、初夏の訪れを感じさせる。
「もうそろそろ夏か」
そうひとりごちた時、玄関でチャイムが鳴った。こんな時間に来るといえば、そう思いながら出てみると。
「こんちはー」
「やっぱり、美紀か」
彼女は守屋美紀。妹の明鐘とも付き合いのある、幼馴染だ。
「やっぱりとはご挨拶ねえ、かわいいあたしが遊びに来てあげたのに」
「そうかそうか、まあ上がれよ」
「うん、おじゃましまーす」
ダイニングに通し、烏龍茶でおもてなし。
「それにしても、珍しい格好してるな」
美紀の装いを見て、俺は言った。白を基調とした上着に、プリーツのミニスカート。美紀のスカート姿なんて
制服でなければ幼い時以来かもしれない。
「どう? 似合ってるでしょ」
そう言うと席を立って一回転する。スカートがふわりと浮かび、太股が見えた。俺はドキッとして目をそらす。
おしゃべりも飽きて、俺達はテレビゲームで遊ぶことにした。
「ねえねえ、あんたこんなゲームもやるの?」
美紀がニヤニヤしながら取り出したのは、“何処へ行くの、あの子”というギャルゲームだった。俺は慌てて
取り返す。
「いや、たまにはこんなのもいいかと思っただけだ」
「面白そうじゃん、そのゲームしようよ」
それから。
「ちょっと。また年上ねらい?」
「またって何だよ、このキャラからは包容力が感じられるだろ?」
「ええーっ、あたしにやらせてよ」
俺の脇から手を伸ばして、コントローラーを奪う美紀。腕組みをするような格好のまま、美紀は
コントローラーを動かしている。
「お、おいおい」
「このケーキ屋の幼馴染にしよ」
美紀が動くたびにふにふにと胸が当たるので、どうも落ち着かない。ふんわりといい匂いが、彼女の髪から
漂ってくる。
(気づいてないのかな……)
心臓が高鳴ってくるのを抑えながら、俺は画面に集中しようとした。
適当なところで切り上げ、いつものように俺の部屋に行く。
「どれにしよっかなー」
「新しく買ったのが下に……」
あるぞ、と言いかけて振り向いた俺は絶句した。
脚を伸ばしたまま下にある本を取ろうとしてるので、俺からは白い下着が丸見えだった。艶かしい太股が
尻の辺りまで見え、スカートのプリーツがひらひらと揺れる。
慌てて向き直ったが、今度こそ心臓が高鳴り始めた。さすがに顔が熱くなってくる。
「じゃあ、これ見せてもらうね」
そう言って、美紀は床に寝そべった。どうしてもちらちらと、脚の方に視線が行ってしまう。
「何か飲み物取ってくるよ」
少し頭を冷やしてくるかと立ち上がったとき、美紀の脚に引っかかって態勢を崩す。
「きゃっ」
そのまま正面から圧し掛かった格好になった。
慌てて体を離そうとしたが,目があった途端俺は縛られたように動けなくなった。
美紀の大きな目が俺を映している。白い頬はうっすらと赤く、唇は艶かしいほどに赤い。
こいつ、こんなに綺麗だったかな……。
ほんのちょっとの間、俺は間違いなく美紀に見とれていた。
はっと気づいて身を離そうとした時、美紀に腕をつかまれていた。
「ねえ……私のこと、まだ好き?」
「あ、ああ、もちろんさ」
「そう……あたしも涼のことが好き。幼馴染でいて、なんて言っちゃったけど……あたしじゃだめ、かな」
今度はまっすぐに俺を見つめてきた。
「そんなことはないよ、美紀さえよければ」
美紀はひとつうなずくと、黙って目を閉じた。俺は美紀を抱きしめるように、唇を重ねていく。
「んっ……」
柔らかな唇を吸い、しばらくして身体を離そうとした時、今度は抱きしめられる。
「ねえ……その、さ」
「いいのか?」
「うん、だから……きて」
少しずつ橙色を帯びてくる光の中に、美紀の肢体が浮かび上がる。
「んっ…んんっ……」
もう一度今度は、お互いの舌を絡めるように深いキスを繰り返す。
そうして,俺達は一つになった。
「ね,涼。もう一回だけ」
そう言って美紀は目を閉じた。俺はしっかりと抱きしめて,キスをする。
――そう。俺たちはここから始まっていくのだ。