静かな夜更け。月明かりが僅かに照らし出す部屋。
さあ寝るか。そう思って眠りにつくような時間帯。
誰かが部屋のドアを開ける。ノックはなしだ。
ぼんやりとした目で闖入者を探ってみる。
薄紅色のネグリジェを身に纏い、手には枕を? ……って西守歌!?
「お前! 何……!!」
「しっ! 静かに、涼様。明鐘様に気づかれますわ」
怒鳴ろうとした矢先に手を突き出され、沈黙。
眠気などすっかり覚めてしまった。
「ねえ、涼様。一緒に寝ても……?」
「ちょ、ちょ……ええい! ってもうベッドに入っているし」
待てをかける暇も与えずに西守歌は涼のベッドに潜り込んでくる。
追い出そうにも、西守歌の手強さは身を以て知っている訳で。
結局は背中を向けあうという形で、それを受け入れる。
「…………」
「…………」
しばしの沈黙。背中合わせに互いの温もりを感じあっている。
くすぐったいような、そんな時間が何分か過ぎたところで、西守歌が口を開いた。
「涼様。私たち、そろそろいいですわね?」
「……そろそろ? って西守歌、まさか?」
「そのまさか、ですわ。涼様」
そう言うと西守歌はベッドを抜け出し、しゅるしゅるとネグリジェを脱ぎ出す。
異性の前で、なかなかの脱ぎっぷりだ。……などと感心している間もなく下着姿になる。
目を離すことなどできなかった。できるはずもなかった。
この少女に惹かれている。それもどうしようもないほどに。
それを単に認めたくなかっただけだ。あの日までは。
たしかに、俺はこういうところも含めて西守歌のことを好きになったんだろう。
覚悟を決めるのは容易いことだった。
(いつだったかも、夜這いされたんだったよな……)
男の方からではなく、女の方からの夜這い。しかも反応まで見越されていた訳で。
思い出すと、なぜか妙に悔しくなってくる。
あの時は、慌てふためくのが精一杯だったが、なんというか今は不思議なくらい落ち着いている。
この状況を逆手に取って、溜飲を下げてやろうかと言うほどに。
押されっぱなしでは気が済まない俺だった。
こんな状況ですら、自分を見失わないというか、なんといえばよいのやら。
この場の雰囲気を別の意味で楽しんでいたのだろう。
「…………」
「…………」
共に無言だが、言わずとも何を望んでいるかは互いに理解していた。
コクリと首肯し、ベッドに入ってくる西守歌。
目で追いつつこちらもパジャマを脱ぎ、こちらも下着だけの姿に。
そしてブラジャーを脱ごうとする彼女の前にそっと手を差し出す。
自分で脱がしたい、そう思っていたのだが思っていたよりは悪戦苦闘。
なかなかホックを外せない。
「涼様。ここを…こうするんですわ」
見かねた西守歌の助け船。
……なるほど。フロントの方を捻るようにするのか。
一つ賢くなったと思いながら、露わになった胸元をまじまじと見てしまう。
白く、美しい肌。それは一つの芸術と言っても過言では……ないよな? きっと。
比較する対象など持ち合わせていないが、掛け値なく美しいと思う。
そして。……いや、わかってはいたが、西守歌のヤツ、脱ぐと結構……なんだよな。
「……やだ、涼様ったら」
頬を朱に染め、照れる西守歌。どうやらまじまじと凝視しすぎていたらしい。
落ち着きを取り戻すために大きく息を吸う。
「本当に、いいんだな?」
「……ハイ」
質問と言うより確認。一瞬の沈黙のあと、西守歌はコクリと頷き返事をする。
共に真剣な眼差しを交わす。これから先に何が起こるか。
それがわからないほど、二人は子どもではなかった。
「ん……」
「あ…ん…」
ちゅうちゅう、れろれろと、絡みつくようなキスをしてベッドに転がり込む。
首筋に囓りつくように吸いつき、西守歌の胸を揉みしだく。
想像していたよりもほんの少しだけ堅い気がするが、それでもやっぱり柔らかい感触。
夢中になって揉み、我慢しきれなくなり乳首に吸い付く。
「あ…ん…」
くすぐったいのか西守歌が声を漏らす。
「もう、涼様ったら。いくら吸っても母乳など出ませんわ」
「…………」
少しだけ呆れたような西守歌の声。でも決して怒ってなどはいない。
赤ん坊のように、いや、それとは違う荒々しさで黙々と西守歌の左右の胸を貪る。
はふ、と西守歌の熱っぽい声で、こちらもいよいよ我慢ができなくなってくる。
股間はもう欲望を抑えきれず、歓喜の先走りすら流していた。
「それじゃ…いくぞ」
「…はい」
名残惜しいが、西守歌の胸から離れる。胸元は自らの唾液でぬらりとしている。
ショーツを脱がせにかかる。先ほどのブラジャーとおそろいの薄紅色をしているが……?
「おや、これって……?」
「え、あ…その、えーと、あの」
頬を朱に染め、あたふたと西守歌の返答。しかしこの状況で誤魔化すことなど無意味だろう。
股布に触れてみると、うっすらと湿っている。どうやら西守歌も濡れていたらしい。
彼女も喜んでいたようで、こちらとしても満足であるのだが。
……とはいっても、それに浸るつもりもなく、自分も一糸纏わぬ姿となる。
荒ぶる気持ちは抑えきれないが、ほんの少しクールダウンしてから胸元に引き寄せる。
(……改めて思うと、小さく華奢な身体だなんだよなぁ。)
俺は男で。西守歌は女で。改めてそのことを認識し直す。
興奮してはいるのだが、でも頭は少し醒めた感じで西守歌の温もりを味わう。
この先の行為に及ぶのは、無論初めてで。そして西守歌もそうなんだが。
年上の余裕を見せる訳ではないのだが、せめて少しでも落ち着こうと思い始めた。
「まあ、涼様たらっ。……ふふふ。元気いっぱいですわね」
「しょうがないだろう……」
西守歌が俺のモノに手を触れてくる。少しひんやりとした手のひらが、また刺激的で。
とはいえ、こんなときでも物怖じしないところが彼女らしいといえば、それもそうで。
……妙な微笑ましさすら感じてくるのがちょっとアレだが。
……それはさておき。
ごろんと寝そべり、西守歌を俺の股間に跨がせる。
互いの表情が見えるというのがちょっと恥ずかしいかもしれないが、それもまたいいかもしれない。
「えっと…ここ…だよなぁ…?」
「んっ…ちょっと違うような…?」
露わになった秘裂にモノをあてがう。だが、なかなかうまくはいかなくて。
そうこう繰り返していても埒があかないからか、西守歌が動き出す。
「ん…しょ」
彼女はその部分を自分の指で押し広げ、のし掛かってくる。
心地よい重さを感じながら、俺のモノがそこへ入り始めた。
「――――っ!! 」
「う…っ!!」
ぬぷり、と音を立て、西守歌の割れ目に俺のモノが埋まっていく。
「う…あ…涼…さ、ま」
「く……」
辛そうな西守歌の声に一瞬気が萎えるが、ここまできて行為を止められるはずもない。
なにか堅い部分に亀頭があたり、侵入が阻まれるも、自分でも腰を動かし、ついに奥まで辿り着く。
正直言って、既に限界を突破しそうなくらいである。
首を少し起こし、結合部を覗き見る。うっすらと血のようなものが目に入ってくる。
ポタポタと温かい感触。見上げれば、西守歌がはらはらと涙を流している。
「ん……涼様。やっと、私たち結ばれたのですね…」
「――――」
はぁはぁと息を荒げながらも、満足げな声音。
対する俺も返す言葉もなく、惚けてしまう。
西守歌の―――涙。痛くて辛いだろうに。……実は俺も少し痛いくらいなのだが。
感極まったようなその姿を見ているうちに、なぜか俺の目からも涙が溢れ出てきた。
「ん…しょ」
「だ、大丈夫なのか、西守歌?」
西守歌がのろのろと腰を動かし出す。あくまで自分が主体となりたいようだが……?
ありがたいのだが、今は自分が抑えられない。
「手伝ってやるよ」
「え…あ…りょ、涼様っ!?」
自分でも驚くほどに冷静な声。対する西守歌は意表をつかれた様子で。
膣奥に叩きつけるように律動を開始する。
西守歌の肉ヒダ。その蠢きを自らのモノをとおして感じる。
溶け合う喜び。そして互いに求め合う想い。そして欲望。
そんなものがごちゃまぜになったかのような、表現しがたい気分だ。
「く…うぁ」
「っつ…ふぅ…」
痛み混じりの西守歌の声が耳に響き、罪悪感が少しずつ湧いてくる。
それでも、この行為を止めることなどできなくて。
今まで体験したことのない感覚。脳に響くような強烈な快感。
熱に浮かされるかのように、ひたすら彼女の膣奥にモノを叩きつける。
「くぅ…あ…あっ!!」
「あ……」
甘美な時間は瞬く間に過ぎ、やがて限界が訪れる。
背を起こし、西守歌の胸に顔を埋め、彼女の背に手を回す。
西守歌も俺の首に手を回し、終わりが告げられる。
どくどく、と。自分でも不思議なくらいの量の精液が注ぎ込まれる。
「はぁはぁはぁ」
「ふぅ…ふぅ」
西守歌の中から自らのモノを引き抜く。
彼女の膣中は、まるで離れるのを惜しむように絡みついてくる。
互いに脱力し、くて、とベッドに寝転がる。
呼吸が乱れ、言葉を交わすことすらままならない状況が続く。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
ようやく活力を取り戻し、西守歌の全身を見入る。
まだ痛いのか、辛そうな、でも満ち足りたような表情。
「ふふ…これでやっと本当の許嫁同士になれたのですね、涼様」
「……ああ、そうだな」
西守歌がぽつりと漏らす言葉。複雑な気持ちだが、一応は肯定する。
互いに見つめ合い、にこりと笑って抱き合う。
どのくらい抱き合っていただろうか。
ほんの数分か、それとも数十分だろうかは、今の感覚ではよくわからない。
「あ…?」
「ん? どうした西守歌」
不意に西守歌が声を上げる。俺は多少心配しつつも西守歌を見つめる。
「いえ、その…涼様のが…えっと」
そう呟き、もじもじとした表情で顔を逸らす。
俺は多少訝しげに西守歌の全身を見つめ、彼女の股間に目を留める。
そこからは俺の精液と、彼女の血らしきモノが混じり合った液体が零れ出ていた。
その様を見ているうちに、不思議なくらい情欲が湧いて出てきて。
気づけば、西守歌をその場で押し倒していた。
「西守歌! ゴメン、俺もう我慢できないんだ!」
「えっ? 涼様……」
困惑の色を隠せない西守歌の声。
俺は彼女の返答を待つまでもなく、そのほっそりした両脚を抱え上げる。
秘裂にモノをあてがい、一気に貫く。変わらずきつい膣が俺を迎え入れていた。
「あっ、あっ! 涼様、涼様っ!」
「くっ!」
やはり苦痛混じりの声を上げる西守歌。罪悪感はいったん切り捨てて、俺は腰を動かしていた。
最初は…そのまま押し倒して、それから…四つんばいにさせて後ろから。
その後は…どうしたのだったか。思い出すこともできない。
自分の知識を総動員させて、色々試した気がする。
ただひたすら感情の赴くまま、欲望、或いは本能に忠実に。
いったい何回ほど西守歌の中に注ぎ込んだのだろうか。自分でもわからない。
貪るように西守歌を抱き、注ぎ込む。その繰り返しだった。
「ふぅ…はっ…あぁぁぁ!!」
「くっ…うぅ…!!」
恋しくて、愛しくて、どうしようもなく想いを叩きつけるようにひたすらに抱き。
気がつけば、苦痛の声が消え、明らかにそれとわかる歓喜の声をあげる西守歌。
その姿を目に焼き付けて、ようやく事は終わりを告げる。
西守歌を抱きしめ、優しくフレンチキス。
荒ぶる呼吸が安らかなものに変わり、心地よい疲労感が全身に伝わる。
言葉を交わす気力もないほどに疲れ果てていて、二人で抱き合いながら泥のように眠る。
疲れ果て眠りにつく西守歌にもう一度キスして。
西守歌の寝顔を見つめながら、俺もゆっくりと眠りについた。
西守歌との相変わらずの日々を過ごす毎日。
季節は春。心地よい風を身に纏い、西守歌と明鐘と共に登校する。
俺と西守歌が一線を越えてしまったのは、つい先日だった。
ちょっと照れくさいような、恥ずかしいような、認めたくないようで認めている。
西守歌の言うところの許嫁。俺と彼女を表す言葉。
その言葉の意味を正しく理解し始めている、そんな矢先。
気の合う友人たちと楽しく過ごせ、恋人であり、許嫁と時を同じくする喜び。
なにかが微妙に変わったような、なにも変わっていないような、ありふれた日常。
俺と西守歌の関係は、あの夜から確かに変わったのだろう。
でも、変わったのは西守歌との関係だけじゃなかったようで。
――――俺を見つめる明鐘の表情。
いつもとは明らかに違うはずのそれ。顕著になるのは俺と西守歌が仲良くしている時か。
それを気づかなかった――――気づけなかったのは、ある意味では致命的だったかもしれない。
西守歌と過ごす日々の中に埋没していった、とても大切な何か。忘れてはいけないもの。
……見落としていた俺は、兄としても、そして男としても――――不出来だったのだろう。