朝になり目を覚ます。布団の中にはそれが当たり前のように西守歌がいて。  
――――なぜか互いの着衣に乱れはなくて。いや、夕べは確か……?  
「……お前、昨日はナニを飲ませたんだ?」  
「ふふふ…たっぷり楽しんだからいいじゃないですか、涼様」  
訝しげに西守歌に問う。彼女は答えるが……望むものとはどこかかけ離れていて。  
話がなんだか噛み合っていない。  
問答にもなっていないようで、微妙に意味深な笑みで、ごまかされている気がしないでもないが。  
ペースに乗せられているのは……悔しいが事実だろう。それはさておき。  
夕べは確か…西守歌と…で…薬を飲まされた、そこまでは間違いなく覚えている。  
でもその先が、どうにも記憶があやふやで、わからないので朝から彼女に訊いているわけなのだが。  
頭はガンガンするし、二日酔いにでもなったのだろうか。……酒を飲む習慣などないのだが。  
どこかクラクラしている俺を横目に、西守歌がポツリと呟いた。  
「ふふ、効果は――――抜群のようですわね」  
「ん? 何か言ったか」  
聞き咎めるように問うが、どこ吹く風の様子で。  
この手の対峙では、俺に勝ち目はなさそうなのでもうやめにすることにした。  
西守歌の罠に俺がまんまと引っかかった。それだけは間違いない。  
そしてその件についてどうしようもないということがはっきり理解できていた。  
 
――――待てよ、かつてこんなことがあったような……?  
ざわざわと全身を襲う悪寒。なにか腑に落ちないのだが。  
 
「あ、おはよう。兄さん、西守歌ちゃん」  
「ああ、おはよう明鐘」  
「おはようございます、明鐘さん」  
三人揃ったところで朝食を摂る。なにも違和感などないはずなのだが。  
「……?」  
「「?」」  
なにか、どこかがおかしい気がして、二人をふと見つめてみるのだが……?  
揃ってどこか怪訝な顔をされ、むしろおかしいのは自分な気がしてくる始末で。  
「いや、悪かった」  
一人で悩み、とりあえず自己完結しておく。考えるだけ無駄な気がする。  
掻き込むように食事を終わらせ、登校の支度をする。西守歌も明鐘も準備ができたようだ。  
「ほら、さっさと行くぞ」  
電車の時間にやや遅れ気味のせいか、少し焦った声で二人に呼びかける。  
二人は顔を見合わせ、にこりと、しかも意味深に笑っていたのだが……俺はそれには気づけなくて。  
もしその表情が見えていたのならきっと、悪戯が見つかった子どものそれだったのだろうけど。  
「想いを遂げるというのは……いいものですね」  
「ふふ…そうだよね、西守歌ちゃん」  
俺の耳には届かなかった二人の会話。深い感慨が込められたその言葉。もし、聞こえていたとしたら……?  
「――――二人とも遅れるぞ」  
「……ふふ、は〜い涼様」  
「……わかってるよ、兄さん」  
呆れ気味に告げる俺。返す二人の言葉。始まる日常。  
 
――――柔らかな風を受けながら、俺たちはいつものように登校していった。  
 
END  
 
 

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