あっけなく過ぎる一日。級友たちと挨拶を交わし、帰路へつく。
帰宅してからの生活。自分の部屋でのちょっとした考え事。
就寝するため着替え、ベッドに入ってぼんやりと思い浮かべること。
機会があればいつでも。ないとしても、それはそれでかまわない。
西守歌と結ばれてから、そんなこんなで身体を重ねてきたのは紛れもない事実で。
日を追うごとに、そして求め合うたびに、互いのより深い部分を知っていく。
それは嬉しいことで、喜べることで――――西守歌との関係。さらに言うなら肉体関係。
好きな相手がすぐ傍にいるということは――――
――――コンコン
誰かが部屋のドアをノックする音が響き、考え事はいったん中断される。
俺の意識は即座に訪問者へと向けられる。
こんな時間――――いや、こんな時間だからこそか。
「どうぞ、開いてるよ」
来訪者の姿を思い浮かべながら、部屋に招き入れた。
「失礼いたしますわ、涼様」
パジャマ姿の西守歌が部屋に入ってくる。やはりというか、ここ最近はほぼ毎日だ。
「ふふ…今晩も、ですわね」
「ああ……」
こちらとしても望むところといったところで。
なんにせよ、お互いがお互いにのめり込むとはまさにこのことなんだろうと。
そう思っているうちに、西守歌は服を脱ぎ布団に潜り込んでくる。
こちらも服を脱ごうとしたところを、彼女の手によって押しとどめられる。
「涼様、私に脱がさせて下さい」
「えっ…んっ?」
西守歌が俺の背中に手を回してくる。服を脱がせると思ったのだが、どうやら違うようで。
少し不審がる俺。西守歌はその背中に手を回し、舌を絡ませてくる。
口の中に何かが入ってくる。――――小さな固まりのような……錠剤?
よくわからないうちに、ゴクリと嚥下してしまう。
「西守…歌。……おまえ……これ、何飲ませた…?」
「ちょっとした小道具ですわ、涼様」
口の中に違和感を残したままのせいか、微妙に不機嫌な声で西守歌に問いかける。
対する彼女は、いつものごとくにこやかな笑みで。
訝るような目を西守歌に向けたところで、それは訪れた。
「ん…あ…こ、これは…?」
「ごめんなさい、涼様。やむにやまれぬ事情がありまして」
そう言うと、西守歌は俺の服を脱がし始める。こちらは身体から力が抜けていって。
「ん…ふふ…」
西守歌が俺のモノを嬉しそうに頬張り始める。
感覚が抜け落ちているのに、哀しいくらいに反応してしまって。
ボーっとしたままされるがままになってしまう俺。
「準備ができましたわね。どうぞお入りください、明鐘さん」
「!!」
驚愕に打ち震える俺。完全に嵌められたと知ったが、時はすでに遅くて。
「あ…その。西守歌ちゃん…私も…私にも」
「な…」
んで明鐘が。と叫びたくても呂律が回らず。上手く喋れなくなってくる。
明鐘もそろそろとパジャマを脱ぎ、俺の傍へやってくる。
「ゴメンナサイ…兄さん、西守歌ちゃん。でも…私も…」
「ん…まあ先に抜け駆けしたという負い目もありますしね」
どこか寂しい口調の明鐘と、いつもと対して変わらぬ西守歌の声。
二人の声が俺の脳内に響き渡るが、頭がクラクラしていて。
俺の意識はそこで闇に呑まれていった。
「では…私から先に」
そう言って西守歌は涼に跨り、その屹立をそっと握り自分の秘裂に宛う。
準備はすでに整っていたのか、その部分はしっとりと涼の訪れを待っていた。
「ん…はぁぁぁ」
満たされた表情をしながら、自分を埋め尽くす感覚を味わう西守歌。
自然と腰を上下させる姿。時に激しく、時に緩やかに蠢くその動作。
(西守歌ちゃん…気持ちよさそう)
興味と恐怖と、そしてあこがれと。複雑な感情を交差させながら明鐘はその様に見入っている。
(私も…あんな風に…できるのかなぁ…?)
どれくらい魅入られていたのか。それはよくわからない。
恥ずかしいとか、そう言う気持ちよりも純粋なくらいの好奇心に支配されていたのかもしれない。
「ん…くっ…はぁぁあ」
びくんとした動きを見せ、交合はいったん終わりを告げる。どうやら二人とも絶頂に達したのだろう。
満足そうな表情を見せ、西守歌がくたりと涼にもたれかかる。
息も絶え絶えと言う感じの西守歌にむかって明鐘は問いかける。
「……ねえ、西守歌ちゃん。私も…いいかなぁ?」
二人の痴態を間近に見たためか、妙に高揚した気分で明鐘が口を開く。
ずっと抱いてきた想い。報われないはずの想い。禁じられた想い。
その想いがついに一つの結末を迎えようとしている。
コトが終わり、後始末をする西守歌。その様をどこか遠い目で見つめながら明鐘が呟く。
「同じ家に暮らしているのだから。長年ずっと一緒だから。兄さんの変化なんかすぐにわかったよ」
「……」
西守歌がこの家を訪れてからのこと。涼が彼女に惹かれ、そして結ばれたこと。
ぼかした言い方をしているが、変化とはそれらのことを指しているのだろうと彼女は理解し、先を促す。
「でも、私も西守歌ちゃんと同じ。……もしかしたらそれ以上に兄さんのことを、好きだったと思う」
「……明鐘さん」
自分の想いをぽつりと漏らす明鐘。西守歌にも、いや西守歌だからこそ、理解できたのだろう。
理解できたが故に、この計画に力を貸し、実行に移したわけである。
涼が明鐘のことを大切に思うように、西守歌にとっても彼女が大切な存在である。
「――――ごめんね」
「……明鐘さん」
謝罪の言葉。誰に向けているのだろうか。
涼? それとも西守歌? 誰に向けての言葉なのかは西守歌にもわからない。
涼と西守歌のふたりに向けての言葉かもしれないし、今はなき両親への謝罪かもしれなかった。
「だけど…今は…今だけは、妹じゃなくて…一人の女の子として」
「……」
どこか吹っ切れた表情を見せる明鐘。西守歌はそんな明鐘を背中から優しく抱きしめる。
自分も女だから。ともに同じ人を好きになったから。でもそれだけじゃなくて。
哀しいほどにその想いを理解し、受け止めている女性――――西守歌。
明鐘はうっすらと涙を流しながら、彼女の優しさというものを背中越しに感じていた。
西守歌に後押しされ、明鐘は吹っ切れたような表情をしている。
先ほどまではわずかに躊躇していた気持ちも、今は踏ん切りがついている。
素早くパジャマを脱ぎ、一糸纏わぬ姿になる明鐘。西守歌は彼女の指導にあたるようだ。
「えっと。…こ、こうかな?」
「ふふ…もっとこう…ですわ」
二人仲良く涼のモノを舐め、しゃぶる。
「あ…兄さんのが」
「ふふ…元気になってきましたわね」
先ほどの放出で萎えかけていた涼のモノが、たちまち元気を取り戻す。
ためらいがちに涼のそれをチロチロと舐める明鐘。西守歌は躊躇なしに喉奥までくわえ込む勢いで。
丁寧さをもって涼に奉仕する明鐘。対する西守歌は涼の感じるポイントを的確に攻めているようで。
初々しさと、慣れ始めた者ゆえの大胆さ。どこまでも対照的な二人の美少女。
ぴちゃぴちゃと響く、二人が奏でる淫らな音。
それに呼応するかのように、自らの秘部が濡れるのを自覚する明鐘。
涼の屹立を手にする明鐘。ビクビクと感じる鼓動。
正直に言えば不気味に思えていたそれも、涼の一部分でもあるわけで。
「ふふ…どこかかわいい気がしますね」
ピンと指ではじきながら呟く西守歌。明鐘の心の内を読んだかのような一言。
驚いた顔をする明鐘。西守歌は笑みを返す。
これからいよいよ――――といった時なのに、二人そろって笑ってしまう。
しばしの時が過ぎ、その屈託のない笑みが真剣な表情に変わる。
明鐘も、西守歌も。二人ともこれから先に進むことの意味を正しく理解していた。
「ん…」
コクリと首肯し、涼に跨る明鐘。覚悟は既にできている。
西守歌は優しい瞳で見守っている。
涼の屹立をそっと掴み、自らの秘部に押し当てる明鐘。
ぬらり、とした感触。腰の動きを調節してみるが、なかなかうまくいかない。
「明鐘さん、もっとそう…そちらへ」
「ん…こうかな…ん…んん」
そうこうしているうちに、股間にズキズキと鋭い痛みが走り、思わず息を呑む明鐘。
涼のモノが少しずつ明鐘のそこに入ってきている。
「もっと力を抜いてください、明鐘さん」
「んっ…くぅ…はぁはぁ」
西守歌に言われるままに全身の力を抜き、息を吐き出す明鐘。
紅潮する頬に涙が伝っていくのを知覚する。
予想のさらに斜め上を行く痛みが、股間を中心に広がっていく。
「ん…く…痛っ! ――――し、西守歌ちゃん!?」
「ふふふ…見るに見かねて…ですわね」
ビクリと身体を振るわせる明鐘。何時の間にやら、西守歌が彼女の胸を揉みしだいていた。
「や…ぁん、し、西守歌ちゃん」
「あら、明鐘さんの胸って触り心地が……」
ふにふにと明鐘の胸を触る西守歌。
それによって意識が乱されたためか、明鐘の身を裂くような痛みが軽減していく。
涼の屹立をすべて受け入れる瞬間がすぐそこまで迫ってきていた。
「あ…あ…くぅ…んんっ!」
「……ついに、ですわね」
訪れる破瓜。やっと、やっとこの瞬間を迎える。
身を埋め尽くすようなこの感覚。苦痛と共に感じる充足。
明鐘は苦痛に涙を流しながら、それでも嬉しさを感じていた。
身を震わせ、動きをとめる。今まで望んで、そして得られなかった、得られなかったはずのモノ。
本当に愛しい人を受け入れることで、満たされるこの感覚。
ピクピクと身を震わせ、しばしそれを味わう明鐘。西守歌はその背中をそっと抱きしめる。
どれくらい時間が経っただろうか。――――おそらく数分程度だろう。
「……やっぱり、最後まで……だよね」
「……ですわね」
どうにかこうにか痛みに慣れてきた明鐘。苦痛に耐えつつ、ふと漏らす一言。
それに多少の間をおき、答えるのは西守歌。
想いを遂げるとしたら、これは、この行いはきっと間違ったことであろう。
でも、それでも……こうせずにはいられなかった。
――――たぶん、私は間違ってしまった。
心に浮かんだ迷いを振り切るかのように、明鐘は静かに腰を動かし始めた。
「ふっ…んっ…くっ…はっ」
「ん…くっ…」
痛みに耐え、必死に腰を動かす明鐘。西守歌も加わり饗宴が再び開始される。
明鐘の胸をもみし抱き、耳を甘噛みする西守歌。淫靡といえるこの情景。
意識を失った涼が相手とはいえ、いやがおうにも興奮し、上り詰めていく少女が二人。
ともに味わう快楽。今まで知らなかったこの感覚に身も心もとろけそうになる明鐘。
もはや痛みすら感じず、ただただこの瞬間を求め――――絶頂へと至る。
「……あ」
「ん――――んん……」
ドクドクと自分の中心を埋め尽くしていくような何かを感じ取る。
愛しき人の終わりを感じ取り、身を埋め尽くされる感覚を味わう明鐘。
こんなにも――――こんなにも心が満たされるなんて、思わなかった。
「……」
「ふふ、ついに……ですわね明鐘さん」
息も絶え絶えに脱力する明鐘。労うように声をかける西守歌。
明鐘が求め、西守歌が応じたこの計画。
我が儘――――どうしようもないほどの憤りから生まれた複雑な想い。
想いの行き着く先。
辿り着く場所はどこにあるのだろう――――?
「……」
「明鐘、さん……」
嬉しくて、哀しくて、交錯する様々な感情。
心を押さえることができずに、明鐘はどうしようもなく涙を流していた。
「兄さんに恋人ができるまでは、私も…って思っていた、でも……」
「……」
「その時が来たら……私って、あきらめが悪い女だね」
「……明鐘さん」
涼にはもう、大切な人ができている。きっと、ひょっとしたら…明鐘以上に。
勝敗は見えていた。兄さんが想いを寄せていた百合佳さん、そして西守歌ちゃん。
自分の出る幕などない。けど、そんなままで終わりたくはなかった。
だから、だからこそ。きっとこれは最初で最後の我が儘。
許されることなどなく、誰からも認められないだろうこの想い。
たった一人理解してくれた西守歌。だからこそ彼女にこそ聞いてほしかった。
「私、ホントは怖かったんだ。自分が、兄さんに必要ない存在になるんじゃないかって」
うっすらと涙を流しながら、語り始める明鐘。西守歌は黙って聞いている。
「ひとりぼっちになってしまう気がして……西守歌ちゃんに嫉妬していたんだと思う」
静かに心情を吐露する明鐘。言葉を続ける。
「大丈夫だから、西守歌ちゃん。明日にはもう、ただの妹に戻っているから」
――――想いに、さよならを。
静かに心の中で誓う。
辛くないと言うわけではないが、いつまでもこのままでいられるわけもない。
「ふふ。――――ありがとう、西守歌ちゃん」
「……明鐘さん」
吹っ切れた笑みを浮かべる明鐘。西守歌も笑みを返す。
晴れ晴れとした笑みを浮かべながら、自分の想いと訣別する明鐘。
――――彼女らの想いを飲み込んで、明日はまた訪れる。