「私たちはどうなろうと構いません。 しかし、クリスタルだけはミシディアに!」  
バロン城の地下牢に切なる願いの声が響く。  
 
軍事国家バロンは近年、積極的に他国への侵攻を開始していた。  
しかしその目的は、領土の拡大や資源の略奪には無いようだった。  
(一部の卑劣な将校が結果として私腹を肥やすことはあったが)  
自然界の力を守護するといわれる輝く結晶、クリスタルを奪い取ると、  
制圧した国に駐留することすらなく撤収していくのである。  
 
とは言え、クリスタル以外は持たずに手ぶらで帰る、というわけでもなく、  
魔道士の郷ミシディアから水のクリスタルを奪取する作戦の際、  
抵抗した魔道士達は捕虜として移送され、このバロン城に捕らえられていたのだった。  
 
 
「いい加減吐いたらどうだ? さあ、貴様らがクリスタルについて知っていることを全て話すんだ」  
バロン兵が牢屋越しに、捕虜である女白魔道士を尋問する。  
黒魔道士達は攻撃の術を使う可能性もあるのでどこか他の場所に移されたようだが、  
治療や補助を生業とし単独での戦闘は不得手な白魔道士は、危険も少ないと判断されたのか、  
特に魔法封じなどの処理が施されているわけでもなさそうなこの牢に入れられたままだった。  
もっとも、会話を防ぐためか、同じ白魔道士でも別々の牢に入れられ、  
他の白魔道士の姿を見ることはできないし声も聞こえることはなかったが。  
 
「……私達の知りうる限りのことは全てお話しいたしました。これ以上語ることはありません」  
今この牢に一人で入っている白魔道士は視線を合わさずに応える。  
嘘は無かった。そもそも一般人はおろか、クリスタルを間近で護る任を帯びている高位の魔道士ですら、  
「クリスタルとは何か」という本質を完全に理解しているわけではないのだ。  
世界を支える力の象徴とも、大地の中を輪廻し循環する生命の結晶であるとも、  
幻獣の力が凝縮した魔石と同種のものだとも、星の記憶の根源だとも言われ、様々な仮説が渦巻いている。  
唯一確かなのは、断じて「ただの石」と呼べるような存在ではないということだ。鳥山は氏ね。  
 
……ともあれ、彼女もクリスタルについて大したことを知っているわけではない。  
それどころか、クリスタルを集めているバロン軍自体ですら、クリスタルが一体どんなもので、  
クリスタルを集めることで一体何が起こるのか、理解している者は居ないと言ってよかった。  
全ては有無を言わせずクリスタルの略奪命令を出しているバロン王のみが知っていることである。  
「……ふっ、話す気は無い、ということか。強情だな」  
だが、彼女を尋問している兵士は、彼女が知らないのではなく、知っていて話さないのだと断じた。  
「違います。本当に知らな……」  
釈明しようとする白魔道士。だが、兵士がにやにやとした笑みを浮かべているのを見て悟った。  
この兵士は、彼女が本当に知らないのを承知で、それをわかっていながら彼女をいたぶって楽しみたいだけなのだ……と。  
 
「仕方ない。話さないとなればこちらも手荒な手段に訴えざるを得ないな……」  
通路の方に視線を向ける兵士。すると、ずるっじゅるっ、と何か濡れた重いものが這いずるような音が近付いてくる。  
やがて牢屋の陰から、半分植物で半分不定形生物のような大きな蠢く緑色の物体が姿を現した。  
「な……ッ!? も、モルボル!? どうして魔物がこんな場所に!」  
恐怖と驚愕の声を上げる白魔道士とは対照的に、兵士は余裕の表情を崩さない。  
彼女は兵士のその不気味な表情に、人間以外の気配を感じた。  
「城の中に魔物……まさか、貴方も!」  
「ふん、気付かれてしまったか。運が悪いな……貴様の運が、な。  
 知らずにいれば、一通り遊ん……もとい、知っている事を吐いてもらった後に、  
 自由の身にさせてやることもできたかも知れないのに。  
 知られてしまっては、貴様を二度と帰すわけにはいかなくなってしまったではないか。ククク……」  
兵士が牢の扉を開けると、モルボルは自分の体より小さなその入り口に、  
触手の塊のようなその全身を歪め、ぐにょりと軟体動物のように侵入した。  
「ひ……ッ」  
壁際に後ずさる白魔道士に、兵士は……兵士の姿をした何かは言う。  
「怖がることは無い。このモルボルは品種改良をした特別製だ……ほら、モルボル特有の悪臭が無いだろう?  
 通常のモルボルは体液やあの悪臭の中に、徐々に体力を奪う毒や、視神経を狂わせる毒など、多種の毒性を持っているのだが、  
 このモルボルにはそれが無い……」  
「ひィッ!」  
兵士が話している間に、モルボルは白魔道士に近付き、その触手が彼女の体に絡みつく。  
毒性が無いと言われても、モルボルはその巨体と力だけで十分に彼女の命を奪えるだろう。  
それにぬるぬるとした触手が何本も肌に触れる不快感は筆舌に尽くしがたい。  
恐怖と嫌悪から懸命に逃れようとするが、モルボルは縦横無尽に無数の触手を器用にくねらせる。  
なおかつその触手の一本一本が、時には猛獣や歴戦の勇士すら絞め殺しあるいは撲殺することが可能な程の力を秘めているのだ。  
半ばパニックになっている彼女は魔法を詠唱することすら忘れていたが、  
仮に魔法を使用したとしても、防護魔法<プロテス>程度では何の役にも立たなかっただろう。  
非力な白魔道士は簡単にその四肢を絡め取られてしまった。  
「……ただ、無毒なモルボルを作ろうなどと思って開発された種では無いのだがな。  
 元々は毒性を強めようという計画だったのだが、機能特化する過程で他の毒機能が退化してしまったのだ。  
 全く、ルゲイエ博士のプロジェクトはいつも安定性に欠けて困る……」  
白魔道士に聞く余裕があるかは知らないが、兵士は淡々と語り続ける。  
「そういうわけで……その混合毒ほとんどの毒性は弱化・無効化させられているのだが、  
 その反面……ごく一部の毒性が異常なまでに強化されていてね」  
余裕が無くても聞こえてはいたようで、白魔道士の顔が青ざめる。  
と、話のタイミングを狙ったかのように、悲鳴を上げるために開いていた彼女の口に、  
モルボルの触手の内の太い一本がねじり込まれた。  
「むぐぉうッ!」  
口に入った触手の先端から液体が噴き出す。  
どろどろとした生暖かい液体。毒性の話を聞いた彼女は必死になってどうにか吐き出そうとした。  
だが、口内を占領する触手は彼女の喉の奥に容赦なく毒液を流し込み続ける。  
触手を噛み千切ろうとしても、砂を詰めた革袋のように硬く弾力があり歯が立たない。  
毒を飲んでしまった、という事実から、彼女は目の前が真っ暗になっていくようだった。  
 
が、兵士の見ている前で、白魔道士の表情は、絶望の色から、ふと、何かに気付いたような顔になって……  
その後、しばらく戸惑いと困惑の色を見せた後……  
「ん……んーッ! んぅぅ……ッ!」  
……やがて、真っ赤になって、眼を潤ませ始めた。  
「その強化された毒性の一つは、ラミアのエキスの数十倍もの誘惑・催淫効果のある媚薬。  
 ……いや、『媚毒』とさえ言っていいか。  
 吐息一つで人間を半狂乱にしてしまうというラミアさえもはるかに凌ぐ、というそれを受けたら、  
 日に三度は交わらなければ発狂してしまうような体になってしまうだろうな」  
「むぐぐーッ!!!」  
白いローブの裾から伸びる足の間を、湧き水のように大量の蜜が滴り落ちる。  
細い触手が腹の上辺りを縛り、締められたローブの胸元には体のラインが浮き出ているが、  
その双丘の頂上に小さな突起が確認できる程に硬くなっているのも、彼女の興奮の度合いを示している。  
「ああ、辛いだろう? そのまま我慢し続けていたら、本当に狂ってしまうかも知れないな?  
 そうでなければ、その欲求を解放してやるのも一つだが、しかしみすみす慰み者になりたいとは思わないだろう?  
 ……さあ、話してくれるなら解毒剤をやろう。全部吐くのなら、な。……どうだ? ん?」  
「んぐーッ! むぐ、んむぅーッ!」  
もはや本当に知っているかどうかなどということは問題ではなかった。  
あること無いこと並べてでもこの状況から抜け出さなければ、自分は確実におかしくなってしまう。  
頭の中に浮かんだ「……これで人生終わってもいい」と「……ウソついて……生きのびたい」の選択肢に、  
彼女は迷わず後者を選んだ。ムンバBフラグ消滅。  
話します。なんでも話します。だからどうか、助けてください――そう言いたかったが、  
口はモルボルの触手で塞がれているのだ。  
だが、涙を浮かべながら、懇願するような声を上げる彼女の態度からは、明らかに伝わっているはずだ……  
「……そうかぁ。まだ話してくれる気にならないかぁ。いやぁ残念だー。  
 私としてもこれ以上手荒な手段はとりたくなかったのだがー。強情を張る貴様が悪いのだよ。うむ」  
この外道。  
 
涙を流しながら大声でどうにか暴れようと無駄な努力をする彼女に白々しい笑みを向けて、  
兵士は肩の高さまで上げた片手を合図するように軽く前方に振った。  
途端、モルボルが動いた。  
無数の触手を持つモルボルだが、彼女の四肢を拘束して口を塞ぐためには数本しか使われていなかった。  
それ以外の触手が……あと4〜5人を拘束してもまだ数に余りあるであろう触手が……彼女の体に、殺到した。  
右足を縛る触手と左足の触手が別方向に引かれ、無理矢理足を開かせられ、  
ローブの裾が捲れ上がり、濡れた下着が露にされる。  
そこに……布地を軽々と突き破って、触手が突き立った。  
「……! ……!!!」  
もう悲鳴は声にさえならない。  
下着が破れてもう一つの穴も晒されると、もう一本の触手がその入り口を先端でぐりぐりと撫でる。  
分泌される液体をそこに塗りつけるようにし、十分に濡れてほぐれたと見るや、ずずっと先端を穴の中に深く沈める。  
他の触手も全身を這い回る。  
着ている衣服を簡単に引き裂くくらいの力はあるのに、  
敢えてそうせず、いやらしくローブの下に潜り込んでくる。こういうことを仕込まれているらしい。  
媚毒に染まった彼女の肉体は、全身を強張らせたままびくんびくんと震えていた。  
既に彼女は、早くも絶頂に達していて、しかもそこから戻って来られない。  
快楽の波が頂点に至ったまま引いてくれないのだ。  
あまりの感覚に失神しかける彼女。  
意識が遠ざかるのを感じ、むしろ気を失った方が楽か、と一瞬思ったが、  
今度は下半身に挿さった二本の触手から体内に大量の液体が注ぎ込まれる衝撃で強制的に引き戻される。  
いや、その二本だけではない。  
全身を陵辱する触手の内、多くから液体が噴き出し、顔を、手を、足を、胸を、腹を……  
隈なく汚しながら、愛撫するように体表を蠢く。  
見ると、その毒液は白濁していて、わずかに粘りがある。その様相からは別のある液体を連想するのを止めることができない。  
媚毒にやられているとは言え、その想像で更に興奮してくる自分の体が嫌でたまらなかった。  
手足の指の間や足の裏、乳首などは、比較的細めの触手が数本纏まってイソギンチャクのように絡みつき、  
無数の舌が唾液を滴らせつつ肌を這い回っているような、くすぐったいのか、おぞましいのか、それとも気持ち良いのか  
判断もできない程の圧倒的な感覚が押し寄せる。呼吸困難になりそうだ。  
ましてや、今の彼女は口が塞がっている。激しい呼吸は全て鼻を通して行わねばならず、荒い鼻息の音が鳴る。  
 
ふーッ、ふーッ、フーッ、フゴッ、フーッ、ブーッ、ブゥッ、ブゴッ、ブゥッ……  
 
「むぐゥッ!?」  
異音に気付いた白魔道士は、自分の視界の中で、鼻が大きく膨らんで、上向いていることに気付いた。  
「私はさっき、毒性の『一つ』が媚毒、と言ったな?  
 強化された毒性はもう一つあるのだ。  
 その毒性は……もう、言わなくてもわかると思うが」  
「んブぐぅーッ!」  
悲鳴を上げる白魔道士に向かって、兵士は淡々と、しかし嗜虐的な笑みを浮かべて言う。  
「そう……獣化毒。豚に姿を変える、豚化魔法<ポーキー>の魔法毒だ」  
 
肉体を走る快楽と同調するように、症状は悪化しているようだ。  
気持ちいいと思ってしまう度に、それと同時に体が作り変えられていくのを感じる。  
疲労と恐怖から一度は引いた快楽の波が、再び絶頂に向かって高まっていく。  
全身がこそばゆく、体を突っ張り背を反らせる。  
むずがゆい感覚と共に体の表面で何かが変わる。  
目だけ動かしてみると体毛が伸びていた。  
毛皮と言って良いほどの濃さの体毛が全身を覆い、  
色素の薄くなった毛と皮膚に血色が透けて肌が桃色に見える。  
三方から体内に大量の毒液が注ぎ込まれているのに腹がパンクしないのは、  
粘膜から即座に吸収されているからのようだ。  
手足が、胸が、腹が……全身がどんどん肥大化していく。  
両手に一際熱い液体がシャワーのように浴びせられる。  
その熱さに溶けてしまいそうな快感を感じると、毒液の染み込んだ手の指と指がくっつく。自分の意思で動かせなくなる。  
弄ばれ続けた足先も、同じように既に人間の形を留めてはいなかった。  
耳を嬲る触手の群れの感触は、まるで口で甘噛みされるようで……  
「むブぐぅっ!んご、ブごぉっ!」  
しゃぶられ、舐められ、舌を挿し入れられ……  
快楽に悶える度に耳がびらびらと大きく広がっていく。  
と、ずっと口の中を占領していた触手が引き抜かれた。  
反動で、押し込まれていた舌がまろびでる。  
「ブぎいいぃ、やめてぇ……おねがブヒ、ん……ッ! あふ、たブけて……ッ  
 なんでも、言ブ。……んブゥうっ! なブでも、すブから……んブヒぃぃッ!」  
呂律が回らないのは快楽のせいだけではない。口の端から垂れた舌は、妙に分厚く長く大きかった。  
「そうか。ならば言うが良い。貴様がクリスタルについて知りうる全てを、な。言えば元に戻してやる。  
 ただ……言うなら早く言った方が良いぞ? 変化が完了してしまっては、このモルボルの強力な呪毒は、  
 そこらの解呪用のアイテムや、並の魔道士の術では、治療不可能なくらいに固着されてしまうから、な」  
兵士が薄い笑みを浮かべつつそう言ったのを聞き、白魔道士は少しでも何か喋ろうと思って口を開いたが、  
その前に、仕上げ、とでも言うかのように、今さっき口から引き抜いた触手から、  
毒液を白魔道士の顔に大量に注ぎかけるモルボル。  
液体が染み込んでいく。顔が熱い。気持ちいい……  
「ブヒィ、ブヒいい……」  
鼻先が上向きに持ち上がり、広がっていく。肥大した鼻は上唇と一つになり、口と共に前に突き出る。  
それでも白魔道士は、どうにか兵士にそれなりのことを喋って許しを請おうとした、が……  
「ブヒ、く、クいスタぅ、わ……ブゥ、ほひ、の、きおブ、が……ブゴッ、いのちの、けっしょブ、で」  
長くなった舌がちょうど良く納まる大きさになった口の端からは白濁液混じりの涎が溢れ、  
脳が快感に塗り潰されているのもあいまって、意味を成す言葉が出ない。  
「ふん、何を言っているのか全然わからんな。  
 ……ああ、もういい。そんなに喋りたくないならとっとと豚になってしまえ」  
「ブゴッ!!?」  
残酷に宣告した兵士の言葉に反応するかのように、下半身に挿し込まれた二本の触手がピストン運動を始める。  
意思に関係無く、体が勝手に腰を振り始めていた。  
頭の片隅で、その一線を超えたらもう戻って来れない、と誰かが警鐘を鳴らす。  
だが、耳を、乳首を、足を、尻を、全身を触手で嬲られ、  
そして、秘部の内壁をぐりぐりと責め立てる触手が一段と深く突き込まれ……  
「ブぃぎいいいい!!! ブゴっ、んご、ブヒっ……ブヒィイイイイイーッ!!!」  
絶頂に達した。  
止まらない。快感が止まらない。止められない。  
なおも全身をしゃぶりつくされ、頭の中が真っ白になっていく。  
辛うじて残っていた最後の理性も薄れていく……。  
身も心も堕ちた証のように、くるりと丸まった豚の尻尾が生えるその感触が最後の記憶。  
後はもはや快楽以外は感じられなくなっていた……。  
 
 
 ……………………  
 
「……あまかけブ……かぜ、ちからの、こんげブ……根源へと、われを みちブヒき……  
 そを あたえたまブヘ! エブッ……えブゥナっ……エスナ!」  
無駄と知りつつも、今日も白魔道士は……豚の姿の白魔道士は、自分に快復魔法<エスナ>をかけようとしていた。  
無論、呪文詠唱がこれほどボロボロでは魔法が発動するわけも無い。  
本来ならまばゆい光が対象を包み、石化の呪いすらも治癒する高度な術だが、今は火の粉一つほどの光さえ現れなかった。  
呪文の音律がそもそも豚の鳴き声を模していると言われる、豚化魔法<ポーキー>なら詠唱できるかも知れない。  
更に、豚の姿にされた者に豚化魔法<ポーキー>を使えば、反転現象が起こり、元の姿に戻せるのだ。  
……しかし、この魔法は黒魔法に分類されるものであり、白魔法を扱う彼女には使用することができない……。  
 
――魔法の一つも使えない白魔道士なんて、何の力も無い――  
そのことを思い知らされて、視界が滲む。今の自分はまさに豚と変わりない。  
せいぜい、かろうじて二足歩行ができて、どうにか鳴き声混じりで舌足らずの会話ができる程度だ。  
涙を拭おうと思って手を上げると、顔にごつごつしたヒヅメが触れて、なおさら哀しくなる。  
身を包むローブは白魔道士の証として残ってはいるが、  
モルボルに白濁液をかけられたせいで染みだらけになっていて、逆に惨めだ。  
かと言って、ローブを脱いで、ケダモノに近いものになった自分の裸体を晒したいとも思えない。  
全裸に対して羞恥心があるだけでなく、尻尾や体毛といった豚の特徴を見られるのが屈辱で……  
自分では最初気付かなかったが、小さな、しかし確かな膨らみとして、  
腹部に複乳が列を成しているのを、体を洗いに来た兵士に指摘され嘲笑された時には卒倒しかけた。  
すぐさま服を着て隠そうとしたが、ヒヅメとなった手では着替えることも出来ず、  
結局、泣きながら懇願して兵士に着せてもらった。着る間、ずっと兵士に屈辱的な言葉を投げかけられ続け弄ばれながら。  
 
今ではフードを目深にかぶり、顔も隠そうとしているが、大きな耳はすぐにはみ出てしまうし、  
前方に突き出した鼻はどうしても隠せない。  
と、その鼻がひくりと動いた。何か気になる匂いがする。豚の鼻になったことで敏感になった嗅覚に訴えかける刺激。  
牢屋の隅で、全てを拒絶するように壁に向かって座っていた彼女が振り向くと、牢の扉が開いており……  
そこには、かつての仲間が居た。  
 
つばが広く、顔を陰にしてほとんど隠してしまうとんがり帽子。全身を覆う、裾が長くゆったりとした黒いローブ。  
ミシディアの黒魔道士の装束だ。  
バロン国にも黒魔道士は居るが、軍国的なバロンの黒魔道士の衣装は画一的で質素であり、  
精神性を重んじるミシディアでは儀式的な意味合いの文様がところどころに刺繍されている。  
知らない人が傍から見ただけでは見分けが付かないだろうが、  
今彼女の前に居るのは確かにミシディアの黒魔道士だった。  
しかし、同郷の人間であることはわかるのだが……誰なのか、わからない。  
何故なら、目の前に居る黒魔道士もまた、彼女と同じく、かつての姿とは大きく変えられていたからだ。  
「あなたも……ブゥタにされてしまったのブね……」  
同じ苦しみを味わっている者として強く同情する彼女。  
「ブヒ、でも、あなた黒まどブヒでしょ? ブひょっとしてポーキー覚えてなブヒ? 使えないフりしてブ油断させてた?  
 どブやってここまで来れたかわからないけど、やブらが見回りに来ないブちに、早ブ、にブげんに、戻っ……」  
彼女は最後まで言葉を続けることが出来なかった。  
目の前の黒魔道士装束の豚が、突然、彼女を押し倒したからだ。  
「ブ!? なに!?」  
間近に迫った黒魔道士豚の顔、その眼は虚ろで、焦点が合っておらず、意思の光を感じることが出来ない……。  
半開きになった口からはよだれを垂らし続けている。  
黒魔道士はその口を近付け、大きな舌でべろべろと彼女の顔を舐め回し始めた。  
「ブヒッ!? やっ、やめ……んんっ、んブッ、ブゥう……」  
舐められるたびに、背筋にぞくりぞくりと悪寒とも快感ともつかない感覚が走り、彼女は力が抜けて抵抗できなくなっていく。  
「そいつは貴様と同じでね。いつまでも吐こうとしないから……最後に、徹底的に『調教』してあげたのだよ」  
いつの間にか、例の兵士が牢の前に立っていた。いや、その兵士だけでなく、何人ものバロン兵が、  
いや……バロン兵の形をした人ならざるものが、ギャラリーとして、嘲笑を浮かべた表情を牢の前に並べている。  
「人間としての意識は残っている。だが、肉体は豚としての本能と調教の記憶によって完全に支配されている。  
 精神は人間のまま、自分が豚として振る舞うのを、抗うこともできず、ただずっと見せられ続けるのだ。  
 狂うことも、壊れることも、自分で命を絶つこともできず、な。  
 ……心を完全に豚にすることもできるのだが、それではただの豚と同じでつまらないだろう?」  
見れば、黒魔道士の瞳に光は無いが、その眼からは涙が、豚の丸い頬をつたい落ちている。  
かつての仲間を襲う自分の体に、心が苦悶の叫びを上げているのか。  
だが、そうやって苦しむ様をこそ見て、兵士たちは楽しんでいるのだ……。  
「貴様も喋らずにいるならいずれこうなるが……今は久しぶりの仲間とのひと時を楽しむがいい。  
 同郷にして『同類』同士、仲良く、な」  
 
「んブゥ……ブむっ!? あむ、ブゥ……ッ!」  
黒魔道士が、白魔道士の口に、自分の口を重ねた。白魔道士の口内に、黒魔道士の舌が侵入してくる。  
口づけ、と言うにはあまりに美しくないが、  
口の中を隈なく舐め尽され、歯の一本一本の裏側までしゃぶりつくされるような、舌による濃厚な愛撫は、  
彼女をどんどんと追い詰めていく……。  
気付けば、白魔道士の方からも求めるように舌を絡ませていた。  
目をとろんとさせた彼女は、黒魔道士と貪り合うように互いの口を吸いあう。  
しばらくそれを続けていたが、変化の無いことに業を煮やした一部の兵士達が牢屋の中に入ってきて、二人を引き離した。  
白魔道士は不満げな鳴き声を上げつつぼんやりとそれを見ていたが、  
兵士が黒魔道士を立たせ、ローブの裾を捲り上げた時に、どくん、と胸が高鳴った。  
下半身に大きく屹立した「それ」……  
男の裸体を見たことなどほとんど無いが、豚化の影響なのか、一般的な男性のそれよりかなり大きいように思える。  
あるいは、興奮した自分の体が、彼のそれの存在を大きなものとして感じているのだろうか。  
見ているだけで、自分の下腹部がじんっと熱くなってくるのを白魔道士は感じていた。  
――やっ……やだ!――  
彼女自身の意思とは関係なく、白魔道士の体は勝手に四つん這いになって、尻を彼の方へ向けて上げてしまう。  
兵士の一人が彼女のローブも捲り上げると、濡れた秘所が露になると同時に尻尾が揺れた。  
彼だけではなく、兵士達にも見られているというのに……その羞恥心さえ、ぞくぞくと背筋を抜ける一種の快感になってしまう。  
黒魔道士も両手を床につき、白魔道士に近付いて、鼻を鳴らしてその陰部の匂いを嗅ぐ。  
鼻息が当たる感触に、白魔道士は身を震わせたが、次の瞬間、  
べろり  
と、秘所を舐め上げられた。  
「ブヒィイッ!?」  
それだけで意識がトびそうになるが、自分の上に覆いかぶさってきた彼の重さで我に帰る。  
――だ、だめ! だめぇ!!――  
心は悲鳴を上げるが、体はもう思うように動かず……  
ぬぢゅっ  
「ブギヒィイイッ!!」  
モルボルの触手によって既に膜が破られていたにしろ、自分の体内に侵入して来たモノに対して、  
痛みも不快な異物感も無く、快楽しか感じることのできない自分の体が恨めしかった。  
彼が腰を振り始めると、自分の腰もそれに合わせて動いてしまう。  
――嫌なのに……こんなの、イヤなのに。恥ずかしくて、はずかしくて、おかしくなってしまいそうなのに……!――  
彼女は半開きの口から舌を垂らして悦びの表情を浮かべつつも、とめどなく涙を流していた。  
涙を流しつつ……しかし、思った。  
――なのに……気持ちいい……きもちいいよ……きもちよくてたまらないよぉ!!!――  
悲しみと悦びと恥ずかしさと気持ち良さで頭の中がぐしゃぐしゃになってしまう。  
そんな精神とは関りなく、互いの肉体は本能のままに、快楽の階段を登り詰めていって……  
「ブヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!」  
兵士達の笑い声をもかき消すような嬌声と共に絶頂に達した。  
人間のものとは明らかに違い、長く長く続くそのオルガズムは、  
家畜になった証として、二人の……いや、二匹の体を豚の本能で染め上げたのだった……  
 
 
 ……………………  
 
あれから何日、何週間、あるいは何ヶ月たっただろう。  
白魔道士は時間の感覚を既に無くしていた。  
時折正気に戻り  
「ブギぃ…もどに、もどにもどブひでぇ…」  
と懇願しても、兵士達が嘲笑しながら下腹部を触る度に、体が言うことをきかなくなり、  
涎を垂らしながら腰を振ってしまう。  
性器を見せられるだけで自分が抑えられなくなる。  
日々の餌にもあのモルボルから得られた媚薬が混ぜてあるらしく、最近では発情していない時期の方が短い。  
……薬が効いてきた。体が熱い。何も考えられなくなる。  
調教と開発を重ねられた体は全身が性感帯のようで、触れられただけで嬌声をあげてしまう。  
今日は何人を満足させればごほうびをもらえるのかな……  
昨日は兵士相手ですらなく、盗んできたただの家畜の豚とまぐわう見世物にされた。  
白魔道士は嫌悪するどころか、悦びさえ感じ、何度も何度も豚と交わった。  
――私は……家畜より卑しい……豚なんだ……――  
「ブヒぃ……んブひぃいい……」  
もう、その屈辱さえ快楽に変える体に、白魔道士は……白魔道士だった豚は、甘い鳴き声を上げた……。  
 
                                               終  
 
       〜追記〜  
 
しばらくして後、聖騎士セシル=ハーヴィにより、  
バロン王の名を騙っていた人外の悪しきモノは討たれ、城内の魔物も一掃された。  
捕虜たちも、劣悪な扱いによって不幸にも拘束中に命を落としてしまった者以外は、全員が解放された。  
豚や蛙に姿を変えられ辱められていた者たちも、ミシディアの高位の魔道士の力により元の姿に戻されたのだが……  
あの白魔道士は、豚としての快楽の虜となり、それ無しでは生きていられないほどの体になってしまっていた。  
彼女は、自分で再び豚の姿になり、喋る豚や蛙達が暮らすミスリルの町に移り住み、  
下級の娼館で、雄豚相手に破格の値段で自ら股を開く生活を続けているという……  
 

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