「何だと!またセイバーは食事を食べ残していると言うのか!」
冬木市の一角にある古い武家屋敷。そこに衛宮切嗣は声を荒らげた。
「ええ、イカのお刺身には全く手を付けなかったの。クジラ肉のカツレツは
三杯おかわりしているのに……」
彼の前で報告する白い髪の美女――アイリスティールも口を濁らせる。
「信じられんな。かのブリトンの騎士王が偏食を……
冬木湾でとれとれの大王イカをその場で料理したご馳走をゴミ箱に行かせるとは
……冬の海で必死に働く猟師さんの苦労が水の泡ではないか……」
「そのことだけど切嗣。セイバーがタコやイカを嫌いになったのは、やはり
あのキャスターとの戦いがトラウマになってるからじゃないかしら」
以前戦った、青髭と名乗るサーヴァント。彼が操る触手の怪物にセイバーは手痛い
苦戦を強いられた――身体だけでなく心にも苦い衝撃を受けたのだ。
アイリの言葉に、切嗣は眉根を寄せて考え込む。
イカやタコが食べられなくては、日本で暮らしていくのは難しい。
いや、もっと深刻な問題がある。先のランサー戦で右腕を封印され、今また触手が嫌いという
弱点を背負ったままでは、今後の聖杯戦争を戦い抜くなど不可能ではないか。
「――よし。特訓だ」
決意を込め、切嗣は立ち上がる。そして書斎から一冊の魔道書を取り出す。
「き、切嗣?一体何を……」
「ショック療法だ。触手に襲われたことで触手が嫌いになったのなら
今度は触手に快楽を与えられることで、慣れてもらうしかない」
「そんな……別にタコやイカが食べられなくても
伊勢海老や本マグロを食べればいいじゃない!」
「アイリ、僕たちはセイバーを接待するために聖杯戦争に参加したのかい?僕たちには
果たすべき使命がある。そのためにはセイバーに弱点を克服して貰わなければならないんだ!」
切嗣の言葉はアイリの胸を打った。
やがて彼女は顔を上げ、決然と答える。
「……分かったわ。では私もご一緒します」
「君が?」
「私も一緒に触手に犯されれば、セイバーも少しは安心できると思うの」
「……よし。ならば善は急げだ!」
切嗣は「触手召還☆はじめてのるるいえ」を握り締め、部屋を飛び出していった――。